説明

ゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラ

【課題】摩擦係数が低減されると共に、剛性が高く、耐疲労性に優れたゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラを提供する。引裂強さ、耐磨耗性及び耐カット性に優れたゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラを提供する。
【解決手段】本発明のゴムクローラ用ゴム組成物は、ゴム成分と有機繊維とを含有する。ゴム成分に有機繊維を含有することにより、摩擦係数の低下、剛性の向上、耐疲労性の向上、耐摩耗性の向上、耐カット性の向上及び引裂き強さの向上という効果が生じる。有機繊維が短繊維であることが好ましく、特に有機繊維の長さは0.1〜10mmであることが好ましい。有機繊維はアラミド短繊維であることが好ましい。有機繊維の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、0.2〜20質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラに係り、詳しくは摩擦係数が低減されたゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムクローラは、一般に、その内周面の長手方向に間隔をあけて突出する複数個の突起を有している。この突起が、スプロケットの外周面に形成された噛合部(スプロケットピン)に噛み合うことにより、スプロケットからの駆動力がゴムクローラに伝達される。
【0003】
図1はゴムクローラ1の一例を示す斜視図である。このゴムクローラ1はその内周面から、ゴムクローラ長手方向に間隔をあけて複数個の突起3が突出している。この突起3が、図示しないスプロケットピンと噛み合うことにより、スプロケットからの駆動力がゴムクローラ1に伝達される。
【0004】
このように突起3がスプロケットピンと噛み合う際、この突起3とスプロケットピンとの間で常に擦れが生じる。これにより、突起3の特に根元部に変形が加えられることになり、この部分に摩耗や破損が生じ易い。また、この突起3とスプロケットとの位置関係にズレが生じてこれらが接触・衝突すると、大きな走行抵抗が生じ、エネルギーロスとなる。
【0005】
特開平9−164980号公報は、上記の課題を解決するものである。図1は、同号公報の図1のゴムクローラを示している。図1の突起ゴム3は、粉末状の超高分子量ポリエチレンを配合することにとってゴムの摩擦抵抗を低下させ、スプロケットと接触・衝突しても突起3の摩耗や破損が少なくなり、また、走行抵抗も少なくなる。
【0006】
しかし、このような粉末状の超高分子量ポリエチレンを配合したゴムにあっては、突起3とスプロケットピンとの噛み合わせにズレが生じ、この突起3がスプロケットピンから過度の力を受けて大変形すると、高歪領域のモジュラスが高く、伸びが低いために高歪領域の疲労性が低下しているので、早期疲労破壊を起こすことになる。
【0007】
また、突起の剛性が低い場合、スプロケットピンと噛み合うときに突起が変形して歯飛びの原因となる。このため、突起の剛性は高い方が望ましい。さらに、寿命を長くするためには、耐疲労性に優れることが望まれる。
【0008】
また、ゴムクローラの外周面には、地面とのグリップ性をよくする等のために、外周側突起状ゴム(ラグゴム)を有している。この外周側突起ゴムは、耐摩耗性、耐カット性及び引裂強さに優れていることが望まれる。
【特許文献1】特開平9−164980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、摩擦係数が低減されると共に、剛性が高く、耐疲労性に優れたゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラを提供することを第1の目的とするものである。
【0010】
また、本発明は、引裂強さ、耐磨耗性及び耐カット性に優れたゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラを提供することを第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のゴムクローラ用ゴム組成物は、ゴム成分と有機繊維とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のゴムクローラ用ゴム組成物は、請求項1において、該有機繊維は短繊維であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のゴムクローラ用ゴム組成物は、請求項3において、該有機繊維の長さは0.1〜10mmであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のゴムクローラ用ゴム組成物は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該有機繊維はアラミド短繊維であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のゴムクローラ用ゴム組成物は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該有機繊維の配合量が、ゴム成分100質量部当たり、0.2〜20質量部であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6のゴムクローラは、ゴム部分の少なくとも一部が請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7のゴムクローラは、請求項6において、該ゴムクローラの内周面から内周側突起ゴムが突出しており、該内周側突起ゴムが請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8のゴムクローラは、請求項6又は7において、該ゴムクローラの接地面から全幅にわたって外周側にラグゴムと呼ばれる突起状ゴムが突出しており、該外周側ラグゴムが請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゴムクローラ用ゴム組成物及びゴムクローラは、有機繊維を含有するため、摩擦係数が小さいものとなる。また、この有機繊維が補強部材として作用するため、剛性、耐摩耗性、耐カット性及び引裂強さに優れたものとなる。更に大変形時の影響は小さく、疲労による耐久性は有機繊維を含有していないものと同等レベルである。
【0020】
この有機繊維が短繊維であることが好ましく、特に有機繊維の長さは0.1〜10mmであることが好ましい。
【0021】
この有機繊維はアラミド短繊維であることが好ましい。有機繊維の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、0.2〜20質量部であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明のゴムクローラ用ゴム組成物は、ゴム成分と有機繊維とを含有するものである。
【0024】
このようにゴム成分に有機繊維を含有することにより、摩擦係数の低下、剛性の向上、耐疲労性の向上、耐摩耗性の向上、耐カット性の向上及び引裂き強さの向上という効果が生じる。
【0025】
原料ゴムとしては、天然ゴムや合成ゴムが用いられる。合成ゴムとしては、イソプレンゴム、スチレンブタジエンンゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、1,2ポリブタジエン,ニトリルゴム、及びそれらの末端変性品等があり、またこれらの原料ゴムは単独或いはそれらを2種以上をブレンドして用いることができる。
【0026】
有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン(ポリアミド系合成繊維)繊維、アラミド繊維、セルロース繊維などが挙げられ、これら1種又は2種以上を混合したものが用いられる。これらのうち、アラミド繊維及び/又はセルロース繊維が特に好ましい。
【0027】
この有機繊維は短繊維であることが好ましく、その長さは0.01〜10mm程度、特に0.1〜10mmであることが好ましい。
【0028】
有機繊維の太さは1〜3dTex程度が好ましい。
【0029】
この有機繊維の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、0.2〜20質量部であることが好ましい。0.2質量部未満であると、所期の特性を十分に得ることができない。一方、20質量部よりも多いと、ゴム組成物の押出加工性が悪くなる。
【0030】
なお、このゴムクローラ用ゴム組成物には、従来用いられているゴムの添加剤、例えば、カーボンブラック、プロセスオイル、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤等、また必要に応じて、各種の樹脂(例えばフェノール樹脂等)や、滑剤(脂肪酸アマイド)を混合又は添加することもできる。
【0031】
本発明のゴムクローラは、ゴム組成物として上記ゴムクローラ用ゴム組成物を用いたものである。
【0032】
一般に、ゴムクローラは、その内周面から突出し、スプロケットと噛み合う内側突起ゴムと、その外周面から突出し、地面と接触する外側ラグゴムとを有している。
【0033】
この内側突起ゴムに上記のゴムクローラ用ゴム組成物を用いる場合、摩擦係数が低下するため、この内側突起ゴムがスプロケットと接触・衝突しても磨耗や破損が生じにくくなると共に、走行抵抗が小さくなってエネルギーロスが小さくなる。また、突起ゴムの剛性が向上するため、精度よくスプロケットと噛み合うようになり、歯飛び現象が防止される。さらに、耐疲労性、耐摩耗性、耐カット性及び引裂強さのいずれもが向上し、寿命の長期化が図られる。
【0034】
また、外側ラグゴムは地面等に接地することになるが、この外側突起ゴムにこのゴムクローラ用ゴム組成物を用いる場合、耐疲労性、耐摩耗性、耐カット性及び引裂強さのいずれも向上するため、破損し難く、寿命の長いゴムクローラが得られる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
実施例1〜3
表1に示すように、有機繊維を含む配合(質量部)のゴム組成物を、160℃、50kg/cmで30分間加熱加圧して加硫成形し、ゴムを得た。
【0037】
なお、使用した配合材料は次の通りである。
【0038】
天然ゴム(NR):RSS4号
ブタジエンゴム(BR):JSR社製「BR01」
HAFカーボン:東海カーボン社製「シーストNB」
アロマオイル:出光興産社製ダイアナプロセスオイル「AH−58」
フェノール樹脂:住友ベークライト社製「スミライトレジンPR−12687」
WAX:新日本石油社製「135パラフィン」
老化防止剤6C:住友化学社製「ANTIGENE 6C」
加工性改良剤:SCHILL&SEILACHER CMBH&Co.製「STRUKTOL A50P」
促進剤CZ:大内新興化学社製「ノクセラーCZ−G」
有機繊維:DuPont社製アラミドNRマスターバッチ「KEVLAR EE 1F722」。
【0039】
【表1】

【0040】
比較例1
表1に示す通り、ファイバーを配合しなかったことの他は実施例1〜3と同様にして、ゴムを得た。
【0041】
実施例1〜3及び比較例1のゴムについて、下記の方法により諸特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
<摩擦係数>
小平製作所作成ブリヂストン向け摩擦係数測定機を用い、直径20mmの金属製球体に荷重40kgで金属板に接着させたゴム板表面の最大動的摩擦係数を1.0Hz、100mm振幅にて測定した。その結果を表1に示す。なお、比較例1の測定結果を100とし、実施例1〜3の測定結果を比較例1に対する指数で表した。
【0043】
<25%モジュラス>
JIS K6254に準拠し、25%モジュラスを測定した。その結果を表1に示す。なお、比較例1の測定結果を100とし、実施例1〜3の測定結果を比較例1に対する指数で表した。
【0044】
<300%疲労性>
DIN3号ダンベルで室温、5Hz、0〜300%伸張繰り返しにより試験片が破断するまでの回数を測定した。その結果を表1に示す。なお、比較例1の測定結果を100とし、実施例1〜3の測定結果を比較例1に対する指数で表した。
【0045】
表1から明らかな通り、実施例1〜3のゴムは、摩擦係数が低いと共に、剛性が高く、耐久性に優れている。
【0046】
実施例4〜6
表2に示すように、有機繊維を含む配合(質量部)のゴム組成物を、160℃、50kg/cmで30分間加熱加圧して加硫成形し、ゴムを得た。
【0047】
なお、使用した配合材料は次の通りである。
【0048】
天然ゴム(NR):RSS4号
スチレンブタジエンゴム(SBR):TSRC社製 「Taipol SBR 1500E」
HAFカーボン:東海カーボン社製「シーストNB」
オイル:出光興産社製ダイアナプロセスオイル「AH−58」
DCPD樹脂:日本ゼオン社製「クイントン1920」
促進剤D:大内新興化学社製「ノクセラーD」
促進剤NS:大内新興化学社製「ノクセラーNS−F」
有機繊維:DuPont社製アラミドSBRマスターバッチ「KEVLAR EE 1F724」。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例2
表2に示す通り、ファイバーを配合しなかったことの他は実施例4〜6と同様にして、ゴムを得た。
【0051】
実施例4〜6及び比較例2のゴムについて、下記の方法により諸特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
<耐磨耗性>
DIN 53516に準拠し、DIN磨耗試験機を用い、室温にてDIN磨耗を測定した。その結果を表2に示す。なお、比較例2の測定結果を100とし、実施例4〜6の測定結果を比較例2に対する指数で表した。
【0053】
<耐カット性>
実施例4〜6及び比較例2の各ゴムを作成するに際し、縦60mm×横70mm×高さ30mmのゴムブロックを加熱加硫した。
【0054】
室温において、これらのサンプルに対して70cmの高さから、重量15kgの錘を付けた角度60°の鋭利な刃を落下し、生じた亀裂深さを測定した。その結果を表2に示す。なお、比較例2の測定結果を100とし、実施例4〜6の測定結果を比較例2に対する指数で表した。
【0055】
<引裂強さ>
JIS K6252に準拠し、切り込み無しアングル形試験片を用い引裂強さを測定した。その結果を表2に示す。なお、比較例2の測定結果を100とし、実施例4〜6の測定結果を比較例2に対する指数で表した。
【0056】
表2から明らかな通り、実施例4〜6のゴムは、耐摩耗性、耐カット性及び耐引裂き性の総てに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来のコンベアベルトの斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1 コンベアベルト
2 スチールコード
3 突起
4 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と有機繊維とを含有することを特徴とするゴムクローラ用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1において、該有機繊維は短繊維であることを特徴とするゴムクローラ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項3において、該有機繊維の長さは0.1〜10mmであることを特徴とするゴムクローラ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該有機繊維はアラミド短繊維であることを特徴とするゴムクローラ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該有機繊維の配合量が、ゴム成分100質量部当たり、0.2〜20質量部であることを特徴とするゴムクローラ用ゴム組成物。
【請求項6】
ゴム部分の少なくとも一部が請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項7】
請求項6において、該ゴムクローラの内周面から内周側突起ゴムが突出しており、
該内周側突起ゴムが請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項8】
請求項6又は7において、該ゴムクローラの接地面から全幅にわたって外周側にラグゴムと呼ばれる突起状ゴムが突出しており、
該外周側ラグゴムが請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴムクローラ用ゴム組成物よりなることを特徴とするゴムクローラ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−56028(P2008−56028A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234013(P2006−234013)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】