説明

ゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りタイヤ

【課題】 生産効率を低下させたり重量増加を招くことなく、コード長手方向に対しても安定した耐腐食伝播性等の性能を維持し得るゴム物品補強用スチールコードおよび該ゴム物品補強用スチールコードを適用した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 複数本のスチール素線からなるストランドを複数本撚り合わせて構成される複撚り構造のゴム物品補強用スチールコード1において、ストランド2が、2本のスチール素線3を撚り合わせたコア5と、コア5の周囲に撚り合わせたスチール素線4よりなるシース6とを撚り合わせてなり、コア5の外接円とシース6のスチール素線4とで形成される外接円が略楕円であり、該楕円の長径Aと短径Bの関係が次式、0.70≦B/A≦0.77で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるゴム物品補強用スチールコードおよび空気入りタイヤに関し、特には、高いゴム浸透性による耐腐食伝播性を向上させると共に、生産効率の向上を図ったゴム物品補強用スチールコードおよび該スチールコードを適用した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
建設車両用タイヤは、荒れた地表上で重い負荷が課せられるため、カーカスやベルトなどの各補強層に使用されるスチールコードには、高い引張り強さ(切断荷重)が求められる。このため、かかる補強層用のスチールコードとしては、従来、複数本の素線を撚り合わせたストランドを複数本撚り合わせた、所謂、複撚り構造のスチールコードが用いられてきた(図4参照)。
【0003】
特に、建設車両用タイヤにおいては、荒れた地表上で重い負荷が課せられるために外傷を受ける機会が多いベルト層においては、高い引張り強さと、外傷部からの水分伝播による腐食を防止するため、高いゴム浸透性が求められている。
【0004】
このような状況下において、特許文献1には、高い破断荷重と伸度とを有するとともに実用上十分なゴム浸透性を有し、水分に対し必要かつ十分な耐食伝播性を備えていると同時に、容易に製造することができるスチールコードが提案されている。かかるスチールコードは、複撚り構造のスチールコードにおけるストランドのコアを互いに撚り合わせた2本のスチール素線として、このコアと、シースと、コードの撚り方向を規定し、併せてストランドを構成する各スチール素線の線径間に特定の関係を持たせたものである。
【特許文献1】特開2000−129584号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のスチールコードには、各ストランドをコードに撚り合わせる際、各ストランドのシース素線間がコード表面方向に偏ってしまう場合があり(図7参照)、そのような場合、コード長手方向で均一なゴム浸透性を得ることが難しくなるという課題があった。
【0006】
かかる課題を解消して各ストランド間に十分なゴム浸透性を得たい場合には、各ストランドを撚り合わせる際に、予めストランドに型付けをしておく必要があるが、その場合、コード径が大きくなり、結果として製品重量の増加に繋がっていた。
【0007】
そこで、本発明は、生産効率を低下させたり重量増加を招くことなく、コード長手方向に対しても安定した耐腐食伝播性等の性能を維持し得るゴム物品補強用スチールコードおよび該ゴム物品補強用スチールコードを適用した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のゴム物品補強用スチールコードは、複数本のスチール素線からなるストランドを複数本撚り合わせて構成される複撚り構造のゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記ストランドが、2本のスチール素線を撚り合わせたコアと、該コアの周囲に撚り合わせたスチール素線よりなるシースとを撚り合わせてなり、前記コアの外接円と前記シースのスチール素線とで形成される外接円が略楕円であり、該楕円の長径Aと短径Bの関係が次式、
0.70≦B/A≦0.77
で表されることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のゴム物品補強用スチールコードにおいては、前記シースが3〜5本のスチール素線からなることが好ましく、また、好ましくは3または4本の前記ストランドを撚り合わせてなる。さらに、前記コアと、前記シースと、前記ストランドが全て同方向に撚られていることが好ましい。
【0010】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部と、一対のサイドウォール部と、トレッド部とをビード部内に埋設されたビードコア相互間にわたって補強する、1プライ以上のラジアル配列コードのゴム被覆層からなるカーカスと、該カーカスの外周でトレッド部を強化する2層以上の交差ゴム被覆コード層よりなるベルトとを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトの少なくとも最外層のゴム被覆コード層に前記ゴム物品補強用スチールコードを適用してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム物品補強用スチールコードによれば、生産効率を低下させたり重量増加を招くことなく、コード長手方向に対しても安定した耐腐食伝播性等の性能を維持することができる。よって、このゴム物品補強用スチールコードを適用した空気入りタイヤ、特には建設車両用タイヤでは、耐久性の大幅な向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明のゴム物品補強用スチールコードは、建設車両用タイヤのカーカスやベルトなど、高い引張り強さ(切断荷重)が求められるコードとして好適な、複数本のスチール素線からなるストランドを複数本撚り合わせて構成される複撚り構造である。
【0013】
かかるストランドは、2本のスチール素線を撚り合わせたコアと、該コアの周囲に撚り合わせたスチール素線よりなるシースとを撚り合わせてなる。ここで、コアのスチール素線が1本であると、コアのスチール素線とシースのスチール素線との接触部分にゴムが浸透できない空間ができてしまうことになる。一方、コアのスチール素線が3本以上だと、コアのスチール素線の中心部にゴムが浸透できない空間ができてしまい、外傷を受けたときに水分が伝播しやすくなる。
【0014】
本発明においては、前記コアの外接円と前記シースのスチール素線とで形成される外接円が略楕円であり、該楕円の長径Aと短径Bの関係が次式、
0.70≦B/A≦0.77、
好ましくは次式、
0.73≦B/A≦0.75、
で表されることが肝要である。この楕円の長径Aと短径Bの関係が次式、
B/A<0.70
であると、シースのスチール素線径に対しコアのスチール素線径が小さくなるため、高い引張り強さを得ることが難しくなる。一方、次式、
B/A>0.77
であると、ストランドが楕円であることによる高いゴム浸透性の効果が得難くなる。
【0015】
また、前記シースは、好ましくは3〜5本のスチール素線からなる。この本数が2本以下の場合、コード全体としての撚り本数が少ないために高い引張り強さを得ることが難しくなる。一方、6本以上となると、本発明に係るストランドが楕円であることによる高いゴム浸透性の効果が得難くなる。
【0016】
さらに、本発明のスチールコードは、好ましくは3または4本の前記ストランドを撚り合わせてなる。このストランドが2本以下であると、撚り本数が少ないために高い引張り強さを得ることが難しい。一方、5本以上であると、ストランド中心の空間が大きくなり、ストランドを所定の位置に配置することが困難になる。
【0017】
なお、コアおよびシースのスチール素線の線径については、ともに0.15〜0.40mmの範囲内にあることが好ましく、これら線径が0.15mmより小さいと生産性が悪化し、一方、0.40mmを超えると単位断面積当たりの破断強度が低くなる。また、ストランドを構成するコアおよびシース並びにストランド自体のピッチは、好ましくは夫々3.0〜20.0mmの範囲内である。
【0018】
次に、本発明の空気入りタイヤの実施の形態の一例について説明する。図8は、赤道面eからのタイヤの左半断面図であり、タイヤ10は、一対のビード部11と、一対のサイドウォール部12と、トレッド部13とをビード部11内に埋設されたビードコア14相互間にわたって補強する、1プライ以上(図示例は1プライ)のラジアル配列コードのゴム被覆になるカーカス15と、該カーカス15の外周でトレッド部13を強化する2層以上(図示例は6層)の交差ゴム被覆コード層よりなるベルト16とを備える。
【0019】
ベルト16は、カーカス15寄りから順に第一コード層16−1、第二コード層16−2、第三コード層16−3、第四コード層16−4、第五コード層16−5および第六コード層16−6の6層を有し、これら各層のうち少なくともタイヤ半径方向最外側の第六コード層16−6に、好ましくは全てのコード層16−1〜6に本発明のスチールコードを適用する。
【0020】
タイヤ種類としては、たとえ一時的でも荒れ地を走行する一般的ダンプトラック用タイヤまたは常時荒れ地走行を前提とする、ダンプトラック、スクレーパ、ローダなどの建設車両用タイヤが好適に適合する。この種のタイヤのカーカスは通常1プライで、スチールコードのラジアル配列になり、ベルトの各層のコードもスチールコードであるのが一般的である。
【0021】
本発明のタイヤは、例えば、荒れ地に散在する先端が比較的鋭利な異物の上を走行しトレッドゴムにカット外傷を受け、そのカット傷が本発明のスチールコードを適用したベルトのコード層に達したとしても、該スチールコードは耐腐食伝播性に優れているから錆は一部分で止まり、錆によるセパレーション故障は防げる。また、このスチールコードは伸び易い性質を有していることから、カットエネルギーを緩和してカット傷を最小限度に止め、優れた耐カット性が発揮される。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例に基づき説明する。
下記の表1に示すコード条件に従う各種スチールコードを試作した。実施例1のスチールコードの断面を図1に、実施例2のスチールコードの断面を図2に、実施例3のスチールコードの断面を図3に、従来例のスチールコードの断面を図4に、比較例1のスチールコードの断面を図5に、比較例2のスチールコードの断面を図6に、夫々示す。例えば、図1に示すスチールコード1では、3本のストランド2からなり、このストランド2はスチール素線3からなるコア5とスチール素線4からなるシース6とから構成されている。実施例1以外のスチールコードも、スチール素線の本数、ストランドの本数、ストランドの外接円等を変えてはいるが、いずれも実施例1と同様の複撚り構造である。
【0023】
カーカス15は1プライのラジアル配列スチールコードのゴム被覆層からなり、ベルト16は6層の交差ゴム被覆コード層からなる、図8に示す建設車両用ラジアルタイヤ(サイズ:36.00R51)を、各供試スチールコードをベルト16の第六コード層16−6および第五コード層16−5に夫々適用して試作した。
【0024】
ここで、ストランド外接円の長径Aと短径Bは以下の通り決定した。
ストランド長径A:2×(コアのスチール素線径)+2×(シースのスチール素線径)
ストランド短径B:2×(コアのスチール素線径)+(シースのスチール素線径)
【0025】
供試スチールコードについて、以下のようにしてコード強力および耐腐食伝播性の評価を行った。
(コード強力)
JIS規格G3510.6.4「切断荷重及び切断時全伸び」に準拠して測定した。
(耐腐食伝播性)
タイヤよりゴムが被覆したままのスチールコードを150mm取り出し、その側面をシリコンシーラントで被覆した後、一端を10%NaOH水溶液に浸漬して切断面のみから水溶液を浸入させた。ついで24時間浸漬後のゴムをペンチでつまんで剥がし、金属が露出した部分を腐食伝播部とし、n=5本について、その長さとバラツキを評価した。得られた結果を下記の表1に併記する。
【0026】
【表1】

【0027】
前記表1より、実施例1〜3においては、従来例に比し長手方向のバラツキが少なく、耐腐食伝播性が良好であることがわかる。これに対し、比較例1ではB/Aの値が0.78と大きい結果、長手方向のバラツキが大きいことがわかる。また、比較例2ではB/Aの値が0.69と小さい結果、コード断面積当りのコード強力が低いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1のスチールコードの断面図である。
【図2】実施例2のスチールコードの断面図である。
【図3】実施例3のスチールコードの断面図である。
【図4】従来例のスチールコードの断面図である。
【図5】比較例1のスチールコードの断面図である。
【図6】比較例2のスチールコードの断面図である。
【図7】従来スチールコードにおけるシース素線の偏りを示す断面図である。
【図8】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す左半断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 スチールコード
2 ストランド
3 コアのスチール素線
4 シースのスチール素線
5 コア
6 シース
10 空気入りタイヤ
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部
14 ビードコア
15 カーカス
16 ベルト
16−1 ベルトの第一コード層
16−2 ベルトの第二コード層
16−3 ベルトの第三コード層
16−4 ベルトの第四コード層
16−5 ベルトの第五コード層
16−6 ベルトの第六コード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチール素線からなるストランドを複数本撚り合わせて構成される複撚り構造のゴム物品補強用スチールコードにおいて、
前記ストランドが、2本のスチール素線を撚り合わせたコアと、該コアの周囲に撚り合わせたスチール素線よりなるシースとを撚り合わせてなり、前記コアの外接円と前記シースのスチール素線とで形成される外接円が略楕円であり、該楕円の長径Aと短径Bの関係が次式、
0.70≦B/A≦0.77
で表されることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
前記シースが3〜5本のスチール素線からなる請求項1記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
3または4本の前記ストランドを撚り合わせてなる請求項1または2記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記コアと、前記シースと、前記ストランドが全て同方向に撚られている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項5】
一対のビード部と、一対のサイドウォール部と、トレッド部とをビード部内に埋設されたビードコア相互間にわたって補強する、1プライ以上のラジアル配列コードのゴム被覆層からなるカーカスと、該カーカスの外周でトレッド部を強化する2層以上の交差ゴム被覆コード層よりなるベルトとを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトの少なくとも最外層のゴム被覆コード層に請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用スチールコードを適用してなることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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