説明

ゴム用補強剤及びゴム組成物の製造方法

【課題】フィブリル化繊維を凝集させずに乾燥させることができ、それをゴムポリマーに添加することで補強性と低発熱性のバランスを向上させるゴム用補強剤を提供する。
【解決手段】フィブリル化された繊維の水分散液に、平均粒径2〜200nmの無機充填剤であるナノフィラーを、前記繊維重量の0.1〜0.5倍の量にて混合し、乾燥させて、フィブリル化繊維とナノフィラーとの複合体を得る。得られた複合体を、ゴムポリマーに添加し混合してゴム組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル化された繊維を含むゴム用補強剤、及び該補強剤を含むゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム組成物を繊維で補強する技術が知られており、補強性を高めるためにフィブリル化された繊維を配合することも知られている。かかるフィブリル化繊維は、そのささくれ立った形態により絡まり合って凝集しやすく、ゴム組成物中に均一に分散させることが難しい。また、このように凝集しやすく、また特にセルロースの場合、ヒドロキシル基(OH)を有することからも一層凝集しやすいことから、取り扱い性のため水懸濁体として市販されている。そのため、ゴム組成物の製造時には、水懸濁状のフィブリル化繊維から水を除去しつつ、ゴム組成物中に分散させる必要があり、均一に分散させることは容易ではない。よって、フィブリル化繊維による補強性を十分に発揮できていないのが実情である。
【0003】
下記特許文献1には、水懸濁状のフィブリル化繊維をラテックスゴムと一緒に水中で攪拌混合(いわゆるウェット混合)し、得られたマスターバッチを使用して、従来のバンバリーミキサーや押し出し機などで他の薬品とともに混合(いわゆるドライ混合)して、最終のゴム組成物を得ることが開示されている。しかしながら、この方法では、ゴムポリマーがラテックスゴムに限られるという問題もある。
【0004】
下記特許文献2には、フィブリル化された繊維と、カーボンブラックやシリカなどのミネラル粒子(粒子状フィラー)とを組み合わせた乾燥物を、ゴム組成物に配合することが開示されており、また、該乾燥物を得るためにフィブリル化繊維と粒子状フィラーを含む水懸濁体を調製してこれを乾燥させることが開示されている。しかしながら、この文献では、フィブリル化繊維の量がミネラル粒子100gに対して0.1〜100g、特には1〜10gとされており、すなわち、フィブリル化繊維に対して多量の粒子状フィラーを組み合わせて上記乾燥物を得るものである(段落0094参照)。このように多量の粒子状フィラーを添加するものでは、粒子状フィラーによるヒステリシスロスが大きく低発熱性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【特許文献2】特表2002−503621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、フィブリル化繊維を凝集させずに乾燥させることができ、それをゴムポリマーに添加することで補強性と低発熱性のバランスを向上させることができるゴム用補強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フィブリル化された水懸濁状の繊維に比較的少量のナノフィラーを混合し乾燥させることにより、フィブリル化された繊維を凝集させずに乾燥することができ、これをゴムポリマーに添加することで補強性と低発熱性のバランスを向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るゴム用補強剤の製造方法は、フィブリル化された繊維の水分散液に、平均粒径2〜200nmの無機充填剤であるナノフィラーを、前記繊維重量の0.1〜0.5倍の量にて混合し、乾燥させて、フィブリル化繊維とナノフィラーとの複合体を得るものである。
【0009】
また、本発明に係るゴム組成物の製造方法は、上記で得られたゴム用補強剤を、ゴムポリマーに添加し混合するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィブリル化繊維を凝集させずに乾燥させることができ、それをゴムポリマーに添加することで補強性と低発熱性のバランスを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本発明では、フィブリル化された繊維が水に分散された水分散液を用いる。フィブリル化させた繊維としては、高圧ホモジナイザーなどの機械的せん断力により微細に粉砕してフィブリル化(ミクロフィブリル化)された各種の短繊維が用いられる。
【0013】
繊維の種類としては、特に限定されず、例えば、セルロース、ポリアミド(例えば、ナイロンと称される直鎖脂肪族ポリアミドや、アラミドと称される芳香族ポリアミドなど)、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0014】
このようなフィブリル化繊維は、一般に、水中で機械的せん断力により微細に粉砕しフィブリル化することにより、水に懸濁ないし分散した水懸濁状の形態で得られるので、そのようなフィブリル化繊維の水懸濁体を用いることができる。かかる水懸濁体としては、例えば、微小繊維状セルロースとして、セリッシュPC−110A,PC−110B,PC−110S,PC−110T,FD−100F,FD−100G,KY−100G,KY−100S、微小繊維状アラミドとして、ティアラKY−400S,KY−400Dなどが市販されており(いずれもダイセル化学工業(株)製)、これらを用いることが好適である。これらの市販品の形態は湿綿状態であり、このような湿綿状態の水懸濁体を用いることができる。該水懸濁体中に含まれるフィブリル化された繊維の比率は、特に限定されない。例えば、繊維比率が5〜95重量%、水の比率が95〜5重量%である水懸濁体を用いることができるが、上記の比率を外れるものであってもよく、また、安定剤等の第3成分もしくは不純物を少量含有するものであってもよい。
【0015】
フィブリル化された繊維の直径(即ち、繊維径)は、特に限定されないが、平均繊維径が5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1μmである。また、フィブリル化された繊維の長さ(即ち、繊維長)も、特に限定されないが、平均繊維長が10〜1500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)により測定され、詳細には、同顕微鏡の画像データからフィブリル化繊維を20個無作為に抽出し、短径を測定してその相加平均を平均繊維径とする。平均繊維長は、カジャーニ(KAJAANI)社の繊維長測定機(FS−200)を用い、JIS P8121により測定される。
【0016】
本発明に係る製造方法に用いられるフィブリル化された繊維の水分散液としては、フィブリル化された繊維を当該繊維重量の10倍以上の水に分散させてなるものが好適である。この倍率が10倍未満、即ち、分散液中に含まれる繊維に対する水の重量比(水/繊維)が10未満では、分散液の粘度が高く攪拌が不十分になるおそれがある。この倍率の上限は特に限定されないが、100倍以下であることが好ましい。より詳細には、上記のようにフィブリル化繊維は水懸濁状にて市販されているので、これに水を加え、攪拌し繊維を分散させることで上記水分散液を得ることができる。
【0017】
本発明に係る製造方法においては、このようにして得られたフィブリル化繊維の水分散液に、ナノフィラーを混合し乾燥させることにより、フィブリル化繊維とナノフィラーとの複合体を得る。ナノフィラーは、フィブリル化された繊維の間に入り込んで、乾燥時における凝集を抑制する邪魔板として機能する。そのため、ナノフィラーを混合することにより、乾燥しても凝集しないフィブリル化繊維が得られる。
【0018】
ナノフィラーとしては、平均粒径が2〜200nmである無機充填剤の粒子が用いられる。平均粒径が2nm未満のものは、水中に均一に分散させることが難しく、フィブリル化繊維に対する邪魔板効果も不十分となるおそれがある。逆に、平均粒径が200nmを超えるものでは、フィブリル化繊維の間に入り込みにくく、邪魔板効果が減少するために、ゴム組成物に配合したときに低発熱性が損なわれる。より好ましい平均粒径は、5〜50nmである。なお、ナノフィラーの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で10,000倍にて拡大撮影し、無作為抽出された10個の粒子の直径を計測することにより、その相加平均として求められる。
【0019】
ナノフィラーとして用いる無機充填剤としては、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などの金属化合物からなる無機充填剤が用いられ、カーボンブラックは除かれる。ナノフィラーとしてシリカを用いることもできるが、上記のようにナノフィラーはフィブリル化繊維の凝集を抑制する邪魔板効果のために用いるものであり、ゴムポリマーに対し補強性を有するシリカではそれ自体もゴム物性に影響を与えてしまうので、そのような補強性を有しない無機充填剤を用いることが好ましい。
【0020】
該無機充填剤としては、下記一般式(1)で表されるものが好ましく用いられる。
aM・bSiO・cHO …(1)
式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛及びカルシウムからなる群から選択される金属、これら金属の酸化物もしくは水酸化物、それらの水和物、又はこれら金属の炭酸塩から選択される少なくとも1種であり、aは1〜5の整数、bは0〜10の整数、cは0〜10の整数、xは2〜5の整数である。
【0021】
具体的には、クレー(Al・2SiO、Al・2SiO・2HO(カオリナイト)、Al・4SiO・HO(パイロフィライト)、Al・4SiO・2HO(ベントナイト)、モンモリロナイトなど)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HO)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO)、アルミナ(Al)、アルミナ一水和物(Al・HO)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、炭酸アルミニウム(Al(CO)、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9H2O)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、ケイ酸カルシウム(CaSiO)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)などが挙げられ、これらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、クレーなどの層状珪酸塩鉱物、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどを特に好ましく用いることができ、更には、その層状構造によって上記邪魔板効果をより効果的に発揮することができることから、層状珪酸塩鉱物を用いることがより好ましい。
【0022】
ナノフィラーは、水に分散させた水分散液(スラリー溶液とも称される。)とした上で、上記フィブリル化繊維の水分散液に混合することが好ましい。例えば、高圧ホモジナイザーなどを用いてナノフィラーを水中に微細に分散させておき、このようにして得られた微分散化したナノフィラーの水分散液をフィブリル化繊維の水分散液に添加し混合することにより、両者のより均一な複合一体化を図ることができる。ナノフィラーの水分散液の濃度は、特に限定されないが、水100重量部に対してナノフィラー0.5〜10重量部を分散させることが好ましい。
【0023】
ナノフィラーは、フィブリル化繊維の繊維重量に対し、その0.1〜0.5倍の量にて添加混合される。すなわち、フィブリル化繊維100重量部に対して、10〜50重量部のナノフィラーが混合される。このようにフィブリル化繊維に対して比較的少量のナノフィラーを用いることにより、ナノフィラーによる上記邪魔板効果を発揮しながら、フィブリル化繊維本来の優れた補強性を発揮させることができ、低発熱性とのバランスを向上することができる。ナノフィラー/フィブリル化繊維の重量比が0.1未満では、ナノフィラーによる邪魔板効果が小さく、フィブリル化繊維の分散性が不十分となる。逆に、ナノフィラー/フィブリル化繊維の重量比が0.5を超えると、ナノフィラーの含有量が多くなり、ナノフィラー同士の凝集が起こるためか、低発熱性が損なわれる。
【0024】
このようにしてフィブリル化繊維とナノフィラーを混合し、十分に攪拌した後、濾過などによって水を除去して固形分を回収し、その後、乾燥させることによりフィブリル化繊維とナノフィラーとの複合体が得られる。乾燥によって水が除去されるので、本来であればフィブリル化繊維は凝集し固化してしまうが、上記のように繊維間に入り込んだナノフィラーが凝集抑制としての邪魔板効果を発揮することにより、凝集させずに乾燥することができる。なお、乾燥方法は、特に限定されず、例えばオーブンなどを用いて行うことができる。
【0025】
上記で得られたフィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物は、ゴム組成物に配合するゴム用補強剤として用いられる。すなわち、乾燥した上記複合体をゴムポリマーに添加し混練することにより、ゴム組成物が得られる。その際の混練には、ゴム組成物の調製において一般に用いられるバンバリーミキサーやロール、ニーダー等の混合機を用いることができる。
【0026】
ゴム成分として用いられるゴムポリマーとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。上記の中でも、ジエン系ゴムが好ましく用いられる。
【0027】
ゴム組成物中における上記複合体の配合量は、特に限定されるものではなく、ゴム組成物の用途に応じて要求される補強性を発揮するように適宜設定すればよい。詳細には、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の配合量は、ゴムポリマー100重量部に対して、例えば、1〜200重量部であり、より好ましくは5〜100重量部である。
【0028】
上記ゴム組成物には、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、樹脂、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、上記複合体とともにゴムポリマーに添加してもよく、また上記複合体とは異なるステップで添加してもよく、添加順序は特に限定されない。通常は、第1混合段階で、加硫剤や加硫促進剤などの加硫系添加剤を除く薬品を上記複合体とともにゴムポリマーに添加し混練しておいて、その後の第2混合段階で、第1混合段階で得られた混練物に加硫系添加剤を添加し混合することによりゴム組成物を製造することができる。なお、一般に補強性充填剤としてゴム組成物に配合されているカーボンブラックやシリカを、上記複合体とともに併用して配合することもできる。
【0029】
本発明に係るゴム組成物は、常法に従い加硫成形することにより、ビードフィラーやサイドウォールゴムなどの空気入りタイヤの各ゴム部材として、あるいはまた防振ゴムやベルトなどの各種ゴム製品に用いることができる。好ましくは、上記のように該ゴム組成物は、補強性と低発熱性のバランスを向上することができることから、空気入りタイヤのゴム部材として用いることであり、タイヤに要求される補強性と低燃費性のバランスを向上することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[製造例1]
フィブリル化された水懸濁状の繊維として、ダイセル化学工業(株)製「セリッシュKY−100G」(平均繊維径=0.1μm、平均繊維長=500μm、微小繊維状セルロース=10重量%、水=90重量%)を用い、この水懸濁体100重量部を、410重量部の水に分散させて、フィブリル化繊維の水分散液を得た。また、ナノフィラーとして、ROCKWOOD社製「LAPONITE RD」(クレー、平均粒径=13nm)を用い、水100重量部に対して該ナノフィラー1重量部を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて水中に微細分散させて、ナノフィラーの水分散液を得た。
【0032】
得られたフィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液101重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.1倍の量添加)を添加し、ホモミキサーにより攪拌混合した後、濾過して水を取り除いて固形分を回収し、オーブンにて120℃×180分間乾燥させて、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0033】
[製造例2]
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液202重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.2倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0034】
[製造例3]
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液303重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.3倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0035】
[製造例4]
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液404重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.4倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0036】
[製造例5]
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液505重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.5倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0037】
[製造例6](比較例)
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液50.5重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.05倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。
【0038】
[製造例7](比較例)
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液808重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.8倍の量添加)を添加し、その他は、製造例1と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。
【0039】
[製造例8]
ナノフィラーとして、テイカ(株)製「JA−1」(酸化チタン、平均粒径=180nm)を用い、水100重量部に対して該ナノフィラー1重量部を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて水中に微細分散させて、ナノフィラーの水分散液を得た。製造例1と同じフィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、該ナノフィラーの水分散液404重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.4倍の量添加)を添加し、ホモミキサーにより攪拌混合した後、濾過して水を取り除いて固形分を回収し、オーブンにて120℃×180分間乾燥させて、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0040】
[製造例9]
フィブリル化繊維の水分散液510重量部(繊維分は10重量部)に、ナノフィラーの水分散液202重量部(ナノフィラーはフィブリル化繊維重量の0.2倍の量添加)を添加し、その他は、製造例8と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。
【0041】
[製造例10](比較例)
ナノフィラーとして、テイカ(株)製「JA−301」(酸化チタン、平均粒径=300nm)を用い、その他は製造例8と同様にして、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体の乾燥物を得た。
【0042】
[ゴム組成物の調製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、ゴム組成物を調製した。詳細には、ゴムポリマーである天然ゴムに対し、補強剤とステアリン酸と酸化亜鉛を添加し、混練して第1混合物を得た後(排出温度:150℃)、第2混合工程において、第1混合物に加硫促進剤と硫黄を添加し混練してゴム組成物を得た(排出温度:110℃)。なお、補強剤として、比較例1では、フィブリル化繊維の水懸濁体(ダイセル化学工業(株)製「セリッシュKY−100G」)をそのままゴムポリマーに添加し、比較例2では、該水懸濁体とともに、クレー(ROCKWOOD社製「LAPONITE RD」、平均粒径=13nm)をそのままゴムポリマーに添加した。その際、該水懸濁体は、固形分(即ち、フィブリル化繊維)の配合量が表1に記載の量となるように添加した。また、比較例6では、補強剤としてカーボンブラックを用いた。表1中の各成分(上述したものを除く)の詳細は以下の通りである。
【0043】
・天然ゴム:RSS3号
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストV」
・ステアリン酸:花王(株)製「工業用ステアリン酸」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
【0044】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、硬度とtanδを測定し評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0045】
・硬度:JIS K6253に準じて、23℃で測定した硬度を、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど硬度が高く、補強性に優れることを示す。
【0046】
・tanδ:JIS K6394に準じて、温度70℃、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性に優れることを示す。
【0047】
結果は、表1に示す通りであり、フィブリル化された水懸濁状の繊維をそのまま配合した比較例1や、補強剤としてカーボンブラックを用いた比較例6に対し、本発明に係るフィブリル化繊維−ナノフィラー複合体を用いた実施例1〜7であると、硬度が著しく高く補強性に優れており、またtanδが低く発熱性にも優れており、補強性と低発熱性のバランスに顕著な改善効果が認められた。
【0048】
このような効果は、フィブリル化された水懸濁状の繊維とクレーをゴムポリマーとの混合時にそのまま添加した比較例2では得られなかった。比較例3では、フィブリル化繊維−ナノフィラー複合体を作製したものの、ナノフィラーの使用量が少なすぎて、改善効果は得られなかった。逆に、比較例4では、ナノフィラーの使用量が多すぎて、複合体を作製したにもかかわらず、低発熱性に劣っていた。また、比較例5では、複合体を作製したにもかかわらず、ナノフィラーの粒径が大きすぎて、低発熱性に劣っていた。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、バンバリーミキサーやロール等といった従来の設備で生産性を悪化させずに、補強性と低発熱性のバランスを向上したゴム組成物を製造することができるので、各種タイヤのゴム部材を始めとして、防振ゴムやベルトなどの各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル化された繊維の水分散液に、平均粒径2〜200nmの無機充填剤であるナノフィラーを、前記繊維重量の0.1〜0.5倍の量にて混合し、乾燥させて、フィブリル化繊維とナノフィラーとの複合体を得ることを特徴とするゴム用補強剤の製造方法。
【請求項2】
前記フィブリル化された繊維の水分散液が、フィブリル化された繊維を当該繊維重量の10倍以上の水に分散させてなるものである請求項1記載のゴム用補強剤の製造方法。
【請求項3】
前記フィブリル化された繊維の水分散液に、前記ナノフィラーを水に分散させた水分散液を添加し混合することを特徴とする請求項1又は2記載のゴム用補強剤の製造方法。
【請求項4】
前記ナノフィラーが、層状珪酸塩鉱物、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、及び、水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の無機充填剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム用補強剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により得られたゴム用補強剤を、ゴムポリマーに添加し混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−102451(P2011−102451A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257920(P2009−257920)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】