説明

ゴム用離型剤およびゴム成型方法

【課題】 離型性に優れたゴム用離型剤およびゴム成型方法を提供する。
【解決手段】 ゴム用離型剤は、アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させる。ゴム成型方法は、アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させたゴム用離型剤を、過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムを金型を用いて成型する際の離型剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム用離型剤およびゴム成型方法に係り、特に、金型を用いてゴムの成型を行うのに好適なゴム用離型剤およびゴム成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴムは、耐熱、耐寒性に優れ、広い温度範囲で良好な圧縮復元性を示し、耐候性、耐オゾン性、耐コロナ性、電気特性、耐熱油性、耐薬品性などにも優れる材料であり、これらの特性を生かして種々の工業分野で使用されている。
【0003】
このようなゴムには、天然ゴム(NR)、スチレンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(MQ、VMQ、PVMQ)、フッ素ゴム(FKM)などの多種多様のものがあり、その特性に応じて選択使用されている。
【0004】
各種のゴムのうち、シリコーンゴムは、その形態や硬化機構により種々のグレードがあるが、大別して過酸化物加硫型のシリコーンゴムと付加型のシリコーンゴムに分けられる。
【0005】
一方の過酸化物加硫型のシリコーンゴムは、直鎖状で高重合度のポリオルガノシロキサンを主原料とし、それにシリカ系の補強性充填材、種々の特性を付与するための各種添加材を配合してベースコンパウンドを調整し、次いで過酸化物からなる加硫剤を添加して加熱硬化するタイプのゴムである。
【0006】
他方の付加型のシリコーンゴムは、ビニル基含有ポリオルガノシロキサンとハイドロジェンポリシロキサンとを主原料とし、それにシリカ系の補強性充填材、種々の特性を付与するための各種添加材を配合して液状のベースコンパウンドを調整し、ヒドロシリル化反応により加硫するタイプのゴムである。
【0007】
また、フッ素ゴムも、その形態や硬化機構により種々のグレードがあるが、大別して過酸化物加硫型、ポリオール加硫型およびアミン加硫型に分けられる。
【0008】
さらに、エチレンプロピレンゴムは、共重合体と3元共重合体に区分され、前者を一般にEPM、後者をEPDMと呼んでいる。加硫系としては、過酸化物加硫、硫黄加硫、樹脂加硫、キノイド加硫などがあるが、EPMでは、ポリマー中に二重結合を有しないために過酸化物加硫が通常用いられ、ポリマー中に二重結合を有するEPDMでは過酸化物加硫か硫黄加硫が一般的である。
【0009】
ところで、未加硫のゴムの成型品を得る場合、一般的に、加熱した金型を用いたプレス加硫などによって成型を行っている。このプレス加硫などにおいては、成型品の金型からの取り出しを容易にするためなどの理由により、ゴム用離型剤が用いられている。特に、金型に対する離型性が要求されるゴム単独製品や、ゴム複合製品などにおいては、ゴム用離型剤の使用が必須である。
【0010】
このような金型との離型性が要求されるゴム単独製品としては、例えば、キーボードカバー、ゴムローラ、O−リング、電気釜用パッキン、ベルトなどがある。また、金型との離型性が要求されるゴム複合製品としては、金具などの被着体とゴムとを加硫接着させたもの、例えば、オイルシール、小型電子部品の端部にコーティングを施すのに用いられるキャリアプレートなどがある。なお、金具などの被着体とゴムとを加硫接着させたゴム複合製品の場合、金型とゴムとの離型性が十分でないと、成型品の金型からの脱型時に、被着体が変形するという問題点がある。例えば、キャリアプレートの成型において、成型品と金型との離型が悪いと、成型品の被着体であるアルミプレートが金型からの脱型時に変形してしまい、平面度が確保できないという不具合が生じる。
【0011】
そこで、シリコーンオイルなどの表面張力が低いポリオルガノシロキサン化合物を含むゴム用型離型剤が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
しかしながら、シリコーンオイルなどの表面張力が低いポリオルガノシロキサン化合物を含むゴム用離型剤を、過酸化物を加硫剤として用いたシリコーンゴム、フッ素ゴムおよびエチレンプロピレンゴムなどの過酸化物加硫型のゴム、例えば、過酸化物加硫型のシリコーンゴムや、付加型のシリコーンゴムの離型剤として用いると、離型効果がないばかりでなく、むしろゴム(成型品)と金型が接着してしまうという問題点があった。
【0013】
このような問題点を解決するための一つの手段として、過酸化物加硫型あるいは付加型のシリコーンゴムのゴム用離型剤として、ノニオン系(非イオン系)界面活性剤を使用することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
このようなノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0015】
【特許文献1】特開平07−148745号公報
【非特許文献1】伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」日刊工業新聞社、1990年8月31日、p.598−600
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来のノニオン系界面活性剤を用いたゴム用離型剤においては、希釈時や塗布時に泡の発生(起泡)は少ないものの、離型性に劣るという問題点があった。
【0017】
なお、ゴム用離型剤として、アニオン系(陰イオン系)界面活性剤を使用すると、良好な離型性を得ることができるが、アニオン系界面活性剤は、希釈時や金型への塗布時に泡の発生(起泡)が激しく、泡により均一な塗布面が得られ難いという問題点があった。
【0018】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、離型性に優れたゴム用離型剤およびゴム成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させた組成物を金型に塗布することにより、均一な塗布面を得ることができ、かつ成型品と金型との離型性に優れることを見い出し、本発明を完成するにいたった。
【0020】
すなわち、本発明に係るゴム用離型剤の特徴は、アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させた点にある。
【0021】
前記アニオン系界面活性剤が、アルキル硫酸塩もしくはアルキルベンゼンスルホン酸塩であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係るゴム成型方法の特徴は、請求項1または請求項2に記載のゴム用離型剤を、過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムを金型を用いて成型する際の離型剤として使用する点にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るゴム用離型剤によれば、過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムの成型時における成型品と金型との離型性を確実に確保することができるなどの極めて優れた効果を奏する。また、本発明に係るゴム成型方法によれば、過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムを金型を用いて成型する際に、成型品と金型との良好な離型性を確実かつ容易に確保することができるなどの極めて優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のゴム用離型剤は、アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させるとよい。
【0025】
本発明のゴム用離型剤として用いられるアニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩(石けん)、α−スルホ脂肪酸エステル塩(MES)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルキル硫酸塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、アルキル硫酸トリエタノールアミンなどが例示されるが、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)かアルキル硫酸塩(AS)が好ましい。
【0026】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなどが例示される。
【0027】
アルキル硫酸塩(AS)としては、オクチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウムなどが例示される。
【0028】
なお、市販のママレモンやソフラン(以上、ライオン株式会社製商品名)などは、アニオン系界面活性剤を含有しているので、これらの洗剤を成分として使用してもよい。
【0029】
本発明のゴム用離型剤として用いられるもうひとつの成分である水溶性アルコールは、消泡性に寄与する成分であり、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールなどが例示される。
【0030】
本発明のゴム成型方法は、本発明のゴム用離型剤を過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムを金型を用いて成型する際の離型剤として使用するとよい。
【0031】
つぎに、本発明の実施例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
本発明のゴム用離型剤としての使用可能性について試験するために、ゴム用離型剤の消泡性、および、成型品と金型との離型性について評価した結果をその組成とともに表1に示す。なお、表1における組成の数値は重量%を示す。
【0033】
なお、消泡性の試験は、ゴム用離型剤を試験管(直径10mm、高さ10cm)に入れ、底面からの液面の高さが5cmとなるように入れた後、試験管の口をゴム栓で塞ぎ、手で20秒間(往復50振り以上)激しく振って、30秒後の液面からの泡の高さ(mm)を測定した。この泡の高さが0mmに近づくほど消泡性に優れており、塗布後の乾き、すなわち、乾燥速度が速いことを示している。
【0034】
また、ゴム用離型剤による離型性の試験としては、本発明のゴム成型方法を用いてゴムの成型品を形成して行った。
【0035】
すなわち、成型後の金型に対するゴムのバリの付着状態を目視で検査し、離型性を○(バリ付着 無)、△〜○(バリ付着 極小)、△(バリ付着 小)、×〜△(バリ付着 中)、×(バリ付着 大)の5段階で評価した。
【0036】
なお、離型性の評価に併せて、金型汚染性について成型品を脱型した後の金型を目視で検査し、金型汚染性を○(型汚れ 無)、△〜○(型汚れ 極小)、△(型汚れ 小)、×〜△(型汚れ 中)、×(型汚れ 大)の5段階で評価した。
【0037】
また、ゴムの成型品の形成は、本発明のゴム成型方法の実施例を示すものであり、以下の実施例1〜4により行った。
【0038】
実施例1
付加型シリコーンゴム(KE1950−50A/B:信越化学工業株式会社製商品名)を用いてトランスファー成型により120℃でキャリアプレートを形成した。この時、表1に示す組成のゴム用離型剤を金型に塗布した。
【0039】
実施例2
実施例1の付加型シリコーンゴムの代わりに、過酸化物加硫型のシリコーンゴム(KE951−U:信越化学工業株式会社製商品名)を100重量部、加硫剤としてベンゾイルパーオキサイド(C−1(ベンゾイルパーオキサイド50%含有シリコーンペースト):信越化学工業株式会社製商品名)を0.7重量部、顔料(KE−COLOR−W:信越化学工業株式会社製商品名)を1重量部、官能性モノマーとしてトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(アクリルエステルTMP:三菱レイヨン株式会社製商品名)を0.5重量部の割合で計量し(合計102.2重量部)それぞれを周知の練りロールで混練りし、未加硫のゴム生地を得、このゴム生地を用いてトランスファー成型により120℃でキャリアプレートを形成した。この時、表1に示す組成のゴム用離型剤を金型に塗布した。
【0040】
実施例3
実施例1の付加型シリコーンゴムの代わりに、過酸化物加硫型のフッ素ゴム(G−902:ダイキン工業株式会社製商品名)を100重量部、加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ2.5B:日本油脂株式会社製商品名)を1.5重量部、トリアリルイソシアヌレート(タイク:日本化成株式会社製商品名)を4重量部、補強剤としてMTカーボンブラック(Cancarb Limited(カナダ)製商品名)を20重量部の割合で計量し(合計125.5重量部)それぞれを周知の練りロールで混練りし、未加硫のゴム生地を得、このゴム生地を用いてプレス成型により170℃でO−リングを形成した。この時、表1に示す組成のゴム用離型剤を金型に塗布した。
【0041】
実施例4
実施例1の付加型シリコーンゴムの代わりに、エチレンプロピレンゴム(エスプレン301:住友化学工業株式会社製商品名)を100重量部、加硫剤としてジクミルパーオキサイド(ダイカップ40C:(GEO Specialty Chemicals,Inc.(米国)製商品名)を7重量部、エチレンジメタアクリレート(アクリエステルED:三菱レーヨン株式会社製商品名)を2重量部、補強剤としてHAFカーボンブラック(シースト3:東海カーボン株式会社製商品名)を50重量部の割合で計量し(合計159重量部)それぞれを周知の練りロールで混練りし、未加硫のゴム生地を得、このゴム生地を用いてプレス成型により170℃でO−リングを形成した。この時、表1に示す組成のゴム用離型剤を金型に塗布した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、アニオン系界面活性剤の水溶液に水溶性アルコールを5重量%以上の配合割合で含有させた場合は、アルコールの添加量が多くなるにつれ起泡を抑えることができるので、乾燥速度が速く、かつ離型性に優れた塗布面を得られることが判明した。これに対し、水溶性アルコールを全く添加しない場合は泡立ちが大きく消泡が困難であるので、乾燥速度が速く、かつ離型性に優れた塗布面が得られないことが判明した。
【0044】
さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ノニオン系界面活性剤)であるライオノールL−785(ライオン株式会社製商品名)やポリエチレングリコール(PEG6000M:ライオン株式会社製商品名)では泡立ちは少ないものの離型性が悪いということが判明した。
【0045】
なお、水と任意の割合で溶解せず、水に対する溶解度を有するアルコール、例えば1−ブタノール(30℃の水に7%程度が溶ける)では、溶解度を超えた添加量では白濁が生じるので好ましくないことが判明した。
【0046】
また、アニオン系界面活性剤としてアルキル硫酸塩もしくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.01〜2重量%使用することにより、良好な離型性を得られることが判明した。
【0047】
この試験結果からも判るように、ゴムの成型時の離型において、アニオン系界面活性剤を0.01〜2重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させることにより、過酸化物加硫型のゴムや付加型のシリコーンゴムに良好な離型性を確実に得られることが判明した。
【0048】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン系界面活性剤を0.01〜2.00重量%と、水溶性アルコールを5〜70重量%とを水に溶解させたことを特徴とするゴム用離型剤。
【請求項2】
アニオン系界面活性剤が、アルキル硫酸塩もしくはアルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のゴム用離型剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のゴム用離型剤を、過酸化物加硫型のゴムあるいは付加型のシリコーンゴムを金型を用いて成型する際の離型剤として使用することを特徴とするゴム成型方法。

【公開番号】特開2006−224426(P2006−224426A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40188(P2005−40188)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【Fターム(参考)】