説明

ゴム組成物およびそれを用いてなる防振ゴム

【課題】耐熱性を維持したまま、加硫時間を短縮することができるゴム組成物の提供を目的とする。
【解決手段】下記の(A)〜(C)成分とともに、(D)成分を含有するゴム組成物である。
(A)ジエン系ゴム。
(B)硫黄系加硫剤。
(C)チアゾール系加硫促進剤。
(D)シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ等の防振材料として使用される、ゴム組成物およびそれを用いてなる防振ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境や使用環境の変化に伴い、防振ゴムにはこれまで以上に高い耐熱性が求められるようになっている。
そこで、このような要求を満足させるため、エンジンマウントに使用されるゴム組成物としては、例えば、天然ゴム等のジエン系ポリマーをメインポリマーとして、これに加硫剤(硫黄)や、チアゾール系加硫促進剤やチウラム系加硫促進剤等の硫黄系加硫促進剤を配合したゴム組成物が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−291103号公報
【特許文献2】特開平10−324776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載のゴム組成物は、いずれもチアゾール系加硫促進剤等の硫黄系加硫促進剤を使用した場合には、加硫速度が遅く、生産性に劣るという難点がある。そこで、生産性の向上のため、加硫時間の短縮化を図ることができるゴム組成物の開発が待望されている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐熱性を維持したまま、加硫時間を短縮することができる、ゴム組成物およびそれを用いてなる防振ゴムの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(C)成分とともに、(D)成分を含有することを特徴とするゴム組成物を第1の要旨とする。
(A)ジエン系ゴム。
(B)硫黄系加硫剤。
(C)チアゾール系加硫促進剤。
(D)シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物。
【0007】
また、本発明は、防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴムを第2の要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明者は、耐熱性を維持したまま、加硫時間を短縮することができるゴム組成物を得るため、鋭意研究を重ねた。そして、通常は、消臭・脱臭剤の用途に使用される、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物に着目し、これを技術常識に反して、ゴム組成物中に配合することを想起した。そして、ジエン系ゴムと、硫黄系加硫剤と、チアゾール系加硫促進剤との配合系に、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物を配合してなるゴム組成物について、実験を続けた結果、耐熱性を維持したまま、加硫時間を短縮することができることを見いだし、本発明に到達した。この理由は明らかではないが、以下のように推察される。すなわち、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物中の銅が、硫黄加硫剤と反応することにより、加硫反応が活性化されるため、加硫速度が速くなったと考えられる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムと、硫黄系加硫剤と、チアゾール系加硫促進剤との配合系に、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物を配合している。このように、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物を使用すると、上記金属化合物中の銅が、硫黄加硫剤と反応することにより、加硫反応が活性化されるため、加硫速度の短縮を図ることができる。また、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物は、シリカ単体に比べて、ジエン系ゴム中での分散性が良好になる。
【0010】
そして、ジエン系ゴム(A成分)が、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、防振性能、耐久性が向上する。
【0011】
また、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)の含有量が、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.5〜10重量部であると、加硫時間の短縮化と、初期物性とのバランスが良好となる。
【0012】
そして、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)の平均粒径が0.5〜15μmの範囲であると、防振性能および耐久性が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0014】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム(A成分)と、硫黄系加硫剤(B成分)と、チアゾール系加硫促進剤(C成分)と、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)とを用いて得ることができる。
【0015】
つぎに、これらの成分について説明する。
【0016】
《ジエン系ゴム(A成分)》
上記ジエン系ゴム(A成分)としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、防振性能、耐久性の点で、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)が好ましい。
【0017】
《硫黄系加硫剤(B成分)》
上記硫黄系加硫剤(B成分)としては、例えば、硫黄等があげられる。
【0018】
上記硫黄系加硫剤(B成分)の含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.2〜7重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.4〜5.0重量部の範囲である。すなわち、硫黄系加硫剤(B成分)が少なすぎると、加硫が不充分で、ゴム製品の強度に劣り、逆に硫黄系加硫剤(B成分)が多すぎると、ゴム製品が硬くなりすぎ、柔軟性に劣る傾向がみられる他、スコーチタイムが短くなり、加工性が悪化する傾向がみられるからである。
【0019】
《チアゾール系加硫促進剤(C成分)》
上記チアゾール系加硫促進剤(C成分)としては、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(NaMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnMBT)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、加硫反応性に優れる点で、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)が好ましい。
【0020】
上記チアゾール系加硫促進剤(C成分)の含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.1〜7重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0021】
《シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)》
上記シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)としては、加硫反応を活性化でき、ジエン系ゴム(A成分)との分散性に優れたものが好ましく、具体的には、東亞合成社製のケスモンNS−20C等の各種グレードがあげられる。
【0022】
上記特定の金属化合物(D成分)は、平均粒径が0.5〜15μmの範囲が好ましく、特に好ましくは平均粒径が1.0〜4.0μmの範囲である。なお、上記特定の金属化合物(D成分)は、粉末状、顆粒状、粒状(ビーズ状)等のいずれであっても差し支えない。
【0023】
上記特定の金属化合物(D成分)の含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜5重量部の範囲である。すなわち、特定の金属化合物(D成分)が少なすぎると、加硫時間の短縮効果が小さくなり、逆に特定の金属化合物(D成分)が多すぎると、引張強度(TB)等の初期物性が低下する傾向がみられるからである。
【0024】
本発明のゴム組成物には、ジエン系ゴム(A成分)と、硫黄系加硫剤(B成分)と、チアゾール系加硫促進剤(C成分)と、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)とに加えて、カーボンブラック、加硫助剤、プロセスオイル、老化防止剤等を、必要に応じて適宜に配合しても差し支えない。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0025】
《カーボンブラック》
上記カーボンブラックとしては、押出加工性や補強性に優れたものが好ましく、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のものがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0026】
上記カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、20〜140重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは25〜120重量部の範囲である。
【0027】
《加硫助剤》
上記加硫助剤としては、例えば、亜鉛華(ZnO)、ステアリン酸、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0028】
上記加硫助剤の含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.5〜25重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1.0〜10重量部の範囲である。
【0029】
《プロセスオイル》
上記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
上記プロセスオイルの含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、1.0〜100重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは20〜80重量部の範囲である。
【0031】
《老化防止剤》
上記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系,フェニレンジアミン系,フェノール系,ジフェニルアミン系,キノリン系等の老化防止剤や、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0032】
上記老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム(A成分)100重量部に対して、0.2〜10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜6重量部の範囲である。
【0033】
本発明のゴム組成物は、例えば、ジエン系ゴム(A成分)と、硫黄系加硫剤(B成分)と、チアゾール系加硫促進剤(C成分)とともに、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)を配合し、さらに必要に応じて、カーボンブラック等を配合し、これらをニーダー,バンバリーミキサー,ロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。その後、得られたゴム組成物を、高温(150〜170℃)で5〜30分間、加硫することにより防振ゴムを作製することができる。
【実施例】
【0034】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0036】
〔天然ゴム(A成分)〕
RSS♯3
【0037】
〔ブタジエンゴム(A成分)〕
宇部興産社製 ウベポールBR150
【0038】
〔加硫助剤〕
酸化亜鉛(三井金属鉱業社製、亜鉛華1号)
【0039】
〔ステアリン酸〕
花王社製、ルーナックS30
【0040】
〔老化防止剤(i)〕
精工化学社製、オゾノン6C
【0041】
〔老化防止剤(ii)〕
精工化学社製、ノンフレックスRD
【0042】
〔ワックス〕
大内新興化学工業社製、サンノック
【0043】
〔シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)〕
東亞合成社製、ケスモンNS−20C(平均粒径2〜3μm)
【0044】
〔CuO:酸化銅(II)〕
CIKナノテック社製
【0045】
〔カーボンブラック〕
FEF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO)
【0046】
〔ナフテン系オイル〕
日本サン石油社製、サンセン410
【0047】
〔チアゾール系加硫促進剤(C成分)〕
ジベンゾチアジルジスルフィド(大内新興化学工業社製、ノクセラーDM−P)
【0048】
〔加硫剤(B成分)〕
硫黄(鶴見化学工業社製、粉末硫黄)
【0049】
〔実施例1〜5、比較例1〜3〕
下記の表1に示す各成分を同表に示す割合で配合し、バンバリーミキサーおよびロールを用いて混練して、ゴム組成物を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
このようにして得られた実施例および比較例のゴム組成物を用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記の表1に併せて示した。
【0052】
〔未加硫物性:ムーニー粘度(MV)、スコーチタイム(ST)〕
各ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+3、121℃)を、東洋精機製作所社製のムーニー粘度測定器を用いて、JIS K 6300に準じて測定した。
また、上記測定器により、粘度トルク値(絶対値)が最低ムーニー値より5ポイント上昇したときのスコーチタイム〔ST(5p,121℃)を測定した。
なお、ムーニー粘度(ML1+3、121℃)は、20〜80PTS、ST(5p,121℃)は8分以上であることが好ましい。
【0053】
〔加硫曲線〕
各ゴム組成物の加硫曲線(150℃)について、ローターレスタイプ・ゴム用加硫試験機(東洋精機製作所社製、ロータ式レオメーター)を用いて、ML(最小トルク)、MH(最大トルク)、加硫時間(T10、T90)を測定し、T90−T10(分)を算出した。評価は、T90−T10の値が小さいほど、加硫速度が速く、加硫時間の短縮効果が優れているといえる。
【0054】
〔加硫ゴム特性〕
各ゴム組成物を150℃で30分間プレス加硫して、厚み2mmの加硫ゴムシートを作製した。ついで、JIS 5号ダンベルを打ち抜き、JIS K 6251に準じて、引張強さ(TB)を評価した。
【0055】
上記表の結果より、実施例品は、ムーニー粘度、スコーチタイム、引張強さ(TB)が良好で、T90−T10の値が小さく、加硫時間を短縮することができた。
なお、実施例の天然ゴムに代えて、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)を使用した場合も、天然ゴムを使用した場合と同様の優れた効果が得られることを、本発明者は実験により確認している。
【0056】
これに対して、比較例1品は、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)であるケスモンNS−20Cを含有しないため、T90−T10の値が大きく、加硫時間を短縮することができなかった。
比較例2品は、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)であるケスモンNS−20Cに代えて、CuO〔酸化銅(II)〕を使用しているため、加硫阻害を起こしていると考えられる。したがって、比較例1(ブランク)に比べて、T90−T10の値が大きく、加硫時間の短縮効果が得られなかった。
比較例3品は、シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物(D成分)であるケスモンNS−20Cを含有しないため、実施例5品に比べて、T90−T10の値が大きく、加硫時間を短縮することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のゴム組成物は、例えば、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ等の防振材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分とともに、(D)成分を含有することを特徴とするゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)硫黄系加硫剤。
(C)チアゾール系加硫促進剤。
(D)シリカ表面に銅イオンを配位してなる金属化合物。
【請求項2】
(A)成分が、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
(D)成分の含有量が、(A)成分100重量部に対して、0.5〜10重量部である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
(D)成分の平均粒径が0.5〜15μmの範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
ゴム組成物が、防振ゴム組成物である請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載の防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする防振ゴム。
【請求項7】
防振ゴムが、エンジンマウント、スタビライザブッシュまたはサスペンションブッシュである請求項6記載の防振ゴム。

【公開番号】特開2012−92193(P2012−92193A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239466(P2010−239466)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】