説明

ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】老化防止剤による耐オゾン性の改良効果を悪化させることなく、ゴム表面の変色を抑制して外観性を向上する。
【解決手段】ジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対し、メラニン又はメラニン色素を0.5〜20重量部を含有するゴム組成物である。好ましくは、ゴム成分100重量部に対して、老化防止剤が0.5〜10重量部配合される。また、該ゴム組成物を少なくとも一部に使用した空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及び、それを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、長期間使用中に大気中の酸素やオゾンにより劣化されることで、サイドウォール部やトレッド部の溝底に亀裂が生じ、これが耐久性を悪化させる原因となる。そのため、耐酸化劣化性や耐オゾン性を改良するために、タイヤ用ゴム組成物には、各種の老化防止剤が配合されている。その中でも、アミン系老化防止剤は、タイヤのサイドウォールゴムなどの酸化劣化やオゾン劣化を有効に防止する効果を有している。しかしながら、老化防止剤、とりわけアミン系老化防止剤は、タイヤを茶色あるいは茶褐色に変色させていくため、その外観が悪くなり、タイヤの商品価値が低下するという問題がある。
【0003】
このような老化防止剤による変色を防止するために、紫外線吸収剤や樹脂、界面活性剤などをアミン系老化防止剤と併用することが提案されている。例えば、下記特許文献1,2には、ジエン系ゴムに、ジアミン系老化防止剤とともに、ベンゾフェノン系化合物や、サリチレート系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアジン系化合物などの紫外線吸収剤を配合することが開示されている。また、下記特許文献3には、老化防止剤と熱可塑性樹脂とを混合してなる粒状物を配合したゴム組成物が開示されている。下記特許文献4には、アミン系老化防止剤とともに、ポリオキシエチレンのエーテル型非イオン界面活性剤を配合してなるゴム組成物が開示されている。下記特許文献5には、芳香族2級アミン系老化防止剤とともに、チオウレア系老化防止剤を併用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−145422号公報
【特許文献2】特開2006−143889号公報
【特許文献3】特開2001−348463号公報
【特許文献4】特開平5−194790号公報
【特許文献5】特開平7−62156号公報
【特許文献6】特開2008−1861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来、アミン系老化防止剤とともに紫外線吸収剤や樹脂等の添加剤を併用することで、アミン系老化防止剤によるゴム表面の変色を抑制し、外観性を改良することは知られているが、メラニン又はメラニン色素を配合することによりアミン系老化防止剤による変色を抑制できることは知られていなかった。
【0006】
なお、上記特許文献6には、天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムからなるゴム成分100重量部に対し、シリカ20重量部以上と、カーボンブラック5重量部以下と、平均粒子径が1000nm以下のイカ墨粉を5〜20重量部を含有するゴム組成物が開示されている。しかしながら、この文献は、石油由来資源であるカーボンブラックに代えてシリカを充填剤として用いる場合の問題点を解消するため、紫外線の遮蔽・吸収効果を維持するための成分としてイカ墨粉を用いるものである。一般に、イカ墨粉は、グルタミン酸などの他の成分を含むものであり、よって、同文献には、メラニン又はメラニン色素自体をジエン系ゴムに配合することは開示されておらず、また、それによりアミン系老化防止剤による変色を抑制できる点も知られていなかった。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ゴム表面の変色を抑制して外観性を向上することができるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対し、メラニン又はメラニン色素を0.5〜20重量部を含有するものである。
【0009】
本発明は、また、該ゴム組成物を少なくとも一部に用いた空気入りタイヤを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジエン系ゴムにメラニン又はメラニン色素を配合することにより、老化防止剤を配合した場合における当該老化防止剤によるゴム表面の変色を抑制して、外観性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係るゴム組成物においてゴム成分として配合されるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、又はこれらの2種以上のブレンドである。
【0013】
本発明に係るゴム組成物には、老化防止剤を配合することができる。老化防止剤としては、優れた耐オゾン性が得られる点から、アミン系老化防止剤を用いることが好ましい。老化防止剤は、アミン系老化防止剤単独でもよく、アミン系老化防止剤と、他の老化防止剤(アミン−ケトン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イオウ系老化防止剤、リン系老化防止剤など)との併用でもよい。
【0014】
上記アミン系老化防止剤としては、芳香族第2級アミンが好ましく用いられる。具体的には、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(CD)、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、N−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記アミン−ケトン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン(ETMDQ)、ジフェニルアミンとアセトンの反応物(ADPAL)などが挙げられる。
【0016】
上記フェノール系老化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DTBMP)、スチレン化フェノール(SP)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBETB)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBMBP)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BBMTBP)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(TBMTBP)、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(DBHQ)、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノン(DAHQ)などが挙げられる。
【0017】
上記イオウ系老化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩(ZnMBI)などのベンズイミダゾール系;ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(NiDBC)などのジチオカルバミン酸塩系;1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、トリブチルチオ尿素などのチオウレア系;チオジプロピオン酸ジラウリル(DLTDP)などの有機チオ酸系などが挙げられる。
【0018】
上記リン系老化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(TNPP)などが挙げられる。
【0019】
老化防止剤の配合量は、上記ゴム成分100重量部に対して0.5〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜8重量部である。アミン系老化防止剤と他の老化防止剤を併用する場合、老化防止剤の50重量%以上がアミン系老化防止剤であることが好ましい。老化防止剤の配合量が少なすぎると、ゴム組成物の耐オゾン性を確保することが難しくなる。逆に、老化防止剤の配合量が多すぎると、メラニンを併用した場合でもゴム表面の変色を抑制することが難しくなる。
【0020】
本発明に係るゴム組成物にはメラニン又はメラニン色素が配合される。メラニンは、フェノール類物質が高分子化することで得られた黒色ないし褐色の色素である。メラニンとしては、動物から抽出したものであってもよく、あるいはまた人工的に合成されたものであってもよい。一般に、メラニンは、チロシンから合成された様々なインドール化合物が重合して高分子化したものであり、黒色のユーメラニンと、黄色のフェオメラニンとに大別される。本発明では、これらのいずれも用いることができ、また両者の複合体であってもよい。好ましくはユーメラニンを主成分とするメラニンである。また、本発明では、一般にメラニン色素と称されるメラニンの誘導体も用いることができ、メラニンとメラニン色素を併用してもよい。
【0021】
メラニン又はメラニン色素(以下、単にメラニンという場合がある。)を、上記老化防止剤(特に好ましくはアミン系老化防止剤)と組み合わせて配合することにより、老化防止剤により奏される耐オゾン性を悪化させることなく、老化防止剤によるゴム表面の変色を抑制することができる。
【0022】
メラニンの配合量は、上記ゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10重量部であり、更に好ましくは2〜8重量部である。メラニンの配合量が少なすぎると、老化防止剤による変色を抑制する効果が不十分となる。逆に多すぎると、耐オゾン性が損なわれる場合がある。
【0023】
老化防止剤とメラニンは、ゴム成分100重量部に対する老化防止剤の配合量をX(重量部)、メラニンの配合量をY(重量部)として、次の関係を満たすようにゴム成分に配合することが好ましい。
【0024】
0.25 ≦ Y/X ≦ 4
Y/Xが0.25未満であると、老化防止剤に対するメラニンの量が相対的に少なくなって、外観性を改良することが難しくなる。また、Y/Xが4を超えると、老化防止剤の配合量が少なくなって、耐オゾン性を確保することが難しくなる。Y/Xは、0.5〜2であることがより好ましい。
【0025】
本発明に係るゴム組成物には、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウムなどの各種の充填剤を配合することができる。充填剤としては、カーボンブラック、シリカが好ましい。充填剤の配合量は、特に限定されないが、ゴム成分100重量部に対して20〜150重量部であることが好ましい。より好ましくは、カーボンブラックを、ゴム成分100重量部に対して、20〜100重量部で配合することであり、更に好ましくは40〜80重量部で配合することである。このように所定量のカーボンブラックをメラニンと併用することにより耐候性を更に改善することができる。
【0026】
本発明に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、硫黄、加硫促進剤など、ゴム工業において一般に使用される各種添加剤を必要に応じて配合することができる。該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー等の混合機を用いて混練し作製することができる。
【0027】
該ゴム組成物の用途は、特に限定されないが、トレッドやサイドウォール等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種ゴム組成物に用いることができる。該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、各種空気入りタイヤのゴム部分(トレッドゴムやサイドウォールゴムなど)を構成することができる。特には、空気入りタイヤのサイドウォール部に用いられることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例におけるゴム組成物の共通配合は、天然ゴム(RSS#3)50重量部、ブタジエンゴム(宇部興産株式会社製「BR150」)50重量部、亜鉛華(三井金属鉱業株式会社製「1号亜鉛華」)3重量部、ステアリン酸(花王株式会社製「工業用ステアリン酸」)2重量部、硫黄(鶴見化学工業株式会社製「5%油処理粉末硫黄」)2重量部、及び、加硫促進剤NS(大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーNS−P」)1重量部とした。
【0030】
老化防止剤、メラニン及びカーボンブラックは、上記天然ゴム及びブタジエンゴムからなるゴム成分100重量部に対し、下記表1に示す通り配合した。ゴム組成物の調製は、バンバリーミキサーを用いて、常法に従い、ゴム成分に上記各成分を添加し混練することにより行った。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0031】
・アミン系老化防止剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、6PPD、大内新興化学工業株式会社製「ノクラック6C」
・アミン−ケトン系老化防止剤:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、TMDQ(RD)、大内新興化学工業株式会社製「ノクラック224」
・メラニン:ナカライテスク株式会社製「メラニン」
・メラニン色素:東洋インキ株式会社製のメラニン系黒色色素(イカ墨から得られたユーメラニンを主成分とするメラニン色素)「アイカブラック」
・カーボンブラック:HAF級、東海カーボン株式会社製「シースト3」
【0032】
このようにして得られた各ゴム組成物について、160℃×30分で加硫して厚さ2mmの試験片を作製し、得られた試験片を用いて、外観性と耐オゾン性を評価した。評価方法は以下の通りである。
【0033】
・外観性:上記試験片を屋外で日光に照射させ、照射前(屋外曝露0日)、20日後(屋外曝露20日)、40日後(屋外曝露40日)、及び120日後(屋外曝露120日)における試験片の表面を目視により観察して、下記の基準で外観性を評価した。
【0034】
◎:表面が黒く、ほとんど変色なし
○:わずかに茶色または白色に変色している
△:やや茶色または白色に変色している
×:茶褐色または白色に変色している
【0035】
・耐オゾン性:上記試験片を25%伸長した条件下でオゾンウェザーメーター装置中に設置し、オゾン濃度100pphm、温度50℃の環境下で24時間放置し、その後、クラックの発生状態を目視により観察し、下記の基準で耐オゾン性を評価した。
【0036】
1:クラック発生なし
2:肉眼では確認できないが10倍の拡大鏡では確認できるクラックが発生している
3:肉眼で何とか確認できる程度のクラックが発生している
4:1mm以下のクラックが発生している
5:1mmを超えるクラックが発生している
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、アミン系老化防止剤の単独使用の比較例1,2では、耐オゾン性には優れるものの、外観性に劣っていた。また、メラニンを多量に配合した比較例3では、外観性には優れるものの、耐オゾン性に劣っていた。これに対し、本発明に係る実施例1〜11であると、アミン系老化防止剤による耐オゾン性の効果を大きく損なうことなく、外観性を向上することができた。特に、メラニン又はメラニン色素と老化防止剤との配合量比Y/Xを所定の範囲とした実施例1〜9であると、耐オゾン性の効果を損なうことなく、外観性を大幅に向上することができ、メラニン又はメラニン色素を併用することによるアミン系老化防止剤の変色抑制効果に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムからなるゴム成分100重量部に対し、メラニン又はメラニン色素を0.5〜20重量部を含有するゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100重量部に対して老化防止剤を0.5〜10重量部含有する請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100重量部に対する前記老化防止剤の配合量をX、前記メラニン又はメラニン色素の配合量をYとして、Y/Xが0.25以上4以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物を少なくとも一部に使用した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−42710(P2011−42710A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190193(P2009−190193)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】