説明

ゴム組成物

【課題】鉄道用空気バネ1を構成するベローズやダイヤフラム4と保護ゴム8,9などのようにゴム材料同士が接触して摩擦が生じる場合に、良好な滑り性を発揮して、摩擦による磨耗や疲労の発生を効果的に防止することができるゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ゴム材料同士が接触して摩擦が生じる部分に用いられるゴム組成物であって、脂肪酸アミドを含有することを特徴とするゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用空気バネのダイヤフラムやダイヤフラムと接触する保護ゴムを形成するゴム材料として好適に用いられるゴム組成物に関し、更に詳述すると、摩擦係数を適度に低減化して、ゴム同士の摩擦による損傷の発生を可及的に防止することができるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の台車用枕ばね装置には、従来から空気バネが用いられており、この空気バネとしは、例えば特開平11−321646号公報(特許文献1)に示されたものが知られている。即ち図1に示したように、この空気バネ1は、上面板2と下面板3との間に空気を封入したゴム製のダイヤフラムやベローズ(図1ではダイヤフラム4)を配置したもので、更に下面板3の下面側にゴム質弾性体5と金属等の剛質板6とを交互に積層した防振体7を連結して枕ばね装置が構成される。
【0003】
上記空気バネ1は、上記ダイヤフラム4又はベローズが変形することにより、振動や上下左右の力を吸収するものであるが、このとき通常は上下面板2,3からダイヤフラム4やベローズを保護するために上下面板2,3の内面に保護ゴム8,9を被覆形成し、ダイヤフラム4やベローズを形成するゴムが直接金属製の上下面板2,3に接触せず、上記保護ゴム8,9と接触した状態で変形するようになっている。
【0004】
しかしながら、上記保護ゴム8,9を形成した場合でも、この保護ゴム8,9との摩擦によりダイヤフラム4やベローズに磨耗や亀裂が生じて、空気バネの性能が低下する場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−321646号公報
【特許文献2】特開平3−258840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、鉄道用空気バネを構成する上記のベローズやダイヤフラムと保護ゴムなどのようにゴム材料同士が接触して摩擦を生じる場合に、良好な滑り性を発揮して、摩擦による磨耗や亀裂の発生を良好に防止することができるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討を行った結果、天然ゴム、各種合成ゴム又はこれらの混合ゴムに所望の添加剤を添加混合したゴム組成物に、脂肪酸アミド、特にステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミドを適量配合することにより、ゴム弾性体としての性能を低下させることなく、効果的に摩擦係数を下げることができ、同様に上記空気バネの保護ゴム、ベローズやダイヤフラムを形成するゴム組成物中に上記アミド化合物を添加配合することにより、これらゴム同士の摩擦による磨耗や亀裂の発生を効果的に低減化することができ、耐久性に優れた空気バネを構成することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】
従って、本発明は、ゴム材料同士が接触して摩擦が生じる部分に用いられるゴム組成物であって、脂肪酸アミドを含有することを特徴とするゴム組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物は、例えば上記空気バネ1の保護ゴム8,9とダイヤフラム4又はベローズなど、ゴム材料同士が接触して摩擦を生じる部分に用いられるものであり、上記脂肪酸アミドの配合により摩擦係数が低く設定され、適度な滑り性を有するため、ゴム同士の摩擦によりゴムに磨耗や亀裂が発生することを効果的に防止することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のゴム組成物は、上述のように、脂肪酸アミドを添加配合したもので、ゴム材料同士が接触して摩擦を生じるものに用いられるものである。
【0011】
ここで、上記脂肪酸アミドとしては、飽和脂肪酸アミドでも不飽和脂肪酸アミドでもよいが、特にゴムの接着性低下を招きにくいことから用途によっては飽和脂肪酸であることが好ましく、例えば図1における保護ゴム8,9とする場合などには、上下面板2,3との接着性を考慮して飽和脂肪酸アミドが好ましく用いられる。
【0012】
このような、飽和脂肪酸アミドとして具体的には、ステアリン酸アミド(C1735CONH2)、ベヘニン酸アミド(C2143CONH2)などが例示され、不飽和脂肪酸アミドとしてオレイン酸アミド(C1733CONH2)、エルカ酸アミド(C2141CONH2)などが例示される。
【0013】
この脂肪酸アミドの配合量は、特に制限されるものではないが、ゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、3〜15質量部、特に5〜10質量部とすることが好ましい。この場合、配合量が3質量部未満であると、十分な低摩擦係数化を達成することができず、一方15質量部を超えると特にオレイン酸アミドやエルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミドを用いた場合には金属等に対する接着性が低下する場合がある。一方、ステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミドを用いた場合には、15質量部を超えて20質量部程度まで添加しても金属等に対する接着性が低下することなく、15質量部を超える大量添加により摩擦係数を大きく低減化することも可能である。なお、金属等に対する接着性を考慮する必要がない場合には、上記不飽和脂肪酸アミドであっても15質量部を超えて添加してもよいが、添加量が20質量部を超えると耐疲労性が劣化する場合がある。
【0014】
本発明ゴム組成物を構成するゴム成分としては、特に制限はなく、用途に応じた適宜なゴムを用いることができ、天然ゴム、合成ゴム又は天然ゴムと合成ゴムとの混合ゴムを用いることができる。合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などが例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、上記空気バネ1に用いられる保護ゴム8,9とする場合には、通常、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等の合成ゴムとを混合して用いられる場合が多く、この場合天然ゴムと合成ゴムとの混合比は、通常、質量比で天然ゴム/合成ゴム=80/20〜20/80、特に60/40〜40/60程度とされる。
【0015】
このゴム組成物には、上記ゴム成分とアミン化合物の他に、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、滑剤、粘着付与剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、軟化剤、可塑剤、ワックス、亜鉛華などの公知の添加剤を適量配合することができる。
【0016】
上記加硫剤として硫黄や有機過酸化物が例示される。この場合、有機過酸化物としては、例えば1,1−ジt−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジt−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)−ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、t−ブチルパーオキシ−i−プロピルカーボネートなどが例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
加硫促進剤としては、ステアリン酸、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルファイド(MBTS)、N−N’−ジエチルチオカルバモイル−2−ベンゾチアゾールサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド(TETD)、テトラブチルチウラムジサルファイド(TBTD)、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)などが例示される。
【0018】
上記充填剤としては、例えば、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF、FT、MTなどのカーボンブラックや、ホワイトカーボン、微粒子ケイ酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルクなどの無機充填剤、ハイスチレン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、リグニン、変性メラミン樹脂、石油樹脂などの有機充填剤が挙げられる。
【0019】
上記老化防止剤としては、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジクミルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマー、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン等のアミン系老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ・フェニル)プロピオン酸ステアレート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ・フェニル)フロピオネート)メタン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン等のフェノール系老化防止剤;2−メルカプトベンゾイミダゾール、トリブチルチオウレア、2−メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛塩、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール亜鉛塩等のイミダゾール系老化防止剤などが例示される。
【0020】
その他、滑剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、軟化剤、可塑剤などについても、用途や要求特性などに応じて公知のものから適宜選択して用いればよい。
【0021】
本発明のゴム組成物は、上記各成分を混練し、成形して加硫硬化させることにより、ゴム材料として上記空気バネ1の保護ゴム8,9やダイヤフラム4又はベローズなどの所望の用途に適用すればよい。この場合、混練操作や成形操作は、用途や成形物の形態などに応じて適宜公知の方法を採用することができる。
【0022】
本発明のゴム組成物は、例えば上記空気バネ1の保護ゴム8,9とダイヤフラム4又はベローズなど、ゴム材料同士が接触して摩擦を生じる部分に用いられるものであり、上記脂肪酸アミドの配合により摩擦係数が低く設定され、適度な滑り性を有するため、ゴム同士の摩擦によりゴムに磨耗や亀裂が発生することを効果的に防止することができるものである。この場合、互いに接触するゴム材料の一方を本発明ゴム組成物で形成すれば、良好な効果が得られるが、場合によっては互いに接触するゴム材料の双方を本発明のゴム組成物で構成することもでき、例えば上記空気バネ1の保護ゴム8,9とダイヤフラム4又はベローズの双方を脂肪酸アミドを配合した本発明のゴム組成物で形成してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例,比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0024】
[実施例1〜10及び比較例]
図1に示された空気バネ1の保護ゴム8,9として用いられている下記配合のゴム組成物に表1に示した脂肪酸アミドを同表に示した割合で添加配合し、11種類のゴム組成物を調製した。
配合組成
天然ゴム(RSS4) 40質量部
スチレンブタジエンラバー(JSR株式会社製 JSR#1500) 60質量部
ステアリン酸 2質量部
亜鉛華 5質量部
カーボンブラック(FEF) 30質量部
ワックス 2質量部
老化防止剤 2質量部
(N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン(6C))
硫黄 2質量部
加硫促進剤(CBS) 1質量部
【0025】
得られた各ゴム組成物を用いて、図1に示された空気バネ1の保護ゴム8,9を形成し、空気バネを作製した。得られた保護ゴムについて下記方法に従って摩擦耐久試験を行った。また、各ゴム組成物について、金属板(上下面板2,3)との接着性を下記方法により評価した。結果を表1に示す。
【0026】
摩擦耐久試験
ダイヤフラム4に内圧0.5MPaをかけ、0.5Hzにて横方向に振幅±75mmの振動を繰り返し与えて疲労評価を行った。この場合、200万回の振動で摩耗によりダイヤフラム4が破断したものを×、200万回の振動で破断しなかったものを○とした。
接着性試験
SPHC鋼板にリン酸亜鉛カルシウム処理を施し、ケムロック205(ロードファーイーストインコーポレイテッド社製)を塗布して十分に乾燥させた後、更にケムロック6108(ロードファーイーストインコーポレイテッド社製)を塗布して十分に乾燥させたものを上記各ゴムと155℃、20分以上の条件で加硫接着させ、試料とした。
この試料を24hr以上室温に放置した後、90度剥離試験を行い、ゴムが破壊した比率を調べた。
ゴムの剥離と破壊とを調べてゴム破壊が90%以上のものを○、鋼板と接着剤との間又は接着剤とゴムと間で生じた界面剥離が10%を超えていたものを×とした。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されているように、アミド化合物を添加配合した本発明のゴム組成物は、ゴム同士の摩擦に対して良好な耐久性を発揮し、またアミド化合物の配合量を調整することにより、接着性を低下させることなく効果的に滑り性を向上させて十分な摩擦耐久性が得ることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】空気バネの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 空気バネ
2 上面板
3 下面板
4 ダイヤフラム又はベローズ
5 ゴム質弾性体
6 剛質板
7 防振体
8,9 保護ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料同士が接触して摩擦が生じる部分に用いられるゴム組成物であって、脂肪酸アミドを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
上記脂肪酸アミドが、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド及びエルカ酸アミドから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
脂肪酸アミドの配合量が、ゴム成分100質量部に対して3〜15質量部である請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分として、天然ゴムと合成ゴムとの混合ゴムを含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
鉄道用空気バネを構成するゴム組成物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
鉄道用空気バネを構成するダイヤフラム又はベローズを形成する請求項5記載のゴム組成物。
【請求項7】
鉄道用空気バネのダイヤフラム又はベローズと接触する保護ゴムを形成する請求項5記載のゴム組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−24142(P2009−24142A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191513(P2007−191513)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】