説明

ゴム補強用繊維およびその製造方法

【課題】室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維表面にゴム/繊維用の接着処理剤が付与されたゴム補強用繊維であって、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムが、該接着剤成分中に存在していることを特徴とする。さらには炭酸カルシウムが沈降炭酸カルシウムであることや、炭酸カルシウムがシランカップリング剤で表面処理されたものであることが好ましい。また繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維であることや、接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用繊維およびその製造方法に関し、更に詳しくはゴムとの接着性能が高く、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム/繊維複合体に最適なゴム補強用繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維は一般的に高い強度を有するため、柔軟な材料であるゴムの補強材料として広く用いられている。中でも合成繊維は高強度、高ヤング率等の優れた物理的特性を有しており、これを活かしてタイヤ、ホース、ベルト等のゴム構造物の補強用として広く使用されている。しかし、高強力である繊維であるほど繊維表面が不活性であり、ゴムとの接着性があまり良くないという問題があった。そのため、繊維表面を活性化してゴムとの接着性を改善する目的で種々の提案が行われており、たとえばエポキシ化合物を主成分とする第1処理液で処理した後に、レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスを主成分とするレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス系の接着剤である第2処理液で処理する方法などが広く採用されている。
【0003】
そして接着力の向上を目的に、たとえば特許文献1では合成繊維製の基布を、比較的大きな粒子径を有するコロイダルシリカを含むレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス系の接着剤によって処理する方法が提案されている。しかし、コロイダルシリカは接着剤中に5〜50重量%も含有する必要があるにも係らず、固形分1kg当りの単価が数千円と高価であるため、コスト面での問題があった。
【0004】
また更に近年では、タイヤ、ホース、ベルト等のゴム構造物は性能の向上に伴い、より過酷な条件下で使用されるケースが増えている。例えば、ホースやベルト等が使用される自動車のエンジンルーム内の温度はますます高温化してきている。また、タイヤの場合は高速走行用のウルトラハイパフォーマンスタイヤ、パンクしても走行可能なランフラットタイヤなどが開発されているが、これらのタイヤではタイヤの内温が100℃以上となる。そこで現在では、そのような高温状態でもゴム構造物の補強用として適したゴム補強用繊維の開発が強く求められていた。
【特許文献1】特開平7−276567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面にゴム/繊維用の接着処理剤が付与されたゴム補強用繊維であって、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムが、該接着剤成分中に存在していることを特徴とする。さらには炭酸カルシウムが沈降炭酸カルシウムであることや、炭酸カルシウムがシランカップリング剤で表面処理されたものであることが好ましい。また繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維であることや、繊維があらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与されたものであることが好ましい。さらに、接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であることや、繊維重量に対する炭酸カルシウムの付着割合が0.1〜5重量%であることが好ましい。
【0007】
またもう一つの本発明のゴム補強用繊維の製造方法は、繊維表面に、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムを含むゴム/繊維用の接着処理剤を付与し、乾燥することを特徴とする。さらには接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤であることや、接着処理剤が、繊維に接着処理剤を付与する直前に炭酸カルシウム水分散液を添加したものであることが好ましい。また、繊維に接着処理剤を付与する前に、あらかじめ繊維がエポキシ化合物を主とする前処理剤を付与されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、室温だけでなく高温雰囲気下においてもゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したゴム補強用繊維およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面にゴム/繊維用の接着処理剤が付与されたゴム補強用繊維であって、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムが、該接着剤成分中に存在しているものである。ここで繊維としてはゴム補強用に用いられる繊維強度の高い繊維であれば特に限定するものではないが、ゴムとの接着強度を確保することが困難な合成繊維において、本発明は特に有効である。そのような合成繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、およびこれらの複合繊維などが挙げられる。中でもゴム補強用繊維としては、初期の繊維強度の高いポリエステル繊維や芳香族ポリアミド繊維が特に有効である。好ましいポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示される。また、好ましい芳香族ポリアミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレン−テレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等が例示される。
【0010】
また本発明に使用する繊維の形態としては、撚りがかけられていることが好ましい。片撚りの場合には、撚り数は10cm当り10〜50回であることが好ましい。また、諸撚りの場合には下撚りは10cm当り10〜50回、上撚りは20〜50回であることが好ましい。このように撚りが繊維にかかっていることにより繊維強力をより有効に活用することができ、タイヤ、ホース、ベルト等の補強用途に適したゴム補強用繊維となる。
【0011】
本発明のゴム補強繊維は、このような繊維表面に粒子径が0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムを含む接着処理剤が付与されているものである。用いられる炭酸カルシウムの粒子径としては0.05μm以上、10μm以下の範囲であることが必須であるが、さらには粒子径は0.1〜5μmの範囲であることがより好ましい。炭酸カルシウム粒子の粒子径が0.05μmより小さいと接着性に対する効果が不十分である。逆に10μm以上になると接着処理液中での分散性が低下し、沈降が生じるため不均一となるため、接着性向上効果が得られない。
【0012】
通常、炭酸カルシウムは親水性であるため通常の水に対する分散性は安定している。しかし本願のような複合物であるゴム用の接着剤中においては、その挙動は不安定となる。本発明では、炭酸カルシウムの粒子径を上記の範囲内とすることにより、接着処理液中における分散性が安定し、繊維への付与、ひいてはゴムとの接着性に効果を発揮することとなった。
【0013】
ここで本発明の粒子径とは、電子顕微鏡において撮影して得られる粒子の直径をいい、50個の粒子の平均直径によって求めた値である。なお得られた粒子の画像が真円でない場合には、その最も長い部分と最も短い部分の平均値をその粒子の直径とした。ちなみに粒子径は一般に顕微鏡を用いた直接的観察法以外にも、何らかの物性値を利用した間接的評価法で測定されるが、直接的観察法が最も精度が高い評価法であり、電子顕微鏡や光学顕微鏡等で試料を直接、観察して得られる測定値である。粒子径は間接的評価法によっても求めることができるが、粒子の大きさの違いで生じる粒子の運動性や散乱光などを測定し、予めデータベース化したこれらの物性値と粒子径との相関から粒子径を算出する方法であるので形状等による影響を受けやすく、本発明の定義には不適当であり、本発明では精度が高い直接的観察法により定義している。
【0014】
本発明のゴム補強用繊維における炭酸カルシウム粒子の働きは理論的には明確ではないが、繊維表面に付着している接着処理剤中の接着剤/炭酸カルシウム間において、接着剤中の水酸基と親水的な炭酸カルシウム粒子表面が相互作用を生じているために、接着力が向上しているのであると考えられる。
【0015】
また、被接着体のゴムに対しては、炭酸カルシウム/ゴム間において炭酸カルシウム粒子がゴム構造体の加硫によってゴム中に浸透・拡散し、アンカー接着の役割を果たしている。さらに、異物である炭酸カルシウム粒子が接着層に存在することにより、接着成分の凝集力を高め、接着層全体の耐熱性を高める効果を有する。このように、接着層やゴム中への微粒子の浸透・拡散や相互作用、接着剤層中への偏在の効果が積み重なって、繊維とゴム間の接着性を高めるのであろう。
【0016】
本発明で用いられる炭酸カルシウム粒子は特に限定されず、例えば、沈降炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)、重質炭酸カルシウムなどが挙げられる。中でも緻密質石灰石を原料として化学反応で合成される沈降炭酸カルシウムは、粒子サイズをμmオーダー以下に制御できることから、本発明で好適に使用でき好ましい。さらには沈降炭酸カルシウムの中でも、粒子径が1μm以下である膠質炭酸カルシウムは水分散性に特に優れ、本発明の接着液中できわめて安定に分散可能なことから、特に好ましい。一般的な、風化貝殻や粗晶質石灰石などの原料を物理的に粉砕することによって得られる重質炭酸カルシウムは、粒子径が比較的大きく、粒子形状も不定形となりやすいことから、本発明の効果を発揮しにくい傾向にある。
【0017】
また、本発明では炭酸カルシウムを脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル、高級アルコール付加イソシアネート化合物などで表面処理した表面処理炭酸カルシウムを用いることも好ましい。これらの表面処理炭酸カルシウムは炭酸カルシウム表面が適度に疎水化されており、水分散性を維持しながらゴムへの相溶性を高めることができるのである。中でも特に、炭酸カルシウムをシランカップリング剤で表面処理した表面処理炭酸カルシウムが好ましい。未処理の炭酸カルシウム表面には活性な官能基は存在しないが、シランカップリング剤に起因するシラノール基などの活性基が接着剤成分と水素結合などの相互作用を形成して強固に結びつくだけでなく、ゴム中に充填剤としてシリカが含まれる場合にはシリカ表面のシラノール基と共有結合する効果を発揮するためである。
【0018】
粒子の形状にも特に制限はなく、球状、立方形、紡錘形、柱状、針状などのいかなる形状も用いることができるが、アンカー効果の点からは紡錘形であることが好ましい。また、これらの炭酸カルシウムは単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0019】
また、繊維重量に対する繊維表面の炭酸カルシウム粒子の付着割合が0.1〜5重量%、さらには0.3〜4重量%であることが好ましい。接着処理剤成分に対する炭酸カルシウム粒子割合が0.1重量%以下になると、炭酸カルシウム粒子の効果が十分に発現しにくい傾向にある。逆に5重量%以上になると分散性が低下し、逆に接着性が阻害される傾向にある。このような付着量とするためには、接着処理剤の乾燥固形分重量に対する炭酸カルシウム粒子の割合は3〜50重量%、さらには5〜40重量%であることが好ましい。接着処理剤中の微粒子成分が多すぎると、接着処理液の安定性に影響を及ぼして沈降やゲル化が生じる傾向にあるからである。
【0020】
接着処理剤としては、ゴム補強用繊維の表面に通常用いられているゴム/繊維間用の接着剤組成物からなるものであればいずれでも使用できるが、種々の炭酸カルシウムを使用するためには水系の接着処理剤であることが好ましく、特にはゴム/繊維用途に汎用的に用いられるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤(RFL接着剤)であることが好ましい。レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤とは、レゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させて得られる初期縮合物と、ゴムラテックスの混合物である、いわゆるRFL接着剤である。RFLが有する水酸基等の官能基と親水的な炭酸カルシウム粒子表面との相互作用によって、より接着性を向上させることができる。
【0021】
またRFL接着剤には、ゴムとの接着性を更に高めるために、または架橋度を調整する目的等でブロックドイソシアネート化合物やエポキシ化合物を配合しても良い。ブロックドイソシアネート化合物および/またはエポキシ化合物を添加する場合の添加量は、RFL接着剤100重量部に対して5〜25重量部が好ましい。
【0022】
ブロックドイソシアネート化合物とは、イソシアネート化合物とブロック化剤との付加化合物であり、接着処理剤を繊維に付与した後の熱処理工程での加熱によってブロック成分が遊離して、活性なイソシアネート化合物を生じるものである。通常、イソシアネート化合物は化学的に非常に活性であるため水中には安定して存在できず、非水系の有機溶媒を用いないと濃度調整等が行えない。しかし、例えばフェノール類等でイソシアネート基をブロックしたものは水中でも安定して存在できるので、より広い範囲での使用が可能となる。したがって本発明においては、ブロックドイソシアネート化合物の方がイソシアネート化合物よりもより好ましい使用が可能である。
【0023】
イソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のイソシアネート、あるいはこれらのイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(−NCO)と水酸基(−OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネートが優れた性能を発現するので好ましい。
【0024】
ブロックドイソシアネート化合物のブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム類、および酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いられる接着処理剤としては界面活性剤を含まないものであることがより好ましい。界面活性剤は炭酸カルシウム粒子や接着剤成分を水に安定に分散させるためには有用であるものの、接着処理剤は多成分系の分散液であるため、界面活性剤によって接着処理剤の一部の成分あるいは全成分が沈降したり、ゲル化するおそれがあるためである。また、接着面では、界面活性剤により繊維/ゴム間の接着を阻害される場合があり、特に80℃以上の高温雰囲気下における耐熱接着においては、その影響が生じやすい。
【0026】
ゴム補強用繊維における接着処理剤の繊維に対する固形分付着量は、0.1〜20重量%の範囲であることが好ましく、更には1〜15重量%の範囲であることがより好ましい。固形分付着量が0.1%を下回る場合には繊維/ゴム間の接着性能が十分に発現しない傾向にある。固形分付着量が20%以上になるとゴム補強用繊維の処理コストが高くなりすぎて不利となる傾向にある。
【0027】
また、本発明で用いる繊維が、その繊維表面にあらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与したものであり、その後接着処理剤を付与したものであることが好ましい。特に繊維が合成繊維である場合に有効である。繊維の前処理は繊維を紡糸した後に行なわれるが、撚糸を行う場合には撚糸の前後、いずれで行うことも可能である。しかし、撚糸前の無撚の状態で処理する方が繊維コード内部にまでエポキシ等の有効成分を浸透させることができ、より好ましい。この場合、例えば繊維の紡糸工程で紡糸油剤等と共に付与するなど、繊維を紡糸もしくは延伸する際に処理する方法を採用することができる。
【0028】
前処理としてのエポキシ処理で用いられるエポキシ化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するものであり、ポリエポキシ化合物、すなわちエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が、優れた性能を示すので特に好ましい。また、該化合物100gあたりに0.2モル相当分以上のエポキシ基を含有物であることが好ましい。繊維にあらかじめ付与されるエポキシ化合物の付着量は、繊維重量に対して0.01〜1重量%の範囲であることが好ましい。エポキシ化合物の付着量が多すぎると、繊維が硬くなりすぎて次工程以降の処理が困難になると共に、後の工程での処理剤の浸透性が低下するために接着性能が低下する傾向となる。
【0029】
また、繊維表面に処理剤が多層に付着するように、複数回の処理が行われている場合には、炭酸カルシウム粒子を含む接着処理剤がゴムと接する処理繊維の最外層に位置することが好ましい。炭酸カルシウム粒子がゴムとの接着におけるアンカー効果を発揮しやすいためである。
【0030】
また、もうひとつの本発明のゴム補強用繊維の製造方法は、繊維表面に、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムを含むゴム/繊維用の接着処理剤を付与し、乾燥する製造方法である。
【0031】
ここで用いられる繊維や接着処理剤としては前述の本発明のゴム補強用繊維に用いられたものが採用される。さらに使用される繊維としては、撚りをかけて生コードとしたものが好ましく、1回の撚糸で次の接着処理に進む(片撚り)場合には、撚り数は10cm当り10〜50回が、2回の撚糸(諸撚り)後に接着処理を行う場合には下撚りは10cm当り10〜50回、上撚りは20〜50回であることが好ましい。この生コードをそのまま、あるいは製織して生機(きばた)とした後に接着処理を行い、タイヤ、ホース、ベルト等に適したゴム補強用繊維が製造できる。
【0032】
本願の製造方法においては、炭酸カルシウム粒子の添加時期は特に限定されるものではないが、繊維に接着処理剤を付与する直前に炭酸カルシウム水分散液を添加したものであることが好ましい。すなわち、炭酸カルシウム粒子以外の成分のみからなる接着処理剤の原液を予め調製しておき、この接着処理剤原液に炭酸カルシウム粒子を添加して接着処理剤とする方法である。接着処理液原液に炭酸カルシウムを添加する際には、炭酸カルシウム粒子をあらかじめ水に分散させておくことが好ましい。その他、接着処理剤の調製中に炭酸カルシウム粒子をあらかじめ添加する方法も採用可能であるが、接着処理剤は多成分系の分散液であるため、わずかなことで影響を受けて分散系が不安定化し、沈殿物やゲル化を生じる傾向にある。
【0033】
また、接着処理剤の乾燥固形分重量に対する炭酸カルシウム粒子の割合は3〜50重量%、さらには5〜40重量%であることが好ましい。接着処理剤成分に対する炭酸カルシウム粒子割合が少なくなると、炭酸カルシウム粒子の効果が十分に発現しにくい傾向にある。逆に接着処理剤中の粒子成分が多すぎると、接着処理液の安定性に影響を及ぼして沈降やゲル化が生じる傾向にある。
【0034】
炭酸カルシウム粒子以外の成分のみからなる接着処理剤の原液としては、前述のレゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスからなるRFL接着剤であることが好ましい。ここで、レゾルシン/ホルマリン初期縮合物は、レゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させることにより作ることができる。レゾルシンとホルマリンの好ましいモル比は1:0.6〜1:3である。ゴムラテックスの種類としては、天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等を挙げることができる。この中でも特に、ビニルピリジン系単量体、スチレン系単量体、共役ジエン系単量体からなる三元共重合体ゴムラテックスが好ましい。ビニルピリジン系単量体としては2−ビニルピリジン、スチレン系単量体としてはスチレン、共役ジエン系単量体としては1,3−ブタジエンが例示される。また、上記三元共重合体の他に天然ゴムラテックス、スチレン/ブタジエン系ゴムラテックス、ポリブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、アクリロニトリル/ブタジエン系ゴムラテックス等単独あるいは併用して用いることもできる。レゾルシン/ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスの好ましい固形分重量比は1:3〜1:15、より好ましくは1:4〜1:12である。
【0035】
またRFL接着剤には、ゴムとの接着性を更に高めるために、または架橋度を調整する目的等でブロックドイソシアネート化合物やエポキシ化合物を配合しても良い。ブロックドイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートのような芳香族イソシアネートと、フェノール類、ラクタム類、オキシム類等のブロック化剤との付加物が例示される。エポキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が例示される。ブロックドイソシアネート化合物および/またはエポキシ化合物を添加する場合の添加量は、RFL接着剤100重量部に対して5〜25重量部が好ましい。
【0036】
RFL系の接着処理液は上記のように調液された後、15℃〜30℃の適当な温度で6時間〜48時間の適当な期間、熟成して通常使用される。温度や時間の設定は使用原料、目標とする接着処理剤の性能等に応じて決定される。
【0037】
本発明の接着処理剤中には炭酸カルシウムが添加されている。一般に炭酸カルシウムは親水性であり、水に対する分散性は高く、低濃度かつ単独の場合は、容易に水に溶解する。しかし、それでも粒子径が大きい場合には粒子は沈降する。本発明で使用する炭酸カルシウム粒子は、粒子径が0.05μm以上、10μm以下と微細なため、一般には水分散が可能であるが、本発明のように多成分系の分散液である接着処理剤中では、微妙なバランスで分散状態が保たれているため、より慎重な操作を行う必要がある。特に本発明で好ましく用いられるRFL接着剤は、調整後、長時間の熟成を必要とする接着剤にあっては、その環境によって分散状態が不安定化して沈降が生じたり、接着処理液がゲル化する傾向が高い。したがって本発明の製造方法においては、炭酸カルシウム粒子の添加時期としては、繊維に付与する直前に炭酸カルシウム粒子を添加して処理液とすることがより好ましい。繊維に対する含浸処理を開始した後は、処理繊維により含浸浴が攪拌されるため炭酸カルシウム粒子の沈降は生じにくいものの、より均一に処理するためには、繊維処理時にも、接着処理液の攪拌を行うことが好ましい。
【0038】
本発明のゴム補強用繊維の繊維に対する接着処理剤の固形分付着量は、0.1〜20重量%の範囲であることが好ましく、更には1〜15重量%の範囲であることがより好ましい。固形分付着量が0.1%を下回る場合には繊維/ゴム間の接着性能が十分に発現しない傾向にある。固形分付着量が20%以上になるとゴム補強用繊維の処理コストが高くなる。
【0039】
繊維への固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレーパー等による掻き落し、空気吹き付けによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段を採用しても良い。また、付着量を上げるため、もしくは均一性を確保するために複数回付着処理を行うことも好ましい。
【0040】
その後、本発明の製造方法ではその含浸処理繊維を乾燥処理、熱処理を行う。処理条件としては、処理液を繊維に付与した後に80〜150℃で0.5〜5分間乾燥し、引き続いて170〜250℃で0.5〜5分間熱処理することが好ましい。熱処理温度が低すぎるとゴムとの接着が不十分となる傾向にあり、逆に高すぎると繊維が融着、溶融、硬化したり、強力が劣化するおそれがある。さらには、接着処理剤の付与、熱処理後にゴム補強用繊維をブレードのエッジ等で擦過することにより、柔軟化処理を行っても良い。
【0041】
また、接着剤処理する繊維は、あらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤を付与したものであることも好ましい。前処理剤としては前述のゴム補強用繊維に用いられたエポキシ化合物を用いることができ、前処理剤を付与後、乾燥、熱処理を行った後に接着剤処理を行うことができる。また、より接着力を向上させるために、エポキシ前処理剤に加えてさらに処理を行う、3浴処理法等の多段処理を行うこともできる。
【0042】
本発明のゴム補強用繊維は、上記のようなもう一つの本発明の製造方法によって得ることができる。このようにして得られたゴム補強用繊維は、炭酸カルシウム粒子がゴムとの界面に存在することによって繊維/ゴム間の接着性、特に高温雰囲気下におけるゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きが向上したものであり、タイヤ、ホース、ベルト等の分野で好適に使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例だけの限りではない。なお、実施例における特性の測定は次の測定法を用いて行った。
【0044】
(1)コード剥離接着(剥離接着力、ゴム付き)
処理コードとゴムとの剥離接着性能を示すものである。接着処理されたコードを未加硫ゴムに平行プライ(打込み本数24本/2.54cm(インチ))として埋め込み、所定の条件でプレス加硫して放冷後、両プライを所定の速度で剥離測定した。剥離接着力は両プライを剥離させるのに要した力をN/2.54cm(インチ)で示したものであり、ゴム付きはゴムから剥離したコード表面のゴムの付着率を目視観察して百分率で示したものである。
【0045】
(2)コード強力
インストロン試験機を用いて、JIS L 1017(1995年)に準拠して測定した。
【0046】
(3)接着処理剤付着量
JIS L 1017(1995年)に準拠して、ポリエステルは溶解法、芳香族ポリアミドは重量法で測定した。
【0047】
(4)炭酸カルシウム粒子の粒径測定(電子顕微鏡による直接法)
電子顕微鏡にて倍率1,000〜50,000倍で炭酸カルシウム粒子を撮影し、50個の粒子の平均直径を求めた。なお、粒子が球形ではなく得られた画像が真円ではない場合には、各粒子の写真のもっとも長い部分と、もっとも短い部分の平均をその直径とした。
【0048】
(5)炭酸カルシウム粒子の粒径測定(静的光散乱法、間接法)
炭酸カルシウム粒子を水に分散し、固形分濃度が2×10−6〜2×10−4重量%になるよう調製して試料液とした。この試料液を静的光散乱法を用いて20℃で測定した。データ解析にはキュムラント解析法を用いて平均粒子径を算出した。
【0049】
[炭酸カルシウム]
下記の炭酸カルシウムを使用した。
1)炭酸カルシウムA;沈降炭酸カルシウム、立方形、顕微鏡観察による粒子径0.2μm(静的光散乱法による粒子径0.7μm)、表面処理無し。
2)炭酸カルシウムB;沈降炭酸カルシウム、紡錘形、顕微鏡観察による粒子径1.5μm(静的光散乱法による粒子径0.7μm)、表面処理無し。
3)炭酸カルシウムC;表面処理炭酸カルシウム、紡錘形、顕微鏡観察による粒子径2.0μm(静的光散乱法による粒子径4.4μm)、シランカップリング剤による表面処理有り。
【0050】
[実施例1]
(前処理剤の調製)
735重量部の水に3重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌した。この液に固形分として86重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスを加えて混合した後、固形分として12重量部のε−カプロラクタムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合し、全体の固形分濃度が10重量%の前処理剤(第1処理液)を調製した。
【0051】
(接着処理剤の調製)
505重量部の水に、炭酸カルシウム粒子Aを30重量部加えてよく攪拌混合して炭酸カルシウム分散水を調製した。次に、調製した炭酸カルシウム分散水から150重量部を取り、少量の苛性ソーダとアンモニア水を加えて、更にレゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を固形分として12重量部加えて混合した。この混合液に、残りの炭酸カルシウム分散水を添加し、固形分換算で106重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと、46重量部のスチレン/ブタジエンラテックスとなるように、各ラテックスを乳化させた液を混合した後、更に6重量部のホルマリンと、27重量部のアルキルケトオキシムでブロックされた4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて混合し、最終的に炭酸カルシウム濃度が3重量%、それ以外の接着剤主成分の固形分濃度が20重量%となるように調整した。
その後、最終的に得られた混合液を20℃で48時間熟成して、実施例1に用いる接着処理剤(第2処理液)とした。
【0052】
(接着処理)
繊維としては、帝人ファイバー社製ポリエチレンテレフタレート繊維からなる1670dtex/384フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該糸を40T/10cmで下撚りした後に2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを用いた。
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記記載の前処理剤(第1処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、接着処理剤(第2処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して接着処理コードを得た。処理コードの前処理剤(第1処理液)、接着処理剤(第2処理液)の固形分付着量、及び得られたゴム補強用繊維の評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
[実施例2〜6]
使用した炭酸カルシウムの種類と接着処理液中の固形分濃度を表1に記載のものとした以外は、実施例1と同じく処理を行い、接着処理コードを得た。各処理コードの前処理剤(第1処理液)、接着処理剤(第2処理液)の固形分付着量、及び得られた各ゴム補強用繊維の評価結果を表1に併せて示す。
【0055】
[比較例1]
炭酸カルシウム粒子分散液の代わりに水を用いた以外は実施例1と同様にして、接着処理コードを得た。処理条件および評価結果を表1に併せて示す。
【0056】
[実施例7]
(前処理剤の調製)
978重量部の水に微量の苛性ソーダを加えた後、10重量部のソルビトールポリグリシジルエーテルを加えて、ホモミキサーを用いて攪拌し、全体の固形分濃度1重量%の前処理剤(第3処理液)とした。
【0057】
(接着処理剤の調製)
404部の接着処理剤調整水に少量のアンモニア水を加えた後、レゾルシン1モルに対してホルマリン0.6モルを反応させて得られた初期縮合物を、固形分として28重量部となるように混合した。得られた混合液に、固形分換算で163重量部のビニルピリジン/スチレン/ブタジエンラテックスと、6重量部のホルマリンを添加して混合した後、20℃で24時間熟成して接着処理剤のベース液を調製した。
この接着処理剤のベース液に、炭酸カルシウム粒子Aを予め20%濃度で水に分散した液を150部、接着処理剤の繊維への処理直前に添加し、接着処理液(第4処理液)とした。このものの繊維処理時の最終的な炭酸カルシウム濃度は3重量%、それ以外の接着剤主成分の固形分濃度は20重量%であった。
【0058】
(接着処理)
繊維としては、帝人テクノプロダクツ社製パラ系芳香族ポリアミド繊維からなる1680dtex/1000フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、該糸を40T/10cmで下撚りした後に2本合わせて40T/10cmの上撚りを施した生コードを用いた。
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリツラー社製)を用いて、上記前処理剤(第3処理液)に浸漬して130℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理した。次に、接着処理剤(第4処理液)に浸漬して170℃で2分間乾燥した後、240℃で1分間熱処理して接着処理コードを得た。処理コードの前処理剤(第3処理液)、接着処理剤(第4処理液)の固形分付着量、及び得られたゴム補強用繊維の評価結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[実施例8〜12]
使用した炭酸カルシウムの種類と接着処理液中の固形分濃度を表2に記載のものとなるように、接着処理剤調整水量と、炭酸カルシウム分散液添加量を調整した以外は、実施例7と同じ処理を行い、各接着処理コードを得た。各処理コードの前処理剤(第3処理液)、接着処理剤(第4処理液)の固形分付着量、及び得られた各ゴム補強用繊維の評価結果を表1に併せて示す。
【0061】
[比較例2]
炭酸カルシウム粒子分散液の代わりに水を用いた以外は実施例7と同様にして、接着処理コードを得た。処理条件および評価結果を表2に併せて示す。
【0062】
表1および表2に示したように、本実施例のゴム補強用繊維は接着処理剤中に炭酸カルシウム粒子を配合したことによって、室温だけでなく高温雰囲気下においても優れたゴムとの接着性、具体的には剥離接着力および剥離のゴム付きを示した。しかも、繊維が従来有する強力は損なわれていなかった。得られたゴム補強用繊維はタイヤ、ホース、ベルト等の分野で好適に使用できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面にゴム/繊維用の接着処理剤が付与されたゴム補強用繊維であって、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムが、該接着剤成分中に存在していることを特徴とするゴム補強用繊維。
【請求項2】
炭酸カルシウムが沈降炭酸カルシウムである請求項1記載のゴム補強用繊維。
【請求項3】
炭酸カルシウムがシランカップリング剤で表面処理されたものである請求項1または2記載のゴム補強用繊維。
【請求項4】
繊維がポリエステル繊維または芳香族ポリアミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項5】
接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項6】
繊維があらかじめエポキシ化合物を含む前処理剤が付与されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項7】
繊維重量に対する炭酸カルシウムの付着割合が0.1〜5重量%である請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用繊維。
【請求項8】
繊維表面に、粒子径0.05μm〜10μmの炭酸カルシウムを含むゴム/繊維用の接着処理剤を付与し、乾燥することを特徴とするゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項9】
接着処理剤が、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着剤である請求項8記載のゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項10】
接着処理剤が、繊維に接着処理剤を付与する直前に炭酸カルシウム水分散液を添加したものである請求項8または9記載のゴム補強用繊維の製造方法。
【請求項11】
繊維に接着処理剤を付与する前に、あらかじめ繊維がエポキシ化合物を主とする前処理剤を付与されたものである請求項8〜10のいずれか1項記載のゴム補強用繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−275303(P2009−275303A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125850(P2008−125850)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】