説明

ゴム質含有熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐衝撃性と流動性のバランスなどに優れたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物、特に好適にはゴム強化スチレン系透明熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系単量体混合物(a)を、多官能型連鎖移動剤(d)を用いて共重合してなる共重合体で、下記の式(1)で示される分岐パラメーターgが0.8以上1.0未満であるビニル系共重合体(A)10〜95重量部、およびゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部を含むものである。分岐パラメーターg=[η]branch/[η]linear(1)(式中、[η]branchはビニル系共重合体(A)の固有粘度を表し、[η]linearはビニル系共重合体(A)と同一の重量平均分子量の直鎖状ポリマーの固有粘度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度と流動性のバランスに優れたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴム等のゴム質重合体に、スチレンやα−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル、あるいはアクリロニトリルやメタアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などのビニル系単量体をグラフト共重合して得られるゴム質含有グラフト共重合体を含有するゴム強化(ゴム質含有)スチレン系熱可塑性樹脂は、OA機器、家電製品および一般雑貨等の種々の用途に幅広く利用されている。近年、これらのゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂は、その用途の多様化に伴って、機械的強度および成形性の向上が強く求められてくるようになってきた。
【0003】
ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂の機械的強度を向上させる方法として、ジエン系ゴム熱可塑性樹脂中のゴム含有率を増加する提案や、ゴムのグラフト鎖や粒径を大きくするという提案は数多く存在する(特許文献1参照。)。また、コンパウンド押出時に熱可塑性樹脂と架橋剤を混合し、押出することにより耐衝撃性を向上させた熱可塑性樹脂組成物も提案されている(特許文献2および特許文献3参照。)。しかしながら、これらの提案の場合、加工時あるいは使用時において、熱可塑性樹脂組成物からの架橋剤のブリードアウトによる性能の劣化や金型汚れが問題となっている。
【0004】
このように、熱可塑性樹脂に関し、ゴム成分の改良や成分配合時の衝撃性改良手法は開発範囲も広く多方面で検討されているが、マトリックス側の樹脂についての検討は少なく十分に技術確立されていない。例えば、マトリックス側の樹脂の改質としては、分子量や分子量分布を制御する方法が考えられるが、この方法は分子量を増加させると流動性の低下をもたらし、また分子量を小さくすると耐衝撃性や剛性が低下するという問題がある。すなわち、ゴム質含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物において、機械的強度と流動性の両物性を向上することは非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−299044号公報
【特許文献2】特開平10―330425号公報
【特許文献3】特開2005−89659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、機械的強度と流動性のバランスに優れたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決する手段として、分岐構造を有するビニル系共重合体中に、ゴム質含有グラフト共重合体を分散させることにより、耐衝撃性と流動性に優れたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系単量体混合物(a)を、多官能型連鎖移動剤(d)を用いて共重合してなる共重合体であって、かつ、下記の式(1)で示される分岐パラメーターgが0.8以上1.0未満であるビニル系共重合体(A)10〜95重量部、およびゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部を含むことを特徴とするゴム質含有熱可塑性樹脂組成物である。
分岐パラメーターg=[η]branch/[η]linear (1)
(式中、[η]branchはビニル系共重合体(A)の固有粘度を表し、[η]linearはビニル系共重合体(A)と同一の重量平均分子量の直鎖状ポリマーの固有粘度を表す。)。
【0009】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のビニル系単量体混合物(a)を構成する単量体成分は、芳香族ビニル系単量体(a1)20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)0〜60重量%、および不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)0〜80重量%(ただし、(a1)+(a2)+(a3)=100重量%である)からなり、更に前記のビニル系単量体混合物(a)100重量部、すなわち前記の(a1)、(a2)および(a3)の合計100重量部に対し、前記の多官能連鎖移動剤(d)を0.001〜3重量部添加するものである。
【0010】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物においては、前記のビニル系共重合体(A)の共重合において、前記の多官能連鎖移動剤(d)に加えて、さらに重合開始剤として多官能型の有機過酸化物あるいは分岐導入剤として多官能ビニル化合物を用いて共重合すること、および前記のビニル系共重合体(A)の重量平均分子量が7万〜30万であることが、いずれも好ましい態様として挙げられ、これらの態様を満たす場合にはさらに優れた効果の取得を期待することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械的強度と流動性のバランスに優れたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物が得られ、このゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【0012】
また、本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、射出成形で用いられる高剪断速度域において、流動性に特に優れているので、容易に樹脂が金型末端まで充填され、ジェッティング、フローマークおよびウェルドラインなどの不良現象も出にくく、ショット毎に品質のバラつきもなく、成形温度範囲も広くとれるなどの利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系単量体混合物(a)を、多官能型連鎖移動剤(d)を用いて共重合してなる共重合体であって、かつ、下記の式(1)で示される分岐パラメーターgが0.8以上1.0未満であるビニル系共重合体(A)10〜95重量部、およびゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部からなる熱可塑性樹脂組成物である。
分岐パラメーターg=[η]branch/[η]linear (1)
(式中、[η]branchはビニル系共重合体(A)の固有粘度を表し、[η]linearはビニル系共重合体(A)と同一の重量平均分子量の直鎖状ポリマーの固有粘度を表す。)。
【0014】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系単量体混合物(a)を構成する単量体成分は、好適には、芳香族ビニル系単量体(a1)20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)0〜60重量%、および不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)0〜80重量%(ただし、(a1)+(a2)+(a3)=100重量%である)からなるものであり、更に好適には、前記の(a1)、(a2)および(a3)の合計100重量部に対し、多官能型連鎖移動剤(d)を0.001〜3重量部添加するものである。
【0015】
本発明で用いられる芳香族ビニル系単量体(a1)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレン等が挙げられるが、特にスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
本発明で用いられるシアン化ビニル系単量体(a2)の具体例としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明で用いられる不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等が挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
本発明で用いられる多官能型連鎖移動剤(d)には、多官能メルカプタンを使用することも可能である。その具体例としては、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネートなどエチレングリコールチオカルボン酸ジエステル、ジメチロールプロパンビスチオグリコレート、ジメチロールプロパンビスチオプロピオネート、ジメチロールプロパンビスチオブタネートなどのジメチロールプロパンチオカルボン酸ジエステルなどのジオールチオカルボン酸ジエステルなどの2官能メルカプタン化合物、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチルールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオブタネート、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオールなどの3官能基メルカプタン化合物、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(4−メルカプトブタネート)、およびペンタエリストールテトラキス(6−メルカプトヘキサネート)などの4官能メルカプタン化合物が挙げられる。これらの多官能型連鎖移動剤を使用する場合、1種または2種以上を併用して使用される。なかでも、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートが特に好ましく用いられる。
【0019】
多官能型連鎖移動剤(d)の添加量は、前記の(a1)+(a2)+(a3)=100重量部に対して、0.001〜3重量部にあることが好ましい。多官能型連鎖移動剤(d)の添加量が0.001重量部未満では、目的とするゴム質含有熱可塑性樹脂組成物の機械的強度は必ずしも十分ではなく、また添加量が3重量部を超えると、機械的強度が著しく低下する傾向を示す。多官能型連鎖移動剤(d)の割合は、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0020】
本発明では、ビニル系共重合体(A)の共重合において、上記の多官能型連鎖移動剤(d)に加えて、さらに重合開始剤を用いることができる。本発明で用いられる重合開始剤としては、多官能型の有機過酸化物またはアゾ系化合物などが好ましく用いられる。
【0021】
多官能型の有機過酸化物の具体例としては、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレートなどのパーオキシケタール類、p−メンタハイドロパーオサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサンー2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類、デカノイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどの単官能または2官能過酸化物、トリス(t−ブチルパーオキシ)トリアジン、トリス(t−アミルパーオキシ)トリアジン、トリス(ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)トリアジン、トリス(ジクミルパーオキシシクロヘキシル)トリアジンなどの3官能過酸化物、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ヘキシルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカーボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−アミルパーオキシカーボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ヘキシルパーオキシカーボニル)ベンゾフェノン、および3,3’,4,4’−テトラ(t−クミルパーオキシカーボニル)ベンゾフェノンなどの4官能過酸化物が挙げられる。
【0022】
また、アゾ系化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1′−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−1−シアノシクロヘキサン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、および2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。これらの開始剤を使用する場合、1種または2種以上を併用して使用される。なかでも、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、および2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパンが特に好ましく用いられる。
【0023】
重合開始剤の添加量は、前記の(a1)+(a2)+(a3)=100重量部に対して、0.0001〜0.1重量部であることが好ましい。重合開始剤の添加量が0.0001重量部未満では、重合速度の低下に繋がり、また添加量が0.1重量部を超えると、ラジカル量が過剰となるため分子量の制御が困難になる傾向を示す。
【0024】
本発明では、ビニル系共重合体(A)の共重合において、上記の多官能型連鎖移動剤(d)に加えて、さらに多官能ビニル化合物を用いることができる。
【0025】
本発明で用いられる多官能ビニル化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレートなどの二官能性の(メタ)アクリロイル基を含有するモノマーや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの三官能性の(メタ)アクリロイル基を含有するモノマーや、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレートなどの四官能性の(メタ)アクリロイル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0026】
また、芳香族ジビニル化合物としてジビニルベンゼンなどが挙げられ、芳香族ジアリル化合物の例としてはジアリルフタレートなどが挙げられる。その他の多官能モノマーとして、ビスマレイミドやアリル(メタ)アクリレートなども挙げることができる。これらを使用する場合、1種または2種以上を併用して使用される。なかでも、ジビニルベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0027】
多官能ビニル化合物の添加量は、前記の(a1)+(a2)+(a3)=100重量部に対して、0.0001〜0.1重量部にあることが好ましい。多官能ビニル化合物の添加量が0.0001重量部未満では、分岐導入剤としての十分な効果が得られず、また添加量が0.1重量部を超えると、3次元的な架橋(ゲル化)を引き起こすために反応を制御することが非常に困難になる傾向を示す。
【0028】
本発明で用いられるビニル系共重合体(A)は、前記の多官能型連鎖移動剤(d)と、必要に応じて重合開始剤と分岐導入剤の存在の下、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法および連続溶液重合法等の任意の方法により製造されるが、組成分布を狭くするためには、水系懸濁重合法、連続塊状重合法および連続溶液重合法が好ましく用いられる。
【0029】
ビニル系共重合体(A)を製造する工程において、本発明の前半の工程、すなわち芳香族ビニル系単量体(a1)20〜100重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)0〜60重量%、および不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)0〜80重量%からなる単量体混合物を連続塊状重合させる工程における連続塊状重合方法に制限はなく、どのような連続塊状重合法も採用可能である。例えば、重合槽で重合した後、脱モノマー(脱気)する方法などが知られている。重合槽としては、各種の撹拌翼、例えば、パドル翼、タービン翼、プロペラ翼、ブルマージン翼、多段翼、アンカー翼、マックスブレンド翼およびダブルヘリカル翼などを有する混合タイプの重合槽、または各種の塔式の反応器などを使用することができる。さらにまた、多管反応器、ニーダー式反応器および二軸押出機などを重合反応器として使用することもできる(例えば、高分子製造プロセスのアセスメント10「耐衝撃性ポリスチレンのアセスメント」:高分子学会、1989年1月26日など。)。これら重合槽類(反応器)は、1基(槽)または2基(槽)以上で使用し、また必要に応じて2種類以上の反応器を組み合わせても使用できる。
【0030】
これらの重合槽または反応器で重合したビニル系共重合体(A)の反応混合物は、通常、次に脱モノマー工程に供され、モノマーその他の揮発成分が除去される。脱モノマーの方法としては、ベントを有する一軸または二軸の押出機で加熱下常圧または減圧でベント穴より揮発成分を除去する方法、遠心型などのプレートフィン型加熱器をドラムに内蔵する蒸発器で揮発成分を除去する方法、遠心型などの薄膜蒸発器で揮発成分を除去する方法、および多管式熱交換器を用いて余熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法などがあり、いずれの方法も使用できるが、特にベントを有する一軸または二軸の押出機が好ましく用いられる。
【0031】
本発明により得られたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は7万〜30万であることが好ましい。ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が7万未満では機械的強度が悪くなり、また30万を超えると流動性が悪くなる傾向を示す。ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは8万〜25万である。このようなビニル系共重合体は、流動性および機械的強度のバランスに優れる。
【0032】
本発明により得られたゴム質含有熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(A)の分岐構造の有無の確認には、前記の式(1)で示される分岐パラメーターg(=[η]branch/[η]linear)を用いた。ここで、[η]branchは、分岐構造を有すると考えられるポリマーの固有粘度であり、[η]linearは、分岐ポリマーと同一の重量平均分子量を有する直鎖状ポリマーの固有粘度である。
【0033】
分岐構造を有するポリマー分子の場合、その広がりが直鎖状ポリマー分子よりも小さくなっているため、分岐ポリマーの固有粘度は直鎖状ポリマーより小さく観測される。本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(A)の分岐パラメーターgは0.8以上1.0未満であることが重要である。分岐パラメーターgが0.8未満では流動性が悪くなり、また分岐パラメーターgが1.0を超えると機械的強度が悪くなる。分岐パラメーターgは、好ましくは0.85〜0.99である。このようなビニル系共重合体は、流動性および機械的強度のバランスに優れている。
【0034】
本発明におけるゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが挙げられる。これらのゴム質重合体(b)は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでも、耐衝撃性改善効果の点から、ポリブタジエンとスチレン−ブタジエン共重合ゴムが特に好ましく用いられる。
【0035】
このゴム質含有グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体(b)の存在下に、ビニル系単量体混合物(c)をグラフト共重合してなるものであるが、ビニル系単量体混合物(c)の全量がグラフトしている必要はなく、通常はグラフトしていない共重合体との混合物として得られたものを使用する。ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率は、耐衝撃性の点から好ましくは5〜150重量%であり、より好ましくは10〜100重量%である。
【0036】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)は、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法および連続溶液重合法等の任意の方法により製造することができ、好ましくは乳化重合法で製造される。次に、凝固剤を添加してラテックス分を凝固させた後、ゴム質含有グラフト共重合体(B)を回収する。
【0037】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系共重合体(A)とゴム質含有グラフト共重合体(B)を、例えば、バンバリミキサー、ロール、エクストルーダーおよびニーダーなどで溶融混練することによって製造することができる。耐衝撃性と剛性との物性バランスなどから、ビニル系共重合体(A)10〜95重量部にゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部を添加することが好ましく、より好ましくは共重合体(A)20〜80重量部にゴム質含有グラフト共重合体(B)80〜20重量部を添加することが望ましい。
【0038】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、および各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することもできる。また、必要に応じて、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤、含硫黄有機化合物系の酸化防止剤および含リン有機化合物系の酸化防止剤等の酸化防止剤、フェノール系の熱安定剤やアクリレート系の熱安定剤等の熱安定剤、有機ニッケル系の光安定剤やヒンダードアミン系の光安定剤等の各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類や高級脂肪酸アミド類等の滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマーおよび臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物や三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、帯電防止剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料等を添加することもできる。更に、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維および金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【実施例】
【0039】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物をさらに具体的に説明するため、次に実施例を挙げて説明するが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。ここで特に断りのない限り「%」は重量%を表し、「部」は重量部を意味する。
【0040】
ゴム質含有熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性の分析方法は、次のとおりである。
【0041】
(1)ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量:
温度を25℃とし、溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用い、サンプル濃度を0.1重量%として、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)法でビニル系共重合体(A)の重量平均分子量を求めた。
【0042】
(2)ビニル系共重合体(A)の固有粘度[η]:
80℃の温度で4時間真空乾燥したビニル系共重合体(A)を、メチルエチルケトンに溶解し、0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃の温度で固有粘度[η]を測定した。
【0043】
(3)分岐パラメーターg:
次式(1)により求めた。
分岐パラメーターg=[η]branch/[η]linear (1)
ここで、[η]branchは分岐ポリマーの固有粘度であり、[η]linearは分岐ポリマーと同一の重量平均分子量を有する直鎖状ポリマーの固有粘度である。直鎖型ポリマーの固有粘度[η]linearは、次のように算出した。単官能型連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)と単官能型開始剤(1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン)を用いて重合したポリマーの固有粘度[η]と重量平均分子量Mwを測定し、[η]=a×Mw(aとbは定数)をもとに近似曲線を作成した。この近似式に、分岐ポリマーの重量平均分子量を代入し、[η]linearを算出した。
【0044】
(4)ゴム質含有熱可塑性樹脂組成物のシャルピー衝撃強度:
ISO 178(温度23℃、Vノッチ付き)により測定した。
【0045】
(5)ゴム質含有熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR):
ISO 1133(温度220℃、98N荷重)により測定した。
【0046】
(参考例1)
<グラフト共重合体(B)の調製>
・B−1:ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水180部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄0.01部およびリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃の温度に温調し、この混合物に、撹拌下、スチレン38.5部、アクリロニトリル11.5部、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(以下、ペンゾトリアゾール(A)と略す。)0.05部およびn−ドデシルメルカプタン0.3部の混合物を、4時間かけて連続滴下した。同時に並行して、クメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるオレイン酸ナトリウム2.5部および純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持してグラフト共重合を終了させた。
【0047】
グラフト共重合を終了して得られたラテックス状生成物を、硫酸1.0部を加えた95℃の温度の水2000部中に、撹拌しながら注いで凝固させ、次いで水酸化ナトリウム0.8部で中和して凝固スラリーを得た。これを遠心分離した後、40℃の温度の水2000部中で5分間洗浄し遠心分離し、60℃の温度の熱風乾燥機中で12時間乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(B−1)(グラフト率35%)を調製した。
【0048】
・B−2:ポリブタジエンラテックス50部(固形分換算)、スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部としたこと以外は、上記のB−1と同様の方法で重合・凝固・中和・洗浄・乾燥・分離して、グラフト共重合体(B−2)(グラフト率40%)を調製した。
【0049】
[実施例1]
単量体蒸気の蒸発還流用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2mの完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機および脱モノマー機の先端から1/3長のバレル部にタンデムに接続した加熱装置を有する2軸押出機型フィーダーとからなる連続式塊状重合装置を用いて、次のように、共重合と樹脂成分の混合を実施した。
【0050】
まず、スチレン70.0部、アクリロニトリル30.0部、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート0.5部、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01部からなる単量体混合物を、150kg/時で重合槽に連続的に供給し、重合温度130℃、槽内圧0.08MPaに保って連続塊状重合させた。重合槽出における重合反応混合物の重合率は、74〜76%の間に制御した。
【0051】
得られた重合反応生成物を、二軸押出機型脱モノマー機により未反応モノマーをベント口より減圧蒸留回収して、見かけの重合率を99%以上にしてストランド状に吐出してカッターによりペレット化しビニル系共重合体(A−1)を得た。
【0052】
得られたビニル系共重合体(A−1)を250kg/hで供給し、参考例1で製造したグラフト共重合体(B−1)を70.5/29.5の割合でドライブレンドした後、押出して樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られたスチレン系樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0053】
[実施例2]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン70.0部、アクリロニトリル30.0部、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート0.5部、および2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン0.0085部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0054】
[実施例3]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン70.0部、アクリロニトリル30.0部、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート0.5部、2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン0.0085部、およびジビニルベンゼン0.02部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0055】
[実施例4]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン23.0部、アクリロニトリル8.0部、メタクリル酸メチル69.0部、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート0.5部、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01部を用いて共重合体を製造し、グラフト共重合体(B−2)を利用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0056】
[実施例5]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン23.0部、アクリロニトリル8.0部、メタクリル酸メチル69.0部、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート0.5部、2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン0.0085部、およびジビニルベンゼン0.02部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0057】
[比較例1]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン70.0部、アクリロニトリル30.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0058】
[比較例2]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン70.0部、アクリロニトリル30.0部、n−オクチルメルカプタン0.23部、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0059】
[比較例3]
重合槽に連続供給する単量体成分として、スチレン23.0部、アクリロニトリル8.0部、メタクリル酸メチル69.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部、および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01部を用いて共重合体を製造したこと以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。用いた成分と組成割合を表1に、得られた樹脂組成物の特性評価結果を表2に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜実施例5のとおり、本発明で特定したゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性および流動性において物性バランスが良く優れたものであった。しかしながら、比較例1〜3で得られた熱可塑性樹脂組成物は分岐パラメーターgが1.0以上であったために、比較例1はシャルピー衝撃強度が同等である実施例1〜3に対し流動性が劣り、また比較例2はメルトフローレート(MFR)が同等である実施例1〜3に対し耐衝撃性が劣り、比較例3で得られた熱可塑性樹脂組成物は実施例4〜5に対し耐衝撃性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性と流動性の物性バランスに優れていることから、OA機器、家電製品および一般雑貨等の種々の用途等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体混合物(a)を、多官能型連鎖移動剤(d)を用いて共重合してなる共重合体であって、かつ、下記の式(1)で示される分岐パラメーターgが0.8以上1.0未満であるビニル系共重合体(A)10〜95重量部、およびゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体混合物(c)をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)90〜5重量部を含むことを特徴とするゴム質含有熱可塑性樹脂組成物。
分岐パラメーターg=[η]branch/[η]linear (1)
(式中、[η]branchはビニル系共重合体(A)の固有粘度を表し、[η]linearはビニル系共重合体(A)と同一の重量平均分子量の直鎖状ポリマーの固有粘度を表す。)
【請求項2】
ビニル系単量体混合物(a)が、芳香族ビニル系単量体(a1)20〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(a2)0〜60重量%、および不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a3)0〜80重量%(ただし、(a1)+(a2)+(a3)=100重量%である)からなり、更に多官能連鎖移動剤(d)の添加量が該ビニル系単量体混合物(a)100重量部に対し、0.001〜3重量部であることを特徴とする請求項1記載のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ビニル系共重合体(A)の共重合において、多官能連鎖移動剤(d)に加えて、さらに重合開始剤として多官能型の開始剤有機過酸化物あるいは分岐導入剤として多官能ビニル化合物を用いて共重合することを特徴とする請求項1または2記載のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ビニル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が7万〜30万である請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム質含有熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−235648(P2010−235648A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81917(P2009−81917)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】