説明

ゴルフクラブとその製造方法

【課題】フェース部の反撥エリアを下方向にずらしたゴルフクラブとそのゴルフクラブの製造方法の提供。
【解決手段】打撃面を有するフェース部4のスイートエリア9を下方向にずらすため、クラウン部2に時効硬化処理を施し、剛性、強度及び硬度のいずれか1以上の機械的材質を意図的に高める構造にした。スイートエリア9が下方向にずれたことで、結果的に下方向にずれた位置での反撥効果が向上し、フェース部4の下方向にずれた位置であっても上部位置同様に飛距離が低下することなく打撃することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブとその製造方法に関する。更に詳しくは、クラウン部の剛性、強度、硬度を高め反撥効果を向上させたゴルフクラブとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブは、飛距離を延ばすため、あるいは安定した打撃が行えるように種々改良がなされている。飛距離はスコアの良否に直接影響するので、ゴルフクラブのヘッドにおける打撃点の有効範囲が広くなるとか、あるいは打撃点の有効範囲の位置を変えられると、飛距離が延びるようになり有利になる。ゴルフクラブの打撃面は、フェース面と称されて、使用者は、通常はどのような条件であってもこのフェース面を外れて打撃しようとはしない。
一方、近年スイートエリアの面積の増大を狙ってクラブヘッドが大容量化しており、この結果、フェース部の反撥力を大きくする効果にもつながる。このクラブヘッド容量の大容量化は、クラブヘッドの重心が高くなることでもある。このために、スイートエリアの中心部がフェース面の上方に位置することになる。この対策として、ソール部にウェイトを配置する等の方法でクラブヘッドの重心を下げることが行われているが、この方法はクラブヘッドの重量が重くなり軽量化の要請に反する。
【0003】
スイートエリアと称される打撃位置は、重心点近傍にあって、最も飛距離を出し、有効に打撃できるエリアとなっている。このため、ヘッドがもつ最大の反撥を生かし、飛距離を得ようとするならば、従来構成のゴルフクラブにおいて、通常フェース中心部より上方のスイートエリアで打撃しなければならない。しかし、ときには上方のスイートエリアを外れて打撃する場合がある。例えば、向かい風(アゲインスト)の中では、通常に打つとボールが高く上がり風に煽られて飛距離が伸びないので、低い球筋になるように打撃する。この場合、打撃点位置は、フェース面の下方向にずれた位置となる。
【0004】
しかし、これでは反撥力が低下し飛距離はスイートエリアでの好位置での打撃に比し伸びないことになる。これは、前述のように重心点がフェース面の上方にずれた位置にあるため、即ち、高反撥エリアであるスイートエリアが重心近傍にあるため、このスイートエリアからはずれると、反撥力が低下してしまうからである。スイートエリアの反撥効果を高める技術としては、種々の提案がなされている。
例えばクラウン部に何らかの処置を行った例では、クラウン部にトウ側サイド部からヒール側サイド部に向かって複数本の溝を設けて、打ち出し角度を高くし飛距離を増大させるようにしたもの(特許文献1参照)、又、クラウン部にフェース部に沿って延長するスリットを設け、このスリットに繊維強化プラスチックを補強材として閉塞させ、反撥性を改善し飛距離を増大させるもの(特許文献2参照)がある。
【0005】
更にクラウン部の中央近辺に孔部を形成し、この孔部をヘッド本体と異なる材料からなるカバー材で閉塞しこのヘッド本体のフェース部に繊維強化プラスチックからなる補強材を積層して、耐久性を維持しながら反撥性を高くするもの(特許文献3参照)、更に異種素材を複合させた例として、ネック部(ホーゼル部)、フェース部、ソール部、クラウン部及びサイド部の少なくとも1ヶ所に、ヘッド全体での質量比率が4%以上となる繊維強化プラスチックを使用し、残部を金属から構成し、振動減衰性と心地よい打音の両方を兼ね備えるようにしたもの(特許文献4参照)等が知られている。
【0006】
これらの従来の例は、いずれもクラウン部に何らかの処置を施しソール部に比し相対的に強さを変えてフェース部のクラウン部側を意図的に撓わませるようにして反撥性を高め、ボールを遠くに飛ばすことを前提にしている。この構成はフェース部の上部側にスイートエリアが寄る傾向にあり、フェース部の上部で打撃するとその効果が生じる。この打撃は通常プロゴルファーを対象にしている。しかし、ゴルファーはプロゴルファーだけでなくアマチュアゴルファーも多い。アマチュアゴルファーもある程度の技量は有しているが、打撃点が安定していない傾向がある。
【0007】
従って、打撃点がフェース部の下方向にずれた位置に寄ってしまうことも多い。フェース部の下部側で打撃することは、前述のようにプロゴルファーであっても行うことがある。すなわち、向かい風(アゲインスト)のような場合に低い球筋で打撃するときに行う。このようなゴルフクラブの使用形態から、ゴルフクラブの性能としては、フェース部のどの位置であっても飛距離が延びるものが望まれていて、たとえフェース部の下方向にずれた位置であっても上部同様に従来のスイートエリアに匹敵する反撥力が求められる。
【0008】
これを解決するための方法も種々提案されているが、これを満足させる技術は確立されていない。同一出願人はこれを解決する方法の1つとして、ソール部を改良してスイートエリア下部で打撃しても飛距離低下にならないゴルフクラブを提案している。この技術は、ソール部の一部を変形させた構成のものである。
以上は、反撥効果を向上させるための技術であるが、逆に矛盾するようであるが、ルールの上限の制約を考慮して反撥係数を下げる技術も提案されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2003−88601号公報
【特許文献2】特開2003−210621号公報
【特許文献3】特開2003−250933号公報
【特許文献4】特開2003−199848号公報
【特許文献5】特開2004−49734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、ゴルフクラブにおいて飛距離を延ばすための工夫は種々なされているが、現状において必ずしも満足できる状態ではない。特にスイートエリアを拡大する点において、あるいは下方向にスイートエリアをずらす等においては、更に改良の余地がある。特にゴルフクラブ製作に当たり諸々の制約条件があるが、この制約条件の範囲内であっても、尚一層通常の打撃で飛距離を延ばせるゴルフクラブの開発が望まれている。
【0010】
従来は前述のようにクラウン部に種々の変形を加えること、逆にソール部側に変形を加えること等が種々試みられているが、フェース部上部側の反撥性を向上させるのにはそれなりの効果はあるものの、フェース部下部側に効果を及ぼすまでには至っていない。これら従来の方法は確実性にまだ難点があり、又、中にはかえって剛性等を低くしてしまう難点もあり、必ずしも全てが満足できるものではなかった。更に、ゴルフ業界は元来伝統を重視する世界である。
ヘッドの形状、重さ等が従来と大きく変わることは、スイング等を変えねばならない等ゴルフ打撃のリズムを壊し弊害も生じるのである。又、仮に画期的なものが開発されたとしても実地の上で定着するためには長期間を要することになる。従って、現状定着しているゴルフクラブにおいて、形状的には大きく変更されることは、様々な支障が生じるので、現状の形状を大きく変えず、できれば形状を全く変えず機能向上がなされ、ゴルファーを満足させるところのゴルフクラブの開発がなされれば理想的である。
【0011】
次に、ヘッドの材質を変えたゴルフクラブの構成も種々提案されているが、現状のゴルフクラブに適用された構成例として、クラウン部、ホーゼル部等の部位を部位別に異なる材質の金属を適用するもの、又、補強材として異なる材質の金属を溶接により接合する構成のもの等が知られている。現状は前述のように理想的なゴルフクラブとしての形態のものはない。従って、従来の形状と大きく異なることなく、又、反撥エリアの拡大あるいは反撥エリアをずらす等がなされ、フェース部のどの位置で打撃しても安定して飛距離の延ばせるゴルフクラブの開発が望まれている。同一出願人はこれらの問題点を解決すべく様々なテストを行い改良している。
【0012】
その結果、傾向としてクラウン部の剛性等をソール部に比し弱めている現状のゴルフクラブは、総じて高反撥エリアがフェース部のクラウン部よりにずれていることを確認している。このようにクラウン部側に限定されると、ゴルファーとしてはスイートエリアが狭くなることになり、飛距離を延ばすためには打撃点の範囲が狭く、難しいスイングを要求されることになる。本発明はこの従来の考えを変え、逆にクラウン部を剛性、強度を強くあるいは硬度の高いものとし、ソール部側にスイートエリア位置を調整して、その位置を意図的にずらすようにしたものである。
【0013】
又、以上説明した内容に矛盾するようであり、また本発明の目的とは相違するが、前述のように反撥効果を抑制する技術も提案されていて、この技術の例は、既存のゴルフクラブのヘッドを熱処理して時効硬化させるものである。フェース部に適用され、時効硬化によりフェース部を硬化させて反撥係数を意図的に小さくするようにしたものである。
【0014】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、クラウン部の剛性、強度、又は硬度をソール部の剛性、強度、又は硬度より相対的に高めて反撥効果を向上させたゴルフクラブとその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、基本形状が従来と全く変わらない形状のもとで飛距離を延ばせるように構成したゴルフクラブとその製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、低コストで生産することできるゴルフクラブとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記目的を達成するため次の手段を採る。
本発明1のゴルフクラブは、金属製中空ゴルフクラブヘッドの前面に配置され、ゴルフボールを打撃するための打撃面を有するフェース部と、前記フェース部以外を構成するボディ部からなり、前記ボディ部は、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの下部を形成するソール部と、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの上部を形成するクラウン部とからなり、前記クラウン部は、前記ソール部に対して剛性、強度及び硬度のいずれか1以上の機械的材質を意図的に高めた構造であることを特徴とする。
更に詳述すると、金属製中空ゴルフクラブヘッドに配置され、ゴルフボールを打撃するための打撃面を有するフェース部と、前記フェース部以外の部位を構成し前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの下部を形成するソール部と、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの上部を形成するクラウン部と、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの前部を形成するトウ部と、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの後部を形成するヒール部と、前記フェース部に対向して反対側に位置し前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの後方部を形成するバック部と、シャフトが接続されるホーゼル部とを含むボディ部からなるゴルフクラブにおいて、前記ボディ部の前記クラウン部を前記ソール部に対して相対的に剛性、強度、又は硬度を高めるようにした。これにより、フェース部のスイートエリアを下方にずらすことができる。
【0016】
本発明でいう剛性とは、固体の一部に荷重が作用することにより、その荷重点に生じる変形量は弾性変形領域ではその荷重に比例し、この比例常数の逆数をいう。本発明でいう強度とは、引張り、圧縮、せん断、曲げ及びねじり等の材料力学的な応力をいう。本発明でいう硬度とは、ある物体を押付けたとき、抵抗力の大きさで表される量をいう。具体的には、静的押込みかたさ試験法としてブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、反撥硬さのショア硬さ等を意味する。
【0017】
本発明2のゴルフクラブは、本発明1において、前記金属は板材であり、前記クラウン部の前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の熱処理によって異ならせたものであることを特徴とする。
【0018】
本発明3のゴルフクラブは、本発明1又は2において、前記ボディ部は、前記ソール部、前記クラウン部、及びシャフトが接続されるホーゼル部を溶接により接合されたものであることを特徴とする。
【0019】
本発明4のゴルフクラブは、本発明3において、前記金属は板材であり、前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の材質が相違することにより異なるものであることを特徴とする。
【0020】
本発明5のゴルフクラブの製造方法は、金属製中空ゴルフクラブヘッドの前面に配置され、ゴルフボールを打撃するための打撃面を有するフェース部と、前記フェース部以外を構成するボディ部からなるゴルフクラブにおいて、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの下部を形成し前記ボディ部の一部位であるソール部に対し、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの上部を形成し前記ボディ部の一部位であるクラウン部を構成する金属の剛性、強度及び硬度のいずれか1以上の機械的材質を意図的に高めるように変えて、前記打撃面のスイートエリアの位置を調整することを特徴とする。
【0021】
本発明6のゴルフクラブの製造方法は、本発明5において、前記金属は板材であり、前記クラウン部の前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の熱処理によって異ならせる方法であることを特徴とする。
【0022】
本発明7のゴルフクラブの製造方法は、本発明5又は6において、前記ボディ部は、前記ソール部、前記クラウン部、及びシャフトが接続されるホーゼル部を溶接により接合することを特徴とする。
【0023】
本発明8のゴルフクラブの製造方法は、本発明7において、前記金属は板材であり、前記ソール部と前記クラウン部を構成する前記金属の材質を異ならせて前記剛性、強度及び硬度を異ならせることを特徴とする。
【0024】
本発明9のゴルフクラブの製造方法は、本発明7において、前記溶接による接合は、前記クラウン部のみを熱処理により硬化させ、その後前記フェース部及び前記ボディ部の前記各部位を溶接するようにしたことを特徴とする。
【0025】
本発明10のゴルフクラブの製造方法は、本発明9において、前記クラウン部の金属はβ型チタン合金を時効硬化させた金属の板材で、前記ソール部の金属は時効硬化させない他の金属の板材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上、詳記したように、本発明のゴルフクラブは、クラウン部の剛性、強度、硬度等をソール部に比し高くしたので、フェース部の反撥エリアの範囲が下方にずれるように調整される。結果的に下方にずれた位置での反撥効果が向上し、フェース部の下方にずれた位置(フェース部の下部位置)であっても上部位置同様に飛距離が低下することなくゴルフボールを遠くへ飛ばすことができるようになった。
【0027】
又、基本形状が従来と全く変わらず、金属の剛性、強度、硬度等を変えただけなので、アドレスしたとき、プレーヤーからみると、外観上は従来と全く変わらない形態で、従来に比べ打撃性能が向上した。製作上は、従来と同じ工程のプレス加工で施すことができるので、生産上でコストアップになることはなく、性能が向上した上、従来と同様の生産ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明のゴルフクラブ全体の外観図でドライバークラブヘッドのものを示す図である。本発明のゴルフクラブは、金属製中空ゴルフクラブヘッドを対象にしているが、実施の形態の説明においては、ドライバークラブヘッドを実施の形態として説明する。本発明に関わるドライバークラブヘッド1は、シャフトAに支持された構成になっている。図2から図4に、本発明に関わる金属製ゴルフクラブにおけるドライバークラブヘッド1の実施の形態を示す。尚、図はヘッド部のみ示し、シャフトA等の部材は省略している。
【0029】
図2は、平面図であり、図3は、正面図で、図4は、側面図である。図で示すように、ドライバークラブヘッド1は、上部に当たるクラウン部2と、底部に当たるソール部3と、ゴルフボールが打撃されるフェース部4と、ヘッドの前部に当たるトウ部5と、ヘッドの後部に当たるヒール部6と、フェース部4に対向して反対側に位置し前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの後方部を形成するバック部10と、このドライバークラブヘッド1をシャフトAに支持させるための部材であるホーゼル部7とから構成されている。
【0030】
各々の部位は、生産上個別又は複数の部位を合わせて1つの部材として分割された部品を構成し、プレス加工された後、溶接等で一体化されている。製造上の部材として、フェース部材(第1部材)と、ボディ部材としてのトウ部5、ヒール部6、バック部10の一部を含むソール部材(第2部材)と、トウ部5、ヒール部6、バック部10の一部を含むクラウン部材(第3部材)、及びホーゼル部材(第4部材)とを合わせての4点で構成されている。
板素材を所定形状にブランクし、加熱してプレス成形する。加熱は、例えばフェース部材を400度、ソール部材、クラウン部材等のボデイ部材を900度にする。プレス成形された後、バリを削除(トリミング)し、TIG溶接を行う。TIG溶接は、アルゴン溶接とも称されている溶接であるが、溶着金属そのものの溶接棒を用いて、タングステン電極の周囲からアルゴンガスを放出し、大気から溶融金属を遮断して行うものである。
【0031】
本実施の形態においては、金属材料はチタン合金であり、製作上の部材としてフェース部材とソール部材を突き合わせ、この後にホーゼル部材を接合し、その後プレス成形されたクラウン部材をTIG溶接で結合する。この過程で各部材の溶接前にクラウン部材に硬度等を高める処理、即ち本発明においては時効硬化処理を行う。このように溶接一体化されたドライバークラブヘッド1が構成される。
フェース部4は、微小な曲面を有していて、プレート状の板で構成されたものである。反撥係数の最大領域は、重心8近傍のスイートエリア9である。通常遠方へゴルフボールを飛ばすためには、このスイートエリア9に打撃されるのが効果的で、そのためにこの部分のエリアを大きくし、即ち、高反撥エリアを拡大し、又は、反撥係数を高く設定されるようにする。反撥係数を高めれば、ゴルフボールは遠方に飛ぶことは周知のことであるが、この反撥係数については、ゴルフクラブの性能に重要な要素を占めていて、米国ゴルフ協会(USGA)で測定基準が定められている。この基準の詳細説明は省略する。
【0032】
次に、反撥エリアをずらす等の処置を実施した形態を説明する。図5は、ドライバークラブヘッド1の製作上の部材構成をトウ側から示した断面図である。図5においてクラウン部2はクラウン部材(第3部材)としてバック部10の一部を含んでいる。図示はされていないが、クラウン部2はトウ部5及びヒール部6の一部も含んでいる。同様にソール部3もソール部材(第2部材)として、バック部10、トウ部5、ヒール部6の一部を含んで構成されている。これにフェース部4(フェース部材)とホーゼル部7(ホーゼル部材)を加えドライバークラブヘッド1は4つの部材で構成され、各々溶接されている。
ゴルフクラブのドライバークラブヘッド1に使用されるチタン合金は、β型チタン合金あるいはα+β型チタン合金である。熱処理により強度を高めた合金で、加工性、延性、靭性、強度等にもすぐれ、信頼性のある合金である。本発明においては、このチタン合金を適用するものであるが、クラウン部材のみに時効硬化させる熱処理を施す。
【0033】
熱処理された合金は、低温で析出するチタン合金の元素が、急冷により析出されず溶け込まされた状態となっていて不安定状態になっている。これが時間の経過に伴い本来の安定な状態に戻ろうとして、金属間化合物などの結晶が析出してくる。この析出によりこの結晶が硬くなるのである。この硬さ等は金属の種類によって異なり、加熱温度、加熱時間、冷却時間等が調整されて最適値が決められる。この現象を利用しているのが時効硬化であり、クラウン部2において、剛性、強度、硬度、あるいはヤング率等を向上させるのである。
【0034】
つまりクラウン部2を他の部位と異なる剛性、強度、硬度にするのである。このことは、剛性が大きいと、強度が強いと、また硬度が高いと物性上撓みづらく、歪みづらくなる。この結果フェース部4に外力が加わると、クラウン部2側のフェース部4が変形しにくくなることを意味する。要するに、クラウン部2の剛性、強度、硬度を意図的に高めることは、クラウン部2の金属歪あるいは弾性変形を小さくさせることで、この結果、前述のようにフェース部4の撓みを抑制させることになり、撓み範囲は相対的にソール部3側に移動し、フェース部4の下方向にスイートエリア9がずれることになる。時効硬化は、フェース部4に打撃力が加えられても、クラウン部2に割れの生じない範囲で施される必要がある。
【0035】
この処理を施したことにより、即ち、ドライバークラブヘッド1のクラウン部2の剛性、強度、硬度を高めることにより、フェース部4のクラウン部2側の剛性を高く、フェース部4のソール部3側の剛性を相対的に低くしたことになる。この結果クラウン部2側は剛性があり、ソール部3側に弾性変形の余地が生じ、反撥エリアがフェース部4の下方向にずれることになる。本発明においては、以上によりフェース部4の下方向にずれた位置においてもある程度の反撥力を維持することになるのである。この処理においては、重量等が変わるわけでないので、ドライバークラブヘッド1の重心位置8は変わらない。
【0036】
以上はクラウン部2を時効硬化処理により、特に硬度を高めることで説明したが、他の実施の形態として溶接により硬化させる方法もある。この形態を示したのが図6、図7である。図6の場合はクラウン部2を複数の部材に分割し、その各部材をフェース面に沿って平行に並べ溶接線2aに示すように溶接する構成である。図7は、同様にフェース面に直交する方向に複数の部材を並べ溶接線2bに示すように溶接する構成である。
【0037】
この溶接構成にすることで、溶接部分が硬化し、クラウン部2として剛性、強度、硬度を高めることになる。図は溶接部位を直線的に溶接する形態で示されているが、クロス方向に溶接してもよく、曲線的に溶接してもよい。又、更に他の形態として、図示はしていないがクラウン部2内面にリブを設けるようにしてもよい。
例えば、前述の溶接例に適用すると、溶接部位と同じクラウン部2の裏面箇所に溶接の代わりにリブを設けてもよい。リブを設けることでクラウン部2のみを前述同様に、剛性、強度、硬度を高めることになる。又、他の例として厚みを変えることで、クラウン部2を他の部位と異ならせてもよい。金属は、チタン合金が好ましいが、アルミニウム合金、ステンレス等であってもよい。金属の種類が異なれば、それぞれの金属の特性に合った種類のものを適用すればよい。
【0038】
本実施の形態は、このように前述した測定基準を含む規定に基づく範囲内に製造されるようにしており、テストを行い最適条件を検討して、スイートエリア9の位置を調整し決定するように工夫のなされたものである。この結果、本発明のゴルフクラブは、フェース部4の下方向にずれた位置の打撃であっても従来のような飛距離低下を招くことはなく、安定して飛距離を延ばせるものとなった。フェース部4の下方向にずれた位置の打撃面で打撃されても、従来に比し反撥係数を低下させることなくボールの飛距離を伸ばす効果が生じるのである。
【実施例】
【0039】
次にこれらの実施の形態に関わる効果を確認した実施例について説明する。図8から図11は、時効硬化処理による比較例を示すスイートエリアのテスト結果のデータ図である。図8は、クラウン部のみ時効硬化処理を施した場合のスイートエリアを示し、他は比較のため同条件でテストした他の例の結果のものである。図9は、ソール部のみを時効硬化処理を施してみた場合のスイートエリアを示し、図10はクラウン部及びソール部に熱処理を施していない場合のスイートエリアを示し、図11は、クラウン部及びソール部の両方を時効硬化処理を施してみた場合のスイートエリアを示したものである。
【0040】
図のS1は反撥係数が0.800の範囲を示す線、S2は反撥係数が0.840の範囲を示す線である。これらのデータ図からも明らかなように、クラウン部2のみを時効硬化処理を行なった場合の図8のみ、スイートエリア9がフェース部4の下方向にずれている。どの程度のズレにするかは、クラウン部2とソール部3との相対的な強度等のバランスをどのように決定するかにより調整され決められる。この結果により、本発明の効果を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、ゴルフクラブの全体を示す外観図である。
【図2】図2は、本発明のドライバークラブヘッドの平面図である。
【図3】図3は、本発明のドライバークラブヘッドの正面図である。
【図4】図4は、本発明のドライバークラブヘッドの側面図である。
【図5】図5は、本発明のドライバークラブヘッドの製作を考慮した部材構成の断面図である。
【図6】図6は、他の実施形態を示しフェース面に平行にクラウン部に分割溶接した形態の説明図である。
【図7】図7は、他の実施形態を示しフェース面に直角方向にクラウン部に分割溶接した形態の説明図である。
【図8】図8は、クラウン部のみに時効硬化処理を施したテスト結果のスイートエリアを示すデータ図である。
【図9】図9は、ソール部のみに時効硬化処理を施したテスト結果のスイートエリアを示すデータ図である。
【図10】図10は、クラウン部及びソール部とも熱処理は施していない場合のテスト結果のスイートエリアを示すデータ図である。
【図11】図11は、クラウン部及びソール部とも時効硬化処理を施したテスト結果のスイートエリアを示すデータ図である。
【符号の説明】
【0042】
1…ドライバークラブヘッド
2…クラウン部
3…ソール部
4…フェース部
5…トウ部
6…ヒール部
7…ホーゼル部
8…重心
9…スイートエリア
10…バック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製中空ゴルフクラブヘッドの前面に配置され、ゴルフボールを打撃するための打撃面を有するフェース部と、前記フェース部以外を構成するボディ部とからなるゴルフクラブにおいて、
前記ボディ部は、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの下部を形成するソール部と、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの上部を形成するクラウン部とを有し、
前記クラウン部は、前記ソール部に対して剛性、強度及び硬度のいずれか1以上の機械的材質を意図的に高めた構造である
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項1に記載のゴルフクラブにおいて、
前記金属は板材であり、前記クラウン部の前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の熱処理によって異ならせたものである
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項1に記載のゴルフクラブにおいて、
前記金属は板材であり、前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の材質が相違することにより異なるものである
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項1ないし3から選択される1項に記載のゴルフクラブにおいて、
前記ボディ部は、前記ソール部、前記クラウン部、及びシャフトが接続されるホーゼル部を溶接により接合されたものである
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項5】
金属製中空ゴルフクラブヘッドの前面に配置され、ゴルフボールを打撃するための打撃面を有するフェース部と、前記フェース部以外を構成するボディ部からなるゴルフクラブにおいて、
前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの下部を形成し前記ボディ部の一部位であるソール部に対し、前記金属製中空ゴルフクラブヘッドの上部を形成し前記ボディ部の一部位であるクラウン部を構成する金属の剛性、強度及び硬度のいずれか1以上の機械的材質を意図的に高めるように変えて、前記打撃面のスイートエリアの位置を調整する
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のゴルフクラブの製造方法において、
前記金属は板材であり、前記クラウン部の前記剛性、強度及び硬度は、前記板材の熱処理によって異ならせる方法である
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のゴルフクラブの製造方法において、
前記金属は板材であり、前記ソール部と前記クラウン部を構成する前記金属の材質を異ならせて前記剛性、強度及び硬度を異ならせる
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7から選択される1項に記載のゴルフクラブの製造方法において、
前記ボディ部は、前記ソール部、前記クラウン部、及びシャフトが接続されるホーゼル部を溶接により接合する
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のゴルフクラブの製造方法において、
前記溶接による接合は、前記クラウン部のみを熱処理により硬化させ、その後前記フェース部及び前記ボディ部の前記各部位を溶接するようにした
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のゴルフクラブの製造方法において、
前記クラウン部の金属はβ型チタン合金を時効硬化させた金属の板材で、前記ソール部の金属は時効硬化させない他の金属の板材である
ことを特徴とするゴルフクラブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−461(P2006−461A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180887(P2004−180887)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(591002382)株式会社遠藤製作所 (19)
【Fターム(参考)】