説明

ゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法

【課題】ゴルフクラブヘッドの評価データを短時間、低コストで正確に求めることができ、設計の効率化を図る上で有利な計算方法を提供する。
【解決手段】有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデル10Aを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによってフェース面12の各節点pにおける振幅Aを算出し、振幅Aが最大振幅のn%以上となる節点pを選択する。選択された節点pの振幅Aに基づいてフェース面12における振幅Aの変化を示す回帰曲面Kを決定し、回帰曲面Kで示される振幅Aの最大値を求め、この最大値を真の最大振幅とすると共に、振幅Aが真の最大振幅がN%以上となるフェース面12の領域をたわみ量評価領域TAとして特定する。たわみ量評価領域TAの面積およびたわみ量評価領域TAの面積重心点の位置を評価データとして算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブの設計においては、打球の飛距離を向上することが重要であり、そのため、ゴルフクラブヘッドでゴルフボールを打撃したときの初速をなるべく大きな値とすることが求められる。
初速に大きな影響を与える要因として、例えば、ゴルフクラブヘッドのフェース面上における最大たわみ点の位置と最大たわみ量が挙げられる。言い換えると、最大たわみ点の位置と最大たわみ量は、ゴルフクラブヘッドの評価を行う評価データとして扱うことができる。
したがって、ゴルフクラブヘッドの評価を的確に行うためにはこのような評価データを正確に求める必要がある。
そこで、従来は、実際にゴルフクラブヘッドを製作し、製作したゴルフクラブヘッドを用いて評価データを実測している。
【0003】
例えば、評価データが最大たわみ点の位置および最大たわみ量である場合について説明する。
ゴルフクラブヘッドのフェース面のたわみ量を測定する技術が提案されている(特許文献1参照)。
すなわち、この方法では、ゴルフクラブヘッドのフェース面(打撃面)をその垂直方向に加振させて打撃面を振動させ、フェース面と対向する位置に配したレーザ振動計によりフェース面における振動分布(振幅分布)を測定する。
したがって、この方法を用いた場合には、実際に製作したゴルフクラブヘッドのたわみ量を計測することで、評価データとしての最大たわみ点の位置および最大たわみ量を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−138584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来技術では、実際にゴルフクラブヘッドを製作する必要があるため、ゴルフクラブヘッドの製作に時間、コストがかかる不利がある。
このような問題は、評価データが最大たわみ点の位置および最大たわみ量以外のものであっても同様に生じる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゴルフクラブヘッドの評価データを短時間、低コストで正確に求めることができ、設計の効率化を図る上で有利なゴルフクラブヘッドにおける評価データの計算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ゴルフクラブヘッドを評価する評価データを算出する計算方法であって、多数の要素および各要素の節点によって規定される有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデルを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによって前記ゴルフクラブヘッドのフェース面の各節点における前記フェース面と直交する方向の振幅を算出する固有値解析ステップと、前記各節点の振幅のうち最大振幅を100%としたとき、振幅がn%以上(ただし0<n<100)となる節点を選択する節点選択ステップと、前記選択された節点の振幅に基づいて前記フェース面における振幅の変化を示す回帰曲面を決定する回帰曲面決定ステップと、前記回帰曲面で示される振幅の最大値を求め、この最大値を真の最大振幅とすると共にこの真の最大振幅を100%としたとき、振幅がN%以上(ただし0<N<100)となる前記フェース面の領域をたわみ量評価領域として特定するたわみ量評価領域特定ステップと、前記たわみ量評価領域の面積および前記たわみ量評価領域の面積重心点の位置を前記評価データとして算出する評価データ算出ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデルを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによってフェース面の各節点における振幅を算出し、各節点の振幅に基づいてフェース面における振幅の変化を示す回帰曲面を決定し、回帰曲面で示される振幅が真の最大振幅のN%以上となるフェース面の領域をたわみ量評価領域として特定する。
そして、たわみ量評価領域の面積およびたわみ量評価領域の面積重心点の位置を評価データとして算出するようにした。
したがって、実際にゴルフクラブヘッドを製作することなく評価データを短時間、低コストで正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明方法の対象となるゴルフクラブヘッド10を示す正面図である。
【図2】本発明方法を実行するために使用されるコンピュータ30の構成を示すブロック図である。
【図3】コンピュータ30によって構成される計算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】第1の実施の形態の計算方法を示すフローチャートである。
【図5】ゴルフクラブヘッドモデル10Aの正面図である。
【図6】フェース面12における振幅、すなわち、たわみ量の分布を模式的に示す説明図である。
【図7】フェース面12に特定されたたわみ量評価領域TAを示す説明図である。
【図8】フェース面12上に設定された多数の節点pを示す説明図である。
【図9】選択された節点pを示す説明図である。
【図10】回帰二次曲面Kを示す説明図である。
【図11】ゴルフクラブヘッド10の解析手順を示すフローチャートである。
【図12】ゴルフクラブヘッド10のローリングの説明図である。
【図13】ゴルフクラブヘッド10のフェース面12に設定されたスピード分布を示す説明図である。
【図14】フェース面12に設定されたフェースたわみ分布Rの説明図である。
【図15】フェース面12上に設定されたスピード分布の等高線vと、重心点Pと、フェース最大たわみ点Qとを示す説明図である。
【図16】閾値cを第1の閾値c1に設定した場合の解析結果を示す説明図である。
【図17】重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
【図18】重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
【図19】最大フェーススピード点Vfmaxとフェース最大たわみ点Qとが一致した状態を示す説明図である。
【図20】閾値cを第2の閾値c2に設定した場合の解析結果を示す説明図である。
【図21】重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
【図22】重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
【図23】最小フェーススピード点Vfminと、フェース最大たわみ点Qとが一致した状態を示す説明図である。
【図24】第2の実施の形態における計算方法を示すフローチャートである。
【図25】コンピュータ30によって構成される計算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図26】フェース面12の速度分布を考慮しない場合における重心点Pと最大たわみ点Qと最高初速点Rとの位置関係を示す模式図である。
【図27】(A)、(B)、(C)はフェース面12の速度分布の影響による最高初速点Rのずれを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、本発明の計算方法の対象となるゴルフクラブヘッドについて説明する。
図1に示すように、ゴルフクラブヘッド10は、フェース部14と、クラウン部16と、ソール部18と、サイド部20とを備えて中空構造を呈している。
フェース部14はゴルフボールを打撃するフェース面12を形成する。
クラウン部16はフェース部14に接続される。
ソール部18はフェース部14およびクラウン部16に接続される。
サイド部20はクラウン部16およびソール部18に接続されフェース部14に対向する。
ゴルフクラブヘッド10は、金属製であり、ゴルフクラブヘッド10の金属材料は、チタン合金やアルミニウム合金などの高強度の低比重金属が好ましく用いられる。
また、クラウン部16には、フェース面12側でかつヒール22寄りの位置にシャフト28に接続するホーゼル26が設けられている。
また、フェース面12を正面から見てゴルフクラブヘッド10のヒール22と反対側がトウ24である。
【0010】
図2はゴルフクラブヘッド10の最大たわみ点の位置および最大たわみ量を求める計算を行うためのコンピュータ30の構成を示すブロック図である。
なお、本明細書において、最大たわみ点とは、フェース面12の1次振動における最大たわみ点をいい、最大たわみ量は最大たわみ点における振幅もしくはたわみ量をいう。
コンピュータ30は、CPU32と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM34、RAM36、ハードディスク装置38、ディスク装置40、キーボード42、マウス44、ディスプレイ46、プリンタ48、入出力インターフェース50などを有している。
ROM34は制御プログラムなどを格納し、RAM36はワーキングエリアを提供するものである。
【0011】
ハードディスク装置38は、ゴルフクラブヘッド10の有限要素解析を行う有限要素解析プログラムと、この有限要素解析プログラムによって得られたシミュレーション結果を用いてゴルフクラブヘッド10の評価データを計算する計算プログラムを格納している。この種の計算プログラムは、専用のプログラムを用いても、あるいは、市販の表計算ソフトウェア(アプリケーションプログラム)およびそのマクロプログラムを用いるなど任意である。
【0012】
有限要素解析プログラムとして、有限要素解析を行う従来公知のさまざまな市販の有限要素解析ソフトウェア、例えば、ABAQUS(SIMULIA Americas社の登録商標)などを用いることができる。
有限要素解析プログラムは、以下のプログラムを含んで構成されている。
1)有限要素モデルを作成するためのプログラム:
本実施の形態ではゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルを作成するためのプログラムである。
2)有限要素モデルを用いて有限要素法によるシミュレーション(解析)を行うためのプログラム:
本実施の形態では、ゴルフクラブヘッドの有限要素モデルを用いて固有値解析(振動解析)を行うためのプログラムである。なお、ここでは固有値解析に限定されず、周波数応答解析でも良い。
3)シミュレーション結果を出力するためのプログラム:
シミュレーション結果をコンター図などを含むさまざまな形態の図や数表として可視化して出力するためのプログラムである。
【0013】
ディスク装置40はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード42およびマウス44は、操作者による操作入力を受け付けるものである。
ディスプレイ46はデータを表示出力するものであり、プリンタ48はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ46およびプリンタ48によってデータを出力する。
入出力インターフェース50は、外部機器との間でデータの授受を行うものである。
【0014】
また、コンピュータ30はゴルフクラブヘッドの評価データの計算装置を構成する。
図3に示すように、この計算装置は、モデル作成手段30Aと、固有値解析手段30Bと、節点選択手段30Cと、回帰曲面決定手段30Dと、たわみ量評価領域特定手段30Eと、評価データ算出手段30Fと、評価データ出力手段30Gとを含んで構成されている。
これら各手段30A乃至30Gは、コンピュータ30が前記の有限要素解析プログラムおよび前記の計算プログラムを実行することによって実現されるものである。
各手段30A乃至30Gについては本実施の形態の計算方法と共に説明する。
【0015】
次に、図4のフローチャートを参照して本実施の形態の計算方法について説明する。
以下の各処理は、コンピュータ30が有限要素解析プログラムおよび前記の計算プログラムを実行することに行われるものである。
まず、ゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルであるゴルフクラブヘッドモデルを作成する(ステップS10:モデル作成ステップ)。
有限要素モデルの作成は従来公知の有限要素法に基づいてなされるものである。
具体的には、3次元CADプログラムを用いて作成されたゴルフクラブヘッド10の3次元形状データ、すなわち、設計データ(CADデータ)をコンピュータ30に入力する。
また、ゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルを作成するために必要な拘束条件や材料定数を含むさまざまなデータをコンピュータ30に入力する。
コンピュータ30が有限要素解析プログラムを実行することにより、ゴルフクラブヘッド10の3次元形状データがそれぞれメッシュ分割される。
有限要素としては、シェル要素およびソリッド要素の何れを用いてもよいが、シェル要素を用いるとソリッド要素に比較して計算に要する時間の短縮化を図る点で有利となる。
これにより、図5に示すように、ゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルとしてのゴルフクラブヘッドモデル10Aが作成される。このゴルフクラブヘッドモデル10Aは、多数の要素および各要素の節点によって規定される。
これにより、図8に示すように、フェース面12上に多数の節点pが設定される。
なお、図5ではゴルフクラブヘッドモデル10Aが多数の要素に分割された状態を示す線を省略している。
ステップS10はコンピュータ30が有限要素解析プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS10は、図3のモデル作成手段30Aに相当する。
なお、ゴルフクラブヘッドモデル10Aは、ゴルフクラブヘッド10の全体、より詳細には、フェース部14、クラウン部16、ソール部18、サイド部20の全てを含むゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルで構成される。
【0016】
次に、ゴルフクラブヘッドモデル10Aを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによってゴルフクラブヘッド10のフェース面12の各節点pにおけるフェース面12と直交する方向の振幅を算出する(ステップS12:固有値解析ステップ)。
具体的には、固有値解析の結果からゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12における1次共振周波数を特定した後、フェース面12の各節点pについて特定された1次共振周波数における振幅を算出する。特定された1次共振周波数における振幅は、各節点pの変位モードベクトルに相当する。
ステップS12はコンピュータ30が有限要素解析プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS12は、図3の固有値解析手段30Bに相当する。
図6は、ステップS12で算出されたフェース面12における振幅、すなわち、たわみ量の分布を模式的に示す説明図であり、本例ではたわみ量が等しい点を結ぶ等高線kが表示されている。
【0017】
次いで、各節点pの振幅のうち最大振幅を100%としたとき、振幅がn%以上(ただし0<n<100)となる節点pを選択する(ステップS14:節点選択ステップ)。
本実施の形態では、n=95%としたがこれに限定されるものではない。
すなわち、図9にハッチングで示すように節点pが選択される。
ステップS14はコンピュータ30が前記の計算プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS14は、図3の節点選択手段30Cに相当する。
【0018】
次いで、選択された節点pの振幅に基づいてフェース面12における振幅の変化を示す回帰曲面を決定する(ステップS16:回帰曲面決定ステップ)。
ステップS16はコンピュータ30が前記の計算プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS16は、図3の回帰曲面決定手段30Dに相当する。
本実施の形態では、回帰曲面は、以下の式(1)で示される回帰式によって定義される二次曲面(回帰二次曲面)である。
したがって、選択された節点pの振幅データに基づいて二次曲面に最小二乗回帰を行うことになる。
回帰曲面は、三次以上の高次の多項式曲面であってもよいが、二次曲面を用いると、計算処理に要する時間の短縮化を図る上で有利となる。
【0019】
【数1】

【0020】
但し、Aは振幅、a,b,c,d,e,fは回帰係数である。
また、y,zは、図6に示すように、フェース面12上に設定された直交座標で規定される座標値である。
【0021】
具体的には、ライ角通りにゴルフクラブヘッドモデル10Aをセットした状態でゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12のトウ24側からヒール22側に向かう水平方向をY方向とし、鉛直上向きの方向をZ方向とする。Y軸およびZ軸の交点は、例えば、フェース面12の中心点と一致している。
図10にステップS16で決定されたに回帰二次曲面Kを示す。
図中、記号◆はステップS12、S14の算出結果を示し、湾曲した複数の実線は回帰二次曲面Kを示す。
図10から明らかなように、ステップS12、S14では、離散した各節点pに対応した振幅Aが得られ、ステップS16では、離散した各節点pの間における振幅Aが補間されて得られることになる。
【0022】
次に、回帰曲面Kで示される振幅Aの最大値(極大値)を求め、この最大値を真の最大振幅とすると共にこの真の最大振幅を100%としたとき、振幅AがN%以上(ただし0<N<100)となるフェース面12の領域をたわみ量評価領域TAとして特定する(ステップS18:たわみ量評価領域特定ステップ)。
本実施の形態では、N=95%としたがこれに限定されるものではない。
図7にフェース面12に特定されたたわみ量評価領域TAを示す。
ステップS18はコンピュータ30が前記の計算プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS18は、図3のたわみ量評価領域特定手段30Eに相当する。
本実施の形態では、回帰曲面(回帰二次曲面)Kで示される振幅Aの最大値は、以下の式(2)、式(3)で示される連立方程式を解くことで求められる。
なお、回帰曲面Kが三次以上の高次の多項式曲面であれば、振幅Aの最大値は、多項式曲面に対応する連立方程式を解くことで求められる。
【0023】
【数2】

【0024】
【数3】

【0025】
次に、たわみ量評価領域TAの面積と、たわみ量評価領域TAの面積重心点の位置とを評価データとして算出する(ステップS20:評価データ算出ステップ)。
ステップS20はコンピュータ30が前記の計算プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS20は、図3の評価データ算出手段30Fに相当する。
【0026】
また、ステップS20において、評価データとして最大たわみ量および最大たわみ点の位置をさらに算出するようにしてもよい。
この場合、最大たわみ量は振幅Aの最大値(真の最大振幅)であり、最大たわみ点の位置は振幅Aの最大値(真の最大振幅)に対応するフェース面12上の位置である。
このようにすると、たわみ量評価領域TAの面積と、たわみ量評価領域TAの面積重心点の位置とに加えて、最大たわみ量および最大たわみ点の位置を得ることができ、さまざまな種類の評価データを得る上で有利となる。
【0027】
次に、たわみ量評価領域TAの面積と、たわみ量評価領域TAの面積重心点の位置とを出力する(ステップS22:評価データ出力ステップ)。
ステップS22はコンピュータ30が前記の計算プログラムを実行することで行われる。
なお、このステップS22は、図3の評価データ出力手段30Gに相当する。
たわみ量評価領域TAの面積と、たわみ量評価領域TAの面積重心点の位置との出力形態は任意である。
例えば、ディスプレイ46の表示画面に、図7に示すようなゴルフクラブヘッドモデル10A(あるいはフェース面12)の画像と、たわみ量評価領域TAの面積重心点の位置を示すアイコン(記号)と、面積重心点の座標値と、たわみ量評価領域TAの面積を示す数値とを表示出力する。
あるいは、このような表示画面と同様の画像をプリンタ48によって印刷出力する。
無論、たわみ量評価領域TAの面積のデータおよびたわみ量評価領域TAの面積重心点の位置のデータをディスク装置40を介して記録媒体に格納するなど任意である。
また、ステップS20で評価データとして最大たわみ量および最大たわみ点の位置も算出した場合は、これら最大たわみ量および最大たわみ点の位置も上記と同様の形態で表示出力すればよい。
【0028】
たわみ量評価領域TAの面積について、上述の計算方法によって得られた計算値と、実際に製作したゴルフクラブヘッドの実測値とを以下の通り比較した。計算値が実測値に近く、本実施の形態の計算方法によって評価データを正確に得ることができた。
計算値:130mm
実測値:144mm
【0029】
以上説明したように、本実施の形態の計算方法によれば、有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデル10Aを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによってフェース面12の各節点pにおける振幅Aを算出し、各節点pの振幅Aのうち最大振幅を100%としたとき、振幅Aがn%以上となる節点pを選択する。
次いで、選択された節点pの振幅Aに基づいてフェース面12における振幅Aの変化を示す回帰曲面Kを決定し、回帰曲面Kで示される振幅Aの最大値を求め、この最大値を真の最大振幅とすると共にこの真の最大振幅を100%としたとき、振幅AがN%以上となるフェース面12の領域をたわみ量評価領域TAとして特定する。
そして、たわみ量評価領域TAの面積およびたわみ量評価領域TAの面積重心点の位置を評価データとして算出するようにした。
したがって、実際にゴルフクラブヘッドを製作することなく評価データを短時間、低コストで正確に求めることができ、設計の効率化を図る上で有利となる。
特に、有限要素法の固有値解析は、衝突解析に比較して計算量が少ないため、短時間で計算結果を得ることができることから評価データを得るために要する時間の短縮化を図る上で有利となる。
また、ゴルフクラブヘッドモデルを構成する有限要素の大きさをより小さくし、各節点pの間隔をより小さくすることによって回帰曲面Kを用いることなく真の最大振幅を得ることも考えられる。
しかしながら、有限要素が小さくなるほど有限要素の数が増大するため、計算量が膨大なものとなり、計算時間の短縮を図る上で不利がある。
これに対して、本実施の形態のように、回帰曲面Kから真の最大振幅を求めるようにすると、有限要素の大きさをむやみに小さくすることなく真の最大振幅を精度よく求めることができる。
したがって、有限要素の数を抑制して計算量を少なくでき、短時間で計算結果を得ることができるため、評価データを得るために要する時間の短縮化を図り、かつ、評価データの精度を確保する上で有利となる。
【0030】
また、ゴルフ用品の販売店やフィッティングスタジオに設置されたコンピュータ30で本発明の計算方法を実施することにより次の効果が期待できる。
種々のゴルフクラブの評価データを直ちに計算してディスプレイ46に表示出力することによってゴルフクラブヘッド10の特長を効果的に宣伝することができる。
具体的には、たわみ量評価領域TAの面積が大きいことを表示することで、スイートエリアの拡大化をアピールするといった効果的な宣伝を行うことができる。
また、ゴルフクラブヘッドの設計パラメータを個別に指定してオーダーメードで作成するといった場合、設計パラメータを変化させる毎に、直ちに評価データを算出して表示すれば、ゴルフクラブヘッドの商品価値を高め、顧客に対する宣伝効果を高める上で有利となる。
【0031】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態は、第1の実施の形態において評価データとして最大たわみ点の位置および最大たわみ量を算出した場合に、これら最大たわみ点の位置および最大たわみ量を用いることによりゴルフクラブの設計に際して重要な以下のデータを求めるものである。
1)ゴルフクラブヘッドでゴルフボールを打撃した場合にゴルフボールの初速が予め定められた閾値以上となるスイートエリアの面積。
2)ゴルフクラブヘッドでゴルフボールを打撃した場合にゴルフボールの初速が最大となる打点位置である最高初速点。
【0032】
すなわち、本発明者らは、ゴルフクラブヘッド10の有限要素モデルであるゴルフクラブヘッドモデルを用いて有限要素解析を行ない、ゴルフクラブのスイング時におけるフェース面12のスピードの分布と、ゴルフクラブヘッド10の重心点と、ゴルフクラブヘッド10のフェース最大たわみ点との位置関係がスイートエリアの面積に大きな影響を与えるという知見を得た。
そして、上記の知見を得るに際して、フェース面12のスピードの分布と、重心点と、フェース最大たわみ点との位置関係を特定した上で有限要素法によるシミュレーションを行うことによって、スイートエリアの面積および最高初速点を算出できることがわかった。
なお、重心点とは、ゴルフクラブヘッド10の重心位置をフェース面12に垂直に投影させた点をいう。
また、フェース最大たわみ点とは、たわみ量が最大となる点である。
【0033】
以下では、まず、上記の知見を得るために行ったゴルフクラブヘッド10の解析について説明し、次いで、最高初速点およびスイートエリアの面積を算出する方法について説明する。
【0034】
図11はゴルフクラブヘッド10の解析手順を示すフローチャートである。
まず、第1の実施の形態と同様に、有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデルおよびゴルフボールモデルを設定する(ステップS100)。
【0035】
次に、ゴルフクラブヘッドモデルを用いて、フェース面12のスピード(以下フェーススピードという)の分布を計算によって求め、フェーススピードの分布をフェース面12に設定する(ステップS102)。
ここで、スピード分布とは、プレイヤーが図1に示すゴルフクラブヘッド10を有するゴルフクラブでゴルフボールを打撃したときに、打撃直前におけるフェーススピードの分布を意味するものである。
スピード分布は、シャフト28の長さに依存する成分と、ゴルフクラブヘッド10のローリング(シャフト28の回りの回転)による成分とから主に決定される。
図12に示すように、前者のシャフト28の長さに依存する成分は、シャフト28の中心軸の延長線Lの垂線が、ゴルフクラブヘッド10のソール部18に接する点Aにおいて最大となる。
また、後者のゴルフクラブヘッド10のローリングに依存する成分は、シャフト28の中心軸の延長線Lから最も離れた点B(ゴルフクラブヘッド10のトウ24側端部)において最大となる。
【0036】
従って、フェーススピードは、図13に示すように、フェース面12のヒール22側の上部aからトウ24側の下部gへ向けて次第に大きくなるように分布する。なお、図13においては、速度0.5m/s毎に等高線vを示している。
ここでスピード分布の等高線vとは、フェーススピードの分布を示すために、フェース面12上において互いに等しいフェーススピードの点を結んだ線である。
以下では、シャフト28の長さと、ゴルフクラブヘッド10のローリングの大きさとを、平均的なゴルフクラブにおけるシャフト28の長さと、平均的なゴルフクラブにおけるゴルフクラブヘッド10のローリングの大きさに設定して解析を行う。
【0037】
次に、図14に示すように、重心点Pをフェース面12の中心点に配置する(ステップS104)。
【0038】
次に、図14に示すように、重心点Pを中心とする円周E上に沿ってフェース最大たわみ点Qを仮に配置する(ステップS106)。そして、図14に示すように、そのフェース最大たわみ点Qの周囲におけるフェースたわみ分布Rを仮に設定する(ステップS108)。なお、本例では、重心点Pを中心とする円周E上に沿ってフェース最大たわみ点Qを配置する場合について説明するが、フェース最大たわみ点Qの配置はこれに限定されるものではない。
フェースたわみ分布Rの形状としては、フェース最大たわみ点Qに対して同心円状かつ等間隔の等高線を有する形状などが例示される。ここでフェースたわみ分布Rの等高線とは、フェース面12のたわみ分布を示すために、フェース面12上において互いに等しいたわみ量の点を結んだ線である。
【0039】
そして、ゴルフクラブヘッド10が、フェース面12上の打点Dにおいて、所定のヘッドスピードHでゴルフボールに衝突したときのゴルフボールの初速(ボール初速)を計算し、フェース面12上における打点Dの位置と、該打点Dにおけるボール初速とを対応付けて図2に示すRAM36などの記憶手段に記憶させる(ステップS110)。ここで、ボール初速は、有限要素法による衝突解析のシミュレーションによって求める。
【0040】
次いで、フェース面12上の打点Dの位置を変化させて(ステップS112)、ステップS110に戻って同様の処理を繰り返す。
本例では、変化させる打点Dの位置は、フェース面12の全体にわたって分布するように複数の位置に予め定められ、打点Dの数は49である。
【0041】
全ての打点Dの位置についてボール初速を取得したならば、それらボール初速と予め定められた閾値cとを比較し、ボール初速が閾値c以上となる打点Dの分布、すなわち、スイートエリアの位置と面積を取得し、スイートエリアの位置と面積をRAM36などの記憶手段に記憶する(ステップS114)。
これにより、ステップS106で仮配置した1つのフェース最大たわみ点Qに対応したボール初速が閾値c以上となる打点Dの分布が求められたならば、フェース最大たわみ点Qの位置を円周E上に沿って変化させて配置する(ステップS116)。
そして、ステップS116で配置されたフェース最大たわみ点Qに対応してフェースたわみ分布Rを設定する(ステップS118)。
次いで、ステップS110に移行して同様の処理を繰り返す。
【0042】
ここで図15を参照して説明する。
図15はゴルフクラブヘッドモデルのフェース面12上に設定されたスピード分布の等高線vと、重心点Pと、フェース最大たわみ点Qとを示す説明図である。
図15において、横軸はゴルフクラブヘッドモデルのフェース面12を正面から見た場合における水平方向の座標位置をmm単位で示し、縦軸はゴルフクラブヘッドモデルのフェース面12を正面から見た場合におけるゴルフクラブヘッドモデルのフェース面12における上下方向の座標位置をmm単位で示す。
水平方向の座標位置が左方向(負方向)に向かうほどトウ24側であり、水平方向の座標位置が右方向(正方向)に向かうほどヒール22側である。
言い換えると、横軸は水平方向における打点Dの位置、縦軸は上下方向における打点Dの位置をそれぞれ示す。
【0043】
本例では、重心点Pがフェース面12の中心点に合致しているため、重心点Pの座標位置が原点(0mm,0mm)となっている。
なお、フェース面12と横軸および縦軸との位置関係は、図12に示すように、ゴルフクラブヘッドモデルにおけるシャフト28の中心軸の延長線Lと水平面とがなす角度がシャフト28のライ角に合致した状態で示している。
また、図中、スピード分布を示す等高線vに付した数値は該等高線のスピード(m/s単位)を示している。
また、符号Mは、重心点Pを通りかつ等高線vと直交する直線を示す。
図15に示すように、本例では、フェース最大たわみ点Qを変化させる位置は、円周E上に沿った6つの位置と、重心点Pと同じ1つの位置とに予め定められ、したがって、フェース最大たわみ点Qの数は7つである。
ここで円周Eの半径は7mmとする。
【0044】
図11に戻って説明を続けると、全てのフェース最大たわみ点Qについてスイートエリアの位置と面積が取得されたならば、スイートエリアの面積が最大となるフェース最大たわみ点Qの位置を判定し(ステップS120)、一連の解析処理を終了する。
【0045】
このような解析処理を行うことにより、閾値cによって決定されるスイートエリアの大きさが最大となるフェース最大たわみ点Qの位置が求められる。
【0046】
本例では、スイートエリアを決定する閾値cを第1の閾値c1,第2の閾値c2の2種類に設定した。また、以下では、説明をわかりやすくするために、第1の閾値c1で定義されるスイートエリアを高初速スイートエリアといい、第2の閾値c2で定義されるスイートエリアを中初速スイートエリアという。
第1の閾値c1>第2の閾値c2
第1の閾値c1:ボール初速−1m/s(高初速エリア98%)
第2の閾値c2:ボール初速−3m/s(中初速エリア95%)
ただし、最大ボール初速(100%):58.5m/s(ヘッドスピード40m/s)
【0047】
まず、閾値cを第1の閾値c1に設定することにより高初速スイートエリアを実現する場合について説明する。
図16は閾値cを第1の閾値c1に設定した場合の解析結果を示す説明図である。
図16において、7つのフェース最大たわみ点Qに、高初速スイートエリアの面積の大きさに応じて1位乃至7位の順番を付している。すなわち、1位のフェース最大たわみ点Qは高初速スイートエリアの面積が最大であり、7位のフェース最大たわみ点Qは高初速スイートエリアの面積が最小である。
図16から明らかなように、フェース最大たわみ点Qのフェーススピードが最高となる場合に、高初速スイートエリアの面積が最大(1位)となり、フェース最大たわみ点Qのフェーススピードが最低となる場合に、高初速スイートエリアの面積が最小(7位)となっている。
この場合、1位および7位のフェース最大たわみ点Qは直線M上に位置している。
なお、1位のフェース最大たわみ点Qにおける高初速スイートエリアの面積を100%として2位乃至7位の高初速スイートエリアの面積を示すと下記のとおりとなる。
1位:100%
2位: 97%
3位: 86%
4位: 85%
5位: 74%
6位: 51%
7位: 50%
【0048】
図16から以下のことが判明した。
閾値cを第1の閾値c1とした場合、フェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードが低い場合よりも高い場合の方が、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
また、重心点Pにおけるフェーススピードよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを高い値にすると、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
また、フェース面12を、重心点Pを通る横軸、縦軸によって4つの領域に区画した場合、水平方向においては重心点Pよりトウ側で、かつ、上下方向においては重心点Pよりも下側に位置する領域にフェース最大たわみ点Qを配置することが、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
【0049】
図17、図18は重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
図17、図18において、横軸は図16における直線Mを示し、図中左側がトウ側、右側がヒール側となる。また、縦軸はボール初速を示し、上方に向かうほどボール初速が高くなる。
ある打点Dにおけるボール初速は、フェーススピードVfと、フェース最大たわみ点Qの位置と、重心点Pの位置との3つの要素が寄与して決定されるものと考えられる。
すなわち、打点DにおけるフェーススピードVfが高いほどボール初速は高速となる。
また、打点Dに重心点Pが近いほどボール初速は高速となる。
また、打点Dにフェース最大たわみ点Qが近いほどボール初速は高速となる。
すなわち、図17、図18に示すように、ある打点Dにおけるボール初速は、フェーススピードVfが寄与する成分と、フェース最大たわみ点Qの位置(フェースたわみ分布R)が寄与する成分と、重心点Pの位置が寄与する成分とを足し合わせた値で決定されるものと考えられる。
【0050】
したがって、図18に示すように、重心点PにおけるフェーススピードVfよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを低い値にすると、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で不利となる。
これに対して、図17に示すように、重心点PにおけるフェーススピードVfよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを高い値にすると、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
この場合、フェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを高い値にするほど、高初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。すなわち、図19に示すように、最大フェーススピード点Vfmaxと、フェース最大たわみ点Qとを一致させると、高初速スイートエリアは最大となる。
なお、フェース面12上における重心点Pおよびフェース最大たわみ点Qの位置は、ゴルフクラブヘッド10の設計上の制約を受けるため、高初速スイートエリアの大きさには上限がある。
【0051】
次に、閾値cを第2の閾値c2に設定することにより中初速スイートエリアを実現する場合について説明する。
図20は閾値cを第2の閾値c2に設定した場合の解析結果を示す説明図である。
図20において、7つのフェース最大たわみ点Qに、中初速スイートエリアの面積の大きさに応じて1位乃至7位の順番を付している。すなわち、1位のフェース最大たわみ点Qは中初速スイートエリアの面積が最大であり、7位のフェース最大たわみ点Qは中初速スイートエリアの面積が最小である。
図20から明らかなように、フェース最大たわみ点Qのフェーススピードが最低となる場合に、中初速スイートエリアの面積が最大(1位)となり、フェース最大たわみ点Qのフェーススピードが最高となる場合に、中初速スイートエリアの面積が最小に近く(6位)なっている。
この場合、1位および6位のフェース最大たわみ点Qは直線M上に位置している。
なお、1位のフェース最大たわみ点Qにおける中初速スイートエリアの面積を100%として2位乃至7位の中初速スイートエリアの面積を示すと下記のとおりとなる。
1位:100%
2位: 99.9%
3位: 98.8%
4位: 97.8%
5位: 94.8%
6位: 92.2%
7位: 91.9%
【0052】
図20から以下に示す知見を得た。
閾値cを第2の閾値c2とした場合、フェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードが高い場合よりも低い場合の方が、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
また、重心点Pにおけるフェーススピードよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを低い値にすると、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
また、フェース面12を、重心点Pを通る横軸、縦軸によって4つの領域に区画した場合、水平方向においては重心点Pよりヒール側で、かつ、上下方向においては重心点Pよりも上側に位置する領域にフェース最大たわみ点Qを配置することが、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
【0053】
図21、図22は重心点Pと、フェース最大たわみ点Qと、フェーススピードVfと、ボール初速との関係を示す模式図である。
図17、図18の場合と同様に、ある打点Dにおけるボール初速は、フェーススピードVfが寄与する成分と、フェース最大たわみ点Qの位置(たわみの分布)が寄与する成分と、重心点Pの位置が寄与する成分とを足し合わせた値で決定されるものと考えられる。
したがって、図21に示すように、重心点PにおけるフェーススピードVfよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを高い値にすると、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で不利となる。
これに対して、図22に示すように、重心点PにおけるフェーススピードVfよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを低い値にすると、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。
この場合、フェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを低い値にするほど、中初速スイートエリアの大きさを大きく確保する上で有利となる。すなわち、図23に示すように、最小フェーススピード点Vfminと、フェース最大たわみ点Qとを一致させると、中初速スイートエリアは最大となる。
なお、高初速スイートエリアを実現する場合と同様に、フェース面12上における重心点Pおよびフェース最大たわみ点Qの位置は、ゴルフクラブヘッド10の設計上の制約を受けるため、中初速スイートエリアの大きさにも上限がある。
【0054】
以上の解析結果をまとめると次のようになる。
図21、図22から明らかなように、スイートエリアを定義する閾値cを高くするほど、高初速エリア(最大ボールスピードの値を100とし、98%以上のボールスピードを出現できるエリア)を広くすることができる。
また、スイートエリアを定義する閾値cを低くするほど、中初速エリア(最大ボールスピードの値を100とし、95%以上のボールスピードを出現できるエリア)を広くすることができる。
したがって、高初速エリアを拡大する場合は、図21に示すように、重心点Pにおけるフェーススピードよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを高い値にすると、図22に示す場合に比較して高初速スイートエリアの大きさを大きく確保することができる。
また、中初速エリアを拡大する場合は、図22に示すように、重心点Pにおけるフェーススピードよりもフェース最大たわみ点Qにおけるフェーススピードを低い値にすると、図21に示す場合に比較して中初速スイートエリアの大きさを大きく確保することができる。
【0055】
このような知見を得る過程で説明したように、フェース面12のスピードの分布と、重心点と、フェース最大たわみ点との位置関係を特定して有限要素法によるシミュレーションを行うことで、フェース面12に設定した各打点Dにおける初速を算出することができる。
したがって、フェース面12におけるスイートエリアの面積を算出できることは無論のこと、各打点Dのうち最高初速点となる打点Dの位置を求めることができる。
【0056】
また、上述したように、スイートエリアの面積は、フェース面12のスピードの分布と、ゴルフクラブヘッド10の重心点と、ゴルフクラブヘッド10のフェース最大たわみ点との位置関係によって大きな影響を受けるという知見に加えて、以下に説明するように、最高初速点Rがフェース面12の速度分布の影響を大きく受けているという知見を得た。
【0057】
まず、フェース面12の速度分布を考慮しない場合における重心点Pと最大たわみ点Qと最高初速点R(ボールの初速が最高となるフェース面12の点)との関係について説明する。
図26は、フェース面12の速度分布を考慮しない場合における重心点Pと最大たわみ点Qと最高初速点Rとの位置関係を示す模式図である。
フェース面12の打点におけるボール初速は、重心点Pの位置が寄与する成分と、最大たわみ点Qの位置が寄与する成分とを足し合わせた値で決定されるものと考えられる。
図中、符号p1、p2は重心点Pの位置が寄与する成分を示す分布を示す等高線を示しており、寄与する成分の大小関係はp1>p2となる。
また、符号q1、q2は最大たわみ点Qの位置が寄与する成分を示す分布を示す等高線を示しており、寄与する成分の大小関係はq1>q2となる。
したがって、図26に示すように、最高初速点Rは、重心点Pと最大たわみ点Qとを結ぶほぼ直線LA上に位置することになる。ただし、ヘッド形状やフェース面のバルジ、ロール等によって最高初速点Rは直線LAから多少ずれる場合もある。
すなわち、フェース面12の速度分布を考慮しない場合は、最高初速点Rがフェース面12の中心点Cに合致、あるいは、近接するように、重心点Pと最大たわみ点Qとを配置すれば、スイートエリアおよび飛距離の増大を図る上で有利となることになる。
【0058】
ゴルファがゴルフクラブをスウィングしてゴルフクラブヘッド10のフェース面12でゴルフボールを打撃する場合には、前述したようにフェース面12の速度分布(図13)が発生する。
最高初速点Rは、このようなフェーススピードの影響を受けることになるため、図26に示す位置からずれることになる。
図27(A)に示すように、フェース面12の速度分布を示す等高線v(図13)に対して直交し、言い換えると、フェーススピードの変化量が最大となる点を結び、かつ、最高初速点Rを通る直線L0を想定する。
すると、図27(B)に示すように、最高初速点Rは、フェース面12の速度分布の影響を受けることで、直線LAと直線L0とが交差する角度をθとしたとき、ほぼθの角度に沿った方向に移動することになる(例えば約3〜5mm)。なお、角度θは、たわみ量分布やフェース面の速度分布によって変わる。具体的には、最高反発点Rはトウ24側寄りでかつ下方向に移動する。
さらに、図27(C)に示すように、最高初速点Rは、フェース面12が曲面を呈している(フェース面12にRが付与されている)影響を受けることで、さらに下方向に移動することになる(例えば総移動距離約6〜10mm)。
図27(C)に示すように、最高初速点Rがさらに下方向に移動する理由は次のとおりであある。すなわち、通常のウッドヘッドのフェース面12には、トウ24とヒール22とを結ぶ方向の曲面(バルジ)と、クラウン4とヒール3とを結ぶ方向の曲面(ロール)とが形成されている。
フェース面12にこのような曲面が形成されていることでフェース面12のロフト角が変化する。その影響で、最高初速点Rは、下方向に移動する。下方向の移動量は、フェース面12の曲面の違いだけでなく、たわみ量分布やフェース面の速度分布によっても変化する。
したがって、実際にゴルフクラブをスウィングしてフェース面12でボールを打撃する場合の最高初速点Rの位置は、上述したようにフェース面12の速度分布の影響を受けることによって、図27(A)に示した最高反発点Rの位置よりもトウ側寄りでかつ下方にずれることになる。
すなわち、実際の最高初速点Rは、フェース面12の速度分布の影響を受けることにより、重心点Pと最大たわみ点Qとを結ぶ直線LA上から外れた箇所に位置することがわかった。
このような知見によれば、第1、第2の実施の形態で得られた最大たわみ点Qの位置および最大たわみ量を用いると共に、フェース面12のスピードの分布の影響を考慮して有限要素法によるシミュレーションを行うことで、フェース面12上における最高初速点Rの位置をより正確に算出することが可能となる。
【0059】
以下、図24に示すフローチャートを参照してスイートエリアの面積および最高初速点の算出を行う方法について説明する。
スイートエリアの面積および最高初速点の算出は、コンピュータ30が有限要素解析プログラムおよび専用の計算プログラムを実行することによって行われる。
なお、図11のフローチャートで説明した処理と同様の処理については簡単に説明する。
まず、ゴルフクラブヘッド10およびゴルフボールの有限要素モデルであるゴルフクラブヘッドモデルおよびゴルフボールモデルを作成する(ステップS200)。
次に、第1の実施の形態と同様の処理を実行して、最大たわみ点の位置および最大たわみ量を算出する(ステップS202)。すなわち、図4のステップS12〜S20の処理を実行する。
【0060】
次に、フェーススピードの分布をフェース面12に設定する(ステップS204)。
次に、重心点Pをフェース面12に配置する(ステップS206)。この場合、重心点Pはゴルフクラブヘッドモデルの作成時に決定されているものとする。
次に、ステップS202で算出された最大たわみ点の位置にフェース最大たわみ点Qを配置する(ステップS208)。
そして、フェース最大たわみ点Qの周囲におけるフェースたわみ量の分布(フェースたわみ分布)Rを設定する(ステップS210)。
フェースたわみ分布Rの設定に際しては、ステップS202で算出された最大たわみ量が用いられる。
また、フェースたわみ分布Rの形状としては、フェース最大たわみ点Qに対して同心円状かつ等間隔の等高線を有する形状などが例示される。
なお、たわみ量と反発係数とは正の相関関係にあるため、たわみ量から反発係数を換算することができる。したがって、たわみ量を反発係数に換算して反発分布を設定しても良い。
ここで、反発係数とは、U.S.G.A(全米ゴルフ協会)のCOR測定方法(Procedure for Measuring the Velocity Ratio of a Club Head for Conformance to Rule 4-1e,Revision 2(February8,1999)により測定される値である。
【0061】
そして、ゴルフクラブヘッド10が、フェース面12上の打点Dにおいて、所定のヘッドスピードHでゴルフボールに衝突したときのゴルフボールの初速(ボール初速)を計算し、フェース面12上における打点Dの位置と、該打点Dにおけるボール初速とを対応付けて図2に示すRAM36などの記憶手段に記憶させる(ステップS212)。ボール初速は、有限要素法による衝突解析のシミュレーションによって求める。
【0062】
次いで、フェース面12上の打点Dの位置を変化させて(ステップS214)、ステップS212に戻って同様の処理を繰り返す。
ここで、変化させる打点Dの位置は、フェース面12の全体にわたって分布するように複数の位置に予め定められている。
【0063】
全ての打点Dの位置についてボール初速を取得したならば、それらボール初速と予め定められた閾値cとを比較し、ボール初速が閾値c以上となる打点Dの分布、すなわち、スイートエリアの位置と面積を取得し、スイートエリアの位置と面積をRAM36などの記憶手段に記憶する(ステップS216)。
【0064】
次いで、記憶手段に記憶されているボール初速および打点位置のデータからボール初速が最高の値となる打点を選択し、最高初速点の位置を特定する(ステップS218)。
最後に、スイートエリアの面積および最高初速点の位置のデータを出力する(ステップS220)。
【0065】
すなわち、第2の実施の形態は、第1の実施の形態のステップS20において評価データとして最大たわみ量および最大たわみ点の位置を算出することに加えて、以下のステップをさらに含むゴルフクラブヘッドにおけるスイートエリアの面積および最高初速点の位置の計算方法となっている。
1)ゴルフボールの有限要素モデルであるゴルフボールモデルを作成するモデル作成ステップ(ステップS200に相当)。
2)スウィングされたゴルフクラブのゴルフクラブヘッドのフェース面12がゴルフボールを打撃する直前におけるフェース面12の速度分布をゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12に設定するフェース面速度分布設定ステップ(ステップS204に相当)。
3)ゴルフクラブヘッドの重心位置をゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12に垂直に投影させた重心点をゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12に設定する重心点設定ステップ(ステップS206に相当)。
4)最大たわみ点の位置および最大たわみ量に基づいて最大反発点および反発分布をゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12に設定する最大反発点および反発分布設定ステップ(ステップS208、S210に相当)。
5)ゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12で打撃されたゴルフボールモデルの初速のフェース面12における速度分布を有限要素法による衝突解析のシミュレーションによって求めるボール初速分布算出ステップ(ステップS212、S214、S216に相当)。
6)速度分布に基づいてボール初速が予め定められた閾値以上となるスイートエリアの面積を算出するスイートエリア算出ステップ(ステップS216に相当)。
7)速度分布に基づいてボール初速が最高値となる最高初速点の位置を算出する最高初速点算出ステップ(ステップS218に相当)。
8)スイートエリア面積および最高初速点の位置を評価データとして出力する評価データ出力ステップ(ステップS220に相当)。
【0066】
また、第2の実施の形態は、第1の実施の形態の図3の構成に加えて、図25に示すように、コンピュータ30によって構成されるゴルフクラブヘッドの評価データの計算装置が以下の手段をさらに含むものである。
すなわち、以下の手段は、コンピュータ30が有限要素解析プログラムおよび専用の計算プログラムを実行することによって実現されるものである。
フェース面速度分布設定手段30H(フェース面速度分布設定ステップに相当)、重心点設定手段30I(重心点設定ステップに相当)、最大反発点および反発分布設定手段30J(最大反発点および反発分布設定ステップに相当)、ボール初速分布算出手段30K(ボール初速分布算出ステップに相当)、スイートエリア算出手段30L(スイートエリア算出ステップに相当)、最高初速点算出手段30M(最高初速点算出ステップに相当)。
なお、第2の実施の形態では、モデル作成手段30AがステップS200のモデル作成ステップに相当し、評価データ出力手段30GがステップS220の評価データ出力ステップに相当している。
【0067】
以上説明したように、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態で得られた最大たわみ点の位置および最大たわみ量に基づいて最大反発点および反発分布をゴルフクラブヘッドモデル10Aのフェース面12に設定し、ゴルフボールモデルの初速のフェース面12における速度分布を有限要素法による衝突解析のシミュレーションによって求めることによって、スイートエリアの面積および最高初速点を算出するようにした。
したがって、実際にゴルフクラブヘッドを製作することなく、最大たわみ点の位置と最大たわみ量とに加えてスイートエリアの面積および最高初速点を短時間、低コストで正確に求めることができ、設計の効率化を図る上で有利となる。
【符号の説明】
【0068】
10……ゴルフクラブヘッド、10A……ゴルフクラブヘッドモデル、12……フェース面、p……節点、A……振幅、K……回帰二次曲面(回帰曲面)、AT……たわみ量評価領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドを評価する評価データを算出する計算方法であって、
多数の要素および各要素の節点によって規定される有限要素モデルで構成されたゴルフクラブヘッドモデルを用いて有限要素法による固有値解析を行うことによって前記ゴルフクラブヘッドのフェース面の各節点における前記フェース面と直交する方向の振幅を算出する固有値解析ステップと、
前記各節点の振幅のうち最大振幅を100%としたとき、振幅がn%以上(ただし0<n<100)となる節点を選択する節点選択ステップと、
前記選択された節点の振幅に基づいて前記フェース面における振幅の変化を示す回帰曲面を決定する回帰曲面決定ステップと、
前記回帰曲面で示される振幅の最大値を求め、この最大値を真の最大振幅とすると共にこの真の最大振幅を100%としたとき、振幅がN%以上(ただし0<N<100)となる前記フェース面の領域をたわみ量評価領域として特定するたわみ量評価領域特定ステップと、
前記たわみ量評価領域の面積および前記たわみ量評価領域の面積重心点の位置を前記評価データとして算出する評価データ算出ステップとを含む、
ことを特徴とするゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法。
【請求項2】
前記固有値解析ステップによる各節点における前記フェース面と直交する方向の振幅の算出は、前記固有値解析の結果から前記ゴルフクラブヘッドモデルのフェース面における1次共振周波数を特定した後、前記フェース面の各節点について前記特定された1次共振周波数における振幅を算出することによってなされる、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法。
【請求項3】
前記回帰曲面設定ステップによって設定される回帰曲面は、以下の式(1)で示される回帰式によって定義される二次曲面である、
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法。
【数1】

(但し、Aは振幅、a,b,c,d,e,fは回帰係数、y,zはフェース面上に設定された直交座標で規定される座標値)
【請求項4】
前記たわみ量評価領域特定ステップで求められる前記回帰曲面で示される振幅の最大値は、以下の式(2)、式(3)で示される連立方程式を解くことで求められる、
ことを特徴とする請求項3記載のゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法。
【数2】

【数3】

【請求項5】
前記評価データ算出ステップは、前記評価データとして最大たわみ量および最大たわみ点の位置をさらに算出し、
前記最大たわみ量は前記振幅の最大値であり、
前記最大たわみ点の位置は前記振幅の最大値に対応する前記フェース面の位置である、
ことを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載のゴルフクラブヘッドの評価データの計算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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