説明

サッシ枠への防火性材料の充填方法及びこの充填方法に用いられる防火性材料の充填装置

【課題】 サッシ材の空洞部内に防火性材料を作業効率よく、かつ可及的均一に充填させて、防火性能を一段と向上させるとともに、特に既成のサッシ枠の空洞部への防火性材料の充填率を大幅に高める。
【解決手段】 サッシ枠4の上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面または側枠の上端部の内周面に、サッシ材5の空洞部11に連通する充填口19を設け、この充填口19に第1筒状治具21を挿着し、この第1筒状治具21を介して、粒子状または粉末状をなす熱硬化性の防火性材料16を空洞部11内に圧送するとともに、充填口19に対してほぼ対角線の位置関係に位置する、下枠4Bの端部の内周面または側枠4Cの下端部の内周面に、空洞部11が外部に連通する排気口20を設け、この排気口20に第2筒状治具25を挿着し、この第2筒状治具25を介して空洞部11内の空気を外部に排気しうるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば住宅や事務所等の建物躯体の開口部に組付けられる合成樹脂製窓の防火性能を向上させる方法及び合成樹脂製窓の防火性能を向上させるために用いる充填装置に関する。
【0002】
合成樹脂製窓は、断熱性や遮音性の特徴を活かすために、一般に、長手方向に沿う空洞部を有する合成樹脂製のサッシ材を方形に組立てることにより、サッシ枠またはサッシ框として構成される。
本明細書においては、「サッシ材」とは、枠材、框材、方立て材を総称し、「サッシ枠」とは、所謂サッシ枠の他に、サッシ框を含めて指称する。同様に、「枠」は「框」を含むものとする。
【0003】
すなわち、本発明は、サッシ枠を構成するサッシ材の長手方向に沿う空洞部内に防火性材料を作業効率よく、かつ可及的均一に充填させるサッシ枠への防火性材料の充填方法及びこの充填方法に用いられる前記空洞部内に防火性材料を充填するための充填装置に関する。
【背景技術】
【0004】
建物は、防災上の観点から不燃化が進められており、特に、火災時における窓からの類焼を避けるために、窓の外部から迫る火炎または輻射熱による着火等による類焼を防止することが重要な課題となっている。
【0005】
例えば引違い戸式または開き戸式の開閉窓あるいは嵌殺し窓等における建物の窓枠を形成するサッシ材においては、アルミニウムからなるアルミニウム製のサッシ材に代わり、断熱性、防音性及び耐腐食性に優れた合成樹脂製のサッシ材が、特に寒冷地を中心に普及している。
【0006】
このようなサッシ材については、火炎に対する防火性能が規定された建築基準法及び同施工令によって所定の防火性能を備えるようにすることが義務付けられている。
また一般に、新たに製造されるサッシ材について、所定の防火性能を付与すべきことは云うまでもないが、既成の窓枠などを形成するサッシ枠に対しても、防火性が付与されるように補修することが望まれる場合がある。
【0007】
防火性能が付与された防火窓においては、サッシ枠自体に防火性能が要求されることは勿論であるが、火災時などにおいて、加熱されたサッシ枠がガラスの荷重により変形した場合、サッシ枠に、ガラスあるいはガラスが一体に組付けられた障子を、少なくとも上記建築基準法及び同施工令によって規定された時間を経過するまで脱落しないように遅延させて保持することも重要である。
【0008】
このような火災時などにおけるガラスの荷重により有害な変形を生じさせないようにした防火性サッシ材としては、中空構造を有するサッシ材の空洞部に、耐熱性を有する特定組成のセメント組成物を充填し硬化させたものが知られている(特許文献1参照)。
【0009】
しかし、前記特許文献1に記載された防火性サッシ材は、性能自体は優れるものの、セメント組成物の充填性に問題がある。
すなわち、セメント組成物は、硬化性を有するため、サッシ材の空洞部に充填する直前に調製しなければならず、また充填を均一にするためには、相応の工夫を要し、充填作業性に問題があるとともに、調製されたセメント組成物は、充填した後、硬化するまでに時間を要する。
【0010】
また、建物躯体の開口部に装着したままの状態にある既成の窓枠を、防火構造となるように耐火補修を行うに際して、窓枠を形成するサッシ枠の空洞部に、従来知られているセメント組成物をポンプ等の材料圧送手段をもって充填する場合に、例えばサッシ枠が上枠、下枠及び左右の側枠からなる正面視矩形状をなすものであると、充填後において、硬化前のセメント組成物の自重、あるいは硬化後の収縮によって、特に上枠の左右端と左右の側枠上部との間のコーナー部などの特定部分に隙間や空洞などの非充填部分が生じ易く、その結果としてセメント組成物の充填率が不良となる場合がある。
また、サッシ枠の空洞部にセメント組成物を充填した直後に、充填口に挿着された充填治具を引抜くと、空洞部に充填されたセメント組成物が逆流して充填口から噴出し、作業者の着衣や周囲を汚す虞がある。
さらに、火災時に、サッシ枠が加熱されて軟化、溶解あるいは焼失すると、前記隙間や空洞部などの非充填部分から、所謂火炎の通抜けが発生し、火炎を遮断することができなくなり、隣接する建物の類焼やガラスの脱落の要因となって、防火性能を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2774897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の現状に鑑み、サッシ枠を構成するサッシ材の長手方向に沿う空洞部内に防火性材料を作業効率よく、かつ可及的均一に充填させて、防火性能を一段と向上させるとともに、特に既成のサッシ枠の空洞部への防火性材料の充填率を大幅に高めることができるようにしたサッシ枠への防火性材料の充填方法及びこの充填方法に用いられる防火性材料の充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、「特許請求の範囲」の欄における各請求項に記載するように、次のような構成からなる発明によって解決される。
(1) 長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠の前記空洞部内に、粒子状または粉末状をなす熱硬化性の防火性材料を充填するための充填方法であって、サッシ材の上枠の左右方向における一方の端部の内周面または側枠の上端部の内周面に、前記空洞部に連通する充填口を設け、この充填口に第1筒状治具を挿着し、この第1筒状治具を介して前記防火性材料を空洞部内に圧送するとともに、前記充填口に対してほぼ対角線の位置関係に位置する、下枠の端部の内周面または側枠の下端部の内周面に、前記空洞部が外部に連通する排気口を設け、この排気口に第2筒状治具を挿着し、この第2筒状治具を介して空洞部内の空気を外部に排気しうるようにする。
【0014】
(2) 上記(1)項において、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒子状または粉末状をなす熱硬化性の防火性材料を使用する。
【0015】
(3) 上記(1)項または(2)項に記載のサッシ枠への防火性材料の充填方法に使用される充填装置であって、サッシ材の充填口に挿着され、吐出口が、サッシ材の空洞部に連通するように配置される第1筒状治具と、排気口に挿着され、前記空洞部に連通しうるように配置される第2筒状治具とを備えるとともに、第1筒状治具を介して、防火性材料を前記空洞部内に圧送しうるようにし、かつ第2筒状治具を介して、空洞部内の空気を外部に排気しうるようにする。
【0016】
(4) 上記(3)項において、防火性材料を貯留するためのホッパーと、該ホッパーの上流に配置され、このホッパー内の防火性材料を圧送するための加圧空気を供給するためのエアーコンプレッサーと、該ホッパーと第1筒状治具とを接続する防火性材料移送管と、より構成した材料圧送手段を備えるものとする。
【0017】
(5) 上記(4)項において、第2筒状治具を介して、空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための吸引排気手段を備えるものとする。
【0018】
(6) 上記(4)項において、材料圧送手段における防火性材料移送管の第1筒状治具側にエアーコンプレッサーから加圧空気を供給するようにする。
【0019】
(7) 上記(4)項において、ホッパー内の供給口の上方に邪魔板を配設するとともに、この邪魔板の外周面と前記ホッパーの内周壁面との間に防火性材料の流通間隙を形成する。
【0020】
(8) 上記(3)〜(7)項のいずれかにおいて、第2筒状治具の排気口部に、防火性材料の粒径または粉径よりも小径の孔部を備えたエアーフィルター部材を装着する。
【0021】
(9) 上記(3)〜(8)項のいずれかにおいて、サッシ材の充填口及び排気口に、開口部を備える封止部材を、前記開口部を充填口及び排気口に位置を整合させて被着するとともに、この封止部材の開口部を、第1筒状治具及び第2筒状治具のそれぞれの挿入もしくは引抜き動作に応じて、弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにして、第1筒状治具及び第2筒状治具が、前記封止部材の開口部から引抜かれた際に、開口部の縮閉によって、充填口及び排気口を閉塞しうるようにする。
【0022】
(10) 上記(9)項において、封止部材を、充填口または排気口に整合する通孔を中央部に形成した基板と、中央部に前記通孔に整合する通孔を形成したバックアップシートと、前記各通孔に整合する位置にスリット状開口部を設けた弾性膜とにより構成するとともに、この弾性膜を前記基板とバックアップシートとをもって挟持させて一体化する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1に記載の発明によれば、特定の位置に設けられた充填口に第1筒状治具を挿着し、防火性材料をサッシ材の空洞部内に圧送するとともに、該第1筒状治具が挿着された位置と特定の関係を有する位置に設けられた排気口より第2筒状治具を介して空洞部内の空気を排出することにより、空洞部内に防火性材料を容易に充填できるので、充填作業の効率が向上し、また可及的均一に充填され、かつ充填率も大幅に高めることができる。
その結果、防火性能を一段と向上させることができる。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、特定の粒度分布の粒子状または粉末状をなす防火性材料を用いることにより、請求項1記載の発明の効果を、更に向上させることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果と同様な効果を奏する防火性材料の充填装置が得られる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、防火性材料を貯留するためのホッパーを用いるとともに、該ホッパーの上流にエアーコンプレッサーを配置して、防火性材料を加圧空気で圧送するようにしたので、より効率的に請求項3記載の発明の効果と同様な効果を奏する防火性材料の充填装置が容易に得られる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば、材料圧送手段におけるエアーコンプレッサーによる圧縮空気の供給出力と、吸引排気手段における吸引ファンの吸引出力とをバランスさせることにより、効率のよい材料圧送手段と吸引排気手段とを構成することができ、サッシ材の空洞部内への防火性材料の充填を、より安定して行うことができる。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば、材料圧送手段における防火性材料移送管の第1筒状治具側にエアーコンプレッサーから加圧空気を供給するようにしたので、より安定した防火性材料をサッシ材の空洞部内に向けて供給することができ、より確実かつ効率的に請求項4記載の発明の効果と同様な効果を奏する、防火性材料の充填装置が得られる。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば、防火性材料の自重による負荷によって、ホッパーの供給口が閉塞されるのを防止でき、防火性材料を流通間隙から供給口に向けて円滑に流出させることができる。
その結果、防火性材料をサッシ材の空洞部内に向けて安定して供給することができる。
【0030】
請求項8に記載の発明によれば、サッシ材における空洞部内からの防火性材料の外部への漏洩を防止することができるとともに、空気のみを外部に排気することにより、防火性材料を損失することなくサッシ材の空洞部内へ充填することができる。
【0031】
請求項9,10記載の発明によれば、サッシ材の空洞部に防火性材料を充填した直後に、充填口及び排気口に挿着された筒状治具を引抜いても、空洞部に充填された防火性材料が逆流して充填口及び排気口から噴出すことがない。
このため、第1筒状治具および第2筒状治具を再利用(使い回し)することが可能となる。
発明の具体的な内容は、次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における充填装置を用いて、サッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填して耐火補修した後の防火窓を一部破断して示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
【図3】充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に防火性材料を充填する場合の一実施形態を概略的に示す図である。
【図4】図3における円Aの要部拡大縦断面図である。
【図5】第1筒状治具の斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図3における円Bの要部拡大横断面図である。
【図8】第2筒状治具の斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】封止部材の斜視図である。
【図11】同じく、封止部材の分解斜視図である。
【図12】充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に防火性材料を充填する場合の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図13】第1筒状治具の他の実施形態を示す斜視図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明における充填装置を用いて、サッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填して耐火補修後した後の防火窓を一部破断して示す斜視図、図2は、図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
なお、図示の実施例では、図2において、左側を「室内側」とし、右側を「室外側」として説明する。
【実施例】
【0034】
図1及び図2に示すように、本発明の後記する充填装置を用いた耐火補修後の防火窓、例えば複層ガラス窓1は、住宅や事務所等の建物躯体2に設けた開口部3に、合成樹脂製のサッシ枠4を組付けるとともに、このサッシ枠4の内周面4aに、複層ガラスWを嵌め殺し状態をもって装着することにより構成されている。
なお、サッシ枠4は、上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成する断面がやや横長矩形の中空形材からなる合成樹脂製のサッシ材5を方形に組立てることにより構成されている。
また、サッシ材5を構成する中空形材としては、例えば特開平9−137675号公報に開示されているような、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって形成した部材、特開平2000−303743号公報に開示されているような、表面が透明あるいは着色されたアクリル樹脂で被覆された部材等が適宜使用される。
【0035】
なお、本発明の充填方法及び充填装置は、前記したような合成樹脂製のサッシ枠4について好適に使用できるが、中空形材からなるアルミニウムまたはアルミニウム合金製のサッシ材を用いたサッシ枠についても同様に適用できる。
【0036】
サッシ枠4の内周面4aには、図2に要部を拡大して示すように、前記サッシ材5と、このサッシ材5における室内側内周端縁の内側に向けて突出させた突出部6と、前記サッシ材5の室外側内周端縁に形成した取付凹部7に取付けられた押え部材(押縁)8とより囲まれた内周溝部9が形成されている。
この内周溝部9には、前記複層ガラスWの外周端が、嵌合状態をもって保持されるようになっている。
【0037】
複層ガラスWは、例えば、室内側に配置される網入りガラスW1と室外側に配置されるフロートガラスW2とより構成されている。
なお、網入りガラスW1とフロートガラスW2とは、入れ替えた配置としてもよい。
【0038】
サッシ枠4の内周面4aと複層ガラスWの外周端との間には、火災時に複層ガラスWの周囲のサッシ材5が炭化劣化して抜け落ちたとしても、火炎が複層ガラスWの周囲を通り抜けないように、耐火部材10が配設されている。
この耐火部材10としては、セラミックファイバー等の不燃性の繊維、例えば不燃性の繊維部材の全外周面を、シート状またはフィルム状の非通気性部材で被覆してなるものや、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛、ケイ酸金属塩、ホウ酸塩等の熱膨張性無機物、及びこれらを組合せたものが好適に使用することができる。
【0039】
サッシ枠4の上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成するサッシ材5には、長手方向に沿って空洞部11が形成されており、この空洞部11は、前記上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cの全周に亘って互いに連通しうるようになっている。
【0040】
空洞部11は、補強を兼ねた隔壁12をもって、サッシ材5内のほぼ中心部に形成した比較的大きな主要空洞部13と、この主要空洞部13の室外側に隣接させて上下方向の内外2段に形成した比較的小さな小空洞部14A,14Bとに複数に区画されている。
主要空洞部13は、更に隔壁12Aをもって、上下方向の内外2段の大空洞部13A,13Bに区画されてなるとともに、これら大空洞部13A,13Bは、前記隔壁12Aに穿設した通孔15をもって、互いに連通させてある。
【0041】
主要空洞部13には、後記する粒子状または粉末状をなす熱硬化性の乾式耐火材料からなる防火性材料16が、内外の空洞部13A,13Bに跨って充填されており、この防火性材料16の充填によって、前記サッシ枠4を、所望の防火性能を有する防火構造に補修することができる。
【0042】
なお、図1、図2に示すように、サッシ枠4を補強する目的で、ステンレススチールなどの金属からなる断面ほぼコ字形をなす長尺な補強材17が、サッシ材5の主要空洞部13A,13Bの内部に保持されるように、ビス18によって螺着されている。
【0043】
次に、建物躯体2の開口部3に装着された既成の複層ガラス窓1のサッシ枠4を防火構造に補修する作業工程を説明する。
【0044】
図3は、充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に防火性材料を充填する場合の一実施形態を概略的に示す図、図4は、図3における円Aの要部拡大縦断面図、図5は、第1筒状治具の斜視図、図6は、図5のVI−VI線断面図、図7は、図3における円Bの要部拡大横断面図、図8は、第2筒状治具の斜視図、図9は、図8のIX−IX線断面図、図10は、封止部材の斜視図、図11は、同じく、封止部材の分解斜視図である。
また、図12は、充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に防火性材料を充填する場合の他の実施形態を概略的に示す図、図13は、第1筒状治具の他の実施形態を示す斜視図、図14は、図13のXIV−XIV線断面図である。
【0045】
本発明に係る充填装置によるサッシ枠4への防火性材料16の充填作業は、充填前に、まず、複層ガラスW、押え部材8、耐火部材10、その他のシール部材などをサッシ枠4から取除く。
【0046】
次いで、図3〜図9に示すように、サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19(図2、図4参照)を穿設する。
この充填口19は、必ずしも上枠4Aに設ける必要はなく、図12に示すように、側枠4Cの上端部の内周面に設けることもでき、この場には、防火性材料16の充填に際して、枠の形状(例えば図12に示す方立て4Dの有無など)の影響を受け難いという利点がある。
一方、前記充填口19とほぼ対角線上に位置する前記サッシ枠4の下枠4Bにおける左右方向の端部または側枠4Cの下端部(本実施形態においては、側枠4Cの下端部)の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19より下方に位置するように、排気口20(図7参照)を離間させて穿設する。
これらの充填口19及び排気口20は、前記サッシ材5における空洞部11の内部を主要空洞部13A,13Bに区画する隔壁12Aに設けた通孔15と対向する位置に孔明け加工されることが好ましい。
本発明の方法では、充填口19と排気口20とを、前記したような位置関係で設けることにより、防火性材料16を、このような空気による圧送により、サッシ材5の空洞部11内に高い充填率で均一に充填することができる。
【0047】
充填装置は、図3、図4、図12に示すように、前記サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに開口させた充填口19から、前記サッシ材5における空洞部11の内部に向けて挿着される第1筒状治具21または第1筒状治具21´を備えている。
【0048】
第1筒状治具21は、図5、図6に示すように、例えば金属などの有底な円筒体22からなり、この円筒体22における長手方向のほぼ中間部外周には、充填口19への挿着時に、前記上枠4Aの内周面4aに外側から当接するように張出す平面視矩形をなす金属などの当接板23が溶接等によって固着されている。
前記充填口19に挿着される第1筒状治具21の当接板23から上方部分の挿入端部21aとなる円筒体22の上端面21bは閉塞されているとともに、この挿入端部21aの周側面には、2つの吐出口24が開口されている。
この2つの吐出口24は、前記充填口19に第1筒状治具21を挿着した際に、サッシ材5の空洞部11における主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通しうるように配置される。
【0049】
なお、前記した第1筒状治具具21´は、図13、図14に示すように、挿入端部21aが前記第1筒状治具21とは異なる管状体からなるものを使用することも可能である。
この第1筒状治具21´は、図5、図6に示す第1筒状治具21において、その閉塞された挿入端部21aにおける上端面21bの端面を開口させて、吐出口24としてなるものである。
このような管状体である第1筒状治具21´を用いた場合には、前記充填口19に、該第1筒状治具21´の挿入端部21aが大空洞部13A内に入っていれば、大空洞部13A内は勿論大空洞部13B内にも通孔15を通して問題なく防火性材料16を充填することができる。
【0050】
充填装置は、第1筒状治具21または第1筒状治具21´以外に、図3、図7、図12に示すように、第1筒状治具21または第1筒状治具21´が挿着される前記充填口19とほぼ対角線上に位置する側枠4Cの下端部の内周面4aに開口させた排気口20に挿着される第2筒状治具25を備えている。
【0051】
第2筒状治具25は、図8、図9に示すように、前記第1筒状治具21と同様に、例えば金属などの円筒体26からなり、この円筒体26における長手方向のほぼ中間部外周には、排気口20への挿着時に、側枠4Cの内周面4aに外側から当接するように張出す平面視矩形をなす金属製の当接板27が溶接等によって固着されている。
円筒体26の一方の端部は、前記排気口20に挿入される第2筒状治具25の挿入端部25aとなるとともに、この挿入端部25aに、防火性材料16を構成する乾式耐火材料の粒径または粉径よりも小径の孔部を備えた金網等からなる有底円筒状のエアーフィルター部材28を装着することによって、排気口部が形成される。
【0052】
エアーフィルター部材28は、前記排気口20に第2筒状治具25を挿着した際に、サッシ材5の主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通しうるように配置されることが好ましい。
なお、エアーフィルター部材は、防火性材料16が排気口20から外部に排出されるのを防止し、空気のみを排出する機能を有するものであれば、その形状は有底円筒状に限定されるものではなく、例えば第2筒状治具25の端部の開口を覆うような膜状の物であってもよい。
【0053】
前記充填口19及び排気口20には、図4、図7に示すように、封止部材29が、サッシ枠4の内周面4aと第1筒状治具21の外周に設けた当接板23、及び第2筒状治具25の外周に設けた当接板27との間に介在するようにして被着されている。
【0054】
封止部材29は、図10および図11に示すように、例えば硬質塩化ビニルからなる基板30と、天然スポンジゴム等からなるバックアップシート31と、基板30とバックアップシート31との間に配置した薄型のゴムシートからなる弾性的に伸縮自在な弾性膜32とより構成されている。
前記弾性膜32は、基板30の裏面に配置されているとともに、前記基板30とバックアップシート31との間に挟持させ一体化されている。
これら基板30、バックアップシート31、及び弾性膜32は、前記第1及び第2筒状治具21の当接板23、27とほぼ同一な平面視矩形形状を有する。
【0055】
基板30とバックアップシート31の中央部には、互いに整合する位置に通孔33、34がそれぞれ穿設されている。
基板30とバックアップシート31との間に挟持され一体化された弾性膜32の中央部には、前記通孔33、34に整合するように位置させて、それらの通孔33、34の孔径とほぼ同一長さのスリット状開口部35が設けられている。
【0056】
通孔33、34及びスリット状開口部35を備える封止部材29は、前記通孔33、34及びスリット状開口部35を充填口19または排気口20に位置を整合させて、充填口19または排気口20に被着するとともに、前記弾性膜32のスリット状開口部35を、第1筒状治具21及び第2筒状治具25のそれぞれの挿入もしくは引抜き動作に応じて、弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにしてある。
【0057】
すなわち、第1筒状治具21または第1筒状治具21´の前記吐出口24が形成された挿入端部21aまたは第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28が、封止部材29を構成する基板30の通孔33からバックアップシート31の通孔34に向けて挿入されると、弾性膜32のスリット状開口部35が強制的に拡開方向に伸長され、拡開状態となる。
これにより、充填口19または排気口20が開口され、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´または第2筒状治具25を、封止部材29を介して充填口19または排気口20からサッシ枠4を構成するサッシ5の空洞部11内へ向けて挿着することができる。
【0058】
一方、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´または第2筒状治具25の挿着状態において、第1または第2筒状治具21,21´,25を、サッシ材5の空洞部11から封止部材29を介して引抜くと、弾性膜32のスリット状開口部35が、拡開状態から縮閉状態に弾性的に復帰しうるように縮閉されることが好ましい。
これにより、第1筒状治具21あるいは第1筒状治具21´または第2筒状治具25が充填口19または排気口20から引抜かれた際にも、封止部材29によって充填口19および排気口20を閉塞させることができる。
このため、第1筒状治具21または第1筒状治具21´及び第2筒状治具25を再利用(使い回し)することが可能となる。
【0059】
第1筒状治具21または第1筒状治具21´及び第2筒状治具25を取り外した後は、前記弾性膜32のスリット状開口部35からセラミックス繊維やガラス繊維などの不燃性繊維を詰め込んで充填口19および排気口20を塞ぎ、充填した防火性材料16がこぼれ出ないようにしてから、封止部材29を取り外し、キャップ等の部品をもって充填口19及び排気口20を閉塞することが好ましい。
そうすることにより、長期間使用しても防火性材料16が外部にこぼれ出ることを防止することができるばかりでなく、封止部材29を再利用することができる。
【0060】
充填装置は、図3及び図12に示すように、防火性材料16を貯留するためのホッパー36と、該ホッパー36の上流に配置され、このホッパー36内の防火性材料16を圧送するための加圧空気を供給するためのエアーコンプレッサー37と、該ホッパー36と第1筒状治具21または第1筒状治具21´とを接続する防火性材料移送管、具体的には供給ホース(防火性材料移送管)38と、前記ホッパー36内にエアーコンプレッサー37からの加圧空気を供給するエアーホース39と、より構成した材料圧送手段を備えていることが好ましい。
すなわち、前記第1筒状治具21または第1筒状治具21´は、図3、図12に示すように、防火性材料16が貯留されるホッパー36の供給口36aに、供給ホース38を介して接続されていることが好ましい。
【0061】
ホッパー36内には、エアーコンプレッサー37に接続されたエアーホース39を介して、エアーコンプレッサー37とホッパー36との間に配置されている調圧弁40により圧力が調整された空気がバルブ41を介して圧送されるようになっており、これらホッパー36とエアーコンプレッサー37とにより材料圧送手段を構成している。
【0062】
空気が圧送されたホッパー36内の防火性材料16は、供給ホース38に接続された第1筒状治具21または第1筒状治具21´を介して、空気と共にサッシ枠4の充填口19から、サッシ材5の空洞部11内に強制的に圧送される。
【0063】
ホッパー36内における供給口36aの上方近傍には、邪魔板42が配設されている。
この邪魔板42の外周面とホッパー36の内周壁面との間には、防火性材料の流通間隙43が形成されている。
邪魔板42は、防火性材料16の自重による負荷によって、ホッパー36の供給口36aを閉塞するのを防止し、防火性材料16をホッパー36の流通間隙43から供給口36aに向けて円滑に流出させるためのものである。
【0064】
上記材料圧送手段を有する充填装置では、第1筒状治具21または第1筒状治具21´を、サッシ枠4の上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面又は側枠4Cの上端部の内周面に設けられた充填口19に挿着し、第2筒状治具25を下枠4Bの端部の内周面又は側枠4Cの下端部の内周面に設けられた排気口20に挿入し、第1筒状治具21または第1筒状治具21´を介して、防火性材料16を前記空洞部11内に加圧空気により圧送するので、防火性材料16をサッシ材5の空洞部11内に高い充填率で均一に充填することができる。このとき、充填装置においては、サッシ材5の空洞部11内への防火性材料16の充填を、より安定して行ために、図3に示されるように、第2筒状治具20を介して、空洞部11内の空気を吸引し外部に排気するための吸引排気手段を備えるものとすることが好ましい。
こうすることにより、材料圧送手段による空洞部11内への空気の防火性材料16との圧送力と、吸引排気手段による空洞部11内の空気の吸引排気力とを最適にバランスさせることにより、防火性材料16の充填率を向上させることができる。
【0065】
すなわち、図3に示される態様においては、第2筒状治具25は、吸引排気手段としての吸引ファン44に、吸引ホース45を介して接続されている。
吸引ファン44は、ホッパー36内からサッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11内に空気と共に圧送された防火性材料16を、第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28によって、外部に漏洩しないように阻止して、空気のみを強制的に吸引し外部に排気するようになっている。
これにより、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11に防火性材料16を密実に充填することができる。
【0066】
また、充填装置においては、より安定して防火性材料16をサッシ材5の空洞部11内に向けて供給し、より確実且つ効率的に高充填率で充填して高い防火性能を得るために、図12に示されるように、前記材料圧送手段における防火性材料移送管としての供給ホース38の第1筒状治具21または第1筒状治具21´側にエアーコンプレッサー37から加圧空気を供給するようにすることが好ましい。
【0067】
すなわち、図12に示される態様では、調圧弁40より下流側でエアーホース39を2つに分岐させ、一方を主管39aとしてホッパー36側にバルブ41を介して接続するとともに、もう一方を枝管39bとしてバルブ46を介して供給ホース38に接続することにより、防火性材料16の圧送に際し、エアーコンプレッサー37から供給される加圧空気を、供給ホース38の途中から別途供給して防火性材料16の圧送をアシストするようにしている。
こうすることにより、圧送を連続的に安定して行うことが可能になり、圧送時における一時的な詰まりを解消するために枠に振動を与えるなどの補助的手段を用いる必要がなくなるばかりでなく、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11に防火性材料16をより確実に密実に充填することができるようになる。
【0068】
なお、前記枝管39bが供給ホース38に接続される位置は、第1筒状治具21または第1筒状治具21´より5〜20cm、特に10〜15cm上流であることが好ましい。
【0069】
防火性材料16は、熱硬化性であれば特に制限されないが、圧送するためには、粒子状または粉末状であることが好ましい。
また、防火性材料16をサッシ材5の空洞部11内に圧送したときに密充填され易く、充填後において自重や振動などにより空隙が発生し難いという理由からは、次のような粒度分布を有する粒子状又は粉末状のものを使用することが好ましい。
すなわち、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下(0〜30質量%)であり、粒子径が300μm以上、500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上(30〜100質量%)であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下(0〜20質量%)であるような粒度分布(以下、粒度分布Aともいう。)を有する粒子状または粉末状のものを使用することが好ましく、粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が20質量%以下、特に1〜20質量%であり、粒子径が300μm以上、500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が40質量%以上、特に40〜90質量%であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が10質量%以下、特に5〜10質量%であり、残余が粒子径が500μmを越え600μm未満であるような粒度分布(以下、「特に」で規定される粒度分布を粒度分布Bともいう。)を有する粒子状又は粉末状のものを使用することが特に好ましい。
なお、上記粒子度分布は、乾式ふるい分け試験方法(JIS K 0069)による粒度測定結果に基づくものである。
たとえば、1mの長さに切断した中空のサッシ材の一端にエアーフィルターを配置し、粒度分布の異なる防火性材料を圧送して密充填してからサッシ材の側面をハンマーで叩くことにより振動を与えて強制的に防火性材料を締め固めたときに発生する隙間の体積を測定したところ、前記粒度分布Aから外れる粒度分布を有する防火性材料を用いたときに発生した隙間は充填空間の全体積に対して10〜15%程度であったのに対し、粒度分布AおよびBを有する防火性材料を用いたときに発生した隙間は、それぞれ5〜9%及び5〜7%であった。
【0070】
防火性材料16としては、例えば、粒子状または粉末状をなす熱硬化性の乾式耐火材料からなり、耐熱性無機粒子と、100℃〜800℃の温度に加熱されたときに、前記耐熱性無機粒子の結合剤として機能する高温結合剤とを含有しているものが好ましく使用される。
かかる防火性材料16を用いれば、火災時などにおいて、高温に加熱された場合には、高温結合剤が耐熱性無機粒子の結合剤として機能し、高い強度を有するとともに、耐熱性、耐火性を有する硬化体が形成される。
サッシ枠4の上枠4A,4B,4C、4Dを構成する各サッシ材5が、熱により強度を失ったとしても、空洞部11に形成された硬化体により、複層ガラスWを支持し続けることができるため、複層ガラスWの脱落を防止することができる。
【0071】
前記耐熱性組成物における耐熱性無機粒子としては、800℃、好ましくは900℃に加熱されても、軟化したり、溶融したりしない無機物質からなる粒子または粉末であれば使用可能であり、砂、珪砂、天然岩石の粉砕物、珪藻土、シラス、アルミナ、クレー、カオリン、タルク等の天然鉱物、陶、磁器粉、ガラス粉、フライアッシュ等の合成無機材料が使用できる。
例えば、軽量化という観点から好適に使用できる耐熱性無機粒子を例示すれば、パーライト、バーミキュライト、ガラスバルーン、シラスバルーン、石炭灰バルーン、セラミック系バルーン等をあげることができる。
これら耐熱性無機粒子は、1種類のみを用いてもよく、異なる複数の種類を併用してもよい。
【0072】
これら耐熱性無機粒子の中でも、断熱性の高いガラスバルーン、シラスバルーン(フライアッシュバルーン)、セラミック系バルーン等の無機中空粒子を、特に好ましく使用することができる。
このような無機中空粒子を使用した場合には、その硬化体が高い断熱性能を有するため、火災時においても、サッシ材5の非加熱面の熱による損傷を大幅に低減することができ、より優れた防火性を発揮することができる。
なお、耐熱性無機粒子として断熱性の高い無機中空粒子を使用した場合には、加熱面からの熱が伝わりにくいため、サッシ材5の空洞部11内の耐熱性組成物が全て硬化することはないが、加熱面近傍においては、十分な硬化が起こり、更に熱が伝わらない部分のサッシ材5は、熱損傷を殆んど受けない。
したがって、残存するサッシ材5と加熱面近傍との硬化体が、未硬化の耐熱性無機粒子を保持することになり、サッシ材5の加熱面が炭化劣化や溶融して消失しても、未硬化の耐熱性無機粒子は崩落しないので、複層ガラスWを支持し続けることができるという効果が得られることになる。
このような観点から、耐熱性組成物としては、耐熱性無機粒子の30容積%以上、特に50容積%以上が無機粒子であることが好ましく、就中80容積%以上が無機中空粒子であることが最も好ましい。
【0073】
前記耐熱性組成物の1成分として使用される高温結合剤とは、100℃〜800℃の温度に加熱されたときに、反応、あるいは粘着性を発現することによって、互いに隣接する耐熱性無機粒子同士を結合させて強度を高める働きをするものを意味する。
高温結合剤としては、このような機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体、又は軟化温度が100℃〜800℃であるガラスフリット等を使用することができる。
ガラスフリットを用いた場合には、例えば800℃を超えるような高温に加熱すると、ガラスフリットの粘性が低下し、流動し易くなるために、変形防止能が低下することがあるが、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体を用いた場合には、加熱により硬化するので、高い強度を維持することができる。
このような理由から、高温結合剤としては、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体を使用することが好ましい。
【0074】
ここで、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、アルキド樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、及びケイ素樹脂(シリコーン)を挙げることができる。
これら熱硬化性樹脂は、比較的低分子量で加熱することにより、更に硬化するものであることが好ましいが、硬化がほぼ完了したものを含んでいてもよい。
また、熱硬化性樹脂の前駆体とは、加熱することによって反応し、熱硬化性樹脂を与えるような原料物質であり、各種プレポリマーや硬化剤などを意味する。
例えば800℃を超えるような高温においても分解し難い高耐熱性熱硬化性樹脂の前駆体、または分解したとしても炭素成分が残存して硬化体の形状を維持することのできる熱硬化性樹脂の前駆体を使用することが好ましい。
また、取扱いの容易さという観点から、常温で固体であるものを使用することが好ましい。
このような理由から、フェノール樹脂及び/又はその前駆体、具体的には、ノボラック樹脂とその硬化剤(例えばヘキサメチレンテトラミンなど)との組合せ、レゾール樹脂などを使用することが、特に好ましい。
【0075】
前記耐熱性組成物における耐熱性無機粒子と高温結合剤との配合割合は、高温結合剤が有効に機能するものであれば特に限定されず、使用する材料の種類に応じて適宜決定すればよい。
好適な配合割合は、使用する材料によって異なるため、一概に規定することはできないが、通常、耐熱性無機粒子1リットルに対し、高温結合剤10〜150g、好ましくは30〜120gの範囲である。
【0076】
前記耐熱性組成物において、高温結合剤は、単に耐熱性無機粒子と混合して使用することができるが、高温結合剤として機能を十分発揮させるためには、耐熱性組成物として前記サッシ材5の空洞部9内に充填したときに偏在しないように耐熱性無機粒子と均一に分散させることが好ましい。
また、このような均一分散の状態を確実に実現するためには、耐熱性無機粒子の表面を覆う被膜として存在することが好ましい。別言すれば、前記耐熱性組成物は、高温結合剤で被覆された耐熱性無機粒子(以下、コーティング粒子ともいう。)の集合体である粒状もしくは粉末状の組成物であることが好ましい。
【0077】
コーティング粒子を製造し易くするためには、フェノール樹脂及び/又はその前駆体、具体的には、ノボラック樹脂とその硬化剤(例えばヘキサメチレンテトラミンなど)との組合せを使用することが特に好ましい。
このようなコーティング粒子は、特開平4−114976号公報、特開平4−371806号公報などに記載された方法により容易に製造することができる。
また、このようなコーティング粒子は、耐水性を有するが、より高い耐水性を付与するために、撥水処理などを施してもよい。
【0078】
なお、このような方法により製造されるコーティング粒子からなる耐熱性組成物、例えばフライアッシュバルーンやシラスバルーンをフェノール樹脂でコートした複合体粒子からなる耐熱性組成物は、例えば180℃に加熱することにより硬化し、曲げ強度が190〜220kg/cm2、曲げ弾性率が1.85×104〜2.5×104kg/cm2といった、高い強度を有する硬化体となる。
このような強度は、硬化体単独で複層ガラスWを支えるに十分なものである。
【0079】
前記耐熱性組成物は、その効果を損なわない範囲で、耐熱性無機粒子及び高温結合剤以外の成分として耐熱発泡材料、セラミックス繊維などの難燃性材料を含んでいてもよい。
また、前記耐熱性組成物は、硬化に影響を及ぼさず、かつ液体成分が遊離せずに表面が乾いた状態の粒状もしくは粉体となるような量であれば、液体成分を含むこともできる。
【0080】
本実施形態におけるサッシ枠4のサッシ材5では、複層ガラスWの荷重を支えるという観点から、主要空洞部13のみに防火性材料16を充填しているが、加熱時において、より強固に複層ガラスWを支持するためには、主要空洞部13の室外側に隣接する小空洞部14A,14Bの内部にも充填することが、一層好ましい。
【0081】
一般に、火災時においては、室内側から加熱されることが多いが、隣家において火災が発生した場合には、室外側から加熱されることになる。
いずれの場合においても、高い防火性を発揮させるためには、サッシ材5の主要空洞部13及び小空洞部14A,14Bの全て、更には押え部材の内部に存在する空洞部にも防火性材料16を充填することが最も好ましい。
【0082】
また、サッシ枠4への防火性材料16の充填に際して、防火性材料16を圧送する空気の圧力及び流量の最適範囲は、図3及び図12に示す態様と共に、例えば充填口19における圧力と排気口20における圧力の差(差圧)が0.15〜0.20MPaとなるようにすることが好ましい。
このとき、安全性の観点から充填口19における圧力は、0.05MPaG(MPaGは、ゲージ圧、すなわち絶対圧から大気圧を差し引いた圧力(MPa)を意味する。)以上、0.2MPaG以下、特に0.1MPaG〜0.15MPaGとなるようにすることが好ましい。
また、好適な流量は、大気圧下における空気の流量で表して150〜250リットル/分、特に180〜220リットル/分である。
【0083】
また、このような耐熱性組成物は、常温では硬化しないため、長期間の保存が可能であり、耐熱性組成物を調製してから充填するまでの時間的制限がないという利点もある。
したがって、耐熱性組成物を製造する場所や時期は任意に決めることができる。
さらに、充填後に硬化処理などの後処理も不要である。
【符号の説明】
【0084】
1 複層ガラス窓
2 建物躯体
3 開口部
4 サッシ枠
4A 上枠
4B 下枠
4C 側枠
4D 方立て
4a 内周面
5 サッシ材
6 突出部
7 取付凹部
8 押え部材(押縁)
9 内周溝部
10 耐火部材
11 空洞部
12 隔壁
12A 隔壁
13 主要空洞部
13A,13B 大空洞部
14A,14B 小空洞部
15通孔
16 防火性材料
17 補強材
18 ビス
19 充填口
20 排気口
21、21´ 第1筒状治具
21a 挿入端部
21b 上端面
22 円筒体
23 当接板
24 吐出口
25 第2筒状治具
25a 挿入端部
26 円筒体
27 当接板
28 エアーフィルター部材(吸引口部)
29 封止部材
30 基板
31 バックアップシート
32 弾性膜
33,34 通孔(開口部)
35 スリット状開口部(開口部)
36 ホッパー(材料圧送手段)
36a 供給口
37 エアーコンプレッサー(材料圧送手段)
38 供給ホース(防火性材料移送管)
39 エアーホース
39a 主管
39b 枝管
40 調圧弁
41 バルブ
42 邪魔板
43 流通間隙
44 吸引ファン(吸引排気手段)
45 吸引ホース
46 バルブ
W 複層ガラス
W1 網入りガラス
W2 フロートガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠の前記空洞部内に、粒子状または粉末状をなす熱硬化性の防火性材料を充填するための充填方法であって、
サッシ枠の上枠の左右方向の一方の端部の内周面または側枠の上端部の内周面に、前記空洞部に連通する充填口を設け、この充填口に第1筒状治具を挿着し、この第1筒状治具を介して前記防火性材料を空洞部内に圧送するとともに、前記充填口に対してほぼ対角線の位置関係に位置する、下枠の端部の内周面または側枠の下端部の内周面に、前記空洞部が外部に連通する排気口を設け、この排気口に第2筒状治具を挿着し、この第2筒状治具を介して空洞部内の空気を外部に排気しうるようにすることを特徴とするサッシ枠への防火性材料の充填方法。
【請求項2】
粒子径が200μm以下である粒子の含有割合が30質量%以下であり、粒子径が300μm以上500μm以下の範囲にある粒子の含有割合が30質量%以上であり、粒子径が600μm以上である粒子の含有割合が20質量%以下である粒子状または粉末状をなす熱硬化性の防火性材料を使用する請求項1に記載のサッシ枠への防火性材料の充填方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のサッシ枠への防火性材料の充填方法に使用される充填装置であって、
サッシ材の充填口に挿着され、吐出口が、サッシ材の空洞部に連通するように配置される第1筒状治具と、排気口に挿着され、前記空洞部に連通しうるように配置される第2筒状治具とを備えるとともに、第1筒状治具を介して、防火性材料を前記空洞部内に圧送しうるようにし、かつ第2筒状治具を介して、空洞部内の空気を外部に排気しうるようにしたことを特徴とする防火性材料の充填装置。
【請求項4】
防火性材料を貯留するためのホッパーと、該ホッパーの上流に配置され、このホッパー内の防火性材料を圧送するための加圧空気を供給するためのエアーコンプレッサーと、該ホッパーと第1筒状治具とを接続する防火性材料移送管と、より構成した材料圧送手段を備えるものとした請求項3記載の防火性材料の充填装置。
【請求項5】
第2筒状治具を介して、空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための吸引排気手段を備えるものとした請求項4記載の防火性材料の充填装置。
【請求項6】
材料圧送手段における防火性材料移送管の第1筒状治具側にエアーコンプレッサーから加圧空気を供給するようにした請求項4記載の防火性材料の充填装置。
【請求項7】
ホッパー内の供給口の上方に邪魔板を配設するとともに、この邪魔板の外周面と前記ホッパーの内周壁面との間に防火性材料の流通間隙を形成した請求項4記載の防火性材料の充填装置。
【請求項8】
第2筒状治具の排気口部に、防火性材料の粒径または粉径よりも小径の孔部を備えたエアーフィルター部材を装着した請求項3〜7のいずれかに記載の防火性材料の充填装置。
【請求項9】
サッシ枠の充填口及び排気口に、開口部を備える封止部材を、前記開口部を充填口または排気口に位置を整合させて被着するとともに、この封止部材の開口部を、第1筒状治具及び第2筒状治具のそれぞれの挿入もしくは引抜き動作に応じて、弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにして、第1筒状治具及び第2筒状治具が、前記封止部材の開口部から引抜かれた際に、開口部の縮閉によって、充填口及び排気口を閉塞しうるようにした請求項3〜8のいずれかに記載の防火性材料の充填装置。
【請求項10】
封止部材を、充填口または排気口に整合する通孔を中央部に形成した基板と、中央部に前記通孔に整合する通孔を形成したバックアップシートと、前記各通孔に整合する位置にスリット状開口部を設けた弾性膜とにより構成するとともに、この弾性膜を前記基板とバックアップシートとをもって挟持させ一体化した請求項9記載の防火性材料の充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−12913(P2012−12913A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153383(P2010−153383)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(300088186)株式会社エクセルシャノン (30)
【Fターム(参考)】