説明

サブユニットを殆ど含まない糖タンパク質組成物及びその製造方法

本発明は、サブユニットを殆ど含まない糖タンパク質組成物をを提供する。本発明はまた、その製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質薬物の精製の分野に関する。特に、不妊を治療するための糖タンパク質を含む水溶液の凍結乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊を治療するための糖タンパク質は一連の構造が類似するものであり、絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、閉経ゴナドトロピン(HMG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体ホルモン(LH)を含むが、そのうち、閉経ゴナドトロピンは卵胞刺激ホルモンと黄体ホルモンとを所定の比率(1:0.1−1)で含有する混合物である。
【0003】
HCG、FSHおよびLHは、いずれもα鎖とβ鎖の2つのサブユニットが非共有結合を介して結合したものであるが、それらのαサブユニットは全く同様で、92のアミノ酸を含み、分子量が約14500 Dで、52と78番目のアミノ酸のアスパラギンがN−グリコシル化されるアミノ酸である。HCGのβサブユニットは、145−147のアミノ酸を含み、分子量が約22200−39000 Dで、13と30番目のアミノ酸のアスパラギンおよび121、127、132、145の位置がグリコシル化されるサイトである。FSHのβサブユニットは、111のアミノ酸で構成され、分子量が約18000 Dで、7と24番目のアミノ酸のアスパラギンがN−グリコシル化されるアミノ酸である。LHのβサブユニットは、121のアミノ酸で構成され、分子量が約14800 Dである。
【0004】
HCG、HMG、FSH、LHは臨床で主に不妊治療及び体外からの生殖補助に用いられる。これらは特定な女性(妊娠期または閉経後)の尿から採取でき、DNA組換え技術によっても製造できる。
【0005】
不妊を治療するための糖タンパク質の第一世代の製品は20世紀60年代におけるセロノ(Serono)社のProfasi(HCG)、Pergonal(HMG)であるが、これらの純度はいずれも低く、不純物を大量含んでいる。20世紀80年代以来、セロノ社により、不純物含有量の低い高純度FSH製剤であるMetrodin−HPが、さらにDNA組換え技術で生産されたGonal−F(rFSH)、Luveris(rLH)などが、それぞれ発売され、また、フェリング社(Ferring)により、高純度閉経期ゴナドトロピンであるMenopurが発売された。
【0006】
これによって、現在の市場においては、通常の低純度製品における不純物タンパク質によるアレルギー反応を克服するように、通常の低純度製品を代えるための高純度糖タンパク質ホルモンの開発と使用が注目されている。しかしながら、各種の精製手段で得られる高純度糖タンパク質は、原料薬の段階と製剤製品段階との二つの段階を経たなければならない。この二つの段階は固体の態様でも、液体の態様でもよい。通常はなるべく液体の態様ではなく、固体の態様を採取するべきである。その原因は、液体の態様が−20℃以下で保管しなければ、糖タンパク質が失活しやすいので、原料薬にとって、液体の形態が保存・輸送しにくいため;液体の態様では、凍結−溶解の過程だけでなく、凍結−溶解の過程の繰り返しさえあるので、糖タンパク質の失活がより起こされやすいため;液体の態様では、包装容器は低温で脆化点に近く、割れが生じやすいためなどである。製剤製品にとって、液体の態様は輸送しにくいだけでなく、公開番号CN1309567Aの特許出願に開示されるように、液体態様の糖タンパク質薬物は安定性が劣り、防腐剤を添加しないと、使用期限内に微生物が増殖しないことを保障できないという問題もある。
【0007】
固体の態様は主に凍結乾燥の手段で得られるが、高純度の糖タンパク質が凍結乾燥中に変性・失活しやすく、変性・失活の主な表現は、完全な分子がα鎖とβ鎖の2つのサブユニットに分解することである。これらのサブユニットは不純物であって、治療効果がない或いは副作用がある異性体であるため、従来の高純度糖タンパク質の凍結乾燥製剤は、凍結乾燥の工程における失活状況を解消させるように、仕込みに際して10−30%過剰の量で行われるとともに、製品においては一定の量のサブユニットが生じて製品の純度を降下させてしまう。分解し失活することを引き起こす原因は、その一つが佐剤の元の配合が不合理であること、もう一つが凍結乾燥のプロセスには更なる改良が必要になることである。
したがって、本分野では、不妊の治療に好適に適用することができる糖タンパク質の凍結乾燥方法、及びこれにより得られるサブユニットを殆ど含まない糖タンパク質薬物が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、糖タンパク質を含有する水溶液の凍結乾燥方法、及びこれにより得られるサブユニットを殆ど含まない糖タンパク質薬物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、サブユニット含有量が10wt%を超えない糖タンパク質組成物を提供する。
もう一つの好ましい例において、前記糖タンパク質は、絨毛性ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものである。
もう一つの好ましい例において、前記絨毛性ゴナドトロピンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト絨毛性ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記閉経ゴナドトロピンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト閉経ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記卵胞刺激ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト卵胞刺激ホルモン又はその変異体であり、前記黄体ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト黄体ホルモン又はその変異体である。
もう一つの好ましい例において、前記糖タンパク質組成物におけるサブユニット含有量が5wt%を超えない。
もう一つの好ましい例において、前記組成物は凍結乾燥粉末である。
【0010】
本発明の第二の態様は、
(a)真空下で予備凍結された糖タンパク質含有水溶液を、0.05−5℃/分の昇温速度でトレー温度を溶液の共晶点より1−20℃低い温度まで昇温して1−30時間維持する工程と、
(b)0.05−5℃/分の昇温速度でトレー温度を≧0℃になるまで昇温して1−20時間維持し、糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を得る工程と、
を含む、糖タンパク質入り水溶液の凍結乾燥方法を提供する。
もう一つの好ましい例において、工程(a)における昇温速度は0.07−3℃/分であり、工程(b)における昇温速度は0.06−1.5℃/分であり、より好ましくは、工程(a)の前にはさらに、糖タンパク質含有水溶液を0.5−5時間予備凍結する工程を含む。
【0011】
もう一つの好ましい例において、前記糖タンパク質含有水溶液における糖タンパク質の濃度は1μg/mL−80mg/mL、より好ましくは500μg/mL−60mg/mLである。
もう一つの好ましい例において、工程(a)における糖タンパク質含有水溶液における糖タンパク質は高純度糖タンパク質である。
もう一つの好ましい例において、工程(b)では、サブユニット含有量≦10wt%、好ましくはサブユニット含有量≦5wt%、最も好ましくはサブユニット含有量≦3wt%の糖タンパク質の凍結乾燥粉末が得られる。
もう一つの好ましい例において、工程(a)における糖タンパク質含有水溶液には、さらに、ラクトース、スクロース、トレハロース、マンニトール、デキストランからなる群から選ばれる一種または多種の糖類保護剤を含有し、糖タンパク質含有水溶液における前記糖類保護剤の濃度は2−60mg/mlである。
もう一つの好ましい例において、前記糖タンパク質は、絨毛性ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、閉経ゴナドトロピン、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものである。
【0012】
もう一つの好ましい例において、前記絨毛性ゴナドトロピンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト絨毛性ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記閉経ゴナドトロピンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト閉経ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記卵胞刺激ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト卵胞刺激ホルモン又はその変異体であり、前記黄体ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト黄体ホルモン又はその変異体である。
【0013】
本発明の第三の態様は、上記の本発明により提供される組成物の、不妊症候群を治療するための薬物を製造するための使用を提供する。
本発明の第四の態様は、上記の本発明により提供される方法で製造される糖タンパク質である。
本発明の第五の態様は、上記の本発明により提供される方法で製造される糖タンパク質の、不妊症候群を治療するための薬物を製造するための使用を提供する。
【0014】
このように、本発明によれば、不妊の治療に好適に適用することができる糖タンパク質の凍結乾燥方法、及びこれにより得られるサブユニットを殆ど含まない糖タンパク質薬物が提供される。
【0015】
本発明者らは実験により、凍結乾燥中において、同様な凍結乾燥プロセスであっても、トリプシン阻害剤(UTI)のような一本鎖構造のタンパク質に対する影響と、HCG、FSH、LHのような二本鎖構造のタンパク質に対する影響とが異なっており、前者は失活現象が殆どないが、後者は分解によりサブユニットを生じやすくて失活の結果を示してしまう。したがって、本願発明者らは幅広く深く研究したところ、驚くことに、凍結乾燥中において、早すぎる昇温工程は糖タンパク質が分解して変性・失活することを引き起こす要因である、ことを見出した。前述のように、このような糖タンパク質は、いずれも二本の鎖が非共有結合を介して結合したもの、即ち疎水的相互作用や水素結合などの弱い力で構造を維持するものであり、これらは佐剤等の他の組成物とともに予備凍結中において水分子の氷晶に均一に分布する。しかし、早すぎる昇温工程では、トレーの熱量が大きい熱流量で製品の氷晶構造に伝導され、しかもこの時の凍結乾燥機のチャンバー内の減圧度が非常に高いことから、氷晶における水分子が短時間で昇華して水蒸気分子になる。この早い昇華過程において、水分子が早い速度で氷晶構造から飛び出すことにより、上記のような二本鎖糖タンパク質のサブユニットの間の水素結合や疎水的相互作用などの弱い維持力を変化させ、サブユニットの解離と製品の失活を引き起こす。
【0016】
探索している間に、本願発明者らは、凍結乾燥中において昇温速度を適切に制御することで、サブユニットの分解を低減し、或いはサブユニットの分解を殆ど生じさせないことにより、製品の活性が保持され、不純物の生成が低減される、ことを気付いた。
【0017】
定義
本文に用いられるように、「糖タンパク質」は、絨毛性ゴナドトロピン(chorionic gonadotropin, CG)、卵胞刺激ホルモン(follicule-stimulating hormone, FSH)、黄体ホルモン(luteotropic hormone, LH)、及び閉経ゴナドトロピン(human menopausal gonadotropin, HMG)からなる群から選ばれる一種又は多種の混合物である。
【0018】
本文に用いられる、「糖タンパク質入り水溶液」、「糖タンパク質含有水溶液」、「糖タンパク質を含む水溶液」、「糖タンパク質を含有する水溶液」は交換して用いられてもよいが、いずれも糖タンパク質或いは糖タンパク質と薬学的/食品学的に許容される担体とを含む水溶液を指す。
【0019】
本文に用いられる、「糖タンパク質組成物」は糖タンパク質を含有する組成物であって、糖タンパク質或いは糖タンパク質と薬学的/食品学的に許容される担体とを含む固体、好ましくは糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を指す。
【0020】
本文に用いられる、「糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末」は糖タンパク質或いは糖タンパク質と薬学的/食品学的に許容される担体とを含む固体粉末を指す。
本文に用いられる、「サブユニット」はCG、FSH、LH、HMGが解離して生じる単独なα鎖サブユニット又はβ鎖サブユニットを指す。
本文に用いられる、「高純度糖タンパク質」は純度が90%超え、好ましくは95%超えの糖タンパク質を指す。本発明の好ましい例において、高純度糖タンパク質を凍結乾燥して、サブユニット含有量≦10wt%の糖タンパク質を得る。
【0021】
本文に用いられる、用語の「薬学的に許容される」あるいは「食品学的に許容される」成分は、ヒト及び/或いは動物に適用して過度の副作用(例えば毒性、刺激やアレルギー反応)がないもので、即ち合理的なベネフィット/リスク比を持つものを指す。
【0022】
本文に用いられる、用語の「薬学的に許容される担体」とは、治療剤の投与に使用される担体を指し、各種の賦形剤と希釈剤を含む。この用語は、それ自身が必要な活性成分ではなく、且つ使用後過度の毒性がない薬剤担体を示す。適切な担体は本分野の当業者に良く知られている。「レミントンの薬学」(Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Pub. Co.,N.J. 1991)には、薬学的に許容される賦形剤に係わる十分な検討が見られる。
【0023】
前記の「薬学的に許容される担体」は、水、食塩水、グリセリン、エタノールなどの液体を含有してもよい。さらに、これらの担体には、充填剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、沸騰剤、湿潤剤や乳化剤、矯味剤、pH緩衝物質などの補助物質が存在してもよい。通常、これらの物質は無毒で、不活性で、かつ薬学的に許容される水性の担体媒体に配合してもよく、ただし、pHは通常約5−8、好ましくは約6−8である。
【0024】
用語の「卵胞刺激ホルモン」および「FSH」は交換して用いられてもよいが、いずれも精子や卵胞の生成を促進し、卵巣の発育を促進するホルモン又はその変異体を指す。これらは、天然の状況では下垂体前葉から分泌され、閉経後女性の尿からも採取でき、組換え技術によっても製造できる。本発明におけるFSHは、例えば天然な産生や、組換え技術による獲得又は合成などの本分野で常用な方法のいずれかにより得ることができ、それにおける不純物はLHやCGを含む。本発明の一つの実施形態において、前記卵胞刺激ホルモンはヒト卵胞刺激ホルモン又はその変異体であり、ヒト尿由来の卵胞刺激ホルモン又は組換えヒト卵胞刺激ホルモンであることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる方法によりFSHを精製する前に、本分野における通常の方法により原料のFSHを仮精製して、LHとCG以外の不純物を分離することが好ましい。
【0026】
本文に用いられる、用語の「黄体ホルモン」および「LH」は交換して用いられてもよいが、いずれもFSH含有原料を製造又は獲得する過程において混在する、天然LHと同様又は類似の構造と機能を有するホルモンを指す。
同様に、用語の「絨毛性ゴナドトロピン」および「CG」は交換して用いられてもよいが、いずれもFSH含有原料を製造又は獲得する過程において混在する、天然CGと同様又は類似の構造と機能を有するホルモンを指す。
【0027】
本文に用いられる、用語の「トレー」は凍結乾燥機の熱伝導装置の構成の一つを指し、各トレー内では、シリコーンオイルのような熱媒を介して伝熱循環が行われている。本分野の当業者によく知られる冷却/加熱装置には、通常、このような構成がある。
本文に用いられる、用語の「トレー温度」はトレー内の熱媒が達した温度を指す。
本文に用いられる、用語の「コールドトラップ」は、冷却された表面上で凝縮によりガスを捕集するトラップであって、真空容器とポンプの間に設けられ、ガスの吸着やオイル蒸気の捕集に用いられる装置を指す。
【0028】
本文に用いられる、用語の「昇華乾燥」は、共晶点より1−20℃低い温度範囲で真空乾燥して、氷を直接に水蒸気に転化させる乾燥過程を指す。本文に用いられる、用語の「分析乾燥」は、昇華乾燥によっても完全に除去できない構造水を、加熱蒸発によって除去する乾燥過程を指す。
本文に用いられる、用語の「予備凍結」は、真空凍結乾燥する前に、乾燥すべき糖タンパク質又はその組成物を予め凍結状態とすることを指す。予備凍結段階では、予備凍結温度を厳格に(通常はサンプルの共晶点より10度以上低い温度に)、好ましくは−30〜−50℃に制御することが必要である。
【0029】
凍結乾燥
本発明により提供される糖タンパク質入り水溶液の凍結乾燥方法は、
(a)真空下で予備凍結された糖タンパク質含有水溶液を、0.05−5℃/分の昇温速度でトレー温度を昇華乾燥温度まで昇温して1−30時間維持する工程と、
(b)0.05−5℃/分の昇温速度で分析乾燥温度まで昇温して1−20時間維持し、糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を得る工程と、
を含む。
【0030】
本発明の好ましい例において、糖タンパク質入り水溶液の凍結乾燥方法は、
(1)糖タンパク質を含有する水溶液を0.5−5時間予備凍結する工程と、
(2)真空下で0.05−5℃/分の昇温速度で昇華乾燥温度まで昇温し(好ましい昇温速度は0.07−3℃/分)、1−30時間(好ましくは昇華乾燥温度で6−20時間)維持する工程と、
(3)0.05−5℃/分の昇温速度で分析乾燥温度まで昇温し(好ましい昇温速度は0.1−1.5℃/分)、1−20時間(好ましくは分析乾燥温度で3−10時間)維持し、糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を得る工程と、
を含む。
【0031】
本発明によれば、本発明により提供される方法で高純度糖タンパク質を含有する水溶液を凍結乾燥して得られる糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末において、糖タンパク質におけるサブユニット含有量が≦10%(最も好ましくは≦5%)であることがより好ましい。
【0032】
さらに、本発明は、
(a)真空下で予備凍結された糖タンパク質含有水溶液を、0.05−5℃/分の昇温速度で昇華乾燥温度まで昇温して1−30時間維持する工程と、
(b)0.05−5℃/分の昇温速度で分析乾燥温度まで昇温して1−20時間維持し、糖タンパク質を含有する組成物、好ましくは糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を得る工程と、を含む、糖タンパク質組成物の製造方法を提供する。
前記組成物は、サブユニット含有量が10wt%を超えない糖タンパク質組成物である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の利点は、以下の通りである。
凍結乾燥方法を提供し、サブユニットの分解を低減し、或いはサブユニットの分解を殆ど生じさせないことにより、糖タンパク質の活性が保持され、不純物の生成が低減され、サブユニットを殆ど含まない糖タンパク質又はその組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1における凍結乾燥される前のFSHの液体クロマトグラフィースペクトルを示す。
【図2】実施例1における凍結乾燥された後のFSHの液体クロマトグラフィースペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いるもので、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例に特に具体的な条件を説明しない実験方法は通常の条件、或いはメーカーの薦めの条件で行われる。特に説明しない限り、百分率と部は重量基準である。
【0036】
別途に定義しない限り、文中に使用されるすべての専門・科学用語は、本分野の熟練者によく知られる意味と同じである。また、記載される内容に類似或は同等の方法及び材料はいずれも本発明に使用することができる。文中に記載の好ましい実施形態及び材料は例示だけのためである。
【0037】
実施例におけるサブユニット含有量は下記方法で測定される。
液体クロマトグラフィー:
クロマトグラフィーカラム:スーパーデックス75 10×400mm或いは類似するカラム
移動相:0.2M Na2HPO4(pH6.5):アセトニトリル= 10:2
流速:0.5ml/min
ローディング濃度と体積:約60μg/ml×100μl
検出波長:215nm
サブユニットピークと主成分ピークの保持時間比は約1.2であり、サブユニット含有量の算出は面積正規化法で行われる。
【実施例1】
【0038】
FSHの凍結乾燥
0.01Mリン酸二水素ナトリウム溶液(NaOHでpHを約6.5に調節)を50mL調製し、ラクトースを2g加え、攪拌して溶解させた後、0.22μmのフィルターでろ過した。ろ過液を10mL取り、前記高純度FSH(上海天偉生物製薬株式会社から購入)(生物的力価は8817国際単位/mg)を10.0mg加え、完全に溶解させて得られた共晶点が約−2℃である溶液を、皿に置き凍結乾燥機(バーチス(Virtis)社から購入)に入れ、以下のプロセスで凍結乾燥した。
【0039】
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を0.125℃/minの速度で−40℃から−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから15時間維持し、
5.トレー温度を0.3℃/minの速度で−10℃から+20℃まで昇温し、トレー温度が+20℃に達してから5時間維持し、
6.チャンバーから取り出し、凍結乾燥粉末を392mg得た。
【0040】
FSHの生物的力価を測定した結果は以下の通りであった。

【0041】
対照例
本対照例において、凍結乾燥プロセスが以下の通り行われた以外は、前記実施例1の方法と同様にした。
対照例における凍結乾燥プロセス:
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を−40℃から直接に−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから18時間維持し、
5.トレー温度を−10℃から直接に+20℃まで昇温し、トレー温度が+20℃に達してから6時間維持し、
6.チャンバーから取り出し、凍結乾燥粉末を398mg得た。
【0042】
FSHの生物的力価を測定した結果は以下の通りであった。

【0043】
実施例1および対照例の結果から明らかなように、本発明にかかる凍結乾燥プロセスによっては、サブユニットの生成を顕著に低減させ、凍結乾燥収率を向上させることができる。
【実施例2】
【0044】
FSH凍結乾燥注射剤の製造
1瓶につきFSHを75 IU含有するようにFSH凍結乾燥注射剤を10000瓶製造するための典型的な例は以下の通りであった。
FSH精製品を算出された所定の量(単位は生物的力価)で注射用パイロジェンフリー水50mLに溶解させ、必要とすればHCl或いはNaOHでpHを6.5±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。
ラクトース100gを注射用パイロジェンフリー水2Lに溶解させ、必要とすればHCl或いはNaOHでpHを6.5±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。その後、前記FSH溶液に加え、注射用パイロジェンフリー水で7.5Lに定容し、均一に混合した。該当溶液の共晶点は約−2℃であった。
【0045】
前記溶液を1瓶につき0.75mLの量でアンプルに分注し、以下のプロセスで凍結乾燥した。
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を0.5℃/minの速度で−40℃から−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから10時間維持し、
5.トレー温度を0.375℃/minの速度で−10℃から+35℃まで昇温し、トレー温度が+35℃に達してから10時間維持し、
6.栓を入れて、チャンバーから取り出した。
得られたアンプルにおいては、1瓶あたりにFSHが75 IU、ラクトースが10mg含まれた。
【0046】
HPLC測定により、そのサブユニット含有量は以下の通りであった。

【実施例3】
【0047】
高純度閉経ゴナドトロピン(hpHMG)の製造方法
0.01Mリン酸二水素ナトリウム溶液(NaOHでpHを約6.5に調節)を1000mL調製し、ラクトースを4g加え、攪拌して溶解させた後、0.22μmのフィルターでろ過した。ろ過液を15mL取り、高純度閉経ゴナドトロピン(上海天偉生物製薬株式会社から購入)(FSHの生物的力価は5131 IU/mg、LHの生物的力価は4890 IU/mg)を35mg加え、完全に溶解させて得られた共晶点が約−2℃である溶液を、以下のプロセスで凍結乾燥した。
【0048】
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を0.125℃/minの速度で−40℃から−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから15時間維持し、
5.トレー温度を0.3℃/minの速度で−10℃から+20℃まで昇温し、トレー温度が+20℃に達してから5時間維持し、
6.チャンバーから取り出し、高純度HMG粉末を570mg得た。測定により、そのFSHの生物的力価は298 IU/mgで、LHの生物的力価は277 IU/mgであった。HPLC測定により、そのサブユニット含有量は以下の通りであった。
【0049】

【実施例4】
【0050】
高純度閉経ゴナドトロピン(hpHMG)凍結乾燥注射剤の製造
1瓶につきFSHを75 IU、LHを75 IU含有するようにFSH凍結乾燥注射剤を10000瓶製造するための典型的な例は以下の通りであった。
hpHMG精製品を算出された所定の量(単位は生物的力価)で注射用パイロジェンフリー水50mLに溶解させ、必要とすればHCl或いはNaOHでpHを6.5±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。
ラクトース200gを注射用パイロジェンフリー水2Lに溶解させ、必要とすればHCl或いはNaOHでpHを6.5±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。その後、前記FSH溶液に加え、注射用パイロジェンフリー水で7.5Lに定容し、均一に混合した。該当溶液の共晶点は約−2℃であった。
【0051】
前記溶液を1瓶につき0.75mLの量でアンプルに分注し、以下のプロセスで凍結乾燥した。
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を0.5℃/minの速度で−40℃から−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから10時間維持し、
5.トレー温度を0.375℃/minの速度で−10℃から+35℃まで昇温し、トレー温度が+35℃に達してから10時間維持し、
6.栓を入れて、チャンバーから取り出した。
得られたアンプルにおいては、1瓶あたりにFSHが75 IU、LHが75 IU、ラクトースが20mg含まれた。
【0052】
HPLC測定により、そのサブユニット含有量は以下の通りであった。

【実施例5】
【0053】
HCG凍結乾燥注射剤の製造
1瓶につきHCGを5000 IU含有するようにHCG凍結乾燥注射剤を10000瓶製造するための典型的な例は以下の通りであった。
HCG精製品を算出された所定の量(単位は生物的力価)で注射用パイロジェンフリー水50mLに溶解させ、必要とすればHCl或いはNaOHでpHを6.5±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。
マンニトール300gとNaHPO・2HO 10.9gを注射用パイロジェンフリー水3Lに溶解させ、NaOHでpHを7.0±0.2に調節し、0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。その後、前記FSH溶液に加え、注射用パイロジェンフリー水で7.5Lに定容し、均一に混合した。
【0054】
前記溶液を1瓶につき0.75mLの量でアンプルに分注し、以下のプロセスで凍結乾燥した。
1.トレーを−40℃で3時間予備凍結し、
2.コールドトラップで−45℃にし、
3.真空ポンプを起動させ、
4.トレー温度を0.5℃/分の速度で−40℃から−10℃まで昇温し、トレー温度が−10℃に達してから10時間維持し、
5.トレー温度を0.375℃/分の速度で−10℃から+35℃まで昇温し、トレー温度が+35℃に達してから10時間維持し、
6.栓を入れて、チャンバーから取り出した。
得られたアンプルにおいては、1瓶あたりにHCGが5000 IU、マンニトールが20mg含まれた。
【0055】
HPLC測定により、そのサブユニット含有量は以下の通りであった。

【0056】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブユニット含有量が10wt%を超えない糖タンパク質組成物。
【請求項2】
前記糖タンパク質が、絨毛性ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、閉経ゴナドトロピン、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記絨毛性ゴナドトロピンが、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト絨毛性ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記閉経ゴナドトロピンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト閉経ゴナドトロピン又はその変異体であり、前記卵胞刺激ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト卵胞刺激ホルモン又はその変異体であり、前記黄体ホルモンは、ヒト尿由来及び/或いは組換えのヒト黄体ホルモン又はその変異体であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記糖タンパク質組成物におけるサブユニット含有量が5wt%を超えないことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、凍結乾燥粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
(a)真空下で予備凍結された糖タンパク質含有水溶液を、0.05−5℃/分の昇温速度でトレー温度を溶液の共晶点より1−20℃低い温度まで昇温して1−30時間維持する工程と、
(b)0.05−5℃/分の昇温速度でトレー温度を≧0℃になるまで昇温して1−20時間維持し、糖タンパク質を含有する凍結乾燥粉末を得る工程と、
を含むことを特徴とする、糖タンパク質入り水溶液の凍結乾燥方法。
【請求項7】
工程(a)における昇温速度が0.07−3℃/分であり、工程(b)における昇温速度が0.06−1.5℃/分であり、より好ましくは、工程(a)の前にさらに、糖タンパク質含有水溶液を0.5−5時間予備凍結する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記糖タンパク質含有水溶液における糖タンパク質の濃度が、1μg/mL−80mg/mL、より好ましくは500μg/mL−60mg/mLであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)における糖タンパク質含有水溶液における糖タンパク質が、高純度糖タンパク質であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)における糖タンパク質含有水溶液に、さらに、ラクトース、スクロース、トレハロース、マンニトール、デキストランからなる群から選ばれる一種または多種の糖類保護剤を含有し、糖タンパク質含有水溶液における前記糖類保護剤の濃度が2−60mg/mlであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
請求項1−5のいずれかに記載の組成物を含む、不妊症候群を治療するための薬物を製造するための使用。
【請求項12】
請求項6−10のいずれかに記載の方法で製造される糖タンパク質。
【請求項13】
請求項12に記載の糖タンパク質を含む、不妊症候群を治療するための薬物を製造するための使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502931(P2012−502931A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527188(P2011−527188)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【国際出願番号】PCT/CN2009/071972
【国際公開番号】WO2010/031262
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506010046)上海天偉生物制薬有限公司 (6)
【Fターム(参考)】