説明

サポニンと抗生物質の混合物による尿路感染症の治療

カテーテル及び容器を含む尿路感染症の治療のための装置であって、該容器がコレステロール結合剤を含む装置。膀胱の尿を空にするために導尿カテーテルを使用している患者は極めて感染しやすく、カテーテルに関連する尿路感染症(UTI)になるリスクは高い。コレステロール結合剤の導入は、感染症のより有効な治癒を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内細菌のための膀胱細胞を治癒する例、及び代表的な試験細菌として大腸菌(Escherichia Coli)の使用を開示する。本発明は、大腸菌のみによって生じる再発性尿路感染症(以後、しばしばUTIと称する)の治療に制限されず、全ての微生物種、例えば細菌、真菌又はウイルスを含む。
【背景技術】
【0002】
尿路は、微生物のコロニー形成のための主要部位の1つである。UTIはいずれかの器官の最も一般的な細菌感染症である。その程度は医師への訪問の数からも判り、これは米国において年間約800万人と推定される。更にまた、膀胱の尿を空にするために導尿カテーテルを使用している患者は極めて感染し易く、カテーテル関連UTIになるリスクはカテーテル日数あたり約1〜5%である(Wazait et al. 2003)。大腸菌は最も一般的なUTI病原体であり、これらのUTIの40〜80%に関係する。他の種類の細菌もまたUTIの原因となり、該UTIは1又は複数の細菌の組み合わせによっても生じうる。通常の健康な環境下においては、膀胱内には細菌は全く、あるいはほとんど存在しないが、UTIにおいては尿1mlあたりの細菌細胞の濃度は大幅に増大する。抗生物質の経口摂取はUTIを治療し、かつ尿中の細菌を排除するための伝統的な方法である。該抗生物質は、尿に細菌が存在しなくなるまで、あるいは症状が表れなくなるまで数日間摂取される。臨床的な症状は患者によって異なり、また、抗生物質治療の選択も国や医師によって異なる。しかしながら、抗生物質治療後に尿中に存在する細菌が減少し、あるいは存在しなくなっても、多くの健康な人及びカテーテル使用者は、翌日、翌週又は翌月にわたって、更なるUTIを経験する。この現象は再発性UTIと称されている。
【0003】
Kensil らの米国特許第5273965号には、修飾サポニンによる薬物送達の増強のための方法が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
本願は、試験細菌である大腸菌が100.0μg/mlのゲンタマイシンに2時間直接暴露したまま生存することができず、そして抗生物質治療においてこれらの細菌は生存できたという事実によって説明される、膀胱細胞が細菌を吸収するという従来の発見を確認することにより出発する。添加した抗生物質の量及び生存している細菌の数においては密接な用量−応答性が存在していた。換言すれば、より多くの抗生物質を膀胱細胞に添加するとより多くの細菌が取り込まれ、そして膀胱細胞の内部に保存される。取り込まれた細菌の数は2時間後においても1時間後と比較して多くなく、これは1時間が細菌を取り込むために十分な時間であったことを意味する。このたび、サポニンと抗生物質の組み合わせは、抗生物質の膀胱細胞内部、及び該抗生物質が細菌を死滅させる細菌を含む特殊な区画への送達をもたらした。サポニンとゲンタマイシンの組み合わせ処理は、刺激された剥離膀胱細胞及びまた細胞培養フラスコに付着している膀胱細胞において、サポニン用量依存性の細胞内大腸菌の死滅をもたらした。
【0005】
発明の詳細な説明
本発明は、抗生物質及び/又は抗菌剤が、細菌の隠れ場所を提供する細胞内膜区画に特異的に接近させるコレステロール結合剤−サポニン−の使用に関する。該薬剤は、膀胱細胞内の細菌成長を阻害し、あるいは該細菌を死滅させる。また、サポニン単独でも膀胱細胞を刺激し、そして細胞弛緩(loosening)、細胞開口(opening)、細胞死、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘発し、これらは全て細胞内細菌の剥離に導く。該併用効果は細菌のための膀胱を還元し又は清浄化する。サポニン単独、あるいは1又は複数の抗生物質及び/又は抗菌剤との組み合わせは医療装置を介して膀胱に導入されるか、あるいは該抗生物質は静脈内又は経口経路を介して投与される。
【0006】
本発明の広範な態様は、尿路感染症の治療のための方法であって、抗生物質の患者への投与と共に、コレステロール結合剤を膀胱内に入れる工程を含む方法に関する。
【0007】
再発性UTIの原因は、ヒト膀胱細胞において細胞内に存在する生存している細菌によるものと考えられる。
【0008】
UTIにおいて最も一般的な細菌である大腸菌は、大腸菌が膀胱細胞に付着することを許容する多くの毒性因子をコードする(図1を参照のこと)。該付着は細菌表面上の特異的な接着力の発現によって媒介される。該細菌表面上の付着力の発現は細菌が膀胱壁に付着することを可能とし、そして該細菌は膀胱内に滞在する機会を増大させ、これにより膀胱の正常な排尿によって洗い出されることを防ぐ。多くの種類の粘着性器官が特徴付けられており、尿路疾患性大腸菌に分布している(Klemm and Schembri 2000)。粘着性器官の1つの例は1型線毛である。1型線毛は膀胱細胞の表面上のマンノース含有糖タンパク質受容体に結合する。したがって、マンノースは該受容体上のマンノースを置換し、これにより細菌の1型線毛のマンノース含有受容体に対する結合を阻害することができる(図1を参照のこと)。該細菌は膀胱細胞に付着できず、そして膀胱の排尿によって洗い出される。UTIの抵抗の典型的な例の1つはクランベリージュースの経口摂取である。該ジュースは膀胱壁に対する大腸菌細菌の結合を阻害する特定の糖分子を含み、そして該細菌は膀胱外に洗い出される。さらに重要なことに、接着分子を介する膀胱壁に対する細菌の結合は、未知のメカニズムによっていくつかの細菌を取り込むヒト膀胱細胞をもたらす(Anderson et al. 2003; Bishop et al. 2007; Bower et al 2005; Mulvey et al. 2000)。これは、なぜ再発性UTIが生じるのか、そしてなぜ抗生物質治療がUTIに対して100%有効ではないのかについて指摘する。これはヒト膀胱内細菌が抗生物質に暴露されておらず、抗生物質治療において生き延びるという事実に依存する。次に、該細菌は一時的に膀胱細胞内に保持される(Bishop et al. 2007)。後に、抗生物質治療の終了後、該細菌は膀胱尿に放出され、そして別のUTIエピソード、例えば再発性UTIのフェーズが開始する。
【0009】
取り込まれた細菌は膀胱内に自由には分布されないが、分泌性リソソームと称される独特の膜区画に位置する(Bishop et al. 2007)。分泌性リソソーム膜は、膀胱細胞の尿に接している膜である頂端膜表面と融合することができ、これにより細菌を尿中に再び放出する(図1には示されていない)。したがって、抗生物質は細胞内細菌に近づくために2つの異なる種類の膜(表面/頂端膜とリソソーム膜)を超えて移動しなければならない。これは、UTIを治療するために使用されるいずれの種類の抗生物質にとっても可能ではない。なぜなら、これらの抗生物質の多くは比較的高い水溶性であるためである。さらに、各種の膜は、特定の量のタンパク質及び抗生物質の移動を不可能にする、異なる脂質組成を備えている(図1のパネルIを参照のこと)。特に、細菌の接着分子である1型線毛の受容体は、膀胱細胞の頂端部位上に位置するヒト・ウロプラキン受容体である(Zhou et al. 2001)。膀胱細胞表面上のウロプラキンリッチドメインは、コレステロール及び他の脂質物質が豊富な原形質膜の極めて特異的な秩序領域であり、そのため他の膜領域とは異なる(Duncan et al. 2004)。コレステロールはサポニンと結合し、そして細胞内リソソーム膜区画の透過に必要とされる遊離サポニン濃度を減少させる。更に、抗生物質もまた、分泌性リソソームであると説明されている、最終の適当な膜位置における不活性化の保持及び喪失を必要とする。特に、リソソーム酵素を活性化するためにリソソームのpHは極めて低く、そしてこの低いpH値は抗生物質を不活性化し得る。したがって、抗生物質により膀胱細胞中の細胞内細菌を死滅させ、そして他のUTI(再発性UTI)となる可能性を低下させるためには、いくつかの技術的障害を克服しなければならない。記載された複雑なメカニズムは図1に記載しており、ここでパネルIは、抗菌剤に到達できない細胞内細菌を示し;パネルIIは、抗菌剤の分泌性リソソーム内へのサポニン媒介移動及び細菌の死滅を示し、そしてパネルIIIは、尿中への細胞内細菌のサポニン媒介剥離を示し、ここで該細菌は抗生物質により死滅されるか、あるいは尿によって排出される。
【0010】
再発性UTIは、膀胱細胞内に隠れた細菌の局在化によって生じる。抗生物質の伝統的な経口投与は、これらの細胞内に存在する細菌に到達することができず、そして細菌の細胞内蓄積は、その後他のUTIを誘発しうる。本発明は、適当な濃度及び活性状態において膜障壁を越え、隠れた細菌を含む特定の膜貯蔵区画への抗菌剤又は抗生物質の伝達を媒介するサポニンを用いる。これと組み合わせて、サポニンはまた膀胱細胞を刺激し、これは同時に膀胱壁からの膀胱細胞分泌を導く(いわゆる剥離)。細菌を含む刺激された膀胱細胞のこのような分泌及び/又は拒否反応は、膀胱からの通常の尿の排出を介して細菌を膀胱から排出させる。細胞内細菌の死滅と細菌を含む膀胱細胞の剥離の組み合わせ効果は、膀胱壁における細菌数を低下させ、そして再発性尿路感染症を予防する。したがって、本発明は尿路感染症が再発性尿路感染症である場合に特に有用である。
【0011】
好ましい実施形態において、コレステロール結合剤はサポニンである。天然源から、数百もの異なるサポニンが精製できる。本発明におけるサポニンの好ましい実施形態は、キラヤ樹皮(Quillaja bark)由来のサポニンであるが、いずれのサポニン化合物であってもよい。サポニンはグリコシド化合物であり、これはグリコシド結合によって一緒に連結したアグリコン化合物及びサッカリド化合物を含む。サポニン分子のアグリコン部分又は非サッカリド部分は、ゲニン又はサポゲニンと称される。存在するゲニンの種類に依存して、本発明のサポニンは:1)トリテルペングリコシド、2)ステロイドグリコシド、及び3)ステロイドアルカロイドグリコシドの3種の主要なクラスに分類できる。図2は、本発明のサポニンの3種の主要なクラスの炭素骨格を示す。本明細書において使用されるサポニンは、実質的に精製されたサポニン、あるいは粗組成物又は所定の精製手段により得られた組成物に含まれる1又は複数のサポニンのいずれかを表す。サポニンはまた、いずれかのサポニンのいずれかの生理活性断片を表す。本発明に関するサポニンは、天然型又は合成型であってもよく、あるいはこれらは化学合成又はインビトロ又はインビボのいずれかにおける1又は複数の酵素触媒工程を含む酵素合成により作製することもできる。サポニンの好ましい濃度は、0.1〜100μg/mlであるが、100〜500μg/mlの範囲に存在してもよい。しかしながら、最適濃度はサポニンの純度に関係する。
【0012】
本発明の1実施形態において、コレステロール結合剤の配置はカテーテルを介するものである。典型的には、尿を排出するために使用されるカテーテルがサポニンを投与するために使用される。したがって、1実施形態において、カテーテルは永続的な、例えばFoley型カテーテルである。本発明の他の実施形態において、カテーテルは間欠的カテーテルである。本発明の1実施形態において、配置は尿道を介するものであり、例えば導尿カテーテルを介する。コレステロール結合剤は、好ましくは膀胱に入れられる。しかしながら、尿道における配置もまた考えられる。
【0013】
本明細書に開示されるとおり、サポニンは単独でUTIに有益な効果を有する。より優れた結果を得るために、サポニンと抗生物質治療の組み合わせを使用することが好ましい。本発明の1実施形態において、抗生物質の投与は経口投与である。他の実施形態において、抗生物質の投与は静脈内投与である。本発明の好ましい実施形態において、抗生物質の投与は、膀胱内におけるコレステロール結合剤との同時投与である。
【0014】
本明細書において、抗生物質剤、抗菌剤、抗細菌剤及び/又は抗真菌剤における区別は存在しない。好ましい薬剤は、UTIを治療するために通常使用されるいずれかの薬剤である。したがって、抗生物質の好ましい実施形態は、アミノグリコシドのグループ(ゲンタマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、トブラマイシン、フラマイセチン、ストレプトマイシン、アミカシン)、アンピシリン及びアモキシリン、スルホンアミド(トリメトプリム−スルファメトキサゾール)、セファロスポリン、β−ラクタムのグループ、クロラムフェニコール、リンコサミド、マクロライド、ペニシリン、キノロンのグループ、テトラサイクリン及びニトラフラトイン/ニトロフラゾン、ポリミキシンB、ムピロシン、バンコマイシンを含んでよいが、抗菌剤、例えば1又は複数のビグアニドグループ(例えばクロルヘキシジン又はPHMB)、銀錯体又は銀塩、過酸化水素及び他の酸化剤、四級アンモニウム化合物、塩素送達剤、及び抗菌ペプチドもまた含んでよい。
【0015】
ゲンタマイシンは、多くの種類の細菌感染症、特にグラム陰性菌感染症を治療することができる。しかしながら、ゲンタマイシンが経口的に与えられる場合、これは小腸から吸収され、その後静脈を介して肝臓に移動し不活性化されるために有効ではない。さらに、これは、特に複数回投与が治療期間にわたり蓄積される場合に高い腎毒性となりうる。本発明は、肝臓不活性化を回避し、そして腎臓毒性を回避するために、コレステロール結合剤と共にゲンタマイシンを同時投与することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態において、抗生物質はゲンタマイシンである。
【0016】
本発明の他の態様は、カテーテル及び容器を含む尿路感染症の治療のための装置であって、該容器がコレステロール結合剤を含む装置に関する。
【0017】
本発明の更に他の態様においは、哺乳類における再発性膀胱感染症の治療のための医薬の調製のためのサポニンの使用に関する。
【0018】
関連する態様は、哺乳類における再発性膀胱感染症の治療のためのサポニンと抗菌剤の混合物の使用に関する。その好ましい実施形態において、該治療は哺乳類の膀胱内の投与を介するものである。
【0019】
参考文献
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】パネルIは抗菌剤に到達できない細胞内細菌を示し;パネルIIは抗菌剤の分泌性リソソーム内へのサポニン媒介伝達及び細菌の死滅を示し、そしてパネルIIIは、尿中への細胞内細菌のサポニン媒介剥離を示し、ここで該細菌は抗生物質により死滅されるか、あるいは尿によって排出される。
【0021】
【図2】本発明のサポニンの3種の主要なクラスの炭素骨格を示す。
【0022】
【図3】上パネルにおいて、極低濃度のゲンタマイシンで細菌細胞の数が低下しており、これは、高濃度においてゲンタマイシンが極めて有効に細菌の成長を阻害し、そして死滅させることを示す。更に、寒天プレート上に細菌がいずれかの生存コロニー形成ユニット(CUF)を与えるかを検査するために、各々の異なるゲンタマイシン濃度における各々の細菌溶液の試料を寒天プレートに移した。寒天プレートは37℃で一晩インキュベートした。
【0023】
X軸はゲンタマイシン濃度(μg/ml)を示し、そしてy軸は細菌数(%)を示す。
【0024】
下パネルにおいて、約3.1μg/mlよりも高いゲンタマイシン濃度に2時間暴露させた場合、大腸菌細菌は生存できない。
【0025】
【図4】図4は、ヒト膀胱培養液にあらかじめ添加した細菌数に相対的に表されるプレート上の生存細菌数を示す。
【0026】
x軸は大腸菌を含む添加体積を示し、そしてy軸は生存細菌対添加細菌を示す。図中四角は1時間であり、三角は2時間である。
【0027】
【図5】図5において、緑色に染色された細菌は膀胱細胞内(白線で囲まれている)に存在し、一方黄色/赤色に染色された細菌はヒト細胞の外側ならびにヒト膀胱細胞の近傍に見られた。
【0028】
【図6】上パネルにおいて、1型線毛の発現と膀胱細胞内への大腸菌の侵入の程度における正の相関性を示す。更に、50mmolのマンノース又はグルコースをヒト膀胱細胞に添加した。
【0029】
x軸は1型発現(%)を示し、そしてy軸は感染率(%)を示す。
【0030】
下パネルにおいて、マンノース(グルコースではない)はヒト膀胱細胞による細菌の取り込みを阻害した。マンノースは膀胱細胞の侵入部位に存在するウロプラキン受容体に対する1型線毛の結合を阻害する。
【0031】
x軸は阻害剤を示し、そしてy軸は感染(対照の%)を示す。
【0032】
【図7】50.0μg/mlのサポニンは感染を阻害し、そしてサポニン濃度の低下は細菌が膀胱細胞に感染するのを許容した。侵入後に添加した50μgのサポニン及びゲンタマイシンは生存している細菌細胞の検出の完全な欠如をもたらした(感染後標識した)。
【0033】
x軸はサポニンの用量を示し、そしてy軸は感染を示す。
【0034】
【図8】2時間暴露したHTB−9細胞サポニンにおける透過率。この図はサポニンの濃度における増加が膀胱細胞数(四角)の付随した減少とともに膀胱細胞を刺激することを示す。更に、膀胱細胞数の減少は透過性(三角)のサポニン用量依存性の増加と並行する。
【0035】
x軸はサポニン(μg/ml、左y軸は透過率(対照の%)を示し、そして右y軸は膀胱細胞の数(任意単位)を示す。図中三角は透過率であり、そして四角は膀胱細胞数である。
【0036】
【図9】ゲンタマイシン暴露(2時間、100μg/ml)において生存する細胞内大腸菌細胞。この図は拒絶された膀胱細胞を含む洗浄において生存している大腸菌の数(黒四角)、及びまだウェルの底に付着しているヒト膀胱細胞内に生存している大腸菌の数(白四角)を示す。サポニンとゲンタマイシンの組み合わせ処理は、刺激した剥離膀胱細胞内において(洗浄、黒四角)、及び細胞培養フラスコに付着している膀胱細胞内において(HTB9、白四角)、細胞内大腸菌のサポニン用量依存性の死滅をもたらした。
【0037】
【図10】容器中の混合物(30)が膀胱に移動できるように、容器(20)に接続することができる導尿カテーテル(10)を含む本発明の装置の例を示す。
【実施例】
【0038】
例1〜4は、細胞内に存在する生存している大腸菌の数を測定するための方法を開示する。例5〜7において得られたデータは細胞内の細菌を死滅させるためのサポニンの使用及び膀胱細胞の剥離に関する発明を開示する。
【0039】
例1:
UTI患者から7種の異なる野生型大腸菌細菌を単離し、そしてL培地(LB)において静止状態下で2日間培養した。細菌を培養するための方法は微生物学の分野における当業者によく知られている。2日齢の細菌を新鮮な滅菌LB中で100倍希釈し、そして異なる濃度のゲンタマイシンを添加するか、あるいはゲンタマイシンを添加しなかった(対照)。ゲンタマイシンは代表的な抗生物質剤として使用した。その後、600nmの吸光度の測定によりLB倍地中の細菌細胞の実際の濃度を測定する前に、該細菌を最適な成長条件(37℃で振盪)下において2時間再成長させた。吸光度は細菌の数を反映する。細菌数は、ゲンタマイシンを伴わない対照調製物に対して相対的に表わされた。図3の上パネルに示されるとおり、細菌細胞の数は極低濃度のゲンタマイシンにおいて低下し、これはゲンタマイシンが極めて有効に成長を阻害し、そして高濃度において細菌を死滅させることを示す。更に、寒天プレートにおいて細菌が生存し、コロニー形成ユニット(CUF)の形成を生じるか否かを検査するために、異なるゲンタマイシン濃度における各々の細菌溶液の試料を寒天プレートに移した。寒天プレートは37℃で一晩インキュベートした。図3の下パネルに示されるとおり、約3.1μg/mlよりも高いゲンタマイシン濃度に2時間暴露させた大腸菌細菌は生存できなかった。したがって、例1は、100.0μg/mlのゲンタマイシンに2時間直接暴露させた検査細菌が生存できなかったことを示す。
【0040】
例2:
ヒト膀胱細胞を培養し、その後細菌で感染させた。手短には、実際に実験を行うまで、培養培地及び37℃のCO2インキュベーター中でヒト膀胱細胞(米国人組織の培養保存由来のHTB−9)を培養した。ヒト細胞の培養は、生物学の分野における当業者によく知られている。次に、異なる濃度の大腸菌をヒト膀胱細胞に添加した。PBSによる洗浄によって、緩く結合した細胞外の大腸菌細胞のほとんどを除去する(ヒト膀胱細胞は細胞培養フラスコの底に付着している)前に、該膀胱細胞と細菌を一緒に1又は2時間インキュベートした。該ヒト膀胱細胞を100.0μg/mlのゲンタマイシンに2時間暴露した。通常の条件下において、ゲンタマイシンはいかなる膜も通過できない。例1においてすでに示されたとおり、ゲンタマイシンが細菌に接触できる場合、このゲンタマイシン処理は全ての細菌を死滅させる。ヒト細胞の全ての膜構造を破壊するために、リン酸緩衝生理食塩水において最終濃度0.1%のトリトンx−100を添加した。該混合物を寒天プレートに移し、そして該プレートを37℃で一晩インキュベートし、ゲンタマイシンに暴露されていない生存細菌について試験した。該プレートには、生存細菌の反映としてコロニー形成ユニットが含まれていた。このように、これらの細菌が抗生物質処理において生存できたことから、この例は膀胱細胞が細菌を取り込んだことを示すものである。プレート上の生存細菌の数は、ヒト膀胱培養液に添加する前の細菌数に対して相対的に表された(図4)。添加した細菌の量と生存細菌の数においては密接な用量応答性が存在する。換言すれば、より多くの細菌を膀胱細胞に添加した場合、より多くの細菌が膀胱細胞内に取り込まれ、貯蔵される。2時間後に取り込まれた細菌の数は、1時間の場合と比較して高くなかった。これは細菌を取り込むためには、1時間が十分な時間であったことを示す。
【0041】
例3:
緑色に染色された細菌は、例2において上述したとおり、ヒト膀胱細胞に感染することが許容された。その後、Drevets 及びCampbell 1991により詳細に説明されているとおり、感染された膀胱細胞をエチジウムブロマイドで処理した。エチジウムブロマイドが細菌に接触すると、エチジウムブロマイドは緑色に染色された細菌を黄色/赤色に変色させる。この実験アプローチは、細胞内エチジウムブロマイドにより染色されていない緑色の細菌と細胞外の赤色/黄色に染色された細菌の視覚的な顕微鏡検査を許容する。図5に示されるとおり、緑色に染色された細菌は膀胱細胞内にのみ存在し(白色で包囲されている)、一方黄色/赤色に染色された細菌はヒト細胞の外側ならびにヒト膀胱細胞の近傍において見られた。
【0042】
例4:
細菌の表面における接着器官−1型線毛のような−の発現は、細菌が膀胱細胞に付着することを許容する。PCRにより、異なる大腸菌の1型線毛の発現の程度を調査した(Teng et al. 2005)。PCRはDNAを合成するための方法であり、1型線毛の発現の程度を測定するために使用できる。細菌の1型線毛の発現の程度は、例2において説明された方法によって測定された膀胱感染の程度と相関した。図6の上パネルで示されるとおり、1型線毛の発現と膀胱細胞内への大腸菌の侵入の程度においては、正の相関性が存在した。さらに、50mmol/lのマンノース又はグルコースをヒト膀胱細胞に添加した。図6の下パネルに示されるとおり、マンノース(グルコースではない)は、ヒト膀胱細胞による細菌の取り込みを阻害した。マンノースは膀胱細胞の侵入部位に存在するウロプラキン受容体に対する1型線毛の結合を阻害する。
【0043】
例5:
異なる濃度のサポニン(1.5〜50μg/mlの最終濃度範囲)をヒト膀胱細胞に添加し、その後該細菌で感染させた。より重要なことには、100μg/mlのゲンタマイシン(感染後)との組み合わせにおいて、サポニンもまた、既に感染させたヒト膀胱細胞に添加した。図7に示されるとおり、50.0μg/mlのサポニンは感染を阻害した。より低濃度のサポニンにおいては、細菌が膀胱細胞に感染することを許容した。侵入後に添加した50μgのサポニンは、ゲンタマイシンと一緒に、生存している細菌細胞の検出の完全な喪失をもたらした(図7、感染後標識した)。このように、サポニンと抗生物質の組み合わせは、膀胱細胞内及び細菌を含む特定の区画への抗生物質の移動をもたらし、該抗生物質は細菌を死滅させた。
【0044】
例6:
例5のような用量依存的な方法において、サポニンをヒト膀胱細胞に添加し、そして2時間インキュベートした。該膀胱細胞を緩衝溶液で洗浄し、そして2種類の異なる細胞染色;膜透過性の緑色のSYTO9及び膜非透過性の赤色のヨウ化プロピジウムを添加した。緑色の染色は、用量依存性のサポニン暴露後に残っている膀胱細胞の数を測定するために使用し、そして緑色/赤色の割合は、透過性の程度を測定するために使用した。図8に示されるとおり、サポニン濃度の増加は膀胱細胞を刺激し、同時に、膀胱細胞数を減少させた(説明文中緑色)。更に、膀胱細胞数の減少は、サポニン用量依存性の透過率の増加と並行した(説明文中緑色/赤色)。
【0045】
例7:
例5に示されるとおり、サポニンは、細胞内大腸菌を含む膜区画へのゲンタマイシンの移動を可能にし、そしてまたいくらかの膀胱細胞の放出を惹起する(例6)。本例において、出願人は、培地(膀胱中の尿)中に放出されたサポニン及びゲンタマイシンが、膀胱細胞内に存在する大腸菌を死滅させる証拠を提供する。手短には、膀胱細胞を2時間感染させ、その後サポニンとゲンタマイシンで更に2時間処理した。膀胱細胞内で生存している大腸菌の数は、放出された膀胱細胞(アポトーシス及び拒絶された膀胱細胞)を含む培地を回収し、そしてウェルの底に存在している膀胱細胞を調べることにより検査した。図9は、拒絶された膀胱細胞を含む洗浄における生存大腸菌の数(黒四角)、及びまだウェルの底に付着しているヒト膀胱細胞内の生存大腸菌の数(白四角)を示す。サポニンとゲンタマイシンの組み合わせ処理は、刺激した剥離膀胱細胞内において(洗浄、黒四角)、及び細胞培養フラスコに付着している膀胱細胞内において(説明文中HTB9、白四角)、サポニン用量依存性の細胞内大腸菌の死滅をもたらした。
【0046】
例8:
本発明の装置は図10に開示されている。カテーテル(10)は管状部(13)を介して近位開口部(12)に連結した遠位開口部(11)を備える。遠位開口部(11)は、容器(20)の開口部(21)に連結することが出来る。尿道(示されていない)を介する膀胱(示されていない)への近位開口部(12)の挿入後、膀胱は通常の方法により空になる。その後開口部(21)は遠位開口部(11)に取り付けられ、そして混合物(30)が容器開口部(21)、遠位開口部(11)、管状部(13)及び近位開口部(12)を通過するように容器(20)が膀胱の高さよりも上に上げられる。容器(20)が空になるとカテーテルが引き抜かれ、膀胱内に混合物が残る。
【0047】
上記混合物は、サポニン(50μg/ml)及びゲンタマイシン(100.0μg/ml)を含む20mlの0.9%NaClである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル及び容器を含む尿路感染症の治療のための装置であって、該容器がコレステロール結合剤を含む装置。
【請求項2】
前記カテーテルが導尿カテーテルである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コレステロール結合剤がサポニンである、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置が、膀胱内におけるコレステロール結合剤との同時投与のための抗生物質を更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記抗生物質がゲンタマイシンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
尿路感染症を治療及び/又は予防するための方法であって、コレステロール結合剤を膀胱内に入れる工程を含む方法。
【請求項7】
抗生物質を患者に投与する工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記尿路感染症が、再発性尿路感染症である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記コレステロール結合剤がサポニンである、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記コレステロール結合剤を入れる工程が、導尿カテーテルを介するものである、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗生物質の投与が経口投与である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗生物質の投与が静脈内投与である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗生物質の投与が、膀胱内におけるコレステロール結合剤との同時投与である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗生物質が殺菌性抗生物質である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記殺菌性抗生物質がゲンタマイシンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
哺乳類における再発性尿路感染症の治療のための医薬の調製のためのサポニンの使用。
【請求項17】
哺乳類における再発性尿路感染症の治療のためのサポニンと殺菌剤との混合物の使用。
【請求項18】
前記治療が哺乳類の膀胱への投与を介するものである、請求項17に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−531174(P2010−531174A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513657(P2010−513657)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【国際出願番号】PCT/DK2008/050159
【国際公開番号】WO2009/000277
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(500085884)コロプラスト アクティーゼルスカブ (153)
【Fターム(参考)】