説明

サラシア属植物を含有する経口用組成物

【課題】サラシア属植物抽出物を含有し、長期保存後も色調が変化しない安定な経口用組成物の提供。
【解決手段】サラシア属植物の抽出物を含有し、組成物中の総ポリフェノール量が1〜24質量%で、組成物中のマンジフェリン量が0.01質量%以上で、かつ下記(式1)で表されるA値が0.1以上の経口用組成物。
(式1) A = 経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サラシア属植物を含有する経口用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サラシア属植物の根や幹はインドやスリランカの伝統医学アーユルヴェーダにおいて天然薬物として利用されてきた。スリランカではサラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)の根皮がリュウマチ、淋病、皮膚病の治療に有効であるとともに、初期糖尿病の治療に用いられると伝承されている。インドではサラシア・オブロンガ(S. oblonga)の根が同様の治療に用いられるほか、サラシア・キネンシス(S. chinensis)も糖尿病の治療に用いるとされている(非特許文献1)。
【0003】
このようにサラシア属植物には糖尿病の予防や初期治療に有効であることが伝承されている。近年ではサラシア属植物に血糖値上昇抑制作用があり、その作用メカニズムがα−グルコシダーゼ活性阻害に基づく糖吸収抑制作用によるものであることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、サラシア属抽出成分に含まれ、α−グルコシダーゼ活性阻害作用を有する化合物の特許(特許文献1〜3)や、α−グルコシダーゼ活性阻害作用を基にした抗糖尿病剤としての応用例や特許が見られる(特許文献4〜5)。
【0005】
サラシア属植物には、種々のポリフェノール及びキサントン配糖体であるマンジフェリンが含有されることが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特許第3030008号公報
【特許文献2】特開2004−323420号公報
【特許文献3】特開2000−86653号公報
【特許文献4】特開平9−301882号公報
【特許文献5】特許第3261090号公報
【非特許文献1】FOOD Style 21、第6巻、第5号、第72〜78頁
【非特許文献2】YAKUGAKU ZASSHI、121(5)、第371〜378頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サラシア属植物を含有する組成物は、高活性、高濃度で配合される場合、長期保存により変色を生じることが判明した。
すなわち、本発明の課題は、高活性、高濃度でサラシア属植物成分を含有しつつ、保存による変色を抑制した経口用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、サラシア属植物の抽出物を含有する組成物中の総ポリフェノール量およびマンジフェリン量を制御することで、長期保存による変色を抑制できることを見出した。
具体的には、下記構成よりなる。
【0009】
<1>
下記条件(A)〜(C)を満たす、サラシア属植物の抽出物を含有する経口用組成物。
(A)該組成物中の総ポリフェノール量が1〜24質量%。
(B)該組成物中のマンジフェリン量が0.01質量%以上。
(C)下記(式1)で表されるA値が0.1以上。
(式1) A = 経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、高活性、高濃度でサラシア属植物成分を含有しつつ、保存による変色を抑制した経口用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のサラシア属植物とは、主としてスリランカやインドや東南アジア地域に自生するニシキギ科の植物で、より具体的にはサラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(S. oblonga)、サラシア・プリノイデス(S. prinoides)、サラシア・キネンシス(S. chinensis)、サラシア・ラティフォリア(S.latifolia)、サラシア・ブルノニアーナ(S. burunoniana)、サラシア・グランディフローラ(S. grandiflora)、サラシア・マクロスペルマ(S. macrosperma)から選ばれる1種類以上の植物が用いられる。
本発明において、サラシア属植物の抽出物とは、根、幹、葉、花、果実など可食部の粉砕物、乾燥物、抽出物またはその乾燥粉末(エキス末)などを意味する。1種類以上の部位を混合して使用しても良い。より好ましくは根、幹から抽出したエキス末が用いられる。
【0012】
該エキス末は、前述の可食部等から溶媒抽出によって得られたものを乾燥させたものである。抽出溶媒としては、水、またはメタノール、エタノールを初めとするアルコール類、あるいは水とアルコール類またはアセトンなどのケトン類との混合溶媒から選択されてよい。好ましくは水、アルコール、含水アルコールを用いる。より好ましくは、抽出溶媒として熱水もしくはエタノールあるいは含水エタノールを用いる。前記含水アルコールのアルコール濃度は、30〜90質量%が好ましく、より好ましくは40〜70質量%の濃度のものを使用すればよい。
乾燥方法は噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0013】
本発明における経口用組成物の総ポリフェノール量は、1.0〜24.0質量%であり、2.0〜20.0質量%が好ましく、8.0〜16.0質量%がより好ましい。
【0014】
本発明における総ポリフェノールとは、フォーリン・チオカルト法によって定量される成分のことを指す。すなわち、試料にフェノール試薬を添加し、次いで10%炭酸ナトリウム溶液を加えて30分インキュベーションしたのち、分光光度計で700nmにおける吸光度を測定した。標品として、サラシア属植物に多く含まれる(−)-エピカテキンを用い、検量線を作成し総ポリフェノール量を求めた。
【0015】
本発明における経口用組成物のマンジフェリン量は0.01質量%以上であり、0.01〜10.0質量%が好ましく、0.05〜5.0質量%がより好ましく、0.1〜2.0質量%が特に好ましい。
また、本発明の経口用組成物のマンジフェリン量は、1日量中に、0.1〜100mgが好ましく、0.5〜50mgより好ましく、1〜20mgが特に好ましい。
【0016】
マンジフェリンは以下の方法により測定できる。
<HPLC条件>
カラム: Capcellpack C18 UG120 φ4.6×250mm(資生堂)
カラム温度: 40℃
検出: UV360
流速: 1.0mL/min
溶媒A: 1.0% 酢酸 溶媒B: メタノール
リニアグラジエント(%B): 15%(0min)→25%(20min)
【0017】
サンプルは50%メタノールに溶解させた後、シリンジフィルターで不溶物を除去して調製する。
検出されたマンジフェリンのピーク面積から、標品の検量線を用いて含有量を算出する。
【0018】
経口用組成物のα−グルコシダーゼ50%阻害濃度(IC50値)は、10μg/mL以上2000μg/mL以下が好ましく、10μg/mL以上500μg/mL以下がより好ましく、10μg/mL以上100μg/mL以下が特に好ましい。
【0019】
α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(IC50値)は以下の方法で測定する。
【0020】
[実験法1] α−グルコシダーゼIC50値の測定
サンプル溶液の準備:チューブに2mgのサンプルを量り取り、水2mLを加えてよく懸濁し、1mg/mL濃度のサンプル溶液を作成する。これをそれぞれ0、50、100、250、500μg/mLとなるように水で希釈する。
基質液の準備:0.2Mマレイン酸バッファー(pH6.0)にスクロース濃度100mMとなるようにスクロースを溶解し、これを基質液とする。
粗酵素液の準備:10mLの生理食塩水に1gのintestinal acetone powder rat(SIGMA社製)を懸濁した後、遠心分離(3,000rpm,4℃,5min)した。得られた上清を分離し、粗酵素液とする。
前述の各濃度のサンプル溶液500μLに対し、基質液400μLを添加し、水浴中37℃にて5分間予備加温した。ここにそれぞれ、粗酵素液を100μL添加し、37℃にて60分間反応させた。反応終了後、95℃にて2分間加温することで酵素を失活させて反応を停止させた。生成したグルコース濃度を市販のキット・ムタロターゼ・グルコースオキシダーゼ法(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業(株))を使用して定量を行う。
ブランクの準備:前述の各濃度のサンプル溶液250μLに対し、基質液200μL、粗酵素液50μLを添加し、直ちに95℃にて2分間加温することで酵素を熱失活させ、ブランクデータとする。
【0021】
得られた値より検量線を作成し、酵素活性を50%阻害する濃度(IC50値)を求める。
【0022】
経口用組成物のα−グルコシダーゼ50%阻害濃度(IC50値)は、該組成物の質量や配合されるサラシア属植物抽出物の含量に依存する。したがって該組成物の好ましいα−グルコシダーゼ阻害活性は、下記の式1によって評価することができる。式1のA値は、該組成物が有する活性の強さを示す。
【0023】
(式1) A = 経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)
【0024】
本発明における経口用組成物のA値は、0.1以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、1.0以上が特に好ましい。
【0025】
本発明の経口用組成物はヒトを含む哺乳類を対象とし、該哺乳類に経口的に投与される。本発明の経口用組成物は、食品、医薬部外品または医薬品であってもよい。他の成分としては、経口投与剤として薬学的若しくは食品衛生上許容される各種の担体、例えば賦形剤、滑沢剤、安定剤、分散剤、結合剤、希釈剤、香味料、甘味料、風味剤、着色剤などを例示することができる。
【0026】
本発明の組成物の形態は、本発明の効果を奏するものである限り特に制限されず、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、咀嚼剤、カプセル剤、液剤、チュアブル剤、飲料等が挙げられる。その他の食品の形態であってもよい。
【0027】
これらの投与形態は、当該分野で通常知られた慣用的な方法を用いて調製することができる。
【0028】
なお、錠剤、丸剤及び顆粒剤の場合、必要に応じて慣用的な剤皮を施した剤形、例えば糖衣錠,ゼラチン被包剤、腸溶被包剤、フィルムコーティング剤等とすることもでき、また錠剤は二重錠等の多層錠とすることもできる。
【0029】
本発明の経口用組成物には、上記の他にビタミン、ビタミン様物質、タンパク質、アミノ酸、油脂、有機酸、炭水化物、植物由来原料、動物由来原料、微生物、食品用添加物、医薬品用添加物等、経口摂取可能な成分を適宜含有させることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を用いて本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
サラシアエキス末 … サラシア属植物(サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・オブロンガ(S. oblonga)、サラシア・キネンシス(S. chinensis))の根及び幹の部分0.5kgを粉砕後、10Lの水を加え、100℃、1時間の条件で抽出し、得られた抽出液を100メッシュのフィルターでろ過した後スプレー乾燥し、50gのエキス末を得た。
緑茶エキス末 … サンフェノン100S、太陽化学(株)製。
赤ワインエキス末 … Provinol、セダハーブ製。
コエンザイムQ10 … 10%、和光純薬製。
結晶セルロース … 「ゼオラス」FD‐101、旭化成ケミカルズ社製。
【0032】
表1に示す配合例1−1〜1−9の混合粉末を打錠し、錠剤を作製した。
各錠剤を40℃75%RHで4ヶ月保存し、錠剤表面の色調変化を色差計により測定した。色差測定は、コニカミノルタホールディングス(株)製の色彩色差計を用いて、L* a* b* 表色系(ここで、L* は明度、a* は赤−緑方向の色度、b* は黄−青方向の色度を示す)の色差量(ΔE* )を算出し、保存前と比較した。
また、各錠剤の式1で表されるA値を表1に併記した。
(式1) A = 経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)
結果を図1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
配合例1−4は、総ポリフェノール量が10重量%、マンジフェリン量が0.004重量%と少ない処方であるが、保存による変色が大きかった。これに対し、マンジフェリン量が多い配合例1−5と1−6では、変色の程度が著しく改善された(△E<3)。特に配合例1−6では、変色はほとんど起こらなかった。
配合例1−7は、総ポリフェノール量が28重量%と高く、マンジフェリン量が0.004重量%と少ない処方であるが、変色は甚だしかった。マンジフェリン量が多い配合例1−8と1−9でも、変色は大きかった。
配合例1−1は、総ポリフェノール量が0.1重量%と少ない処方であるが、長期保存により変色が進んだ。マンジフェリン量が多い配合例1−2と1−3でも、変色は大きかった。
このことから、マンジフェリン量が多い処方において変色が起こりうるが、総ポリフェノール量がある範囲の処方において、変色は問題ないレベルに減少した。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得られた、配合例1−6処方において、錠剤の変色を抑制できることがわかった。
次に、Lot違いのサラシアエキス末を用いて、表2に示す配合例2−1〜2−6の混合粉末を打錠し、錠剤を作製した。
また、各錠剤の式1で表されるA値を表2に併記した。
(式1) A = 経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)
実施例1と同様に長期保存による変色の評価を行った。
結果を図2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
配合例2−1〜2−3は、Lot違いのサラシアキス末を用い、配合比を揃えて打錠した水準である。配合例2−1(A=2.27)と配合例2−2(A=0.83)は保存による変色が問題ないレベルであるのに対し、配合例2−3(A=0.08)は、変色が大きかった。これに対し、マンジフェリン量が多い配合例1−5と1−6では、変色の程度が著しく改善された(△E>5)。特に配合例1−6では、変色はほとんど起こらなかった。
配合例2−4〜2−6(A=0.24〜4.81)は、サラシアキス末の配合比を変化させた水準であるが、変色は問題ないレベルであった。
これらのことから、高いA値を示す配合で、長期保存による錠剤の変色を抑制できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の評価結果を表わしたグラフ。
【図2】実施例2の評価結果を表わしたグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(A)〜(C)を満たす、サラシア属植物の抽出物を含有する経口用組成物。
(A)該組成物中の総ポリフェノール量が1〜24質量%。
(B)該組成物中のマンジフェリン量が0.01質量%以上。
(C)下記(式1)で表されるA値が0.1以上。
(式1) A =経口用組成物質量(mg)/α−グルコシダーゼ50%阻害濃度(μg/mL)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−43035(P2010−43035A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209380(P2008−209380)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】