説明

サンゴ精製方法、及び、これにより得たサンゴ

【課題】サンゴ精製方法、及び、これにより得たサンゴの提供。
【解決手段】本発明は、サンゴ中の有機物の抽出方法であって、超臨界状態の流体又は流体混合物により、上記サンゴの結晶構造を変えずに、270℃未満の温度で、上記流体又は流体混合物の臨界圧より大幅に高い圧力、例えば上記臨界圧の少なくとも約3倍、好ましくは約5倍の圧力でサンゴを処理する方法を提供する。また本発明は、上記方法により得たサンゴ、及び、上記サンゴから作成した骨代替物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴ精製方法及びこの方法で得たサンゴに関する。
【0002】
本発明は医学分野において特に応用される。
【背景技術】
【0003】
サンゴは多孔性構造を有し、本質的に(約97%は)無機物(主として炭酸カルシウム)からなり、残り(約3%)はマグネシウム及び鉄の酸化物、並びに、その色の原因である有機物から構成される。その硬度はモーズ硬度計で2.5〜3.5である。
【0004】
サンゴの構成成分である炭酸カルシウムは準安定アラゴナイト型の結晶構造を有し、特に温度約260℃で、容易に方解石に変化可能である。
【0005】
サンゴ中の有機物はタンパク性物質を含み、脂性物質は本質的に含まない。
【0006】
現在、サンゴに基く骨代替物があり、Agence Francaise de Securite Sanitaire des Produits de Sante(AFSSAPS)[フランス医薬品庁]の承認済みである。これらのうち、商品名BIOCORAL(登録商標)でINOTEB社から市販のものは、サンゴの孔表面を処理して上記有機物の一部を除去することにより得る。
【0007】
しかし、サンゴのより詳細な形態分析(熱走査電子顕微鏡及び質量分光法)は、上記有機物がサンゴの孔の中だけでなく炭酸カルシウム粒子の粒子界面にも存在することを示す。BIOCORAL(登録商標)について実施された処理によっては、粒子界面の有機物(総有機物の約90%に相当)の抽出は不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題の一つは、有機物、特にタンパク質を本質的に含まず、既存の合成インプラントと同等の質を有する骨代替物の作成に使用可能なサンゴの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書中で使用する用語「有機物を本質的に含まないサンゴ」は、有機物含量が未処理サンゴの半分以下であるサンゴを意味する。
【0010】
本発明が解決しようとする別の課題は、結晶構造を変えずにサンゴ中の有機物を除去可能な方法の提供である。
【0011】
本発明は、最適範囲の温度および圧力で超臨界状態の流体でサンゴを処理することにより、従来の方法では未解決の上記課題を解決可能であることを発見し、このことは本発明の基礎である。
【0012】
従って第一の態様において、本発明は、サンゴ中の有機物の抽出方法であって、超臨界状態の流体又は流体混合物により、上記サンゴの結晶構造を変えずに、270℃未満、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下の温度で、上記流体又は流体混合物の臨界圧より大幅に高い圧力、例えば上記臨界圧の少なくとも約3倍、好ましくは約5倍の圧力でサンゴを処理する方法を提供する。
【0013】
超臨界状態の流体の有機物抽出における使用はヨーロッパ特許EP−A−0603920中に記載される。しかし、上記特許は骨組織の処理にのみ関し、二酸化炭素を使用して脂質(すなわちサンゴに含まれない物質)を抽出する。上記特許においては、タンパク質の抽出において、界面活性剤又は酸化剤等の(サンゴの構造を変える可能性のある)化合物を更に使用する、補足的な化学処理又は酵素処理を用いる。更に、上記特許においては、二酸化炭素の臨界圧に近い圧力で処理を実施する。
【0014】
本発明の方法では、「超臨界」と呼ばれる条件で流体を使用する、すなわち流体はガスの侵入特性を有すると同時に液体として作用する。この理由から、流体はサンゴの多孔性構造中に湿潤性の問題なく拡散可能であり、これによりサンゴ中の有機物、特にタンパク質(以下で「有機マトリックス」とも呼ぶ)の抽出を最適化可能である。
【0015】
本発明の方法における使用に好適な流体又は流体混合物は270℃未満、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下の臨界温度を有する必要があり、有機物を溶解させるであろう。
【0016】
例としては、エタノール、アセトン、又は、これら二種の流体の一種と二酸化炭素との混合物であって、臨界温度が270℃未満のものが挙げられる。エタノールは入手が容易で安価であり毒性がないため、有利に使用される。エタノールは臨界温度が240℃、臨界圧が6.12MPa[メガパスカル]である。
【0017】
流体がエタノール又はアセトンである場合、サンゴの処理温度は240℃〜260℃が有利である。
【0018】
エタノールと二酸化炭素の混合物等の流体混合物を使用する場合、サンゴの処理温度は80℃〜100℃が有利である。
【0019】
本発明の方法は、サンゴの結晶構造を変形させないように、使用する流体又は流体混合物の臨界圧より大幅に高い十分な圧力で実施する。この点において、上述の流体の臨界圧は容易に達成される。
【0020】
エタノール又はアセトンを使用する場合、サンゴの処理圧力は300MPa〜450MPa、好ましくは350MPa〜450MPaが有利である。
【0021】
エタノールと二酸化炭素の混合物等の流体混合物を使用する場合、サンゴの処理圧力は30MPa〜50MPa、好ましくは約40MPaが有利である。
【0022】
処理時間自体は重要ではなく、使用する流体に応じて一般的に数分〜数時間の間である。エタノール又はアセトンを使用する場合、この時間は15min[分]〜240min、好ましくは約1h[時間]が有利である。
【0023】
サンゴの化学組成が無機的な組成であることを前提とすれば、本発明の流体又は流体混合物は、サンゴの構造を変える可能性のある界面活性剤又は酸化剤等の化合物を更に使用することなく、有利に使用される。
【0024】
第二の態様において、本発明は、上記方法で得た、有機物を本質的に含まないサンゴに関する。
【0025】
第三の態様において、本発明は、有機物を本質的に含まないサンゴから作成した骨代替物を提供する。上記骨代替物は当業者に公知の方法で取得可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を以下の例示により説明する。
【実施例1】
【0027】
<サンゴの超臨界処理>
一定容積のチャンバー内において高水圧発生装置中で未処理サンゴを処理した。このチャンバーは高力合金製で、深さ229mm[ミリメートル]、内径55mmであった。このチャンバーは金属シールを支えるキノコ形の閉鎖部により閉じていて、これが変形して密閉される。開始時(オートクレーブは非加圧状態)には、上部でネジ8本で閉鎖部を持ち上げることにより密閉状態を作成した。ポンプでチャンバーを加圧することにより、又は、シールを温度加圧することにより、系を密閉する。
【0028】
リアクター上部に取り付けた熱電対によりチャンバー内部の温度を測定した。熱電対は加圧流体と直接接触させた。
【0029】
約300℃の温度に耐熱性があり、圧力により変形可能な可撓性の20mL[ミリリットル]テフロン(登録商標)PFAボトル(品番:M77400、Fisher Bioblock Scientific社)中にサンゴを入れた。ボトルの内壁及び外壁に同じ圧力をかけた。ボトル内には空気がほとんど又は全くないため、ボトル内の液体及び送られる液体(水)の圧力は等しく、従って水の圧縮による壁の変形はほとんどなかった。240℃〜260℃、好ましくは約250℃の温度、かつ、300MPa〜400MPa、好ましくは約350MPaの圧力の「超臨界」流体のエタノールの存在下、15分間〜240分間、好ましくは約1時間処理を実施した。
【実施例2】
【0030】
<処理したサンゴ中に残った有機物の定量>
実施例1で得たサンプルを乳鉢で粉砕して重量を量った(UM質量−未処理物−約3g[グラム])。得た粉末3gを0.1N HCl 135mL中に撹拌しながら1時間かけて溶解させた。これにより得た溶液を分子量12000〜16000の膜(品番:MCWO)で透析し、−80℃で冷凍して凍結乾燥させた。その後、凍結乾燥物の重量を量った(OM質量−有機物−約3g)。
【0031】
比較するため、未処理のサンゴサンプル(アラゴナイト)及びBIOCORAL(登録商標)のサンプルについて同じ実験を実施した。
【0032】
図1は、3つのサンプル各々のOM/UMの比率を示す。本発明の「超臨界」処理により、有機物含量がBIOCORAL(登録商標)の約半分であるサンゴを作成可能であることが分かるであろう。
【実施例3】
【0033】
<処理したサンゴ中に残ったタンパク質の定量>
1/試験溶液及びサンプルの調製:
・溶液Aと溶液Bを50:1の容量比で混合した。試験溶液は最初わずかに曇っているが、ボルテックスでゆっくり撹拌すると急速に透明になった。乳緑色であった;
・サンプルを乳鉢で粉砕し、得た粉末の重量を量った;
・粉末1gを0.6N HCl 45mL中に撹拌しながら1時間かけて溶解した。
2/測定方法:
水溶性画分を水中で分析した:有機物1.2mg[ミリグラム]を水75μL[マイクロリットル]中に溶解した;
・遠心分離した残渣を0.3N NaOH 75μL中に溶解した;
・これらと、(アッセイサンプルと同様に調製した)各サンプルの各標準(0μg/mL、5μg/mL、25μg/mL、50μg/mL及び250μg/mL[マイクログラム/ミリリットル])を25μLずつ、96ウェルプレートのウェル中に分配した;
・プレートを覆い、37℃で30分間インキュベートした;
・プレートが室温まで冷えたら光学濃度を562nm[ナノメートル]で読み取った。
【0034】
比較するため、未処理のサンゴサンプル(アラゴナイト)及びBIOCORAL(登録商標)のサンプルについて同じ実験を実施した。
【0035】
図2は、3つのサンプル各々のタンパク質/UMの比率を示す。本発明の「超臨界」処理により、BIOCORAL(登録商標)の約二倍のタンパク質が抽出されたサンゴを作成可能であることが分かるであろう。
【実施例4】
【0036】
<処理したサンゴ上における骨細胞の細胞増殖の立証>
シリンダ(直径=12mm)を石切り用丸鋸で厚さ1mmの円盤状に切り、100℃で1時間30(3サイクル)乾熱滅菌した。円盤を培養皿(NUNC;24ウェル、2cm[平方センチメートル])に入れた0.1%アガロース台上に置いた。細胞懸濁液を、完全培地(IMDM:Iscowe社ダルベッコ改変培地、10%FCS−ウシ胎仔血清)100μL中に、MG63細胞20000個/cm(1.13cm×2、多孔質であるため−細胞22600個、すなわち一サンプル当たり細胞約50000個)の割合で各円盤上に置いた。30分間かけて細胞を付着させた後、培地1mLを添加した。2日毎に培地を交換した。
【0037】
完全培地を除去して培地のみで洗浄した。細胞を17時間飢餓状態にした(培地のみ+10%FCS、トリチウム化チミジン、10μCi/mL[マイクロキュリー/ミリリットル](品番:TRK758、アマシャム社)(すなわち、HT10μL/完全培地1容量)。上清を除去し(後の除去のため残す)、その後、物質をアガロースから取り出してプラスチックウェルに移した。これをPBS 1×(又はHank’s溶液 1×)で二回洗浄後、冷却した100%メタノールで細胞を4℃において10分間かけて固定した。これをPBS 1×(又はHank’s溶液 1×)で二回洗浄後、冷却した5%TCAで4℃において20分間かけて沈殿させた。上清を除去し、PBS 1×(又はHank’s溶液 1×)で四回洗浄した。
【0038】
これを300μL〜500μLを超えない量の0.3N NaOH中で室温において2 時間インキュベート(細胞層を溶解)した。この溶液を回収し、液状閃光体(scintillant)5mLを入れたシンチレーション管中に入れて、溶液及び物質の放射能をβ線カウンター(放射能はごく微量)で測定した。
【0039】
比較するため、未処理のサンゴサンプル(アラゴナイト)及びBIOCORAL(登録商標)のサンプルについて同じ実験を実施した。
【0040】
結果を図3中に示す。本発明により処理したサンゴ上におけるMG63細胞の細胞増殖はBIOCORAL(登録商標)を用いた場合と同じであることが分かるであろう。
【0041】
これらの結果は、本発明により処理したサンゴを使用して骨代替物を作成可能であることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】3つのサンプル各々のOM/UMの比率を示す。
【図2】3つのサンプル各々のタンパク質/UMの比率を示す。
【図3】処理したサンゴ上における骨細胞の細胞増殖。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ中の有機物の抽出方法であって、
超臨界状態の流体又は流体混合物により、前記サンゴの結晶構造を変えずに、270℃未満、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下の温度で、前記流体又は流体混合物の臨界圧より大幅に高い圧力、例えば前記臨界圧の少なくとも約3倍、好ましくは約5倍の圧力でサンゴを処理する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記流体はエタノール及びアセトンから選択され、流体混合物はエタノールと二酸化炭素との混合物及びアセトンと二酸化炭素との混合物から選択され、その臨界温度は270℃未満、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流体はエタノールである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
サンゴの処理圧力は300MPa〜450MPa、好ましくは350MPa〜450MPaである
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
サンゴの処理温度は240℃〜260℃、好ましくは約250℃であり、サンゴの処理時間は15分〜240分、好ましくは約1時間である
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
流体混合物がエタノールと二酸化炭素の混合物である場合、サンゴの処理圧力は30MPa〜50MPa、好ましくは約40MPaである
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
サンゴの処理温度は約80℃〜100℃である
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得たサンゴ。
【請求項9】
請求項8に記載のサンゴから作成した骨代替物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−523029(P2007−523029A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541987(P2006−541987)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/003126
【国際公開番号】WO2005/055885
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(500280928)バイオ ホールディングズ インターナショナル リミテッド (2)
【Fターム(参考)】