説明

サンショウオイル、その製造方法および食品

【課題】さわやかなサンショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いサンショウオイル、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るサンショウオイルの製造方法は、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記サンショウの乾燥果皮を砕く第3の工程と、前記混合物からサンショウオイルを分離する第4の工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンショウオイル、その製造方法および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
サンショウの乾燥果実から種子を取り除いたサンショウの乾燥果皮は、さわやかな芳香成分および辛味成分を有する香辛料である。一般に、サンショウの乾燥果皮は、ミルで挽く等して粉末状にし、種々の料理の香り付けに使用されている。サンショウの乾燥果皮を挽くことにより、上述の芳香成分が急激に発散して香りが生じるが、挽いた後のサンショウ粉末は香りの持続性が低く、経時的に香りが消失してしまうため、一般的に料理の仕上げ段階で挽き立てのサンショウを加えて香り付けすることが行われている。
【0003】
しかしながら、食品工業的に加工食品を大量生産しようとする場合、挽き立てのサンショウを加えようとすると工程が煩雑になり製造コストが増大するため、あらかじめ粉末化された粉末サンショウの製品を用いることが行われているが、この粉末サンショウの製品は香りが弱く、挽き立てのサンショウの香りを充分に食品に付与できないという問題があった。さらに、保存を目的とする容器詰め食品等に粉末サンショウの製品で香り付けしても、経時的に香りが消失し喫食時には香りが弱くなってしまうという問題があった。
【0004】
容器詰め食品等の香り付けに用いることができる香料としては、サンショウからヘキサンまたは含水アルコール等の溶剤で芳香成分や辛味成分を抽出した後、溶剤を除去することにより得られたサンショウ抽出物等が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような溶剤抽出物は、溶剤を除去する際に芳香成分の一部も除去されてしまい、ナチュラルな挽き立ての香りのオイルが得られず、また香りの持続性の観点からも充分でないという問題があった。
【0005】
一方、料理技法の一つとして、例えばサンショウを高温の油脂中で加熱して芳香成分や辛味成分を油脂中に溶出させたサンショウオイルが知られている。しかしながら、このようなサンショウオイルは、加熱によってさわやかな芳香成分が減少してしまい、サンショウ本来のさわやかな香りを有するものではなかった。上記の料理技法は、主として辛味成分を抽出して食品に加えるために採用される手法といえる。
【特許文献1】特開昭59−129296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さわやかなサンショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いサンショウオイル、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法は、
サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、
前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、
前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記サンショウの乾燥果皮を砕く第3の工程と、
前記混合物からサンショウオイルを分離する第4の工程と、
を含む。
【0008】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内に供給する前記混合物の温度が0℃〜60℃であることができる。
【0009】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内の温度を0℃〜100℃に保持することができる。
【0010】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内には、前記混合物を押し流すためのスクリューが設けられており、前記圧搾装置内において前記混合物を押し流すにつれて、該混合物にかかる圧力を増加することができる。
【0011】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理する時間が2分〜15分であることができる。
【0012】
本発明に係るサンショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内に設けられた固液分離フィルターの間隙が0.2mm〜2mmであることができる。
【0013】
本発明に係るサンショウオイルは、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離されたものである。
【0014】
本発明に係る食品は、上記のサンショウオイルの製造方法によって製造されたサンショウオイルが配合されたものである。
【発明の効果】
【0015】
上記サンショウオイルの製造方法によれば、さわやかなサンショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いサンショウオイルを製造することができる。
【0016】
上記のサンショウオイルの製造方法によって製造されたサンショウオイルを、例えば種々の容器詰め食品等に配合すると、製造後喫食されるまでに時間が経過しても、従来にはないさわやかなサンショウ本来の挽き立ての香りを有する容器詰め食品等を提供することができる。これにより、容器詰め食品等の需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0018】
1.サンショウオイルの製造方法
本実施形態に係るサンショウオイルの製造方法は、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記サンショウの乾燥果皮を砕く第3の工程と、前記混合物からサンショウオイルを分離する第4の工程と、を含む。まず、本実施形態に係るサンショウオイルの製造方法に用いる圧搾装置について説明し、それから各工程について説明する。
【0019】
1.1 圧搾装置
以下に、圧搾装置の一例を説明する。図1は、本実施形態に係るサンショウオイルの製造方法において使用される圧搾装置100の概略を示す図である。
【0020】
まず、圧搾装置100の構成の概略を説明する。圧搾装置100は、エキスペラーとも呼ばれている。圧搾装置100は、所定の架台(図示せず)に据え付けられている圧搾ケース38と、スクリュー駆動部50と、スクリュー支持部52と、を含む。圧搾装置100は、さらに圧搾ケース38内に配置された固液分離フィルター36およびスクリュー20を含む。
【0021】
スクリュー20は、固液分離フィルター36の内部に配置されており、固液分離フィルター36の内周とスクリュー20の外周との間に圧搾空間22が形成される。スクリュー20は、シャフト10およびその周囲に設けられた螺旋羽根11を有する。
【0022】
シャフト10は、円柱形状を有しており、その外径は、第1の工程で得られた混合物(以下、単に「混合物」ともいう。)の送出方向(矢印24方向)に徐々に大きくなっていることが好ましい。これにより、シャフト10の外周と固液分離フィルター36の内周との間隔が矢印24方向にいくにつれて小さくなることから、混合物にかける圧力を徐々に増加させることができる。なお、シャフト10の外形は、段階的に大きくなっていてもよい。
【0023】
シャフト10の側面には、螺旋羽根11が設けられている。シャフト10および螺旋羽根11は、スクリュー駆動部50のモータ(図示せず)によって回転させられる。螺旋羽根11が旋回することにより、圧搾空間22内において混合物を移動させ、圧搾処理を行うことができる。
【0024】
螺旋羽根11は、シャフト10の側面に形成され、螺旋形状を有する。螺旋羽根11は、複数設けられていてもよく、そのピッチは、シャフト10の軸方向に変化していてもよい。螺旋羽根11のピッチは、例えば図1に示すように、混合物の送出方向(矢印24方向)に狭くなっていることが好ましい。これにより、送出方向に移動するにつれて混合物にかける圧力を増加させることができる。
【0025】
螺旋羽根11の外周部分は、固液分離フィルター36の内周と接していてもよい。これにより、混合物を固液分離フィルター36の内壁付近に止まらせることなく、効率的に押し流すことができる。
【0026】
圧搾ケース38は、固体および液体を密閉し、その形状は特に限定されないが、例えば円筒状であることができ、長手方向の両端部付近において、所定の架台に支持される。スクリュー駆動部50およびスクリュー支持部52は、双方がスクリュー20の一端および他端を支持し、一方がスクリュー20の他端を支持する。
【0027】
圧搾装置100は、さらに供給口30と固液分離フィルター36との間に配置された送出部31を含む。送出部31は、例えば固液分離フィルター36と同軸の略円筒形状を有し、側端部(上部)に供給口30を接続するための貫通穴36cが設けられている。この貫通穴36cから固液分離フィルター36内部に混合物が供給される。送出部31の内部にはスクリュー20が配置されており、供給口30から供給された混合物を固液分離フィルター36方向に送出することができる。
【0028】
固液分離フィルター36は、圧搾空間22内において圧搾された混合物中の液体成分であるサンショウオイルのみを外側に排出し、固体成分であるサンショウの乾燥果皮の残渣を内側に保持し、固液分離する。固液分離フィルター36の詳細については、図1〜図3を参照しながら説明する。図2は、図1の圧搾装置100におけるA−A断面を示す図である。図3は、図2における領域Bの拡大図である。
【0029】
固液分離フィルター36は、例えば略円筒形状を有する。固液分離フィルター36の端面36bは、送出部31と反対側に設けられ、開口しており、この端面36bからサンショウの乾燥果皮の残渣を排出することができる。
【0030】
固液分離フィルター36の側面36dは、複数のバレルバー(略直方体部材)36aおよび複数の固定部材39によって構成される。この複数のバレルバー36aとスクリュー20とによって、圧搾空間22に収容された混合物に圧力が加えられて混合物を圧搾し、前記混合物中のサンショウの乾燥果皮を砕くことができる。圧搾された混合物中のサンショウオイルは、図3に示すように、複数のバレルバー36aの隙間から外側(矢印37方向)に送出される。この隙間は、圧搾後のサンショウの乾燥果皮が通過できない程度の大きさである。
【0031】
固液分離フィルター36の内径は、図1に示すように長手方向に変化していてもよい。固液分離フィルター36の内径は、スクリュー20の螺旋羽根11のピッチに合わせて設定される。具体的には、固液分離フィルター36は、スクリュー20のシャフト10の外周に接する程度の内径の領域を複数箇所に有する。これにより、複数の圧搾空間22が設けられることになる。この複数の圧搾空間22は、混合物の送出方向(矢印24方向)にいくにしたがって小さくなることが好ましい。これにより、送出方向にいくにつれて、圧搾空間22ごとに混合物にかける圧力を増加させることができる。
【0032】
固液分離フィルター36の間隙は、0.2〜2mmであることができる。固液分離フィルター36の間隙が0.2mm未満であると、圧搾された混合物中のサンショウオイルがバレルバーの隙間から外側に送出され難くなる。一方、固液分離フィルターの間隙が2mmを超えると、圧搾により砕かれたサンショウの乾燥果皮の残渣の一部がバレルバーの隙間から外側に送出されサンショウオイルに混入しやすくなる。
【0033】
1.2 第1の工程
第1の工程は、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る工程である。
【0034】
まず、サンショウの乾燥果皮と植物油脂を準備する。
【0035】
サンショウとは、ミカン科サンショウ(Zanthoxylum piperitum
DC.)および、その同属植物のことをいう。同属植物としては、例えばアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium DC. forma inerme Makino)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium DC. forma brevispinosum Makino)、カショウ(Zanthoxylum bungeanum Sieb. et Zucc.)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium Sieb. et
Zucc.)、フユザンショウ(Zanthoxylum avicennae DC., Zanthoxylum simulans Hance, Zanthoxylum planispinum Sieb. et Zucc.)等が挙げられる。
【0036】
本発明に使用されるサンショウの乾燥果皮とは、上述したサンショウの乾燥果実から種子を取り除いた果皮部分をいう。サンショウの乾燥果実は、球形の種子を覆う果皮が二分裂して種子がのぞきでたものとなっているため、サンショウの乾燥果実から種子を容易に取り除くことができる。このようなサンショウの乾燥果皮は、種子を取り除いた後の二分列した乾燥果皮やその破片からなり、伝統的な香辛料であり市販されていることから、市販品を用いればよい。一般的に市販されているサンショウの乾燥果皮の水分含量は、5〜10%、脂質含量は5〜8%である。
【0037】
本発明においては、後述するように前記サンショウの乾燥果皮と特定量の植物油脂とを混合したものを圧搾処理して、前記混合物中のサンショウの乾燥果皮を砕くことにより、挽き立てのナチュラルな香りを有し、香りの持続性が高く、香りの強いサンショウオイルを得ることができる。また、サンショウの乾燥果皮と特定量の植物油脂とを混合して圧搾処理することにより、圧搾処理工程中に処理物の温度が急上昇して高温となることを防止し、挽き立てのさわやかな芳香成分が減少することを防止できる。
【0038】
サンショウの乾燥果皮には、サンショウの乾燥果皮の破片を含んでいてもよいが、あまり粒度の小さい破片を多く含みすぎていても、後述する圧搾処理工程においてサンショウの乾燥果皮に充分な圧力がかからずサンショウの乾燥果皮が砕かれ難くなり、ナチュラルな香りを充分に含んだオイルが得られ難くなる傾向がある。したがって、サンショウの乾燥果皮の粒度は、全体の好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上が10メッシュオンの粒度であることが好ましい。なお、粒度の測定に使用するふるいのメッシュ番号は、Tyler規格「JISZ8801」に対応したものであり、前記メッシュは目開き1.7mmであることを意味する。
【0039】
本発明に使用される植物油脂とは、植物から得られる油脂をいう。植物油脂は、サンショウの乾燥果皮と混合させやすくする観点から、上昇融点が0℃以下であることが好ましい。上昇融点とは、ガラスキャピラリーに植物油脂を充填後固化させ、一定温度で上昇させたときの融解温度のことをいう。上昇融点は、例えば基準分析試験法(I)(1996年版「日本油化学会」)に準じて測定できる。上昇融点が0℃以下の植物油脂としては、特に限定されないが、例えば菜種油、コーン油、サフラワー油、綿実油、大豆油、米油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ゴマ油、これらを精製したサラダ油等の植物性油脂;MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等のような化学的または酵素的処理して得られる油脂等が挙げられる。
【0040】
次に、サンショウの乾燥果皮に植物油脂を加えて混合物を得る。サンショウの乾燥果皮に加える植物油脂の量は、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部であり、好ましくはサンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂5〜25部であり、より好ましくはサンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂5〜20部である。サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂の量が3部未満であると、植物油脂の量が少なすぎることにより後述する圧搾処理工程(第3の工程)において温度が急上昇することがあり、ナチュラルな挽き立ての香りを有するサンショウオイルが得られない。一方、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂の量が25部を超えると、植物油脂の量が多すぎることによりサンショウの乾燥果皮から香り成分を植物油脂に移行させても香りの強いサンショウオイルが得られ難いばかりでなく、後述する圧搾処理工程においてサンショウの乾燥果皮に充分な圧力がかからずサンショウの乾燥果皮が砕かれ難くなって香りをサンショウオイルに移行させ難くなる。
【0041】
サンショウの乾燥果皮および植物油脂の混合処理は、サンショウの乾燥果皮と植物油脂とが略均一に混合されていればよい。混合処理は、例えば撹拌装置付き混合タンク等の撹拌混合機等により行うことができる。
【0042】
1.3 第2の工程
第2の工程は、第1の工程で得られた混合物を圧搾装置に供給する工程である。第2の工程では、第1の工程で得られた混合物を、供給口30を介して固液分離フィルター36に流し込む(矢印32方向)。
【0043】
従来の方法であれば、採油効率を高めるために、原料となる油糧種子を加熱処理(クッキング)したものを圧搾装置に供給していた。例えば、菜種油を採取する場合には、菜種を105℃〜110℃程度で加熱処理したものを圧搾装置に供給する。
【0044】
一方、本実施形態に係るサンショウオイルの製造方法では、上述したような加熱処理は行わない。加熱処理を行うと、ナチュラルな挽き立ての香りを有するサンショウオイルが得られ難くなるからである。圧搾装置に供給する際の混合物の温度は、室内の温度があまり高くならないようにして、好ましくは0℃〜60℃、より好ましくは0℃〜40℃程度に保つ必要がある。
【0045】
1.4 第3の工程および第4の工程
第3の工程は、上述した圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記サンショウの乾燥果皮を砕く工程である。第4の工程は、前記混合物からサンショウオイルを分離する工程である。第3工程および第4工程について、図1を参照しながら説明する。
【0046】
シャフト10および螺旋羽根11が旋回することによって、混合物は、固液分離フィルター36内を螺旋状に回転しながら矢印24方向に押し流される。このときに、圧搾装置100は、混合物にかける圧力を増加させながら圧搾して前記混合物中のサンショウの乾燥果皮を砕く。圧搾された混合物中のサンショウオイルを圧搾して固液分離フィルター36から排出部40に集められる。そして、矢印42方向に送出させて貯留部(図示せず)にサンショウオイルを回収する。
【0047】
第3の工程では、圧搾装置内における混合物の滞留時間、つまり混合物を圧搾処理する時間が2〜15分となるように調整する。圧搾装置内における混合物の滞留時間は、好ましくは2分〜10分である。圧搾装置内における菜種やゴマ等の滞留時間は、数十秒程度である。40%以上の脂質含量を有し、硬さが比較的やわらかい菜種やゴマ等は、数十秒程度の滞留時間で多量のオイルを搾ることができるからである。一方、わずか6%程度の脂質含量しか有さず、硬さが比較的硬いサンショウの乾燥果皮は、圧搾装置内で所定時間圧力がかかった状態で砕かれながら保持されることによって、はじめてナチュラルな挽き立ての香りを含んだサンショウオイルを得ることができる。圧搾装置内における混合物の滞留時間が2分未満であると、サンショウの乾燥果皮から香り成分を充分に植物油脂に移行させることができず、ナチュラルな挽き立ての香りを充分に含んだサンショウオイルが得られない場合がある。一方、圧搾装置内における混合物の滞留時間が15分を超えると、製造効率が悪くなる。
【0048】
滞留時間は、以下のようにして測定することができる。まず、圧搾処理開始時に空の圧搾装置100内に第1の工程で得られた混合物を供給口30に供給して圧搾処理し、圧搾装置100の固液分離フィルターの端面36bから残渣が押し出されるまでに圧搾装置100内に投入された前記混合物の量を測定し圧搾装置100内の容量A(kg)を求める。次に、連続稼働中に単位時間当たりに圧搾装置100内に吸い込まれる前記混合物の量を測定し、処理能力B(kg/時)とする。滞留時間(分)は、下記一般式(1)により求めることができる。
【0049】
滞留時間(分)=60/(B/A) …(1)
さらに、第3の工程では、圧搾装置内において前記混合物を0℃〜100℃に保持しながら圧搾することが好ましい。圧搾装置内において前記混合物を0℃〜100℃に保持するためには、サンショウの乾燥果皮と特定量の植物油脂とを混合して圧搾処理することに加えて、冷却しながら圧搾処理すればよい。例えば、上述した圧搾装置100を用いる場合には、シャフト10の内部において、冷却水(所定温度の液体)によって満たされていてもよい。冷却水は、流動していることが好ましい。これにより、固液分離フィルター36内の温度を一定に保つことができる。具体的には、固液分離フィルター36内の温度は、0℃〜100℃であることが好ましい。
【0050】
このように、混合物の圧搾時に固液分離フィルター36内の温度を0℃〜100℃という低温に保つことによって、サンショウの乾燥果皮に含まれている低沸点の揮発成分が揮発するのを抑制し、ナチュラルな挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いサンショウオイルを得ることができる。
【0051】
以上のように、第1ないし第4の工程を踏まえることにより、サンショウの乾燥果皮の脂質含量や圧搾処理条件にもよるが、第1の工程で加えた植物油脂100部に対して80〜150部のサンショウオイルが得られる。
【0052】
2.サンショウオイル
本実施形態に係るサンショウオイルは、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離されたものである。
【0053】
上記のサンショウオイルは、サンショウからヘキサンや含水アルコール等の溶剤で抽出された抽出物と異なり、サンショウのナチュラルな挽き立ての香りを有しており、しかもその香りの持続性が高い点で優れている。
【0054】
サンショウの乾燥果皮をミル等で挽いたサンショウ粉末は、経時的に香りが消失して香りの持続性が低いが、上記本発明に係るサンショウオイルは、ナチュラルな挽き立ての香りの持続性が高い点で優れている。
【0055】
3.サンショウオイルが配合された食品
本実施形態に係るサンショウオイルは、原料のサンショウの乾燥果皮に近いナチュラルな挽き立ての香りを有し、しかもその香りの持続性が高いことから、種々の食品に配合することにより風味が格段に増して、食品の差別化を図ることができる。
【0056】
本実施形態に係るサンショウオイルが配合される食品としては、例えばソース、スープ、惣菜等の調理食品;ハム、ソーセージ、シュウマイ等の畜肉加工食品;かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の水産加工食品;中華麺、うどん、蕎麦等の麺類;タマゴサラダ、スクランブルエッグ、オムレツ等の卵加工食品;マヨネーズ、タルタルソース等の酸性水中油型乳化食品(pH3〜4.5);アイスクリーム、ソフトクリーム等の冷菓;ケーキ、クッキー等の洋菓子;煎餅、あられ等の米菓;スナック菓子、パン等が挙げられる。
【0057】
さらに、上記のようなサンショウオイルが配合された食品を容器に詰めて容器詰め製品とすることもできる。チルド流通、常温流通、あるいは冷凍流通される容器詰め製品は、従来の粉末品やヘキサン抽出品を配合した場合にはナチュラルな挽き立ての香りを付与できないという問題があったが、本実施形態に係るサンショウオイルを配合すると流通後に喫食する際にナチュラルな挽き立ての香りを充分に有する容器詰め製品が得られるため好ましい。特に、チルド流通品(0℃〜15℃)や冷凍流通品(−30℃〜0℃)であって喫食時に50℃〜100℃に温めて調理する容器詰め製品は、従来の粉末品やヘキサン抽出品を配合すると調理時に香りが消失しやすいという問題があったが、本実施形態に係るサンショウオイルを配合すると調理後であってもナチュラルな挽き立ての香りを充分に有する容器詰め製品が得られるため好ましい。
【0058】
本実施形態に係るサンショウオイルの上記食品への配合量は、食品の種類によって適宜選択すべきであるが、好ましくは0.0001〜5%、より好ましくは0.005〜3%である。サンショウオイルの配合量が上記下限値よりも少ないと、ナチュラルな挽き立ての香りを充分に有しない場合がある。一方、サンショウオイルの配合量が上記上限値よりも多くしたとしても、配合量に応じた効果が期待し難く経済的でない。
【0059】
4.実施例
次に、本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
4.1 サンショウオイルの製造
4.1.1 実施例1
以下の工程により、実施例1に係るサンショウオイルを製造した。
【0061】
まず、サンショウの乾燥果皮(花椒、脂質含量6%、水分含量6%、全体の85%が10メッシュオンの粒度)100部、菜種油10部を撹拌混合機に投入し撹拌混合した。
【0062】
次に、この混合物(品温30℃)を圧搾装置(固液分離フィルターの間隙が0.5〜1mm)に供給して圧搾処理し、搾り出たオイルをさらに20メッシュのフィルターで濾過することによりサンショウオイルを11部得た。得られたサンショウオイルは、ガラス瓶に入れ密封した。圧搾装置および圧搾処理条件は、以下の通りである。
【0063】
圧搾装置:エキスペラー
圧搾装置の容量:2kg
処理量:20kg/時
滞留時間:6分
圧搾処理中の圧搾装置内の温度:70〜80℃
4.1.2 実施例2
以下の工程により、実施例2に係るサンショウオイルを製造した。
【0064】
まず、サンショウの乾燥果皮(花椒、脂質含量6%、水分含量6%、全体の85%が10メッシュオンの粒度)100部、菜種油5部を撹拌混合機に投入し撹拌混合した。
【0065】
次に、この混合物(品温30℃)を圧搾装置(固液分離フィルターの間隙が0.5〜1mm)に供給して圧搾処理し、搾り出たオイルをさらに20メッシュのフィルターで濾過することによりサンショウオイルを6部得た。得られたサンショウオイルは、ガラス瓶に入れ密封した。圧搾装置および圧搾処理条件は、実施例1と同様である。
【0066】
4.1.3 比較例1
以下の工程により、比較例1に係るサンショウオイルを製造した。
【0067】
熱したフライパンに菜種油50部、サンショウの乾燥果皮(花椒、脂質含量6%、水分含量6%、全体の85%が10メッシュオンの粒度)50部を投入して、120〜150℃で10分間加熱することにより、サンショウの乾燥果皮の成分を加熱溶出させたオイルを製造した。得られたサンショウオイルは、ガラス瓶に入れ密封した。
【0068】
4.1.4 比較例2
以下の工程により、比較例2に係るサンショウオイルを製造した。
【0069】
サンショウの乾燥果皮(花椒、脂質含量6%、水分含量6%、全体の85%が10メッシュオンの粒度)をヘキサンに浸漬して、サンショウの乾燥果皮の成分を抽出した後、減圧加熱してヘキサンを分離することにより、サンショウの乾燥果皮のヘキサン抽出オイルを製造した。得られたサンショウオイルは、ガラス瓶に入れ密封した。
【0070】
4.2 試験例1
実施例1で得られたサンショウオイルおよび比較対照品として挽き立てのサンショウ粉末(実施例1で用いたサンショウの乾燥果皮をミルで挽いた後、10メッシュのふるいに通したもの)について、下記の評価方法でサンショウの香りの好ましさと香りの持続性について評価した。
【0071】
実施例1で得られたサンショウオイルを菜種油で10倍量に希釈したもの、および比較対照品である挽き立てのサンショウ粉末を風味皿に載せ、20℃の室内で5時間保存した。これらの保存前後におけるサンショウの香りの好ましさおよび香りの強さを下記の評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
【0072】
サンショウの香りの好ましさについては、以下の4段階で評価した。
【0073】
A:挽き立てのサンショウの香りと同等のさわやかな香りであり好ましい。
【0074】
B:挽き立てのサンショウの香りとほぼ同等のさわやかな香りであり好ましい。
【0075】
C:挽き立てのサンショウの香りとやや異なる香りである。
【0076】
D:挽き立てのサンショウの香りと全く異なる香りである。
【0077】
サンショウの香りの強さについては、1〜5の5段階で評価した。ここで、前記5段階評価に関し、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのサンショウとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどサンショウの香りがしないことを示す。
【0078】
【表1】

表1によれば、実施例1に係るサンショウオイルは、挽き立てのサンショウと同様に挽き立てのサンショウの大変好ましい香りを有していることが確認された。さらに、挽き立てのサンショウは保管後の香りが弱くなっていたのに対し、実施例1に係るサンショウオイルは香りが維持され香りの持続性が高いことが確認された。
【0079】
4.3 試験例2
実施例1に係るサンショウオイルおよび比較対照品として挽き立てのサンショウ粉末(実施例1で用いたサンショウの乾燥果皮をミルで挽いた後、10メッシュのふるいに通したもの)をそれぞれ配合した2種類の煎餅を以下のように製造して、サンショウの香りの好ましさと香りの持続性について評価した。
【0080】
常法により乾燥モチに醤油を塗布して焼成した1枚20gの煎餅を用意した。この煎餅の表面に、サンショウオイル1部と菜種油9部との混合物、またはサンショウ粉末をそれぞれ表面に1gずつ塗布して煎餅を得た。続いて、得られた煎餅を樹脂製パウチに容器詰めした。この容器詰めした煎餅を20℃で3日間保管した。保存前の煎餅および保存後の煎餅について、サンショウの香りの好ましさおよび香りの強さを下記の評価基準により評価した。その結果を表2に示す。
【0081】
サンショウの香りの好ましさについては、試験例1と同様に4段階で評価した。サンショウの香りの強さについては、1〜5の5段階で評価した。ここで、前記5段階評価に関し、数字の大きさが大きいほど、香りが強いことを示す。3は、製品として問題ない程度の香りを有していることを示す。
【0082】
【表2】

表2によれば、実施例1に係るサンショウオイルを用いた煎餅は、挽き立てのサンショウを用いた比較対照品の香りと同様に挽き立てのサンショウの大変好ましい香りを有していることが確認された。さらに、挽き立てのサンショウを用いた比較対照品は保管後の香りが弱くなっていたのに対し、実施例1に係るサンショウオイルが配合された煎餅は香りが維持され香りの持続性が高いことが確認された。
【0083】
4.4 試験例3
以下の工程により、実施例1に係るサンショウオイルを配合した中華ソースを製造した。
【0084】
撹拌装置付きのニーダーに菜種油5部、ニンニク5部を投入して加熱しながら撹拌した。その後、さらに豆板醤10部、醤油2部、澱粉2部、サンショウオイル(実施例1で製造したもの)0.5部、清水75部をニーダーに加えて加熱しながら撹拌することにより中華ソースを得た。続いて、得られた中華ソースを樹脂製パウチに容器詰めした。この容器詰め中華ソースを冷凍して冷凍中華ソースを製造し、冷凍保管前後における香りの強さを比較することにより香りの持続性を評価した。
【0085】
すなわち、まず、得られた容器詰め中華ソースを−40℃にて急速凍結して容器詰め冷凍中華ソースを得た。この容器詰め中華ソースを−20℃で1ヶ月間保管した後、パウチごと流水(20℃)中に浸漬して解凍した。
【0086】
冷凍保存前の中華ソースおよび保存後の中華ソースについて、サンショウの香りの好ましさおよび香りの強さを試験例1と同様の方法により評価した。その結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

表3によれば、実施例1に係るサンショウオイルが配合された中華ソースは、冷凍前および冷凍保存後のいずれにおいても挽き立てのサンショウの香りと大変似た好ましい香りを有しており、冷凍保存後においてもその香りの強さをほぼ保持できることが確認された。
【0088】
4.5 試験例4
「4.4 試験例3」で得られた凍結前の容器詰め中華ソースを加熱して温め、加熱前後における香りの強さを比較することにより香りの持続性を評価した。
【0089】
すなわち、まず、得られた容器詰め中華ソースを10℃の冷蔵庫で3日間保管した。この保管後の容器詰め中華ソースを開封して鍋に入れ、品温90℃まで加熱した。この加熱後の中華ソースを冷蔵庫で品温10℃まで冷却した。
【0090】
加熱前の中華ソースおよび加熱後の中華ソースについて、サンショウの香りの好ましさおよび香りの強さを試験例1と同様の方法により評価した。その結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

表4によれば、実施例1に係るサンショウオイルが配合された中華ソースは、加熱前および加熱後のいずれにおいても挽き立てのサンショウの香りと大変似た好ましい香りを有しており、加熱後においてもその香りの強さをほぼ保持できることが確認された。
【0092】
4.6 試験例5
実施例1に係るサンショウオイル、比較例1に係るサンショウオイル、比較例2に係るサンショウオイルをそれぞれ表5に示す配合量で配合した3種類の中華ソースを「4.4
試験例3」と同様にして製造した。得られた3種類の各中華ソースについて、「4.2
試験例1」と同様の評価方法によりサンショウオイルの香りの好ましさを評価した。その結果を表5に示す。
【0093】
【表5】

表5によれば、実施例1に係るサンショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのサンショウの香りと大変似た好ましい香りを有している。これに対し、比較例1に係るサンショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのサンショウの香りとは全く異なる香りであった。比較例2に係るサンショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのサンショウの香りとはやや異なる香りであった。
【0094】
4.7 試験例6
サンショウの乾燥果皮に加える植物油脂の量がサンショウオイルの香りに与える影響を調べるために以下の実験を行った。
【0095】
サンショウの乾燥果皮に加える菜種油の量を、サンショウの乾燥果皮100部に対して、1部、3部、5部、10部、20部、25部、30部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして7種類のサンショウオイルを製造した。得られた7種類の各サンショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、サンショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
【0096】
また、原料から充分に香りが搾り出されたどうかを評価するため、各サンショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのサンショウオイルとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどサンショウの香りがしないことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、サンショウの乾燥果皮から充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表6に示す。
【0097】
【表6】

表6によれば、サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂を3〜25部加えた場合には、挽き立てのサンショウの香りと似た好ましい香りを有するサンショウオイルが得られ、その香りが強く感じられた。
【0098】
サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂を1部加えた場合には、挽き立てのサンショウの香りとはやや異なる香りを有するサンショウオイルが得られた。
【0099】
サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂を30部加えた場合には、挽き立てのサンショウの香りと大変似た好ましい香りを有するサンショウオイルが得られるが、その香りはあまり強いものではなく、残渣に香り成分が比較的多く残っていることが確認された。
【0100】
4.8 試験例7
圧搾処理時の滞留時間がサンショウオイルの香りに与える影響を調べるために、以下の試験を行った。
【0101】
スクリューの1分間当たりの回転速度を変えて滞留時間を0.5分、2分、6分、8分、10分、15分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして6種類のサンショウオイルを製造した。得られた6種類のサンショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、サンショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
【0102】
また、原料から充分に香りが搾り出されたかどうかを評価するため、各サンショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのサンショウオイルとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどサンショウの香りがしないことを示す。サンショウオイルの香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、サンショウの乾燥果皮から充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表7に示す。
【0103】
【表7】

表7によれば、滞留時間を2分〜15分とした場合には、挽き立てのサンショウの香りと似た好ましい香りを有するサンショウオイルが得られ、その香りが強く感じられた。
【0104】
4.9 試験例8
圧搾装置に供給するサンショウの乾燥果皮および植物油脂の混合物の温度がサンショウオイルの香りに与える影響を調べるために以下の実験を行った。
【0105】
圧搾装置に供給するサンショウの乾燥果皮および植物油脂の混合物の温度を、5℃、30℃、50℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして4種類のサンショウオイルを製造した。得られた4種類の各サンショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、サンショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
【0106】
また、原料から充分に香りが搾り出されたどうかを評価するため、各サンショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。サンショウオイルの香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、サンショウの乾燥果皮から充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表8に示す。
【0107】
【表8】

表8によれば、圧搾装置に供給するサンショウの乾燥果皮および植物油脂の混合物の温度を5℃または30℃とした場合には、挽き立てのサンショウの香りと大変似た好ましい香りを有するサンショウオイルが得られ、その香りが大変強く感じられた。
【0108】
圧搾装置に供給するサンショウの乾燥果皮および植物油脂の混合物の温度を50℃とした場合には、挽き立てのサンショウの香りとほぼ同等の好ましい香りを有するサンショウオイルが得られ、その香りが大変強く感じられた。
【0109】
4.10 サンショウオイルに含有される揮発性成分の検出
実施例2に係るサンショウオイルおよび比較例2に係るサンショウオイルのそれぞれに含有される揮発性成分およびその量を特定するために、ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GS/MS)を用いて分析した。測定装置および測定条件は、以下のとおりである。
【0110】
(1)固相マイクロ抽出(SPME)条件
SPMEファイバー:StableFlex 50/30μm、DVB/Carboxen/PDMS、(Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO,USA)
抽出方法:35℃で10分加熱してヘッドスペース部の揮発成分を抽出した。
【0111】
(2)ガスクロマトグラフ条件
カラム:SOLGEL−WAX(SGE Analytical Science Pty.Ltd.,Victoria,Australia,30m×0.25mm×0.25μm)
温度条件:35℃で5分間保持した後、5℃/分の昇温速度で120℃まで上昇させた。その後、15℃/分の昇温速度で220℃まで上昇させ5分間保持した。
【0112】
キャリアー:He(流速1.0ml/分)
インジェクション:スプリットレス(1.5分)、パージ20ml/分
インレット:250℃、47kPa(スタート時)
GSオーブン:Agilent HP−6890(Agilent Technologies Inc., Santa Clara, CA, USA)
(3)質量分析条件
質量検出器:Agilent 5973N
スキャン質量:m/z 29.0〜290.0
イオン源:EI(70eV)
図4は、各サンショウオイルに含有される主要な成分およびその量を示すグラフである。図5は、図4に示された各サンショウオイルの成分を、揮発性の高いモノテルペン類、すなわち、d−リモネン(d-limonene)、β−ミルセン(β−myrcene)、β−フェランドレン(β−phellandrene)、α−ピネン(α−pinene)、β−ピネン(β−pinene)および、揮発性の低いモノテルペノイド類、すなわち、リナロール(linelool)、テルピネン−4−オール、(terpinen−4−ol)テルピネオール(terpineol)、ゲラニオール(geraniol)に分け、これらの割合を示したものである。図6は、各サンショウオイルに含有される揮発性の高いモノテルペン類成分について、比較例2の含有量に対する実施例2の含有量の比を表したグラフである。
【0113】
図4および図5より、実施例2に係るサンショウオイルは、モノテルペノイド類に対するモノテルペン類の割合が約9倍であるのに対し、比較例2に係るサンショウオイルはその割合が約3.5倍であった。この結果から、実施例2に係るサンショウオイルは、比較例2に係るサンショウオイルと比較して揮発性の高いモノテルペン類の割合が多く、揮発性の低いテルペノイド類の割合が少ない、という特徴を明らかにすることができた。
【0114】
また、図4および図6より、実施例2に係るサンショウオイルは、比較例2に係るサンショウオイルと比較して、d−リモネン(d-limonene)、β−ミルセン(β−myrcene)、β−フェランドレン(β−phellandrene)、α−ピネン(α−pinene)、β−ピネン(β−pinene)等の揮発性の高いモノテルペン類が多く含まれており、比較例2に係るサンショウオイルの1.4倍〜3倍の量に相当することがわかった。
【0115】
比較例2に係るサンショウオイルは、減圧加熱してヘキサンを分離する工程等において揮発性の高いモノテルペン類等の損失が大きいのに対し、実施例2に係るサンショウオイルは、揮発性の高いモノテルペン類が多く含まれていることにより、挽き立てのサンショウの香りと同等のさわやかな香りを有することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本実施形態に係るサンショウオイルの製造方法において使用される圧搾装置100の概略を示す図である。
【図2】図1のA−A断面を示す図である。
【図3】図2の領域Bの拡大図である。
【図4】各サンショウオイルに含有される揮発性成分およびその量を示すグラフである。
【図5】図4に示された各サンショウオイルの成分を、揮発性の高いモノテルペン類および、揮発性の低いモノテルペノイド類に分け、これらの割合を示したものである。
【図6】各サンショウオイルに含有される揮発性の高いモノテルペン類成分について、比較例2の含有量に対する実施例2の含有量の比を表したグラフである。
【符号の説明】
【0117】
10…シャフト、11…螺旋羽根、20…スクリュー、22…圧搾空間、30…供給口、31…送出部、36…固液分離フィルター、36a…バレルバー、38…圧搾ケース、39…固定部材、40…排出部、50…スクリュー駆動部、52…スクリュー支持部、100…圧搾装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、
前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、
前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記サンショウの乾燥果皮を砕く第3の工程と、
前記混合物からサンショウオイルを分離する第4の工程と、
を含む、サンショウオイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧搾装置内に供給する前記混合物の温度が0℃〜60℃である、サンショウオイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記圧搾装置内の温度を0℃〜100℃に保持する、サンショウオイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記圧搾装置内には、前記混合物を押し流すためのスクリューが設けられており、
前記圧搾装置内において前記混合物を押し流すにつれて、該混合物にかかる圧力を増加する、サンショウオイルの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理する時間が2分〜15分である、サンショウオイルの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記圧搾装置内に設けられた固液分離フィルターの間隙が0.2mm〜2mmである、サンショウオイルの製造方法。
【請求項7】
サンショウの乾燥果皮100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離された、サンショウオイル。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のサンショウオイルの製造方法によって製造されたサンショウオイルが配合された、食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−115118(P2010−115118A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288453(P2008−288453)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(596115528)サミット製油株式会社 (4)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(000002129)住友商事株式会社 (42)
【Fターム(参考)】