説明

サンドイッチ材料の製造方法、ガラス/セラミック/ガラス複合構造物、ガラス/セラミック/ガラス、医科あるいは歯科補綴、およびガラス/ジルコニア/ガラスサンドイッチ材料

本発明は、損傷耐性セラミックおよび整形補綴に使用するための、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス・サンドイッチ・システムを提供する。機能的に傾斜したガラス/基質/ガラス複合構造物は、外側残留ガラス層、傾斜ガラス・セラミック層および高密度内部セラミックからなる。機能的に傾斜したガラス/基質/ガラス複合構造物は、さらに、外面上に化粧被覆を設けてもよい。本発明は、また、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス・サンドイッチ・システムを製造するための方法を提供する。予備焼結ジルコニア基質のアクセス可能な表面へ、粉末状ガラス・セラミック調合物を適用することによって、基質面を実質的に覆う。この場合、調合物のガラスのCTEは、基質材料のそれに類似にする。少なくとも基質の焼結温度でアセンプリを加熱して、ガラス・セラミック調合物を基質内へ浸透させ、基質の密度を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯および整形補装具、そして機能的に傾斜したガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料等の、傾斜機能材料(「FGM」)を用いて義歯および整形補装具を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯は、私たちの健康にきわめて重要な役割を果たす。機能の損失は、平衡食をとる能力を減少させるため、全身に渡る健康を損なうことになる。美容的な損失は、社交性に否定的な影響を与えることもある。機能および美容は、歯冠および架工義歯で復元することができる。セラミックは、それらの美容性、不活性および生体適合性のため、魅力的な歯の修復材料である。しかしながら、セラミックは、脆く、特に湿性環境内でのスライド・リフトオフ咀嚼荷重を含む繰り返し接触の後、尚早的破損を受ける(キム氏ら(2007)歯科研究ジャーナル86(11):1046−1050、ローン氏ら(2001)歯科補綴学ジャーナル86(5):495−510、ローン氏ら(2001)歯科補綴学ジャーナル86(5):495−510、チャン氏ら(印刷中)「接線成分を持つ繰り返し接触荷重からのセラミック・コーティングの疲労損傷」米国セラミックス協会ジャーナル)。セラミック修復の破砕率は、1年につき3から4%と小さいようである(フラデアニ氏ら(1997)歯科補綴学の国際ジャーナル10:241−7、マラメント氏ら(1999)歯科補綴学ジャーナル81:23−32、シェーグレン氏ら(1999)歯科補綴学の国際ジャーナル12:122−8、セーラー氏ら(2006)クインテセンス・インターナショナル37’(9):685−693、セーラー氏ら(2007)臨床口腔インプラント研究18(3):86−96、ジェターソン氏ら(2007)臨床口腔インプラント研究18(3):73−85)。しかしながら、破損は、患者に深刻な不快感を与え、生産的なライフスタイルを損なう可能性がある。歯のセラミック修復部の脆弱さは、損傷、疲労荷重及び湿気によって増す。
【0003】
米国歯科医師協会が実施した調査によれば、1999年に歯科医が提供した4500万以上の新歯冠の3700万以上は、ポーセレン(セラミック)を基礎として形成している(ADA(2002)「提供された歯科医療の1999年の調査」)。住民が年をとれば、その数は増加することになる。デンタル・セラミックの強度を改善する絶え間ない努力にもかかわらず、オール・セラミック歯冠は、継続的に毎年およそ3から4%の率で破損する(バーク氏ら(2002)接着歯科ジャーナル4(1):7−22)。最高破砕率は、応力が最も大きい修復冠および架工義歯に対するものである。歯冠は、毎年、20億ドル以上の収益を生じ、それらユニットの20%がオール・セラミックである(ノーベル・バイオケア2004)。エナメルおよび象牙質の光学的性質を最も良く模倣するデンタル・セラミックは、主にガラス質の材料、その大部分が長石(シリカおよびアルミナを主成分とする一グループの鉱物)である(ケリー氏(1997)材料科学アニュアル・レビュー27:443−68、ケリー氏(2004)歯科臨床北米48:513−30)。当初の歯科用ポーセレンは、長石質ガラスの含有量が高く、極度に脆く、弱かった(S(強度)が、およそ〜60PMaである)(マクレーン、J.W.(1979)デンタル・セラミックの科学および技術、シカゴ、クインテセンス出版社、ビンズ、D.(1983)歯科用陶材の化学的および物理的特性、シカゴ、クインテセンス出版社)。したがって、美容的な利点にもかかわらず、初期のポーセレン冠は、歯科医業で広く使用されることはなかった(ヴァン、N.R.(2002)「歯科材料へのイントロダクション」231−46)。
【0004】
デンタル・セラミックは、強度の改善によって修復材料としてますます人気がでてきている。デンタル・セラミックの強度を改善するためのいくつかの方法が開発されている。例えば、「分散補強」と呼ぶ、ガラス・マトリックスを通して、一様に分散した適当なフィラー粒子を添加する方法がある。(マクレーン氏ら(1965)英国歯科ジャーナル119:251−67)。デンタル・セラミック内に使用された第一のフィラーは、白榴石粒子であった(デンリー氏(1996)口腔生物学および医学のクリティカル・レビュー7:134−43)。分散補強フィラーとしての白榴石を含む市販のデンタル・セラミックには、IPSエンプレス(S〜120PMa)(リヒテンシュタイン、シャーン、イヴォクラー・ヴィヴァデント)、そしてフィネッス・オール・セラミック(Sおよそ125MPa)(ペンシルバニア州ヨーク、デントスプリ・プロスセティクス)がある。ガラス内への沈殿と以降のクリスタライトの成長を促進するために、ガラスを熱処理することによって、粒子補強を達成することもできる。これば「セラミング」と呼ばれる。セラミング・プロセスを用いて生成したデンタル・セラミックは、ガラス・セラミックと呼ぶ。例としては、ディコル、(S〜160MPa)(デントスプリ)、IPSエンプレスII(S〜350MPa)(イヴォクラー・ヴィヴァデント)そして、より最近の、IPSeマックス・プレス(S〜525MPa)(イヴォクラー・ヴィヴァデント)等の、いくつかの市販品がある。白榴石補強ポーセレンおよびガラス・セラミックは半透明であるので、これらの材料から単一層(モノリシックな)冠を形成できる。しかしながら、粒子補強技術では、軽い強度増加のみが達成可能である。したがって、モノリシックなセラミック冠では、ディコル臼歯冠において4から6%(マラメント氏ら(1999)歯科補綴学ジャーナル81:23−32)、そしてIPSエンプレス冠において年に3から4%(フラデアニ氏ら(1997)歯科補綴学の国際ジャーナル10:241−7、シェーグレン氏ら(1999)歯科補綴学の国際ジャーナル12:122−8)の範囲で高い破損率を経験する。注:新IPSeマックス・プレス冠についての包括的な臨床報告は、この段階では利用可能ではない。
【0005】
モノリシック冠の破損問題への現在のアプローチは、強いが不透明なセラミック・コア上に、美的であるが弱いポーセレン薄板を融着した層構造である。これは、ガラス含有量の減少と共に、(約40の容量%から99.9容量%までの)結晶含有量の増加を伴う。最初に成功した補強コア・セラミックは、約40容量%のアルミナ粒子を含んだ長石質ガラスで形成されていた(マクレーン氏ら(1965)英国歯科ジャーナル119:251−67)。アルミナ・フィラーは、透明性を犠牲にして、セラミックの曲げ強さを約120MPaまで増加させた。このため、化粧被覆が必要であった。マクレーン氏のアプローチを用いて1983年に、クアーズ・バイオメディカル(コロラド州ゴールデン)は、〜60容量%のアルミナを含むセラミック・コアを持つ、セレストレ・オール・セラミック冠を開発した(ソジオ氏ら(1983)歯科補綴学ジャーナル69:1982−5)。しかしながら、歯冠の破損問題の後、メーカはシステムの販売を取りやめた。同じ時代の類似製品、セレストレ・コアとおよそ同量のアルミナを含むコア材を持つハイ・セラム冠(ドイツ、バッド・サキンゲン、ヴィータ)も、修復に対しては満足に機能しなかった(ビーニーク氏ら(1994)スイス歯科月刊誌104:284−9)。ハイ・セラム冠は、1990年にイン・セラム冠(ヴィータ)に置換された。イン・セラム冠は、アルミナ粉末成形体を軽く焼結させ、その後その多孔性アルミナ基材へ粘性の少ないガラスを浸透させることによって製造したコアを持っていた。最終的なコア材は、約70容量%のアルミナを含み、約450MPaの曲げ強さを持っていた(プロブスター氏(1992)歯科補綴学の国際ジャーナル5(5):409−14)。1993年に、プロセラ(スウェーデン、グテボルグ、ノーベル・バイオ・ケア)は、オール・セラミック冠の概念を提示した(アンダーソン氏ら(1993)スカンジナビア歯科公式記録51:59−64)。そこに、完全に高密度なコア材は、99.9容量%のアルミナを含み、675MPaの曲げ強さを示した、と記載がある。数年後、コア材としてさらに強固な、曲げ強さが1200MPaを超えるY−TZPセラミックが、歯科医業界に導入された。
【0006】
ジルコニア・コアに基づく歯冠の臨床性能に関する文献は、未だに限られているが、試験管内法による研究(B.キム氏ら(2007)歯科研究ジャーナル、86の(2):142−146)、そして逸話的な臨床報告(ドノヴァン氏(2005)美容および修復歯科医業ジャーナル17(3):141−3)は、ジルコニア・コアは破砕抵抗が非常に高い、ことを示唆している。しかしながら、頻繁な問題は、ポーセレン化粧被覆の破砕である。既存のデンタル・セラミックの性能の重大な改善にもかかわらず、オール・セラミック・システムの構造的安定性についての信頼性は、(金属コーピング上にポーセレン化粧被覆を融着させた)金属セラミック・システムに比べ低いままである(ケリー氏(2004)北米歯科臨床48:513−30)。オール・セラミック冠の構造的性能を改善する努力は、モノリシックな材料をより強固にする、あるいは弱いが美的なポーセレン化粧被覆を支持するより強いコアを製造することに集中していた。しかし、高損傷抵抗の、そして長寿命のセラミック冠を開発するための、革新的なアプローチはほとんど出ていない。その原因の一つは、セラミック冠に咀嚼下で発生し得る損傷モードについての、現在の知識が不足していることである。
【0007】
残念なことに、より強固なモノリシックなセラミック(整形補綴および義歯)または弱いが美的なポーセレン化粧被覆を支持する強固なコア(義歯)を含む現在の材料は、接触および撓みからの損傷を効果的に抑止することができない。加えて、化粧被覆を施した強固なセラミック義歯は、高密度の高純度結晶組織を持つが、接着内面で、サポートとしての歯象牙質に容易に接着結合できない。セラミック装着材の結合性を高めるために、粒子アブレージョン等の粗面化処理が一般に用いられる。しかしながら、粒子アブレージョンは、表面欠陥または微小亀裂をも生じるため、セラミック補綴の長期に渡る曲げ強さが劣化する可能性がある(チャン氏ら(2004)医用材料研究ジャーナル71B(2):381−6、チャン氏ら(2005)医用材料研究ジャーナル72B:388−92、チャン氏ら(2006)歯科補綴学の国際ジャーナル19(5):442−8)。
【0008】
理論的で実験的な研究による最近の進歩は、FGMと呼ばれる傾斜機能材料が、接触損傷に対して、先例のない抵抗を提供する可能性があることを示している(スレッシュ氏ら(2003)米国特許第6,641,893号、スレッシュ氏ら(1997)公式記録マテリアリア45(4):1307−21、ジッチャロエン氏ら(1998)アメリカのセラミックス協会81(9)ジャーナル:2301−8、スレッシュ氏ら(1999)公式記録マテリアリア47(14):3915−3926)。そのような損傷耐性は、従来の均一な材料では実現できない。FGMは、FGMの表面が完全に材料Aからなり、そして内部が完全に材料Bからなるように組み合わせた、二つの材料からできている。さらに、二つの材料の相対割合は、表面から内部へ連続的に変化する。一つの既知のFGMとして、頂部咬合面での接触損傷を抑止する、一面上に傾斜ガラス/セラミック(G/C)構造を生成するように、各々、弾性率の低いアルミノケイ酸塩ガラスまたはオキシナイトライド・ガラス(SiAlYON)で浸透させた、アルミナまたは窒化シリコンの厚いセラミック・ブロックがある(ジッチャロエン氏ら(1998)米国セラミックス協会のジャーナル81(9):2301−8)。しかしながら、高密度セラミックへの浸透と同時に、ガラスは、結晶粒界、そして結晶粒界における三つの要素からなる接合部へ浸透するため、結果としてセラミック粒子は徐々に分離してしまう。これは、傾斜構造の表面の体積を増加させる。そしてガラスを含浸させた面が凸面である試験片では、反りあるいは曲りを伴う。
【0009】
ジルコニアとしても知られる二酸化ジルコニウム(ZrO2)は、ジルコニウムの白い結晶質の酸化物である。その最も天然な形態は、単斜結晶組織を持つ、珍しい鉱物、バデレー石である。純粋なZrO2は、室温で単斜結晶組織を持ち、温度が上昇すると、正方晶へ、そして立方体へと移行する。立方体から正方晶へ、そして単斜結晶への変形による体積膨張は、非常に大きな応力を生じるため、純粋なZrO2を高温から冷却すると、ひびが入ることになる。正方晶および/または立方体相を安定させるために、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y23)酸化カルシウム(CaO)、そして酸化セリウム(Ce23)等の、いくつかの異なる酸化物がジルコニアに付加される。
【0010】
準安定な正方晶相ジルコニアが十分な量で存在する場合、加えられた応力は、亀裂先端の応力集中によって拡大され、関連の体積膨張を伴って、正方晶相から単斜結晶へと変移させる。この相転移は、亀裂を圧縮させることができるため、亀裂の成長を遅らせて破砕靭性を高める。このメカニズムは、転移強化として知られ、部分的に安定したジルコニアで形成された製品の信頼性および寿命を著しく延ばす。ジルコニアの特例は、正方晶のジルコニア多結晶、すなわち、準安定な正方晶相のみからなる多結晶ジルコニアを示すTZPである。この材料は、歯冠および架工義歯等の、歯修復構造に対する骨組みの製造に、また、人工股関節全置換術のための大腿骨頭部の製造にも使用される。歯修復構造は、その後、デンタル長石質ポーセレンで化粧被覆される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、セラミック補綴の破砕問題が、機能的に傾斜した材料(FGM)を利用する新世代の損傷耐性セラミック補綴によって最小化できる、という発見を利用する。本発明は、頂部および底部セラミック表面へガラスを浸透させることによって、従来の技術によるG/C構造へ改善を加え、傾斜G/C/G構造とする。本発明の特徴は、外面美的残留ガラス層、傾斜ガラス・セラミック層および高密度内部セラミックからなるG/C/G構造である。
【0012】
第一の局面において、本発明は、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス(G/C/G)、望ましくは、機能的に傾斜したガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料を製造するための方法を提供する。この方法は、(a)予備焼結したジルコニア基質のアクセス可能な表面へ粉末状ガラス・セラミック調合物を適用することによって、調合物の層でジルコニア基質面を覆うこと、この場合、ガラス・セラミックの熱膨張率(CTE)と基質材料の熱膨張率(CTE)とは、実質的に同じであり、そして(b)ガラス・セラミック調合物を基質内へ浸透させ、基質を加熱することによって基質の密度を高めることからなる。いくつかの実施例においては、加熱は、およそ、基質の焼結温度で実行される。
【0013】
いくつかの実施例においては、基質は、イットリア正方晶のジルコニア多結晶(Y−TZP)からなる。他の実施例においては、基質は、約900℃から約1400℃の温度で、予備焼結される。さらに他の実施例では、高密度化は、約1200℃から1550℃の、または1300℃から1500℃の温度で、一つ以上の焼成サイクルで実行される。温度は、約1400℃から1450℃であることが、より好ましい。また、いくつかの実施例では、粉末状ガラス・セラミック調合物は、水性溶液中で分散する。粉末状ガラス・セラミック調合物は、SiO2、Al23、K2O、Na2O、BaO、Tb47およびCaOからなるグループから選択した、一つ以上の酸化物からなることが好ましい。一つ以上の酸化物の各々は、約1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%または、さらに50%の、重量パーセントで存在してもよい。いくつかの実施例においては、1種類の酸化物のみが存在するが、他の実施例では、酸化物が、2、3、4、5、6、7種類、あるいは、さらに8種類で存在してもよい。また、特に好適な実施例では、ガラスのCTEとジルコニアのCTEが、実質的に同じである。つまり、CTEが実質的に同じであると、いくつかの実施例において、ガラスのCTEとジルコニアのCTEは、相互の約50%、40%、30%、25%、20%、10%、5%、2%、1%、さらに0.5%あるいは0.25%内にある。特に好適な実施例では、ガラスのCTEは、0から430℃で、約10.0から11.0、または10.3in/in/℃であり、そしてジルコニアのCTEは、0から430℃で、約10.0から11.0、または10.3in/in/℃である。いくつかの実施例においては、予備焼結ジルコニア基質は、マイクロ波技術によって予備焼結される。そして、いくつかの実施例では、ガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料は、マイクロ波技術によって高密度化される。
【0014】
第二の局面において、本発明は、外側残留ガラス層、下層にある傾斜ガラス・セラミック層および高密度内部セラミックからなる、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物を提供する。いくつかの実施例においては、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物は、実質的に反りあるいは曲げの影響を受けにくい。機能的に傾斜したガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料は、いくつかのケースにおいて、上記本発明の第一の局面として説明した方法によって生成されてもよい。
【0015】
いくつかの実施例においては、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物は、イットリア正方晶のジルコニア多結晶(Y−TZP)から実質的に形成した下層セラミックからなる。いくつかの実施例においては、ガラスのCTEとジルコニアのCTEは、実質的に同じである。つまり、CTEが実質的に同じであると、いくつかの実施例において、ガラスのCTEとジルコニアのCTEは、相互の約50%、40%、30%、25%、20%、10%、5%、2%、1%または、さらに0.5%あるいは0.25%内にある。特に好適な実施例では、ガラスのCTEは、0から430℃で、約8.0から15.0、10.0から11.0、または10.3in/in/℃であり、そしてジルコニアのCTEは、0から430℃で、約8.0から15.0、10.0から11.0、あるいは10.3in/in/℃である。
【0016】
いくつかの実施例においては、外側ガラス層は、厚さが、例えば、5から1,000ミクロン、時には10から750ミクロン、または20から500ミクロン、あるいは25から250ミクロン、または30から100ミクロンであってもよい。同様に、いくつか実施例では、傾斜ガラス・セラミック層は、厚さが、例えば、10から500ミクロン、または20から300ミクロン、あるいは30から200ミクロン、または40から150ミクロン、あるいは50から125ミクロン、または60から100ミクロンであってもよい。
【0017】
第三の局面において、本発明は、機能的に傾斜したガラス・セラミック/セラミック/ガラス・セラミック複合構造または傾斜ガラス・セラミック/セラミック構造からなる補綴を提供する。補綴は、例えば、美的で損傷耐性のあるセラミック整形補綴、整形ステム、整形あるいは歯科アンカー、整形あるいは歯科インプラント、歯科補綴、そして歯内ポストでもよい。構造は、外側残留低弾性率ガラス層、下層にある傾斜ガラス・セラミック層および高密度内部セラミックからなってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】扁平なG/Z/G複合材を製造するための、好適な加工方法を図解する概略図である。
【0019】
【図2】(a)1400℃で1時間、そして(b)1100℃で1時間予備焼結したY−TZPプレートから製造した、磨いたG/Z/G・FGM(d=1.5mm)の横断面図を示す光学顕微鏡像である。ガラス浸透および高密度化は、空気中において、1450℃で2時間実行した。二つのケースにおける表面傾斜ガラス・セラミック層は、厚さが異なる。図2bのインサートは、ガラス含有量の高い表面傾斜層を示すSEM像である。内部は高密度Y−TZPからなる。(c)1100℃で1時間予備焼結した試験片から製造したG/Z/Gの、倍率の小さなSEM像は、(左から右へ)外面残留ガラス層(約6mの厚さ)および傾斜ガラス・ジルコニア層を示す。ガラス含有量(黒)は、内方へ進むに従って、徐々に減少している。
【0020】
【図3】(a)1450℃で2時間焼結した均質なY−TZP、(b)1100℃で1時間予備焼結したY−TZP、そして(c)(1100℃で1時間)予備焼結したものを、1450℃で2時間、浸透および高密度化して製造したG/Z/GのXRDスペクトルに示す。T:正方晶のジルコニア相、そしてG:アモルファス・ガラス相。G/Z/G・FGM内に、第二の結晶相は全く存在しない。0.2°のステップ・サイズおよび1°/分のスキャン速度で、CuKα放射を用いて得たスペクトル。
【0021】
【図4】ポリカーボネート基質上のセラミック・プレート(d=1.5または0.4mm)における、内面半径方向のクラッキングに対する臨界荷重を表すバー・チャートである。セラミック・プレートは、1400℃で予備焼結したY−TZPのガラス浸透から製造したG/Z/G、そしてバルクY−TZPである。Y−TZP上のG/Z/Gの利点が、薄いサンプルでより明確になることに注目すべきである。
【0022】
【図5】(a)ガラス・セラミック組成1を用いて、1400℃で予備焼結したY−TZPのガラス浸透から製造したG/Z/Gプレート(1.5mm厚)を表すデジタル写真である。比較のために、モノリシックなガラス・セラミック(b)エンプレスII、ポーセレン化粧被覆を施したジルコニア(c)ラヴァそして(d)厚さ1.5mmのセルコンも示す。また、サイズ参照用に、1セント硬貨を示す(e)。
【0023】
【図6】セラミック・ライナーおよびセラミック大腿骨頭部を図解する概略図である。(a)および(b)は両面が機能傾斜している。(c)および(d)は整形補綴のために、一方の面のみが機能傾斜している。(e)磨耗、接触および衝撃を被る面に傾斜構造を設けたセラミック義歯(モノリシックな構造またはコア構造の両方)。
【0024】
【図7】水中で半径rの領域に荷重Pを受ける、(a)モノリス・セラミック・コーティング、そして(b)脆性基質上の化粧被覆を施したセラミック層の、繰り返し荷重に対する亀裂形状を示す概略図である。接触面近くの損傷モード:外側円錐(O)、内側円錐(I)、中央亀裂(M)。遠界内面半径方向亀裂(R)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
頂部、咬合面での接触損傷を抑止する傾斜ガラス/セラミック(G/C)構造を生成するために、厚いセラミック・ブロック、アルミナまたは窒化シリコンの一面上に、各々、弾性率の低いアルミノケイ酸塩ガラスまたはオキシナイトライド・ガラスを浸透させたFGM構造は、本技術において既知である(ジッチャロエン氏ら(1998)米国セラミックス協会ジャーナル81(9):2301−8)。本発明は、ガラスを頂部および底部セラミック面へ浸透させることによって、傾斜G/C/G構造を提供する。G/C/G構造は、咬合面接触損傷および接着内面屈曲損傷を抑止する。加えて、G/C/Gのユニークな構造、すなわち、外面の美的な残留ガラス層、傾斜ガラス・セラミック層、そして高密度内部セラミック(図2)は、光学特性および接着特性の最適化が可能である。
【0026】
高弾性率の強固なセラミック内部を間に挟んで頂面および底面に低弾性率のガラス・セラミックを持つ本発明のFGM構造は、接触および屈曲損傷の両方に対する耐性を向上させる。加えて、外面残留ガラス層と共に本発明のFGM構造は、非常に強固なクラスのジルコニア・セラミックを含む歯科用多結晶セラミック・コアの美しさおよび接着作用を高めるために用いることができる。さらに、表面傾斜層および残留ガラス層の厚さを最適化することが可能であり、これによって、G/C/G・FGMに対して、美しさと、接触損傷および屈曲破砕へ耐性との最高の組み合わせを提供できる。
【0027】
ガラス・セラミック粉体は、米国仮特許出願第60/860,165号に開示されている。その開示を、参照によって完全に本文に取り入れたものとする。本発明は、歯科用途に有益な厚さを持つG/Z/G構造を提供する。多くの実施例では、G/Z/Gに浸透させるために使用したガラス・セラミック粉体は、制限せずに、以下のメイン酸化物の一つ以上(すなわち、1.0重量%以上)を含む。SiO2、Al23、K2O、Na2O、BaO、Tb47およびCaO。浸透ガラス・セラミックの組成は、そのCTEが、ガラス・セラミック遷移温度(Tg)と室温との間の温度範囲においてY−TZPのものと類似する、あるいは望ましくはほぼ同じ、そして最終製品が美的外観を持つ限り、変えてもよい。シリカ・ベースのガラスは、この材料の焼結温度に類似する約1450℃でさえ、高密度Y−TZPに対して不十分な浸透率を持つ。加えて、この温度における焼結後のガラス浸透は、生体内におけるY−TZPの熱水安定性に有害であることが既知である粒子成長および/または正方晶相の不安定化を引き起こす(シュバリエ氏ら(2004)生体材料25:5539−45、シュバリエ氏(2006)生体材料27:534−43)。したがって、予備焼結されたY−TZPに浸透させて、浸透および高密度化を一つのプロセスに組み合わせることが好ましい。そうすることによって、予備焼結体の有孔率によって、傾斜ガラス・セラミック層の厚さを制御してもよい。さらに、浸透および高密度化を一つの工程に組み合わせることで、粒子成長、そして正方晶相の不安定化を回避することができる。
【0028】
本発明によるG/C/Gシステムは、咬合面接触損傷および接着内面屈曲損傷の両方を抑止する。本発明によるG/C/Gシステムは、従来の技術によるG/Cシステムに関連した、反りあるいは曲り問題を実質的に解決する。外面美的残留ガラス層、傾斜ガラス・セラミック層および高密度内部セラミックを提供する本発明のユニークな構造G/C/Gは、光学および接着特性を最適化できる、という利点を提供する。高弾性率の強固なセラミック内部を挟んで頂面および底面の両方に低弾性率のガラス・セラミックを持つFGMは、接触および屈曲損傷の両方に対する耐性を向上させる。外面残留ガラス層を持つ、そのような傾斜構造は、歯科用多結晶セラミック・コアの美的効果および接着作用を高めるために利用してもよい。
【0029】
出願中の仮出願、米国仮特許出願第60/860,165号には、アルミナを挟み込んだ層に基づくG/C/G構造が開示されている。なお、この開示は、参照によって本文に記載したものとする。本発明は、挟まれた層が非常に強固なクラスのジルコニア・セラミックからなるとき、驚くほど優れた特性を持つFGMが生成される、という予想外の発見に部分的に基づいている。重大な内部応力のない連続的な傾斜G/C複合材は、二つの成分GおよびCが類似の熱膨張率(CTE)およびポアソン比を持つ高密度セラミック面内へ、ガラスを浸透させることによって生成することが可能であることが分かっている。ジルコニア、とりわけ、イットリア正方晶ジルコニア多結晶(Y−TZP)は、機械的特性が、アルミナよりも遙かに優れている。そして本発明で用いるG/Z/Gシステムは、侵襲性の少ない後部用途に、強固で美的な、薄いオール・セラミック補綴を提供する。しかしながら、高密度Y−TZP内へのシリカ・ベースのガラスの浸透率は、焼結温度近くの温度でさえも不十分である。加えて、焼結温度近くの温度での焼結後のガラス浸透は、粒子成長や正方晶相の不安定化を生じる。そのことが、Y−TZPの熱水安定性を劣化させる(シュバリエ氏ら(2004)生体材料25:5539−45)。
【0030】
本発明は、予備焼結されたY−TZPの表面に、Y−TZPのものに類似するCTEおよびポアソン比を持つ粉末状のガラス・セラミック・スラリーを浸透させることによって、そして浸透および高密度化を一つのステージに組み合わせることによって生成したG/Z/G・FGMを提供する。用語「予備焼結された」は、基質の粉末状成分が、化合物の完全な高密度化が生じるものよりも低い高温時間加熱スケジュールにさらされた、ことを意味する。このようにすることで、焼結後の浸透・熱処理に起因する複雑な問題を回避することができる。また、異なる予備焼結温度を用いて予備焼結体の有孔率を制御することによって、傾斜層に対して種々の厚さを得ることが可能である。さらに、FGMの美しさは、表面残留ガラスの厚さ、そして傾斜層のミクロ構造によって支配される。したがって、美しさ、そして接触損傷および曲げ疲労への耐性に最高な組み合わせとなる、傾斜層と表面残留ガラス層の最適厚さが提供される。新G/Z/G複合材は、既存の市販Y−TZPコアを超える、より優れた屈曲損傷耐性、より優れた美しさ、より優れた化粧被覆および接着特性、そして、より優れた熱水劣化耐性を提供する。
【0031】
図6に、1400℃で予備焼結した部分的に高密度なボディに浸透させたG/Z/Gの外観を、市販のモノリシックなガラス・セラミック・エンプレスII(1.5mm厚)、化粧被覆を施したラヴァ・ジルコニア(1mmのポーセレン、そして0.5mmのジルコニア)およびセルコン・ジルコニア(1mmのポーセレン、そして0.5mmのジルコニア)と共に示す。より美しくするために、G/Z/Gの外面に薄い化粧被覆を適用してもよい。この薄化粧被覆は、接触損傷を阻止し、美しさを提供し、生来の生歯に対する不必要な磨耗を防止し、そして咬合面上での調整を可能にする。低弾性率で靭性の小さなポーセレンから高弾性率で靭性の大きなY−TZPへと亀裂が伝達する可能性は低いため、いかなる咬合面接触損傷も薄化粧被覆層内に制限されることになる(キム氏ら(2006)バイオメディカル材料研究ジャーナルBバイオマテリアルの適用79(1):58−65)。表面美化残留ガラス層、傾斜ガラス・ジルコニア層および高密度内部Y−TZP層を含むG/Z/Gのユニークな構造は、薄い化粧被覆を可能にする。表面美化ガラス層の厚さは、製造条件に依存して、5から50μmへと異なる。ガラス・ジルコニア傾斜層は、結晶含有量が高いために透明性が限られるが、高度に半透明なポーセレン化粧被覆および表面残留ガラス層から不透明なY−TZP内部への、透明性における緩やかな移行を提供するため、適度な美しさを出す際に必要な光学的深さが得られる。択一的に、浸透ガラスに類似の成分を持つ粉末状のガラス・スラリーを用いて、G/Z/Gの外側残留ガラス層の面に、着色染料を適用することもできる。この染色技術は、ガラス・セラミックからなる単一色の押圧ブロックの美的外観を改善するためにエンプレス・システムで使用されており、美容歯科の分野において確立されている。
【0032】
本発明は、ガラス浸透技術を用いて、Y−TZPプレートの、頂面および底面の両面に均一な傾斜層を提供する。この技術は、複雑な形状(図6)を持つ整形補綴および義歯の表面に、傾斜構造を製造するために容易に用いることができる。
【0033】
本発明の目的は、侵襲性の少ない修復手法のための、強固で美的な、薄いセラミック冠および架工義歯を開発することである。G/Z/G材料は、バルクY−TZPよりも、優れた屈曲損傷耐性、優れた美しさ、優れた化粧被覆および接着特性を提供する。G/Z/G材料は、ポーセレンとY−TZPとの異なる物理的・機械的特性に起因してポーセレン化粧被覆が離層してしまう原因となる、化粧被覆を施したY−TZP補綴内の明確な境界を排除する。G/Z/Gの内側の残留ガラス、そしてガラスを含む傾斜層は、従来のグリット・ブラスチング技法ではなく、例えば、エッチング・シラン技術を用いれば、強力な接着結合を提供する。従来のグリット・ブラスチング技法は、歯科修復の内側に損傷を誘発し、強度を低下させる(チャン氏ら(2004)医用材料研究ジャーナル71B(2):381−6;チャンY氏、B.R.ローン氏ら(2006)歯科補綴学の国際ジャーナル19(5):442−8)。屈曲損傷への耐性の向上、グリット・ブラスチング損傷の欠如、そして粘着接着の助けにより、G/Z/G修復の全体的な強度は、現在の化粧被覆を施したジルコニア修復に比べ、非常に大きい。さらに、Y−TZPフレームワークを持つ現在の固定局部義歯(FPD)は、しばしば、コネクタの下部から破砕し、ポーセレン化粧被覆の崩れまたは離層につながる。G/Z/G構造は、改善された美しさを提供するため、コネクタ下部にポーセレン化粧被覆なしでのFPDデザインを可能にし、PFDの屈曲損傷耐性を向上させる。最後に、G/Z/G表面の残留ガラスは、吸水を妨げて、内部Y−TZPの熱水劣化を防止するカプセル層として作用する(ピアシック氏ら(2006)真空科学技術ジャーナルA24(4)1091−5)。これは、後のインレー、オンレー、歯冠および架工義歯のための、強固であるが美的なセラミックの開発につながる。
破壊機構解析
【0034】
円筒形状あるいは湾曲形状のインデンターで荷重を受ける脆いセラミックの損傷は、1800年代後期に、ヘルツ氏が詳細に研究している。彼は、ヘルツの、または古典的な円錐亀裂と呼ばれる特徴的な破砕パターンを説明している(ヘルツ氏(1882)純粋数学および応用数学ジャーナル92:156−171;ヘルツ氏(1896)ヘルツの雑多な文献、ロンドン、5および6章:マクミラン)。象牙質上のセラミック冠をエミュレートする、頂面に載せた伸展性基質上の脆性被覆への、損傷モードに関する集中的な研究が、1980年代後期に始まった。大部分のテストは、堅い球状インデンターでの一回の荷重の下で行われた。図7に要約するいくつかの損傷モードが識別され、そして分析された。それらは、二つのカテゴリーに分類できる。近位接触応力からの頂面(咬合面)損傷、そして遠界屈曲応力からの底面(接着内面)損傷。
【0035】
前駆準塑性変形から生じる、外側円錐亀裂および中央亀裂を含む、脆性材料の近位接触咬合面破壊モード。外側円錐亀裂(図7におけるO)は、ヘルツの応力領域の最大引張り応力が発生するインデンター接触面のちょうど外側から始まる。インデンターの下方で起こる準塑性変形は、結晶粒界微小亀裂を生じ、それらが合体して、咬合面中央亀裂(図7におけるM)へと進化する。ポーセレンおよびアルミナのような脆いデンタル・セラミックに対しては、古典的な円錐亀裂が主である。
【0036】
遠界接着内面半径方向破砕(図7におけるR)は、荷重の作用中に生じる引張り応力から起こる。半径方向の亀裂は、プレート面に垂直に発生し、作用中に生じる屈曲引張り応力の影響を受けやすい。したがって、一旦発生すれば、側方へ、そして上方へ広がり、最終的に破砕に至る(ケリー氏(1999)歯科補綴学のジャーナル81(6):652−61)。歯冠においては、半径方向の亀裂は、オール・セラミック冠における破損の一次モードを構成すると思われるバルク破砕として、臨床的に明示されている。これらの内面半径方向亀裂が生じる荷重(P)は、セラミックと基質の厚さおよび弾性率に強く依存し、次式によって表される。Pr=Bσc2/(logEc/Es).上式において、Bは定数であり、σcは材料の屈曲強度であり、dはセラミック層の厚さであり、Ecはセラミックの弾性率であり、そしてEsは支持基質の弾性率である。
【0037】
伸展性構造上でのポーセレン、アルミナ、ジルコニアおよびガラス・セラミックの広範囲な試験によって、単一回荷重の下で臨床的に関連する厚さに対する、伸展性構造上のセラミック層のこの広いアレイについての、外側、中央、そして半径方向の亀裂のための損傷起点発生への荷重に関する基本的な関係に究極的に至るデータが得られた。外側、中央、そして半径方向のモードのすべてが生じるための競争があるが、一般に、半径方向の亀裂は、薄いセクション(<0.8−1.0mm)内に最初に発生しやすく、外側および中央は、より厚いセクション内に最初に発生しやすい。次のゴールは、対向する歯または歯冠の局部摩耗を回避するために、補綴表面の硬度、弾性率および破砕靭性を増加させずに、すべてのこれらの損傷モードおよび磨耗に対する耐性が改善された材料を開発することである。
FGMの損傷耐性
【0038】
点荷重からの、または、異なるインデンター形状からの、弾力的に傾斜した材料の摩擦のない垂直圧入に関する理論的なフレームワークが、ギアナコポウロス(Giannakopoulos)およびシュレッシュ(Suresh)によって開発された。圧入面下において深さzと共に変化するヤング率Eに対して、圧入荷重Pを、侵入深さh、接触半径a、そして接触圧pへ関係づける明示的な分析的表現が開発された。理論は、弾性率が深さと共に増加するとき、指数法則ケースの応力領域が、対応する指数関数的なケースよりも、内部により多く集中する、ことを予測する。実験的研究から、ガラスが高密度セラミック面内へ浸透するとき、表面から内部へのヤング率の相違は、次の指数法則関係によって最も良く説明できることが分かっている。E=E0k.上式において、E0は、表面の参照ヤング率であり、そしてkは、次元のない定数である(ジッチャロエン氏ら(1998)米国セラミックス協会のジャーナル81(9):2301−8)。そのような弾性変化は、咬合の際に最大接触応力を内部へ効果的に転送するため、咬合面で、または、その近くで起こる準塑性変形および脆性破壊に対する耐性が非常に改善される。
【0039】
余り固くない基質(歯象牙質)上へ取り付けたセラミック・プレートに、頂面から球インデンターで荷重をかけると、セラミック・プレートの底面は、底面Rクラッキング(図7)を生じる最大引張り応力を経験する。底面から内部へ増加する弾性率を持つFGMの有限要素分析(FEA)は、セラミック底面での傾斜層が僅かに200μmの厚さであったとしても、最大引張り応力が、そのバルク・セラミック対照物に比べ、20%低下する可能性があることを示す(ホワン氏ら(2007)材料科学医科材料ジャーナル18(1):57−64)。その理由は、底面のFGMが、表面から内部へ最大引張り応力を広げるためである。したがって、もし頂部および底部の両方のセラミック面が傾斜していれば、図7に示す損傷モードは、すべて抑止できる。
【0040】
セラミック冠は、集中荷重からの、接触近位の、そして遠界の屈曲によって誘発された破砕に弱い。それらの脆弱さは、損傷、疲労荷重および湿気によって悪化する。セラミック冠の破砕に関する多くの研究があったが、文献で報告された研究は、単調荷重下での単純な曲げ強さの試験(グアザット(Guazzato)氏ら(2004)歯科材料20:449−456;グアザット氏ら(2004)生体材料25:5045−5052)に、または荷重による破砕への圧力試験を用いる繰り返し疲労後の残留強度測定に集中していた(ユング氏ら(2000)歯科研究ジャーナル79(2):722−31;スタッパー氏ら(2005)歯科補綴学94(2)ジャーナル:132−139)。ほとんどのデンタル・セラミックは湿気の影響を受けて亀裂が緩やかに成長しやすい。このため、これらのテストは、真のセラミック冠の寿命を正確に予測はしないかもしれない。亀裂の成長は、1年程で50%以上の強度の減少に至ることがある(チャン氏ら(2004)医用材料研究ジャーナル69B:166−72)。また、セラミックは、接触荷重中、累積的な機械的損傷を受けやすい。臨床的に関連する試験、すなわち、湿潤環境での球面インデンター下の繰り返し荷重において、セラミック層内の破砕モードおよび損傷進化を系統的に分析することが重要である。新損傷モード、内側円錐破砕が確認されている(図7)。現在、亀裂発生および進化は、複雑であることが認識されている。異なる段階で、異なる表面に、競合する破損モードが生じ、それら破損モードが、セラミック特性、層の厚さおよび荷重条件に応じて相互に作用する可能性がある(チャン氏ら(2005)材料研究ジャーナル20(8):2021−9)。
ガラス/ジルコニア/ガラス構造
【0041】
G/Z/G構造は、バルクY−TZPを超える、屈曲による損傷に対するより良好な耐性(図4)、より優れた美しさ、より優れた化粧被覆および接着特性を提供する。ポーセレンとY−TZPとが、物理的および機械的に異なる特性を持つためにポーセレン化粧被覆が剥離する可能性があるという問題に対して、G/Z/Gは、化粧被覆を施したY−TZP補綴における明確な界面を排除する。(スンド氏ら(2004)オーラル・リハビリテーション・ジャーナル31(7):682−8;ヴルト・フォン・ステイェーン氏ら(2006)オーラル・リハビリテーション・ジャーナル33(9):682−9;ウッド氏ら(2006)歯科補綴ジャーナル95(1):33−41)。G/Z/Gの内側の残留ガラスおよびガラス含有傾斜層は、歯科修復の内側に損傷を生じて強度劣化を起こす現在のグリット・ブラスチング技法に比較して、エッチング・シラン技術を用いる粘着結合に大きな可能性を提供する(チャン氏ら(2004)医用材料研究ジャーナル69B:166−72)。屈曲損傷への耐性の向上、グリット・ブラスチング損傷の欠如、そして粘着性接着の補助により、G/Z/G修復の全体的な強度は、現在の化粧被覆を施したジルコニア修復よりも非常に高い。加えて、Y−TZPフレームワークを持つ現在の固定局部義歯(FPD)は、しばしば、コネクタの下部から破砕し、ポーセレン化粧被覆の欠落または剥離に至る。G/Z/Gは美しさが向上するため、コネクタ下部のポーセレン化粧被覆なしでのFPDデザインが可能になり、PFDの屈曲損傷耐性が向上する。最後に、G/Z/G面の残留ガラスは、吸水を妨げて内部Y−TZPの熱水劣化を防止する被包層として作用する(ピアシック氏ら(2006)真空音科学技術ジャーナルA24(4)1091−5)。これは、後のインレー、オンレー、歯冠および架工義歯のための、強固であるが美的なセラミックを可能にする。
【0042】
本発明の例証となることを意図した以下の例によって、本発明をさらに説明する。本技術における熟練者は、添付の請求項の範囲内で、多くの実験パラメータを変化させることができる。
実施例1
【0043】
5.18重量%のY23、0.25重量%のAl23、そして16m2/gの比表面積を持つ直径約28nmの平均粒子サイズの、イットリア安定化ジルコニア粉末(日本国東京都、東ソー、TZ−3Y−Eグレード)から、冷間静水圧プレスを172MPa(25kpsi)で用いて、圧粉体を形成した。これらの圧粉体を、1100から1400℃の温度で、1時間空気中で予備焼結した。上記説明したタイプの、カスタム開発したガラス・セラミック粉体を用いて、1450℃で2時間、浸透および高密度化を実行した。800℃/時の加熱および冷却速度を使用した。Y−TZPの浸透のために、二つのガラス・セラミック調合物を準備をした。ガラス・セラミック粉体調合物1を、以下の主な(すなわち、1.0重量%以上の)酸化物から調合した。SiO2(67.25重量%)、Al23(10.83重量%)、K2O(9.22重量%)、Na2O(6.61重量%)、CaO(2.68重量%)、Tb47(1.84重量%)、BaO(1.02重量%)、そして少量のMgO。ガラス・セラミック粉体調合物2を、SiO2(67.42重量%)、Al23(11.42重量%)、K2O(9.12重量%)、Na2O(6.29重量%)、CaO(2.74重量%)、Tb47(1.51重量%)、BaO(1.19重量%)、そして少量のCe23から調合した。
【0044】
ガラス・セラミック調合物1を用いて予備焼結体から製造したG/Z/Gの光学顕微鏡像を、図2に示す。G/Z/Gプレートの両面の傾斜層は、1400および1100℃で予備焼結した試験片に対して、各々(図2aおよび図2b)、厚さが約60および150μmである。より高い倍率のSEM(図2bのインサート)は、内部が高密度Y−TZPからなるのに対して、傾斜層が、高いガラス含有量(約40容量%)を持つことを明らかにした。G/Z/G・FGMの表面に、薄く美しい残留ガラス層が観察される(図2c)。典型的に、各々、1100℃で予備焼結した試験片に対しては、<10μmであり、そして1400℃で予備焼結した試験片に対しては、<30μmである。
実施例2
【0045】
コンピュータ制御の万能試験機(マサチューセッツ州カントン、インストロン社、モデル5566)上において、1mm/分のクロスヘッド速度で、長方形棒試験片を破砕するために、20mmのスパンを持つ標準的な三点曲げ試験を用いた。均質なジルコニアに対して、また、1400℃で1時間予備焼結したY−TZPに、1450℃で2時間、インハウスで準備したガラス・セラミック粉体(調合物1または2)を浸透させて製造した二つのG/Z/G組成物に対して、下記の方程式を用いて、屈曲強度σを判定した。
σ=3Pl/2wb2
上式において、Pは破壊荷重であり、lはテスト・スパンであり、そしてwおよびbは、各々、試験片の幅および厚さである。表1に、二つのG/Z/G組成物と、均質なジルコニア対照標準の屈曲強度を報告する。データは、試験片サイズn=6に対して、平均および標準偏差(平均±SD)の形式で提示している。明らかなように、ガラス・セラミック調合物1および2で浸透させたG/Z/Gの屈曲強度は、各々、約43%および47%であり、均質なY−TZP試験片に対するものよりも高かった。1試料t試験は、G/Z/Gと同じくらい強固な試料が、均質なY−TZPの集団からサンプリングされる可能性が非常に少ない(p<0.001)ことを示した。
【0046】
表1。1400℃で1時間予備焼結したY−TZPを、インハウスで準備したガラス・セラミック粉体(調合物1または2)で、1450℃で2時間浸透させて製造した二つのG/Z/G組成物、そしてそれらの均質なY−TZP対応物の屈曲強度データ。

実施例3
【0047】
セラミック・プレートをポリカーボネート・ベースにエポキシ結合されて頂面上に載置し、咬合にさらされる歯象牙質サポート上のセラミック歯冠を、あるいは人工股関節全置換における関節作用を受けるポリエチレン・バッキング上のセラミック・ライナーをエミュレートした。均質なジルコニアに対して、また、1400℃で1時間予備焼結したT−YZPを、インハウスで準備したガラス・セラミック粉体(調合物1)で、1450℃で2時間浸透させて製造したG/Z/G(d=1.5または0.4mm)に対して、セラミック底面半径方向亀裂の始まりの臨界荷重(セラミック・プレートの屈曲強度の指標)を測定した。各G/Z/G厚さ、20x20x1.5mm3または20x20x0.4mm3のための、二つの異なるバッチから、6つの試験片(n=6)を製造した。二つの異なるバッチから製造した試験片間の臨界荷重における差異は、同じバッチから準備したものに類似し、典型的に約10%であった。図4に示すように、1時間予備焼結したY−TZPに対して1400℃で浸透させたG/Z/Gの臨界荷重は、1.5mmの試験片において、均質なY−TZPに対するものよりも約30%高かったが、同じ条件で製造したG/Z/Gの臨界荷重は、試験片の厚さを0.4mmへ減らしたとき、バルクY−TZPに対するもののほぼ2倍であった。再び、1試料t試験は、両方の厚さに対して、重大な総括的試験結果を示した(すなわち、p<0.001)。
【0048】
図3は、(a)1450℃で2時間焼結した均質なY−TZP、(b)1100℃で1時間予備焼結したY−TZP、そして(c)予備焼結(1100℃で1時間)してから、1450℃で2時間浸透および高密度化して製造したG/Z/Gの、XRDスペクトルを提供する。T:正方晶のジルコニア相。そしてG:非結晶ガラス相。G/Z/G・FGM内に第二の結晶相が存在しないことに注目すべきである。1°/分の走査速度と0.2°のステップ幅でCuKα放射を用いて、スペクトルを取得した。
実施例4
【0049】
ガラス・セラミック粉体を用いて、歯科用途に必要な厚さでG/Z/G構造を製造するための、最初の浸透条件を決定した。予備的なデータは、石英系ガラスの、高密度Y−TZP内における浸透性は、この材料の焼結温度に類似の約1450℃でさえ、限られていることを示す。加えて、この温度での焼結後のガラス浸透は、ボディ内におけるY−TZPの熱水安定に有害なことが既知である粒子成長や正方晶相の不安定化を起こす可能性がある(シュバリエ氏(2006)生体適合物質27:534−43;シュバリエ氏ら(1999)米国セラミックス協会ジャーナル82(8):2150−4)。したがって、予備焼結したY−TZPに浸透させる、そして浸透および高密度化を一つの工程へ組み合わせることが好ましい。それによって、傾斜ガラス・ジルコニア層の厚さを、予備焼結体の多孔性によって制御できる。そして浸透および高密度化を一つの工程に組み合わせることで、粒子成長および正方晶相の不安定化を回避することができる。
【0050】
172MPaで冷間静水圧プレスを使用して、5.18重量%Y23、0.25重量%Al23、そして比表面積が16m2/gで平均粒子サイズが直径約28nmのイットリア安定化ジルコニア粉末(日本国東京都、東ソー、TZ−3Y−Eグレード)から、圧粉体を形成した。それから、圧粉体を空気中において、1100または1400℃で1時間予備焼結した。カスタム開発したガラス・セラミック粉体(図1)を用いて、1450℃で2時間、浸透および高密度化を実行した。
【0051】
図1は、扁平なG/Z/G複合材を製造するための加工方法を例示する概略図である。予備焼結Y−TZPの頂面および底面に粉末状ガラス・セラミック・スラリーを適用し(左)、それから、1450℃で2時間焼結してG/Z/G複合材を形成する。G/Z/G構造は、外面美的残留ガラス層、傾斜ガラス・ジルコニア層および高密度内部Y−TZPからなる。
【0052】
図2に、予備焼結体から製造したG/Z/Gの光学顕微鏡像を示す。G/Z/Gプレートの両面の傾斜層は、各々、1400および1100℃で予備焼結した試験片について、厚さが約60および150μmである(図2aおよび図2b)。より高い倍率のSEM(図2bのインサート)は、傾斜層のガラス含有量が高い(約40容量%)のに対して、内部は高密度Y−TZPからなることを明らかにしている。G/Z/G・FGMの表面に、薄く美しい残留ガラス層が観察される(図2c)。典型的に、各々、1100℃で予備焼結した試験片が10μm未満、そして1400℃で予備焼結した試験片が50μm未満である。
【0053】
G/Z/G・FGMに対する一つの懸念は、冷却による、表面残留ガラス層および傾斜層の両方におけるガラスの結晶化が、CTEを変化させ、G/Z/Gの美しさを損なう可能性がある、ということである。このため、冷却時の結晶化に優れた抵抗を示すガラス組成を考案した。G/Z/G・FGMのX線回折(XRD)分析から、表面残留ガラス層および傾斜ガラス・セラミック層内に少量のガラス相が存在することが分かったが、XRDの少なくとも検出限界内において、準安定正方晶相に加えて二次的な結晶相は全く存在しない(すなわち、約3容量%)(図3c)。図3aに、焼結Y−TZP(1450℃で2時間)のXRDスペクトルを示す。加えて、予備焼結試験片(図3b)内、あるいは浸透Y−TZP試験片(図3c)内のいずれにも、単斜相は全く観察されない。
【0054】
磨いたバルクY−TZPに対して、そして予備焼結Y−TZP(1400℃で1時間)に、インハウスで準備したガラス・セラミック粉体(調合物1)を、1450℃で2時間を浸透させて製造したG/Z/Gプレート(d=1.5または0.4mm)に対して、臨界荷重を測定した。各々の厚さ(d=1.5または0.4mm)のための、二つの異なるバッチから、6つの試験片(n=6)を製造した。二つの異なるバッチから製造した試験片間に、〜10%の臨界荷重の変化が観察された。図4に示すように、厚さ1.5mmの試験片については、G/Z/Gに対する臨界荷重(平均±SD)は、バルクY−TZPに対するものよりも〜30%高い。しかしながら、厚さ0.4mmの試験片については、G/Z/Gに対する臨界荷重は、バルクY−TZPに対するものの、ほぼ二倍高い。このことは、屈曲損傷耐性に関する傾斜構造の衝撃が、薄い(d<0.5mm)セラミック補綴については、より重大である可能性があることを示唆している。再び、1試料t試験は、両厚さに対して、重大なオムニバス試験結果(すなわち、p<0.001)を示す。
【0055】
図5に、市販のモノリシックなガラス・セラミック・エンプレスII(1.5mm厚)、化粧被覆したラヴァ・ジルコニア(1mmのポーセレンと0.5mmのジルコニア)、そしてセルコン・ジルコニア(1mmのポーセレンと0.5mmのジルコニア)と共に、1400℃で予備焼結した部分的に高密度なボディ上に浸透させたG/Z/Gの外観を示す。美しさを向上させるために、私たちは、G/Z/Gの外面に薄いポーセレン化粧被覆(約0.3mm厚)を適用することを提案する。この薄い化粧被覆は、接触損傷を阻止し、美しさを提供し、対向する生来の生歯への不必要な磨耗を防止することができ、また、咬合面上での調整を可能にする。低弾性率で低強度のポーセレンから高弾性率で高強度のY−TZPへ亀裂は広がりにくいため、咬合面接触損傷は、薄い化粧被覆層内に限られることになる(キム氏ら(2006)生物医学材料研究B応用生物材料ジャーナル79(1):58−65)。接触損傷抑制予測は、試験できる。薄い化粧被覆のこの概念は、表面美的残留ガラス層、傾斜ガラス・ジルコニア層および内部Y−TZP層を含むG/Z/Gのユニークな構造によって支持されるものである(図2)。ガラス・ジルコニア傾斜層は、その高い結晶含有量のため、半透明性が限られているが、優美性を得るのに必要な光学深さを可能にする、高度に半透明なポーセレン化粧被覆および表面残留ガラス層から不透明なY−TZP内部への、半透明性の緩やかな移行を提供する。択一的に、浸透させたガラスに類似の組成を持つ粉末状ガラス・セラミック・スラリーを用いて、G/Z/Gの外側残留ガラス層の表面に着色を施すことができる。この着色技術は、ガラス・セラミックの単一色圧縮成形ブロックの美的効果を改善するために、エンプレス・システム上に既に使用されている。また、美的歯科医学で確立されている。
実施例5
【0056】
二層試験片の製造。表2は、使用材料のまとめである。ポリカーボネート基質上に、G/Z/G層からなる二層試験片を製造する。G/Z/Gは、インハウスで開発したガラス・セラミックを、空気中で2時間焼結温度1450℃で、(日本国東京都、東ソーTZ−3Y−E、微粒子Y−TZP粉体から製造した)予備焼結Y−TZPの表面内へ浸透させ、浸透および高密度化を一つの工程に組み合わせることに基づいている。このシステムに対する繰り返し荷重の下で、構造と損傷耐性との関係を確立する。延展性があり、(弾性係数が僅かに低いけれども)象牙質または骨を代表すると考えることができるので、FGMのためのサポート材料としてポリカーボネートを選択する。また、ポリカーボネートは、透明であるため、G/Z/G層の底面から進展する、あるいは底面へ広がる破砕を、直接的に観察することが可能である。3.18mm半径のガラスあるいはWC球を用いて、試験片に荷重をかけた。
【0057】
表2。材料特性および供給源。

【0058】
微粒子イットリア安定化ジルコニア粉末(TZ−3Y−E、東ソー)から製造した扁平なY−TZP圧粉体を、900から1400℃の温度で予備焼結し、種々の有孔率を持つジルコニア・プレートを作成する。予備焼結Y−TZPの頂面および底面を、Y−TZP(表2)のものに類似のCTEおよびポアソン比を持つ粉末状ガラス・セラミック・スラリーで被覆する。ガラスの浸透および高密度化を、1450℃で2時間、高温箱反射炉(オハイオ州ベレア、セントロ・テク社、ST−1700C−6612)内で同時に、実行する。800℃/時の加熱および冷却速度を使用する。これは、焼結後の熱処理に関連する粒子成長や正方晶相の不安定化を最小にする。粒子成長および正方晶相の不安定化の両方は、生医学的な用途における、Y−TZPの長期の熱水安定に有害である。二つの最終的な寸法に、G/Z/G試験片を製造する。20x20x1.2mm3、または20x20x0.4mm3。加えて、予備焼結Y−TZPボディの多孔性を操作することによって、ガラスの侵入深さを制御し、種々の厚さの傾斜ガラス・ジルコニア層を持つG/Z/G構造を形成してもよい(図2)。総厚さ0.4mmのG/Z/Gについては、異なる傾斜ガラス・ジルコニア層厚さを持つ試験片の三つのグループを、そして総厚さ1.2mmののG/Z/Gについては、異なる傾斜層厚さを持つ6つのグループを製造する(表3)。焼曲りを防止するために、各々の試験片に対する頂面および底面の傾斜層の厚さを等しく維持する。試験片グループG−Tn1、G−Tn2、G−Tn3を、G−Tk1、G−Tk2、G−Tk3に比較することによって、異なる厚さを持つG/Z/Gの傾斜層厚さの損傷耐性への影響を調べてもよい。試験片グループG−Tn1、G−Tn2、G−Tn3を、G−Tk3、G−Tk4、G−Tk5に比較することによって、損傷耐性に関する、傾斜層と総試験片厚さの相対比率の影響を試験してもよい。TnおよびTkは、各々、薄い試験片(0.4mm)および厚い試験片(1.2mm)を表す。
【0059】
表3。頂面および底面に種々の厚さの傾斜層を持つG/Z/Gのデザイン・パラメータ。TnおよびTkは、各々、薄い試験片(0.4mm)および厚い試験片(1.2mm)を表す。


【0060】
G/Z/G表面から、余分なガラスを研削してもよい。そしてG/Z/Gコアの、屈曲による損傷に対する耐性を測定するための、球面タングステンカーバイド・インデンター(r=3.18mm)を用いる単一回荷重スクリーン試験のために、プレートを、12.5mm厚のポリカーボネート基質(ヴァージニア州ノーフォーク、AlNプラスチック、Hyzod)にエポキシ結合(ニュージャージー州ベレスビル、ハルコス・ケミカル)させることになる。各々の試験片厚さ1.2あるいは0.4mmに対する単一回荷重スクリーン結果から、(破砕するのにより大きな荷重が必要な)二つの最も強固なグループのみを、デザイン・マップを構築するためのサイクル疲労試験に選択する。水中で球面ガラス・インデンター(r=3.18mm)を用いる疲労試験のために、磨いた内面を持つが咬合面上に残留美的ガラスを持つ試験片を、ポリカーボネート基質にエポキシ結合させる。G/Z/Gの損傷耐性への表面処理の影響を測定するために、サイクル疲労試験を受けた二つのグループからの、より強固なグループを、選択する。水中でガラス・インデンターを用いる疲労試験のために、研磨した、あるいは蝕刻した内面を持つ1.2mm厚の試験片を、ポリカーボネート基質にエポキシ結合させる。研摩面がFGMに固有な強度を生ずるが、現実の状態を表さない可能性がある。実験処理および診療行為(例えば、オール・セラミック歯冠および架工義歯の内面の、粒子アブレージョンまたはエッチング)は、表面に損傷を与える可能性がある。これを模倣するために、セラミック底面を、276kPa圧縮空気圧を用いて、10mmの離隔距離から5秒間、50μmアルミナ粒子で研磨する、または90秒間、HF溶液(9.5%)でエッチングする。最後に、水中でガラス・インデンターを用いるステップ・ストレス疲労試験のために、サイクル疲労試験を受けた二つのグループからの、より強固なグループを、5mm厚のZ100基質(ミネソタ州セントポール、3M/ESPE)にセメント結合(ミネソタ州セントポール、3M/ESPE、Rely・X・ARC)する。先の試験からの、より優れた損傷耐性を生じる処理に基づき、G/Z/Gの内面を研磨する、あるいは蝕刻する。美しい化粧被覆をシミュレートするために、薄いポーセレン化粧被覆を、G/Z/G構造の咬合面上で配置してもよい(1.2mmのG/Z/G、そして0.3mmのポーセレン)。扁平な二層試験片に関する広範囲なデータを得た後、先のデータとの比較の有効性を保証するために、いくつかの追加の扁平な試験片、すなわち、ポリカーボネート上のラヴァ・ジルコニア・プレート、そしてZ100基質上の、ポーセレンで化粧被覆したラヴァ・ジルコニアを、対照標準として製造する。
実施例6
【0061】
GZG試験構成。半径3.18mmの球(タングステン・カーバイドまたはガラス)で、二層試験片(ポリカーボネート基質上の1.2mmまたは0.4mm厚のG/Z/G層)に荷重をかけることによって、亀裂を発生および拡散させる。接触近位咬合面損傷、すなわち、外側円錐亀裂、内側円錐亀裂および中央亀裂の開始および進化を、共焦光学顕微鏡(カリフォルニア州バーリンゲーム、テクニカル・インスツルメント、K2S−BIO)を用い、接触面(咬合面)から視検し、そして試験片の内部へ次第に焦点を合わせることによって特徴づける。口腔運動シミュレータ(ミネソタ州ミネトンカ、エンジュラ・テック、エルフ3300)で、最大荷重(噛む力)、ロードおよびアンロード速度1000N/秒、そして咀嚼頻度1Hzの、通常の咀嚼機能をシミュレートするよう制御された荷重特性試験を用いて、繰り返し荷重疲労試験を実行する。各々、デザイン・マップを構成し、性能を予測するために、従来の繰り返し疲労特性試験(規定最大荷重での破損への疲労)、そしてステップ・ストレス疲労試験(連続的に増加する荷重での破損への疲労)を採用する。疲労試験は、各繰り返し荷重ステップ後に中断し、G/Z/G層内に受けた損傷を、共焦鏡検によって調査する。試験は、G/Z/G層が破損するまで続けてもよい。接触近位表面亀裂システムの一つが、全G/Z/G層へ広がった、またはセメント結合部半径方向破砕が観察されたときを、破損と定義する。時折、光学顕微鏡法およびSEMを用いる断面試験のために、試験片をランダムに選択して切断し、共焦鏡検観察を確認してもよい。
【0062】
基質として透明なポリカーボネートを用いることによって、G/Z/G層の底面における遠界半径方向亀裂の開始を、下方から直接画像化してもよい。これは、競合する破壊モードに対する破砕開始の相対的な度合いについての洞察、また、接触近位表面亀裂が試験片に完全に浸透する荷重および往復動数、そしてセラミック・エポキシ界面で生じる可能性がある剥離の程度についての情報を提供する。内面半径方向亀裂に対しては、亀裂が走ったときを、破損と定義する。なぜなら、半径方向亀裂のサイズは、数ミリメートルであり、歯科補綴破損を生じるのに十分である。データ解析のために、ワイブル統計を用いてもよい(材料試験における現在の標準方式)。90%信頼限界の重複は、全く、重要とは考えない。
実施例7
【0063】
フラクトグラフィ。傾斜Y−TZP内における、亀裂経路へのガラス質相の影響を粒子レベルで測定するために、ランダムに選択したG/Z/Gの破断面を分析する。破断面上に、炭素コーティング・ユニット(EMITECH、K250)を用いて90°入射角で、炭素の薄層を付着させる。エネルギー分散分光法(PGT・IMIX)および後方散乱電子画像検出器を備える環境SEM(日立3500N)内で、破断面を調査する。二次的なモードおよび後方散乱電子画像モードの両方を、亀裂ミクロ構造の相互作用を明らかにするために利用する。比較のために、均質なY−TZPセラミックの亀裂経路を調査する。加えて、ビッカーズおよびヘルツの圧入を用いて、ガラス・ジルコニア傾斜層および高密度Y−TZP層内に、制御された亀裂および損傷を発生させる。均質なY−TZPに比較して、傾斜構造の亀裂先端ミクロ構造の相互作用および準プラスチック変形を調査する(ギバート氏ら(1993)哲学マガジンA68(5):1003−16;ギバート氏ら(1994)米国セラミックス協会ジャーナル77(7):1825−31;カイ氏ら(1994)材料研究ジャーナル9(3):762−70;チャン氏ら(2003)材料科学ジャーナル38(6):1359−64)。
【0064】
本発明をその特定な実施例に関して記載したが、同業者には本発明への多数の変更が可能である。しかし、そのような変更は、本発明の範囲内に含まれることは明らかである。したがって、本発明は、広く解釈され、本開示の範囲によってのみ限定すべきである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的に傾斜したガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料を製造するための方法であって、
(a)予備焼結したジルコニア基質のアクセス可能な表面へ粉末状ガラス・セラミック調合物を適用することによって、調合物の層でジルコニア基質面を覆うこと、この場合、ガラスおよび基質材料のCTEは実質的に同じであり、
(b)ガラス・セラミック調合物を基質内へ浸透させること、そして
(c)前記基質を加熱することによって基質の密度を高めることからなる、方法。
【請求項2】
基質が、イットリア正方晶のジルコニア多結晶(Y−TZP)からなる、請求項1による方法。
【請求項3】
基質が、900℃から1400℃の温度で予備焼結される、請求項1による方法。
【請求項4】
前記高密度化が、1200℃から1550℃の温度において、単一の焼成サイクルで実行される、請求項1による方法。
【請求項5】
粉末状ガラス・セラミック調合物が、水性溶液内で分散する、請求項1による方法。
【請求項6】
粉末状ガラス・セラミック調合物が、SiO2、Al23、K2O、Na2O、BaO、Tb47およびCaOからなるグループから選択した、一つ以上の酸化物からなる、請求項1による方法。
【請求項7】
ガラス・セラミックのCTEが、0から430℃において、約10.3in/in/℃であり、そしてジルコニアのCTEが、0から430℃において、約10.3in/in/℃である、請求項1による方法。
【請求項8】
予備焼結ジルコニア基質が、マイクロ波技術によって予備焼結される、請求項1による方法。
【請求項9】
ガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料が、マイクロ波技術によって高密度化される、請求項1による方法。
【請求項10】
外側残留ガラス層、下層にある傾斜ガラス・セラミック層、そして高密度内部セラミックからなる、機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物。
【請求項11】
実質的に反りあるいは曲げの影響を受けない、請求項10による機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物。
【請求項12】
下層にあるセラミックが、イットリア正方晶のジルコニア多結晶(Y−TZP)からなる、請求項10による機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス複合構造物。
【請求項13】
ガラスのCTEが、イットリア正方晶のジルコニア多結晶(Y−TZP)のCTEと実質的に同じである、請求項10による機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス。
【請求項14】
さらに、外面上の化粧被覆からなる、請求項10による機能的に傾斜したガラス/セラミック/ガラス。
【請求項15】
機能的に傾斜したガラス・セラミック/セラミック/ガラス・セラミック複合構造または傾斜ガラス・セラミック/セラミック構造からなる、医科あるいは歯科補綴。
【請求項16】
美的で損傷耐性のあるセラミック整形補綴、整形ステム、整形あるいは歯科アンカー、整形あるいは歯科インプラント、歯科補綴および歯内ポストからなるグループから選択した、請求項15による医科あるいは歯科補綴。
【請求項17】
セラミックがジルコニアからなる、請求項15による医科あるいは歯科補綴。
【請求項18】
請求項1の方法によって生成した、機能的に傾斜したガラス/ジルコニア/ガラス(G/Z/G)サンドイッチ材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−509336(P2010−509336A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536304(P2009−536304)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/023599
【国際公開番号】WO2008/060451
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(500350265)ニューヨーク ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】