サンプル中の被験物質の定量法
【課題】 溶液中の被験物質の濃度測定を可能とする物質の定量法の提供。
【解決手段】 サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法において、前記被験物質(抗原)3が特異的に結合する結合パートナー(抗体)4を少なくとも含んでなる複合体形成試薬または試薬群であって、複合体形成試薬または試薬群に含まれる少なくとも一種の試薬が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該標識により生成されるシグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、複合体形成試薬または試薬群が用意され、被験サンプルをこの試薬または試薬群に溶液中で接触させた後に、該溶液中の標識からのシグナル強度を測定する。
【解決手段】 サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法において、前記被験物質(抗原)3が特異的に結合する結合パートナー(抗体)4を少なくとも含んでなる複合体形成試薬または試薬群であって、複合体形成試薬または試薬群に含まれる少なくとも一種の試薬が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該標識により生成されるシグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、複合体形成試薬または試薬群が用意され、被験サンプルをこの試薬または試薬群に溶液中で接触させた後に、該溶液中の標識からのシグナル強度を測定する。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、サンプル中に存在する被験物質の濃度を測定する方法に関する。
【0002】
背景技術
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法として、該被験物質に特異的に結合する結合パートナーを利用する方法が知られている。特に、化学発光物質を標識物質として用いた抗原または抗体の濃度の測定方法は公知である。例えば、試料溶液中に存在する抗原に対応する抗体を化学発光物質で標識し、その標識抗体を予め電極に固定化しておき、抗原を含む試料溶液を添加して標識抗体と免疫反応をさせると、反応後の抗体に標識されている化学物質の電気化学的発光が抑制される。このことを利用して、その時の電気化学的発光量を測定することにより、試料溶液中の抗原の濃度を定量することができる(特許文献1:特開昭63−2063号公報;特許文献2:特開平5−18970号公報)。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、標識抗体を予め電極に固定化する作業が必要となる。また、標識抗体を固定化した電極では特定の抗原のみしか定量することができないため、多種多様な抗原を定量する場合には、それぞれの抗原について標識抗体を固定化した電極を用意する必要がある。従って、このような方法は、多大な費用を必要とすることが多い。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−2063号公報
【特許文献2】特開平5−18970号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、今般、均質な溶液中において、被験物質に特異的に結合する結合パートナーを含む所定の濃度の複合体形成試薬または試薬群を被験サンプルに接触させ、その後、複合体形成試薬または試薬群に含まれる標識からのシグナルの強度を測定することにより、被験物質の定量が可能となることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0006】
従って、本発明の目的は、均質溶液中における競合または非競合アッセイにより、サンプル溶液中の被験物質の濃度測定を可能とする物質の定量法を提供することにある。
【0007】
そして、本発明の第一の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(c)被験サンプルを用意する工程、(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0008】
さらに、本発明の第二の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0009】
さらに、本発明の第三の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0010】
本発明によれば、結合パートナーを用いた被験物質の定量法において、反応溶液中で生成した結合複合体と、結合しなかった試薬とを分離する必要が無い。また、本発明によれば、サンプル中における被験物質の濃度が極めて希薄な濃度(例えば、10−12〜10−18M)であっても、該被験物質を定量することが可能である。さらに、本発明によれば、結合パートナーを用いた被験物質の定量法において、試薬の電極への固定化が不要となる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の一般的説明
まず、本発明の全ての態様に共通する事項について説明する。
【0012】
本明細書において「結合パートナー」とは、被験物質が特異的に結合する物質を意味する。このような被験物質とその結合パートナーとの組み合わせは当技術分野において周知であり、例えば、抗原と抗体との組み合わせ、酵素とその基質との組み合わせ、酵素と補酵素との組み合わせ、リガンドとそのレセプターとの組み合わせ、特定の配列を有する核酸とこれに特異的に結合するリガンド/レセプター複合体との組み合わせ、タンパク質とアプタマーとの組み合わせ等、親和性を有する複数種の化合物の組み合わせなどが挙げられる。本発明による定量法においては、このような組み合わせの一方の物質を被験物質とし、他方の物質を結合パートナーとして用いることができる。
【0013】
本明細書において、被験物質と結合パートナーとの結合について用いられる「特異的結合」という用語は、混合溶液中において被験物質が結合パートナーにのみ結合することを意味する。従って、被験物質が複数種の物質に結合するものであっても、混合溶液中において一種の物質にのみ結合する場合には、この一種の物質は被験物質に特異的に結合する物質とされる。また、結合パートナーは、被験物質以外の物質に結合するものであってもよく、さらには、このような被験物質以外の物質は一定の濃度で反応溶液中に存在していてもよい。ここで「一定の濃度」とは、その物質が、対照サンプルおよび被験サンプルのそれぞれの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味し、例えば、検量線の作製に用いられる反応溶液および被験サンプルの測定に用いられる反応溶液において同一の濃度で存在することを意味する。しかしながら、結合パートナーは、反応溶液中において被験物質にのみ結合するものであることが好ましい。さらに、被験物質および結合パートナーを含む複合体と第三の複合体成分との間の結合について用いられる「特異的結合」という用語も、上記と同様の意味を有する。
【0014】
本明細書において「試薬」とは、本発明による定量法を用いて被験物質を定量するためにあらかじめ用意される物質を意味する。本発明に用いられる試薬は、市販品であってもよいし、化学的方法または生物学的方法によって調製されたものであってもよい。このような試薬としては、標識被験物質、標識もしくは非標識結合パートナー、標識もしくは非標識第三複合体成分等が挙げられる。
【0015】
本発明による定量法において被験物質、結合パートナーおよび第三の複合体成分などの試薬(群)に付される標識は、検出可能なシグナルを生成し、かつ、そのシグナルが、標識された試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。すなわち、前記標識は、遊離している標識試薬からのシグナルに比べて、複合体に組み込まれた標識試薬からのシグナルが増加または消失もしくは減少する性質を有するものである。このような性質を有する標識は、当業者であれば適宜選択することができるため特に制限されないが、好ましくは電気化学発光物質とされる。本明細書において「電気化学発光物質」とは、これを含有する溶液に電圧を印加することにより電気化学的反応によって発光する物質を意味する。電気化学発光物質の具体例としては、例えば、ルミノール、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルテニウム錯体等が挙げられ、特にルミノールが好ましい。前記標識試薬は、物質を標識化する方法として知られている標準的な技術を用いて製造することができる。
【0016】
本発明による定量法において測定の対象となる被験サンプルは、液体、固体および気体のいずれの形態であってもよい。液体の被験サンプルは、そのままの形で用いてもよいし、また、必要に応じて希釈もしくは濃縮し、または乾燥させた後に用いてもよい。固体または気体の被験サンプルは、そのままの形で用いてもよいし、また、溶媒に溶解させ、得られた溶液を用いてもよい。さらに、被験サンプルは、必要に応じて、濾過による夾雑物の除去工程、各種精製工程などにより処理されたものであってもよい。上記のような被験サンプルは、当業者であれば容易に調製することができる。
【0017】
本発明による定量法では、被験サンプルと、所定量の標識被験物質、標識もしくは非標識結合パートナー、標識もしくは非標識第三複合体成分等の試薬(群)とが溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルが前記試薬(群)に接触する。これにより、均質溶液中での溶液アッセイが行なわれる。このような被験サンプルと試薬(群)との接触は、これらを含む混合溶液を適切な条件下でインキュベートすることによって行なうこともできる。ここで「所定量」とは、上記の試薬(群)が前記混合溶液中において所定濃度となるように予め決められた量を意味する。さらに、「所定濃度」とは、上記の試薬(群)が、対照サンプルおよび被験サンプルのそれぞれの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味し、例えば、検量線の作製に用いられる混合溶液および被験サンプルの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味する。
【0018】
混合溶液に用いられる溶媒は、被験サンプル中の被験物質、および必要とされる試薬(群)を溶解することができ、かつ、混合溶液に含まれる被験物質および試薬(群)の間での複合体形成を可能とするものであればよい。このような溶媒は、被験物質および使用する試薬(群)に応じて、当業者であれば容易に選択することができる。例えば、抗原と抗体との結合を可能とする溶媒としては、抗原抗体反応を行なうために一般的に用いられる溶媒、例えば緩衝液、が挙げられる。酵素とその基質との結合を可能とする溶媒としては、その特定の酵素による反応に一般的に用いられる溶媒、例えば、その特定の酵素が活性を有する範囲内のpHを有する緩衝液、が挙げられる。
【0019】
混合溶液における標識からのシグナル強度の測定は、標識物質からのシグナルの測定法として一般的に知られる方法により行なうことができる。例えば、標識として電気化学発光物質を用いる場合には、シグナル強度の測定は、標識の電気化学的な反応によって生じる発光の強度を測定することにより行なうことができ、より具体的には、反応溶液に電圧を印加することにより該物質を電気化学的反応によって発光させ、その発光の強度を光子計数装置を用いて測定することにより行なうことができる。
【0020】
本発明による定量法において試薬に付される標識は、そのシグナルが、標識された試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。従って、反応溶液において標識により生成されるシグナルの強度は、複合体に組み込まれた標識試薬と、複合体に組み込まれていない遊離の標識試薬とのモル比に応じて変化し、また、複合体中に含まれる標識試薬以外の成分によっても変化する。また、反応溶液中に含まれる試薬(群)の濃度は一定であるため、このモル比および複合体の構成は、被験サンプル中に含まれる被験物質の濃度に応じて変化する。よって、混合溶液において測定される標識からのシグナル強度は、被験サンプル中に含まれる被験物質の濃度を示す。シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る方法は当技術分野において周知であり、例えば、既知濃度の被験物質を含む対照サンプルにおける測定値と被験サンプルにおける測定値とを比較する方法が挙げられる。このようなシグナル強度からの被験物質濃度の決定は、特に、予め作成しておいた前記シグナル強度と前記被験物質の濃度との関係を示す検量線と、被験サンプルにおけるシグナル強度の測定値とを対比することにより行なわれることが好ましい。検量線は、例えば、既知濃度の被験物質を含む複数の対照サンプルについてシグナル強度を測定し、得られた測定値をグラフ上にプロットすることによって作成することができる。特に、標識としてルミノールなどの電気化学発光物質を用いる場合には、グラフの縦軸および横軸のいずれか一方を光子計数値(発光量の測定値)とし、他方を被験物質濃度の常用対数(10を底とする被験物質濃度の対数)とする検量線を用いることが好ましい。また、作成された検量線に基づいて、シグナル強度の測定値から被験サンプル中における被験物質の濃度を算出するための数式を作成しておくこともできる。
【0021】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記被験物質は抗原とされ、前記結合パートナーは前記抗原に結合する抗体とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。
【0022】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記被験物質は抗体とされ、前記結合パートナーは前記抗体に結合する抗原とされる。被験物質である抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0023】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記被験物質はリガンドとされ、前記結合パートナーは前記リガンドに結合するレセプターとされる。あるいは、前記被験物質をレセプターとし、前記結合パートナーを前記レセプターに結合するリガンドとしてもよい。さらに、レセプターとリガンドとの複合体は、特定のヌクレオチド配列を含む核酸に特異的に結合することもあり、その場合には、その核酸を第三の複合体成分として用いることもできる。また、このような核酸を被験物質とし、これに特異的に結合するレセプター/リガンド複合体を結合パートナーとすることもできる。この実施態様では多種多様なリガンドとレセプターの組み合わせが利用可能であり、その具体的な組み合わせは当業者により適宜選択される。このようなリガンドとレセプターとの組み合わせの例としては、例えば、エストロゲンとエストロゲンレセプターαまたはβとの組み合わせ、アンドロゲンステロイドとアンドロゲンレセプターとの組み合わせ、グルココルチコイドとグルココルチコイドレセプターとの組み合わせ、プロゲステロンホルモンとプロゲステロンレセプターとの組み合わせ、1α,25−ジヒドロキシビタミンD3とビタミンD3レセプターとの組み合わせ、甲状腺ホルモンとそのレセプターとの組み合わせ、レチノイン酸とそのレセプターとの組み合わせ、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)とそのレセプターとの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
第一の態様による定量法
本発明の第一の態様による定量法は、均質溶液中での競合アッセイの様式で行なわれ、該方法は、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(c)被験サンプルを用意する工程、(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0025】
本発明の第一の態様による定量法では、被験サンプル、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質が溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質が前記結合パートナーに接触する。これにより、均質溶液中において、被験サンプル中に含まれる被験物質と所定濃度の標識被験物質とが結合パートナーへの結合について競合する競合アッセイが行なわれる。
【0026】
本発明の第一の態様による定量法における結合パートナーおよび標識被験物質の用量は、競合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、反応溶液中に含まれる標識被験物質の量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。また、標識被験物質の結合パートナーに対するモル比(標識被験物質/結合パートナー)は、標識被験物質および結合パートナーのそれぞれに含まれる結合部位の数によって異なり、好ましくは0.5×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)以上、より好ましくは0.5〜約1.0×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)、さらに好ましくは約1.0×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)とされる。例えば、1分子の抗体には2分子の抗原が結合する。従って、標識被験物質が標識抗原であり、結合パートナーが抗体である場合には、標識抗原の抗体に対するモル比(標識抗原/抗体)は1.0以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0〜約2.0、さらに好ましくは約2.0とされる。また、標識被験物質が標識抗体であり、結合パートナーが抗原である場合には、標識抗体の抗原に対するモル比(標識抗体/抗原)は1.0以下とすることが好ましく、より好ましくは約0.5〜1.0、さらに好ましくは約0.5とされる。
【0027】
被験サンプル、標識被験物質および結合パートナーの溶液の形態での混合は、当業者であれば適切に行なうことができるため、その方法は特に制限されないが、好ましくは、溶媒中に被験サンプルおよび標識被験物質を溶解させて均質溶液とした後に、得られる溶液に結合パートナーを溶解させることによって行なわれる。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の第一の態様による定量法において、前記被験物質は抗原とされ、前記結合パートナーは前記抗原に結合する抗体とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。この実施態様では、被験物質である被験抗原に特異的に結合する抗体が結合パートナーとして用いられ、被験抗原と同一の抗原に上述の標識が付された標識抗原が標識被験物質として用いられる。また、標識としては、電気化学発光物質を用いることが好ましい。特に、電気化学発光物質が付された標識抗原が抗体と免疫反応複合体を形成したときの電気化学的発光は、標識抗原単独時の電気化学発光に比べて大きく減少する。そのため、前記免疫反応複合体と複合体を形成していない標識抗原が共存する混合溶液に電圧を印加して標識物質を電気化学的に発光させると、混合溶液全体の発光強度は、複合体を形成していない標識抗原中の標識物質による発光強度とほぼ一致する。この実施態様では、被験抗原の量に応じて免疫反応複合体を形成しない標識抗原の量が変化するため、反応溶液の発光強度を測定することにより被験抗原の濃度を正確に測定することが可能になる。
【0029】
本発明の第一の態様による定量法において、被験物質である被験抗原を、標識として電気化学発光物質を付した標識抗原および該抗原に対するモノクローナル抗体を用いて定量するための原理を、図1に示す。図1において、標識抗原5は、電気化学発光物質1および被験抗原と同一の抗原2から構成されている。標識抗原5に比べて被験抗原3の濃度が著しく低い場合には、標識抗原5の多くが抗体4に結合して免疫反応複合体を形成しているため、遊離した標識抗原5の量が少なく、従って発光強度は弱い(図1A)。被験抗原3の濃度が高くなると、抗体4に結合する被験抗原3の量も増加するため、抗体4に結合することのできない遊離した標識抗原5の量が増加し、発光強度が強くなる(図1B)。被験抗原3の濃度がさらに高くなると、遊離した標識抗原5の量もさらに増加するため、発光強度はさらに強くなる(図1C)。このようにして、被験サンプル中の被験抗原の濃度に応じた強度の発光が検出される。
【0030】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、本発明の第一の態様による定量法において、前記被験物質は抗体とされ、前記結合パートナーは前記抗体に結合する抗原とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。この実施態様では、被験物質である被験抗体に特異的に結合する抗原が結合パートナーとして用いられ、被験抗体と同一の抗体に上述の標識が付された標識抗体が標識被験物質として用いられる。また、標識としては、電気化学発光物質を用いることが好ましい。この実施態様では、被験抗体の量に応じて免疫反応複合体を形成しない標識抗体の量が変化するため、反応溶液の発光強度を測定することにより被験抗体の濃度を正確に測定することが可能になる。
【0031】
第二の態様による定量法
本発明の第二の態様による定量法は、均質溶液中での非競合的結合アッセイの様式で行なわれ、該方法は、(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0032】
本発明の第二の態様による定量法では、被験サンプルおよび所定量の標識結合パートナーが溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において、前記被験サンプルが前記標識結合パートナーに接触する。これにより、均質溶液中での非競合的結合アッセイが行なわれる。
【0033】
本発明の第二の態様による定量法における標識結合パートナーの用量は、結合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、標識結合パートナーの用量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。一般には、標識結合パートナーの量は、被験サンプル中に含まれると予想される被験物質の量に対して過剰量であればよい。
【0034】
第三の態様による定量法
本発明の第三の態様による定量法は、追加の試薬として、被験物質と結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を用いる非競合的結合アッセイによって行なわれ、この第三の複合体成分を標識化することもできる。よって、本発明の第三の態様による定量法は、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0035】
本発明の第三の態様による定量法では、被験サンプル、ならびに所定量の結合パートナーおよび所定量の上記第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群が溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルが前記複合体形成試薬群に接触する。これにより、均質溶液中での非競合的結合アッセイが行なわれる。
【0036】
前記第三の複合体成分は、被験物質と結合パートナーとの組み合わせに応じて、当業者により適宜選択される。例えば、リガンドおよびそのレセプターのいずれか一方を被験物質とし、他方を結合パートナーとする場合には、これらの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸を第三の複合体成分として用いることができる。
【0037】
本発明の第三の態様による定量法における複合体形成試薬群の用量は、結合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、複合体形成試薬群の用量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。一般には、結合パートナーの量は、被験サンプル中に含まれると予想される被験物質の量に対して過剰量であればよく、また、第三の複合体成分の量は、結合パートナーの量に対して過剰量であればよい。
【0038】
被験物質を定量するためのキット
本発明による定量法を実施するため、必要な試薬等をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によれば、本発明による定量法に従ってサンプル中における被験物質の濃度を測定するためのキットであって、本発明のそれぞれの態様による定量法に必要となる試薬(群)を含んでなるキットが提供される。
【0039】
本発明の第一の態様による定量法を実施するためのキットは、前記被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識被験物質を含んでなるものである。標識により生成されるシグナルは、前記標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである。本発明の好ましい実施態様によれば、前記結合パートナーおよび前記標識被験物質は、所定量の前記結合パートナーおよび所定量の前記標識被験物質のそれぞれを含有する溶液の形態で分離されて含まれているものとされる。
【0040】
本発明の第二の態様による定量法を実施するためのキットは、前記被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識結合パートナーを含んでなるものである。標識により生成されるシグナルは、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである。
【0041】
本発明の第三の態様による定量法を実施するためのキットは、被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を含んでなるものである。前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方は、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬とされる。標識により生成されるシグナルは、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。
【0042】
本発明によるキットは、必要に応じて、反応容器、本発明による定量法の手順について記載した説明書等を含むことができる。
【0043】
被験物質を定量するための装置
さらに、本発明によれば、本発明による定量法を実施するための装置が提供され、該装置は、被験サンプル、ならびに本発明のそれぞれの態様による定量法に必要とされる試薬(群)(例えば、所定濃度の結合パートナーおよび所定濃度の標識被験物質)を含む混合溶液を保持するための容器と、前記混合溶液において、標識(例えば、標識被験物質の標識)により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段とを少なくとも備えてなる。本発明による装置は、必要に応じて、前記混合溶液を適切な条件下(例えば、前記被験物質と前記結合パートナーとの結合を可能とする条件下)においてインキュベートするためのインキュベーション手段をさらに含んでなるものとしてもよい。
【0044】
本発明の第一の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質とされる。本発明の第二の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、所定量の標識結合パートナーとされる。本発明の第三の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、複合体形成試薬群とされる。この複合体形成試薬群は、被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなるものであり、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方は、上述の標識が付された標識試薬とされる。
【0045】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記シグナル強度測定手段は、前記混合溶液に電圧を印加するための電圧印加手段と、前記混合溶液からの電気化学発光量を測定するための発光量測定手段とを含んでなるものとされる。
【0046】
前記容器は、その内部に液体を保持することができ、かつ、混合溶液に溶解しない素材からなるものであれば、いかなる容器を用いてもよい。また、容器の色および形状は特に制限されないが、容器は、好ましくはその外部からの前記電気化学発光量の測定を可能とする透明部分または開口部を有するものとされる。このような透明部分または開口部により、反応溶液からの発光量の測定が容易となる。
【0047】
電圧印加手段は、反応容器中の反応溶液に電圧を印加しうる手段であればよく、典型的には、電源に接続された電極(作用極および対極)を挙げることができる。また、反応溶液における電気化学発光量を安定化させるためには、反応溶液に印加される電圧は正確に制御されることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、電圧印加手段は、ポテンショスタットなどの電圧制御手段を含むものとされる。ポテンショスタットを用いることにより、作用極と参照極の間の電圧が設定した値になるように、作用極と対極に流れる電流を制御することが可能となる。
【0048】
発光量測定手段は、液体からの発光量を測定しうる手段であればよく、例えば、当技術分野において周知の様々な発光量測定装置(特に、フォトンカウンター)を挙げることができる。
【0049】
本発明の好ましい実施態様による装置を図4に示す。図4に示される被験物質濃度測定装置6では、電極付透明キュベット7中において混合溶液が保持され、その後、該混合溶液に所定の電圧が印加される。電極付透明キュベット7中に設けられた電極はポテンショスタット8に接続されており、ポテンショスタット8において設定された電圧が混合溶液に印加される。この電圧の印加により生じた混合溶液からの電気化学発光の発光量は、発光量測定装置18によって測定される。得られた測定値は検量線データを記憶した計算機9に送られ、この計算機9においてサンプル中の被験物質の濃度が算出され、表示される。
【0050】
容器内における電極の配置は、当業者であれば適宜決定することができる。例えば、図6に示す斜視図、図7に示す側面断面図、および図8に示す上面図で表されるように、四角柱型のキュベット14において、一つの内壁の底部付近に作用極17を配置し、これに向かい合う内壁の底部付近に対極16および参照極15を並列に配置することができる。あるいは、図9に示す斜視図、図10に示す側面断面図、および図11に示す上面図で表されるように、四角柱型のキュベット14において、その底部に、参照極15、作用極17および対極16をこの順番で並べることもできる。
【0051】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明による装置は、前記容器中に予め標識被験物質などの試薬(群)を含んでなるものとされる。これにより、本発明による装置、特に該装置に含まれる容器は、特定の被験物質の定量を目的としたものとなる。この実施態様においては、前記容器は、本発明による装置に脱着可能なものとすることが好ましく、さらには、脱着可能な使い捨て容器とすることもできる。容器中に予め含まれる標識被験物質などの試薬(群)は、粉末などの固体、水溶性ゲル、または溶液等、容器に被験サンプル溶液が投入されたときにこれらとの混合を可能とする形態とすることができる。
【0052】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による装置は、前記容器中において、被験サンプルおよび必要な試薬もしくは試薬群(例えば、標識被験物質および結合パートナー)を混合するための混合手段をさらに備えてなるものとされる。このような混合手段としては、容器内で液体を攪拌することのできる液体攪拌手段、例えば、マグネチックスターラーなどを挙げることができる。また、混合手段は、被験サンプル溶液、および必要な試薬または試薬群の溶液(例えば、標識被験物質溶液および結合パートナー溶液)の一つ、またはこれらの任意の組み合わせを自動的に容器中に投入するための溶液注入手段をさらに含んでいてもよい。
【0053】
本発明の好ましい実施態様による、前記混合手段を備えた装置を図5に示す。図5に示される被験物質濃度測定装置10では、サンプル溶液用容器11、標識被験物質溶液用容器12、および結合パートナー溶液用容器13が設けられており、これらの容器から混合溶液を構成する各溶液がポンプを通じて電極付透明キュベット7中に適宜注入され、そこで混合される。このポンプは、各溶液の注入量を個別に調整しうるものとされる。あるいは、各溶液のそれぞれについて、独立した別個のポンプを設けることもできる。電極付透明キュベット7中において混合溶液が形成された後は、図4について上述したように、本発明による定量法が実施される。
【0054】
本発明による定量法は、アッセイ(例えば競合アッセイ)により生成した結合複合体と結合しなかった試薬とを分離する必要がなく、試薬の電極への固定化が不要であるため、従来の方法よりも簡便な操作により被験物質を検出および定量することができるという利点を有する。従って、本発明による定量法は、実験室以外の場所においても容易に実施することができ、環境センシング技術などへの応用も可能である。本発明による定量法はさらに、サンプル中に含まれる微量の被験物質を正確に定量できるという利点を有することから、ハイスループットな臨床診断等の医療用途への応用も可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0056】
実施例1:競合アッセイによるヒト血清アルブミンの定量(1)
本実施例では、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体に対する所定濃度の標識ヒト血清アルブミンとの競合アッセイによって定量した。
【0057】
ヒト血清アルブミン(HSA)(和光純薬工業株式会社製)を、化学発光物質であるルミノール(ICN Biomedical社製)とのカップリング反応により標識化し、得られた標識アルブミンをサイズ排除クロマトグラフィーおよび透析により精製した(参考文献:Sensors and Actuators B 35-36, 458-462, 1996)。得られた標識アルブミン画分中のルミノールを、349nmにおける吸光度の測定により定量した。また、標識アルブミン画分中のアルブミンを、タンパク質定量キット(Pierce社製)を使用した562nmにおける吸光度の測定により定量した。これらの定量では、既知濃度のルミノールまたはアルブミンを含む試料について同様の吸光度測定を行なうことにより得られた検量線を用いた。その結果、調製した標識アルブミンの標識比は30.4であった。
【0058】
この標識アルブミンを標識抗原として、100mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、標識抗原中のルミノール濃度が1.0×10−5Mとなるように溶解した。次いで、検量線を作製するために、被験抗原としてのヒト血清アルブミンを、標識アルブミンに対するモル比(アルブミン/標識アルブミン)が10−10、10−8、10−6、および10−5となるように上記緩衝溶液に加えて十分に攪拌した。得られた各緩衝溶液に、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体(株式会社バイオテスト研究所製)を、標識抗原に対するモル比(抗ヒト血清アルブミン抗体/標識アルブミン)が0.5となるように添加し、5分間37℃でインキュベートした。その後、過酸化水素を100μMとなるように各緩衝溶液に添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により化学発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0059】
得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、被験抗原が2.2fg/ml〜220pg/mlという希薄な濃度において、非常に高い相関係数(R=0.9986)を有する検量線を得ることができた。さらに、既知濃度の被験抗原を含有する数種の抗原溶液について、上記と同様にして発光量を測定し、図2に示す検量線から抗原濃度を求めたところ、得られた測定値は既知の抗原含有量と良く一致していた。
【0060】
実施例2:競合アッセイによるヒト血清アルブミンの定量(2)
本実施例では、実施例1において用いた条件の一部を変更して、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体に対する所定濃度の標識ヒト血清アルブミンとの競合アッセイによって定量した。
【0061】
ヒト血清アルブミン(HSA)(和光純薬工業株式会社製)を、化学発光物質であるルミノール(ICN Biomedical社製)とのカップリング反応により標識化し、得られた標識アルブミンをサイズ排除クロマトグラフィーおよび透析により精製した(参考文献:Sensors and Actuators B 35-36, 458-462, 1996)。得られた標識アルブミン画分中のルミノールを、349nmにおける吸光度の測定により定量した。また、標識アルブミン画分中のアルブミンを、タンパク質定量キット(Pierce社製)を使用した562nmにおける吸光度の測定により定量した。これらの定量では、既知濃度のルミノールまたはアルブミンを含む試料について同様の吸光度測定を行なうことにより得られた検量線を用いた。その結果、調製した標識アルブミンの標識比は18.0であった。
【0062】
この標識アルブミンを標識抗原として、100mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、標識抗原中のアルブミン濃度が22μg/mlとなるように溶解した。次いで、検量線を作製するために、被験抗原としてのヒト血清アルブミンを、標識アルブミンに対するモル比(アルブミン/標識アルブミン)が10−11、10−9、10−7、10−6、10−5、および10−4となるように上記緩衝溶液に加えて十分に攪拌した。得られた各緩衝溶液に、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体(株式会社バイオテスト研究所製)を、標識抗原に対するモル比(抗ヒト血清アルブミン抗体/標識アルブミン)が0.5となるように添加し、5分間37℃でインキュベートした。その後、過酸化水素を100μMとなるように各緩衝溶液に添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により化学発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0063】
得られた結果を図3に示す。図3から明らかなように、被験抗原が220ag/ml(3.3aM)〜2.2ng/ml(33pM)という希薄かつ広範な濃度領域において、非常に高い相関係数(R=0.989)を有する検量線を得ることができた。さらに、既知濃度の被験抗原を含有する数種の抗原溶液について、上記と同様にして発光量を測定し、図3に示す検量線から抗原濃度を求めたところ、得られた測定値は既知の抗原含有量と良く一致していた。
【0064】
実施例3:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(1)
本実施例では、17β−エストラジオールを、エストロゲンレセプターα(ERα)との特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0065】
(1)エストロゲンレセプターα(ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0066】
(2)ルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。5’末端にアミノ基を導入したERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)中でイソチオシアネートルミノールと反応させて、ルミノール標識核酸(L−ERE核酸)を得た。これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を200ng/mlに調整した。
【0067】
(3)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0068】
(4)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μlとERα溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、L−ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0069】
(5)結果
得られた結果を図12に示す。図12によれば、本方法では0.1〜10ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0070】
実施例4:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(2)
本実施例では、17β−エストラジオールを、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)との特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とエストロゲン応答核酸(ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0071】
(1)ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)を、カップリング反応によりルミノールで標識した。得られたL−ERαをゲル濾過クロマトグラフィーおよび透析により精製し、リン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0072】
(2)エストロゲン応答核酸(ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。ERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を200ng/mlに調整した。
【0073】
(3)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0074】
(4)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μlとL−ERα溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
(5)結果
得られた結果を図13に示す。図13によれば、本方法では0.1〜20ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0075】
実施例5:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(3)
本実施例では、17β−エストラジオールを、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0076】
(1)ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)を、カップリング反応によりルミノールで標識した。得られたL−ERαをゲル濾過クロマトグラフィーおよび透析により精製し、リン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0077】
(2)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0078】
(3)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μl、L−ERα溶液100μlおよびリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを混合して十分に撹拌した。次いで、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0079】
(4)結果
得られた結果を図14に示す。図14によれば、本方法では0.2〜20ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0080】
実施例6:非競合アッセイによるエストロゲンレセプターα(ERα)の定量
本実施例では、エストロゲンレセプターα(ERα)を、17β−エストラジオールとの特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0081】
(1)ルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。5’末端にアミノ基を導入したERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)中でイソチオシアネートルミノールと反応させて、ルミノール標識核酸(L−ERE核酸)を得た。これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を10ng/mlに調整した。
【0082】
(2)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を100pg/mlに調整した。
【0083】
(3)エストロゲンレセプターα(ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.05〜50ng/mlに調整した。
【0084】
(4)アッセイ
各濃度に調整したERα溶液100μlと17β−エストラジオール溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、L−ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0085】
(5)結果
得られた結果を図15に示す。図15によれば、本方法では0.05〜10ng/mlの濃度のERαの定量が可能となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、被験物質を抗原とし、結合パートナーを抗体とした場合における本発明の原理を示すモデル図である。
【図2】図2は、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体および標識ヒト血清アルブミンを用いて定量する場合における、ヒト血清アルブミン濃度と発光量との関係を示す検量線である。
【図3】図3は、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体および標識ヒト血清アルブミンを用いて定量する場合における、ヒト血清アルブミン濃度と発光量との関係を示す検量線である。
【図4】図4は、本発明の好ましい実施態様による被験物質濃度測定装置を示す概略図である。
【図5】図5は、本発明の他の好ましい実施態様による被験物質濃度測定装置を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す側面断面図である。
【図8】図8は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す上面図である。
【図9】図9は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す側面断面図である。
【図11】図11は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す上面図である。
【図12】図12は、エストロゲンレセプターα(ERα)およびルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)およびエストロゲン応答核酸(ERE核酸)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、17β−エストラジオールおよびルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)を用いてエストロゲンレセプターα(ERα)を定量する場合における、ERα濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 標識抗原中の化学発光物質
2 標識抗原中の抗原
3 被験抗原
4 抗体
5 標識抗原
6 被験物質濃度測定装置
7 電極付透明キュベット
8 ポテンショスタット
9 検量線データを記憶した計算機
10 被験物質濃度測定装置
11 サンプル溶液用容器
12 標識被験物質溶液用容器
13 結合パートナー溶液用容器
14 キュベット
15 参照極
16 対極
17 作用極
18 発光量測定装置
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、サンプル中に存在する被験物質の濃度を測定する方法に関する。
【0002】
背景技術
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法として、該被験物質に特異的に結合する結合パートナーを利用する方法が知られている。特に、化学発光物質を標識物質として用いた抗原または抗体の濃度の測定方法は公知である。例えば、試料溶液中に存在する抗原に対応する抗体を化学発光物質で標識し、その標識抗体を予め電極に固定化しておき、抗原を含む試料溶液を添加して標識抗体と免疫反応をさせると、反応後の抗体に標識されている化学物質の電気化学的発光が抑制される。このことを利用して、その時の電気化学的発光量を測定することにより、試料溶液中の抗原の濃度を定量することができる(特許文献1:特開昭63−2063号公報;特許文献2:特開平5−18970号公報)。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、標識抗体を予め電極に固定化する作業が必要となる。また、標識抗体を固定化した電極では特定の抗原のみしか定量することができないため、多種多様な抗原を定量する場合には、それぞれの抗原について標識抗体を固定化した電極を用意する必要がある。従って、このような方法は、多大な費用を必要とすることが多い。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−2063号公報
【特許文献2】特開平5−18970号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、今般、均質な溶液中において、被験物質に特異的に結合する結合パートナーを含む所定の濃度の複合体形成試薬または試薬群を被験サンプルに接触させ、その後、複合体形成試薬または試薬群に含まれる標識からのシグナルの強度を測定することにより、被験物質の定量が可能となることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0006】
従って、本発明の目的は、均質溶液中における競合または非競合アッセイにより、サンプル溶液中の被験物質の濃度測定を可能とする物質の定量法を提供することにある。
【0007】
そして、本発明の第一の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(c)被験サンプルを用意する工程、(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0008】
さらに、本発明の第二の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0009】
さらに、本発明の第三の態様による定量法は、サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなるものである。
【0010】
本発明によれば、結合パートナーを用いた被験物質の定量法において、反応溶液中で生成した結合複合体と、結合しなかった試薬とを分離する必要が無い。また、本発明によれば、サンプル中における被験物質の濃度が極めて希薄な濃度(例えば、10−12〜10−18M)であっても、該被験物質を定量することが可能である。さらに、本発明によれば、結合パートナーを用いた被験物質の定量法において、試薬の電極への固定化が不要となる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の一般的説明
まず、本発明の全ての態様に共通する事項について説明する。
【0012】
本明細書において「結合パートナー」とは、被験物質が特異的に結合する物質を意味する。このような被験物質とその結合パートナーとの組み合わせは当技術分野において周知であり、例えば、抗原と抗体との組み合わせ、酵素とその基質との組み合わせ、酵素と補酵素との組み合わせ、リガンドとそのレセプターとの組み合わせ、特定の配列を有する核酸とこれに特異的に結合するリガンド/レセプター複合体との組み合わせ、タンパク質とアプタマーとの組み合わせ等、親和性を有する複数種の化合物の組み合わせなどが挙げられる。本発明による定量法においては、このような組み合わせの一方の物質を被験物質とし、他方の物質を結合パートナーとして用いることができる。
【0013】
本明細書において、被験物質と結合パートナーとの結合について用いられる「特異的結合」という用語は、混合溶液中において被験物質が結合パートナーにのみ結合することを意味する。従って、被験物質が複数種の物質に結合するものであっても、混合溶液中において一種の物質にのみ結合する場合には、この一種の物質は被験物質に特異的に結合する物質とされる。また、結合パートナーは、被験物質以外の物質に結合するものであってもよく、さらには、このような被験物質以外の物質は一定の濃度で反応溶液中に存在していてもよい。ここで「一定の濃度」とは、その物質が、対照サンプルおよび被験サンプルのそれぞれの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味し、例えば、検量線の作製に用いられる反応溶液および被験サンプルの測定に用いられる反応溶液において同一の濃度で存在することを意味する。しかしながら、結合パートナーは、反応溶液中において被験物質にのみ結合するものであることが好ましい。さらに、被験物質および結合パートナーを含む複合体と第三の複合体成分との間の結合について用いられる「特異的結合」という用語も、上記と同様の意味を有する。
【0014】
本明細書において「試薬」とは、本発明による定量法を用いて被験物質を定量するためにあらかじめ用意される物質を意味する。本発明に用いられる試薬は、市販品であってもよいし、化学的方法または生物学的方法によって調製されたものであってもよい。このような試薬としては、標識被験物質、標識もしくは非標識結合パートナー、標識もしくは非標識第三複合体成分等が挙げられる。
【0015】
本発明による定量法において被験物質、結合パートナーおよび第三の複合体成分などの試薬(群)に付される標識は、検出可能なシグナルを生成し、かつ、そのシグナルが、標識された試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。すなわち、前記標識は、遊離している標識試薬からのシグナルに比べて、複合体に組み込まれた標識試薬からのシグナルが増加または消失もしくは減少する性質を有するものである。このような性質を有する標識は、当業者であれば適宜選択することができるため特に制限されないが、好ましくは電気化学発光物質とされる。本明細書において「電気化学発光物質」とは、これを含有する溶液に電圧を印加することにより電気化学的反応によって発光する物質を意味する。電気化学発光物質の具体例としては、例えば、ルミノール、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルテニウム錯体等が挙げられ、特にルミノールが好ましい。前記標識試薬は、物質を標識化する方法として知られている標準的な技術を用いて製造することができる。
【0016】
本発明による定量法において測定の対象となる被験サンプルは、液体、固体および気体のいずれの形態であってもよい。液体の被験サンプルは、そのままの形で用いてもよいし、また、必要に応じて希釈もしくは濃縮し、または乾燥させた後に用いてもよい。固体または気体の被験サンプルは、そのままの形で用いてもよいし、また、溶媒に溶解させ、得られた溶液を用いてもよい。さらに、被験サンプルは、必要に応じて、濾過による夾雑物の除去工程、各種精製工程などにより処理されたものであってもよい。上記のような被験サンプルは、当業者であれば容易に調製することができる。
【0017】
本発明による定量法では、被験サンプルと、所定量の標識被験物質、標識もしくは非標識結合パートナー、標識もしくは非標識第三複合体成分等の試薬(群)とが溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルが前記試薬(群)に接触する。これにより、均質溶液中での溶液アッセイが行なわれる。このような被験サンプルと試薬(群)との接触は、これらを含む混合溶液を適切な条件下でインキュベートすることによって行なうこともできる。ここで「所定量」とは、上記の試薬(群)が前記混合溶液中において所定濃度となるように予め決められた量を意味する。さらに、「所定濃度」とは、上記の試薬(群)が、対照サンプルおよび被験サンプルのそれぞれの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味し、例えば、検量線の作製に用いられる混合溶液および被験サンプルの測定に用いられる混合溶液において同一の濃度で存在することを意味する。
【0018】
混合溶液に用いられる溶媒は、被験サンプル中の被験物質、および必要とされる試薬(群)を溶解することができ、かつ、混合溶液に含まれる被験物質および試薬(群)の間での複合体形成を可能とするものであればよい。このような溶媒は、被験物質および使用する試薬(群)に応じて、当業者であれば容易に選択することができる。例えば、抗原と抗体との結合を可能とする溶媒としては、抗原抗体反応を行なうために一般的に用いられる溶媒、例えば緩衝液、が挙げられる。酵素とその基質との結合を可能とする溶媒としては、その特定の酵素による反応に一般的に用いられる溶媒、例えば、その特定の酵素が活性を有する範囲内のpHを有する緩衝液、が挙げられる。
【0019】
混合溶液における標識からのシグナル強度の測定は、標識物質からのシグナルの測定法として一般的に知られる方法により行なうことができる。例えば、標識として電気化学発光物質を用いる場合には、シグナル強度の測定は、標識の電気化学的な反応によって生じる発光の強度を測定することにより行なうことができ、より具体的には、反応溶液に電圧を印加することにより該物質を電気化学的反応によって発光させ、その発光の強度を光子計数装置を用いて測定することにより行なうことができる。
【0020】
本発明による定量法において試薬に付される標識は、そのシグナルが、標識された試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。従って、反応溶液において標識により生成されるシグナルの強度は、複合体に組み込まれた標識試薬と、複合体に組み込まれていない遊離の標識試薬とのモル比に応じて変化し、また、複合体中に含まれる標識試薬以外の成分によっても変化する。また、反応溶液中に含まれる試薬(群)の濃度は一定であるため、このモル比および複合体の構成は、被験サンプル中に含まれる被験物質の濃度に応じて変化する。よって、混合溶液において測定される標識からのシグナル強度は、被験サンプル中に含まれる被験物質の濃度を示す。シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る方法は当技術分野において周知であり、例えば、既知濃度の被験物質を含む対照サンプルにおける測定値と被験サンプルにおける測定値とを比較する方法が挙げられる。このようなシグナル強度からの被験物質濃度の決定は、特に、予め作成しておいた前記シグナル強度と前記被験物質の濃度との関係を示す検量線と、被験サンプルにおけるシグナル強度の測定値とを対比することにより行なわれることが好ましい。検量線は、例えば、既知濃度の被験物質を含む複数の対照サンプルについてシグナル強度を測定し、得られた測定値をグラフ上にプロットすることによって作成することができる。特に、標識としてルミノールなどの電気化学発光物質を用いる場合には、グラフの縦軸および横軸のいずれか一方を光子計数値(発光量の測定値)とし、他方を被験物質濃度の常用対数(10を底とする被験物質濃度の対数)とする検量線を用いることが好ましい。また、作成された検量線に基づいて、シグナル強度の測定値から被験サンプル中における被験物質の濃度を算出するための数式を作成しておくこともできる。
【0021】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記被験物質は抗原とされ、前記結合パートナーは前記抗原に結合する抗体とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。
【0022】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記被験物質は抗体とされ、前記結合パートナーは前記抗体に結合する抗原とされる。被験物質である抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0023】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記被験物質はリガンドとされ、前記結合パートナーは前記リガンドに結合するレセプターとされる。あるいは、前記被験物質をレセプターとし、前記結合パートナーを前記レセプターに結合するリガンドとしてもよい。さらに、レセプターとリガンドとの複合体は、特定のヌクレオチド配列を含む核酸に特異的に結合することもあり、その場合には、その核酸を第三の複合体成分として用いることもできる。また、このような核酸を被験物質とし、これに特異的に結合するレセプター/リガンド複合体を結合パートナーとすることもできる。この実施態様では多種多様なリガンドとレセプターの組み合わせが利用可能であり、その具体的な組み合わせは当業者により適宜選択される。このようなリガンドとレセプターとの組み合わせの例としては、例えば、エストロゲンとエストロゲンレセプターαまたはβとの組み合わせ、アンドロゲンステロイドとアンドロゲンレセプターとの組み合わせ、グルココルチコイドとグルココルチコイドレセプターとの組み合わせ、プロゲステロンホルモンとプロゲステロンレセプターとの組み合わせ、1α,25−ジヒドロキシビタミンD3とビタミンD3レセプターとの組み合わせ、甲状腺ホルモンとそのレセプターとの組み合わせ、レチノイン酸とそのレセプターとの組み合わせ、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)とそのレセプターとの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
第一の態様による定量法
本発明の第一の態様による定量法は、均質溶液中での競合アッセイの様式で行なわれ、該方法は、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(c)被験サンプルを用意する工程、(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0025】
本発明の第一の態様による定量法では、被験サンプル、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質が溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質が前記結合パートナーに接触する。これにより、均質溶液中において、被験サンプル中に含まれる被験物質と所定濃度の標識被験物質とが結合パートナーへの結合について競合する競合アッセイが行なわれる。
【0026】
本発明の第一の態様による定量法における結合パートナーおよび標識被験物質の用量は、競合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、反応溶液中に含まれる標識被験物質の量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。また、標識被験物質の結合パートナーに対するモル比(標識被験物質/結合パートナー)は、標識被験物質および結合パートナーのそれぞれに含まれる結合部位の数によって異なり、好ましくは0.5×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)以上、より好ましくは0.5〜約1.0×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)、さらに好ましくは約1.0×(結合パートナー中の結合部位の数/標識被験物質中の結合部位の数)とされる。例えば、1分子の抗体には2分子の抗原が結合する。従って、標識被験物質が標識抗原であり、結合パートナーが抗体である場合には、標識抗原の抗体に対するモル比(標識抗原/抗体)は1.0以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0〜約2.0、さらに好ましくは約2.0とされる。また、標識被験物質が標識抗体であり、結合パートナーが抗原である場合には、標識抗体の抗原に対するモル比(標識抗体/抗原)は1.0以下とすることが好ましく、より好ましくは約0.5〜1.0、さらに好ましくは約0.5とされる。
【0027】
被験サンプル、標識被験物質および結合パートナーの溶液の形態での混合は、当業者であれば適切に行なうことができるため、その方法は特に制限されないが、好ましくは、溶媒中に被験サンプルおよび標識被験物質を溶解させて均質溶液とした後に、得られる溶液に結合パートナーを溶解させることによって行なわれる。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の第一の態様による定量法において、前記被験物質は抗原とされ、前記結合パートナーは前記抗原に結合する抗体とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体とされる。この実施態様では、被験物質である被験抗原に特異的に結合する抗体が結合パートナーとして用いられ、被験抗原と同一の抗原に上述の標識が付された標識抗原が標識被験物質として用いられる。また、標識としては、電気化学発光物質を用いることが好ましい。特に、電気化学発光物質が付された標識抗原が抗体と免疫反応複合体を形成したときの電気化学的発光は、標識抗原単独時の電気化学発光に比べて大きく減少する。そのため、前記免疫反応複合体と複合体を形成していない標識抗原が共存する混合溶液に電圧を印加して標識物質を電気化学的に発光させると、混合溶液全体の発光強度は、複合体を形成していない標識抗原中の標識物質による発光強度とほぼ一致する。この実施態様では、被験抗原の量に応じて免疫反応複合体を形成しない標識抗原の量が変化するため、反応溶液の発光強度を測定することにより被験抗原の濃度を正確に測定することが可能になる。
【0029】
本発明の第一の態様による定量法において、被験物質である被験抗原を、標識として電気化学発光物質を付した標識抗原および該抗原に対するモノクローナル抗体を用いて定量するための原理を、図1に示す。図1において、標識抗原5は、電気化学発光物質1および被験抗原と同一の抗原2から構成されている。標識抗原5に比べて被験抗原3の濃度が著しく低い場合には、標識抗原5の多くが抗体4に結合して免疫反応複合体を形成しているため、遊離した標識抗原5の量が少なく、従って発光強度は弱い(図1A)。被験抗原3の濃度が高くなると、抗体4に結合する被験抗原3の量も増加するため、抗体4に結合することのできない遊離した標識抗原5の量が増加し、発光強度が強くなる(図1B)。被験抗原3の濃度がさらに高くなると、遊離した標識抗原5の量もさらに増加するため、発光強度はさらに強くなる(図1C)。このようにして、被験サンプル中の被験抗原の濃度に応じた強度の発光が検出される。
【0030】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、本発明の第一の態様による定量法において、前記被験物質は抗体とされ、前記結合パートナーは前記抗体に結合する抗原とされる。用いられる抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれであってもよい。この実施態様では、被験物質である被験抗体に特異的に結合する抗原が結合パートナーとして用いられ、被験抗体と同一の抗体に上述の標識が付された標識抗体が標識被験物質として用いられる。また、標識としては、電気化学発光物質を用いることが好ましい。この実施態様では、被験抗体の量に応じて免疫反応複合体を形成しない標識抗体の量が変化するため、反応溶液の発光強度を測定することにより被験抗体の濃度を正確に測定することが可能になる。
【0031】
第二の態様による定量法
本発明の第二の態様による定量法は、均質溶液中での非競合的結合アッセイの様式で行なわれ、該方法は、(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0032】
本発明の第二の態様による定量法では、被験サンプルおよび所定量の標識結合パートナーが溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において、前記被験サンプルが前記標識結合パートナーに接触する。これにより、均質溶液中での非競合的結合アッセイが行なわれる。
【0033】
本発明の第二の態様による定量法における標識結合パートナーの用量は、結合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、標識結合パートナーの用量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。一般には、標識結合パートナーの量は、被験サンプル中に含まれると予想される被験物質の量に対して過剰量であればよい。
【0034】
第三の態様による定量法
本発明の第三の態様による定量法は、追加の試薬として、被験物質と結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を用いる非競合的結合アッセイによって行なわれ、この第三の複合体成分を標識化することもできる。よって、本発明の第三の態様による定量法は、(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、(b)被験サンプルを用意する工程、(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程を含んでなる。
【0035】
本発明の第三の態様による定量法では、被験サンプル、ならびに所定量の結合パートナーおよび所定量の上記第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群が溶液の形態で混合され、得られる混合溶液中において前記被験サンプルが前記複合体形成試薬群に接触する。これにより、均質溶液中での非競合的結合アッセイが行なわれる。
【0036】
前記第三の複合体成分は、被験物質と結合パートナーとの組み合わせに応じて、当業者により適宜選択される。例えば、リガンドおよびそのレセプターのいずれか一方を被験物質とし、他方を結合パートナーとする場合には、これらの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸を第三の複合体成分として用いることができる。
【0037】
本発明の第三の態様による定量法における複合体形成試薬群の用量は、結合アッセイにおいて一般的に用いられる使用量であればよく、特に制限されない。例えば、複合体形成試薬群の用量は、標識により生成されるシグナルが定量的に検出されうる強度となるような範囲において、当業者により適宜決定される。一般には、結合パートナーの量は、被験サンプル中に含まれると予想される被験物質の量に対して過剰量であればよく、また、第三の複合体成分の量は、結合パートナーの量に対して過剰量であればよい。
【0038】
被験物質を定量するためのキット
本発明による定量法を実施するため、必要な試薬等をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によれば、本発明による定量法に従ってサンプル中における被験物質の濃度を測定するためのキットであって、本発明のそれぞれの態様による定量法に必要となる試薬(群)を含んでなるキットが提供される。
【0039】
本発明の第一の態様による定量法を実施するためのキットは、前記被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識被験物質を含んでなるものである。標識により生成されるシグナルは、前記標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである。本発明の好ましい実施態様によれば、前記結合パートナーおよび前記標識被験物質は、所定量の前記結合パートナーおよび所定量の前記標識被験物質のそれぞれを含有する溶液の形態で分離されて含まれているものとされる。
【0040】
本発明の第二の態様による定量法を実施するためのキットは、前記被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識結合パートナーを含んでなるものである。標識により生成されるシグナルは、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである。
【0041】
本発明の第三の態様による定量法を実施するためのキットは、被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を含んでなるものである。前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方は、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬とされる。標識により生成されるシグナルは、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである。
【0042】
本発明によるキットは、必要に応じて、反応容器、本発明による定量法の手順について記載した説明書等を含むことができる。
【0043】
被験物質を定量するための装置
さらに、本発明によれば、本発明による定量法を実施するための装置が提供され、該装置は、被験サンプル、ならびに本発明のそれぞれの態様による定量法に必要とされる試薬(群)(例えば、所定濃度の結合パートナーおよび所定濃度の標識被験物質)を含む混合溶液を保持するための容器と、前記混合溶液において、標識(例えば、標識被験物質の標識)により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段とを少なくとも備えてなる。本発明による装置は、必要に応じて、前記混合溶液を適切な条件下(例えば、前記被験物質と前記結合パートナーとの結合を可能とする条件下)においてインキュベートするためのインキュベーション手段をさらに含んでなるものとしてもよい。
【0044】
本発明の第一の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質とされる。本発明の第二の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、所定量の標識結合パートナーとされる。本発明の第三の態様による定量法を実施するための装置においては、必要な試薬(群)は、複合体形成試薬群とされる。この複合体形成試薬群は、被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなるものであり、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方は、上述の標識が付された標識試薬とされる。
【0045】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記シグナル強度測定手段は、前記混合溶液に電圧を印加するための電圧印加手段と、前記混合溶液からの電気化学発光量を測定するための発光量測定手段とを含んでなるものとされる。
【0046】
前記容器は、その内部に液体を保持することができ、かつ、混合溶液に溶解しない素材からなるものであれば、いかなる容器を用いてもよい。また、容器の色および形状は特に制限されないが、容器は、好ましくはその外部からの前記電気化学発光量の測定を可能とする透明部分または開口部を有するものとされる。このような透明部分または開口部により、反応溶液からの発光量の測定が容易となる。
【0047】
電圧印加手段は、反応容器中の反応溶液に電圧を印加しうる手段であればよく、典型的には、電源に接続された電極(作用極および対極)を挙げることができる。また、反応溶液における電気化学発光量を安定化させるためには、反応溶液に印加される電圧は正確に制御されることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、電圧印加手段は、ポテンショスタットなどの電圧制御手段を含むものとされる。ポテンショスタットを用いることにより、作用極と参照極の間の電圧が設定した値になるように、作用極と対極に流れる電流を制御することが可能となる。
【0048】
発光量測定手段は、液体からの発光量を測定しうる手段であればよく、例えば、当技術分野において周知の様々な発光量測定装置(特に、フォトンカウンター)を挙げることができる。
【0049】
本発明の好ましい実施態様による装置を図4に示す。図4に示される被験物質濃度測定装置6では、電極付透明キュベット7中において混合溶液が保持され、その後、該混合溶液に所定の電圧が印加される。電極付透明キュベット7中に設けられた電極はポテンショスタット8に接続されており、ポテンショスタット8において設定された電圧が混合溶液に印加される。この電圧の印加により生じた混合溶液からの電気化学発光の発光量は、発光量測定装置18によって測定される。得られた測定値は検量線データを記憶した計算機9に送られ、この計算機9においてサンプル中の被験物質の濃度が算出され、表示される。
【0050】
容器内における電極の配置は、当業者であれば適宜決定することができる。例えば、図6に示す斜視図、図7に示す側面断面図、および図8に示す上面図で表されるように、四角柱型のキュベット14において、一つの内壁の底部付近に作用極17を配置し、これに向かい合う内壁の底部付近に対極16および参照極15を並列に配置することができる。あるいは、図9に示す斜視図、図10に示す側面断面図、および図11に示す上面図で表されるように、四角柱型のキュベット14において、その底部に、参照極15、作用極17および対極16をこの順番で並べることもできる。
【0051】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明による装置は、前記容器中に予め標識被験物質などの試薬(群)を含んでなるものとされる。これにより、本発明による装置、特に該装置に含まれる容器は、特定の被験物質の定量を目的としたものとなる。この実施態様においては、前記容器は、本発明による装置に脱着可能なものとすることが好ましく、さらには、脱着可能な使い捨て容器とすることもできる。容器中に予め含まれる標識被験物質などの試薬(群)は、粉末などの固体、水溶性ゲル、または溶液等、容器に被験サンプル溶液が投入されたときにこれらとの混合を可能とする形態とすることができる。
【0052】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による装置は、前記容器中において、被験サンプルおよび必要な試薬もしくは試薬群(例えば、標識被験物質および結合パートナー)を混合するための混合手段をさらに備えてなるものとされる。このような混合手段としては、容器内で液体を攪拌することのできる液体攪拌手段、例えば、マグネチックスターラーなどを挙げることができる。また、混合手段は、被験サンプル溶液、および必要な試薬または試薬群の溶液(例えば、標識被験物質溶液および結合パートナー溶液)の一つ、またはこれらの任意の組み合わせを自動的に容器中に投入するための溶液注入手段をさらに含んでいてもよい。
【0053】
本発明の好ましい実施態様による、前記混合手段を備えた装置を図5に示す。図5に示される被験物質濃度測定装置10では、サンプル溶液用容器11、標識被験物質溶液用容器12、および結合パートナー溶液用容器13が設けられており、これらの容器から混合溶液を構成する各溶液がポンプを通じて電極付透明キュベット7中に適宜注入され、そこで混合される。このポンプは、各溶液の注入量を個別に調整しうるものとされる。あるいは、各溶液のそれぞれについて、独立した別個のポンプを設けることもできる。電極付透明キュベット7中において混合溶液が形成された後は、図4について上述したように、本発明による定量法が実施される。
【0054】
本発明による定量法は、アッセイ(例えば競合アッセイ)により生成した結合複合体と結合しなかった試薬とを分離する必要がなく、試薬の電極への固定化が不要であるため、従来の方法よりも簡便な操作により被験物質を検出および定量することができるという利点を有する。従って、本発明による定量法は、実験室以外の場所においても容易に実施することができ、環境センシング技術などへの応用も可能である。本発明による定量法はさらに、サンプル中に含まれる微量の被験物質を正確に定量できるという利点を有することから、ハイスループットな臨床診断等の医療用途への応用も可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0056】
実施例1:競合アッセイによるヒト血清アルブミンの定量(1)
本実施例では、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体に対する所定濃度の標識ヒト血清アルブミンとの競合アッセイによって定量した。
【0057】
ヒト血清アルブミン(HSA)(和光純薬工業株式会社製)を、化学発光物質であるルミノール(ICN Biomedical社製)とのカップリング反応により標識化し、得られた標識アルブミンをサイズ排除クロマトグラフィーおよび透析により精製した(参考文献:Sensors and Actuators B 35-36, 458-462, 1996)。得られた標識アルブミン画分中のルミノールを、349nmにおける吸光度の測定により定量した。また、標識アルブミン画分中のアルブミンを、タンパク質定量キット(Pierce社製)を使用した562nmにおける吸光度の測定により定量した。これらの定量では、既知濃度のルミノールまたはアルブミンを含む試料について同様の吸光度測定を行なうことにより得られた検量線を用いた。その結果、調製した標識アルブミンの標識比は30.4であった。
【0058】
この標識アルブミンを標識抗原として、100mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、標識抗原中のルミノール濃度が1.0×10−5Mとなるように溶解した。次いで、検量線を作製するために、被験抗原としてのヒト血清アルブミンを、標識アルブミンに対するモル比(アルブミン/標識アルブミン)が10−10、10−8、10−6、および10−5となるように上記緩衝溶液に加えて十分に攪拌した。得られた各緩衝溶液に、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体(株式会社バイオテスト研究所製)を、標識抗原に対するモル比(抗ヒト血清アルブミン抗体/標識アルブミン)が0.5となるように添加し、5分間37℃でインキュベートした。その後、過酸化水素を100μMとなるように各緩衝溶液に添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により化学発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0059】
得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、被験抗原が2.2fg/ml〜220pg/mlという希薄な濃度において、非常に高い相関係数(R=0.9986)を有する検量線を得ることができた。さらに、既知濃度の被験抗原を含有する数種の抗原溶液について、上記と同様にして発光量を測定し、図2に示す検量線から抗原濃度を求めたところ、得られた測定値は既知の抗原含有量と良く一致していた。
【0060】
実施例2:競合アッセイによるヒト血清アルブミンの定量(2)
本実施例では、実施例1において用いた条件の一部を変更して、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体に対する所定濃度の標識ヒト血清アルブミンとの競合アッセイによって定量した。
【0061】
ヒト血清アルブミン(HSA)(和光純薬工業株式会社製)を、化学発光物質であるルミノール(ICN Biomedical社製)とのカップリング反応により標識化し、得られた標識アルブミンをサイズ排除クロマトグラフィーおよび透析により精製した(参考文献:Sensors and Actuators B 35-36, 458-462, 1996)。得られた標識アルブミン画分中のルミノールを、349nmにおける吸光度の測定により定量した。また、標識アルブミン画分中のアルブミンを、タンパク質定量キット(Pierce社製)を使用した562nmにおける吸光度の測定により定量した。これらの定量では、既知濃度のルミノールまたはアルブミンを含む試料について同様の吸光度測定を行なうことにより得られた検量線を用いた。その結果、調製した標識アルブミンの標識比は18.0であった。
【0062】
この標識アルブミンを標識抗原として、100mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、標識抗原中のアルブミン濃度が22μg/mlとなるように溶解した。次いで、検量線を作製するために、被験抗原としてのヒト血清アルブミンを、標識アルブミンに対するモル比(アルブミン/標識アルブミン)が10−11、10−9、10−7、10−6、10−5、および10−4となるように上記緩衝溶液に加えて十分に攪拌した。得られた各緩衝溶液に、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体(株式会社バイオテスト研究所製)を、標識抗原に対するモル比(抗ヒト血清アルブミン抗体/標識アルブミン)が0.5となるように添加し、5分間37℃でインキュベートした。その後、過酸化水素を100μMとなるように各緩衝溶液に添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により化学発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0063】
得られた結果を図3に示す。図3から明らかなように、被験抗原が220ag/ml(3.3aM)〜2.2ng/ml(33pM)という希薄かつ広範な濃度領域において、非常に高い相関係数(R=0.989)を有する検量線を得ることができた。さらに、既知濃度の被験抗原を含有する数種の抗原溶液について、上記と同様にして発光量を測定し、図3に示す検量線から抗原濃度を求めたところ、得られた測定値は既知の抗原含有量と良く一致していた。
【0064】
実施例3:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(1)
本実施例では、17β−エストラジオールを、エストロゲンレセプターα(ERα)との特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0065】
(1)エストロゲンレセプターα(ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0066】
(2)ルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。5’末端にアミノ基を導入したERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)中でイソチオシアネートルミノールと反応させて、ルミノール標識核酸(L−ERE核酸)を得た。これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を200ng/mlに調整した。
【0067】
(3)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0068】
(4)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μlとERα溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、L−ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0069】
(5)結果
得られた結果を図12に示す。図12によれば、本方法では0.1〜10ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0070】
実施例4:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(2)
本実施例では、17β−エストラジオールを、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)との特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とエストロゲン応答核酸(ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0071】
(1)ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)を、カップリング反応によりルミノールで標識した。得られたL−ERαをゲル濾過クロマトグラフィーおよび透析により精製し、リン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0072】
(2)エストロゲン応答核酸(ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。ERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を200ng/mlに調整した。
【0073】
(3)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0074】
(4)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μlとL−ERα溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
(5)結果
得られた結果を図13に示す。図13によれば、本方法では0.1〜20ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0075】
実施例5:非競合アッセイによる17β−エストラジオールの定量(3)
本実施例では、17β−エストラジオールを、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0076】
(1)ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)を、カップリング反応によりルミノールで標識した。得られたL−ERαをゲル濾過クロマトグラフィーおよび透析により精製し、リン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させて、その濃度を400ng/mlに調整した。
【0077】
(2)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.02〜20ng/mlに調整した。
【0078】
(3)アッセイ
各濃度に調整した17β−エストラジオール溶液100μl、L−ERα溶液100μlおよびリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを混合して十分に撹拌した。次いで、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0079】
(4)結果
得られた結果を図14に示す。図14によれば、本方法では0.2〜20ng/mlの濃度の17β−エストラジオールの定量が可能となることがわかる。
【0080】
実施例6:非競合アッセイによるエストロゲンレセプターα(ERα)の定量
本実施例では、エストロゲンレセプターα(ERα)を、17β−エストラジオールとの特異的結合、ならびに該結合により得られる複合体とルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)との特異的結合を利用する非競合アッセイによって定量した。
【0081】
(1)ルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)溶液の調製
エストロゲン応答核酸(ERE核酸)としては、エストロゲン応答配列(ERE,AGGTCANNNTGACCT:配列番号1)を含むオリゴヌクレオチド:5'-GTCCAAAGTCAGGTCACAGTGACCTGATCAAAGTT-3’(配列番号2,下線部はエストロゲン応答配列,John D. Obourn et al., Biochemistry 32, 6229-6236, 1993)を用いた。5’末端にアミノ基を導入したERE核酸を合成し、これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)中でイソチオシアネートルミノールと反応させて、ルミノール標識核酸(L−ERE核酸)を得た。これをリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を10ng/mlに調整した。
【0082】
(2)17β−エストラジオール溶液の調製
17β−エストラジオール(16,16,17−d3)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を100pg/mlに調整した。
【0083】
(3)エストロゲンレセプターα(ERα)溶液の調製
ERα(和光純薬工業株式会社製)をリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)に溶解させ、その濃度を0.05〜50ng/mlに調整した。
【0084】
(4)アッセイ
各濃度に調整したERα溶液100μlと17β−エストラジオール溶液100μlを混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。次いで、L−ERE核酸溶液100μlを加えて混合した後、得られた混合液を37℃で10分間インキュベートした。その後、400μMの濃度で過酸化水素を溶かしたリン酸緩衝液(100mM,pH7.5)100μlを添加し、900mV(vs.Ag/AgCl)の電圧を作用電極に印加し、標識物質であるルミノールを電気化学的反応により発光させ、その発光量を300秒間積算した。
【0085】
(5)結果
得られた結果を図15に示す。図15によれば、本方法では0.05〜10ng/mlの濃度のERαの定量が可能となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、被験物質を抗原とし、結合パートナーを抗体とした場合における本発明の原理を示すモデル図である。
【図2】図2は、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体および標識ヒト血清アルブミンを用いて定量する場合における、ヒト血清アルブミン濃度と発光量との関係を示す検量線である。
【図3】図3は、ヒト血清アルブミンを、抗ヒト血清アルブミンモノクローナル抗体および標識ヒト血清アルブミンを用いて定量する場合における、ヒト血清アルブミン濃度と発光量との関係を示す検量線である。
【図4】図4は、本発明の好ましい実施態様による被験物質濃度測定装置を示す概略図である。
【図5】図5は、本発明の他の好ましい実施態様による被験物質濃度測定装置を示す概略図である。
【図6】図6は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す側面断面図である。
【図8】図8は、本発明の第一の実施態様による電極付キュベットを示す上面図である。
【図9】図9は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す側面断面図である。
【図11】図11は、本発明の第二の実施態様による電極付キュベットを示す上面図である。
【図12】図12は、エストロゲンレセプターα(ERα)およびルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)およびエストロゲン応答核酸(ERE核酸)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、ルミノール標識エストロゲンレセプターα(L−ERα)を用いて17β−エストラジオールを定量する場合における、17β−エストラジオール濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、17β−エストラジオールおよびルミノール標識エストロゲン応答核酸(L−ERE核酸)を用いてエストロゲンレセプターα(ERα)を定量する場合における、ERα濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 標識抗原中の化学発光物質
2 標識抗原中の抗原
3 被験抗原
4 抗体
5 標識抗原
6 被験物質濃度測定装置
7 電極付透明キュベット
8 ポテンショスタット
9 検量線データを記憶した計算機
10 被験物質濃度測定装置
11 サンプル溶液用容器
12 標識被験物質溶液用容器
13 結合パートナー溶液用容器
14 キュベット
15 参照極
16 対極
17 作用極
18 発光量測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、
(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(c)被験サンプルを用意する工程、
(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、
(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(b)被験サンプルを用意する工程、
(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、
(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項3】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(b)被験サンプルを用意する工程、
(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、
(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記標識が電気化学発光物質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
シグナル強度の測定が、前記標識の電気化学的な反応によって生じる発光の強度を測定することにより行なわれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程が、予め作成しておいた前記シグナル強度と前記被験物質の濃度との関係を示す検量線と、シグナル強度の測定値とを対比することにより行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記被験物質が抗原であり、前記結合パートナーが前記抗原に結合する抗体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被験物質が抗体であり、前記結合パートナーが前記抗体に結合する抗原である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
前記被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識被験物質を含んでなり、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項15】
前記結合パートナーおよび前記標識被験物質が、所定量の前記結合パートナーおよび所定量の前記標識被験物質のそれぞれを含有する溶液の形態で分離されて含まれている、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
前記被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識結合パートナーを含んでなり、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を含んでなり、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項18】
前記標識が電気化学発光物質である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記被験物質が抗原であり、前記結合パートナーが前記抗原に結合する抗体である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記被験物質が抗体であり、前記結合パートナーが前記抗体に結合する抗原である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターである、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドである、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項17に記載のキット。
【請求項25】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項17に記載のキット。
【請求項26】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプル、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質を含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項27】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプルおよび所定量の標識結合パートナーを含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項28】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプルおよび複合体形成試薬群を含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、複合体形成試薬群に含まれる標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項29】
前記シグナル強度測定手段が、前記混合溶液に電圧を印加するための電圧印加手段と、前記混合溶液からの電気化学発光量を測定するための発光量測定手段とを含んでなるものである、請求項26〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記容器が、その外部からの前記電気化学発光量の測定を可能とする透明部分または開口部を有するものである、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記容器中において、被験サンプルおよび必要な試薬もしくは試薬群を混合するための混合手段をさらに備えてなる、請求項26〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項1】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナーを用意する工程、
(b)前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識被験物質を用意する工程であって、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(c)被験サンプルを用意する工程、
(d)前記被験サンプル、前記所定量の結合パートナーおよび前記所定量の標識被験物質を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルおよび前記標識被験物質を前記結合パートナーに接触させる工程、
(e)工程(d)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(f)工程(e)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された所定量の標識結合パートナーを用意する工程であって、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(b)被験サンプルを用意する工程、
(c)前記被験サンプルおよび前記所定量の標識結合パートナーを溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記標識結合パートナーに接触させる工程、
(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項3】
サンプル中における被験物質の濃度を測定する方法であって、
(a)被験物質が特異的に結合する所定量の結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する所定量の第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を用意する工程であって、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、工程、
(b)被験サンプルを用意する工程、
(c)前記被験サンプルおよび前記複合体形成試薬群を溶液の形態で混合し、得られる混合溶液中において前記被験サンプルを前記複合体形成試薬群に接触させる工程、
(d)工程(c)により得られる混合溶液において、前記標識により生成されるシグナルの強度を測定する工程、ならびに
(e)工程(d)により得られるシグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記標識が電気化学発光物質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
シグナル強度の測定が、前記標識の電気化学的な反応によって生じる発光の強度を測定することにより行なわれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験サンプル中の被験物質の濃度を知る工程が、予め作成しておいた前記シグナル強度と前記被験物質の濃度との関係を示す検量線と、シグナル強度の測定値とを対比することにより行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記被験物質が抗原であり、前記結合パートナーが前記抗原に結合する抗体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被験物質が抗体であり、前記結合パートナーが前記抗体に結合する抗原である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
前記被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および前記被験物質に検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識被験物質を含んでなり、該シグナルが、該標識被験物質と前記結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項15】
前記結合パートナーおよび前記標識被験物質が、所定量の前記結合パートナーおよび所定量の前記標識被験物質のそれぞれを含有する溶液の形態で分離されて含まれている、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
前記被験物質が特異的に結合する結合パートナーに検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識結合パートナーを含んでなり、該シグナルが、前記被験物質と前記標識結合パートナーとの結合により増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するためのキットであって、
被験物質が特異的に結合する結合パートナー、および被験物質と前記結合パートナーとを含む複合体に特異的に結合する第三の複合体成分を含んでなる複合体形成試薬群を含んでなり、前記結合パートナーおよび第三の複合体成分のいずれか一方が、検出可能なシグナルを生成する標識が付された標識試薬であり、該シグナルが、該標識試薬の複合体への組込みにより増加または消失もしくは減少するものである、キット。
【請求項18】
前記標識が電気化学発光物質である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記被験物質が抗原であり、前記結合パートナーが前記抗原に結合する抗体である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記被験物質が抗体であり、前記結合パートナーが前記抗体に結合する抗原である、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターである、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドである、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
前記被験物質がリガンドであり、前記結合パートナーが前記リガンドに結合するレセプターであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項17に記載のキット。
【請求項25】
前記被験物質がレセプターであり、前記結合パートナーが前記レセプターに結合するリガンドであり、前記第三の複合体成分が前記リガンドと前記レセプターとの複合体に特異的に結合するヌクレオチド配列を含む核酸である、請求項17に記載のキット。
【請求項26】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプル、所定量の結合パートナーおよび所定量の標識被験物質を含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項27】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプルおよび所定量の標識結合パートナーを含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項28】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のサンプル中における被験物質の濃度を測定する方法を実施するための装置であって、
被験サンプルおよび複合体形成試薬群を含む混合溶液を保持するための容器と、
前記混合溶液において、複合体形成試薬群に含まれる標識により生成されるシグナルの強度を測定するためのシグナル強度測定手段と、
シグナル強度の測定値に基づいて被験サンプル中の被験物質の濃度を算出する手段と
を少なくとも備えてなる、装置。
【請求項29】
前記シグナル強度測定手段が、前記混合溶液に電圧を印加するための電圧印加手段と、前記混合溶液からの電気化学発光量を測定するための発光量測定手段とを含んでなるものである、請求項26〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記容器が、その外部からの前記電気化学発光量の測定を可能とする透明部分または開口部を有するものである、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記容器中において、被験サンプルおよび必要な試薬もしくは試薬群を混合するための混合手段をさらに備えてなる、請求項26〜28のいずれか一項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−126162(P2006−126162A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44612(P2005−44612)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(502094413)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(502094413)
【Fターム(参考)】
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