説明

サンプル中の逆転写酵素を検出するための組成物および方法

本発明はサンプル中の逆転写酵素(RT)の存在および酵素活性を検出する方法を提供する。この方法は、一般に、標識されたデオキシヌクレオチドの存在下で逆転写酵素PCRアッセイを実施することを伴う。RNAテンプレートおよび伸長中のcDNAプライマーを含む分子構造または複合体にデオキシヌクレオチドが取り込まれる。ある態様では、デオキシヌクレオチドを検出可能な部分で標識する。捕捉部分を含有させて反応完了後に複合体を表面上に固定化させ、分子構造、ひいては逆転写酵素の存在の検出を容易にしてもよい。ある態様では、検出可能な部分は化学発光部分、例えばアクリジニウム色素であり、検出可能な部分からの化学発光を刺激し、放射される光を検出することによってアッセイを測定する。種々の態様では、アッセイはサンプル中に存在する逆転写酵素のサブタイプの判定、または抗レトロウイルスリード化合物についてのスクリーニングに有用である。また、アッセイを行うためのキットも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンプル中の逆転写酵素の存在を検出するためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の本発明の背景に関する記載は単に本発明の理解を助けるために提供するものであり、本発明に対する従来技術を記述または構成することを認めるものではない。
【0003】
レトロウイルスは、そのゲノムがRNAからなるウイルスである。これらのウイルスには重要なメンバー、例えばAIDSを引き起こすウイルス性物質であるHIV-1およびHIV-2が含まれる。レトロウイルスはヒトおよび動物における白血病およびリンパ腫を含む種々の他の疾患にも関与している。典型的な“最小の”レトロウイルスはそのホストの形質膜由来の外殻;エンベロープタンパク質のコピー(そのエンベロープの脂質二重層に包埋されている)、キャプシド、2分子のRNAを含有するタンパク質殻、および逆転写酵素の分子からなる。
【0004】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の検出を特に目的としたレトロウイルス負荷量(load)の定量技術の開発のために相当な努力が為されてきた。HIV-1は後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因となるレトロウイルスである。
【0005】
当該分野では、レトロウイルスの存在を検出および定量する方法であって、変異体または他の相違性の高いウイルスを検出でき、受容性のあるゲノムのRNAと欠陥ゲノムのものとを識別できる方法が必要とされている。更に、RNA抽出およびサンプルの操作によるPCRコンタミネーションまたはRNA分解によって結果が無効とならないような方法が所望される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明はサンプル中の逆転写酵素(RT)の存在および酵素活性を検出するための方法を提供する。この方法は、一般に1つ以上の標識したデオキシヌクレオチドの存在下で逆転写酵素PCRアッセイを行うことを含む。1つ以上のデオキシヌクレオチドを、RNAテンプレートおよび伸長中のcDNAプライマーを含む分子構造または複合体に取り込ませる。1つ以上のデオキシヌクレオチドを、検出可能な部分で、そしてある態様では更に捕捉部分で、標識する。検出可能な部分または捕捉部分のいずれでも標識しない“フリーの”デオキシヌクレオチドが存在してもよい。ある態様では検出可能な部分はアクリジニウム色素のような化学発光部分であり、伸長中のDNAプライマーに取り込まれた検出可能な部分からの化学発光を刺激し、放射される光を検出することによってアッセイの測定を行う。種々の態様では、アッセイはサンプル中に存在する逆転写酵素のサブタイプの確認、または抗レトロウイルスリード化合物のスクリーニングにも有用である。使用の際、捕捉部分によって分子構造もしくは複合体が表面上に固定化されるか、または反応終了後の反応混液からの分子構造の除去が容易となり、このことにより逆転写酵素の存在または活性の指標としてこれを検出することが可能となる。アッセイを行うためのキットも開示する。
【0007】
第1の観点では、本発明はサンプル中の逆転写酵素の存在を検出するための方法を提供する。この方法は、サンプルをRNAテンプレート、DNAプライマー、検出可能な部分で標識した1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)、そして必要により検出可能な部分で標識していない1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸を含む反応混液と接触させることを含む。サンプル中に逆転写酵素が存在する場合には検出可能な部分を含む伸長されたDNAプライマーを含む分子構造を生成するのに好適な条件下で、反応混液をインキュベートする。次いで、検出可能なシグナルをサンプル中の逆転写酵素の存在の指標として検出する。ある態様では、RNAテンプレート、DNAプライマー、検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸、および検出可能な部分で標識していないデオキシヌクレオチド3リン酸の少なくとも1つは捕捉部分を含む。従って、捕捉部分を伸長中のDNAプライマーに取り込ませ、これを使用して分子複合体を反応混液から分離することができる。ある態様では、検出段階は取り込まれた検出可能な部分を含む分子構造の存在を検出することを伴う。分子構造はRNAテンプレート、DNAプライマー、および検出可能な部分で標識された1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸、そして必要により検出可能な部分で標識されていない1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸を含んでいてもよい。
【0008】
“逆転写酵素”とは遺伝物質をRNAからDNAに変化させるRNA依存型DNAポリメラーゼを意味する。ある態様では、逆転写酵素はレトロウイルス由来である。“RNAテンプレート”とは、その構造が逆転写酵素による相補的cDNA分子合成の鋳型であるRNA分子を意味する。従って、一般にRNAテンプレートがA、U、C、およびGを有する場合、相補的cDNA分子はそれぞれT、A、G、およびCを有する。“DNAプライマー”とは、DNAポリメラーゼまたはDNAポリメラーゼの機能性フラグメントで伸長できるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは伸長するDNAプライマーの創製の開始点として機能する。
【0009】
ある態様では、RNAテンプレートおよびDNAプライマーは同じ分子の部分である。例えばRNAテンプレートがポリ(rA)であり、DNAテンプレートはポリTであってRNAテンプレートの3'末端にあってもよい。ポリT配列がポリ(rA)上に折り返されてその一部とハイブリダイズし、このことによりDNAプライマーがRNAテンプレート上に配置される。
【0010】
“捕捉部分“は分子を溶液から分離するのに使用できる分子の一部をいう。従って、別の分子に対して結合親和性を有する部分は捕捉部分となり得る。結合親和性は溶液から捕捉部分(そして結果としてそれに結合する分子構造または複合体)を回収するのに十分でありさえすればよい。好適な捕捉部分には、それに限定されるわけではないが、ビオチン、ストレプトアビジン、ストレプトアビジンアガロース、ジゴキシゲニン、および種々の蛍光化合物、例えばフルオレセインおよび5(6)-カルボキシ-フルオレセイン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(FLUOS)、ローダミン、アミノメチルクマリン酢酸、シアニン色素(例えばCy3)、および市販品、例えばCaptAvidinTMアガロース(Molecular Probes, Eugene, OR)、CaptivateTM フェロフルイド磁気粒子(Molecular Probes, Eugene, OR)がある。ある態様では、捕捉部分は抗体が結合されうる分子である。捕捉部分は磁気引力のような力によって溶液から分離される粒子または分子の部分であってもよい。例えば捕捉部分は磁気マイクロビーズまたはマイクロビーズに結合させた分子であってもよい。分子構造または複合体を捕捉部分によって反応混液から分離することができる。従って、ある態様では捕捉部分はビオチンであり、これは反応混液をストレプトアビジンをコーティングした磁気粒子と接触させることによって溶液から除去できる。混合後、磁気粒子を溶液から分離し、磁気粒子上に存在するシグナルの量を測定する。
【0011】
“分子構造”とは1つ以上の核酸と他の分子が非共有結合したものを意味する。ある態様では、分子構造は伸長中のcDNAプライマーにハイブリダイズしたRNAテンプレートを含む複合体である。分子構造は検出可能な部分も含有し、これは構造に含まれる1つ以上のヌクレオチドによって保持されてもよい。分子構造は捕捉部分(使用する場合)も含み、(存在する場合は)逆転写酵素も含んでいてもよい。捕捉部分は1つ以上のヌクレオチド、RNAテンプレート、またはcDNAプライマーによって保持されてもよい。“伸長中の(extending)DNAプライマー”、“伸長された(extended)プライマー‘、または“伸長中の(extending)cDNAプライマー“とは、RNAテンプレートの構造に基づいて少なくとも1つのデオキシヌクレオチドが既に添加されているDNA鎖を意味する。“反応混液”とはRNAテンプレート、DNAプライマー、ヌクレオチド、および逆転写酵素反応の他の成分の混合物を意味する。種々の態様では、反応混液はバッファー、金属イオン(例えば2価金属イオン)、酵素誘導物質、および酵素反応またはその生成物の検出を促進する他の成分も含む。
【0012】
ある態様では、検出可能な部分はアクリジニウム部分であり、検出可能なシグナルは化学発光反応によって生成される発光である。アクリジニウム部分には、それらに限定される訳ではないがアクリジニウムエステル、例えばC2NHS、およびアクリジニウムスルホアミドがあり、それらはいずれも容易に核酸およびヌクレオチドに結合させることができる。
【0013】
別の態様では、方法は、検出可能なシグナルの生成に先立って分子構造または複合体をサンプルから分離することを更に含む。分離は分子構造中に含まれる捕捉部分を利用して行うことができる。例えば、捕捉部分が分子構造または複合体内に取り込まれるデオキシヌクレオチド3リン酸に結合したビオチンである場合、反応混液を固相表面上に固定化したアビジンと接触させることによって分子構造または複合体を反応混液から分離できる。あるいはまた、ストレプトアビジン、ストレプトアビジンアガロース、CaptAvidinTMアガロース(Molecular Probes, Eugene, OR)、CaptivateTM フェロフルイド磁気粒子(Molecular Probes, Eugene, OR)を使用してビオチン化された分子構造または複合体を反応混液から除去することができる。反応混液から除去できるか、または少なくとも反応混液内で単離できる限り、他の捕捉部分を使用することができる。当然、任意の上記分子を捕捉部分として使用し、捕捉部分に親和性のある相当する分子で除去することができる。他の態様では、クロマトグラフィー法、例えばゲル濾過(または“サイズ排除”)クロマトグラフィーによって分子構造を反応混液から除去できる。
【0014】
更に別の態様では、伸長中のDNAプライマーに取り込まれていないデオキシヌクレオチド3リン酸(未反応のデオキシヌクレオチド3リン酸)を反応混液から除去した後、検出可能なシグナルを生成させる。このことにより、検出可能なシグナルを生成する検出可能な部分を除去する代わりに、分子構造に取り込まれていないデオキシヌクレオチドを除去し、分子構造または複合体に含有されるそれらの検出可能な部分からのシグナルの検出に干渉しないようにする。ある態様では、検出可能なシグナルは検出可能な部分からの発光を誘引する化学発光反応に由来する。検出可能な部分がアクリジニウムの場合、希酸および過酸化水素を反応混液に添加することによってシグナルを生成させる。
【0015】
種々の態様では、RNAテンプレートはホモポリマーおよび/またはヘテロポリマーRNAから生成され、そしてデオキシヌクレオチド3リン酸はdCTP、dGTP、dATP、およびdTTPである。ある態様では、反応混液は約5mMの濃度で存在する1つ以上の2価金属イオンを更に含有し、2価金属イオンはマグネシウムおよびマンガンからなる群から選択できる。種々の他の態様では、2価の金属イオンは、例えば2-50mM、または3-20mM、または10mM、または15mM、または20mM、または25mMで存在してもよい。使用する場合、捕捉部分はハプテンであってもよい。ある態様ではDNAプライマーが捕捉部分を含み、別の態様ではRNAテンプレートが捕捉部分を含む。ある態様では、検出可能な部分のシグナルを保存するのに好適な条件下でのcDNAプライマーの伸長によって検出可能な部分をcDNA中に取り込ませる。種々の態様では、検出可能な部分はアクリジニウム部分であり、シグナルは発光である。ある態様では、アクリジニウム部分で標識されたデオキシヌクレオシド3リン酸は以下の式を有し:
TP-Sugar-Px-L-Acr
式中:
TPは糖の5'位に結合した3リン酸基であり;
Sugarは糖部分であり;
Pxはプリン、ピリミジン、または7-デアザプリンであり、ここでPxは、ピリミジンである場合はN1位を介して、プリンまたは7-デアザプリンである場合はN9を介して、糖部分の1'位に結合し;
Lは少なくとも1個の炭素原子の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーであり、ここでLは一方の末端ではAcrに、他方の末端では、Pxがピリミジンである場合はC5もしくはC6位を介して、Pxがプリンである場合はC8位を介して、またはPxが7-デアザプリンである場合はC7もしくはC8位を介して、Pxに共有結合し;
Acrはアクリジニウム部分であり;
そして検出可能なシグナルは発光である。本明細書で使用する“約”とはプラス/マイナス10%を意味する。
【0016】
ある態様ではリンカーLは少なくとも1個の炭素原子の直鎖ヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーであり、別の態様ではリンカーLは少なくとも3個の炭素原子を含む直鎖アルケニレンまたはヘテロアルケニレンリンカーである。従って種々の態様では、リンカーLは-CH2-CH=CH-CH2-、-CH=CH-CH2-NH-、-NH(CH2) 6NH-、-NH(CH2CH2O)nNH-、C≡C-CH2NH-、または-CH2-C≡C-CH2-である。アクリジニウム部分は逆転写条件下で安定であり、cDNA分子への取り込み後に発光によって検出できる。
【0017】
本発明の別の観点では、DNA分子にハイブリダイズし、検出可能な部分に結合したデオキシヌクレオチドを有するRNAテンプレートの分子構造を提供する。結合は共有結合であってもよい。ある態様では、RNAテンプレートは捕捉部分も有するが、DNA分子も捕捉部分を含有できる。種々の態様では、検出可能な部分はアクリジニウム部分である。
【0018】
別の観点では、本発明はRNAテンプレート、RNAテンプレートのある領域に相補的であって、RNAテンプレートと安定なテンプレート-プライマーハイブリッド分子を形成するのに十分な長さを持つDNAプライマー、および検出可能な部分で標識されたデオキシヌクレオチド3リン酸を含むキットを提供する。ある態様では、RNAテンプレートおよびDNAプライマーは同じ分子の部分であり、一端にポリT配列が結合したポリ(rA)であってもよい。ポリ(dT)配列が核酸によってポリ(rA)配列にハイブリダイズしてそれ自身上でループを形成し、そのような形でRNAテンプレートとDNAプライマーが同じ分子の部分であってもよい。種々の態様では、ポリ(dT)の長さはT10-50またはT12-35またはT12-30またはT12-18またはT25であってもよい。キットは逆転写酵素アッセイを実施するためのバッファーを含んでいてもよく、バッファーは2価金属イオンを約5mMの濃度で含有してもよい。検出可能な部分はアクリジニウム部分であってもよい。ある態様では、デオキシヌクレオチド3リン酸は捕捉部分を更に含む。
【0019】
別の態様では、本発明はサンプル中に存在する、または存在しない逆転写酵素のサブタイプを判定するための方法を提供する。この方法は、試験すべきサンプルを逆転写酵素のサブタイプに特異的な結合分子(例えば抗体およびアプタマー)と接触させ、上記の反応混液とサンプルを接触させることを含む。検出可能な部分を有する伸長されたDNAプライマーを含む分子構造が存在するかどうかを判定し、このことにより、逆転写酵素のサブタイプがサンプル中に存在するかしないかを判定する。結合分子が特異性を示す逆転写酵素のサブタイプがサンプル中に存在する場合、その逆転写酵素のサブタイプからはシグナルがほとんど、または全く生成されない。このことにより、サンプル中の逆転写酵素のサブタイプの存在または不在を判定する。ある態様では、結合分子を表面上に固定化させる。結合分子の結合によって逆転写酵素の特定のサブタイプの活性が阻害され、検出可能なシグナルが伸長中のDNAプライマーへ取り込まれなくなるため、検出可能なシグナルの減少または消失が起こる。
【0020】
“結合分子”とは標的分子に特異的で実質的な親和性を有し、標的分子以外の分子には一般に結合しない分子またはそのフラグメントを意味する。標的分子は逆転写酵素のサブタイプであってもよい。結合分子の結合は十分に特異的であって、結合作用が信頼性のある標的分子の同定因子(identifier)としての役割を果たさなければならない。ある態様では、結合分子の結合に基づく標的の同定の信頼度は少なくとも90%である。他の態様では、信頼度は少なくとも95%または97%または98%または99%である。逆転写酵素のサブタイプへの結合作用が更にサブタイプの活性を阻害する作用をしてもよい。従って、それらの態様では、シグナルが生成されないことが同定因子である。ある態様では、結合分子は抗体またはそのフラグメントである。例えば結合分子は抗体のFc部分だけであるか、または抗体のFsv結合領域だけであってもよい。結合分子またはそれが結合する分子構造を反応混液から分離するために、捕捉部分を、分子構造の1つのメンバー(結合分子そのものを含む)に結合させることができる。
【0021】
別の観点では、本発明は抗レトロウイルスリード化合物のスクリーニング法を提供する。この方法は、抗レトロウイルス活性について試験すべき化合物を逆転写酵素のサンプルと接触させ、化合物および逆転写酵素を本明細書に記載する反応混液と接触させ、分子構造が検出可能な部分を含有する伸長されたDNAプライマーを含んで生成されるかどうかを判定し、このことにより、抗レトロウイルス活性について化合物をスクリーニングすることを含む。化合物の有効性は逆転写酵素活性および化合物の存在によって起こる逆転写酵素活性の低下の測定に基づいて推論できる。検出可能なシグナルを測定し、抗レトロウイルスリード化合物についてのスクリーニングを行う。分子構造は上記のように捕捉部分も含有してもよい。“リード化合物”とは創薬の出発点としての価値を示唆する薬理学的または生化学的特性を示す化合物を意味する。
【0022】
別の観点では、本発明は抗ウイルス治療をモニタリングするための方法を提供する。この方法は、抗ウイルス治療を行っている患者由来のサンプルを上記の反応混液と接触させ、逆転写酵素がサンプル中に存在する場合は上記の分子構造を生成し、検出可能なシグナルを測定し、このことにより抗ウイルス治療をモニタリングすることを含む。“抗ウイルス治療のモニタリング”とは治療の成功または失敗に関して治療の経過を再確認することを意味する。
【0023】
別の観点では、本発明はサンプル中の逆転写酵素の存在を検出する方法を提供する。この方法は、RNAテンプレート、DNAプライマー、および検出可能な部分で標識した1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸を含有する反応混液とサンプルを接触させることを含む。RNAテンプレートまたはDNAプライマーの1つを固相上に固定化する。逆転写酵素がサンプル中に存在する場合は、検出可能な部分を保持する伸長されたプライマーを有する分子構造を生成するのに好適な条件下で反応混液をインキュベートする。その後サンプル中で逆転写酵素を検出する。
【0024】
別の観点では、本発明は新規のアクリジニウム含有組成物を提供する。組成物は以下の任意のものを含有する分子構造または複合体を含有する:RNAテンプレートおよびそれに相補的なアクリジニウム含有cDNA;RNAテンプレートとアクリジニウム部分および捕捉部分を含有する相補的cDNAとの複合体;捕捉部分で標識したRNAテンプレートおよびアクリジニウムエステルを含有するRNAテンプレートに相補的なcDNA;RNAテンプレート、捕捉部分を含有するDNAプライマー、およびアクリジニウム部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸;捕捉部分を含有するRNAテンプレート、DNAプライマー、およびアクリジニウム部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸。
【0025】
上記の本発明の概要は非制限的であり、本発明の他の特徴および利点は以下の本発明の詳細な記述および特許請求の範囲から明白となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図面の簡単な説明
図1は、アクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸の合成を図示したものである。
【0027】
図2は、rHIVに関する逆転写酵素(RT)アッセイ曲線をグラフで示したものである。グラフは本発明に従って合成した伸長されたcDNAプライマーからの化学発光活性を示す。
【0028】
図3は、本発明に有用なアクリジニウムエステルおよびアクリジニウムスルホンアミドの態様を示す。図3aはアクリジニウムC2NHSエステル、4-(2-スクシンイミジル-オキシカルボニルエチル)-フェニル-10-アクリジニウム-9-カルボキシレートトリフルオロメチルスルホネートである。図3bは1-メチル-アクリジニウムエステルであり、図3cは1-メチル-ジ-メタ-フルオロ-アクリジニウムエステルである。
【0029】
発明の詳細な説明
化学発光は化学反応に由来する発光である。ある態様では、化学発光は室温、例えば約20℃から約30℃で起こる。光を発する(すなわち化学発光性の)化学反応は多数あるが、分子分析に有用となるのに十分有効性の高い化学発光を有するものははるかに少数である。
【0030】
アクリジニウムエステル
アクリジニウムエステルは良好な化学発光の有効性を有し、検出可能な光を発する。その化学発光性に有意な有害作用を与えずに化合物を核酸に結合させることもできる。
【0031】
アクリジニウムエステルは“閃光”型化学発光反応のものであり、試薬を添加すると直ちに1000分の数秒間から数秒間にわたる発光が起きる。シリンジまたはベローズポンプ型試薬注入器を使用するフォトンカウンティング発光測定器は閃光型発光の検出に有用である。これらのタイプの注入器により再現性の高い注入機能が得られる。多くの発光測定器が販売されており、それらには同時または連続投入を行うことができるプログラム制御可能なモデルがある。発光は96ウェルプレートで便宜に測定できる。
【0032】
核酸への結合
第1級アミノ基を含有する核酸へのアクリジニウムエステルの結合は、アクリジニウムエステルを乾燥非プロトン性溶媒(例えばジメチルホルムアミド)に溶解し、好適なバッファー中の核酸に溶液を添加することによって実施する。好適なバッファーにはアミン基を含有しないもの、例えばpH7から10のホウ酸または重炭酸バッファーがあるが、標識にはpH8.5が一般的に好ましい。過剰なアクリジニウムエステル標識は透析または樹脂(例えばセファデックスG-10)を通したゲル濾過で容易に除去される。従って、ある態様ではアクリジニウムエステルは4-(2-スクシンイミジル-オキシカルボニルエチル)-フェニル-10-アクリジニウム-9-カルボキシレートトリフルオロメチルスルホネートであり、分子量は632.55である。
【0033】
本発明のある態様では、本発明の方法は生体サンプル中のレトロウイルスの存在の指標として逆転写酵素(RT)の酵素活性を検出する。RTの存在中、本明細書に記載する条件下で、アクリジニウム標識したデオキシヌクレオチドを、RNAテンプレートにハイブリダイズしたDNAプライマーの伸長の際に、伸長中のcDNA鎖に取り込ませる。
【0034】
アクリジニウム標識したデオキシヌクレオシド3リン酸
種々の態様では、本発明に有用なアクリジニウム標識したデオキシヌクレオシド3リン酸は以下の式を有する:
TP-Su-Px-L-ACR
式中:
TPはSuの5'位に結合した3リン酸基であり;
Suは糖部分であり;
Pxはピリミジン、プリン、または7-デアザプリンであり、ここでPxは、ピリミジンである場合はN1位を介して、プリンまたは7-デアザプリンである場合はN9を介して、Suの1'位に結合し;
Lは少なくとも1個の炭素原子の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーであり、ここでLは一方の末端ではACRに、他方の末端では、Pxがピリミジンである場合はC5もしくはC6位を介して、Pxがプリンである場合はC8位を介して、またはPxが7-デアザプリンである場合はC7もしくはC8位を介して、Pxに共有結合し;そして
ACRはアクリジニウム部分である。
【0035】
代表的な糖部分にはグルコース、フルクトース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、ガラクトース、ストレプトース、ヒドロキシストレプトース、カノサミン(kanosamine)、3-アミノ-3-デオキシ-D-リボース、D-グルコサミンなどがある。
【0036】
ある態様では、リンカーLは少なくとも1つの炭素原子の直鎖ヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーである。“ヒドロカルビレン”とは2価の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基をいい、それらにはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基、アリールアルケニレン基、アリールアルキニレン基、アルケニルアリーレン基、アルキニルアリーレン基などがある。“置換されたヒドロカルビレン”とは以下のような置換基を1つ以上更に保有するヒドロカルビレン基をいう:ヒドロキシ、アルキル、(低級アルキル基の)アルコキシ、(低級アルキル基の)メルカプト、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、複素環、置換された複素環、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノ、ニトロ、ニトロン、オキソ、アミノ、アミド、マレイミド、スクシンイミド、イタコンイミド、-C(O)H、アシル、オキシアシル、カルボキシル、カルバメート、スルホニル、スルホンアミド、スルフリルなど。
【0037】
“アルキレン”とは1-500の範囲の炭素原子を有する2価の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基をいい、“置換されたアルキレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルキレン基をいう。他の態様では、アルキレンは1-30炭素原子、または1-20炭素原子、または1-15炭素原子、または1-10炭素原子である。“アルケニレン”とは少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有し、一般に2-500の範囲の炭素原子を有する2価の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基をいい、“置換されたアルケニレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルケニレン基をいう。他の態様では、アルケニレンは1-30炭素原子、または1-20炭素原子、または1-15炭素原子、または1-10炭素原子である。“アルキニレン”とは少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、一般に2-500の範囲の炭素原子を有する2価の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基をいい、“置換されたアルキニレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルキニレン基をいう。他の態様では、アルキニレンは1-30炭素原子、または1-20炭素原子、または1-15炭素原子、または1-10炭素原子である。“シクロアルキレン”は3から約20の範囲の炭素原子を含有する2価の環含有基であり、“置換されたシクロアルキレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するシクロアルキレン基をいう。“ヘテロシクロアルキレン”とは環構造の一部として1つ以上のヘテロ原子(例えばN、O、Sなど)を有し、1から約14の範囲の炭素原子を有する2価の環状(すなわち環含有)基をいい、“置換されたヘテロシクロアルキレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するヘテロシクロアルキレン基をいう。“シクロアルケニレン”とは3から約20の範囲の炭素原子を含有し、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する2価の環含有基をいい、“置換されたシクロアルケニレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するシクロアルケニレン基をいう。
【0038】
“アリーレン”とは一般に6から14までの範囲の炭素原子を有する2価の芳香族基をいい、“置換されたアリーレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアリーレン基をいう。“アルキルアリーレン”とは一般に約7から16の範囲の炭素原子を有するアルキル置換された2価のアリール基をいい、“置換されたアルキルアリーレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルキルアリーレン基をいう。“アリールアルキレン”とは一般に約7から16の範囲の炭素原子を有する、アリール置換された2価のアルキル基をいい、“置換されたアリールアルキレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアリールアルキレンをいう。“アリールアルケニレン”とは一般に約8から16の範囲の炭素原子を有するアリール置換された2価のアルケニル基をいい、“置換されたアリールアルケニレン基”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアリールアルケニレン基をいう。“アリールアルキニレン”とは一般に約8から16の範囲の炭素原子を有するアリール置換された2価のアルキニル基をいい、“置換されたアリールアルキニレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアリールアルキニレン基をいう。“アルケニルアリーレン”とは一般に約8から16の範囲の炭素原子を有する、アルケニル置換された2価のアリール基をいい、“置換されたアルケニルアリーレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルケニルアリーレン基をいう。“アルキニルアリーレン”とは一般に約8から16の範囲の炭素原子を有するアルキニル置換された2価のアリール基をいい、“置換されたアルキニルアリーレン”とは1つ以上の上記置換基を更に保有するアルキニルアリーレン基をいう。
【0039】
本発明のある態様では、リンカーLは少なくとも3個の炭素原子を有する直鎖アルケニレンまたはヘテロアルケニレンリンカーである。それらのリンカーの現在のところ好ましい例には-CH2-CH=CH-CH2-、-CH=CH-CH2-NH-などがある。
【0040】
ある態様では、アクリジニウム部分は安定化された形態であって、逆転写酵素アッセイの条件と適合性があり、そのためcDNAコピーへの取り込み時にその化学発光測定を行うことができる。
【0041】
本発明にかかる1つ以上のアクリジニウム部分の伸長中のDNAプライマーへの取り込みにより、逆転写酵素の非常に感度の高い検出および定量が可能となる。従って低レベルのレトロウイルス負荷量(load)をサンプル中で検出および測定できる。
【0042】
本発明にしたがって、逆転写反応のcDNA産物を増幅することを必要とせずに、このような超高感度が一つの逆転写段階で得られることが思いがけなく発見された。cDNA合成条件は、2価の金属カチオンおよび緩衝剤を好適な濃度で含む既知のプロトコールから容易に最適化できる。アクリジニウム標識したデオキシヌクレオシド3リン酸の安定性を保持しつつ、DNAプライマーとRNAテンプレートとのアニーリングおよびdNTP混合物の重合化を効率的に行うためには、適切な温度も望ましい。既知のプロトコールに基づいて、特定の逆転写酵素アッセイを最適化するために、他の条件を容易に確立できる。従って、本発明は反応アッセイまたは反応混液中に同位体試薬の使用を必要とせずに機能するため、それらの試薬の廃棄の問題が取り除かれる。更に、検出は伸長中のプライマーの測定を通して直接行われるため、本発明においては第2の検出スキームが必要とされず、酵素介在型の分光光度分析のための反応、伸長されたcDNAプライマーの標識されたDNAプローブへのハイブリダイゼーション、またはcDNA産物の増幅のいずれも必要ではない。アクリジニウム標識されたdNTPを使用する本発明のそれらの態様では、逆転写の際に複数のアクリジニウム標識が伸長中のcDNAコピーに取り込まれることによって、逆転写酵素の存在および活性の超高感度検出が可能となる。アクリジニウム標識の検出は第2の検出スキームも蛍光の使用のような励起源も必要としない。検出は単に反応混液を、例えば希酸およびアルカリハロゲン過酸化物と接触させるだけで行われる。このように本発明の方法の単純性によってアッセイを容易に自動化することができる。
【0043】
ある態様では、検出を開始する前に、1つ以上のアクリジニウム部分を含む伸長中のDNAプライマーを過剰のアクリジニウム3リン酸試薬から分離する。分離を行うために多くの方法が可能であり、それらには例えば、捕捉部分の使用、固相法、サイズ排除クロマトグラフィーなどがある。固相物質はcDNA産物の捕捉および分離が可能なものである。これらの固相物質の例には、重合物質からなるビーズ、常磁性ビーズ、マイクロタイタープレート、ガラスまたはプラスチックスライド、膜などがある。
【0044】
ある態様では、固相法は、捕捉部分で標識され反応混液に含有されるデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)を含み、これはアクリジニウム標識されたdNTPも含有する。捕捉部分はハプテンであり、それが標識するdNTPを含有する伸長中のcDNAプライマーに、アクリジニウム部分(これもdNTPを標識する)と共に取り込まれる。これによって、伸長中のcDNAプライマーがハプテンに特異的な固相上に固定化された結合分子とハプテンの特異的相互作用によって、固相上に捕捉されることが可能になる。それらの相互作用の例には抗原および抗体、リガンドおよび受容体またはアプタマー、そしてビオチン/ストレプトアビジンまたはアビジン間の結合がある。次いで捕捉cDNAを未反応の過剰なアクリジニウム標識から分離し、その後誘起および検出を行う。
【0045】
別の態様では、反応混液中で捕捉部分で標識されたdNTPを使用せずにDNAプライマーに捕捉部分を結合させる。代わりに、例えば5'末端またはプライマーのヌクレオチドの1つに、捕捉部分を結合させる。捕捉部分および1つ以上の標識されたdNTPを介して取り込まれた標識を含む伸長中のcDNAプライマーを逆転写酵素反応後に固相上に捕捉し、このことにより、標識されたcDNA鎖を反応混液から分離することが可能となる。
【0046】
別の態様では、例えばテンプレートの3'末端もしくは5'末端で、または取り込まれたヌクレオチドの一つで、捕捉部分をRNAテンプレートに結合させる。その後、DNAプライマーおよびdNTP混合物(捕捉部分を含有しない)を用いて逆転写酵素(RT)アッセイを実施することができる。RNアーゼの不活性化によって、得られたcDNA-RNAハイブリッドを保存し、捕捉部分の結合分子への結合によって固相上に捕捉できる。取り込まれたアクリジニウム部分の量は、ハイブリッドを未反応のアクリジニウム塩から分離する際に測定できる。
【0047】
別の態様では、操作上の他の手段として、DNAプライマーまたはRNAテンプレートを固相に固定化した後、化学反応によって、または捕捉部分を介して、アッセイを行うことができる。この態様では、その後固相を反応混液中に含有させてRNAテンプレートまたはDNAプライマーを提供することができ、反応を通常通り進行させる。完了時に固相を反応混液から除去し、伸長中のDNAプライマーに取り込まれたアクリジニウムエステルの程度を測定できる。
【0048】
化学発光の誘起
複数のアクリジニウム分子で標識されたcDNAコピーの化学発光は、当該分野で周知のように種々の方法で誘起できる。ある態様では、化学発光を2つの試薬の添加によって誘起する。第1の試薬は希酸(例えば硝酸)中の過酸化水素であり、希水酸化ナトリウムを含有する第2の試薬をその直後に添加する。これらの試薬はアクリジニウムエステルを酸化して励起状態にする。エステルが基底状態に戻る際、420-430nmの光を発し、これは相対光量(relative light units; RLU)として表され、光度計で検出できる。ある態様では、光度計によって自動的にトリガー溶液を注入し、発光を測定することができる。ある態様では、第1のトリガー溶液は希硝酸中の過酸化水素であり、第2のトリガー溶液は希水酸化ナトリウム中の塩化セチルトリメチルアンモニウムである。
【0049】
それぞれのレトロウイルスは異なるRTと関係し、そのRTに対して特異的な抗体が産生されうるため、特定のレトロウイルスの同定が可能となる。従って本発明のアクリジニウムに基づくRTアッセイは、種々のレトロウイルスをRTと抗体の特異的結合に基づいて識別する能力を有する。例えば、既知のRT特異性を有する抗体がRTに結合する時、cDNAは生成されず、化学発光シグナルは検出されない。アクリジニウム検出が持ち合わせている感度および自動化の簡易性の故に、本発明のアクリジニウムに基づくRTアッセイにより、抗レトロウイルス剤のハイスループット・スクリーニングおよび抗レトロウイルス療法のモニタリングも可能となる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を以下の非制限的な実施例に関連して更に詳細に記載する。
実施例1 アクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸の合成
この実施例はアクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸の合成法について例証する。他のdNTPも同様の技術を使用して合成できるが、dUTPは種々の逆転写酵素によって伸長中のDNAプライマーに取り込まれるので、これを使用することによりより正確で感度の高いアッセイを行うことができる。更なる標識法は米国特許第5.185.439号(Arnoldら)に記載されており、これは全ての表、図面、および特許請求の範囲を含むその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
図1に関して、凍結乾燥した5-(3-アミノアリル)-2'-デオキシウリジン3リン酸2水和物のナトリウム塩 1(AAdUTP、2.6mg、4.16μmol)をバイアル中で250μLの0.5M 重炭酸/炭酸ナトリウムバッファー(pH9.6)に溶解する。アクリジニウム塩 2(10.7mg、19.2μmol)を250μLの無水DMFに溶解し、直ちに、ボルテックスで緩やかに撹拌しているAAdUTP溶液に添加する。バイアルにキャップをし、反応混液を室温で一晩放置する。以下のグラジエントを用いて反応混液のHPLC精製を行う:
【0052】
【表1】

【0053】
15-16分の画分を回収、合一し、ロータリーエバポレーターで真空濃縮乾燥する。残渣を水に溶解し、0.45mM溶液を得る。精製した産物を、電子スプレーイオン化質量分析により、アクリジニウム標識されたデオキシウリジン3リン酸として特性決定する。ESI MS m/z : 950 (M+Na), 927 (M+4H), 847 (M+4H-HP03), 829 (M+4H-HP03-H20), 767 (M+4H-2HP03), 749 (M+4H-2HP03-H20)
【0054】
実施例2 酵素分解およびキャピラリー電気泳動分析
3リン酸基の完全性を評価するために、アルカリホスファターゼによるステップワイズの分解を行い、以下の条件下でキャピラリー電気泳動によってモニタリングした:
【表2】

【0055】
キャピラリー電気泳動で明らかになったところによれば、アクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸のピーク(5.48分)はアルカリホスファターゼを添加すると低下し、これと同時に2リン酸および1リン酸種(それぞれ5.12分および4.30分)が生成された。3リン酸コンジュゲートは分解が進行するにつれて最終的に消失し、2リン酸中間体のピークは低下し、それに伴って1リン酸のピークが上昇した。分解終了時にはリン酸基は完全に除去され、最終分解産物(2.98分のピーク)が得られた。このように、3リン酸の完全性をアルカリホスファターゼでのステップワイズ分解およびキャピラリー電気泳動分析によって確認し、アクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸の活性を逆転写酵素アッセイで確認した。
【0056】
実施例3 組換えHIV(rHIV)逆転写酵素による逆転写酵素アッセイ
80mM塩化カリウム、33mM塩化マグネシウム、および11mMジチオトレイトールを含有する50mMトリスバッファー(pH7.8)を用いて逆転写酵素アッセイ混合液を調製した。混合液には0.3μMアクリジニウム標識dUTP、0.3μMビオチン標識C11 dUTP、0.3μM TTP、および15μg/mLポリ(rA)-T12-18(テンプレート-プライマーハイブリッド)を含有させた。80mM塩化カリウム、2.5mMジチオトレイトール、0.75mM EDTA、および0.5% トリトンX-100を含有する50mMトリスバッファー(pH7.8)を用いてrHIV逆転写酵素(RT)を調製した(標準液およびサンプルとして)。その後20μLのアッセイ混合液を40μLのrHIV標準液またはサンプルに0℃で添加した。
【0057】
そのようにして得たアッセイ混合液は、標準またはサンプルrHIV RT、0.1μMアクリジニウム標識dUTP、0.1μMビオチン標識C11 dUTP、0.1μM TTP、49mMトリス-HClに混合した5.0μg/mLポリ(rA)- T12-18(テンプレートとして)、152mM塩化カリウム、10mM塩化マグネシウム、0.5mM EDTA、および0.3%トリトンX-100(pH7.8)から成るものであった。
【0058】
密封した反応バイアル中、37℃で好適な時間インキュベーションを行った後、5μLの0.2M EDTAを0℃でアッセイ混合液に添加して停止させた。次いでアッセイ混合液を室温にし、5分間放置した。2.0mg/mLで水に混合した磁気粒子(ストレプトアビジンでコーティング)20μLに50μLのアッセイ混合液を添加した後、室温で5分間インキュベートした。磁気分離を行い、上清を除去した。1mLのNichols Advantages(登録商標)(Quest Diagnostics, Teterboro, NJ)アッセイ洗浄濃縮液を用いて粒子を3回洗浄した。脱イオン水(25μL)を粒子に添加した。最後に、希酸および塩基性過酸化水素で粒子を誘起すると同時に相対的発光単位(RLU)を2秒間測定した。データの概要を以下の表および図2に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
実施例4 ビオチン標識したヌクレオチドの合成
ビオチン標識したヌクレオチドの合成は種々の方法で行うことができ、その一つを本実施例に記載する。本実施例では2つのビオチン標識ヌクレオチド類似体、Bio-4-dUTPおよびBio-12-SS-dUTPを合成する。
【0061】
まずデオキシウリジン5'-3リン酸の5-Cを水銀化し、次いでアリルアミンと反応させて5-(3-アミノ)アリルデオキシウリジン5'-3リン酸(AA-dUTP)を生成させる。AA-dUTPを精製し、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化ビオチンと反応させてBio-4-dUTPを生成させるか、またはN-ヒドロキシスクシンイミド活性化2-(ビオチンアミド)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートと反応させてBio-12-SS-dUTPを生成させる。
【0062】
Bio-12-SS-dUTPは化学的に開裂可能なビオチン化ヌクレオチド類似体であり、ビオチンをピリミジン塩基に結合させる12原子のリンカーアーム中にジスルフィド結合を含有する。いずれのビオチン化ヌクレオチド類似体も、イオン交換クロマトグラフィーまたはイオン対逆相HPLCで精製される。Bio-4-dUTPの同定は、(i)その独自の吸収スペクトル、(ii)逆相HPLCの際の3H-Bio-4-dUTPとの共溶出、および(iii)アビジンアガロースへの結合能力によって行うことができる。
【0063】
ビオチン化ヌクレオチド類似体の合成および精製の両方のための機能的アッセイとして、それぞれのヌクレオチドをニック・トランスレーションによってDNAに取り込ませる。ニック・トランスレーションしたDNAは、可溶性アビジンとのインキュベーション後のビオチン-セルロースアフィニティーカラムへの結合能力によって、ビオチン化ヌクレオチドを含有していることが明らかになる。Bio-12-SS-dUTPの存在下でニック・トランスレーションされたDNAを、50mMジチオトレイトールを含有するバッファー中でインキュベートした後、ビオチン-セルロースカラムから回収する。ジチオトレイトールによる開列に対するBio-12-SS-dUTPのリンカーアーム中のジスルフィド結合の感受性は、ビオチン基に結合するアビジンの存在による影響を受けないことが明らかである。
【0064】
本発明について、当業者がこれを生成および使用するのに十分詳細に記載および例証したが、種々の変更、修飾、および改善は、本発明の意図および範囲から逸脱することなく明らかである。
【0065】
当業者に容易に評価されるように、本発明は目的を実行し、記載した(そしてその本来の)目的および利点を得るために十分に適合させられる。当業者にはその修飾および他の使用も着想されうる。これらの修飾は本発明の意図の範囲内であり、特許請求の範囲で定義される。
【0066】
本発明の開示に関連して、当業者に容易に理解されるように、種々の置換および修飾が、本発明の範囲および意図から逸脱することなく、ここに開示する本発明に施与されうる。
【0067】
本明細書中に記載する全ての特許および文献は、本発明が属する分野の技術者のレベルを示すものである。
【0068】
本明細書に好適に例証する本発明は、任意の要素(単数または複数)、制限(単数または複数)が無い状態で実施してもよいが、それらについては本明細書には特に開示しない。使用した用語および表現は、制限ではなく記述のための用語として使用したものであり、それらの用語および表現の使用において、明示および記載する特徴の同等物またはその一部を除外する意図はなく、認識されるように、請求する本発明の意図の範囲内で種々の修飾が可能である。従って、好ましい態様および必要に応じた特徴によって本発明についての明確な開示を行ったが、当業者によって本明細書に開示するコンセプトの修飾および変更が行われてもよく、それらの修飾および変更が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内であるとみなされることは理解されるべきである。
【0069】
更に、本発明の特徴または観点をマーカッシュ官能基で記載する場合、当業者に認識されるように、本発明はマーカッシュ官能基の個々のメンバーまたはメンバーの亜群の用語でも記載される。例えば、Xが臭素、塩素、およびヨウ素から成る群から選択されると記述される場合、Xが臭素であるという請求およびXが臭素および塩素であるという請求が完全に記述されている。
【0070】
他の態様は別添の特許請求の範囲内に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、アクリジニウム標識したデオキシウリジン3リン酸の合成を図示したものである。
【図2】図2は、rHIVに関する逆転写酵素(RT)アッセイ曲線をグラフで示したものである。
【図3】図3は、本発明に有用なアクリジニウムエステルおよびアクリジニウムスルホンアミドの態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の逆転写酵素の存在を検出する方法であって、
サンプルを
RNAテンプレート;
DNAプライマー;
検出可能な部分で標識した1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸、および必要により、検出可能な部分で標識していない1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸
と接触させ;
サンプル中に逆転写酵素が存在する場合には該検出可能な部分を含む伸長されたプライマーを含む分子構造を生成させるのに好適な条件下で、該反応混液をインキュベートし;そして
サンプル中の逆転写酵素を検出する、
ことを含む上記方法。
【請求項2】
該RNAテンプレート、DNAプライマー、検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸、および検出可能な部分で標識していないデオキシヌクレオチド3リン酸の一つが捕捉部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
検出段階が分子構造の検出を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
分子構造がRNAテンプレート、DNAプライマー、および検出可能な部分で標識した1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸、および必要により、検出可能な部分で標識していない1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
検出可能な部分がアクリジニウム部分であり、検出可能なシグナルが発光である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
検出可能なシグナルを生成させる前に分子構造を反応混液から分離することを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
検出可能なシグナルを生成させる前に未反応のデオキシヌクレオチド3リン酸を反応混液から除去することを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
検出可能なシグナルが発光であり、検出可能なシグナルの生成が反応混液への希酸および過酸化水素の添加を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
RNAテンプレートがホモポリマーおよび/またはヘテロポリマーRNAを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
デオキシヌクレオチド3リン酸がdCTP、dGTP、dATP、およびdTTPを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
反応混液が約5mMの濃度で存在する1つ以上の2価金属イオンを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
2価金属イオンが約5mMの濃度で存在するマグネシウムおよび/またはマンガンである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
捕捉部分がハプテンである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
DNAプライマーが捕捉部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
RNAテンプレートが捕捉部分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
検出可能な部分が検出可能な部分のシグナルの保存に好適な条件下で、伸長されたプライマーに取り込まれる、請求項1記載の方法。
【請求項17】
検出可能な部分がアクリジニウム部分であり、検出可能なシグナルが発光である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
アクリジニウム部分で標識されたデオキシヌクレオシド3リン酸が以下の式を有し:
TP-Sugar-Px-L-Acr
式中:
TPは糖の5'位に結合した3リン酸基であり;
Sugarは糖部分であり;
Pxはプリン、ピリミジン、または7-デアザプリンであり、ここでPxは、Pxがピリミジンである場合はN1位を介して、Pxがプリンまたは7-デアザプリンである場合はN9位を介して、糖部分の1'位に結合し;
Lは少なくとも1個の炭素原子の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーであり、ここでLは一方の末端でAcrに、他方の末端で、Pxがピリミジンである場合はPxのC5もしくはC6位を介して、Pxがプリンである場合はPxのC8位を介して、またはPxが7-デアザプリンである場合はC7もしくはC8位を介して、Pxに共有結合し;
Acrはアクリジニウム部分であり;そして
検出可能なシグナルは発光である、
請求項5記載の方法。
【請求項19】
リンカーLが少なくとも1個の炭素原子の直鎖のヒドロカルビレンまたはヘテロカルビレンリンカーである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
リンカーLが少なくとも3個の炭素原子を含有する直鎖のアルケニレンまたはヘテロアルケニレンリンガーである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
リンカーLが-CH2-CH=CH-CH2-である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
リンカーLが-CH=CH-CH2-NH-である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
アクリジニウム部分が逆転写の条件下で安定であり、伸長されたプライマーへの取り込み後、発光によって検出可能である、請求項18記載の方法。
【請求項24】
デオキシヌクレオチド3リン酸が検出可能な部分および捕捉部分で標識される、請求項1記載の方法。
【請求項25】
アクリジニウム部分に結合したデオキシヌクレオチドを含む伸長中のDNAプライマーにハイブリダイズしたRNAテンプレートを含む分子構造。
【請求項26】
RNAテンプレートが捕捉部分を更に含む、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
DNA分子が捕捉部分を更に含む、請求項25記載の組成物。
【請求項28】
RNAテンプレート;
RNAテンプレートのある領域に相補的であり、RNAテンプレートと安定なテンプレート-プライマーハイブリッド分子を形成するのに十分な長さを有するDNAプライマー;
検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸
を含有するキット。
【請求項29】
逆転写酵素アッセイを実施するためのバッファーを更に含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
バッファーが2価の金属イオンを約5mMの濃度で含む、請求項29記載のキット。
【請求項31】
検出可能な部分がアクリジニウム部分である、請求項28記載のキット。
【請求項32】
デオキシヌクレオチド3リン酸が捕捉部分を更に含む、請求項28記載のキット。
【請求項33】
サンプル中に存在するかまたは存在しない逆転写酵素のサブタイプを判定する方法であって、
サンプルを逆転写酵素のサブタイプに特異的な結合分子と接触させ;
サンプルを、
RNAテンプレート;
DNAプライマー;
検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸
を含む反応混液と接触させ;そして
該検出可能な部分を含む伸長されたDNAプライマーを含む分子構造が生成されるどうかを判定し;
このことにより逆転写酵素のサブタイプがサンプル中の存在するかしないかを判定する、
ことを含む上記方法。
【請求項34】
該RNAテンプレート、DNAプライマー、および検出可能な部分で標識した該デオキシヌクレオチド3リン酸の一つが捕捉部分を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
結合分子が表面上に固定化される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
検出可能な部分がアクリジニウム部分である、請求項33記載の方法。
【請求項37】
抗レトロウイルスリード化合物のスクリーニング法であって、
抗レトロウイルス活性について試験すべき化合物を逆転写酵素のサンプルと接触させ;
化合物および逆転写酵素を、
RNAテンプレート;
DNAプライマー;
検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸;
を含む反応混液と接触させ:そして
該検出可能な部分を含む伸長されたDNAプライマーを含む分子構造が生成されるかどうかを判定し;そして
このことにより化合物を抗レトロウイルス活性についてスクリーニングする、
ことを含む上記方法。
【請求項38】
該RNAテンプレート、DNAプライマー、検出可能な部分で標識したデオキシヌクレオチド3リン酸、および検出可能な部分で標識していないデオキシヌクレオチド3リン酸の一つが捕捉部分を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
サンプル中の逆転写酵素の存在を検出する方法であって、
サンプルを、
RNAテンプレート;
DNAプライマー;
検出可能な部分で標識した1つ以上のデオキシヌクレオチド3リン酸;
を含む反応混液と接触させ、
ここで該RNAテンプレートまたはDNAプライマーの1つは固相上に固定化され;
逆転写酵素が該サンプル中に存在する場合には該検出可能な部分を含有する伸長されたプライマーを含む分子構造が生成するのに好適な条件下で、該反応混液をインキュベートし;そして
該サンプル中の逆転写酵素を検出する、
ことを含む上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2007−523637(P2007−523637A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547538(P2006−547538)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/043839
【国際公開番号】WO2005/065350
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(505063050)クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】