説明

サンプル容器及びサンプル容器ラック

【課題】採血管などのサンプル容器においては円筒形状が採用されており、向きが定められていなかった。
【解決手段】サンプル容器としての採血管は本体10と栓12とで構成され、本体10はその外表面が円筒面17と平坦面16とで構成される。平坦面16が形成されているためそれが形成されている方向を基準方向とすることができ、それを基準としてラベル貼付方向や光学的観測方向を定めることができる。平坦面16は基準形態部分として機能し、平坦面以外の構成を採用することもできる。採血管の形態に合わせてラックが構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンプル容器及びサンプル容器ラックに関し、特にサンプル容器の取扱い性を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプル容器には、試験管、採血管などがある。サンプル容器はラックに起立保持され、ラック単位でサンプル容器が搬送される。従来のサンプル容器の本体は単純な円筒形状を有している。よって、ラック上の収容孔に向きを格別意識せずにサンプル容器を差し込むことができる。
【0003】
検体前処理装置は、血液サンプルなどの検体に対して段階的に各種の処理を行う装置である。その処理としては、遠心分離処理、開栓処理、分注処理などがあげられる。各検体を管理するために、サンプル容器の本体の外表面には通常、管理ラベル(バーコードラベル等)が貼付される。検体前処理装置では、所要箇所において各検体について管理ラベルが光学的に読み取られる。その際に、バーコードを所定方向から読み取れるように、サンプル容器が回転駆動される。また、サンプル容器内の液面や界面を測定する場合、バーコードラベルの両端間の隙間(内部を露出させる部分)から内部が光学的に観察される。そのような隙間がどの向きに存在しているのかは不明であるので、サンプル容器の回転中において計測が実行され、あるいは、そのような隙間が測定器に正対するようにサンプル容器が回転される。なお、遠心分離方式によっては、採血管内部で血漿と血球とを分離する分離剤が若干斜めに定位する場合がある。そのような場合に界面の高さを適正に計測することが望まれる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−45186号公報
【特許文献2】特開2006−29853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来において、サンプル容器の本体は方向性を有しておらず、管理用ラベルも任意の位置に貼付されていた。よって、ラベル観測や液面検出などを行う場合にサンプル容器を回転させなければならず、そのための特別な機構が必要とされ、また時間的ロスが発生していた。上記特許文献1には多角形の外形を有する採血管が開示されているが、上記従来の問題を解決できるものではない。特許文献2には採血管内における液面及び界面を採血管を回転させつつ光学的に測定する装置が開示されている。
【0006】
本発明の目的は、サンプル採取後のサンプル処理に適する構造をもったサンプル容器及びそのためのサンプル容器ラックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サンプル容器ラックにおいて起立状態で保持され、全体として実質的に円筒形状を有する本体を有するサンプル容器であって、前記サンプル容器の本体の外面上に当該サンプル容器の向きを規定する基準形態部分が形成された、ことを特徴とするサンプル容器に関する。
【0008】
上記構成によれば、サンプル容器の本体は実質的に円筒形状を有するものの、その外表面には基準形態部分が形成されているので(その限りで回転対称形状を崩す非円筒形状部分が存在しているので)、その基準形態部分を基準としてサンプル容器の向き中心軸回りの正面方位を規定できる。例えば、基準形態部分を利用してラックへのサンプル容器の差し込み向きを定めることができる。また、ラベルの貼付位置やサンプルに対する光学的な観察方向等を定めることができる。基準形態部分は起立した本体における上下方向の全域にわたって形成されていてもよいし、上下方向の一部に形成されていてもよい。それは凸形であってもよいし、凹形であってもよい。
【0009】
望ましくは、当該サンプル容器の本体の側面において前記基準形態部分を基準とした所定位置に管理用ラベルが貼付される。望ましくは、当該サンプル容器の本体の側面における所定部分が非貼付領域としての露出領域であり、前記露出領域を介して当該サンプル容器内のサンプルに対して光学的な測定が行われる。すなわち、ラベルが貼付される方位範囲や光学的観察が行われる方位(方位範囲)を基準形態部分を基準として客観的に特定することが可能となる。
【0010】
望ましくは、前記基準形態部分は非円筒面として構成される。望ましくは、前記基準形態部分は当該サンプル容器の本体の側面に部分的に形成された平坦面である。望ましくは、当該サンプル容器は採血管である。
【0011】
本発明は、サンプル容器を起立状態で保持するサンプル容器ラックであって、前記サンプル容器の本体の外面上には当該サンプル容器の向きを規定する基準形態部分が形成され、当該サンプル容器ラックにおける容器収容部には前記サンプル容器が適正な向きで差し込まれた場合に前記基準形態部分に適合する位置決め形態が形成されたことを特徴とするサンプル容器ラックに関する。
【0012】
望ましくは、当該サンプル容器ラックは検体前処理装置において搬送されるラックである。望ましくは、当該サンプル容器ラックは遠心分離装置において回転駆動されるラックである。遠心分離処理装置の仕様あるいは方式によっては、サンプル容器内においてサンプルや分離剤が偏ってしまうことがあるが、サンプル容器の向きとの関係でその偏りの方向を特定できるので、サンプルの取扱い性を向上できる。
【0013】
本発明に係る採血管の取扱方法においては、採血管の本体に基準形態部分が形成され、遠心分離処理時には、基準形態部分を所定向きに揃えて採血管が遠心分離用ラックにセットされる。遠心分離処理が実施されると、基準形態部分を基準とした特定の向きに分離剤が偏在することになるが(斜めに偏るが)、その偏在方向は基準形態部分を基準として特定可能であるので、それを考慮して、検体(特に血漿)の処理を遂行できる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、サンプル採取後のサンプル処理に適する構造をもったサンプル容器及びそのためのサンプル容器ラックを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1には、本発明に係るサンプル容器の好適な実施形態が示されている。本実施形態に係るサンプル容器は採血管である。
【0017】
図1において、(B)には採血管の垂直断面が示されており、(A)にはA−A’水平断面が示されている。採血管は大別して本体10と栓12とで構成される。栓12は本実施形態においてゴム栓であるが、シール栓などであってもよい。また、本発明はそのような栓が設けられていない一般のサンプル容器に適用し得るものである。
【0018】
本体10は、全体として実質的に円筒形状を有している。その下端部は丸みを帯びており、その上端部には開口が形成され、その開口が上記の栓12によって塞がれている。本体10は上述したように実質的に円筒形状を有しているが、本実施形態においては、採血管の向きすなわち本体10の向きを規定するために基準形態部分として平坦面16が形成されている。すなわち、本体10の側面においては円筒面17と平坦面16とが存在している。平坦面16は本体10を面取り処理した形態に相当する。
【0019】
このような平坦面16が存在するため、本体10は部分的に非円筒形状を有することになり、すなわちその向きが定められるので、平坦面16が設けられている方位を基準としてラベル貼付方位(方位範囲)や光学的観察方位(方位範囲)を定めることが可能となる。
【0020】
本体10における外表面に平坦面16が形成されているため、(B)に示すように、平坦面16が形成されている側の厚み18は通常の円筒形部分の厚み20よりも薄くなっている。本体10は例えばプラスチック、ガラス、その他の材料によって構成される。透明の材料で構成されるのが望ましい。本体10の内部には予め分離剤14が収容されている。この分離剤14は遠心分離において血液を血漿と血球に分離するためのものである。
【0021】
本実施形態に係る採血管においては、例えば図2に示されるように、本体10の外周面における平坦面16を除いた円筒面17にラベル22を貼付することが可能であり、すなわち所定の向きにラベル22を貼り付けて、平坦面16を基準とした所定の方位から符号100で示されるようにラベル読み取りを実施することが可能となる。また、平坦面16は露出されており、すなわちそこにはラベル22が貼り付けられないため、平坦面16が存在している向き(符号102参照)から採血管内部に対する光学的な観測を行うことが可能となる。光学的な観測は液面検出、吸光度測定、その他である。
【0022】
また、図3に示されるように、平坦面16に対してラベル24を貼付することも可能である。ここでラベル24は上述したラベル22と同様にバーコードラベルなどであるが、それに限られない。図3に示す構成において、円筒面17は露出面となり、その露出面を介して光学的な観測が実施される(符号102参照)。一方、ラベルの読み取りは符号100で示される方向から実施される。なお、図2〜図4の各図においてラベル22,24,26は容器本体10から浮いた状態で描かれているが、実際には接着剤によって外表面に貼付されるものである。
【0023】
図4に示されるように、露出面としての円筒面17における例えば所定位置にラベル26を貼付し、それが設けられている方向100においてラベルの読み取りを行うとともに、ラベル26が設けられていない所定方向102から光学的観察を行うようにしてもよい。図2〜図4に示す各構成例ではラベル読み取りの方向100と光学的な観測を行う102とが互いに180度の対向関係をもって設定されているが、当然それには限られない。それらの方向が直交関係或いは交差した関係であってもよい。
【0024】
以上のように、採血管における本体に基準形態部分が設けられているため、それが形成されている向きを基準としてラベル貼付位置や光学的観測位置等を定めることができるが、さらに、遠心分離処理においても基準形態部分を利用することが可能である。すなわち、図5に示されるように、ある種の遠心分離処理を適用すると、分離剤14が本体10において斜めに偏在することになるが、そのような場合において、その分離剤14の傾いた方向を特定することが可能である。具体的には、光学的観測を図5における符号104で示す方向から行えば、液面検出の結果として符号201、202で示される高さを観測することができ、その結果、血漿30の存在領域106を特定することが可能となる。
【0025】
もし、符号104で示す方向と逆の方向から光学的観測を行った場合、血漿30における最も下側の高さが観測できることになるが、その場合においてノズルを上方から差し込んで吸引を行うと、場合によってはノズルの先端から分離剤が吸引されてしまうといった問題が生じ得る。これに対し、本実施形態によれば、分離剤14が傾いている方向つまり血漿30が確実に存在している高さ範囲を確実に特定可能であるので、ノズルの位置決めにあたって上述した問題を効果的に回避することが可能となる。ちなみに、図5において符号32は血球を表している。このように、採血管における本体10に向きを与えれば、様々な処理において従来における問題点を解消することが可能となる。例えば、従来においてはラベルの読み取り時或いは液面検出時等においてラベルが採血管におけるいずれの方位範囲に貼付されているのかを特定できていなかったために採血管を回転させながら測定或いは観測を行わなければならないという問題があったが、本実施形態においてはそのような問題を解消して、迅速に測定或いは観測を行うことが可能となる。
【0026】
上述した実施形態においては、本体に平坦面が形成され、それが基準形態部分として機能していたが、図6に示されるように、本体40における下側のテーパー面34Aに突出壁36として基準形態部分を設けることも可能である。図示のように、本体40の外表面の内で符号38で示される側に突出壁36が設けられており、その突出壁36は概略的に見て三角形の形態を有している。このような採血管をラックに差し込む場合、ラック側に突出壁36を受け入れる溝を形成しておけば、ラック上において全ての採血管の向きを揃えることが可能となる。ちなみに、このような基準形態部分は本体とともに一体成形することが可能であるが、両者を別体に構成し、すなわち本体に対して基準形態部分を後付けするようにしてもよい。
【0027】
図7の(a)には遠心分離装置に設けられるラックが示されている。この遠心分離装置は回転体とラックが一体になっているいわゆるアングルローター方式の例である。このラックはサンプル容器としての採血管を収容する複数の収容孔52を有している。収容孔52は概略的に円筒形状を有しているが、その一部は平坦面53となっておりそのような平坦面が図1等に示した平坦面16に面合わせされる。すなわちラック50は円盤状の形態を有しており、それに対して複数の採血管をそれぞれの向きが径方向外側を向くように位置決め収容することが可能となる。この場合、ラック50の中心が回転軸となり、高速回転により図7の(b)のように分離剤14が特定の方向にしか傾かない。もちろん遠心分離器はアングルローター方式に限定されない。スイングローター方式など他の遠心分離器でもよい。複数の採血管が所定向きで位置決め収容されるラックであればよい。
【0028】
図8には採血管を搬送するラック54が示されている。符号110はラック54の搬送方向を示している。ラック54には採血管を収容する複数の収容孔56が形成されている。各収容孔56は概略的に円筒形状を有しているが、その一部分が平坦面57となっている。その平坦面57は上述した試験管の平坦面に面合わせされるものである。また各収容孔56の一部分は切り欠かれており、すなわち外部から内部が連通されるような溝59が形成されている。符号112はラベル読み取り方向を示しており、符号114は採血管に対する光学的な観察方向を示している。上述した溝59を介して光学的観測を行うことが可能である。このような実施形態を採用する場合には採血管における平坦面以外の位置にラベルを貼付するのが望ましい。
【0029】
図10には他のラック58が示されている。なお、図8に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。ラック58には複数の収容孔60が形成されており、各収容孔60には平坦面61が存在し、また搬送方向110と直交する方向に溝62が形成されている。このような構成によっても各採血管の向きをそれぞれ揃えることができる。この場合においては、例えば上述した図4に示したような態様をもってラベルが貼付される。図9にはこのようなラックの斜視図が示されている。
【0030】
図11には採血管についての他の実施形態が示されている。本体70の所定方位には突起部72が形成されており、その突起部72が基準形態部分として機能する。突起部72は上下方向に伸長しており、図12に示されるようなラックに差し込まれる際、ラックに形成された溝に突起部72が嵌め込まれる。突起部72が基準の向きを規定し、それを基準としてラベル74の貼付位置が定められ、また光学的な観測位置が定められる。
【0031】
上述した実施形態においては採血管が示されていたがサンプル容器としては通常の試験管であってもよい。上述したように、サンプル容器側に基準形態部分を設け、一方、サンプル容器ラック側に基準形態部分に噛み合う位置決め形態を設ければ、当該ラック上において所定の向きにサンプル容器を位置決め収容することが可能となる。ここで、ラックは遠心分離用のラック或いはサンプル容器搬送用のラックであり、後者のラックは例えば検体前処理装置において搬送されるものである。検体前処理装置は、遠心分離装置、開栓装置、分注装置などを具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る採血管の実施形態を示す断面図である。
【図2】ラベル貼付方法の第1例を示す図である。
【図3】ラベル貼付方法の第2例を示す図である。
【図4】ラベル貼付方法の第3例を示す図である。
【図5】遠心分離後の採血管を示す図である。
【図6】他の実施形態に係る基準形態部分を示す図である。
【図7】遠心分離用のラックを示す図である。
【図8】サンプル容器搬送用のラックの一例を示す図である。
【図9】図10に示したラックの斜視図である。
【図10】サンプル容器搬送用のラックの他の例を示す図である。
【図11】基準形態部分の更に他の実施形態を示す図である。
【図12】図11に示されるサンプル容器が収容されるラックを示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 本体、12 栓、14 分離剤、16 平坦面、17 円筒面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル容器ラックにおいて起立状態で保持され、全体として実質的に円筒形状を有する本体を有するサンプル容器であって、
前記サンプル容器の本体の外面上に当該サンプル容器の向きを規定する基準形態部分が形成された、ことを特徴とするサンプル容器。
【請求項2】
請求項1記載のサンプル容器において、
当該サンプル容器の本体の側面において前記基準形態部分を基準とした所定位置に管理用ラベルが貼付されたことを特徴とするサンプル容器。
【請求項3】
請求項1記載のサンプル容器において、
当該サンプル容器の本体の側面における所定部分が非貼付領域としての露出領域であり、
前記露出領域を介して当該サンプル容器内のサンプルに対して光学的な測定が行われることを特徴とするサンプル容器。
【請求項4】
請求項1記載のサンプル容器において、
前記基準形態部分は非円筒面として構成されたことを特徴とするサンプル容器。
【請求項5】
請求項4記載のサンプル容器において、
前記基準形態部分は当該サンプル容器の本体の側面に部分的に形成された平坦面であることを特徴とするサンプル容器。
【請求項6】
請求項1記載のサンプル容器において、
当該サンプル容器は採血管であることを特徴とするサンプル容器。
【請求項7】
サンプル容器を起立状態で保持するサンプル容器ラックであって、
前記サンプル容器の本体の外面上には当該サンプル容器の向きを規定する基準形態部分が形成され、
当該サンプル容器ラックにおける容器収容部には前記サンプル容器が適正な向きで差し込まれた場合に前記基準形態部分に適合する位置決め形態が形成されたことを特徴とするサンプル容器ラック。
【請求項8】
請求項7記載のサンプル容器ラックにおいて、
当該サンプル容器ラックは検体前処理装置において搬送されるラックであることを特徴とするサンプル容器ラック。
【請求項9】
請求項7記載のサンプル容器ラックにおいて、
当該サンプル容器ラックは遠心分離装置において回転駆動されるラックであることを特徴とするサンプル容器ラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−191070(P2008−191070A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27706(P2007−27706)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】