説明

サーマルサイクリングに関する機器及び方法

本発明は、生体サンプルをサーマルサイクリングするための装置に関するものであって、ヒートシンクは、そのような装置及び方法において、使用されている。ヒートシンクは、概ね平面状の熱電素子に対して、良好な熱接触で適合するように設計された基板と、基板から突出した複数の熱伝達素子と、を備えている。本発明によるヒートシンクの熱伝達素子は、ヒートシンクの基板の温度を、空間的に均一に維持するために、互いに対して非平行な形態で、配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体サンプルを処理するための装置、特に(排他的ではないが)ポリメラーゼ連鎖反応(略称PCR)法によってDNA配列を増幅するための装置、に関するものである。より詳細には、本発明は、サーマルサイクラーにおいて使用される、ヒートシンク、に関するものであり、そのヒートシンクは、複数の生体サンプルを加熱及び冷却するのに使用される。そのようなヒートシンクは、基板と、複数の熱伝達素子と、を備えており、基板は、廃熱がそこからヒートシンク内へ伝導する領域を備えており、熱伝達素子は、基板から突出しており、且つ、空気等の冷却媒体内へ、熱を発散している。
【0002】
また、本発明は、新規なサーマルサイクラー、及び、生体サンプルを処理する方法、に関するものである。
【背景技術】
【0003】
サーマルサイクラーは、分子生物学において、PCRやサイクルシーケンシング等の用途で一般的に用いられる機器であり、広範な種類の機器が、商業的に入手可能である。これらの機器の一部は、DNA増幅の光学的検出のための固有の能力を備えており、「リアルタイム」機器と呼ばれている。これらは、非リアルタイムのサーマルサイクラーとは異なる用途で用いられることもあるが、同じ熱パラメータ及びサンプル調製パラメータの下で作動する。
【0004】
サーマルサイクラーの構成の主要部は、一般的には、ペルチェ素子等の、1つ以上の熱電モジュール(又は「熱電素子」)と、密な熱接触を強化するための、熱電素子の各側における熱界面材料と、これらの全構成要素を共に固定するための機械的要素と、から成っており、熱電モジュールは、サンプルホルダー(又は「熱ブロック」)とヒートシンク要素との間において、サンプルホルダー及びヒートシンクのそれぞれにおける1つ以上のセンサーと共に、密な熱接触で、挟まれている。
【0005】
サーマルサイクラーがどの程度良好に作動するかを左右する、重要なパラメータは、処理される全サンプルに関する熱制御の均一性・精度及び再現性、選択された環境における作動能力、作動速度、及び、サンプルスループットである。
【0006】
熱制御の均一性・精度及び再現性は、これらのパラメータにおいてサイクラーが良好であればあるほど、より大きな信頼をテストランの結果に置くことができるので、きわめて重要である。その値を越えてこれらのパラメータの更なる向上が不適切となるようなしきい値は、存在しない。さらなる向上は常に有益である。
【0007】
選択された環境における作動能力は、サンプルが搬入される実験室の環境で使用される装置に関しては、重要ではないが、実験室外で機器を使用すること及びサンプルの位置する場所へ機器を搬送することが望ましい場合には、選択の範囲が限定される。ここでの2つの主要な関心事は、機器の大きさすなわち可搬性と、機器の所要電力である。大多数のサイクラーにおける、最大の単一構成部品は、サイクリングによって発生する廃熱を除去するために用いられるヒートシンクであるので、これら2つの関心事は、直接に関連している。サーマルサイクラーが、自動車バッテリーで作動するのに十分な電力のみを必要とするように構成されるとすれば、発生する廃熱も少なくなるので、より小型のヒートシンクが使用される。ヒートシンクが高効率に設計されることを更に保証することによって、寸法は更に最小化でき、機器は、事実上、地球上のどこでも作動可能なほど、可搬性のあるものになる。
【0008】
サーマルサイクリング速度が重要なのは、それがサンプルスループットの決定において主要な要素であるからばかりではなく、生成物を清浄し且つ正確に増幅する能力が、より速い温度ランプ速度により、向上され又は可能にされるからである。これは、増幅プロトコルの各サイクルにおいて生じる、アニーリング工程において、特に当てはまる。この工程の間に、存在する鋳型にプライマーが結合されるが、温度がこのための理想温度でない場合には、次々と反応結果にノイズをもたらす非特異的結合が生じ得ない。ランプ速度を増大することにより、非理想的温度における反応にかかる時間が低減される。ランプ速度の増大は、サイクルされているサンプル及びサンプルホルダーの、熱キャパシタンスを低減することによって、又は、サンプルホルダーへ供給される熱出力を増大することによって、達成できる。これら2つの方法は、いずれかから単独で可能な速度を越えて速度を増大するように、両者を組み合わせて使用できる。しかしながら、供給される電力の増大がヒートシンクに追加の負荷を与えることに、留意すべきである。
【0009】
従来のヒートシンクを使用するサーマルサイクラーでは、熱電素子に接触しているヒートシンクの温度変化は、基板の流入側及び流出側にある、非常に不一致な熱流束ゾーンによって、引き起こされる。単純に言い換えると、熱電素子は、ヒートシンクの基板の小さな中央領域(熱流束流入ゾーン)に配置されており、一方、ヒートシンクのフィンは、ヒートシンクの基板の反対側のより大きい領域(熱流束流出ゾーン)を、覆っている。この不一致によって、流入ゾーンの端部からの熱フローは、中央部からの熱フローと比較して、より急速且つ効果的であるという結果となり、それ故、ホットスポットが、熱電素子の中央のヒートシンク表面に、自然に発生する。従って、熱電素子を介する受動的熱伝達において、強い空間的変化が起こり、そのことが、サーマルサイクルされるサンプルの温度分布に反映される。従来技術におけるこの種類の問題は、図1に示されている。
【0010】
サンプルの効率性及び熱均一性に関する問題は、既に、幾つかの文献に記載されている。
【0011】
米国特許第6,657,169号は、ホルダーの熱均一性を向上させるために、サンプルホルダーに取り付けられた追加の加熱要素を活用するという解決手段を、開示している。しかしながら、均一性を増加させる代わりに、加熱器は、装置のエネルギー消費をも増加させ、また、システムの複雑性を増加させる。
【0012】
米国特許出願第2004/0,241,048号は、ヒートシンクへ熱をより均一に伝導するために、ヒートシンクに取り付けられた、高伝導材料で作られた、追加の熱拡散性プレート、を有している装置を、開示している。
【0013】
米国特許第5,475,610号は、向上した熱均一性をもたらすよう意図された、サンプルホルダー及びマイクロタイタープレートの構造を開示している。また、MJ Research Catalog 2000は、加熱及び冷却中のサンプルの熱均一性に着眼した、1つの装置構造を開示している。
【0014】
米国特許出願第6,372,486号は、並んで配置された、数組の加熱要素及び冷却要素を有している、サーマルサイクラーを、開示している。各要素を個別に制御することにより、サンプルブロックの加熱及び冷却を、調整することができる。しかしながら、この解決手段は、装置の制御電子回路の、コスト及び数を、著しく増加させる。
【0015】
RocheによるThe Light Cycler 480 Systemは、ヒートシンク内に挿入されたヒートパイプを、含んでいる。この解決手段は、ヒートシンク、ひいては、そのようなヒートシンクを有するサーマルサイクリング装置のコスト及び複雑性を、増加させる。
【0016】
上述した方法及び装置の幾つかを使用することは、製造コスト及び低信頼性を増大させる部品が追加された形態の最終的な機器に対して、望まない複雑性を加えることになる。追加のアクティブな加熱要素の使用は、上記記載と同様の不利点を有しているが、更に、電力消費を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,657,169号
【特許文献2】米国特許出願第2004/0,241,048号
【特許文献3】米国特許第5,475,610号
【特許文献4】米国特許出願第6,372,486号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】MJ Research Catalog 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、実質的に向上した熱均一性をもたらすサーマルサイクラーで使用するための、新規なヒートシンクを、提供することである。
【0020】
特に、本発明の目的は、サーマルサイクラー機器の主要部に追加の構成部品を追加することなく、又は、装置のエネルギー消費を増加させることなく、サーマルサイクリング処理中のサンプルホルダーにおけるサンプルの熱均一性を向上させることができる、ヒートシンクを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの又は別の目的は、以降に記載され且つ請求されるように、公知の方法及び装置の利点と併せて、本発明によって実現できる。
【0022】
本発明は、ある領域において、ヒートシンクの熱均一性を増加させることによって、サンプルホルダーの熱均一性を増加させるという考えに、基づいており、その領域では、ヒートシンクの熱放散体積、すなわち熱伝達素子によって画定される体積、を適切に成形することにより、熱電素子(TE)が、ヒートシンクと密な熱接触をしている。本発明では、これは、シンクの基板に接続された熱伝達素子を非平行な(傾斜した)形態で配置することによって、実現される。従って、基板の、更にはサンプルホルダーの、熱均一性が増大する。
【0023】
最も一般的な形態では、本発明によるヒートシンクは、基板と、熱伝達素子と、によって、実質的に構成されており、基板は、そこから廃熱がヒートシンク内に伝導される領域を備えており、熱伝達素子は、基板から突出しており、空気等の冷却媒体内へ熱を発散している。本発明では、熱伝達素子は、基板から外気へ、増量した熱伝導をもたらすように、互いに非平行の形態である。また、他の構成要素又はシーリングフランジを取り付ける場所等の、他の特徴が存在してもよいが、これらは、手近な議論とは無関係である。
【0024】
本発明によるサーマルサイクラーは、サンプルホルダーの加熱及び冷却を可能にするために、上記記載のように、サンプルホルダーとヒートシンクとの間に挟まれた熱電素子を、備えている。
【0025】
本発明による方法は、生体サンプルを温度サイクル状態に置く工程を、備えており、サンプルは、サンプル受け取りプレートに配置されており、サンプル受け取りプレートは、サーマルサイクラーのサンプルホルダーに位置している。ヒートシンクは、サンプルホルダーの加熱及び冷却を可能にするために、熱電素子を通して、サンプルホルダーに接続されている。本方法では、熱は、互いに非平行の形態で配置されている、ヒートシンクの熱伝達素子を通して、主として、放散されている。
【0026】
本発明の実施形態では、熱伝達素子は、一般的には、金属冷却フィン、ピン・フィン、又は、折り畳まれた薄い熱交換器、の形態であり、(広がるように)円錐形に構成されており、それにより、熱伝達素子がヒートシンクの基板に接続している領域は、基板から離れたヒートシンクの熱放散領域の断面より、小さい。その広がりは、一次元(一般的にはシンクの2面)、又は、二次元(シンクの全4面)で、発生することができる。
【0027】
本発明を用いることにより、かなりの利点が得られる。第一に、本発明を用いることにより、熱電素子を介する受動的熱伝導性の変化が、最小化される。受動的熱伝導性は、通常、サンプルホルダーとヒートシンクとが異なる温度である場合に存在し、この方法で伝導された熱量は、それらの間の温度差に正比例する。受動的な熱フローは、それらの各側面における温度の局所変化を反映するために、熱電素子の表面に渡って増減しており、従って、ヒートシンクの不均一な温度の反映が、サンプルホルダーの温度均一性に影響を与える、という結果をもたらす。相互に、熱電素子とヒートシンクとの接触領域の温度が均一であるほど、本発明を用いることにより実現されるように、サンプルホルダーの温度分布は、より均一に維持される。
【0028】
向上した均一性に加えて、通常の互いに平行な形態から非平行な形態への、フィンの変化は、サイクリング効率及び電力消費に関しても、利点をもたらす。従って、それは、基板に充てられたフィン取付領域を最小化することができ、更に、フィンの頂部における領域を更に拡大することができ、従って、製造のために、フィンをどれだけ密な間隔で配置できるか、又は、エアフロー及び背圧の問題、という制約が、回避される。言い換えると、上記記載の熱流束の不一致を最小化する又は排除する間に、より利用可能な熱遮断表面領域(より大きい熱遮断体積)を、実現できる。
【0029】
市販されている、図1による熱電素子駆動のサーマルサイクラーにおいて、基板のフィン取付表面領域(フィンの間の空間の表面を含む)を、熱電素子によって覆われた領域(あらゆる個別の熱電素子モジュールの間に空間がある場合はそれを含む)によって、分割することは、少なくとも2つ以上の要因を、結果としてもたらす。これは、サンプルホルダーにおいて、大きな空間的温度不一致を、引き起こす。この要因を減少させることは、ヒートシンクすなわちサンプルホルダーの、向上した熱均一性を、結果としてもたらす。しかし、従来のヒートシンクを用いて同様のことを行うと、熱遮断表面領域を大きく減少させるので、システムが過熱し、又は、システムが、電源負荷を減少させてシステムの速度を減少させるように強制される。本発明によるヒートシンクを用いることにより、速度を大きく又は全く低下させる必要無く、不一致量を、減少させることができる。
【0030】
従来技術では、熱電素子と接触しているヒートシンクの熱均一性を増大させることは、存在するあらゆる非均一性を積極的に正すことにより、行われている。より詳細に記載すると、これは、標的ゾーンの加熱器又は熱拡散機構(固体の高伝導率を散布するプレート、液体蒸気のヒートパイプ、又は、同様の装置)を使用することにより行うことができるが、これらの解決手段は、構成要素と複雑さを加える。(「強力」な方法として特徴付けることができる)従来技術の方法とは対照的に、本発明は、非均一温度がそもそもなぜ発生するかという根本問題、つまり、非均一性の裏にある現象、について取り組んでいる。
【0031】
サンプルスループットは、アッセイからアッセイへ、及び、ユーザーからユーザーへ、変化することが必要である。しかしながら、ここに記載の本発明は、サンプルスループットとは無関係であり、広範なキャパシティに渡って適用可能である。
【0032】
ヒートシンクの「基板」という用語は、ヒートシンク内に含まれる熱伝達素子の固定地点として機能し、且つ、熱電素子に対して良好に熱接続できる適切な熱伝達表面を提供する、あらゆる部材を、示している。
【0033】
本明細書は、概ね、ヒートシンクの熱伝達素子を通して熱電素子から外気へ向かう熱フロー(冷却サイクル)について記載しているが、同様に、フローが反転する(加熱サイクル)ことは、当業者が理解するところである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来技術によるサーマルサイクラーの、一般的な主要部の、断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるサーマルサイクラーの、主要部の、断面図である。
【図3】本発明の一実施形態によるヒートシンクの底面図である。
【図4】本発明の別の実施形態によるヒートシンクの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明は、添付の図面を参照して、より詳細に記載されており、その図面は、本発明の一般的な実施形態のみを示している。
【0036】
本発明の一般的原理は、図2に示されている。サンプルホルダー26と、ペルチェ素子24と、ヒートシンク20とは、サーマルサイクラー機器の主要部を形成するように、積み重ねられている。部品の間には、優れた熱伝導剤が、一般的に塗布されている。ヒートシンクは、基板21と、複数の熱伝達素子22と、を備えている。図に示された実施形態では、熱伝達素子22は、均一に傾斜して配列されており、基板の垂直軸に対して、基板の外側部に向かって増大する角度を、有している。なお、非平行の種類の熱伝達素子が、一次元のみで、図に示されている。フィン又はフィン・ピンが、熱伝達素子として使用される場合、図面に対して垂直な方向にも対応する配列があってもよく又はなくてもよい。フィンの形態が、二次元で、図3に示されている。板状の場合、板の縁部は、図4に示されるように、非平行でもよい。
【0037】
上記記載の実施形態に共通するように、熱伝達素子は、基板から離れた素子のフットプリントが、素子と基板との接触領域に近い素子のフットプリントより大きくなるように、扇状に方向付けられている。より一般的には、ヒートシンクの熱伝達素子は、非平行の形態で、好ましくは方向付けられており、それにより、サンプルホルダーの加熱及び冷却中において、熱電素子を介する受動的熱伝達における変化を最小とするために、ヒートシンクの熱放散能力が、基板に渡って、空間的に、本質的に、均一に、分布されている。ヒートシンクの非平行な突起部分は、基板(及びペルチェモジュール)の制限された大きさを補っており、また、基板の上方側の温度を、均一な温度に保持している。従って、従来技術の解決手段等にあるように、「ホットスポット」が、基板の中間部分に形成されない。
【0038】
従って、隣接する熱伝達素子間の間隔は、基板から離れるにつれて、一般的には増加しており、すなわち、隣接する素子間には、かなりの角度が存在する。また、角度は、素子の長さに沿って、一定でなくてもよい。基板を平面的に見ると、角度は、異なる素子対の間において、変化できる。加えて又は代わりとして、熱伝達素子は、基板に対して、最初は不均一に傾斜していてもよい。上述の両方法は、シンクの空間熱放散能力に影響を与える。
【0039】
熱伝達素子は、フィン、フィン・ピン、ストレート板、ひだのある板、又は、他の固体部材、の形態を有することができ、それらは、その境界内の伝導によるエネルギー伝達、及び、対流及び/又は放射によるその周辺のエネルギー伝達、を起こさせる拡大表面の形をしており、表面領域を増大させることによって熱伝達を向上させるために、使用されている。
【0040】
ヒートシンクは、アルミニウム、銅、銀、マグネシウム、炭化ケイ素等、を含む、多数の異なる材料を、単体で又は組み合わせて、作ることができる。また、ヒートシンクは、押し出し成形、鋳造、機械加工、又は、製造技術、を含む、ヒートシンクを製造するあらゆる一般的な方法によって、全体として、又は、機械加工を介した単純な最終加工と組み合わせて、製造することができる。最も有益なことに、ヒートシンクは、1つの連続した(単一の)物品で、構成されている。均一な熱分配は、熱伝達素子の正確な配列によって、専ら実現されており、それにより、一般的には、別個の、熱拡散ブロック、熱導体装置、又は、追加のアクティブな加熱器又は冷却器、の必要がない。
【0041】
本発明のヒートシンクに接続して使用される熱電素子は、好ましくは、1つ以上の個別のペルチェモジュールを備えている、ペルチェユニットである。多数のペルチェモジュールは、個別の温度制御無しに、並列で駆動されてもよい。
【0042】
サンプルホルダーは、あらゆる公知のタイプであってもよい。サンプルホルダーは、一般的には、アルミニウム又は同等の金属から作られており、SBS(生体分子スクリーニング学会)規格によるマイクロタイタープレートに適合するように、形作られている。従って、ホルダーの頂面には、碁盤目状に配置された複数のウェルが存在する。ホルダーとプレートとの間の良好な熱接続をもたらすために、ウェルの底部は、マイクロタイタープレートの外壁に対して、緊密に適合するように、形成されている。好ましい実施形態では、V形底部(又はU形底部)のプレート用に設計されたサンプルホルダーが、使用されている。
【0043】
熱電素子のフットプリントと、ヒートシンクの基板とは、好ましくは、本質的に等しい。従って、増大した熱フローは、ヒートシンクの外側部分では、起こらない(図1)。また、一般的には、サンプルホルダーのフットプリントは、ヒートシンク及び熱電素子の領域に、対応している。一般的には、上記フットプリントは、SBS規格のマイクロタイタープレートのフットプリントに、おおよそ対応しているが、本発明によるヒートシンクは、使用されるマイクロタイタープレート・フォーマットに特に依存して、あらゆる他の大きさ又は形状に、製造することができる。また、ヒートシンクの熱伝達素子の正確な形態は、基板の好ましい大きさに影響を与える。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、ヒートシンクの熱遮断ゾーン(すなわち、熱伝達素子の間)に向けられたファンは、サイクリング中に使用される。これは、ヒートシンクから外気へのエネルギー伝達率を、著しく増加させる。
【0045】
更なる実施形態では、本発明による装置は、電池によって作動可能であり、軽量で持ち運び可能な、サーマルサイクラーである。そのような装置は、分析される生体サンプルが最初に存在している現場環境において、使用できる。現場環境では、ヒートシンクにより手近にもたらされる利点、すなわち、小型且つ簡素な形状、及び、低いエネルギー消費が、重要視される。
【0046】
また、本発明は、サーマルサイクラーの熱均一性又は熱効率を増加させるための他の解決手段、例えば、本明細書中において従来技術として参照された方法、と関連して、使用されてもよい。しかしながら、本発明によるヒートシンクの成形は、従来のヒートシンク及びサーマルサイクラーによって引き起こされる、温度の不均一性を実質的に排除するのに、通常は十分であることが、わかっている。
【0047】
多数の異なる形態が、本発明の範囲内において可能であり、それは、成形品の形状寸法、部品同士の組み立て及び配置の方法、を含んでいる。ここでの記載は、本発明の幾つかの可能な実施形態を、示し且つ説明することを、意図している。
【0048】
本発明は、上記記載及び図面に示された実施形態に制限されるものではなく、以下の請求項の全範囲内において、変化できるものである。従属する請求項において画定された、及び上記記載の、実施形態は、自由に組み合わせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプルを処理するためのサーマルサイクリング機器であって、
サンプルホルダーと、ヒートシンクと、熱電素子と、を備えており、
サンプルホルダーは、複数の生体サンプルを受け入れるように設計されており、
ヒートシンクは、基板と、基板から突出している複数の熱伝達素子と、を備えており、
熱電素子は、サンプルホルダーとヒートシンクの基板との間に挟まれており、
ヒートシンクの熱伝達素子は、ヒートシンクの基板の温度を、空間的に均一に維持するために、互いに対して非平行な形態で、配列されている、
ことを特徴とする、サーマルサイクリング機器。
【請求項2】
基板から離れた素子のフットプリントが、素子と基板との接触領域に近い素子のフットプリントより大きくなるように、熱伝達素子が、扇状に方向付けられている、請求項1記載の機器。
【請求項3】
基板が、サンプルホルダーのフットプリントと実質的に等しいフットプリントを、有している、請求項1又は2に記載の機器。
【請求項4】
熱電素子が、サンプルホルダーとヒートシンクとに熱接続された、少なくとも1つのペルチェ素子を、備えている、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項5】
サンプルホルダーの加熱及び冷却中において、熱電素子を介する受動的熱伝達における変化を最小とするために、ヒートシンクの熱放散能力が、基板に渡って、空間的に、実質的に均一に分布されるように、ヒートシンクの熱伝達素子が、方向付けられている、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項6】
熱伝達素子の大多数が、基板の垂線に対して傾斜しており、
外側の素子の角度が、内側の素子の角度より、規則的に大きくなっている、
請求項5記載の機器。
【請求項7】
熱伝達素子が、フィン又はフィン・ピンの形状を、有している、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項8】
熱伝達素子が、平面状のもの、又は、ひだのあるものである、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項9】
ヒートシンクが、金属の単一物で形成されている、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項10】
ヒートシンクの熱伝達素子の間で空気を強制的に循環させるためのファンを、備えている、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項11】
持ち運び可能であり、電池によって作動されるように構成された、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項12】
熱伝達素子が、広がるように、基板から突出している、前記請求項の何れか1つに記載の機器。
【請求項13】
上記広がりが、基板の2つの側方面で起こっている、請求項12記載の機器。
【請求項14】
生体サンプルを処理する方法であって、
複数の生体サンプルを、サーマルサイクリング機器における、温度サイクル状態に置く工程を備えており、
サーマルサイクリング機器が、サンプルホルダーと、ヒートシンクと、熱電素子と、を備えており、
サンプルホルダーは、複数の生体サンプルを受け入れるように設計されており、
ヒートシンクは、基板と、基板から突出している複数の熱伝達素子と、を備えており、
熱電素子は、サンプルホルダーとヒートシンクの基板との間に挟まれており、
互いに対して非平行な形態で配列されている熱伝達素子を有するヒートシンクが、ヒートシンクの基板の温度を、空間的に均一に維持するために、使用されている、
ことを特徴とする、方法。
【請求項15】
基板から離れた素子のフットプリントが、素子と基板との接触領域に近い素子のフットプリントより大きくなるように、熱伝達素子が、扇状に方向付けられている、請求項14記載の方法。
【請求項16】
実質的に等しいフットプリントを有している、ベースプレート及びサンプルホルダーが、使用されている、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
サンプルホルダーとヒートシンクとに熱接続された、少なくとも1つのペルチェ素子が、熱電素子として使用されている、請求項14〜16の何れか1つに記載の方法。
【請求項18】
サンプルホルダーの加熱及び冷却中において、熱電素子を介する受動的熱伝達における変化を最小とするために、ヒートシンクの熱放散能力が、基板に渡って、空間的に、実質的に均一に分布されるように、ヒートシンクの熱伝達素子が、方向付けられている、請求項14〜17の何れか1つに記載の方法。
【請求項19】
使用されるヒートシンクの熱伝達素子の大多数が、基板の垂線に対して傾斜しており、
外側の素子の角度が、内側の素子の角度より、規則的に大きくなっている、
請求項18記載の方法。
【請求項20】
フィン又はフィン・ピンの形状の熱伝達素子を有する、ヒートシンクが、使用されている、請求項14〜19の何れか1つに記載の方法。
【請求項21】
平面状の又はひだのある熱伝達素子を有する、ヒートシンクが、使用されている、請求項14〜20の何れか1つに記載の方法。
【請求項22】
金属の単一物で形成されたヒートシンクが、使用されている、請求項14〜21の何れか1つに記載の方法。
【請求項23】
ヒートシンクの熱伝達素子の間で空気を強制的に循環させる工程を、備えている、請求項14〜22の何れか1つに記載の方法。
【請求項24】
熱伝達素子が広がるように基板から突出している、ヒートシンクを、使用している、請求項14〜23の何れか1つに記載の方法。
【請求項25】
上記広がりが基板の2つの側方面で起こっている、ヒートシンクを、使用している、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
サーマルサイクラーで使用するヒートシンクであって、
基板と、複数の熱伝達素子と、を備えており、
基板は、概ね平面状の熱電素子に対して良好な熱接触で適合するように、設計されており、
熱伝達素子は、基板から突出しており、
ヒートシンクの熱伝達素子は、互いに対して非平行な形態で、配列されている、
ことを特徴とするヒートシンク。
【請求項27】
基板から離れた素子のフットプリントが、素子と基板との接触領域に近い素子のフットプリントより大きくなるように、熱伝達素子が、扇状に方向付けられている、請求項26記載のヒートシンク。
【請求項28】
基板が、SBS規格に適合するマイクロタイタープレートのフットプリントと実質的に等しいフットプリントを、有している、請求項26又は27に記載のヒートシンク。
【請求項29】
少なくとも1つのペルチェ素子等の、平面状の熱電素子を介して、基板をサンプルホルダーに気密的に且つ熱的に接続する手段を、備えている、請求項26〜28の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項30】
ヒートシンクの熱放散能力が、基板に渡って、空間的に、実質的に均一に分布されるように、熱伝達素子が、方向付けられている、請求項26〜29の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項31】
熱伝達素子の大多数が、基板の垂線に対して傾斜しており、
外側の素子の角度が、内側の素子の角度より、規則的に大きくなっている、
請求項30記載のヒートシンク。
【請求項32】
熱伝達素子が、フィン又はフィン・ピンの形状を有している、請求項26〜31の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項33】
熱伝達素子が、平面状の又はひだのある形状である、請求項26〜32の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項34】
金属の単一物で形成されている、請求項26〜33の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項35】
熱伝達素子が、広がるように、基板から突出している、請求項26〜34の何れか1つに記載のヒートシンク。
【請求項36】
上記広がりが、基板の2つの側方面で起こっている、請求項35に記載のヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−502930(P2010−502930A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527167(P2009−527167)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050470
【国際公開番号】WO2008/028999
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(507286161)
【氏名又は名称原語表記】Finnzymes Instruments Oy
【Fターム(参考)】