説明

サーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法

【課題】紙送り速度の高速化に伴って顕在化する印刷ドットのピッチ乱れを防止できるライン型のサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法を提案すること。
【解決手段】ライン型のサーマルプリンター1では、紙送りモーター7の回転が減速歯車列8の最終段歯車12bからプラテンローラー4のプラテン歯車14に伝達される。両歯車12b、14の歯数を同数とし、両歯車12b、14の噛み合いよるプラテンローラー4の紙送り量を、ラインサーマルヘッド5による印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数をドット数周期と定め、印刷ドットのピッチ乱れが予め設定した許容範囲内となるようにドット数周期を設定し、設定したドット数周期が得られるようにプラテン歯車14の歯数を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラインサーマルヘッドを備えたサーマルプリンターに関する。さらに詳しくは、印刷速度の高速化に伴う印刷ドットのピッチ乱れに起因する印刷品質の低下を防止できるようにしたサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法、および、当該方法を用いてプラテンローラーの駆動機構が設計されたサーマルプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリンターでは、サーマルヘッドおよびプラテンローラーの間を通る搬送経路に沿って記録紙が配置され、プラテンローラーを回転させて記録紙を搬送しながらサーマルヘッドによって当該記録紙に印刷が施される。プラテンローラーの回転駆動は、一般に減速歯車列を介してステッピングモーターから伝達される回転力によって行われる。減速歯車列を構成している各歯車の寸法精度のバラツキ、偏心などが大きいと、プラテンローラーによる紙送り量にバラツキが生じ、印刷ドットのピッチ乱れが大きくなり印刷品質が低下してしまう。特許文献1には、シリアル型のサーマルプリンターにおいて、ステッピングモーターを常に整数回転の回転角度で駆動して改行することで、歯車群の寸法のばらつき、偏心等に影響されずに紙送りを行う方法が提案されている。特許文献2にも、同様な制御により紙送りローラの偏心の影響を受けることなく一定の紙送り量を確保するための制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−238085号公報
【特許文献2】特開平11−115270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、サーマルプリンターの印刷速度を上げるためにラインサーマルヘッドを備えたサーマルプリンターが使用されている。ライン型のサーマルプリンターでは、記録紙幅方向の1ドットライン分が一度に印刷されるので、記録紙を連続搬送しながら印刷が行われる。このようなライン型のサーマルプリンターにおいて、印刷速度を更に上げるためにプラテンローラーによる紙送り速度を上げると、プラテンローラーの駆動機構を構成している減速歯車列の各歯車の寸法のバラツキ、芯ズレなどに起因する紙送り速度の変動が顕著になる。この結果、印刷ドットのピッチ乱れも大きくなり、印刷品質が大幅に低下してしまう。
【0005】
減速歯車列を構成している各歯車を歯形精度の高いものに交換し、それらの組み付け精度を高め、歯車を支持しているフレームの寸法精度および組み付け精度を高めることにより、プラテンローラーの速度変動を抑制して、印刷品質の低下を防止することが可能である。しかし、このためには、高価な部品を用いる必要があり、組み付け作業にも時間を要するので、製造コストが極めて高くなってしまう。特に、レシート、チケットなどを発行する小型のロール紙プリンターなどにおいてはコスト高に繋がる対策を採用することは一般に困難である。
【0006】
本発明の課題は、減速歯車列の各構成部品の精度などを高めることなく紙送り速度の高速化に伴って顕在化するプラテンローラーの速度変動に起因する印刷ドットのピッチ乱れを防止することのできるライン型のサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法を提案することにある。また、本発明の課題は、かかる新たな方法を用いてプラテンローラーの駆動力伝達機構が設計されたライン型のサーマルプリンターを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドに記録紙を押しつけながら搬送するためのプラテンローラーと、
紙送りモーターの出力回転を伝達するための減速歯車列と、
前記プラテンローラーのローラー軸に同軸状態に固定されていると共に前記減速歯車列の最終段歯車に噛み合っているプラテン歯車とを有するサーマルプリンターにおける印刷ドットのピッチ乱れを防止する方法であって、
前記プラテン歯車の1歯の前記最終段歯車との噛み合いによる前記プラテンローラーの紙送り量を、前記ラインサーマルヘッドによる印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数をドット数周期と定め、
前記印刷ドットのピッチ乱れが予め設定した許容範囲内となるように前記ドット数周期を設定し、
設定した前記ドット数周期が得られるように前記プラテン歯車の歯数を定めることを特徴としている。
【0008】
印刷ドットのピッチ乱れの程度は、プラテンローラーの速度変動に依存し、この速度変動がプラテンローラーの駆動機構の減速歯車列における最終段歯車とプラテンローラーのローラー軸に取り付けたプラテン歯車との噛み合い状態によって大きく影響される。また、速度変動の周期が、これら両歯車の噛み合い周期に大きく影響され、噛み合い周期を適切に設定することにより、ピッチ乱れを効果的に防止できることが確認された。
【0009】
本発明の方法では、噛み合い周期に、プラテンローラーによる紙送り速度を考慮して、これら両歯車の1歯の噛み合いよるプラテンローラーの紙送り量をラインサーマルヘッドによる印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数に変換し、これをドット数周期と定めた。このドット数周期はプラテン歯車の歯数を増減することにより増減させることができ、歯数を調整してドット数周期を変更することにより、ドット乱れを防止できることが確認された。
【0010】
例えば、印刷速度を上げた場合、換言すると紙送り速度を上げた場合には、ドット数周期を小さな値となるように変更することによりピッチ乱れを許容範囲内に抑えることができる。また、プラテンローラーの速度変動の振幅が大きい場合においても、ドット数周期を小さな値に変更することによるピッチ乱れを許容範囲内に抑えることができる。
【0011】
ここで、プラテンローラーの速度変動の振幅が大きい場合、例えば速度変動率が10%程度ある場合であっても、前記ドット数周期を5ドット以下にすれば、ピッチ乱れを許容範囲内に抑えることが可能なことが確認された。
【0012】
特に、前記ドット数周期を1ドット以下にすれば、プラテンローラーの速度変動の振幅が大きい場合であっても、確実にピッチ乱れを許容範囲内に抑制することが可能である。
【0013】
次に、ピッチ乱れは、プラテンローラーの速度変動の周波数によって大きく影響されると共に、速度変動の振幅によっても影響を受ける。したがって、前記印刷ドットのピッチ乱れを前記許容範囲内となるようにするためには、前記ドット数周期と共に前記プラテン歯車の速度変動率を設定することが望ましい。一般的には、前記速度変動率を10%以下にすることが望ましい。
【0014】
ここで、速度変動率の大小は最終段歯車とプラテン歯車の噛み合い率に大きく依存している。最終段歯車およびプラテン歯車として歯形精度がJGMA(日本歯車工業会規格)4級のものを用いる場合には、これらの歯車の軸間距離のバラツキを調整することにより、これらの歯車の噛み合い率を1以上に設定すれば、速度変動率を10%以下に抑えることが可能である。
【0015】
次に、本発明のサーマルプリンターは、
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドに記録紙を押しつけながら搬送するためのプラテンローラーと、
紙送りモーターの出力回転を伝達するための減速歯車列と、
前記プラテンローラーのローラー軸に同軸状態に固定されていると共に前記減速歯車列の最終段歯車に噛み合っているプラテン歯車とを有し、
前記プラテン歯車の1歯の前記最終段歯車との噛み合いよる前記プラテンローラーの紙送り量を、前記ラインサーマルヘッドによる印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数をドット数周期と定めた場合に、当該ドット数周期が5ドット以下となるように前記プラテン歯車の歯数が設定されていることを特徴としている。
【0016】
ここで、前記ドット数周期が1ドット以下となるように前記歯数が設定されていれば、プラテンローラーの速度変動率が大きくても印刷ドットのピッチ乱れを許容範囲内に抑えることができる。
【0017】
また、前記最終段歯車および前記プラテン歯車は歯形精度がJGMA4級のものである場合には、前記最終段歯車と前記プラテン歯車の噛み合い率を1以上にすれば、プラテンローラーの速度変動率を10%以下に抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、プラテンローラーのローラー軸に取り付けたプラテン歯車と減速歯車列の最終段歯車との噛み合い周波数を、プラテン歯車の1歯の噛み合いによる紙送り量を印刷ドット数に換算してドット数周期とし、ピッチ乱れが許容範囲に入るドット数周期が得られるように、プラテン歯車の歯数を設定している。このようにプラテン歯車の歯数を設定すれば、紙送り速度を上げた場合に、減速歯車列の各歯車の仕様、組み付け精度などを変更するためのコスト高を招くことなく、印刷ドットのピッチ乱れを許容範囲内に抑えることができ、サーマルプリンターの印刷品質を所望の状態に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用可能なライン型のサーマルプリンターの一例を示す斜視図である。
【図2】図1のサーマルプリンターの紙搬送経路を示す概略縦断面図である。
【図3】図1におけるプラテンローラーの駆動力伝達機構を示す説明図である。
【図4】紙送り速度が250mm/sにおけるピッチ乱れの許容範囲を示すグラフである。
【図5】ドット数周期と速度変動率に基づくピッチ乱れの許容範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明を適用したサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法の実施の形態を説明する。
【0021】
(ライン型のサーマルプリンターの構成)
図1は本発明を適用可能なライン型のサーマルプリンターの一例を示す斜視図であり、プリンターケースを取り外した状態のプリンター機構部を示してある。図2はその概略断面図であり、紙搬送経路部分を示してある。これらの図を参照して説明すると、サーマルプリンター1は板金製のプリンターフレーム2を備えており、プリンターフレーム2に取り付けられたガイド部材などによってプリンター底面側から上面側に向かう紙搬送経路3(図2において太線で示す経路)が規定されている。
【0022】
紙搬送経路3の途中には、その一方の側にプラテンローラー4がプリンター幅方向に架け渡されている。プラテンローラー4には紙搬送経路3を挟みラインサーマルヘッド5が配置されている。ラインサーマルヘッド5は背面側からプラテンローラー4の側に付勢されており、そのヘッド面(発熱面)が記録紙(感熱紙)Pを挟み、プラテンローラー4の外周面に押し付けられた状態が形成される。紙搬送経路3におけるプラテンローラー4およびラインサーマルヘッド5の下流側であるプリンター上側には、記録紙切断機構6の固定刃6aおよび可動刃6bが対向配置されている。この記録紙切断機構6による切断位置の下流側は不図示のプリンターケースに形成されている記録紙排出口に繋がっている。
【0023】
図3はプラテンローラー4を回転駆動するための駆動機構を示す説明図である。図3も参照して説明すると、プリンターフレーム2には、例えばステッピングモーターからなる紙送りモーター7が搭載されている。この紙送りモーター7の回転が減速歯車列8を介して減速された後にプラテンローラー4のローラー軸4aに伝達される。
【0024】
減速歯車列8は、例えば、第1複合歯車11と第2複合歯車12とを備えた二段構成のものである。第1複合歯車11は、入力側の小径歯車11aと出力側の大径歯車11bが同軸状態に連結された構成のものである。第2複合歯車12は、入力側の大径歯車12aと出力側の小径歯車12bが同軸状態に連結された構成のものである。第1複合歯車11の入力側の小径歯車11aは紙送りモーター7の出力軸7aに取り付けたピニオン13に噛み合っており、第1複合歯車11の出力側の大径歯車11bは第2複合歯車12の入力側の大径歯車12aに噛み合っている。第2複合歯車12の出力側の小径歯車12bは減速歯車列8の最終段歯車であり、プラテンローラー4のローラー軸4aに取り付けたプラテン歯車14に噛み合っている。なお、通常は、小径歯車12bとプラテン歯車14の歯数は同一とされる。また、以下において、小径歯車12bを最終段歯車と呼び、その歯数をZaと呼ぶものとする。
【0025】
(印刷ドットのピッチ乱れの抑制方法)
上記構成のサーマルプリンター1において印刷速度の高速化のために紙送りモーター7の回転速度を上げてプラテンローラー4による紙送り速度を上げると、印刷ドットのピッチ乱れが顕在化して印刷品質が低下してしまうことが確認された。
【0026】
本発明者等は、減速歯車列8の各歯車の歯数を図3において括弧書きで示すように設定し、プラテンローラー4の径を12mm、紙送り速度を250mm/s、印刷1ドット長さを0.125mm(=203dpi)にした場合において、ローラー軸4aの速度変動の周波数および振幅と、印刷ドットのピッチ乱れとの関係を求めた。
【0027】
図4はこの結果を示すグラフであり、境界曲線Bを境として「印字OK領域」の部分はピッチ乱れが目視できない許容領域であり、「印字NG領域」の部分はピッチ乱れが目視により認識される領域である。この領域算出に当たっては、市松模様などの所定のパターンを実際に印刷し、印刷状態を目視によって確認してピッチ乱れが許容範囲内であるか否かを判別した。このようなピッチ乱れの許容領域を異なる紙送り速度毎に算出した。また、減速歯車列8の各歯車の歯形精度、軸間距離などの組み付け精度などの条件を変えて実験を行った。
【0028】
この結果、印刷ドットのピッチ乱れの程度は、プラテンローラー4のローラー軸4aの速度変動に依存し、この速度変動がプラテンローラー4に駆動力を伝達するための減速歯車列8における最終段歯車12bとプラテンローラー4のローラー軸4aに取り付けたプラテン歯車14との噛み合い状態によって大きく影響されることを見出した。また、速度変動の周波数が、これら両歯車12b、14の噛み合い周期に大きく影響され、噛み合い周期を適切に設定することにより、ピッチ乱れを効果的に防止できることを見出した。
【0029】
さらに、速度変動の振幅が、これら両歯車12b、14の噛み合い率によって大きく影響され、両歯車12b、14の軸間距離のバラツキを小さくして噛み合い率を高めて速度変動の振幅を抑制することにより、ピッチ乱れを抑制できることを見出した。
【0030】
本発明者等は、かかる知見に基づき、両歯車12b、14の噛み合い周期にプラテンローラー4による紙送り速度を考慮したパラメーターとしてドット数周期Dtを規定し、これに基づき、紙送り速度を上げた場合でもピッチ乱れを効果的に抑制できる設計手法を見出したのである。
【0031】
すなわち、両歯車12b、14の1歯の噛み合いよるプラテンローラー4の紙送り量をラインサーマルヘッド5による印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数に変換し、これをドット数周期Dtと定めた。このドット数周期Dtはプラテン歯車14の歯数を増減することにより増減させることができる。
【0032】
紙送り速度を上げた場合には、ドット数周期を小さな値となるように変更することによりピッチ乱れを許容範囲内に抑えることができる。また、プラテンローラー4の速度変動の振幅が大きい場合においても、ドット数周期を小さな値に変更することによるピッチ乱れを許容範囲内に抑制できることが確認された。
【0033】
具体的に説明すると、本発明の実施の形態では、サーマルプリンター1において次のようにして紙送り速度に応じてプラテン歯車14の歯数を設定して、ピッチ乱れを許容範囲内に収めるようにした。
【0034】
まず、プラテンローラー4の駆動機構において、図3に示すように、ピニオン13の歯数を12、第1複合歯車11の小径歯車11aの歯数を60、その大径歯車11bの歯数を44、第2複合歯車の大径歯車12aの歯数を55とした。紙送り速度を150mm/sと250m/sにした場合のそれぞれにおいて、プラテン歯車14および減速歯車列8の最終段歯車12bの歯数を同一の値Zaとし、この値Zaを変更してドット数周期Dtを変えた場合におけるローラー軸4aの速度変動率(%)を測定した。また、各測定結果を、横軸にドット数周期Dtをとり縦軸に速度変動率をとった直交座標面上にプロットして、ピッチ乱れの許容範囲を示す境界曲線を算出した。
【0035】
この場合、紙送りモーター7(ステッピングモーター)を48ステップ/周で駆動し、印刷1ドットを1ドット/ステップで印刷し、プラテンローラー4の径が12mm、1印刷ドット長さが0.125mm(=203dpi)とすると、紙送り速度が150mm/sの場合において、プラテン歯車14および最終段歯車12bの歯数Zaを17、26、34とした場合におけるドット数周期Dtは、それぞれ、17.6、11.5、8.8となる。また、紙送り速度が250mm/sの場合において、プラテン歯車14および最終段歯車12bの歯数Zaを同様に17、26、34とした場合におけるドット数周期Dtは、それぞれ、17.6、11.5、8.8になる。
【0036】
図5はこれにより得られた境界曲線Yを示すグラフであり、ドット数周期Dtを表す横軸は対数軸としてある。このグラフにおいて、白の丸印は、紙送り速度250mm/sにおいてピッチ乱れが許容範囲内であると判定されたものであり、×印は同一速度において許容範囲からは外れていると判定されたものである。同様に、ベタ黒の丸印は紙送り速度150mm/sにおいてピッチ乱れが許容範囲内であると判定されたものであり、+印は許容範囲から外れていると判定されたものである。
【0037】
この実験例から得られたピッチ乱れの許容範囲は、例えば、次式によって規定される境界曲線Yによって近似することができる。
Y=2375X-3.495+0.75
【0038】
また、速度変動率が10%以下の場合にはドット数周期Dtを5ドット以下にすれば紙送り速度を上げた場合においてもピッチ乱れを許容範囲内に抑制できることが確認された。特に、ドット数周期Dtを1ドット以下にすれば、紙送り速度を上げても、速度変動率に実質的に影響されることなくピッチ乱れを許容範囲内に抑制できることが確認された。
【0039】
次に、ローラー軸4aの速度変動率、すなわち、ローラー軸4aの速度変動の振幅は、最終段歯車12bとプラテン歯車14の噛み合い率に大きく依存することが確認された。換言すると、これらの歯車の歯形精度によるピッチ乱れの影響は小さいことが確認された。例えば、最終段歯車12b、プラテン歯車14を、例えば、歯形精度がJGMA4級のものとし、これらの軸間距離のバラツキを調整して噛み合い率が1以上となるように設定することにより、速度変動率を10%以下に抑制できることが確認された。
【0040】
以上説明したように、プランテローラー4の駆動機構における減速歯車列8の最終段歯車12bとプラテン歯車14の噛み合い周期と、紙送り速度とに基づき算出されるドット数周期Dtを調整することにより、設定した紙送り速度におけるピッチ乱れを許容範囲内に抑制することができる。ドット数周期Dtの増減は、プラテン歯車14の歯数を増減すればよい。したがって、紙送り速度に応じて、ピッチ乱れが許容範囲に収まるようにドット数周期を設定し、当該ドット数周期が得られるようにプラテン歯車14の歯数を設定すればよい。よって、減速歯車列の各歯車の歯形精度、組み付け誤差などの仕様を変更することなく、単に、プラテン歯車14の歯数を増加させるだけで紙送り速度を上げた場合におけるピッチ乱れを許容範囲内に抑制できる。この結果、製造コストの増加を伴うことなく、印刷品質を維持したまま印刷速度を上げることできる。
【符号の説明】
【0041】
1 サーマルプリンター、2 プリンターフレーム、3 紙搬送経路、4 プラテンローラー、4a ローラー軸、5 ラインサーマルヘッド、6 記録紙切断機構、6a 固定刃、6b 可動刃、7 紙送りモーター、7a モーター軸、8 減速歯車列、11 第1複合歯車、11a 小径歯車、11b 大径歯車、12 第2複合歯車、12a 大径歯車、12b 最終段歯車(小径歯車)、13 ピニオン、14 プラテン歯車、B,Y 境界曲線、Dt ドット数周期、Za プラテン歯車(最終段歯車)の歯数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドに記録紙を押しつけながら搬送するためのプラテンローラーと、
紙送りモーターの出力回転を伝達するための減速歯車列と、
前記プラテンローラーのローラー軸に同軸状態に固定されていると共に前記減速歯車列の最終段歯車に噛み合っているプラテン歯車とを有するサーマルプリンターにおける印刷ドットのピッチ乱れを防止する方法であって、
前記プラテン歯車の1歯の最終段歯車との噛み合いよる前記プラテンローラーの紙送り量を、前記ラインサーマルヘッドによる印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数をドット数周期と定め、
前記印刷ドットのピッチ乱れが予め設定した許容範囲内となるように前記ドット数周期を設定し、
決定した前記ドット数周期が得られるように前記プラテン歯車の歯数を定めることを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記ドット数周期を5ドット以下にすることを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記ドット数周期を1ドット以下にすることを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記印刷ドットのピッチ乱れが前記許容範囲内となるように、前記ドット数周期と共に前記プラテン歯車の速度変動率を設定することを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記速度変動率を10%以下にすることを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記最終段歯車および前記プラテン歯車として歯形精度がJGMA4級のものを使用し、
前記最終段歯車と前記プラテン歯車の軸間距離のバラツキを調整することにより、これらの歯車の噛み合い率を1以上に設定することを特徴とするサーマルプリンターのピッチ乱れ防止方法。
【請求項7】
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドに記録紙を押しつけながら搬送するためのプラテンローラーと、
紙送りモーターの出力回転を伝達するための減速歯車列と、
前記プラテンローラーのローラー軸に同軸状態に固定されていると共に前記減速歯車列の最終段歯車に噛み合っているプラテン歯車とを有し、
前記プラテン歯車の1歯の前記最終段歯車との噛み合いよる前記プラテンローラーの紙送り量を、前記ラインサーマルヘッドによる印刷1ドット長さで割ることにより算出されたドット数をドット数周期と定めた場合に、当該ドット数周期が5ドット以下となるように前記プラテン歯車の歯数が設定されていることを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項8】
請求項7において、
前記ドット数周期が1ドット以下となるように前記歯数が設定されていることを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記最終段歯車および前記プラテン歯車は歯形精度がJGMA4級のものであり、
前記最終段歯車と前記プラテン歯車の噛み合い率が1以上であることを特徴とするサーマルプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−156746(P2011−156746A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20017(P2010−20017)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】