説明

サーマルプリントヘッドおよびその製造方法

サーマルプリントヘッド(A1)は、絶縁基板(1)と、上記絶縁基板(1)上に形成されるとともに、複数の櫛歯部(31a)を有する共通電極(31)と、上記絶縁基板(1)上に形成された複数の個別電極(41)と、当該絶縁基板(1)上に形成されるとともに、上記櫛歯部(31a)および上記個別電極(41)に電気的に導通している抵抗体層(51)と、を備える。上記抵抗体層(51)は薄膜であり、上記共通電極(31)および複数の個別電極(41)は厚膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサーマルプリントヘッドとしては、たとえば厚膜型サーマルヘッド(下記特許文献1参照。)と薄膜型サーマルヘッド(下記特許文献2参照。)とが公知となっている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−314390号公報
【特許文献2】特開平8−310024号公報
【0004】
図9および図10は、従来の厚膜型サーマルヘッドの一例を示している。このサーマルプリントヘッドB1は、絶縁基板101、部分グレーズ層102、共通電極103、複数の個別電極104、抵抗体層105および保護層106を備えている。共通電極103は、複数の櫛歯部103aを有している。各個別電極104は、その先端部が隣り合う2本の櫛歯部103a間に位置するように形成されており、その他端部は、駆動IC(図示略)に接続されている。共通電極103および個別電極104は、ともにレジネートAuペーストを用いた厚膜印刷により形成されている。抵抗体層105は、帯状に延びており、櫛歯部103aと、個別電極104を部分的に交互に覆うように厚膜印刷により形成されている。
【0005】
上記サーマルプリントヘッドB1を用いて画像を印刷する場合には、上記駆動ICにより、選択された各個別電極104と、これと隣り合う2本の櫛歯部103aとの間に電流が流され、抵抗体層105のうちこれらの2本の櫛歯部103a間に挟まれた部分105a(図9の斜線部)が発熱する。これにより、たとえば感熱紙やインクリボンの所定部分が昇熱し、印刷が行なわれる。
【0006】
一方、図11および図12は、従来の薄膜型のサーマルプリントヘッドの一例を示している。このサーマルプリントヘッドB2は、絶縁基板111、部分グレーズ層112、共通電極113、複数の個別電極114、抵抗体層115および保護層116を備えている。抵抗体層115は、部分グレーズ層112から絶縁基板111にわたって、スパッタリングにより薄膜形成されている。複数の櫛歯部113aを有する共通電極113と複数の個別電極114とは、抵抗体層115上にスパッタリングによりAl製の導体薄膜を形成し、この導体薄膜をたとえばフォトリソ工程によるエッチングを行ってパターニングすることにより形成されている。各櫛歯部113aの先端部とそれに対応する個別電極114の先端部とは離間して対向しており、抵抗体層115のうち櫛歯部113aと個別電極114との間に挟まれて露出した部分が発熱部115aとなっている。
【0007】
上記サーマルプリントヘッドB2を用いて印刷するには、駆動IC(図示略)により、選択された各個別電極114と、これと対向する櫛歯部113aとの間に電流を流し、抵抗体層115の発熱部115aを発熱させればよい。
【0008】
しかしながら、図9〜図12に示した従来技術によるサーマルプリントヘッドB1,B2には、以下に述べる欠点があった。
【0009】
まず、厚膜型のサーマルプリントヘッドB1においては、抵抗体層105が厚膜であるために、抵抗体層105自体の熱容量が大きい。したがって、上記駆動ICによる通電のON/OFFの切り替え速度が速くなると、これに応じて発熱および放熱を俊敏に行なうことが困難である。発熱および放熱の応答性が十分でないと、高速または高精細な印刷において、印刷ドットの尾引きやかすれを生じてしまうなどの不具合を生じる。
【0010】
また、厚膜の抵抗体層105は、共通電極103や個別電極104よりも上方に大きく膨出するように形成されている。このため、印刷の際には、抵抗体層105を覆う保護層106の部分が、たとえば感熱紙やインクリボンに高い圧力で押し付けられることとなり、摩擦によって紙送り動作が不安定となったり、もしくは異音が発生を伴う、いわゆるスティッキングが生じる虞れがある。特に、上記インクリボンが、抵抗体層105の発熱により高温とされて、そのインク成分が溶融している場合には、スティッキングを生じ易い。
【0011】
一方、薄膜型のサーマルプリントヘッドB2においては、共通電極113および個別電極114を形成する場合、抵抗体層115上に導体層を形成し、その後抵抗体層115を残すように上記導体層のみに対してエッチング処理を行なうことによりパターニングする。このようなエッチング処理を可能とするために、上記導体層は、たとえばAl製であることが多い。Al製の電極は、たとえばAu製の電極と比べて耐食性に劣る。そのために、長期間の使用においては、化学的または電気的に侵されて腐食し、共通電極113および個別電極114に接触不良や断線が生じる虞れがあり、サーマルプリントヘッドB2の耐久性や信頼性が十分でない場合があった。
【0012】
また、共通電極113、個別電極114、抵抗体層115および保護層116は、たとえばスパッタリングにより積層した薄膜として形成される。一般に、スパッタリングは、真空チャンバ内においてなされ、所定の膜厚の薄膜を得るには、その膜厚に応じた処理時間が必要となる。さらに、これらの薄膜を積層して形成するには、このような作業が繰り返し行なわれる。そのために、作業時間を短縮することが困難であり、作業効率が悪いものとなっていた。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、高速および高精細な印刷に対応可能であり、スティッキングを生じる虞れが少なく、耐久性と信頼性とに優れたサーマルプリントヘッドを提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、このようなサーマルプリントヘッドを適切に作業効率良く製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の第1の側面によれば、絶縁基板と、上記絶縁基板上に形成されるとともに、複数の櫛歯部を有する共通電極と、上記絶縁基板上に形成された複数の個別電極と、当該絶縁基板上に形成されるとともに、上記櫛歯部および上記個別電極に電気的に導通している抵抗体層と、を備えるサーマルプリントヘッドが提供される。このサーマルプリントヘッドは、上記抵抗体層が薄膜であり、上記共通電極および複数の個別電極が厚膜であることを特徴とする。
【0016】
なお、本発明でいう薄膜とは、たとえばスパッタリング、真空蒸着、CVDおよびメッキなどの薄膜形成手法により形成されたものを意味する。一方、厚膜とは、たとえば厚膜印刷などの上記薄膜形成手法以外の手法により形成されたものを意味する。好ましくは、薄膜の膜厚は0.05〜0.2μmであり、厚膜の膜厚が0.3〜1.0μmである。
【0017】
好ましくは、上記抵抗体層は、連続的に延びる帯状であり、上記共通電極の櫛歯部及び上記個別電極を交互に部分的に覆うように形成されている。
【0018】
好ましくは、上記櫛歯部と上記個別電極とは、互いの先端部が離間して対向しており、上記抵抗体層は、上記櫛歯部及び上記個別電極に対応して、電気的に相互に分離された複数の抵抗部に分割されており、各抵抗部は、対応する櫛歯部の先端部と対応する個別電極の先端部との間に位置している。
【0019】
好ましくは、上記抵抗体層、上記共通電極および上記複数の個別電極は、保護層により覆われている。
【0020】
本発明の第2の側面によれば、絶縁基板上に複数の櫛歯部を有する共通電極および複数の個別電極を形成する工程と、上記共通電極および上記複数の個別電極に導通する抵抗体層を形成する工程と、を含むサーマルプリントヘッドの製造方法が提供される。この製造方法は、上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、導体材料を厚膜に形成する工程を含んでおり、上記抵抗体層を形成する工程は、抵抗体材料を薄膜に形成する工程を含んでいることを特徴としている。
【0021】
好ましくは、上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、上記厚膜の膜厚が0.3〜1.0μmとなるように行う、上記抵抗体層を形成する工程は、上記薄膜の膜厚が0.05〜0.2μmとなるように行う。
【0022】
好ましくは、上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、上記導体材料を厚膜印刷することにより行なう。
【0023】
好ましくは、上記抵抗体層を形成する工程は、スパッタリング、真空蒸着、CVDおよびメッキからなる群より選択された手法により行う。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドの要部を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】同サーマルプリントヘッドの製造方法におけるグレーズ層形成工程を示す断面図である。
【図4】同サーマルプリントヘッドの製造方法における電極形成工程を示す断面図である。
【図5】同サーマルプリントヘッドの製造方法における抵抗体層形成工程を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドの要部を示す平面図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るサーマルプリントヘッドの要部を示す平面図である。
【図9】従来の厚膜型サーマルプリントヘッドの一例を示す要部平面図である。
【図10】図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】従来の薄膜型サーマルプリントヘッドの一例を示す要部平面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係るサーマルプリントヘッドA1を示している。このサーマルプリントヘッドA1は、絶縁基板1、部分グレーズ層2、共通電極31、複数の個別電極41、抵抗体層51、保護層6を備えている。なお、図1においては、保護層6を示していない。
【0028】
絶縁基板1は、たとえばアルミナセラミックにより形成されている。部分グレーズ層2は、所定方向に延びるように絶縁基板1上に形成されている。部分グレーズ層2は、たとえば非晶質ガラスペーストを用いた印刷・焼成によって形成されており、上記焼成時におけるガラス成分の流動性と表面張力に起因して、その上面が上方に膨出した曲面状となっている。
【0029】
共通電極31は、図1によく表われているように、上記所定方向に延びるコモンライン31bと、このコモンライン31bから延びる複数の櫛歯部31aとを有している。コモンライン31bと、各櫛歯部31aの根元部は、絶縁基板1の表面に形成されており、各櫛歯部31aの先端部は、部分グレーズ層2上に形成されている。この共通電極31は、たとえばレジネートAuペーストを印刷・焼成することにより形成された厚膜である。
【0030】
複数の個別電極41は、複数の櫛歯部31aに対して交互に配置されている。各個別電極41は、細幅とされた先端部41aが形成されており、その他方の端部には、ボンディングパッド41bとを有している。各個別電極41は、それらの先端部41aの一部が、部分グレーズ層2上において隣り合う2本の櫛歯部31aの間に位置するように形成されている。ボンディングパッド41bは、絶縁基板1の表面上に形成されており、ワイヤ(図示略)を介して駆動IC(図示略)に接続されている。この駆動ICは、各個別電極41に対して選択的に電圧を印加することにより、後述する抵抗体層51の所望の部分を発熱させるためのものである。各個別電極41も、たとえばレジネートAuペーストを印刷することにより形成された厚膜である。
【0031】
抵抗体層51は、部分グレーズ層2と同一方向に延びる帯状であって、各櫛歯部31aの先端部と、各個別電極41の先端部41aとを部分的に覆うように形成されている。これにより、抵抗体層51は、共通電極31および複数の個別電極41に電気的に導通している。この抵抗体層51は、たとえばTaSiOを材料としてスパッタリングにより形成された薄膜からなる。上記駆動ICにより、選択された各個別電極41に選択的に電圧が印加されると、当該個別電極41からこれに隣り合う2本の櫛歯部31aに抵抗体層51を介して電流が流れる。これにより、抵抗体層51のうちこれら2本の櫛歯部31aに挟まれた部分(たとえば図中の斜線が入れられた部分51a)が発熱する。このように、上記駆動ICにより、抵抗体51のうち印刷パターンに応じた任意の部分が発熱され、これにより印刷が行なわれる。
【0032】
保護層6は、抵抗体層51、共通電極31、個別電極41、部分グレーズ層2および絶縁基板1の一部を覆うように形成されている。この保護層6は、たとえばガラスペーストを印刷して焼成することにより形成された厚膜である。保護層6は、抵抗体層51、共通電極31および個別電極41が、たとえば感熱紙またはインクリボンと直接接触することや、化学的または電気的に侵されることから保護するためのものである。また、保護層6は、印刷時において感熱紙との摩擦を軽減して円滑な印刷を可能とするように、滑らかな表面に仕上げられている。
【0033】
次に、サーマルプリントヘッドA1の製造方法について、図3〜図5を参照しつつ説明する。
【0034】
まず、図3に示すように、絶縁基板1を用意し、この絶縁基板1の上面に部分グレーズ層2を厚膜形成する。この厚膜形成は、ガラスペーストを用いた厚膜印刷および焼成により行なう。ガラスペーストの焼成過程において、ガラス成分が流動化した際の表面張力により、部分グレーズ層2の表面は、上方に膨出した滑らかな曲面となる。
【0035】
部分グレーズ層2を形成した後に、図4に示すように共通電極31と複数の個別電極41とを厚膜形成する。具体的には、レジネート金ペーストを用いた厚膜印刷を行なうことにより、コモンライン31bおよび複数の櫛歯部31aを有する共通電極31と、先端部41aおよびボンディングパッド41bを有する複数の個別電極41とをパターニングする。なお、上記厚膜印刷において上記パターニングを行なうことに代えて、所定の領域を覆うように厚膜印刷を行ない、これにより形成された導体の厚膜に対して、たとえばフォトリソ法によるエッチングを施して、パターニングを行なっても良い。共通電極31と個別電極41の膜厚は、たとえば0.3〜1.0μmである。
【0036】
共通電極31および複数の個別電極41を形成した後に、図5に示すように抵抗体層51を薄膜形成する。より具体的には、たとえば抵抗体層51を形成すべき領域に対応する開口部を有するマスクを施す。その後に、たとえばTaSiOを材料としたスパッタリングを行ない、各櫛歯部31aと各個別電極41の先端部41aを部分的に覆う帯状の抵抗体層51を形成する。なお、上記スパッタリング時にマスクを施すことに代えて、絶縁基板1の表面全体に抵抗体層を一様に形成した後に、この抵抗体層にたとえばフォトリソ法によるエッチングを施して、抵抗体層51をパターニングしても良い。抵抗体層5の膜厚は、たとえば0.05〜0.2μmである。
【0037】
次いで、ガラスペーストを用いた厚膜印刷および焼成により、抵抗体層51、共通電極31、個別電極41、部分グレーズ層2および絶縁基板1の一部を覆うように保護層6を厚膜形成する。その後は、たとえばワイヤボンディングにより各個別電極41のボンディングパッド41bと駆動ICとを電気的に接続する工程などを経て、最終的に図2に示されたサーマルプリントヘッA1が製造される。
【0038】
薄膜形成手法は、一般的に極めて薄い膜を、所定の膜厚となるように正確に形成することを目的として用いられ、その形成に比較的長時間を要するものが多い。たとえば、薄膜形成手法の一例であるスパッタリングは、真空チャンバ内で行なわれ、かつ所定の膜厚とするためには、その膜厚に応じた処理時間が必要となるために、作業時間の短縮が困難である。一方、厚膜形成手法は、一般的に形成に要する時間が短い。たとえば、厚膜形成手法の一例である厚膜印刷は、厚膜の材料となるペーストを所定領域に塗布する手法であり、比較的短時間で均一な厚膜を形成可能である。上記した製造方法によれば、抵抗体層51のみを薄膜形成しており、それ以外の共通電極31、個別電極41、部分グレーズ層2および保護層6は、厚膜形成している。したがって、サーマルプリントヘッドA1の製造時間を短縮することが可能であり、作業効率の向上に好適である。
【0039】
また、スパッタリングは、他の手法に比べて材料の制約が少なく、材料選定の自由度が高い。そのために、たとえば発熱の応答性に優れた抵抗体層51とするのに適した材料を選定するのに有利である。また、抵抗体層51を、膜質、膜厚とも均一にかつ再現性良く形成することが可能である。そのために、サーマルプリントヘッドA1の製造に際し、不良品の発生が抑制されて、生産の歩留まりが向上し、また量産時における品質管理に好ましい。なお、スパッタリングに代えて、たとえばメッキによってもサーマルプリントヘッドA1を適切に製造可能である。
【0040】
次に、サーマルプリントヘッドA1の作用について、以下に説明する。
【0041】
まず、抵抗体層51は、薄膜であり、たとえば厚膜とされた抵抗体層と比べて熱容量が小さい。そのために、駆動ICにより通電された部分が発熱し、印刷に適する温度への昇温が迅速になされる。一方、駆動ICにより通電が停止された場合にも、温度の下降が迅速になされる。したがって、発熱および放熱の応答性が高いために、駆動ICにより通電のON/OFFを高速で切り替えても、印刷ドットに尾引きやかすれなどを生じる虞れが少なく、高速または高精細な印刷を行なうのに好適である。
【0042】
また、抵抗体層51は薄膜であるために、たとえば抵抗体層が厚膜とされた場合とは異なり、抵抗体層51のみが大きく上方に突出するような形状とはならない。したがって、印刷の際に、抵抗体層51を覆う保護層6が、感熱紙またはインクリボンに過度な力で押しつけられることが回避され、紙送りが不安定になったり、異音を発生するなどのスティッキングの発生を抑制することができる。特に、抵抗体層51を覆う保護層6は、滑らかな表面に仕上げられており、比較的摩擦係数の小さい材料であるガラスにより形成されているために、サーマルプリントヘッドA1と、感熱紙またはインクリボンとの摩擦を低減して、スティッキングを抑制するのに好適である。
【0043】
さらに、共通電極31および複数の個別電極41は、Au製の厚膜であるために、たとえばAl製の電極と比べて耐食性に優れている。そのために、長期間の使用において、化学的または電気的に侵されやすい環境にさらされても、共通電極31および複数の個別電極41は、腐食する虞れが少なく、接触不良や断線などに起因して、印刷品質が劣化したり、印刷動作が不安定となることを抑制可能であり、耐久性と信頼性とを高めることができる。しかも、共通電極31および複数の個別電極41は、抵抗体層51よりも下層に形成されている。したがって、これらの電極が抵抗体層よりも上層に形成された構成と比べて、電極に外部からの不当な力を加えられたり、電極が腐食される虞れが少なく、サーマルプリントヘッド全体としての耐久性と信頼性の向上に好適である。
【0044】
図6および7は、本発明の第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドA2を示しており、図8は、本発明の第3実施形態に係るサーマルプリントヘッドA3を示している。なお、図6〜8においては、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。
【0045】
第2実施形態に係るサーマルプリントヘッドA2は、絶縁基板1、部分グレーズ層2、共通電極32、複数の個別電極42、抵抗体層52、保護層6を備えて構成されている。なお、図6においては、保護層6を示していない。第2実施形態は、共通電極32および複数の個別電極42の形状および配置と、これらの抵抗体層52の形状および配置とが、上記第1実施形態と相違する。
【0046】
図6によく表われているように、共通電極32は、コモンライン32bと、複数の櫛歯部32aを有している。各個別電極42は、その先端部が、それぞれの櫛歯部32aに対して離間して対向するように配置されている。共通電極32および個別電極42は、たとえばレジネート金ペーストを印刷することにより形成された厚膜である。
【0047】
抵抗体層52は、複数の櫛歯部32aと複数の個別電極42とに対応して複数の抵抗部52aに分割されている。図7によく表われているように、複数の抵抗部52aの各々は、これを挟む櫛歯部32aおよび個別電極42を上方から部分的に覆うように形成されており、これらと電気的に導通している。なお、各抵抗部52aの両端部分が、対応する櫛歯部32aおよび個別電極42の下方に潜り込むような構造としてもよい。この抵抗体層52は、上記第1実施形態と同様に、たとえばTaSiOを材料としてスパッタリングにより形成された薄膜である。駆動IC(図示略)により、選択された各個別電極42に電圧が印加されると、当該個別電極からこれと対応する櫛歯部32aに抵抗部52aを介して電流が流れる。これにより、この抵抗部52aが発熱し、印刷が行なわれる。
【0048】
上記第1実施形態と同様に、第2実施形態によれば、抵抗部52aは薄膜であるために、発熱および放熱の応答性が高く、高速または高精細な印刷を行なうのに好適である。また、抵抗部52aは、大きく上方に膨出した形状とはなっていないために、スティッキングの抑制を図ることができる。さらに、第2実施形態においては、抵抗体層52が、相互に分離された複数の矩形状の抵抗部52aに分割されている。したがって、選択された抵抗部52aに通電される場合に、これに隣り合う抵抗部52a(通電するものとして選択されていない場合)には通電されない。そのために、選択された抵抗部52aのみを確実に発熱させることができる。したがって、感熱紙またはインクリボンのうちこの抵抗部52aにより昇温される領域も矩形状となるために、明瞭な矩形状のドットを印刷することが可能であり、印字品質の向上を図ることができる。
【0049】
第2実施形態のサーマルプリントヘッドA2は、上記サーマルプリントヘッドA1を製造する場合と同様な製造工程を経て適切に製造することができる。この場合においても、抵抗体層52のみが薄膜形成手法により形成され、その以外の構成要素はたとえば厚膜印刷などにより形成されるために、作業効率の向上を図ることができる。
【0050】
図8に示す第3実施形態に係るサーマルプリントヘッドA3は、上記したサーマルプリントヘッドA1と同様に、共通電極33から延出する複数の櫛歯部33aおよび複数の個別電極43の一部どうしが、所定方向において交互に列状に配置され、帯状の抵抗体層53により覆われている構成であるが、複数の櫛歯部33aおよび複数の個別電極43の形状および配置が、サーマルプリントヘッドA1とは異なっている。
【0051】
複数の個別電極43は、抵抗体層53を挟んで対向する2方向から交互に延出して、抵抗体層53が延びる方向において列状に配置されている。共通電極33の櫛歯部33aは、複数の個別電極43のそれぞれの先端部を囲むように交互に折り返した形状とされて、その複数の部分が隣り合う2本の個別電極43の間に配置されている。
【0052】
このような実施形態によっても、上記したサーマルプリントヘッドA1と同様の効果を発揮することができる。また、このような構成によれば、共通電極33のコモンラインから抵抗体層53へと延出する複数の櫛歯部33aの本数を少なくすることができる。そのために、抵抗体層53に覆われている複数の櫛歯部33aと複数の個別電極43との間隔を狭くし、抵抗体層53のさらに小さい領域を発熱させることが可能である。したがって、サーマルプリントヘッドA3を、高精細な印刷に対応させるのに好適である。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々に設計変更可能である。たとえば、薄膜形成手法としては、スパッタリングに限らず、それ以外のたとえばCVDやメッキなどの手法を用いてもよい。また、厚膜形成手法としては、厚膜印刷が好適であるが、本発明はこれに限定されるものではない。さらに、抵抗体層の材料としては、TaSiOに限らず、それ以外の材料、たとえば酸化ルテニウムを用いてもよい。さらに、共通電極および複数の個別電極の材料としては、Auに限らず、それ以外の材料、たとえばNiやCuを用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、上記絶縁基板上に形成されるとともに、複数の櫛歯部を有する共通電極と、上記絶縁基板上に形成された複数の個別電極と、当該絶縁基板上に形成されるとともに、上記櫛歯部および上記個別電極に電気的に導通している抵抗体層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
上記抵抗体層は薄膜であり、上記共通電極および複数の個別電極は厚膜である、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
上記抵抗体層の膜厚は0.05〜0.2μmであり、上記共通電極及び上記個別電極の膜厚は0.3〜1.0μmである、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
上記抵抗体層は、連続的に延びる帯状であり、上記共通電極の櫛歯部及び上記個別電極を交互に部分的に覆うように形成されている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
上記櫛歯部と上記個別電極とは、互いの先端部が離間して対向しており、上記抵抗体層は、上記櫛歯部及び上記個別電極に対応して、電気的に相互に分離された複数の抵抗部に分割されており、各抵抗部は、対応する櫛歯部の先端部と対応する個別電極の先端部との間に位置している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
上記抵抗体層、上記共通電極および上記複数の個別電極は、保護層により覆われている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
絶縁基板上に複数の櫛歯部を有する共通電極および複数の個別電極を形成する工程と、
上記共通電極および上記複数の個別電極に導通する抵抗体層を形成する工程と、を含むサーマルプリントヘッドの製造方法であって、
上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、導体材料を厚膜に形成する工程を含んでおり、
上記抵抗体層を形成する工程は、抵抗体材料を薄膜に形成する工程を含んでいる、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項7】
上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、上記厚膜の膜厚が0.3〜1.0μmとなるように行う、請求項7に記載のサーマルプリントヘッド製造方法。
【請求項8】
上記抵抗体層を形成する工程は、上記薄膜の膜厚が0.05〜0.2μmとなるように行う、請求項7に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項9】
上記共通電極および上記複数の個別電極を形成する工程は、上記導体材料を厚膜印刷することにより行なう、請求項7に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項10】
上記抵抗体層を形成する工程は、パッタリング、真空蒸着、CVDおよびメッキからなる群より選択された手法により行なう、請求項7に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【国際公開番号】WO2005/025877
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513963(P2005−513963)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013522
【国際出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】