説明

サーミスタ、温度センサ及びガスセンサ

【課題】サーミスタの機械的な強度を向上し、且つ、サーミスタの反りの発生を防止することで、製品の信頼性を向上させることが可能なサーミスタ、を提供することを目的とする。
【解決手段】薄膜サーミスタ1は、基板2と、基板2上に配置されたサーミスタ膜5とを備え、基板2は、該基板2の最大厚さΔT3よりも薄い肉薄部分TH1を有し、サーミスタ膜5は、凹部52が形成されたもの、又はサーミスタ膜5の一部が除去されて孔部52が形成されたものである。これにより、薄膜サーミスタ1の素子としての強度が向上し、膜の応力によって発生する薄膜サーミスタ1の反りを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ、温度センサ及びガスセンサに関し、特に、NTC(Negative Temperature Coefficient Thermistor)サーミスタ等の薄膜サーミスタ、該サーミスタを用いた温度センサ及びガスセンサ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度センサ及びガスセンサ等に用いられるサーミスタの一般的な構造としては、基板上の熱絶縁膜上に配置されたセラミックス素体の両面が一対の電極で挟持された構造が挙げられ、これにより、大気中の温度やガス濃度が変化することに起因して生じるサーミスタの抵抗変化が、その一対の電極によって検出される。
【0003】
近時、電子機器の小型化や薄型化が進んでおり、電子機器の温度補償として働くサーミスタに対しても小型化や薄型化が要求されている。かかる要求に応えるべく、例えば、特許文献1には、シリコン基板1上に形成された誘電体薄膜20上に、赤外線検知部40及び温度補償部50(それぞれを以下、サーミスタ部という。)が形成された薄膜サーミスタの構造が提案されている。かかる薄膜サーミスタは、基板の一部に空洞(キャビティ,貫通孔)を設けることにより、サーミスタ部が基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分で支持されているアイランド状の構造(いわゆる、エアブリッジ構造、ダイアフラム構造)を有しているため、サーミスタ部で蓄積される熱容量を小さくすることができる。この結果、上述したセラミックス素体が一対の電極で挟持された構造に比して、サーミスタとして機能する素子感度や熱に対する応答特性が向上され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−064111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す薄膜サーミスタは、基板の一部にキャビティを設けることによりエアブリッジ構造を形成しているため、エアブリッジ構造を有していない基板上の全面にサーミスタ部を含む機能膜が形成されている構造に比して、素子としての機械的な強度が比較的低い傾向にある。
【0006】
一方、キャビティが設けられている基板上の機能膜を厚く形成すれば、素子としての機械的な強度は高まるものの、温度の変化によって生じる各膜の収縮長さの違いから、面方向における膜の応力、特に膜の引っ張り力による影響が無視できなくなる。しかも、キャビティが設けられていると、基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分の膜の収縮が基板の最大厚さの肉厚部分の膜の収縮に比して大きくなり、その結果、薄膜サーミスタの反りが顕著となる傾向にある。
【0007】
また、かかるキャビティを覆うようにサーミスタ膜(層)を基板上の略全面に形成すると、それぞれの膜の応力の均衡が保たれるので、薄膜サーミスタにおける反りの発生を回避することは可能である。しかし、このように構成しても、膜単体としての応力が開放されるわけではなく、依然として残留してしまう。その結果、膜に残留する応力が、膜のうねり、膜の剥がれ、膜の割れ等の不都合を引き起こす要因となってしまう可能性がある。特に、薄膜サーミスタがエアブリッジ構造を有する場合には、基板の肉厚部分と基板の肉薄部分との境界(角部)に膜の応力が集中してしまい、破損の一因となる亀裂が生じ易くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、機械的な強度を向上させ、且つ、反りの発生を防止することができ、これにより、製品の信頼性を向上させることが可能なサーミスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によるサーミスタは、基板と、該基板上に配置されたサーミスタ膜とを備えるサーミスタであって、基板は、該基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分を有し、サーミスタ膜は凹部が形成されたもの、又は、該サーミスタ膜の一部が除去されて孔部が形成されたものである。
【0010】
上記構成のサーミスタにおいては、サーミスタ膜に凹部又は孔部が形成されていることにより、膜単体に残留する応力、特に温度の変化に伴う膜の面方向における応力が、凹部又は孔部で開放されるので、膜単体に残留する応力が、膜の面方向において軽減又は緩和され得る。また、従来の如く、基板にキャビティ(貫通孔)が形成されたエアブリッジ構造の場合に対し、本発明のサーミスタにおいては、基板は該基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分を有するものの、サーミスタ膜は基板上に配置されていることにより、機械的な強度が向上される。さらに、膜に残留する応力が軽減又は緩和されるので、基板の肉厚部分と、基板の肉薄部分との境界部位への応力集中も緩和され、かかる境界部位で亀裂が生じることも防止され得る。この結果、サーミスタ全体の機械的な強度が向上し、製品としての信頼性が向上され得る。
【0011】
また、凹部又は孔部は、サーミスタの平面視において、肉薄部分上に形成されていることが好ましい。このように形成すると、基板の肉薄部分に残留している膜の応力がより効果的に開放されるだけでなく、通常、基板の肉薄部分は、基板の最大厚さの肉厚部分に比して、基板の支持効果が少ない分、膜の収縮が大きくなり得るが、本発明のサーミスタにおいては、基板の肉薄部分における膜の応力が開放されるので、かかる部分の面方向における膜の収縮が抑制され、その結果、膜のうねりや膜の剥がれの発生が抑制され得る。
【0012】
さらに、凹部又は孔部が、複数設けられ、それらの複数の凹部又は複数の孔部のそれぞれは、互いに対向するように形成されていることが好ましい。このように形成すると、膜に残留する応力が膜の面方向により均等に開放されるので、膜に残留する応力が一層軽減され得る。
【0013】
さらにまた、サーミスタ膜は、抵抗値を検出するための領域を有し、凹部又は孔部は、前記領域の外周を取り囲むように形成されていると、かかる領域の外周から膜に残留する応力がどの方向においても開放されるので、かかる領域に発生する反りが効果的に回避され得る。更に加温されたサーミスタ膜の熱が逃げにくく、安定した温度検知が可能になる。
【0014】
また、サーミスタ膜上には、保護膜が設けられ、それらのサーミスタ膜及び保護膜のそれぞれは、サーミスタの平面視において前記肉薄部分を覆うように形成されていると、基板の肉薄部分上で支持されている機能膜(サーミスタ膜及び/又は保護膜)の総膜厚と、基板の肉厚部分上で支持されている機能膜の総膜厚とが同等且つ一様に形成される。これにより、サーミスタ全体の機械的な強度が更に向上し、製品としての信頼性が向上され得る。しかも、上述の如く、凹部又は孔部によって、各機能膜に応力が残留することなく開放されるので、複数の機能膜が積層されていても、サーミスタの反りの発生が確実に回避され得る。
【0015】
加えて、凹部又は孔部は、サーミスタ膜を構成する材料とは異なる材料で充填されていても好ましい。このように構成すると、抵抗値を検出するための領域への熱の閉じこめ効果が更に向上する。このとき、抵抗値を検出するための領域を取り囲むように凹部又は孔部を形成し、且つ、かかる凹部又は孔部にサーミスタ膜を構成する材料とは異なる材料(例えば、熱伝導率又は熱伝達率が比較的小さい材料)が充填されていると、かかる領域に蓄積された熱の拡散が有効に防止される。
【0016】
また、本発明による温度センサ及びガスセンサは、本発明によるサーミスタを備えるものであって、そのサーミスタが奏する上述した作用効果により、センサの感度が向上され得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のサーミスタによれば、基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分が形成された基板上にサーミスタ膜が形成されており、サーミスタ膜には、凹部又は孔部が形成されているので、サーミスタ全体の機械的な強度を向上させ、且つ、サーミスタの反りの発生を防止することが可能となり、これにより、製品の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による薄膜サーミスタの構造を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明による薄膜サーミスタを概略的に示す模式平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】変形例の薄膜サーミスタを概略的に示す模式平面図である。
【図5】差動電圧測定試験における回路図である。
【図6】図5に示す検出素子及び参照素子を一体に形成した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0020】
図1は、本発明による薄膜サーミスタの構造を概略的に示す分解斜視図である。また、図2は、本発明による薄膜サーミスタを概略的に示す模式平面図であり、図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。
【0021】
本実施形態のサーミスタは、例えば、温度の上昇によって抵抗値が低下する薄膜サーミスタ1である。薄膜サーミスタ1は、基板2の最大厚さよりも薄い肉薄部分TH1を有する基板2と、この基板2上に配置されたサーミスタ膜5とを備えている。より具体的には、薄膜サーミスタ1は、基板2と、この基板2上に設けられた第1絶縁膜3(機能膜)と、この第1絶縁膜3上に配設された一対の電極膜41、42(ともに機能膜)と、これら電極41、42上に設けられたサーミスタ膜5(機能膜)と、一対の電極膜41、42からそれぞれ引き出された一対のパッド電極71、72と、サーミスタ膜5を覆うように形成された保護膜6(機能膜)とを備える。また、本実施形態における薄膜サーミスタ1は、その機能に応じて、保護膜6上に吸収膜8又は反射膜9を備えている。
【0022】
なお、本実施形態において、基板2の肉薄部分TH1は、後述するキャビティ21(空洞部)の上方に位置する第1絶縁膜3の膜厚及び一対の電極膜41、42によって形成される場合(図3のΔT1)、又は、第1絶縁膜3のみによって形成される場合(図3のΔT2)を例示しているが、本実施形態はこれらに限られるものではなく、例えば、キャビティ部分に基板2の一部を残し、肉薄部分TH1の構成を、肉薄の基板2と第1絶縁膜3としてもよい、さらにその上に成膜される一対の電極膜41、42との組み合わせによって形成される場合でもよい。また、本実施形態において、基板2の肉厚部分TH3は、基板2の第1の主面20Bから第2の主面20Aまでの厚さΔT3を示している。
【0023】
基板2は、平面矩形状を成し、少なくとも第1絶縁膜3、電極膜41、42及びサーミスタ膜5を支持可能なものであれば、その寸法形状は特に制限されない。また、基板2に用いる材質は、適度な機械的強度を有し、且つ、エッチング等の微細な加工処理に適した材質であれば、特に制限されず、具体的には、例えば、シリコン、表面を高抵抗化した熱酸化シリコン、シリカ、NiZnフェライト、アルミナ、マグネシア、窒化アルミ、フォルステライト等の誘電率が50以下、好ましくは20以下の低誘電率材料を用いたセラミック基板や、単結晶基板、石英基板、又はガラス基板等が挙げられる。
【0024】
基板2は、キャビティ21(空洞部)を有する。本実施形態において、キャビティ21は、サーミスタ膜5に形成されたサーミスタ領域51の熱容量を小さくするという観点から、サーミスタ領域51に対応するように形成されており、好ましくは、薄膜サーミスタ1の平面視において、サーミスタ領域51が収まるように基板2の中央部に形成される。また、キャビティ21は、基板2が第1絶縁膜3の両端部の一部を支持する形態であれば、その寸法、形状、位置は特に制限されない。したがって、キャビティ21は、基板2を貫通するように形成してもよく、基板2を貫通しないように形成されていてもよい(キャビティは、閉塞又は封止されていてもよい)。
【0025】
なお、基板2は、その表面及び裏面に第2絶縁膜22を有していてもよい。ここで、第2絶縁膜22を有する基板2とは、絶縁性材料からなる基板2の他、基板2上の一部に又は全面に絶縁膜が製膜されたものを含む概念である。また、第2絶縁膜22に用いる材質としては、Al23、SiO2、SiN等の絶縁性無機材料、ポリイミド、エポキシ等の樹脂等の絶縁性有機材料が挙げられる。また、基板2及び第2絶縁膜22の膜厚は、適宜設定可能である。
【0026】
第1絶縁膜3は、基板2のキャビティ21を跨ぐように形成され、キャビティ21の外寸サイズよりも大きく形成されている。本実施形態では、第1絶縁膜3は、平面矩形状を成し、基板2の略全面を覆うように形成されている。また、第1絶縁膜3の材質は、特に制限されず、具体的には、Al23、SiO2、SiN等の絶縁性無機材料、ポリイミド、エポキシ等の樹脂等の絶縁性有機材料が挙げられる。第1絶縁膜3の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用でき、上述した第2絶縁膜と同様の材料を用いて一体に形成してもよい。さらに、第1絶縁膜3の膜厚は、例えば、0.1〜0.5μm程度の範囲で適宜設定可能である。
【0027】
一対の電極膜41、42は、第1絶縁膜3を覆うように形成され、且つ、互いに対向するように配置されている。本実施形態では、一対の電極膜41、42は、サーミスタ膜5との接触面積を広げるという観点から、櫛歯状の形状を有しているが、特に制限されない。また、電極膜41、42の材質は、サーミスタ膜5を形成する成膜処理や熱処理等に耐え得る導電性材質であれば、特に制限されない。電極膜41、42の具体例としては、Ni、Cu、Au、Pt、Ag、Sn、Cr、Co、W、Pd、Mo、Ta、Ru、Nb等の単体金属、又は、これらを含む合金等の複合金属が挙げられる。
【0028】
また、電極膜41、42の形成方法も、特に限定されず、公知の手法を適宜選択することができる。具体的には、例えば、塗布、転写、電解めっき、無電解めっき蒸着或いはスパッタリング等により、第1絶縁膜3上に電極膜41、42を作成する方法が挙げられる。さらに、このように形成された電極膜41、42を、例えば、イオンミリング、イオンエッチング等の公知の手法を用いて加工することにより、櫛歯状の電極膜41、42を形成することができる。なお、電極膜41、42の膜厚は、例えば、100〜600nm程度の範囲で適宜設定可能である。
【0029】
サーミスタ膜5は、キャビティ21の外形サイズ(キャビティ21が形成されている領域)よりも大きく、且つ、キャビティ21を覆うように形成されている。すなわち、サーミスタ膜5は、キャビティ21の外周部上に形成され、サーミスタ膜5の両端部532は、第1絶縁膜3及び電極41、42を介して基板2上で支持されるように形成されている(図3参照)。
【0030】
また、サーミスタ膜5は、凹部又は孔部を有しており、この凹部又は孔部によって、サーミスタ膜5の領域内に、サーミスタとしての機能を有するサーミスタ領域51と、サーミスタとしての機能を有しない非サーミスタ領域53とが画定される。凹部は、サーミスタ膜5の第1の主面51A、53A側から基板2側に設けられた第2の主面51B、53B側に向けて陥没し、且つ、サーミスタ膜5の第1の主面51A、53A側からみて、一対の電極41、42及び/又は第1絶縁膜3の少なくとも一部が露出しないようにサーミスタ膜5の一部が除去されている部位であり、孔部は、サーミスタ膜5の第1の主面51A、53A側から基板2側に設けられた第2の主面51B、53B側に向けて陥没し、且つ、サーミスタ膜5の第1の主面51A、53A側からみて、一対の電極41、42及び/又は第1絶縁膜3の少なくとも一部が露出するようにサーミスタ膜5の一部が除去されている部位である。この凹部又は孔部の具体例としては、窪み、スリット、溝、ドット、切り欠き、切り込み等が挙げられる。本実施形態では、凹部又は孔部として、スリット52が形成されている。スリット52は、肉薄部分TH1上に形成され、且つ、サーミスタ領域51(の外周)を取り囲むように形成されている。
【0031】
かかるスリット52においては、サーミスタ領域51での温度分布を均一化するという観点から、スリット幅は、薄膜サーミスタ1の長さ方向(図2において、紙面の左右方向)及び幅方向(図2において、紙面の上下方向)において、一様の幅(すなわち、図2において、長さ方向のスリット幅ΔW1=幅方向のスリット幅ΔW2)で形成されることが好ましい。さらに、非サーミスタ領域53での温度分布を均一化するという観点から、非サーミスタ領域53の幅も、薄膜サーミスタ1の長さ方向及び幅方向において、一様の幅(すなわち、図2において、長さ方向の非サーミスタ領域53の幅ΔW3=幅方向の非サーミスタ領域53の幅ΔW4)で形成されることが好ましい。
【0032】
サーミスタ領域51は、温度の変化に伴って抵抗値が変化する領域であり、かかる領域で変化する抵抗値を検出する。また、サーミスタ領域51は、スリット52の内方(内側)の領域に形成されており、基板2から切り離された、いわゆるアイランド状(浮島のような状態)の構造を有している。
【0033】
非サーミスタ領域53は、スリット52の外方の領域に形成されており、且つ、非サーミスタ領域53の端部532(外周部)は、基板2上で支持されるように形成されている。
【0034】
サーミスタ膜5の材質は、温度の上昇によって電気抵抗が減少するというNTCサーミスタの特性が得られれば、特に制限されない。サーミスタ膜5の具体例としては、MnNiCo系酸化物に代表される複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウム等、負の抵抗温度係数を有する材料が挙げられる。このようなNTCサーミスタの用途としては、温度測定用、温度補償用又はアッセンブリ用としての温度センサ、大気中のガス濃度を検出するガスセンサ等が挙げられる。
【0035】
サーミスタ膜5の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用できる。また、サーミスタ膜5の膜厚は、目標とする抵抗値に応じて調整すればよく、例えば、0.2〜1.0μm程度の範囲で適宜設定可能である。
【0036】
保護膜6は、サーミスタ膜5を覆うように形成されている。また、スリット52上に形成される保護膜6の膜厚ΔT4は、その他の部位(スリット52を除くサーミスタ膜5)上に形成される保護膜6の膜厚ΔT5に比して、薄く(ΔT4<ΔT5)形成されている(図3参照)。
【0037】
さらに、保護膜6の材質は特に制限されず、具体例としては、Al23、SiO2、SiN等の絶縁性無機材料、ポリイミド、エポキシ等の樹脂等の絶縁性有機材料が挙げられる。保護膜6の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用できる。また、保護膜6の膜厚は、例えば、0.3〜2.0μm程度の範囲で適宜設定可能である。
【0038】
さらにまた、保護膜6は、その両端部を貫通することによって形成された開口61、62を有しており、この開口61、62内にパッド電極71、72が配置される。
【0039】
一対のパッド電極71、72は、一対の電極膜41、42に電気的に接続されている。パッド電極71、72の材質は、ワイヤーボンディング、フリップチップボンディング等、電気的に外部と接続し易い材料であれば、特に制限されず、Al、Ni、Cu、Au、Pt、Ag、Sn、Cr、Co、W、Pd、Mo、Ta、Ru、Nb等の単体金属、又は、これらを含む合金等の複合金属が挙げられる。また、パッド電極71、72の形成方法は、上述の如く電極膜41、42の形成方法と同様に、特に限定されず、必要に応じて積層してもよい。
【0040】
吸収膜8は、熱を吸収する膜であり、保護膜6を介してサーミスタ領域51を覆うように形成されている。吸収膜8は、薄膜サーミスタ1を例えば検出素子NTC1(図5、6参照)として使用する場合に用いられる。吸収膜8の材質は、例えば波長が4〜15μm程度の赤外線を吸収する材料であれば、特に制限されない。吸収膜8の具体例としては、金黒(Au黒)、白金黒(Pt黒)、金白金黒(AuPt黒)、銅黒(Cu黒)のめっき膜等の金属膜、又は、ポリイミド、エポキシ等の樹脂等の絶縁性有機材料からなる膜等が挙げられる。なお、上述した保護膜6を吸収膜8として兼用又は代用してもよい。
【0041】
一方、反射膜9は、熱(線)を反射し易い(熱を吸収し難い)膜であり、保護膜6を介してサーミスタ領域51を覆うように形成されている。反射膜9は、薄膜サーミスタ1を例えば参照素子NTC2(図5、6参照)として使用する場合に用いられる。反射膜9の材質は、例えば波長が4〜15μm程度の赤外線を反射する材料であれば、特に制限されず、反射膜9として機能するだけではなく、熱を基板2へ逃がす(伝播させる)という観点から、熱伝導率又は熱伝達率が比較的高い材料が好ましい。反射膜9の具体例としては、Al、Au、Pt等の単体金属膜が挙げられる。
【0042】
以上、詳述したように、本実施形態の薄膜サーミスタ1においては、サーミスタ膜5の外形サイズがキャビティ21の外形サイズに比して大きく形成されていることにより、基板2の肉薄部分TH1上にサーミスタ膜5が形成される。このため、基板2の肉厚部分TH3上で支持されている各機能膜(サーミスタ膜5及び保護膜6)の総膜厚と、基板2の肉薄部分TH1上で支持されている各機能膜の総膜厚とが一様の膜厚に形成されるので、サーミスタとしての強度が向上することが可能となり、薄膜サーミスタ1の反りの発生を防止することができる。しかも、スリット52が形成されていることにより、残留する膜の応力を緩和することできるので、膜のうねりや剥離の発生を確実に防止することができる。このように、本実施形態の薄膜サーミスタ1は、それぞれの膜で残留する応力を緩和することができるので、従来のサーミスタ構造に比して、機能膜の潜在的な応力問題を根本から改善し、その結果、基板2の肉厚部分TH3と基板2の肉薄部分TH1との境界(角部)に発生する亀裂を防止することができるので、機械的な強度が向上し、製品としての信頼性が向上する。
【0043】
また、上述の如く形成されたサーミスタ膜5において、サーミスタ領域51を、肉薄部分TH1上に形成することにより、熱容量の小さい肉薄部分TH1上にサーミスタ領域51が一様に薄く設けられた構造、すなわち、肉薄のメンブレン構造が形成されるので、本実施形態の薄膜サーミスタ1は、サーミスタ領域51に蓄積される熱容量を抑制することができる。これにより、薄膜サーミスタ1としての素子感度が向上し、熱に対する応答性も向上する。
【0044】
さらに、本発明者らが、このように構成された薄膜サーミスタ1の温度分布を測定したところ、スリット52の形成によってサーミスタ領域51に集中した熱が、拡散や伝導によってサーミスタ領域51の外部へ逃げてしまうことを防止する機能、すなわち、優れた熱の伝播遮断機能(断熱機能)を備える高機能センサを実現できることが判明した。かかる効果が奏される作用機構の詳細は、未だ明らかではないものの、例えば、以下のとおり推定される。
【0045】
赤外線により薄膜サーミスタ1が短時間で照射される場合には、まず、スリット52が形成されている部位の膜厚が他の部位の膜厚に比して薄いので、赤外線による熱はスリット52に集中しスリット52の温度が上昇する。次いで、スリット52に集中した熱は、スリット52の近くに位置するサーミスタ領域51に伝播するとともに、非サーミスタ領域53に伝播する。非サーミスタ領域53の外周部(端部)は、基板2に重なり合って形成されていることから、非サーミスタ領域53に伝播した熱は、時間の経過とともに基板2に伝播する。一方、サーミスタ領域51には、スリット52から伝播する熱が集中するため、時間の経過とともにサーミスタ領域51の温度が上昇し続け、サーミスタ領域51の外周部に比して中心部の温度が高温となる。その後、サーミスタ領域51に集中した熱は、非サーミスタ領域53に伝播しようとするが、スリット52の形成により、非サーミスタ領域53への熱の伝播が遮断されるので、サーミスタ領域51に集中した熱の逃げを防止できる(サーミスタ領域51への熱の閉じ込め効果が向上する)ものと推察される(但し、作用はこれらに限定されない。)。
【0046】
(変形例)
上述したとおり、本発明は、上記第1実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。例えば、図4に示す薄膜サーミスタの如く、各電極膜43、44における一方の端部430、440を、キャビティ21の対角線に沿って引き出すように形成し、引き出された各電極膜43、44の各端部430、440に各パッド電極71、72を接続するような構成にしても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。引き出し電極幅ΔW5は、例えば10〜50μm程度の範囲で適宜設定可能である。
【0047】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
まず、基板2(シリコン基板、誘電率:2.4)の面に、熱酸化法により、厚さ0.5μmのシリコン酸化膜を略全面に形成し、第1絶縁膜3を形成した。次いで、第1絶縁膜3の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚さ5nmのTiの金属薄膜、及び厚さ100nmのPtの金属薄膜を順次、略全面に形成する。形成された積層金属薄膜片上に、櫛歯状のエッチングマスクを形成した後、エッチングマスクで覆われていない積層金属薄膜片をイオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスクを除去することにより、櫛歯状の電極膜41、42を形成した。
【0049】
次いで、形成した電極膜41、42の表面に、スパッタリング法により、MnNiCo系複合酸化膜を成膜することで、厚さ0.4μm、抵抗値100kΩ、スリット幅20μmのサーミスタ膜5を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用し、基板温度600℃、アルゴン圧力0.5Pa、O2/Ar流量比1%、投入電力400Wの条件下で実施した。その後、BOX焼成炉を使用し、熱処理を大気雰囲気中で650℃、1時間の条件下で実施した。
【0050】
続いて、フォトリソ法により、スリット52を形成する部位を除くMnNiCo系複合酸化膜上にマスクを作成し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理し、その後、非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去することで、スリット52を形成した。しかる後、マスクを除去することにより、スリット52を有したサーミスタ膜5を形成した。
【0051】
次いで、サーミスタ膜5の表面に、TEOS−CVD法により、SiO2膜を成膜することで、厚さ0.4μmの保護膜6を形成した。その後、パッド電極71、72を配置する部位を除くSiO2膜上にマスクを作成し、パッド電極71、72を配置する部位にウェットエッチング処理を施し、その後、非マスク領域のSiO2膜を除去することで、開口61、62を形成した。
【0052】
続いて、形成した開口61、62及びマスク上に、EB蒸着法より、厚さ1.0μmのAlの金属薄膜を形成した。その後、リフトオフ法により、開口61、62を充填するように形成したAlの金属薄膜を除く部位のAl及びマスクを除去し、パッド電極71、72を形成した。
【0053】
薄膜サーミスタ1を検出素子NTC1として使用する場合には、まず、吸収膜8を形成する部位を除くSiO2膜及びパッド電極71、72上にマスクを作成した。次いで、抵抗加熱蒸着法により、N2を封入した真空雰囲気中で、長さ480μm、幅480μm、厚さ5.0μmの金黒(Au黒)のめっき膜を形成し、その後、リフトオフ法によりマスクを除去することで、吸収膜8を形成した。
【0054】
一方、薄膜サーミスタ1を参照素子NTC2として使用する場合には、まず、反射膜9を形成する部位を除くSiO2膜及びパッド電極71、72上にマスクを作成した。次いで、スパッタリング法により、Pt膜を成膜することで、長さ520μm、幅520μm、厚さ0.1μmのPt膜を形成し、その後、リフトオフ法によりマスクを除去することで、反射膜9を形成した。
【0055】
その後、第1絶縁膜3が形成されていない基板2の面に、フォトリソ法により、キャビティ21を形成する部位を除く基板2上にマスクを作成し、キャビティ21を形成する部位にイオンエッチング処理を施し、長さ500μm、幅500μmのキャビティ21を形成した。
【0056】
これにより、図1と略同等の構造を有する、実施例1の薄膜サーミスタ、すなわち、検出素子NTC1として使用する薄膜サーミスタ、及び参照素子NTC2として使用する薄膜サーミスタをそれぞれ得た。
【0057】
(実施例2)
キャビティ21の対角線に沿って引き出すように各電極膜43、44の端部430、440を形成することにより、引き出し幅20μmの櫛歯状の電極膜43、44を得たこと以外は、実施例1と同様に操作して、実施例2の薄膜サーミスタ、すなわち、検出素子として使用する薄膜サーミスタ、及び参照素子として使用する薄膜サーミスタをそれぞれ得た。
【0058】
(比較例1)
キャビティ21の対角線に沿って引き出すように各電極膜の端部を形成することにより、引き出し幅20μmの櫛歯状の電極膜を形成し、且つ、基板2の肉薄部分TH1上のみにサーミスタ膜を形成したこと以外は、実施例1と同様に操作して、比較例1の薄膜サーミスタ、すなわち、検出素子として使用する薄膜サーミスタ、及び参照素子として使用する薄膜サーミスタをそれぞれ得た。
【0059】
<差動電圧測定試験>
次に、上記のようにして得られた実施例1、実施例2及び比較例1の薄膜サーミスタのそれぞれについて、図5に示すフルブリッジ回路Cを用いて、差動電圧測定試験を実施した。
【0060】
具体的には、フルブリッジ回路Cは、評価対象の薄膜サーミスタを2つ、検出素子NTC1及び参照素子NTC2を使用し、その他、2つの基準抵抗素子R1、R2を使用する。なお、図6に示すように、本差動電圧測定試験を実施する際に使用する検出素子NTC1及び参照素子NTC2は、一体構造としている。そして、かかる検出素子NTC1及び参照素子NTC2に、電源電圧5.0V、120Hz程度のパルス波が1秒間に1回出力される赤外線を照射した場合に、各素子NTC1、NTC2が各基準抵抗素子R1、R2に接続されている2点P1、P2間の電圧差を検出することにより、差動電圧値を求めた。また、P1、P2の各電圧値より、検出素子NTC1及び参照素子NTC2の抵抗値を算出した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す結果より、実施例1の薄膜サーミスタは、抵抗値が140kΩと低いばかりではなく、応答時間が126msec(90%応答)と応答性も良く、電源が定常状態となった場合にも、十分低い抵抗値が見込まれることが確認された。
【0063】
また、実施例1と比較例1との比較から、実施例1の薄膜サーミスタは、サーミスタ膜の外形サイズがキャビティの外形サイズに比して大きく形成され、且つ、サーミスタ膜5にスリットが形成されていることにより、赤外線を照射しても、膜のうねりや膜の剥離が発生せず、膜に残留する応力が緩和されていることが確認された。しかも、実施例1の薄膜サーミスタは、基板の肉厚部分と基板の肉薄部分との境界(角部)に亀裂が生じず、薄膜サーミスタの破損は生じないことが確認された。
【0064】
また、実施例1と実施例2との比較から、実施例2の薄膜サーミスタは、応答時間、差動電圧値ともに高く、引き出した電極膜の端部をキャビティの対角線に沿って形成することにより、実施例1の薄膜サーミスタ1に比して、熱に対する高い応答性が得られたことが確認された。この結果は、実施例2の薄膜サーミスタが、実施例1の薄膜サーミスタに比して、基板上で支持される電極膜の面積が小さいので、基板に伝播する熱が最小限に抑えられるとともに、サーミスタ領域の表面温度がより上昇したためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したとおり、本発明のサーミスタは、機械的な強度に優れ、且つ、サーミスタの反りの発生を防止できるので、各種電子・電気デバイス及びそれらを備える各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能であり、とりわけ、かかるサーミスタを用いた温度センサやガスセンサとして広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…薄膜サーミスタ(サーミスタ)、2…基板、21…キャビティ(空洞部)、22…第2絶縁膜、3…第1絶縁膜、41、42、43、44…電極膜、430、440…電極膜の一方の端部、5…サーミスタ膜(機能膜)、51…サーミスタ領域、52…スリット(凹部)、ΔW1、ΔW2…スリット幅、53…非サーミスタ領域、ΔW3、ΔW4…非サーミスタ領域の幅、6…保護膜(機能膜)、61、62…開口、TH1…肉薄部分、TH3…肉厚部分、ΔT1、ΔT2…肉薄部分TH1の厚さ、ΔT3…肉厚部分TH3の厚さ、ΔT4、ΔT5…保護膜の膜厚、71、72…パッド電極、8…吸収膜、9…反射膜、NTC1…検出素子、NTC2…参照素子、R1、R2…基準抵抗素子、ΔW5…引き出し電極幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置されたサーミスタ膜とを備えるサーミスタであって、
前記基板は、該基板の最大厚さよりも薄い肉薄部分を有し、
前記サーミスタ膜は、凹部が形成されたもの、又は、該サーミスタ膜の一部が除去されて孔部が形成されたものである、
サーミスタ。
【請求項2】
前記凹部又は前記孔部は、当該サーミスタの平面視において、前記肉薄部分上に形成されている、
請求項1記載のサーミスタ。
【請求項3】
前記凹部又は前記孔部が、複数設けられ、
前記複数の凹部又は前記複数の孔部のそれぞれは、互いに対向するように形成されている、
請求項1又は2記載のサーミスタ。
【請求項4】
前記サーミスタ膜は、抵抗値を検出するための領域を有し、
前記凹部又は前記孔部は、前記抵抗値を検出するための領域を取り囲むように形成されている、
請求項1乃至3いずれか1項記載のサーミスタ。
【請求項5】
前記サーミスタ膜上には、保護膜が設けられ、
前記サーミスタ膜及び前記保護膜の機能膜のそれぞれは、該サーミスタの平面視において前記肉薄部分を覆うように形成されている、
請求項1乃至4いずれか1項記載のサーミスタ。
【請求項6】
前記凹部又は前記孔部は、前記サーミスタ膜を構成する材料とは異なる材料で充填されている、
請求項1乃至4いずれか1項記載のサーミスタ。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか1項記載のサーミスタを備える、温度センサ。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれか1項記載のサーミスタを備える、ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−119389(P2012−119389A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265498(P2010−265498)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】