説明

サーミスタ素子の製造方法

【課題】白金を含む電極線を有する未焼成サーミスタ素子を白金を含む支持体上に載置して焼成する工程を備える場合に、電極線と支持体との融着が防止されたサーミスタ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】白金を含む電極線21と電極線21の一部が埋設されたセラミック粉末プレス体22とを有する未焼成サーミスタ素子20を焼成してサーミスタ素子を得るサーミスタ素子の製造方法において、支持体11上に未焼成素子20を載置して焼成する工程を備え、支持体11は、白金を含む金属からなる本体部110と、本体部110のうちの少なくとも未焼成素子20が載置される表面に、セラミック粉末プレス体22を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなるコート層111を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーミスタ素子の製造方法に関する。更に詳しくは、白金を含む電極線を有するサーミスタ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、比抵抗が温度によって変化する導電性焼結体を用いた温度測定用のサーミスタ素子が知られている。このようなサーミスタ素子を利用した温度センサは、例えば、自動車等に配設された内燃機関の排気管において排ガスの温度測定に用いられたり、その排気管に接続された触媒装置において触媒の温度測定に用いられたりする。このようなサーミスタ素子は、焼成により導電性焼結体となるセラミック粉末プレス体をそれに付随した電極とを有した未焼成サーミスタ素子を焼成して得ることができる。
【0003】
しかし、この焼成過程では、その焼成を高度にコントロールする必要がある。特に、セラミック粉末プレス体が、焼成過程で成分変化することを極力避ける必要がある。具体的には、セラミック粉末プレス体を構成するセラミックの成分が、焼成過程で治具などへ拡散すると、目的とする導電性及び温度依存等の各種特性を安定して得ることが困難となるため、焼成時の成分拡散を特に抑制する必要がある。このために、未焼成サーミスタ素子を白金板の上に載置して焼成する方法が、下記特許文献1(特許文献1[0017])において知られている。
【0004】
一方、焼成治具の表面に、焼成物の成分の拡散を抑制する目的からセラミック成分を予め焼き付けておく方法が、下記特許文献2及び下記特許文献3等において知られている。即ち、特許文献2には、窒化アルミニウムを焼成するための治具であって、その表面に焼結助剤成分が表層に拡散含有された窒化アルミニウム製の治具を利用する方法が開示されている。この治具によれば、焼成物内の焼結助剤成分が治具へ拡散することを抑制できることが開示されている。また、特許文献3には、誘電体セラミックスやセラミック抵抗体などの焼成に利用される治具であって、アルミナ質基材表面にジルコニアを溶射した治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−353005号公報
【特許文献2】特開2006−327872号公報
【特許文献3】特開平10−267562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1(特許文献1の図4参照)では、白金板の表面に、未焼成サーミスタ素子の電極線が触れないよう、導電性酸化物焼結体を白金板に接するように配置したうえで、電極線が上方へ向かって突き出すように配置される(尚、この特許文献1における電極線は、セラミック粉末プレス体を白金板に配置した後に嵌挿される)。
しかし、実際にはこのように配置することが困難な場合がある。加えて、このように白金板上で配置できたとしても、その後、製造ラインにおいて、未焼成サーミスタ素子が白金板上において倒れないように維持することは困難である。
これらの未焼成サーミスタ素子が、白金板上で倒れると、電極線と白金板とが接した状態で焼成されることとなり、電極線と白金板とが融着してしまう場合がある。このような場合には、白金板から焼き上がったサーミスタ素子を取り外すために手間を要するとともに、サーミスタ素子を巧く白金板から取り外せない場合には、歩留まりの低下を招くことともなるし、高価な白金板を害する結果となり兼ねない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、白金を含む電極線を有した未焼成サーミスタ素子を、白金を含む支持体上で焼成する工程を備える場合において、電極線と支持体との融着を防止したサーミスタ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
〈1〉白金を含む電極線と該電極線の一部が埋設されたセラミック粉末プレス体とを有する未焼成サーミスタ素子を焼成してサーミスタ素子を得るサーミスタ素子の製造方法において、
支持体上に前記未焼成サーミスタ素子を載置して焼成する焼成工程を備え、
前記支持体は、白金を含む金属からなる本体部と、
前記本体部のうちの少なくとも前記未焼成サーミスタ素子が載置される表面に、前記セラミック粉末プレス体を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなるコート層と、を有することを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
〈2〉前記未焼成サーミスタ素子は、前記セラミック粉末プレス体と前記電極線とが互いに横に位置するように、前記支持体上に載置される前記〈1〉に記載のサーミスタ素子の製造方法。
〈3〉前記未焼成サーミスタ素子は、水平面に載置した場合に、下記長さLが下記高さHよりも大きいものである前記〈1〉又は〈2〉に記載のサーミスタ素子の製造方法。
長さL;前記電極線のうち、前記セラミック粉末プレス体内に埋設されていない露出部の長さ。
高さH;前記露出部のうち前記セラミック粉末プレス体側に位置した端部の前記水平面からの垂直高さ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のサーミスタ素子の製造方法、即ち、白金を含む電極線と該電極線の一部が埋設されたセラミック粉末プレス体とを有する未焼成サーミスタ素子を焼成してサーミスタ素子を得るサーミスタ素子の製造方法において、支持体上に前記未焼成サーミスタ素子を載置して焼成する焼成工程を備え、前記支持体は、白金を含む金属からなる本体部と、前記本体部のうちの少なくとも前記未焼成サーミスタ素子が載置される表面に、前記セラミック粉末プレス体を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなるコート層を有することを特徴とするサーミスタ素子の製造方法によれば、電極線と支持体との融着を防止することができる。
【0010】
また、このサーミスタ素子の製造方法において、未焼成サーミスタ素子が、セラミック粉末プレス体と電極線とが互いに横に位置するように支持体上に載置される場合には、本発明の製造方法を用いることによる効果をより確実に得ることができる。即ち、サーミスタ素子を横に倒した状態で焼成した場合であっても、電極線が支持体に融着することを防止できる。
【0011】
更に、このサーミスタ素子の製造方法において、未焼成サーミスタ素子を、水平面に載置した場合に、下記長さLが下記高さHよりも大きいものであり、前記長さLが、前記電極線のうち、前記セラミック粉末プレス体内に埋設されていない露出部の長さであり、前記高さHが、前記露出部のうちの前記セラミック粉末プレス体側の端部における前記水平面からの垂直高さである場合には、本発明の製造方法を用いることによる効果を特に得ることができる。即ち、焼成時の熱により電極線が下垂して支持体と接するおそれがある未焼成サーミスタ素子であっても、電極線を支持体に融着させることなく焼成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】支持体を説明する模式的な斜視図である。
【図2】支持体と焼成用サヤとの相関を説明する模式的な斜視図である。
【図3】支持体と焼成用サヤとの相関を説明する模式的な斜視図である。
【図4】未焼成サーミスタ素子を説明する模式的な断面図である。
【図5】未焼成サーミスタ素子と支持体との位置関係を説明する模式的な側面図である。
【図6】未焼成サーミスタ素子と支持体との位置関係を説明する模式的な側面図である。
【図7】未焼成サーミスタ素子と支持体との位置関係を説明する模式的な側面図である。
【図8】電極線が焼成の熱により変形する様子を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について、図1〜8を参照しながら以下詳細に説明する。
〈1〉サーミスタ素子
以下、まず、本発明の製造方法で製造するサーミスタ素子について説明する。尚、焼成前の未焼成サーミスタ素子と、焼成後のサーミスタ素子と、はセラミック粉末プレス体22の焼成収縮を生じるものの、実質的な外観変化を生じないのが通常であるため、焼成前後において同じ符号を用いて同じ図面を利用して説明する。
【0014】
前記サーミスタ素子20は、前述の通り、白金を含む電極線21と、この電極線21の一部が埋設されたセラミック粉末プレス体22とを有する未焼成サーミスタ素子20を焼成して得られる。この焼成によって、セラミック粉末プレス体22は、焼結されて導電性焼結体22となる。即ち、サーミスタ素子20は、導電性焼結体22と、この導電性焼結体22に一部が埋設された電極線21と、を有する。
【0015】
このサーミスタ素子20が有する電極線21は、白金を含む導電性の線材である。この電極線21は、少なくとも1本を有すればよく、その数は特に限定されないが、通常、2本を一対として有する。そして、これらの電極線21間に挟まれた導電性焼結体22の抵抗値を計測することに利用できる。但し、例えば、導電性焼結体22表面に焼付けられた薄膜電極を有する場合には、電極線21を一本のみを有し、他極としてこの薄膜電極を利用することができる。
【0016】
この電極線21には、白金が含まれる。その含有量は特に限定されないが、通常、電極線21全体100質量%に対して50質量%以上含有される。この含有量は100質量%であってもよい。即ち、電極線21は白金のみからなってもよい。また、この電極線21は、白金以外の成分を含有してもよい。白金以外の成分を含有する場合においても、白金の含有量は80質量%以上99.9質量%以下が好ましい。電極線21が白金以外の他の成分を含有する場合(即ち、電極線21が白金合金からなる場合)、他の成分としては、ロジウム、イリジウム、金、タングステン、パラジウム、ストロンチウム及びジルコニア等の金属元素が挙げられる。これらの元素は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
また、電極線21の形態は線状であればよく、その他の形態については特に限定されない。電極線21の長手方向に対する垂直な断面の形状(電極線21の断面形状)も特に限定されないが、通常、略円形であり、その直径は、通常0.1mm以上0.6mm以下であり、0.25mm以上0.40mm以下が好ましい。
更に、電極線21の長さは特に限定されず、シースに溶接可能な長さがあればよい。電極線は白金を含むため、コストの観点からは突き出し長さLは短い方がよい。
また、電極線21を一対備える場合には、これらの電極線21間の距離は、特に限定されず、電極線21間の距離は大きいほど抵抗値ばらつきを低減でき、抵抗値ばらつきの影響を受けない間隔とすることが好ましい。即ち、例えば、0.3mm以上1.5mm以下とすることができる。尚、この電極間の距離とは各電極線21の中心間の距離である。
【0018】
更に、電極線21のうち導電性焼結体22内に埋設されていない露出部212の長さLが、露出部212のうち導電性焼結体22側の端部212aの水平面5からの垂直高さHよりも大きいものであることが好ましい。このようなサーミスタ素子20を得る場合に、本発明の製造方法を用いることによるメリットを特に効果的に得ることができる。
即ち、高さHに対して長さLの方が大きいサーミスタ素子20は、焼成時に、電極線21が支持体11に接触する可能性がある素子である。例えば、電極線21は、白金を含むために比重が大きく、また、その長さが長い場合には特に、未焼成サーミスタ素子20の重心が電極線21側に偏る傾向にある。このために、図6に例示されるように、支持体11の表面に電極線21が接触した状態が安定した載置である場合がある。また、未焼成サーミスタ素子20の焼成時に電極線21が、熱によって変形し、図8のように、熱ダレし、支持体11表面に電極線21が接触する場合がある。このような現象を生じ易いのは、前述のように、長さLが高さHよりも大きい(長さL>高さH)であるものである。
【0019】
尚、未焼成サーミスタ素子20において、長さLが高さHよりも大きい場合には、焼成後のサーミスタ素子20においても、この相関は保たれる。即ち、未焼成サーミスタ素子の高さHが、焼成収縮によって小さくなることがあるが、大きくなることはなく、また、電極線21は、通常、焼成前後で変化しない。即ち、セラミック粉末プレス体22が焼成によって焼き締まることで、導電性焼結体22の高さHに対する露出部212の長さが相対的に長くなることはあっても、導電性焼結体22の高さHに対する露出部212の長さが相対的に短くなることはない。
また、電極線21は、導電性焼結体22内に埋設されて貫通されていなくてもよく、導電性焼結体22を貫通して反対側から電極線の他端が露出されていてもよい。この電極線21が導電性焼結体22内を貫通して、電極線21の他端が露出されている場合においては、露出されている長さが長い側を電極線21の露出部212とする。
【0020】
一方、導電性焼結体22は、セラミック粉末プレス体22が焼成されてなる部位である。この導電性焼結体22の形状は特に限定されないが、通常、板状をなすとともに、図4に例示されるように、厚み方向に対して略垂直な方向に電極線21が挿し込まれるように配設される。これは、通常、一対の電極線21が、その電極線21間に位置した導電性焼結体22の抵抗を測定するのに利用されるため、電極線21間に位置しない導電性焼結体の体積が抑制された形態とされているからである。
一方、この導電性焼結体22の平面形状は特に限定されず、例えば、略円形状、四角形状、六角形状(図2参照)などとすることができる。
この導電性焼結体22のより具体的な形状は特に限定されないが、通常、厚さは0.500mm以上1.20mm以下である。
【0021】
この導電性焼結体22を構成する導電性セラミックの種類は特に限定されず、サーミスタ素子として利用できる特性を有する導電性セラミックであれば限定されることなく利用できる。即ち、導電性セラミックの抵抗値が温度依存するセラミックであれば利用することができる。このような導電性セラミックを構成する元素としては、Y、Sm、Nd、Gd、Yb、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Cr、Ni、Al、Ti、Zr、Co、Si等が挙げられる。これらは、通常、4種以上が含有さされる。
より具体的には、(Y,Sr)(Mn,Cr,Al)O系導電性セラミック、(Y,Sr)(Fe,Cr,Al)O系導電性セラミック、(Y,Ca)(Mn,Cr)O系導電性セラミック等が挙げられる。
【0022】
〈2〉サーミスタ素子の製造方法
本発明のサーミスタ素子の製造方法は、白金を含む電極線21とその一部が埋設されたセラミック粉末プレス体22とを有する未焼成サーミスタ素子20を焼成してサーミスタ素子を得る方法において、
支持体11上に未焼成サーミスタ素子20を載置して焼成する焼成工程を備え、
支持体11は、白金を含む金属からなる本体部110と、
本体部110のうちの少なくとも未焼成サーミスタ素子20が載置される表面に、セラミック粉末プレス体22を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなるコート層111を有することを特徴とする。
【0023】
未焼成サーミスタ素子20は、電極線21とその一部が埋設されたセラミック粉末プレス体22とを有する。このうち、電極線21については、サーミスタ素子20における電極線21の説明をそのまま適用することができる。
一方、セラミック粉末プレス体22(以下、単に「プレス体」ともいう)は、焼成されて導電性焼結体22を形成することとなる仮焼粉末であるセラミック粉末が圧縮成型されたものである。このプレス体22は、前述した導電性焼結体22となるための元素を含んだ仮焼粉末以外に、プレス体22としての形状を維持するためのバインダ成分などを含有できる。
バインダとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、アクリル系バインダ等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このバインダの配合量は特に限定されないが、セラミック粉末100質量部に対して、通常、5質量部以上30質量部以下であり、10質量部以上25質量部以下が好ましい。
また、このプレス体22の形状等については、前記導電性焼結体22の説明をそのまま適用できる。
【0024】
即ち、電極線21の長さは特に限定されず、シースに溶接可能な長さがあればよい。電極線は白金を含むため、コストの観点からは突き出し長さLは短い方がよい。
また、プレス体22の具体的な形状は特に限定されないが、通常、厚さは厚い方が特性は安定するが、センサ形状に応じた適宜の厚みとすることが好ましい。
更に、電極線21のうちプレス体22内に埋設されていない露出部212の長さLが、露出部212のうちプレス体22側の端部212aの水平面5からの垂直高さHよりも大きいものであることが好ましい。
【0025】
また、焼成工程で用いる支持体11は、その上に未焼成サーミスタ素子20を載置して焼成するための治具であり、本体部110と、コート層111と、を有する。
このうち、本体部110は、白金を含む金属からなる。白金の含有量は特に限定されないが、通常、本体部110全体100質量%に対して50質量%以上含有される。この含有量は100質量%であってもよい。即ち、本体部110は白金のみからなってもよい。また、この本体部110は、白金以外の成分を含有してもよい。白金以外の成分を含有する場合においても、白金の含有量は80質量%以上99.9質量%以下が好ましく、90質量%以上99.5質量%以下が更に好ましい。本体部110が白金以外の他の成分を含有する場合(即ち、本体部110が白金合金からなる場合)、他の成分としては、ロジウム、イリジウム、金、タングステン、パラジウム、ストロンチウム、ジルコニア等の金属元素が挙げられる。これらの元素は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、本体部110の形状は特に限定されないが、通常、板状体である。また、その表面は平滑でもよいし、未焼成サーミスタ素子20が落ち込まない程度の幅の線状凹凸を有してもよいし、更には、各未焼成サーミスタ素子を各々載置できるように区画された表面を有してもよい。
更に、本体部110の厚さは特に限定されず、本体部110によりこの本体部110の形状を維持できる程度の強度を有することができればよく、この本体部110の厚さは焼成時に変形しない厚さを適宜選択することが好ましい。
【0027】
一方、コート層111は、セラミック粉末プレス体22を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなる層である。
このコート層111を備えることにより、電極線21が支持体11の本体部110に直接接触することを防止でき、本体部110に電極線21が融着してしまうことを防止できる、また、このコート層111が、前記実質的に同じセラミックスであることから、焼成時にプレス体22を構成するセラミックス成分が、コート層111へとその成分拡散すること、及び、コート層111からプレス体22へと成分拡散することを、各々著しく抑制できる。そして、未焼成サーミスタ素子20の載置形態を過度に管理する必要がない。即ち、仮に未焼成サーミスタ素子20が倒立状態で載置されており、焼成時に支持体11上で倒れたとしても、電極線21がコート層111に阻まれて本体部110と直接的に接触されないために、電極線21が本体部110と融着することを防止できる。従って、未焼成サーミスタ素子20の支持体11上での載置の自由度を向上させることができ、サーミスタ素子を製造するにあたっての作業性を著しく向上させることができる。
【0028】
このコート層111を構成するセラミックスと、プレス体22を構成するセラミックスとは、完全に同じ組成であるか、又は、実質的に同じ組成である。
実質的に同じセラミックスであるとは、コート層111を構成するセラミックスの成分と、プレス体22を構成するセラミックス(即ち、換言すれば、セラミック粉末を構成するセラミックス)の成分と、が同じ元素から構成されていることを意味する。即ち、例えば、コート層111を構成するセラミックスの成分が「A」及び「B」の2種の元素から構成される場合、プレス体22を構成するセラミックスの成分も「A」及び「B」の2種の元素から構成されることを意味する。但し、構成元素の割合は組成同士で異なってもよい。具体的には、一方の構成元素の比率に対して、他方の構成元素の比率が±50%以内であればよい。即ち、コート層111を構成するセラミックスの成分が「A」なる組成であり、プレス体22を構成するセラミックスの成分が「A」なる組成であるとした場合、S/2≦X≦2S、T/2≦Y≦2Tである。
【0029】
このコート層111は、どのようにして形成してもよいが、通常、プレス体22を構成するセラミックスの粉末(通常、仮焼粉末)を、本体部110の表面に振り掛けた後、焼成して焼き付けることで形成できる。この焼き付けの際の温度等は特に限定されず、本体部110にコート層111を密着させることができればよいが、特に未焼成サーミスタ素子20を焼成する焼成温度以上の温度で焼き付けることが好ましい。これにより、プレス体22を構成するセラミックスとコート層111を構成するセラミックスとの間の成分拡散をより効果的に抑制できる。
【0030】
更に、このコート層111の厚さは特に限定されないが、電極線21の融着を防止できる範囲でできるだけ薄く、均一であることが好ましい。尚、コート層111の厚さは、平面視したコート層111の中央において選択された任意の10点において測定されるコート層111の底面から外表面までの高さの平均値であるものとする。
【0031】
また、このコート層111は、本体部110の必要な部位にのみ形成することができる。即ち、例えば、外周部を焼成時に支持体として利用しないのであれば、外周部にはコート層111を必要としない。また、本体部の表面が区画されている場合には、各未焼成サーミスタ素子20が載置される区画内の底面にのみコート層111を備えることができる。更に、未焼成サーミスタ素子20が落ち込まない程度の幅の線状凹凸を有する場合には、未焼成サーミスタ素子20と直接的に接触する凸部の表面にのみコート層111を備えることができる。
【0032】
前記焼成工程において、未焼成サーミスタ素子20の支持体11上での載置状態は特に限定されず、例えば、(1)図5に例示されるように、プレス体22の一面を支持体11上に略水平に載置することで、電極線21を支持体11の表面から離間させて載置できる。この場合には、プレス体22の最も大きな面積を有する面を支持体11上に載置することが好ましい。また、(2)図6に例示されるように、電極線21の重みを利用して、電極線21の端部212b(露出部212のうちプレス体22と反対側の端部212b)と、プレス体22の電極線21側の端部22bと、を支持体11に接触させて未焼成サーミスタ素子20のバランスをとって載置することができる。更に、(3)図7に例示されるように、倒立させて載置することができる。
【0033】
即ち、前記(1)及び(2)の載置形態は、支持体11が下方に配置されているとした場合に、プレス体22と電極線21とは互いに横に位置するように配置されている。一方、前記(3)は、支持体11が下方に配置されているとした場合に、プレス体22と電極線21とが互いに上下に位置するとともに、プレス体22が電極線21の下方に位置するように載置されている。このような各種の載置形態のなかでは、前記(1)及び前記(2)が好ましい。
即ち、支持体11が下方に配置されているとした場合に、プレス体22と電極線21とは互いに横に位置するように載置されていることが好ましい。このような横に位置することで、比重の大きな電極線21を、比重の小さなプレス体22の上方に配置することなく、未焼成サーミスタ素子20の安定を保って支持体11上に載置できる。更に、例えば、プレス体22の質量を、電極線21との質量よりも大きくなるように調整して、未焼成サーミスタ素子20の重量バランスを図る必要なく安定して支持体11上に載置できる。
【0034】
即ち、従来のように、コート層111を備えない支持体11を用いて、未焼成サーミスタ素子20を焼成しようとすると、図6に例示される載置態様を採用することが困難な場合がある。しかし、プレス体22に対して電極線21の長さが長い場合には、焼成工程に至る前のラインの移動過程や、焼成工程等において、当初、図5に例示されるように支持体11に対して、未焼成サーミスタ素子20を略水平に載置したとしても、倒れてしまい、結果的に図6に例示されるような載置態様となってしまうことがある。
更には、同様のことは、とりわけ、プレス体22とのプレス体22内に埋設された電極線(埋設部211、図4参照)との合計質量に対して、プレス体22外に配置された電極線(露出部212、図4参照)の質量が大きい未焼成サーミスタ素子20において顕著である。従って、このような特性を有する未焼成サーミスタ素子20であっても、本方法では、焼成を行うことができる点において優れている。
【0035】
即ち、未焼成サーミスタ素子20の形態(電極線21の長さ、及び、全体の重量バランス)などを考慮した未焼成サーミスタ素子20の設計を行わなくとも、どのような形態の未焼成サーミスタ素子20であっても問題なく焼成できる。従って、未焼成サーミスタ素子の設計の自由度がより高く、更に、焼成前における取り扱い性に優れている。加えて、焼成の電極線21の融着がないことから、焼成されたサーミスタ素子20を支持体11上から離間させることが極めて容易であり、この点においても優れた作業性を得ることができる。また、焼成による電極線21の融着がないことから、サーミスタ素子20を支持体11上から取り外す際に生じるサーミスタ素子20の棄損がなく、歩留まりを向上させることができる。加えて、支持体11に対する棄損もなく、この点においても優れている。
【0036】
また、焼成工程では、通常、支持体11は、焼成用サヤ12に収容して利用される。焼成用サヤ12は、図2及び図3に例示されるように、支持体11を収容するための凹部を有し、この凹部に支持体11を収容し、焼成用サヤと一体として、焼成用容器として利用できる。また、焼成用サヤ12と支持体11とは、別体とされており、必要に応じて図3に例示されるように、取り外すことができる。
この焼成用サヤ12を構成する材質は特に限定されないが、通常、アルミナを主体とする耐火材料が利用される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の配線基板10について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は本実施例において利用する条件等に拘束されるものではない。
【0038】
支持体11の本体部110として、白金を主成分とする白金合金板を用意した。
次いで、この本体部110の一面側に、サーミスタに用いられる公知のセラミック粉末の仮焼粉末{平均粒径1μm以上2μm以下}3gを満遍なく振り掛けた。このセラミック粉末は、焼成目的とする未焼成サーミスタ素子20のプレス体22を構成するセラミック粉末と同じ組成である(即ち、構成元素の種類及びその数が一致するとともに、各元素同士の割合が同じである)。
【0039】
その後、温度1600℃において1時間保持して、上記セラミック粉末を本体部110の表面に焼き付けて第1焼付層を得た。この焼付温度は、焼成目的とする未焼成サーミスタ素子の焼成温度である1500℃を超える温度である。
更に、再度同様に、前記セラミック粉末(仮焼粉末、平均粒径1μm以上2μm以下)3gを、本体部110の表面に先に形成した第1焼付層上に満遍なくふるいかけた後、温度1600℃において1時間保持して、本体部110の表面に、再度、前記セラミック粉末を焼き付けて、本体部110の一面側にコート層111を備えた支持体11を得た。
【0040】
次いで、焼成用サヤ12として、焼成用サヤ12全体100質量%に対して99質量%以上のアルミナ(Al)含有する焼成用サヤ12を用意した。この焼成用サヤは、図2及び図3に示されるように上面が開放された箱型をなしている。
そして、この焼成用サヤ12の内部に、図2に示されるように、前記で得られたコート層111を備えた支持体11を填め込んだ。
【0041】
その後、セラミック粉末がバインダとともに造粒された造粒粉末をプレス成形して得られたプレス体22と、このプレス成形過程で、プレス体22に挿込まれるとともに、プレス体22内にその一部が埋設された一対の電極線とを備えた未焼成サーミスタ素子20(図2参照)を用意した。
この未焼成サーミスタ素子は、プレス体22は、六角形の平面形状をなし、厚さ0.9mmの板状体である。また、直径0.3mmである白金合金の電極線21を有する。電極線21は一対を有し、互いに平行にプレス体22の側面に挿し込まれるようにして一部が埋設されており、他部がプレス体22の外側に露出されている。露出部の長さは2.7mmである。更に、電極線21の露出部212の重さが、プレス体22と電極線21の埋設部211との合計の重さと同じであるとともに、長さL>高さHである。
【0042】
この未焼成サーミスタ素子20を、先に用意した支持体11がセットされた焼成用サヤ12の、支持体11のコート層111の表面に載置した。載置するに際して、図5に示される載置形態とした。即ち、プレス体22を構成する面のうち、もっとも広い面積を有する主面が、支持体11に接するように載置した。更に、この載置形態は、支持体11が下方に配置されているとした場合に、プレス体22と電極線21とが互いに横に位置する載置である。
このようにして、複数の未焼成サーミスタ素子20を支持体11のコート層111表面に載置した。
【0043】
次いで、焼成用サヤ12と同質の焼成用サヤ12の蓋(図示せず)を被せたうえで、焼成用容器10を焼成炉に投入して、温度1500℃で2時間焼成した。
その後、十分に炉内で冷却されてから、焼成炉から焼成用容器10を取り出し、焼成用サヤ12から支持体11を取り外した。その結果、すべてのサーミスタ素子20の電極線21は、支持体11の表面に融着されていなかった。
以上により、本発明の実施例に係るサーミスタの製造方法の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は温度センサの製造分野において広く利用できる。即ち、本発明のサーミスタ素子の製造方法は、各種温度センサに利用されるサーミスタ素子の製造に好適である。
【符号の説明】
【0045】
10;焼成用容器(支持体11が備えられた焼成用サヤ12)、
11;支持体、110;本体部、111;コート層、
21;焼成用サヤ、
20;未焼成サーミスタ素子(サーミスタ素子)、
21;電極線、211;埋設部、212;露出部、212a;露出部のセラミック粉末プレス体側端部(露出部の導電性焼結体側端部)、212b;露出部のセラミック粉末プレス体とは反対側の端部(露出部の導電性焼結体と反対側の端部)、
22;セラミック粉末プレス体(導電性焼結体)、22b;セラミック粉末プレス体の露出部側の端部、
5;水平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金を含む電極線と該電極線の一部が埋設されたセラミック粉末プレス体とを有する未焼成サーミスタ素子を焼成してサーミスタ素子を得るサーミスタ素子の製造方法において、
支持体上に前記未焼成サーミスタ素子を載置して焼成する焼成工程を備え、
前記支持体は、白金を含む金属からなる本体部と、
前記本体部のうちの少なくとも前記未焼成サーミスタ素子が載置される表面に、前記セラミック粉末プレス体を構成するセラミックスと実質的に同じセラミックスが焼き付けられてなるコート層と、を有することを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成サーミスタ素子は、前記セラミック粉末プレス体と前記電極線とが互いに横に位置するように、前記支持体上に載置される請求項1に記載のサーミスタ素子の製造方法。
【請求項3】
前記未焼成サーミスタ素子は、水平面に載置した場合に、下記長さLが下記高さHよりも大きいものである請求項1又は2に記載のサーミスタ素子の製造方法。
長さL;前記電極線のうち、前記セラミック粉末プレス体内に埋設されていない露出部の長さ。
高さH;前記露出部のうち前記セラミック粉末プレス体側に位置した端部の前記水平面からの垂直高さ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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