説明

サーメットまたは超硬合金の粉末混合物をミル粉砕する方法

本願発明は、サーメットまたは超硬合金の粉末をミル粉砕するための方法に関する。この方法は、硬質構成要素を形成する粉末、バインダー相を形成する粉末、および研削チャンバーを通る研削液を含むスラリーを循環させることを含む。この研削チャンバーは研削成分および攪拌機を含み、ここでこの攪拌機は本質的に水平な軸の廻りを回転する。本願発明によるこの方法は、サーメットまたは超硬合金の粉末混合物を極めて短いミル粉砕時間で提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ミル粉砕 時間極めて低減した、サーメットまたは超硬合金の粉末をミル粉砕する方法に関する。本願発明は、硬質構成要素を形成する粉末、バインダー相を形成する粉末、および研削 チャンバーを通る研削液を含むスラリーを循環させることを含み、研削チャンバーは研削成分および水平軸まわりに回転する攪拌機を含む。
【背景技術】
【0002】
サーメットまたは超硬合金の製造の主要な原理は、50年以上前から知られている。硬質構成要素、例えばTiC, WC, TiCN等を形成する粉末、およびバインダー相を形成する粉末は、通常のボールミルで研削 流体とともに、および場合によっては圧縮剤とともに研削される。このスラリーは次に通常スプレー乾燥されて、凝集粉末を形成し、これはグリーン体に圧縮され、次に切削工具等の基材に焼結される。
【0003】
この粉末を研削するために使用されるミルは従来、通常のボールミル、すなわち研削成分で充填された回転シリンダーミルであった。均質な粉末混合物を得るため、ならびに目指すグレインサイズを得るために必要な研削時間は、非常に長く、40時間のミル粉砕時間は珍しくなかった。
【0004】
近年、より微細なグレイン等級の要求が高まってきている。これは、より強力な研削を必要とし、そしてそのためにアトリッタータイプのミルがしばしば使われてきた。このアトリッターミルは、研削成分を活性化するために、攪拌手段を備えた垂直ボールミルである。これは小さいグレインサイズを有する超硬合金粉末をもたらすけれども、ミル粉砕時間がまだ長く、そしてこのタイプのミルに伴う技術的短所、研削チャンバー中のデッドゾーンによる広い粒子サイズ分布および大量の大きなグレイン、が存在する。これらのタイプのミルは、研削 チャンバー中での研削 成分の不均質な分布に苦しんでいる。これらの短所のいくつかは、循環ポンプの使用によって改善可能であるが、このようなアトリッターミルは、本体のサイズが小さくなった場合に、研削成分によって出口が閉塞し得るという欠点も有し、したがって研削成分のサイズについて低めの制限を設定している。
【0005】
切削工具を製造するために使用されるこれらの粉末の特性は非常に重要である、というのは、切削工具は切削操作で使用される際に大きな負荷を受け、そのため切削工具材料における非常に小さな欠陥が工具の故障を引き起こすことがあるためである。
【0006】
この粉末混合物の品質は、焼結体の特性に広い範囲で影響をおよぼす。焼結されたマイクロ構造中の大きなグレインは、微細グレイン等級を不出来に導くことがあり、したがって大きなグレインの量は最小にしなければならない。この粉末中での微細なもの部分の多くは、焼結する間の異常なグレインの成長につながることがあり、そのためミル粉砕した粉末中では狭いグレインサイズへの要求が高まっている。ミル粉砕に伴う別の目的は、できるだけバラツキのない均質な粉末混合物を得ることである。硬質相を形成する粉末とバインダー相を形成する粉末との間で良好な混合を得て、均一な焼結マイクロ構造を達成することは非常に重要である。
【0007】
水平攪拌ミルは、他の用途、例えば印刷インク、コーティング用の顔料、および工業的セラミックを研削するための分野では既知である。
【0008】
EP 0 448 100 B1公報は、研削体を含む水平ミル粉砕チャンバーを伴う攪拌機ミルについて記載しており、ここでその研削ストックは再循環させている。このミル粉砕 チャンバーはさらに、ミル粉砕 チャンバーの中心軸にある出口に配置されたセパレーターを備えている。EP 0 448 100 B1の攪拌機ミルは、セパレーターの摩耗を低減するという課題を解決することを請求している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の目的は、ミル粉砕 時間を低減させた、サーメットまたは超硬合金の粉末混合物のミル粉砕の方法を提供することにある。
【0010】
本願発明の目的は、大きなグレインおよび微粒なものの部分の量を低減させた、サーメットまたは超硬合金の粉末混合物を製造する方法を提供することにある。
【0011】
さらに別の本願発明の目的は、均質性を改善させた、サーメットまたは超硬合金の粉末混合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
今回、サーメットおよび超硬合金の粉末、およびそれから製造された製品の特性の維持または改善がこの粉末のスラリーを循環させることによって達成できること、およびそのスラリーのミル粉砕が、研削成分を備えた研削チャンバーにおいて且つ水平軸まわりに回転する攪拌機を用いることによって、極めて低減したミル粉砕 時間で達成できることが、分かった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本願発明による方法で思量されるミル粉砕装置の一実施態様の概略図を示す。この装置は、研削 チャンバー (1)を含み、チャンバー(1)は攪拌機 (2)および入口 (3)および出口 (4)を含む。さらに、この研削 チャンバーは、中心軸(5)のまわりに攪拌機 (2)を回転させるために、回転手段 (6)を備える。この装置はさらに攪拌槽 (7)および循環のための手段(8)を含む。この装置はまた温度測定のための手段(9)および圧力測定のための手段(10)を備える。
【図2】図2は、研削 チャンバー (1)内に配置された研削 体 (12)から研削されたスラリーを分離するための分離手段(11)を備える研削 チャンバー (1)の一実施態様の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明
本願発明は、サーメットまたは超硬合金の粉末をミル粉砕する方法に関し、硬質構成要素を形成する粉末およびバインダー相を形成する粉末および研削 チャンバーを通る研削 液を含むスラリーを循環させることを含み、研削 チャンバーは研削 成分および攪拌機を含み、ここでこの攪拌機は本質的に水平な軸のまわりに回転する。
【0015】
本質的に水平とは、ここでは研削プロセスを邪魔しない限り、小さな勾配が許されることを意味し、好ましくはその勾配は10度未満であり、より好ましくは5度未満であり、もっとも好ましくはその軸は水平である。
【0016】
研削 チャンバーはさらに入口および出口を備えており、ここでこの研削スラリーは研削 チャンバーに入ったり出たりできる。また、循環は循環するための手段、好ましくはポンプによって行われる。このスラリーは、好ましくは研削 チャンバーに戻る前に攪拌槽を通じて循環される。
【0017】
研削 成分は好ましくは球の形状であり、直径が0.2-4 mmであり、好ましくは0.5-2 mmである。この研削体は好ましくは超硬合金から造られる。
【0018】
この攪拌機は、好ましくは研削 チャンバー内に配置され、攪拌機が研削 チャンバーの中心に配置された本質的に水平な軸のまわりに回転するようにされ、研削スラリーが研削成分と一緒に動き続けるようにされる。この装置はまた攪拌機を回転するための手段、好ましくはモーターを備える。
【0019】
研削 チャンバーはさらに研削スラリーから研削 成分を分離するための分離手段を出口に備え、研削 成分が研削 チャンバーから出ないようにされる。この分離手段は好ましくは篩である。
【0020】
本願発明の一実施態様では、これらの出口および分離手段は、研削チャンバーの一端にある研削チャンバーの中心にある本質的に水平な軸に配置される。好ましくは、この分離手段は中空の攪拌機内に突き出ている。これは、小さめの直径を有する研削成分を使用するときに、有利である場合がある。出口および分離手段を研削チャンバーの中心にある本質的に水平な軸に配置することによって、研削 成分で分離手段が詰まることを避けることができる、というのは遠心力によって研削 成分が出口に集まり閉塞するのを防ぐからである。
【0021】
本願発明の一実施態様では、硬質構成要素を形成する粉末、バインダー相を形成する粉末、研削液、および他の添加剤がスラリーに予め混合されており、その後でそれらはミル粉砕装置に、好ましくは別のミキサーの手段によって、加えられる。
【0022】
硬質構成要素を形成する粉末は、サーメットおよび超硬合金の製造において一般的な任意の粉末であってよく、好適にはWC, TiC, TaC, NbC, Cr3C2, VC, TiCN および TiNの一以上の粉末である。
【0023】
バインダーを形成する粉末は、好ましくはCo, Ni または Feの一以上であり、好ましくはCoである。バインダー相を形成する粉末は、全乾燥粉末質量に対して、好ましくは2 から30 wt%まで、好ましくは6 から 12 wt%まで、の量で加えられる。
【0024】
この研削 液は任意の液であってよい。この研削 液は好ましくは水、アルコール、または有機溶剤、より好ましくは水または水とアルコールの混合物、もっとも好ましくは水とエタノールの混合物である。加えられる研削 液の量は、スラリーの性質によって決まる。スラリーの乾燥にはエネルギーが必要なので、コストダウンを維持するために液の量は最小限にすべきである。しかしながら、スラリーをポンプでくみだし、システムの詰まりを避けるために、十分な液を加える必要がある。
【0025】
本願発明の一実施態様では、圧縮剤も研削 チャンバーにこれらの粉末および研削液と一緒に加えられる。この圧縮剤はサーメットまたは超硬合金の製造分野において既知である任意の圧縮剤であってよく、好適にはこの圧縮剤はポリエチレングリコール(PEG)またはワックスである。その圧縮剤の量は好ましくは、全乾燥粉末体積に対して、15 から 25 vol%である。
【0026】
本願発明の一実施態様では、サーメット粉末が製造され、そして硬質構成要素を形成する粉末は好ましくは一以上のTiC, TiCN および WCである。バインダー相を形成する粉末は好ましくは一以上のCo, Ni または Feである。
【0027】
本願発明の一実施態様では、超硬合金粉末が製造され、そして硬質構成要素を形成する粉末は好ましくは主に WCである。より少ない量の他のカーバイド、例えばグレイン精製カーバイドおよびガンマ相形成カーバイドを加えることもできる。バインダー相を形成する粉末は好ましくはCoである。
【0028】
研削する前の粉末のWCグレインサイズは、粉末の最終用途に応じて広い範囲内で変化することがあり、0.1 から 18 μmである。この粉末を使用して、岩石掘削用超硬合金体、熱間圧延用ロール、摩耗部品等を製造するとき、研削する前のこの粉末のWCグレインサイズは好適には1 から 18 μm、好ましくは2 から 10 μmである。インサート、ドリル、およびミルのような切削工具を製造するとき、研削する前のこの粉末のWCグレインサイズは好ましくは0.4 から 5 μm、好ましくは0.8 から 4 μmである。
【0029】
非常に微細なグレインにされたWC粉末は、非常に小さい平均グレインサイズが要求されるPCB-ドリルの製造に特に好適であり、そこではそのWCグレインサイズが0.1 から 0.8 μmであり、好ましくは0.2から0.6 μmである。
【実施例】
【0030】
例 1
超微細粉末、発明1を、Co、バナジウムカーバイド、およびクロミウムカーバイドを表1の量で添加して、“Z”研削システムに適合したNetzsch Feinmahl Technik社製の水平攪拌ボールミル“Labstar”を使用して、作製した。5 kg (乾燥)バッチを計量し、研削液として作用する1.75 lのエタノールと混合した。結果として得たスラリーは、50分間グラインディングし(10分/kg)、攪拌機速度は1500 rpmとし、4400 gのO 1.15 mmの研削ボールを使用し、その後でこのバッチをスプレー乾燥した。
【0031】
比較のために、発明1と同じ開始組成を有する粉末を、生産規模のボールミル(600リットルのミルに560 kgの粉末)で40時間(4.3 分/kg)ミル粉砕した。使用したWCは0.65 μm (FSSS)の供給されたままのグレインサイズを有し、使用したコバルトはUmicoreから入手した超微細コバルトであった。
【0032】
【表1】

【0033】
本願発明により製造された粉末、発明1、および従来の方法により製造された粉末、参照1、の両方を同じやり方で1450℃で焼結した。その結果を表2で見ることが出来る。
【0034】
【表2】

【0035】
表2では、本願発明により製造した粉末、発明1、で製造した焼結体が、従来のボールミルで研削した粉末で製造した焼結体に比べて、TRSおよび粗グレイン数に関して、改善された値を示していることを、明確に見ることができる。
【0036】
例2
微細なグレイン等級、発明2は、Co、バナジウムカーバイド、およびクロミウムカーバイドを表3に示される量で添加し、例1と同じNetzsch Feinmahl Technik社製のLabstarミルを用いて製造した。10 kg(乾燥)バッチを計量し、研削 液として作用するエタノール2.7 lと混合した。結果として得たスラリーを63分(6.3 分/kg)研削し、攪拌機速度は1650 rpmとし、φ 1.15 mm研削ボール4400 gを用いて、その後このバッチをスプレー乾燥した。
【0037】
比較のために参照粉末、参照2、を生産規模のボールミル(600リットルのミルに560 kgの粉末)で40時間 (4.3 分/kg) ミル粉砕した。
使用したカーバイドは0.85 μm (FSSS)の供給されたままのグレインサイズを有し、使用したコバルトはUmicoreから入手した超微細コバルトであった。
【0038】
【表3】

【0039】
本願発明により製造された粉末、発明2、および従来の方法により製造された粉末、参照2、の両方を同じやり方で1410℃で焼結した。その結果を表4で見ることが出来る。
【0040】
【表4】

【0041】
表4では、本願発明により製造した粉末、発明2、で製造した焼結体が、従来のボールミルで研削した粉末で製造した焼結体に比べて、同様または改善された粗グレインの割合を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質構成要素を形成する粉末、バインダー相を形成する粉末、および研削成分と攪拌機を含む研削チャンバーを通る研削液を含むスラリーを循環させることを含み、ここで該攪拌機は本質的に水平な軸のまわりに回転する、サーメットまたは超硬合金の粉末をミル粉砕する方法。
【請求項2】
該硬質構成要素を形成する粉末が、WC, TiC, TaC, NbC, Cr3C2, VC, TiCN および TiNの一またはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該バインダー相を形成する粉末が、Co, Ni または Feの一またはそれ以上であり、全乾燥粉末質量に対して2から30質量%までの量であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリエチレングリコールまたはワックスである圧縮剤が、全乾燥粉末体積に対して15から25 vol%の量でミル粉砕装置に添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該研削チャンバーが、該研削 チャンバーの一端にあり、該研削チャンバーの中心にある本質的に水平な軸に配置された出口に分離手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該分離手段が、中空の攪拌機に突き出している篩であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該スラリーが、該研削 チャンバーに戻る前に、さらに攪拌槽を通って循環されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−525249(P2012−525249A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508434(P2012−508434)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050470
【国際公開番号】WO2010/126442
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507226695)サンドヴィク インテレクチュアル プロパティー アーゲー (34)
【Fターム(参考)】