説明

シアン汚染土壌の洗浄方法

【課題】シアン汚染土壌を洗浄処理するに際し、濃縮汚染土の発生量を低減してその処分コストを削減する。
【解決手段】汚染土壌をスラリーとし、該スラリーに高分子凝集剤を添加して混合攪拌することにより、スラリー中の5〜10μm以上の土粒子のみを選択的に凝集させてフロックを形成するとともに、5〜10μm未満の微細粒子を凝集させることなくスラリー中に分散させる。沈降分離したフロックからアルカリ抽出によりシアンを溶存態として抽出した後、中和安定化し脱水処理することにより5〜10μm以上の土粒子からなる浄化土を得る。溶存態としてのシアンを含む抽出水と5〜10μm未満の微細粒子を含むスラリーの上澄水とをさらに凝集沈殿処理し脱水処理してシアンを含む濃縮汚染土を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚染土壌の洗浄処理技術に係わり、特に低濃度のシアン汚染土壌を対象とする洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガス製造工場の跡地は石炭ガスの製造工程から排出されるシアン化化合物やベンゼン,重金属によって汚染されている場合が多く、その浄化処理が必要である。
シアン汚染土壌を対象とする浄化技術としては、たとえば特許文献1や特許文献2に示されるような洗浄処理によるものが知られている。
【0003】
これらの土壌洗浄技術では、汚染土壌中の環境汚染物質(重金属類、鉱物油、シアンなど)は、砂分や礫分などの粗粒子分よりも土壌有機物(腐植質)や粘土・シルトなどの細粒子分に多く吸着・保持されていることから、その浄化に際しては粗粒子分と細粒子分とを分離・除去することが効率的な処理を行ううえで有利である。
【0004】
たとえば特許文献1に開示されているような土壌洗浄方法は、汚染土壌をスラリーとして汚染物質を吸着している細粒子分をハイドロサイクロンにより分離したうえで、その細粒子分を含む懸濁液に凝集剤を添加・攪拌して凝集沈澱処理し、凝集スラッジを脱水して濃縮汚染土(脱水ケーキ)として処分するものである。
この場合、ハイドロサイクロンは土壌スラリーを分級する上で便利で処理能力の高い装置であるが、分級点が20〜30μmよりも小さいハイドロサイクロンではサイズが小さいため処理能力が低く、したがって大量の土壌スラリーを処理するためには非常に多くのサイクロンとポンプを必要とするため現実的ではないことから、土壌洗浄の分野においては分級点を20〜30μm程度とすることが限界であって通常は分級点が63〜125μmのハイドロサイクロンが一般に用いられる。
【0005】
また、特許文献2に示される汚染土壌の浄化方法は、重金属類やシアン等の有害物質に汚染された土壌を対象として、抽出剤を添加し、混合機で混練し、浸出液で浸出し、固液分離することにより有害物質を除去するものであるが、この場合もドラムウオッシャ、振動篩、ハイドロサイクロン、スパイラル分級機等を用いて150μm前後で分級し、粒径150μm以上の粒子を浄化処理するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−116397号公報
【特許文献2】特開2000−157964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように汚染土壌を分級したうえで洗浄処理する場合においては、たとえ低濃度の汚染土壌であっても分級した細粒子分の全てを濃縮汚染土(脱水ケーキ)として最終処分する必要があるから、処分土量および処分コストを削減するためには分級点を可及的に小さくしたいという要請がある。
すなわち、日本各地の土壌には63μm以下の細粒子分が乾燥比重比で25〜40%程度含まれていることが通常であり、粘土・シルト分を多く含む地域では細粒子分が土壌全体の50〜60%を示す場合もあることから、上記従来の洗浄方法において分級点を63〜125μmないし150μm程度に設定した場合には実質的に汚染土壌全体の大半を処理し処分しなければならないことになり、そのために多大なコストを要するものとなる。
【0008】
そこで、分級点をたとえば5〜10μm程度にまで小さくし、それにより分級した微細粒子を対象として処理・処分するようにすれば、処分土量や処分コストを大幅に削減することが可能であるが、上述したように従来のハイドロサイクロンを始めとする一般的な分級手段では処理効率を低下させることなく分級点を63〜125μmよりも充分に小さくすることは困難であることから、それを可能とする有効適切な手段の開発が望まれているのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明はシアンによる汚染土壌を洗浄処理するに際し、処理対象の汚染土壌をスラリーとし、該スラリーに高分子凝集剤を添加して混合攪拌することにより、スラリー中の5〜10μm以上の土粒子のみを選択的に凝集させてフロックを形成するとともに、5〜10μm未満の微細粒子を凝集させることなくスラリー中に分散させ、前記スラリーから前記フロックを沈降分離して該フロックからアルカリ抽出によりシアンを溶存態として抽出した後、該フロックを中和安定化し脱水処理することにより5〜10μm以上の土粒子からなる浄化土を得るとともに、前記フロックから抽出した溶存態としてのシアンを含む抽出水と、5〜10μm未満の微細粒子を含む前記スラリーの上澄水とをさらに凝集沈殿処理してその凝集スラッジを脱水処理することによりシアンを含む濃縮汚染土を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ハイドロサイクロン等の物理的手法では達成が困難である5〜10μm未満の微細粒子分の効率的な分離を化学的な手法である凝集沈澱法により分離するものであり、特に通常の凝集沈澱法の一部を省略して敢えて不完全な凝集沈澱処理を意図的に行うことによって、5〜10μm以上の土粒子のみを選択的にフロックとして沈降分離することにより5〜10μm未満の微細粒子の分級を可能としたものである。
そして、本発明では上記のようにして微細粒子分を分級した後の土粒子からアルカリ抽出によりシアンを溶存態として抽出し、その抽出水と5〜10μm未満の微細粒子を含む上澄水とをさらに凝集沈殿処理し脱水処理することによって、シアンが高濃度に濃縮された処分対象の濃縮汚染土を得るものであり、かつシアンを抽出した後の5〜10μm以上の土粒子を中和安定化し脱水処理して再利用可能な浄化土を得るものである。
したがって本発明によれば、従来一般のこの種の洗浄方法においては処分せざるを得ない5〜10μm以上の大量の土粒子を再利用可能な浄化土として回収可能であり、その結果、濃縮汚染土の発生量を大幅に低減し得てその処分に要するコストを大幅に削減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の洗浄方法の実施形態を示すフロー図である。
【図2】同、不完全凝集沈殿法とアルカリ抽出法の原理を示す図である。
【図3】同、本発明による具体的な分級例を示す図である。
【図4】同、不完全凝集沈殿法についての説明図である。
【図5】通常の凝集沈殿法についての説明図である。
【図6】本発明が対象とするシアン汚染土壌の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、本発明が対象としている都市ガス製造工場跡地におけるシアン汚染土壌の特性について説明する。
【0013】
都市ガス製造工場跡地のシアン汚染土壌の粒度分布とロードカーブ(土壌粒子径と汚染物質の含有量との関係)を図6に示す。
図6(b)に示す全シアン含有量のロードカーブデータから、土壌全体の全シアン含有量は14mg/kgであるのに対し、38μm以下の細粒子分の全シアン含有量は100mg/kgと著しく高いこと、すなわち細粒子分側にシアンが偏在していることが認められる。
【0014】
また、都市ガス製造工場跡地におけるシアン汚染土壌中のシアン化合物の主体は毒性の強い遊離シアンではなく無害に近いと考えられている鉄シアン錯体(フェロシアン化鉄など)である。この鉄シアン錯体の溶解度はpHと酸化還元電位に大きく左右され、酸性から中性のpH領域かつ中程度の好気から嫌気状態においては鉄シアン錯体の溶解度はかなり小さい(1mg/L未満)が、アルカリ性かつ高い好気状態においてはこれらの溶解度は比較的高くなる。
したがって、この種のシアン汚染土壌はアルカリ溶液の中でスクラビング(擦り合わせ)を行ってアルカリ抽出を行うことにより、シアンを効果的に抽出させて細粒子分の浄化が可能であると考えられる。
【0015】
本発明は、上記のようなシアン汚染土壌についての知見に基づき、以下で説明する特殊な凝集沈殿法(以下、「不完全凝集沈澱法」と称す)と「アルカリ抽出法」とによってシアン汚染土壌を洗浄することを主眼とする。
本発明における「不完全凝集沈澱法」は、ハイドロサイクロン等の物理的手法では達成が困難である5〜10μm未満の微細粒子分の効率的な分離を化学的な手法である凝集沈澱法により可能とするものであるが、通常の凝集沈澱法の一部を省略して敢えて不完全な凝集沈澱処理を意図的に行うようにしたものである。
【0016】
本発明における「不完全凝集沈殿法」を説明するに先立ち、まず図5を参照して通常の凝集沈澱法について説明する。
水中の粒子が凝集せずに安定に分散している理由は、粒子表面は一般に負の電荷を帯びており、粒子どうしの荷電の反発が生じるため、および粒子周囲に存在するイオンや溶存分子が接近を阻害しているためである。
したがって、凝集作用によって大きな粒子に成長させるためには、粒子の表面電荷を反対電荷によって中和して静電的な反発を弱め、また吸着しやすい官能基(吸着基)をもった高分子凝集剤で粒子間を架橋することが必要であり、そのため通常の凝集沈澱法においては図5に示すように無機凝集剤(PAC、硫酸バンドなど)と高分子凝集剤とを併用して凝集沈澱処理を行うことが必要である。
すなわち、無機凝集剤は粒子表面の荷電中和の作用が強く、同時に粒子や溶解物への吸着作用があるので、小さい粒子をもれなく集めるのに適しているが、強度の弱い小フロックしか形成できない。そこで、その小フロックに、さらに分子量が大きくアミド基やカルボキシル基などの吸着基をもったアニオン性や非イオン性の高分子凝集剤を添加することで、小フロックは架橋して強固な大フロックとなり、沈降が促進される。
【0017】
このように通常の凝集沈澱法では無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用することによって大フロックを形成して凝集沈澱作用を得るのであるが、この場合は微細粒子も含めて全ての粒子が大フロックとなって沈降して沈澱汚泥となるから、5〜10μmの微細粒子のみを選択的に分離することはできない。
【0018】
そこで本発明では、図4に示すように、無機凝集剤の添加を省略して高分子凝集剤のみを添加するに留めて、上述のように不完全な凝集沈澱処理を意図的に行う。
すなわち、無機凝集剤を添加せずに高分子凝集剤のみで凝集させる場合には凝集可能な粒子径は自ずと限界があり、5〜6μm以上の比較的大径の粒子どうしは従来と同様に大フロックを形成して沈降して沈澱汚泥となるが、5〜6μm未満の微細粒子に対しては高分子凝集剤の架橋作用が働きにくく、フロックを形成しないか、あるいはフロックを形成してもごく微細なものでしかなく、これらは沈降速度が小さいために浮遊しながらオーバーフローとして流出させることができる。
したがって、大フロックとなって沈降する沈澱汚泥(アンダーフロー)と上澄水(オーバーフロー)とを分離することが可能であり、それにより5〜6μm未満の微細粒子分とそれよりも大きな細粒子分とを分離できることになる。但し、現実的には上澄水を溢水流としてオーバーフローさせて回収することになるから、水平方向に流れる溢水流に伴われて10μm程度の微細粒子も回収されるため、実際の分級点はやや大きくなって図中に示しているように5〜10μm程度となる。
【0019】
なお、上記のような不完全凝集による微細粒子の分級・分離が可能となるためには、無機凝集剤の添加を省略することを前提として、高分子凝集剤の添加量およびpHを適正に調整する必要があるが、高分子凝集剤の添加量は通常の凝集沈澱法の場合に比べて少なくて良く、またpHは通常の凝集沈澱法の適正pHと異なるpH領域で凝集を行うように調整すると良い。
たとえば、高分子凝集剤の添加量は通常の凝集沈澱法において適正とされる量の1/2〜2/3程度で良い。また、高分子凝集剤としてアニオン系ポリマーを用いる場合における通常の凝集沈澱法ではpH=7〜9とすることが一般的であるが、本発明ではpH=9〜11とすることが好ましい。また、オーバーフローの溢流速度は、高分子凝集剤の添加量およびpHの調整と関連づけて上記のように分級点が5〜10μmとなるように適切に設定すれば良い。
【0020】
本発明は、シアン汚染土壌に対して上記の「不完全凝集沈殿法」と「アルカリ抽出法」を順次実施することを要旨とし、それによってシアン汚染土壌を効率的に洗浄浄化することが可能なものであり、その具体的な実施形態を図1〜図2に示す。
【0021】
まず、処理対象の汚染土壌に水を加えて湿式フルイによって2mmを超える粗粒子分を予め除去したうえで、2mm以下の細粒子分をハイドロサイクロンによって63μm以上の砂分(アンダーフロー)と63μm未満の細粒子分(オーバーフロー)とにより分級する。
【0022】
ハイドロサイクロンからのアンダーフローについては、フローテーションによってシアンを含有する細粒子分を選択的に分離することのみで環境基準を満足する洗浄砂が得られるが、ここで分離した細粒子分には高濃度のシアンを含んでいるので、これは後段の凝集沈殿工程に送ってさらに処理する。
【0023】
ハイドロサイクロンからのオーバーフローである63μm未満の細粒子分には、上述したようにその中の特に5〜10μm未満の微細粒子や有機物にシアンが偏在していることから、ここで上述の「不完全凝集沈澱法」を適用してさらに分級し、低濃度のシアンを含む5〜10μm以上の細粒子分をフロックとして沈降分離するとともに、高濃度のシアンを含む5〜10μm未満の微細粒子分を上澄水として回収する。
【0024】
上記の不完全凝集沈澱法により分離したフロックは低濃度のシアンを含有しているから、ここでNaOHを添加して上述の「アルカリ抽出法」を適用することによりシアンを抽出した後、中和・安定化処理し脱水することにより環境基準を満足する洗浄土(リサイクル土)が得られる。
【0025】
一方、不完全凝集沈殿法により分離された高濃度のシアンを含む上澄水と、上記のフローテーションからの細粒子分、および上記のアルカリ抽出工程からの抽出水は、さらにその後段で通常の凝集沈殿法(無機凝集剤を使用するいわば完全凝集沈殿法)を実施し、ここで5〜10μm未満の微細粒子および溶存態のシアンを全て凝集スラッジとして水中から分離し、それをプレスして脱水することにより高濃度のシアンを含む濃縮汚染土が得られるからこれは外部処分する。
【0026】
本発明によれば、従来においては濃縮汚染土に含まれてしまうことから処分せざるを得ない大量の5〜10μm以上の粒子分を再利用可能な浄化土として回収可能であり、したがって濃縮汚染土の発生量を大幅に低減し得てその処分に要するコストを大幅に削減することが可能である。
一実験例によれば、ハイドロサイクロンにより63μmで分級していた従来法による場合には処理対象の土壌全体の35%を濃縮汚染土として処分する必要があったが、上記の不完全凝集沈澱法により5〜10μmで分級した場合には濃縮汚染土を5〜8%未満にまで低減させることができ、従来法に比べて濃縮汚染土量を1/4程度にまで低減できることが確認されている。
【0027】
具体的には、図3に示すように2mm以下の土壌試料100kg-dryを対象とした場合、従来においてはハイドロサイクロンにより分級された63μm未満の細粒子分(オーバーフロー)は35kg-dry(全体の35%)にもなり、それがそのまま濃縮されて濃縮汚染土として処分する必要があったのに対し、本発明ではハイドロサイクロンからのオーバーフロー分を不完全凝集沈殿によりさらに分級することにより5〜10μm未満の微細粒子は5kg-dry(全体の5%)にまで低減し、最終的に処分するべき濃縮汚染土量はフローテーションおよびアルカリ抽出からの回収分を含めてもわずか8kg-dry(全体の8%)に留まった。
【0028】
しかも、図6に示したようにシアンの含有量は粒子径が小さいほど高いことから、本発明のように微細粒子分を選択的に処理することで従来法に比べてより効率的な処理が可能である。
以上のことから、本発明の洗浄方法は「不完全凝集沈澱法」と「アルカリ抽出法」を有機的に組み合わせたことで比較的低濃度のシアン汚染土壌を効率的に処理可能なものであり、極めて合理的であり有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンによる汚染土壌を洗浄処理する方法であって、
処理対象の汚染土壌をスラリーとし、該スラリーに高分子凝集剤を添加して混合攪拌することにより、スラリー中の5〜10μm以上の土粒子のみを選択的に凝集させてフロックを形成するとともに、5〜10μm未満の微細粒子を凝集させることなくスラリー中に分散させ、
前記スラリーから前記フロックを沈降分離して該フロックからアルカリ抽出によりシアンを溶存態として抽出した後、該フロックを中和安定化し脱水処理することにより5〜10μm以上の土粒子からなる浄化土を得るとともに、
前記フロックから抽出した溶存態としてのシアンを含む抽出水と、5〜10μm未満の微細粒子を含む前記スラリーの上澄水とをさらに凝集沈殿処理して、その凝集スラッジを脱水処理することによりシアンを含む濃縮汚染土を得ることを特徴とするシアン汚染土壌の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−81387(P2012−81387A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227902(P2010−227902)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】