説明

シクロアルキルアルキルエーテルの製造方法

【課題】 本発明の目的は、工業的規模の反応装置においても長期間安定的に高収率かつ高選択率でシクロアルキルアルキルエーテルを製造可能な方法を提供することにある。
【解決手段】 固定床流通式反応器を用い、陽イオン交換樹脂の存在下に脂環式オレフィンとアルコール(1)とを付加反応させてシクロアルキルアルキルエーテルを製造する方法において、この付加反応の前に(a)前記陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で前記反応器に充填して触媒層を形成する工程、(b)前記触媒層にアルコール(2)を供給して水を置換除去する工程、(c)工程(b)の後の触媒層に不活性ガスを供給してアルコール(2)を置換除去する工程、からなる前処理工程を、(a)〜(c)の順番に行なうことを特徴とするシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、精密機械部品の洗浄溶剤、反応溶剤、抽出溶剤、電子・電気材料の溶剤および剥離剤などとして有用なシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィンとアルコールの付加反応によるエーテル類の製造方法として、例えば、(ア)触媒として結晶性アルミノシリケートを用いる方法(特許文献1)、(イ)触媒として外表面酸点の多い特殊なアルミノシリケートを用いる方法(特許文献2)、および(ウ)触媒としてヘテロポリ酸の有する結晶水を該ヘテロポリ酸1分子あたり平均3.0分子以下に調整されたタングステンの酸化物を用いる方法(特許文献3)、(エ)触媒として水分含有量が5重量%以下となるまで乾燥した陽イオン交換樹脂を用いる方法(特許文献4)等が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの製造法の中で陽イオン交換樹脂以外の固体酸を使用する場合(特許文献1〜3)には、付加反応条件が厳しいものとなり、生産性が低く設備が大がかりなものになる問題があった。また、固体酸触媒として乾燥した陽イオン交換樹脂を用い、脂環式オレフィンを出発原料としてシクロアルキルアルキルエーテルを工業的規模で製造する場合(特許文献4)、固体酸触媒を乾燥して充填するのは触媒充填時において静電気が発生する場合や触媒活性の低下が問題となる場合あった。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−25345号公報
【特許文献2】特開昭61−249945号公報
【特許文献3】特開平5−163188号公報
【特許文献4】WO03/002500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固体酸触媒としての陽イオン交換樹脂を用い、脂環式オレフィンを出発原料としてシクロアルキルアルキルエーテルを工業的規模で製造する場合において、触媒充填時に静電気を発生させることなく、触媒活性低下が防止できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(I)触媒である陽イオン交換樹脂の耐熱温度が低いこと(耐熱温度は、80〜190℃程度)、及び、(II)工業的規模でシクロアルキルアルキルエーテルを製造する場合には反応熱の除去が間に合わなくなり反応初期の発熱(ホットスポット等の発生)により陽イオン交換樹脂が劣化すること、が触媒活性低下の原因であり、特定の前処理工程を行なえば、固体酸触媒を乾燥して充填する作業を行なわなくても十分な触媒活性が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)固定床流通式反応器を用い、陽イオン交換樹脂の存在下に脂環式オレフィンとアルコール(1)とを付加反応させてシクロアルキルアルキルエーテルを製造する方法において、この付加反応の前に
(a)前記陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で前記反応器に充填して触媒層を形成する工程、
(b)前記触媒層にアルコール(2)を供給して水を置換除去する工程、
(c)工程(b)の後の触媒層に不活性ガスを供給してアルコール(2)を置換除去する工程、
からなる前処理工程を、(a)〜(c)の順番に行なうことを特徴とするシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法、
(2)前記前処理工程の温度よりも、5℃以上高い温度で脂環式オレフィンとアルコール(1)を付加反応させることを特徴とする上記に記載の製造方法、
(3)脂環式オレフィンがシクロペンテンであり、アルコール(1)がメタノールである上記に記載の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法は、触媒充填時に静電気を発生させることなく、工業的規模の反応装置においても反応時の触媒活性低下が発生せず長期間安定的に高収率かつ高選択率でシクロアルキルアルキルエーテルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法は、固定床流通式反応器を用い、陽イオン交換樹脂の存在下に脂環式オレフィンとアルコール(1)とを付加反応させてシクロアルキルアルキルエーテルを製造する方法において、この付加反応の前に
(a)前記陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で前記反応器に充填して触媒層を形成する工程(以下、「工程(a)」と略す。)、
(b)前記触媒層にアルコール(2)を供給して水を置換除去する工程(以下、「工程(b)」と略す。)、
(c)工程(b)の後の触媒層に不活性ガスを供給してアルコール(2)を置換除去する工程(以下、「工程(c)」と略す。)、
からなる前処理を、(a)〜(c)の順番に行なうことを特徴とする。
【0010】
[1.反応原料]
本発明に用いる脂環式オレフィンは、脂肪族系の単環もしくは多環骨格を有し、かつ、これらの環骨格中に少なくとも1以上の炭素−炭素二重結合を有するものである。
上記環骨格は、好ましくはそれぞれ3〜10個の炭素で構成され、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基、スルホン基及びシアノ基などの置換基を有していても良い。
【0011】
脂環式オレフィンは、入手容易性および目的物がより効率よく得られる観点から、環骨格を構成する炭素数が5〜8個の単環を有する脂環式オレフィンが好ましく、置換基を有していてもよいシクロペンテンまたは置換基を有していてもよいシクロヘキセンが特に好ましい。
【0012】
置換基を有してもよいシクロペンテンの具体例としては、シクロペンテン、1−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、1,3−ジメチルシクロペンテン、1−フルオロシクロペンテン及び1−フェニルシクロペンテン等が挙げられる。また、置換基を有してもよいシクロヘキセンとしては、シクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン、4−メチルシクロヘキセン、1,3−ジメチルシクロヘキセン、1−フルオロシクロヘキセン、4−クロロシクロヘキセン、1−フェニルシクロヘキセン及び4−フェニルシクロヘキセンなどが挙げられる。これらの中でも、シクロペンテンまたはシクロヘキセンが好ましく、シクロペンテンが特に好ましい。
【0013】
本発明の反応原料として用いるアルコール(1)は、陽イオン交換樹脂の存在下で、脂環式オレフィンと付加反応し得るものであれば特に限定されないが、効率よくシクロアルキルアルキルエーテルが得られることなどの理由から、炭素数1〜10の直鎖及び分枝の飽和アルコール、または炭素数3〜8のシクロアルキルアルコールが好ましく、炭素数1〜6の直鎖及び分枝の飽和アルコールが特に好ましい。
【0014】
炭素数1〜10の直鎖及び分枝の飽和アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンチルアルコール及びn−ヘキシルアルコールなどが挙げられる。また、炭素数3〜8のシクロアルキルアルコールとしては、例えば、シクロプロピルアルコール、シクロペンチルアルコール及びシクロヘキシルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜3の直鎖及び分枝の飽和アルコールがさらに好ましく、メチルアルコールが特に好ましい。
【0015】
アルコール(1)の使用量は、脂環式オレフィン1モルに対して、通常、0.002〜11モル、好ましくは0.1〜5モル、特に好ましくは0.2〜1モルである。
上記範囲にすることで、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0016】
本発明においては、脂環式オレフィンとアルコール(1)を反応原料として用いるが、反応原料中の水分量は、好ましくは10,000重量ppm以下、より好ましくは1,000重量ppm以下、特に好ましくは500重量ppm以下である。水分量が多すぎる場合、反応収率が低下する恐れがある。なお、反応原料を、気化した状態で固定床流通式反応器に供給することが、反応収率の観点から好ましい。
【0017】
また、本発明を実施するにあたっては、陽イオン交換樹脂、脂環式オレフィンおよびアルコール(1)に対して不活性な溶媒または希釈剤を反応系に添加することができる。溶媒または希釈剤は、1種類単独でも2種類以上を混合して用いても良い。
【0018】
使用することができる溶媒および希釈剤としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン及びn−デカンなどの脂肪族飽和炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アニソール、クメン及びニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;シクロペンタン、アルキル置換シクロペンタン類、アルコキシ置換シクロペンタン類、ニトロ置換シクロペンタン類、シクロヘキサン、アルキル置換シクロヘキサン類、アルコキシ置換シクロヘキサン類、ニトロ置換シクロヘキサン類、シクロヘプタン、アルキル置換シクロヘプタン類、アルコキシ置換シクロヘプタン類、ニトロ置換シクロヘプタン類、シクロオクタン、アルキル置換シクロオクタン類、アルコキシ置換シクロオクタン類、ニトロ置換シクロオクタン類などの脂環式飽和炭化水素類;窒素、アルゴン、空気及びヘリウムなどが挙げられる。溶媒及び希釈剤の使用量は特に限定されず、付加反応を阻害しない範囲で任意の量を選択できるが、脂環式オレフィン及びアルコールの合計量100重量部に対し、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。
【0019】
[2.触媒]
触媒として使用する陽イオン交換樹脂は、微細な三次元網目構造の高分子基体に、陽イオンを交換可能な極性基を有する不溶性で多孔質の合成樹脂からなるものである。
【0020】
陽イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂の幾何学的構造からの分類としてゲル型樹脂とポーラス型樹脂に大別することができるが、本発明においては、ゲル型樹脂およびポーラス型樹脂のいずれも使用することができる。陽イオン交換樹脂の型には、イオン交換基のプロトン部分がそのままプロトンであるプロトン酸型及び前記イオン交換樹脂のプロトンがアルカリ金属イオンに交換されたアルカリ金属塩型があるが、プロトン酸型の陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0021】
陽イオン交換樹脂としては、イオン交換基としてスルホン酸基またはカルボン酸基を有し、イオン交換基が結合する高分子基体として、フェノールとホルムアルデヒドを縮重合させて得られる高分子基体や、スチレンまたはハロゲン化スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体基体を有するものが挙げられる。これらの中でも、入手および取扱いの容易さの観点から、イオン交換基としてスルホン酸基を有するスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂の使用が好ましく、スチレンまたはハロゲン化スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を高分子基体とし、イオン交換基としてスルホン酸基を有するスルホン酸型スチレン系強酸性陽イオン交換樹脂の使用が特に好ましい。
【0022】
陽イオン交換樹脂の好ましい具体例としては、三菱化学(株)製のスチレン系強酸性陽イオン交換樹脂ゲル型、製品名DIAION SK1B、SK012、SK104、SK106、SK110、SK112及びSK116;スチレン系強酸性陽イオン交換樹脂ポーラス型、製品名PK208、PK212、PK216、PK220及びPK228;スチレン系強酸性陽イオン交換樹脂ハイポーラス型、製品名HPK25、ダイヤイオンRCP−160M、RCP−160H及びRCP−170H;耐熱性スチレン系強酸性陽イオン交換樹脂、製品名RCP145;バイエル社製の強酸性バイエルキャタリストゲル型、製品名K1221、K1431、K1481及びK1491;強酸性バイエルキャタリストマクロポーラス型、製品名K2431、K2621及びK2641;ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(製品名XE−284);オルガノ(株)製のアンバーリスト、製品名CSP−2及びA−15;等が挙げられるが、これらの中でも高い比表面積を有する製品名DIAION RCP−160Mが好ましい。
【0023】
これらの陽イオン交換樹脂の見かけ密度(陽イオン交換樹脂を、容積1リットルの容器に満たした際の該陽イオン交換樹脂の重量(g))は、通常500〜1,000、好ましくは600〜900である。陽イオン交換樹脂の平均粒径は特に限定されないが、通常0.02mm〜10mm、好ましくは0.3mm〜2mmの範囲である。また、陽イオン交換樹脂は、プロトン酸型で使用されることが好ましく、通常の再生処理を行なうことにより繰り返して使用することができる。
【0024】
[3.反応装置]
付加反応は固定床流通式反応器を用い、反応器中に陽イオン交換樹脂を充填して触媒層を形成し、該触媒層に脂環式オレフィン及びアルコールを流通させることにより行なう。ここで、「触媒層」とは、固定床流通式反応器内に形成される、陽イオン交換樹脂の充填層をいい、陽イオン交換樹脂間の隙間は空間であっても良いし、アルコール等の液体又は気体で満たされていても良い。
なお、本発明において「固定床流通式反応器」とは、反応器内部に触媒層を有し、該触媒層に脂環式オレフィン及びアルコールを流通させることのできる全ての構造の反応器をいう。反応器の構造は特に限定されないが、管状の反応器が好ましい。管状の反応器としては、加熱装置を有する単管式反応器でも良いし、多管式熱交換型反応器でも良いが、反応熱の除熱効率の良い多管式熱交換型反応器が好ましい。
【0025】
管状の反応器(以下、「管状反応器」と略す。)を用いる場合、管状反応器内径は、触媒粒径を勘案して任意に設定することができるが、好ましくは5〜1000mm、より好ましくは10〜200mmである。管状反応器内径が大きすぎると付加反応熱の除去が難しくなり、逆に管状反応器径内径が小さすぎると、必要とされる管状反応器の数が著しく増大し、設備が複雑化するとともに設置スペースの面で不利になる。
【0026】
[4.前処理工程(a)〜(c)]
本発明においては、固定床流通式反応器を用い、陽イオン交換樹脂の存在下に脂環式オレフィンとアルコール(1)とを付加反応させるための前処理として
(a)前記陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で前記反応器に充填して触媒層を形成する工程、
(b)前記触媒層にアルコール(2)を供給して水を置換除去する工程、
(c)前記触媒層に不活性ガスを供給してアルコール(2)を置換除去する工程、
を行なうことが必須である。
【0027】
(工程(a))
工程(a)においては、陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で固定床流通式反応器に充填して触媒層を形成する。
陽イオン交換樹脂を湿潤させるための水は、陽イオン交換樹脂に悪影響を及ぼさず、かつ反応器材質との反応性が無ければ特に限定されないが、陽イオン交換樹脂中のプロトンの、金属陽イオンによるイオン交換を防止するために、陽イオン交換水または蒸留水を使用することが好ましい。触媒である陽イオン交換樹脂のプロトンが、金属陽イオンによりイオン交換されると、触媒活性が低下する恐れがある。
陽イオン交換樹脂を湿潤させる方法は特に限定されないが、湿潤状態で市販されている陽イオン交換樹脂をそのまま用いても良く、市販の陽イオン交換樹脂を水中に分散させて湿潤させても良い。
【0028】
また、陽イオン交換樹脂は、市販されているものをそのまま固定床流通式反応器に充填してもよいし、酸で前処理した後に固定床流通式反応器に充填しても良いが、触媒活性の観点から酸で前処理した後に固定床流通式反応器に充填することが好ましい。
酸での前処理の方法として、例えば希塩酸、希硫酸等の希酸中に陽イオン交換樹脂を添加し、20〜100℃で数分〜数十時間放置又は撹拌する方法や、カラム中に充填した陽イオン交換樹脂をカラムの一方の側から溶出する液が酸性となるまで希酸を流通させる方法が挙げられる。さらに、上記カラムは、固定床流通式反応器自体であっても良く、その場合、工程(b)の前に固定床流通式反応器に上記希酸を流通させれば良い。酸で前処理したイオン交換樹脂は、蒸留水又は脱イオン水で十分に洗浄して過剰の酸を除去した後に使用するのが好ましい。
また、本発明において、「水による湿潤状態」とは、陽イオン交換樹脂に水が付着(陽イオン交換樹脂の細孔に存在している水も含む。)しており、付着している水の量の、陽イオン交換樹脂と水の合計量に対する割合(以下、「含水量」という。)で30重量%以上であることをいう。陽イオン交換樹脂の含水量は40重量%以上が好ましく、50重量%以上が特に好ましい。
【0029】
(工程(b))
工程(b)においては、工程(a)で形成した触媒層にアルコール(2)を供給して、付着している水をアルコール(2)に置換除去する。
固定床流通式反応器に充填された陽イオン交換樹脂の水を置換除去するアルコール(2)は、陽イオン交換樹脂に悪影響を与えず、かつ水と著しい反応を起こさなければ特に限定されないが、付加反応原料として用いるアルコール(1)として例示したものと同様のものが使用される。中でも、次工程における温度制御(用いるアルコールの種類によっては、触媒層にホットスポットが発生し、陽イオン交換樹脂の耐熱温度を超えてしまう場合がある。)の容易さ及び適度な沸点を有することから、炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝の飽和アルコール、または炭素数3〜8のシクロアルキルアルコールが好ましく、炭素数1〜6の直鎖または分枝の飽和アルコールがより好ましく、メチルアルコールが特に好ましい。
なお、上記アルコール(2)として、付加反応原料として用いるアルコール(1)と同一のものを使用すれば、固定床流通式反応器出口の反応混合物に含まれる不純物の種類が少なくなるため、分離精製が容易となるメリットがある。
【0030】
工程(b)に使用するアルコール(2)は、液体または気体のいずれの状態でも良いが、水を置換除去する効率の問題から液体で使用することが好ましい。
【0031】
工程(b)の温度は、陽イオン交換樹脂の耐熱温度を越えない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは1〜180℃、より好ましくは5〜100℃、特に好ましくは10〜50℃の範囲である。
上記の範囲にすることで、本発明の効果がより一層向上する。
【0032】
水の置換除去時の圧力は特に限定されないが、絶対圧力で好ましくは1〜5,000kPa、より好ましくは50〜500kPa、特に好ましくは50〜200kPaの範囲である。
【0033】
工程(b)に用いるアルコール(2)の量は特に限定されないが、触媒層の容積(空塔基準)の1〜100容積倍が好ましく、2〜20容積倍がより好ましく、3〜10容積倍が特に好ましい。アルコールの量が少なすぎると水を十分置換することができないため付加反応収率が低下し、アルコールの量が多すぎると廃棄物量が増大する。なお、「空塔基準」とは、陽イオン交換樹脂間の隙間も含めた、触媒層全体が占める容積を基準にすることを意味する。
【0034】
触媒層の水が置換除去される度合いは、固定床流通式反応器出口から排出されるアルコール中の水分量を測定することにより検出できる。排出されるアルコール中の水分量が5重量%以下となるまで置換除去することが好ましく、1重量%以下となるまで置換除去することがより好ましく、0.5重量%以下となるまで置換除去することが特に好ましい。
【0035】
水の置換除去は、断続的または連続的のいずれの様態でも実施できるが、操作効率の観点から連続的に行なうことが好ましい。
【0036】
(工程(c))
工程(c)においては、工程(b)においてアルコールによる水の置換除去を行なった触媒層に、不活性ガスを供給してアルコールを置換除去する。
不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス及び空気等が挙げられるが、窒素ガスが好ましい。
触媒層のアルコールを不活性ガスで置換除去する際の温度は、触媒である陽イオン交換樹脂の耐熱温度を越えない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは1〜180℃、より好ましくは5〜100℃、特に好ましくは10〜50℃の範囲である。
上記の範囲にすることで、本発明の効果がより一層向上する。
【0037】
工程(c)の圧力は特に限定されないが、好ましくは絶対圧力で0〜5000kPa、より好ましくは0〜2000kPa、特に好ましくは50〜500kPaの範囲である。
【0038】
触媒層のアルコールを不活性ガスで置換除去する際の該不活性ガス量は、触媒層容積(空塔基準)に対して0.1〜100容積倍が好ましく、0.1〜10容積倍がより好ましく、0.3〜5容積倍がさらに好ましく、0.5〜3容積倍が特に好ましい。不活性ガス量が少なすぎると過剰のアルコールが触媒層に残留してしまい、付加反応開始時における圧力損失が増大してしまう。逆に不活性ガス量が多すぎると触媒層が必要以上に乾燥してしまい、付加反応開始時の発熱が大きくなって、触媒が劣化する恐れがある。
【0039】
[5.付加反応]
本発明においては、上記工程(a)〜(c)の前処理を行なった後、固定床流通式反応器に脂環式オレフィンとアルコールを供給して付加反応を開始する。
【0040】
付加反応温度は、脂環式オレフィン及びアルコールの沸点以上、かつ触媒である陽イオン交換樹脂の耐熱温度以下の範囲で任意に設定することができるが、好ましくは60〜180℃、より好ましくは70〜150℃である。付加反応温度が低過ぎる場合には付加反応速度が低下し、高過ぎる場合には触媒である陽イオン交換樹脂が熱により劣化して、触媒活性が低下する恐れがある。
また、固定床流通式反応器を熱媒体により加熱して付加反応を行なう場合、反応開始時の熱媒体温度を50〜75℃に0.1hr以上保ち、その後80〜100℃に上昇させることにより、反応初期の急激な温度上昇を防止出来るため、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0041】
なお、前記前処理工程を行なった後、該前処理工程の温度よりも10℃以上高い温度で脂環式オレフィンとアルコールを付加反応させることが触媒活性の低下防止の観点から好ましい。脂環式オレフィンとアルコールを付加反応させる際の触媒層の内部温度は、前処理工程時の温度よりも、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことが特に好ましい。なお、「前処理工程時の温度」とは、上記工程(a)〜(c)の最高到達温度をいう。
また、前処理工程終了後に、脂環式オレフィンとアルコールを供給しながら付加反応温度まで昇温することにより、本発明の効果は一層顕著なものとなる。
【0042】
付加反応圧力は脂環式オレフィン及びアルコールが気体の状態となる圧力であれば、特に限定されないが、絶対圧力で0.01〜10000kPaが好ましく、1〜5000kPaがより好ましく、50〜200kPaが特に好ましい。圧力が低過ぎると生産効率が低下し、圧力が高過ぎると副反応(アルコール類の脱水縮合等)が促進される。
【0043】
固定床流通式反応器出口から得られる反応液に、溶媒抽出及び蒸留等の通常の分離・精製方法を施すことによって、目的とするシクロアルキルアルキルエーテルを単離・精製することができる。蒸留は回分法または連続法のいずれの方法でも行なえるが、操作効率の問題から連続法が好ましい。
【0044】
本発明の製造方法により得られるシクロアルキルアルキルエーテルとしては、下記式(1)で表されるシクロアルキルアルキルエーテルが好ましい。
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよいシクロペンチル基又は置換基を有していてもよいシクロヘキシル基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜8のシクロアルキル基を表す。)
【0045】
前記式(1)で表されるシクロアルキルアルキルエーテルの好ましい具体例としては、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、シクロペンチルn−プロピルエーテル、シクロペンチルイソプロピルエーテル、シクロペンチルn−ブチルエーテル、シクロペンチルsec−ブチルエーテル、シクロペンチルtert−ブチルエーテル、シクロペンチルn−ペンチルエーテル、ジシクロペンチルエーテル、シクロペンチルシクロヘキシルエーテルなどのシクロペンチルアルキルエーテル類;シクロヘキシルメチルエーテル、シクロヘキシルエチルエーテル、シクロヘキシルn−プロピルエーテル、シクロヘキシルイソプロピルエーテル、シクロヘキシルn−ブチルエーテル、シクロヘキシルsec−ブチルエーテル、シクロヘキシルtert−ブチルエーテル、シクロヘキシルn−ペンチルエーテル、シクロヘキシルシクロプロピルエーテル、ジシクロヘキシルエーテルなどのシクロヘキシルアルキルエーテル類、などが挙げられる。これらの中でも、Rがシクロペンチル基であるシクロペンチルアルキルエーテルがより好ましく、シクロペンチルメチルエーテルまたはシクロペンチルエチルエーテルがさらに好ましく、シクロペンチルメチルエーテルが特に好ましい。
【0046】
本発明の製造方法により得られるシクロアルキルアルキルエーテルは、電子部品、精密機械部品の洗浄溶剤、種々の化学反応の反応溶剤、抽出溶剤、結晶化溶剤、電子・電気材料の溶剤および剥離剤などとして有用である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」は、「重量部」を表す。)
【0048】
(1)ガスクロマトグラフィーによる分析(以下、「GC分析」という。)は、次の条件で行なった。
分析機器:製品名Agilent 6850(Agilent社製)
カラム:キャピラリカラム 製品名HP−5 30m×0.25mmφ(日本ヒューレット・パッカード(株)製)
カラム温度:40℃(10分)、40℃→250℃(10℃/分)
注入口温度:200℃
検出器温度:300℃
キャリアーガス:He
検出器:FID
(2)シクロペンテン転化率(以下、「CPE転化率」と略す。)(%)は、(原料液1g中のシクロペンテン重量−反応液1g中のシクロペンテン重量)/(原料液1g中のシクロペンテン重量)×100で算出した。
(3)シクロペンチルメチルエーテル選択率(以下、「CPME選択率」と略す。)(%)は、(反応液1g中のシクロペンチルメチルエーテルモル数)/(原料液1g中のシクロペンテンモル数−反応液1g中のシクロペンテンモル数)×100で算出した。
(4)水分量の測定は、カールフィッシャー電量滴定法で、水分測定装置(製品名AQ−7 発生液:製品名アクアライト(RS−A)、対極液:製品名アクアライト(CN)、平沼産業(株)製)を用いて行なった。
【0049】
[実施例1]
1.前処理工程(a)(触媒層の形成)
蒸留水に市販のスチレン系陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、製品名DIAION RCP−160M、耐熱温度:120℃、含水量:53重量%)を分散させ十分膨潤させた後に、該イオン交換樹脂をメスシリンダーで計り取り、熱伝対及び熱媒循環用ジャケットを軸方向に備えた固定床流通式反応器(管状、内径57mm、SUS316製)に、空塔基準の触媒層容積が1275mlになるように充填した。その後該反応器に、原料供給用ポンプ、原料気化器、反応器出口ガス凝縮器、及び反応液採取用タンクを接続した。
【0050】
2.前処理工程(b)(アルコール(2)による触媒層中の水の置換除去)
前処理工程(a)終了後の固定床流通式反応器に、25℃、絶対圧力101kPaの条件下で、メタノールを34ml/分の通液速度で2.5時間導入し、触媒層の水をメタノールで置換除去した。
通液終了時に固定床流通式反応器出口から排出されるメタノールを採取し、水分量を測定したところ、水分含有量は0.25重量%であった。
【0051】
3.前処理工程(c)(不活性ガスによるアルコール(2)の置換除去)
前処理工程(b)終了後の固定床流通式反応器に、25℃、絶対圧力111kPaの条件下で、1245ml/分の供給速度で窒素ガスを1分間導入して、窒素ガスによるメタノールの置換除去を行なった。
【0052】
4.反応工程
前処理工程(c)終了後、反応器の熱媒温度を70℃まで上昇させた後に、気化器によって気化されたシクロペンテンとメチルアルコールの混合物(混合物中の水分含有量120重量ppm、混合モル比:シクロペンテン/メタノール=1.6/1)を、2.83L/分(標準状態での体積換算)の供給速度で固定床流通式反応器に供給し反応を開始した。このときの固定床流通式反応器内の最高温度は103℃であり、固定床流通式反応器入口の絶対圧力は133kPa、固定床流通式反応器出口の絶対圧力は101kPaであった。反応初期の発熱が終わった段階(反応開始から0.5hr後)で固定床流通式反応器の熱媒温度を90℃まで上昇させたところ、固定床流通式反応器内の最高温度は95℃であり、固定床流通式反応器入口圧力は116kPa、固定床流通式反応器出口圧力は常圧であった。更に5時間経過後に固定床流通式反応器出口より排出される反応液を採取し、GC分析を行ったところ、CPE転化率は14.4%、CPME選択率は93.7%であった。一連の操作の中で固定床流通式反応器内部温度は70〜103℃に保たれ、前処理工程の温度よりも30℃以上高かった。また、触媒の耐熱温度(120℃)を固定床流通式反応器内部温度が上回ることが無く、触媒の劣化による活性の低下は見られなかった。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同じ市販のスチレン系陽イオン交換樹脂を真空乾燥機に入れ、圧力13.3Pa、温度70℃で10時間乾燥した後、デシケーターに入れ室温で1週間乾燥し、その後、60℃で乾燥窒素ガスを流通させ4時間乾燥してから室温に戻し、乾燥イオン交換樹脂(含水量2.1重量%)を得た。
次いで、実施例1と同じ固定床流通式反応器に、上記で得られた乾燥イオン交換樹脂を実施例1と同じ空塔基準の触媒層容積になるように充填した。その後該反応器に、原料供給用ポンプ、原料気化器、反応器出口ガス凝縮器、及び反応液採取用タンクを接続した。
固定床流通式反応器の熱媒温度を70℃まで上昇させた後に、気化器によって分子状となったシクロペンテンとメチルアルコールの混合物(混合モル比:シクロペンテン/メタノール=1.6/1)を2.83L/分(標準状態での体積換算)の供給速度で固定床流通式反応器に供給し反応を開始した。このときの固定床流通式反応器内の最高温度は130℃まで上昇し、触媒の耐熱温度(120℃)を上回った。反応初期の発熱が終わった段階で固定床流通式反応器の熱媒温度を90℃まで上昇させたところ、固定床流通式反応器内の最高温度は97℃であった。更に5時間経過後に固定床流通式反応器出口より排出される反応液を採取し、GC分析を行って反応成績を計算したところ、CPE転化率は9.4%、CPME選択率は93.2%であった。
【0054】
本発明の特徴である特定の前処理工程を行なった後に、シクロペンテンとメタノールを供給して付加反応を行なった実施例1は、前処理工程を全く行なわず、乾燥した陽イオン交換樹脂を充填して付加反応を行なった比較例1に比べて、CPE基準の転化率が著しく高く、長時間運転しても触媒活性の低下が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床流通式反応器を用い、陽イオン交換樹脂の存在下に脂環式オレフィンとアルコール(1)とを付加反応させてシクロアルキルアルキルエーテルを製造する方法において、この付加反応の前に
(a)前記陽イオン交換樹脂を水による湿潤状態で前記反応器に充填して触媒層を形成する工程、
(b)前記触媒層にアルコール(2)を供給して水を置換除去する工程、
(c)工程(b)の後の触媒層に不活性ガスを供給してアルコール(2)を置換除去する工程、
からなる前処理工程を、(a)〜(c)の順番に行なうことを特徴とするシクロアルキルアルキルエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記前処理工程の温度よりも、5℃以上高い温度で脂環式オレフィンとアルコール(1)を付加反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
脂環式オレフィンがシクロペンテンであり、アルコール(1)がメタノールである請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−206536(P2006−206536A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22912(P2005−22912)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】