説明

シクロヘキサノンの製造方法

【課題】タール分の生成量を抑制しつつ、シクロヘキサノンを製造しうる方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、以下の第一酸化反応工程、タール分除去工程および第二酸化工程を含むことを特徴とする。
第一酸化反応工程:原料シクロヘキサンを液相状態で分子状酸素と転化率1%〜3%で反応させてシクロヘキサノンおよび未反応シクロヘキサンを含む第一酸化反応液を得る工程
タール分除去工程:第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液を反応温度未満に冷却してタール分を析出させ、析出したタール分を除去する工程
第二酸化反応工程:タール分除去工程でタール分を除去したのちの第一酸化反応液を反応温度に加熱し、液相状態で分子状酸素と転化率3%超で反応させてシクロヘキサノンを含む第二酸化反応液を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロヘキサノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサノンの製造方法として、原料シクロヘキサンを液相状態で分子状酸素と反応させる第一酸化反応工程と、この第一酸化工程で得られた第一酸化反応液をそのまま更に液相状態にて分子状酸素と反応させる第二酸化反応工程とを含む方法が知られている〔特許文献1:特開平4−9344号公報〕。
【0003】
【特許文献1】特開平4−9344号公報
【特許文献2】特開2002−161056号公報の段落番号0007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、かかる従来の製造方法では、第二酸化反応工程において多量のタール分が生ずるという問題があった。
【0005】
そこで本発明者は、タール分の生成量を抑制しつつ、シクロヘキサノンを製造しうる方法を開発するべく鋭意検討した結果、第一酸化反応工程で得た第一反応液を冷却してタール分を析出させ、このタール分を除去したのち第二酸化反応工程に供することにより、第二酸化反応工程で生成するタール分が極めて少なくなり、第一酸化工程および第二酸化工程におけるタール分の合計生成量を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、以下の第一酸化反応工程、タール分除去工程および第二酸化工程を含むシクロヘキサノンの製造方法を提供するものである。
【0007】
第一酸化反応工程:原料シクロヘキサンを液相状態で分子状酸素と転化率1%〜3%で反応させてシクロヘキサノンおよび未反応シクロヘキサンを含む第一酸化反応液を得る工程
タール分除去工程:第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液を反応温度未満に冷却してタール分を析出させ、析出したタール分を除去する工程
第二酸化反応工程:タール分除去工程でタール分を除去したのちの第一酸化反応液を加熱し、液相状態で分子状酸素と転化率3%超で反応させてシクロヘキサノンを含む第二酸化反応液を得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、タール分の生成量を抑制しつつ、原料シクロヘキサンから目的のシクロヘキサノンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔第一酸化反応工程〕
第一酸化反応工程では、原料シクロヘキサンを分子状酸素と反応させて第一酸化反応液を得る。
【0010】
分子状酸素としては、純酸素ガスを用いてもよいが、通常は空気が用いられる。分子状酸素の使用量は、原料シクロヘキサノンに対して通常は0.01モル倍〜0.5モル倍、好ましくは0.2モル倍以下である。
【0011】
分子状酸素との反応温度は、触媒の使用の有無、触媒を使用する場合はその種類、使用量などにより異なるが、通常は90℃以上、好ましくは120℃以上であり、通常160℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0012】
反応は液相状態で行われる。反応温度が大気圧下での原料シクロヘキサンの沸点を超える場合には、加圧下に反応させればよい。
【0013】
反応は通常、触媒の存在下に行われる。触媒としては、例えば遷移金属化合物が挙げられる〔特許文献2:特開2002−161056号公報の段落番号0007〕。触媒として使用しうる遷移金属化合物として具体的には、例えば遷移金属化合物の酸化物、有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、アルコキシド、アセチルアセトナートなどの錯体、オキソ酸、オキソ酸の塩、イソポリ酸、イソポリ酸の塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸の塩などが挙げられる。遷移金属としては、例えばセリウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、銅などが挙げられ、好ましくはコバルト、セリウム、マンガンなどである。有機酸塩を構成する有機酸としては、例えばオクチル酸などが挙げられる。
【0014】
触媒の使用量は原料シクロヘキサン100モルに対して通常0.000001モル〜0.1モル、好ましくは0.00001モル倍〜0.01モル倍、さらに好ましくは0.005モル倍以下である。
反応は通常、無溶媒で行われる。
【0015】
原料シクロヘキサンを分子状酸素と反応させるには、例えば液相状態の原料シクロヘキサンに触媒を分散させ、分子状酸素を吹き込めばよい。
【0016】
反応は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。また、1基の反応器を用いて1段で反応を行ってもよいし、2基以上の反応器を用いて2段以上の多段で反応を行ってもよい。
【0017】
反応は、転化率1%〜3%で行われる。第一酸化反応工程における転化率は、第一酸化反応工程において使用した原料シクロヘキサノンのうち、反応により消費されたものの割合である。転化率が1%未満であると、次のタール分除去工程でタール分が析出せず、除去できなくなるおそれがある。転化率が3%を超えると、次のタール分除去工程で析出するタール分が多量となる畏れがある。
【0018】
転化率は、例えば反応時間、触媒の使用量、分子状酸素の使用量、反応温度などにより調整することができる。反応時間が長いほど、触媒の使用量が多いほど、分子状酸素の使用量が多いほど、反応温度が高いほど、転化率が高くなる。
【0019】
第一酸化反応工程で原料シクロヘキサンを分子状酸素と反応させることにより第一酸化反応液を得る。この第一反応液は、原料シクロヘキサノンが酸化されて生成するシクロヘキサノンおよび未反応のシクロヘキサンを含むが、通常は、これらの他に、副生したシクロヘキサノールおよびシクロヘキシルパーオキサイドも含まれる。
【0020】
〔タール分除去工程〕
タール分除去工程では、第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液を冷却してタール分を析出させ、析出したタール分を除去する。
【0021】
第一酸化反応液の冷却温度は、第一酸化工程における反応温度よりも通常30℃以上低い温度であり、好ましくは20℃以上低い温度であって、通常は80℃〜150℃、好ましくは110℃〜130℃である。冷却温度が150℃を超えていると、タール分の析出が不十分である。冷却温度が80℃未満では、冷却に要するエネルギーに見合った効果が得られず、不経済である。冷却することにより、第一酸化反応液にタール分が析出する。
【0022】
タール分を析出させたのち、このタール分を除去する。タール分を除去するには、例えばデカンテーションにより分離する方法、第一酸化反応混合液を濾過処理する方法などが挙げられる。
【0023】
〔第二酸化反応工程〕
第二酸化反応工程では、タール分除去工程でタール分を除去したのちの第一反応液を、更に、分子状酸素と反応させる。
【0024】
分子状酸素としては、第一酸化反応工程と同様に、純酸素ガスを用いてもよいが、通常は空気が用いられる。分子状酸素の使用量は、原料シクロヘキサン100モルあたり通常は1モル〜50モル、好ましくは1モル〜20モルである。
【0025】
分子状酸素との反応温度は通常90℃以上、好ましくは120℃以上であり、通常160℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0026】
反応は液相状態で行われ、反応温度が大気圧下での第一反応混合液の沸点を超える場合には、加圧下に反応させればよい。
【0027】
反応は通常、触媒の存在下に行われる。触媒としては、第一酸化反応工程で挙げたと同様のものが用いられる。第一酸化反応液には通常、第一酸化反応工程で使用した触媒が含まれたままなので、この次第一酸化反応液に含まれる触媒がそのまま第二酸化反応工程における触媒として使用される。
【0028】
第二酸化反応工程における反応は、例えば液相状態の第一酸化反応混合液に分子状酸素を吹き込めばよい。
【0029】
反応は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。また、1基の反応器を用いて1段で反応を行ってもよいし、2基以上の反応器を用いて2段以上の多段で反応を行ってもよい。
【0030】
転化率は3%を超え、通常は5%以下である。転化率が5%を超えると、副生物が多くなる。第二酸化反応工程における転化率は、第一酸化反応工程で使用した原料シクロヘキサノンのうち、第一酸化反応工程および第二酸化反応工程で消費されたものの割合である。
【0031】
転化率は、例えば反応時間、触媒の使用量、分子状酸素の使用量、反応温度などにより調整することができる。反応時間が長いほど、触媒の使用量が多いほど、分子状酸素の使用量が多いほど、反応温度が高いほど、転化率が高くなる。
【0032】
このようにしてタール分を除去したのちの第一酸化反応液を分子状酸素と反応させることにより、第二酸化反応液を得る。この第二酸化反応液には、第一酸化反応液よりも多くのシクロヘキサノンが含まれる。第二酸化反応液は通常、未反応シクロヘキサンを含む。第二酸化反応液は通常、副生したシクロヘキサノールおよびシクロヘキシルパーオキサイドも含む。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0034】
実施例1
〔第一酸化反応工程〕
原料シクロヘキサンを100質量部/時間の供給量で、オクチル酸コバルト(コバルト触媒)を0.00002質量部/時間の供給量で、それぞれ、内部圧力1.0MPa(絶対圧)、温度140℃の第一反応容器に連続的に供給しながら、分子状酸素を0.47質量部/時間にて吹き込みつつ、この第一反応容器から反応混合物を連続的に抜出す方法により、平均滞留時間32分で原料シクロヘキサノンを分子状酸素と反応させて、第一酸化反応混合液を得た。この第一酸化反応液は100質量部中に、シクロヘキサノン0.38質量部、シクロヘキサノール0.79質量部、シクロヘキシルパーオキサイド0.72質量部、シクロヘキサン98.1質量部を含むものであった。この第一酸化反応工程に使用された原料シクロヘキサンのうち1.9%(転化率)が反応により消費されている。
【0035】
〔タール分除去工程〕
第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液を120℃に冷却したところ、タール分が析出した。次いで、同温度を保ちながら、デカンテーションにより、第一酸化反応液からタール分を除去した。
【0036】
〔第二酸化反応工程〕
タール分除去工程でタール分を除去したのちの第一酸化反応液を100質量部/時間で、内部圧力1.0MPa(絶対圧)、温度140℃の第二反応容器に連続的に供給しながら、分子状酸素を0.014質量部/時間にて吹き込みつつ、この第二反応容器から反応混合物を連続的に抜出す方法により、平均滞留時間36分で第一酸化反応液を分子状酸素と反応させて、第二酸化反応混合液を得た。この第二酸化反応液は、100質量部中に、シクロヘキサノン1.2質量部、シクロヘキサノール1.9質量部、シクロヘキシルパーオキサイド0.9質量部およびシクロヘキサン96.0質量部を含むものであった。この第二酸化反応工程では、第一酸化反応工程で使用した原料シクロヘキサンのうち4%(転化率)が反応により消費されている。
【0037】
上記の反応を650時間継続した後、タール分除去工程で除去されたタール分と、第二反応容器に蓄積されたタール分の合計量を求めたところ、第一酸化反応工程における原料シクロヘキサンの使用量に対して0.03ppm(質量比)であった。
【0038】
比較例1
第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液をそのまま第二酸化反応工程に使用した以外は、実施例1と同様に操作した。650時間経過後、第二酸化反応器に蓄積されたタール分を求めたところ、第一酸化反応工程における原料シクロヘキサンの使用量に対して2.5ppm(質量比)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第一酸化反応工程、タール分除去工程および第二酸化工程を含むシクロヘキサノンの製造方法。
第一酸化反応工程:原料シクロヘキサンを液相状態で分子状酸素と転化率1%〜3%で反応させてシクロヘキサノンおよび未反応シクロヘキサンを含む第一酸化反応液を得る工程
タール分除去工程:第一酸化反応工程で得た第一酸化反応液を反応温度未満に冷却してタール分を析出させ、析出したタール分を除去する工程
第二酸化反応工程:タール分除去工程でタール分を除去したのちの第一酸化反応液を反応温度に加熱し、液相状態で分子状酸素と転化率3%超で反応させてシクロヘキサノンを含む第二酸化反応液を得る工程

【公開番号】特開2008−308469(P2008−308469A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159909(P2007−159909)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】