説明

シクロヘキサン化合物

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、絶縁性液体として有用な化合物を提供することであり、また、タッチパネルを構成させた場合に広い温度範囲、特に低温域で使用することが可能であり、更にタッチパネル中の他の構成材料を侵さない化合物を提供することである。
【解決手段】 一般式(I)
【化1】


で表されるシクロヘキサン化合物を提供する。本願発明のシクロヘキサン化合物は、絶縁性液体を製造するのに有用であり、また、それを用いた組成物は、タッチパネル中の他の構成材料を侵さないことからタッチパネルの構成部材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性液体として有用なシクロヘキサン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化社会の進展に伴い、パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、電子手帳等のデジタルデータ処理装置において、ディスプレイ画面上に設置され、パネル表面の所望位置をオペレータがペンや指で押圧することにより、ディスプレイ上の二次元座標データを入力指示するパネル型入力装置が、タッチパネルの呼称で広く利用されている。
【0003】
一般にタッチパネルは、透明な絶縁基板と絶縁基板表面に設けられる透明な導電膜とを各々に有した一対の板状の検出素子を備えて構成される。それら検出素子は、隙間を介して導電膜同士を対向させた状態で、両絶縁基板の外周縁に沿って帯状に延設される接着剤層を介して、互いに重ね合わせて固定される。両検出素子の間の隙間は、この接着剤層の厚みにより確保される。なお通常、オペレータが押圧操作する上側の検出素子の絶縁基板は、可撓性が要求されるので樹脂フィルムから形成され、他方、ディスプレイ画面に隣接配置される下側の検出素子の絶縁基板は、ガラス板、プラスチック板、樹脂フィルム等から形成される。
【0004】
この種のタッチパネルにおいて、ディスプレイ画面の視認性を改善するために、一対の検出素子の間に形成される隙間に、各検出素子の屈折率と同等の屈折率を有する透明な絶縁性液体を封入して、光の透過率を向上させたものが知られている。このタッチを例えばペンでなぞることにより、上下の検出素子が接触し、その位置情報がデータ処理装置へと送られる。このため、絶縁性液体の抵抗が低いと異常感知等の不具合を惹き起こす。このような液体封入型のタッチパネルは、一般的な液晶ディスプレイ(LCD)における液晶セルに類似した構成を有するものであり、従来、液晶セルの作製方法と同様の方法で作製されている。
【0005】
従来のLCD製造工程における一般的な液晶セル作製方法では、絶縁基板及び絶縁基の一表面に形成した導電膜を各々に有する一対の電極板が、隙間を介して導電膜同士を対向させた状態で、一方の電極板の外周縁に沿って帯状に塗布された接着剤により相互に固着される。接着剤は初期流動性を有するので、接着剤が硬化するまでの間、一対の電極板の間隔を一定に保持するために、所定粒径の多数のガラスビーズが導電膜上に散布され、かつ接着剤に混入される。両電極板の間に帯状に塗布される接着剤は、局部的な欠落部分を有し、接着剤硬化後にはその欠落部分が液晶注入口として機能する。液晶材料は、液晶注入口を介して両電極板間の隙間に注入されて充填され、充填完了後、封止材により液晶注入口が封止される。このようにして、液晶材料を充填した両電極板間の隙間は、硬化した接着剤及び封止材により、外部環境に対し気密封止される。
【0006】
絶縁性液体の種類としては、電気的に絶縁性を持つ材料で、タッチパネル中の他の構成材料を侵さない液体であることが必要であり、シリコン系液体材料やヨウ化メチレン(特許文献1参照)、又はペルフルオロ化合物(特許文献2参照)などが知られている。しかしながら、当該引用文献記載の絶縁性液体は、低温での粘度が大きく、また十分な絶縁性があるとは言えなかった。
【0007】
更に、ペン入力タイプのタッチパネルの場合、入力時の書き味も重要な要素となる。タッチパネルに使用される絶縁性液体の粘度が高いと硬い硝子盤に文字を書くようで書き味が悪く、また加重を除去しても直ちに元の状態へ戻らないため、筆跡に由来する表示ムラが生じてしまう。タッチパネルは搭載される端末によって極めて低温の状況下でも使用される。このためこの絶縁性液体は低温下においても適当な粘度を保つ必要があるため、低温でも固体や液晶とはならず流動性を保たなければならない。
【0008】
例えばトランスシクロヘキサン化合物などが液晶材料として広く一般的に用いられており(特許文献3参照)、これらの電気化学的に安定な性質を利用した絶縁性液体としての検討も行われている。しかしながら、液晶状態の液晶材料は、液体状態に比べて粘度が大きく、光学的に等方性で無くなるなど、タッチパネル用の絶縁性液体として十分な特性を有しておらず、タッチパネル用の絶縁性液体としては使用することはできない。
【0009】
また、タッチパネル用の絶縁性液体の材料としてシスシクロヘキサン化合物も検討されたが、これらは含窒素化合物(特許文献4参照)又はエステル化合物(非特許文献1参照)であり極性基を持つことから、絶縁性が十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-173394号公報
【特許文献2】国際公開2007/013412号公報
【特許文献3】ドイツ国特許2636684号公報
【特許文献4】ドイツ国特許3731619号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ジャーナル・ヒュア・プラクティシェ・シミー (Journal fuer Praktische Chemie)、320、191、1978年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、絶縁性液体として有用な化合物を提供することであり、また、タッチパネルを構成させた場合に広い温度範囲、特に低温域で使用することが可能であり、更にタッチパネル中の他の構成材料を侵さない化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、絶縁性液体として、種々の構造について検討を行った結果、特定の構造を有するシクロヘキサン化合物を見出し、及び当該化合物を用いた組成物が前述の課題を解決することを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0014】
即ち本願発明は、一般式(I)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R及びR’は、それぞれ独立的に分岐していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数2〜18のアルケニルオキシ基又はフッ素原子を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、また任意の-CH2-基は独立的に-O-、-CH=CH-、-C≡C-で置き換えられてもよく、Lは-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH2O-、-OCH2-、-CF2O-、-OCF2-又は単結合を表し、Aは、トランス-1,4-シクロへキシレン基、シス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキセニレン基又は1,4-フェニレン基であり、1,4-フェニレン基中の任意の水素原子はハロゲン又は炭素数1〜4のアルキル基で置き換えられてもよい。)で表されるシスシクロヘキサン化合物及び当該化合物を用いた組成物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本願発明のシスシクロヘキサン化合物は、絶縁性液体を製造するのに有用であり、また、それを用いた組成物は、タッチパネル中の他の構成材料を侵さないことからタッチパネルの構成部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般式(I)において、Rが結合しているシクロヘキサンはシス体である。これにより、一般式(I)で表される化合物の融点は大幅に低下している。
【0019】
R及びR’は、それぞれ独立的に分岐していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数2〜18のアルケニルオキシ基又はフッ素原子を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、また任意の-CH2-基は独立的に-O-、-CH=CH-、-C≡C-で置き換えられてもよいが、分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基又はフッ素原子が好ましく、分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基又はフッ素原子がより好ましい。
【0020】
Lは-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH2O-、-OCH2-、-CF2O-、-OCF2-又は単結合を表すが、-CH2CH2-、-CH2O-又は単結合が好ましい。
【0021】
Aは、トランス-1,4-シクロへキシレン基、シス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキセニレン基又は1,4-フェニレン基であり、1,4-フェニレン基中の任意の水素原子はフッ素原子又は炭素数1〜4のアルキル基で置き換えられてもよいが、トランス-1,4-シクロへキシレン基、シス-1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基が好ましい。
【0022】
一般式(I)で表される化合物は、具体的には下記の一般式(I-1)〜一般式(I-7)で表される化合物が特に好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、R1及びR2はお互いに独立して分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基又はフッ素原子を表すが、分岐していても良い炭素数1〜8のアルキル基又はフッ素原子がより好ましく、nは0〜2の整数を表すが、0又は1がより好ましい。)
本発明において、一般式(I)で表される化合物について、製造例を以下に挙げる。勿論本発明の主旨、及び適用範囲は、これら製造例により制限されるものではない。
【0025】
本発明の一般式(I-1)の化合物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0026】
一般式(II-1)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、R2は一般式(I)におけるRと同じ意味を表す。)で表される化合物に、ハロゲン化メトキシメチルトリフェニルホスホニウム(III-1)
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子を表す。)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させた後、酸を用いて加水分解することにより一般式(IV-1)
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(IV-1)に、ハロゲン化アルキルトリフェニルホスホニウム(III-2)
【0033】
【化6】

【0034】
(式中、R3は炭素数1〜8のアルキル基又は水素原子を表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子を表す。)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させることにより一般式(V-1)
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-1)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-1)
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-1)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-1)で表される化合物を得ることができる。
【0039】
あるいは、化合物(IV-1)に、有機金属試薬(III-3)
【0040】
【化9】

【0041】
(式中、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表し、Zは塩化マグネシウム、塩化亜鉛、リチウム、銅、銅リチウム、トリアルキルケイ素、ホウ酸等の金属又は金属塩を表す。)を作用させることにより、一般式(VII-1)
【0042】
【化10】

【0043】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-1)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-2)
【0044】
【化11】

【0045】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される混合物を得る。得られた混合物(V-2)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-1)で表される化合物を得ることもできる。
【0046】
あるいは、一般式(II-2)
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、R1は一般式(I)におけるRと同じ意味を表す。)で表される化合物に、ハロゲン化メトキシメチルトリフェニルホスホニウム(III-1)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させた後、酸を用いて加水分解することにより一般式(IV-2)
【0049】
【化13】

【0050】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(IV-2)を、蒸留、カラム、再結晶などの手段により一般式(IV-3)で表される化合物を単離するか又は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、t-ブトキシカリウムなどの塩基を作用させることにより、一般式(IV-3)
【0051】
【化14】

【0052】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(IV-3)に、ハロゲン化アルキルトリフェニルホスホニウム(III-2)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させることにより一般式(V-3)
【0053】
【化15】

【0054】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-3)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(I-1)で表される化合物を得ることができる。
【0055】
あるいは、化合物(II-1)に有機金属試薬(III-3)を作用させることにより、一般式(VII-2)
【0056】
【化16】

【0057】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-2)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-4)
【0058】
【化17】

【0059】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される混合物を得る。得られた混合物(V-4)をパラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-2)
【0060】
【化18】

【0061】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-2)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-1)で表される化合物を得ることもできる。
【0062】
化合物(IV-2)に、ハロゲン化アルキルトリフェニルホスホニウム(III-2)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させることにより一般式(V-5)
【0063】
【化19】

【0064】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-5)にパラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式
【0065】
【化20】

【0066】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-2)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-2)で表される化合物を得ることができる。
【0067】
あるいは、化合物(IV-2)に、有機金属試薬(III-3)を作用させることにより、一般式(VII-3)
【0068】
【化21】

【0069】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-3)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-6)
【0070】
【化22】

【0071】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R3は一般式(III-2)におけると同じ意味を表す。)で表される混合物を得る。得られた混合物(V-6)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-2)で表される化合物を得ることもできる。
【0072】
一般式(II-1)に代えて、一般式(II-3)
【0073】
【化23】

【0074】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を用いることにより、一般式(I-3)で表される化合物を得ることができる。
【0075】
あるいは、一般式(II-2)に代えて、一般式(II-4)
【0076】
【化24】

【0077】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を用いることにより、一般式(I-3)及び一般式(I-4)で表される化合物を得ることができる。
【0078】
あるいは、一般式(IV-4)
【0079】
【化25】

【0080】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物に、一般式(III-4)
【0081】
【化26】

【0082】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子を表す。)と、t-ブトキシカリウム又はブチルリチウムなどの塩基から調製したイリドを作用させることにより、一般式(V-7)
【0083】
【化27】

【0084】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-7)をパラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-3)
【0085】
【化28】

【0086】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-3)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-3)で表される化合物を得ることもできる。
【0087】
あるいは、化合物(IV-4)に、一般式(III-5)
【0088】
【化29】

【0089】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、Zは塩化マグネシウム、塩化亜鉛、リチウム、銅、銅リチウム、トリアルキルケイ素、ホウ酸等の金属又は金属塩を表す。)を作用させることにより、一般式(VII-4)
【0090】
【化30】

【0091】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-4)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-8)
【0092】
【化31】

【0093】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた混合物(V-8)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-3)で表される化合物を得ることもできる。
【0094】
シクロヘキサノン(I-5)
【0095】
【化32】

【0096】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)に、一般式(III-6)
【0097】
【化33】

【0098】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは0〜4の整数を表し、Zは塩化マグネシウム、塩化亜鉛、リチウム、銅、銅リチウム、トリアルキルケイ素、ホウ酸等の金属又は金属塩を表す。)で表される化合物を作用させることにより、一般式(VII-4)
【0099】
【化34】

【0100】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-5)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-9)
【0101】
【化35】

【0102】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-9)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-4)
【0103】
【化36】

【0104】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-4)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-5)で表される化合物を得ることができる。
【0105】
一般式(IV-5)
【0106】
【化37】

【0107】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物に、化合物(III-6)を作用させることにより、一般式(VII-6)
【0108】
【化38】

【0109】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VII-6)を硫酸、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、又は塩化チオニル/ピリジン、塩化ホスホリル/ピリジンなどの酸/塩基共存下、脱水することにより、一般式(V-10)
【0110】
【化39】

【0111】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(V-10)に、パラジウム炭素、ロジウム炭素、ルテニウム炭素、白金炭素、スポンジニッケルなどの触媒存在下、接触水素還元することにより、一般式(VI-5)
【0112】
【化40】

【0113】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-5)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-6)で表される化合物を得ることができる。
【0114】
一般式(VIII-1)
【0115】
【化41】

【0116】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子を表す。)で表される化合物に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、金属ナトリウム、t-ブトキシカリウムなどの塩基存在下、一般式(VII-7)
【0117】
【化42】

【0118】
(式中、R2は一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を作用させることにより、一般式(VI-6)
【0119】
【化43】

【0120】
(式中、R1は一般式(II-2)におけると同じ意味を表し、R2は、一般式(II-1)におけると同じ意味を表し、nは一般式(III-6)におけると同じ意味を表す。)で表される化合物を得る。得られた化合物(VI-6)を蒸留、カラム、再結晶などにより精製することにより、一般式(I-7)で表される化合物を得ることができる。
【0121】
本願発明における絶縁性液体は、一般式(I)の化合物を単独で用いるか、任意の量を混合して用いることを特徴とする。また、その物性値を調整するために、一般式(I)で表される化合物に加えて、その他の化合物と任意の量を混合して用いることもできる。このとき用いられる他の化合物としては、下記の一般式(IX-1)〜一般式(IX-6)で表される化合物が好ましい。
【0122】
【化44】

【0123】
式中、R1及びR2はお互いに独立して分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基又はフッ素原子が好ましく、分岐していても良い炭素数1〜8のアルキル基又はフッ素原子がより好ましく、nは0〜2の整数が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0124】
また、本願発明の絶縁性液体には、その保存安定性を向上させるために安定剤を添加することもできる。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β-ナフチルアミン類、β-ナフトール類、ニトロソ化合物等が挙げられる。安定剤を使用する場合の添加量は、液晶組成物に対して0.005〜1%の範囲が好ましく、0.02〜0.5%がさらに好ましい。
【0125】
また、タッチパネルへの帯電を防止するための帯電防止剤や粘度を調節するための重合体又は重合性化合物を更に添加することもできる。
【0126】
更に、本願発明の化合物及びその組成物は、絶縁性液体としての性質を備えているため、車両用トランスやコンデンサーの絶縁油、OF(Oil Filled)ケーブルの絶縁油、トランジスターなどの電子部品の封入絶縁油、ファンカップリングオイルやビスカスカップリングオイルなどの液体継手のカップリングオイル、サーキットブレイカー、ディーゼルエンジン、ドアチェッカー、電子ばかりや車両及び航空機計器などのダンパー油、カメラなどの光学機械、ミシン、編機などの精密機械用潤滑油、燒結合金やプラスチック製の無給油軸受の含浸油、化学プラントや化学実験室などの油浴、ゴム・プラスチック成形時の離型、シェルモールドの鋳型の製造、ダイカスト成形時の離型剤、PPC複写機のトナー付着防止オイル等の目的に使用することができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
なお、相転移温度の測定は温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡及び示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。また、化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外共鳴スペクトル(IR)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等により確認した。各化合物の比抵抗値は、各化合物を測定用セルに入れ、電圧(DC)1V印加時の抵抗値を測定して得た。
【0129】
以下の略語を用いた。
THF:テトラヒドロフラン
(実施例1) シス-1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(I-A)の製造
【0130】
【化45】

【0131】
(実施例1-1) 4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒドの製造
塩化メトキシメチルトリフェニルホスホニウム(170 g)をTHF(700 ml)中、懸濁している中に、t-ブトキシカリウム(58 g)を、内温5〜10℃に保ちながら少しずつ加えた後、そのままの温度で30分間撹拌した。4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノン(100 g)のTHF(200 ml)溶液を、内温5〜10℃に保ちながら滴下して加えた後、そのままの温度で30分間撹拌し、さらに室温で30分間撹拌を続けた。反応液を氷水とヘキサンの混合物に滴下して、反応を終了させた。析出した固体を濾別した後、固体をヘキサンで洗浄した。有機相を合わせ、50%メタノール水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、減圧乾燥することにより、淡黄色液体(114 g)を得た。得られた液体をTHF(570 ml)中、攪拌している中に、10%塩酸水溶液(200 ml)を加えた後、60℃で4時間撹拌した。ヘキサンを加えた後、有機相を分離した。有機相を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、減圧乾燥することにより、微黄色液体の目的物(104 g)を得た。
(実施例1-2) 1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンの製造
臭化メチルトリフェニルホスホニウム(173 g)をTHF(700 ml)中、懸濁している中に、t-ブトキシかリム(57 g)を、内温5〜10℃に保ちながら少しずつ加えた後、そのままの温度で30分間撹拌した。(実施例1-1)で得られた4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒド(104 g)のTHF(200 ml)溶液を、内温5〜10℃に保ちながら滴下して加えた後、そのままの温度で30分間撹拌し、さらに室温で30分間撹拌を続けた。反応液を氷水とヘキサンの混合物に滴下して、反応を終了させた。析出した固体を濾別した後、固体をヘキサンで洗浄した。有機相を合わせ、50%メタノール水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル/ヘキサン)で精製することにより、無色透明液体の目的物(99 g)を得た。
(実施例1-3) シス-1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(I-A)の製造
(実施例1-2)で得られた1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサン(99 g)のエタノール/酢酸エチル混合溶液(250 ml/250 ml)に、5%パラジウム炭素(50%含水品、5 g)を加えた後、水素圧下(0.5 MPa)、室温で4時間攪拌した。触媒を濾別し、溶媒を留去し、1-エチル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンのシス/トランス比8/2の混合物を得た。得られた混合物を再結晶(ジクロロメタン+アセトン)し、結晶側にシス/トランス比5/95の混合物、母液側にシス/トランス比9/1の混合物を得た。得られた母液を、カラム(シリカゲル+アルミナ/ヘキサン)を用いて精製し、さらに減圧蒸留することにより、無色の液体(20 g)を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl3) δ 0.96 (t,CH3, 6H), 0.84-1.46 (m,CH+CH2, 21H), 1.54-1.96 (m, CH, 5H)、GC-MS(EI) 236(M+)
また、化合物(I-A)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(実施例2) シス,トランス-ビス(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エタン(I-B)の製造
【0132】
【化46】

【0133】
(実施例2-1) 4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドの製造
(実施例1-1)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノンに代えて、4-プロピルシクロヘキサノンを用いることにより、目的物を得た。
(実施例2-2) 1-(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)-2-(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エテンの製造
(実施例1-2)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシルカルバルデヒドに代えて、(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドを用い、臭化メチルトリフェニルホスホニウムに代えて、臭化(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)トリフェニルホスホニウムを用いることにより目的物を得た。
(実施例2-3) シス,トランス-ビス(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エタン(I-B)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例2-2)で得られた1-(トランス-4-プロピルシクロヘキシルメチル)-2-(4-プロピルシクロヘキシルメチル)エテンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl3) δ 0.96 (t,CH3, 6H), 0.80-1.46 (m,CH+CH2, 27H), 1.54-1.96 (m, CH, 5H)、GC-MS(EI) 250(M+)
また、化合物(I-B)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(実施例3) シス-1-プロピル-4-トリルシクロヘキサン(I-C)の製造
【0134】
【化47】

【0135】
(実施例3-1) 1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサンの製造
(以下、窒素雰囲気下で行う。)マグネシウム末(20 g)をTHF(100 ml)中、激しく攪拌している中に、4-ブロモトルエン(134 g)のTHF溶液(540 ml)を自発的に還流する速度で、滴下して加えた。滴下後、室温で1時間攪拌し続けた後、4-プロピルシクロヘキサノン(100 g)のTHF溶液(200 ml)を滴下して加えた。滴下後、室温で1時間攪拌し続けた後、濃塩酸と氷の混合物に滴下して加えて反応を停止させた。反応液の有機相を分離し、水層からトルエンで抽出した。有機相を集めた後、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、微黄色の液体(164 g)を得た。
(実施例3-2) 1-トリル-4-プロピルシクロヘキセンの製造
(実施例3-1)で得られた1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサン(164 g)のトルエン溶液(640 ml)に、4-トルエンスルホン酸一水和物(8 g)を加えた後、留去する水分を除去しながら4時間加熱還流した。室温まで冷却した後、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム(シリカゲル/トルエン)を用いて精製することにより、微黄色の液体(118 g)を得た。
(実施例3-3) シス-1-プロピル-4-トリルシクロヘキサン(I-C)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例3-2)で得られた1-トリル-4-プロピルシクロヘキセンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl3) δ 0.96 (t,CH3, 3H), 1.16-1.50 (m,CH+CH2, 12H), 1.90-2.20 (m, CH, 2H), 2.34 (s, CH3, 3H), 6.96 (d, ArH, 2H), 7.02 (d, ArH, 2H)、GC-MS(EI) 216(M+)
また、化合物(I-C)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(実施例4) シス-1-[2-(4-フルオロフェニル)エチル]-4-プロピルシクロヘキサン(I-D)の製造
【0136】
【化48】

【0137】
(実施例4-1) (4-プロピルシクロヘキシル)アセトアルデヒドの製造
(実施例1-1)における4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサノンに代えて、(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒドを用いることにより、目的物を得た。
(実施例4-2) 1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エタノールの製造
(実施例3-1)における4-ブロモトルエンに代えて、1-ブロモ-4-フルオロベンゼンを、4-プロピルシクロヘキサノンに代えて、(実施例4-1)で得られた(4-プロピルシクロヘキシル)アセトアルデヒドを用いることにより目的物を得た。
(実施例4-3) 1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテンの製造
(実施例3-2)における1-ヒドロキシ-4-プロピル-1-トリルシクロヘキサンに代えて、(実施例4-2)で得られた1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エタノールを用いることにより目的物を得た。
(実施例4-4) シス-1-[2-(4-フルオロフェニル)エチル]-4-プロピルシクロヘキサン(I-D)の製造
(実施例1-3)における1-ビニル-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンに代えて、(実施例4-3)で得られた1-(4-フルオロフェニル)-2-(4-プロピルシクロヘキシル)エテンを用いることにより目的物を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl3) δ 0.96 (t,CH3, 3H), 1.08-1.50 (m,CH+CH2, 15H), 1.90-1.98 (m, CH, 1H), 2.54 (t, CH2, 2H), 6.86-6.90 (dm, ArH, 2H), 7.08-7.12 (dm, ArH, 2H)、GC-MS(EI) 248(M+)
また、化合物(I-D)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(実施例5) シス-1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサン(I-E)の製造
【0138】
【化49】

【0139】
(実施例5-1) 4-プロピルシクロヘキシルメタノールの製造
(実施例2-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルカルバルデヒド(80 g)のエタノール溶液(400 ml)を激しく攪拌している中に、水素化ホウ素ナトリウム(8 g)を少量ずつ溶媒が穏やかに還流する速度で加えた。その混合物を1時間加熱還流した後、水を加えた。室温まで放冷した後、反応液が半量になるまで溶媒を減圧留去した。3 M塩酸を加えた後、酢酸エチルで抽出し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗條し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去することにより、微黄色の液体(64 g)を得た。
(実施例5-2) 1-ブロモメチル-4-プロピルシクロヘキサンの製造
(実施例5-1)で得られた4-プロピルシクロヘキシルメタノール(64 g)のジクロロメタン(240 ml)溶液に、水冷下、メタンスルホニルクロリド(52 g)を滴下して加えた後、さらにその温度を保ったままピリジン(38 g)を滴下して加えた。続けて4-ジメチルアミノピリジン(5.9 g)を加えた後、室温で8時間攪拌を続けた。反応液に水を加えて反応を停止させた後、有機相を分離し、水層からジクロロメタンで抽出した(2回)。集めた有機相を3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、薄黄色の固体(95 g)を得た。得られた固体をアセトン(400 ml)に溶解し、臭化リチウム(52 g)を加えた後、4時間加熱還流した。反応液を減圧濃縮した後、酢酸エチルを加え、さらに水を加えて析出した塩を溶解させた。有機相を分離し、水層から酢酸エチルで抽出し、集めた有機相を3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、減圧蒸留することにより、微黄色の液体(72 g)を得た。
(実施例5-3) シス-1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサン(I-E)の製造
(実施例5-2)で得られた1-ブロモメチル-4-プロピルシクロヘキサン(72 g)、3,4-ジフルオロフェノール(32 g)、無水炭酸カリウム(51 g)のN,N-ジメチルホルムアミド(360 ml)混合液を6時間加熱還流した後、室温まで冷却し、水を滴下して加えて反応を停止させた。トルエンで抽出し(3回)、集めた有機相を、3 M塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、そのままの溶液をカラム(シリカゲル+アルミナ、トルエン)を用いて精製し、1-(3,4-ジフルオロフェノキシメチル)-4-プロピルシクロヘキサンのシス/トランス比8/2の混合物を得た。得られた混合物を再結晶(アセトン+メタノール)し、結晶側にシス/トランス比5/95の混合物、母液側にシス/トランス比9/1の混合物を得た。得られた母液を、カラム(シリカゲル+アルミナ/ヘキサン)を用いて精製し、さらに減圧蒸留することにより、無色の液体(17 g)を得た。この化合物は-20℃においても液体状態を保っていた。
1H NMR (CDCl3) δ 0.96 (t,CH3, 3H), 1.04-1.50 (m,CH+CH2, 13H), 1.90-1.98 (m, CH, 1H), 3.86-3.98 (m, CH2O, 2H), 6.42-6.54 (m, ArH, 2H), 6.80-6.84 (m, ArH, 1H)、GC-MS(EI) 268(M+)
また、化合物(I-E)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(実施例6)
(実施例1)で得られた化合物(I-A)を用いて、組成物(M-0)
【0140】
【化50】

【0141】
を調製した。組成物(M-0)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-0)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
(参考例1)
(実施例1)で得られた化合物(I-A)を用いて、組成物(M-1)
【0142】
【化51】

【0143】
を調製した。組成物(M-1)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-1)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
【0144】
またこの組成物(M-1)を用いて、タッチパネルを作成したところ、表示ムラ等の不具合を起こすことなく良好な特性を示した。
(参考例2)
(実施例5)で得られた化合物(I-E)を用いて、組成物(M-2)
【0145】
【化52】

【0146】
を調製した。組成物(M-2)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を維持していた。また、組成物(M-2)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の高い値を示した。
【0147】
またこの組成物(M-1)を用いて、タッチパネルを作成したところ、表示ムラ等の不具合を起こすことなく良好な特性を示した。
(参考比較例1)
(参考例1)における化合物(I-A)に代えて、化合物(I-A)を含まない組成物(M-3)
【0148】
【化53】

【0149】
を調製した。組成物(M-3)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1012Ωm以上の値を示した。しかし組成物(M-3)を-40℃で1晩放置したところ、液晶状態を示した。このため、タッチパネルに使用すると低温域で液晶へ相転移することに伴う、粘度上昇が起こり、表示不良等の問題を惹き起こすため使用することができない。
【0150】
このことから、本願特許の化合物(I-A)は低温において液体状態を維持するため、絶縁性液体用の化合物として有用である。
(参考比較例2)
(参考例2)における化合物(I-E)に代えて、類似の化合物(J-E)
【0151】
【化54】

【0152】
を用いて組成物(M-4)
【0153】
【化55】

【0154】
を調製した。この組成物(M-4)を-40℃で1晩放置したところ、析出は見られず液体状態を示した。しかし、組成物(M-4)の20℃における比抵抗値を測定したところ、1.0×1010Ωmを示し、十分な絶縁性を示さなかった。このことから、本願特許の化合物(I-E)は高比抵抗値を維持することから絶縁性液体用の化合物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R及びR’は、それぞれ独立的に分岐していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルコキシル基、炭素数2〜18のアルケニルオキシ基又はフッ素原子を表し、それぞれの1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、また任意の-CH2-基は独立的に-O-、-CH=CH-、-C≡C-で置き換えられてもよく、Lは-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH2O-、-OCH2-、-CF2O-、-OCF2-又は単結合を表し、Aは、トランス-1,4-シクロへキシレン基、シス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-シクロヘキセニレン基又は1,4-フェニレン基であり、1,4-フェニレン基中の任意の水素原子はハロゲン又は炭素数1〜4のアルキル基で置き換えられてもよい。) で表されるシスシクロヘキサン化合物。
【請求項2】
Aがトランス-1,4-シクロへキシレン基、シス-1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基であり、1,4-フェニレン基中の任意の水素原子はフッ素原子で置き換えられてもよい請求項1記載のシスシクロヘキサン化合物。
【請求項3】
Lが-CH2CH2-、-CH2O-又は単結合表す請求項1記載のシスシクロヘキサン化合物。
【請求項4】
R1及びR2が、それぞれ独立的に分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基又はフッ素原子を表す請求項1記載のシスシクロヘキサン化合物。
【請求項5】
R1及びR2が、それぞれ独立的に分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基又はフッ素原子を表す請求項1記載のシスシクロヘキサン化合物。
【請求項6】
請求項1記載の一般式(I)で表されるシスシクロヘキサン化合物を用いた組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のシスシクロヘキサン化合物又は請求項6記載の組成物を用いた絶縁性液体。

【公開番号】特開2011−207782(P2011−207782A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74886(P2010−74886)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】