説明

シクロヘキシルアルカノール

【課題】調合香料原料として有用な、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、調合香料に木様のあたたかさや甘さとフローラル香気を付与することができる、調合香料原料として有用なシクロヘキシルアルカノール、その製造方法、及び当該シクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)


(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
で表されるシクロヘキシルアルカノール、その製造方法、及び当該シクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調合香料原料として有用な新規のシクロヘキシルアルカノール、その製造方法、及び該シクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
4-イソプロピルシクロヘキシルアルカノールには香料として有用な化合物があることが知られている。例えば、非特許文献1には4−イソプロピルシクロヘキサンメタノールと1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)−エタノールが調合香料に有用であることが記載されている。これらの化合物はいずれも調合香料にみずみずしい甘さを付与することが知られているが、あたたかい木様の甘さを持つフローラル香気ではないため、調合香料に十分なあたたかさを与えることはできなかった。
【0003】
【非特許文献1】第2版 香料と調香の基礎知識(産業図書株式会社)142頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、調合香料に木様のあたたかさや甘さとフローラル香気を付与することができる、調合香料原料として有用なシクロヘキシルアルカノール、その製造方法、及び当該シクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々のアルコール系化合物を合成し、その香気について検討したところ、六員環炭化水素骨格上のアルカノール基が結合した1位に炭素数2〜4の炭化水素基を有し、4位にイソプロピル基を有する特定のシクロヘキシルアルカノールが、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、かつ優れた香気持続性を有することを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)一般式(I)
【0006】
【化1】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
で表されるシクロヘキシルアルカノール、
【0007】
(2)一般式(II)
【化2】

(式中、R3は水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基またはOR4基を示し、R4は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表されるカルボニル化合物を用いて、一般式(III)
【0008】
【化3】

【0009】
(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R3は前記と同じである。)
で表されるカルボニル化合物を得た後に還元を行う、上記一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールの製造方法、及び
(3)上記(1)記載の一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシクロヘキシルアルカノールは、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、かつ優れた香気持続性を有する。また、本発明の製造方法によれば、本発明のシクロヘキシルアルカノールを工業的に有利な方法で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[シクロヘキシルアルカノール]
本発明は、下記一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールに関する。
【0012】
【化4】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
【0013】
一般式(I)中、R1で示される炭素数2〜4の炭化水素基としては、それぞれ炭素数2〜4のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基を挙げることができる。炭素数2〜4のアルキル基としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。炭素数2〜4のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基等が挙げられる。炭素数2〜4のアルキニル基としては、エチニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基等が挙げられる。これらのうちR1としては、匂いの強さと質の観点から、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、2−プロピニル基が好ましく、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基が更に好ましく、特にエチル基またはイソプロピル基が好ましい。
【0014】
2で示される炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、エチニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基等が挙げられる。R2としては、匂いの拡散性の観点から、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、2−プロピニル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基がより好ましく、水素原子、メチル基が更に好ましく水素原子が特に好ましい。
本発明においては、一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールとして、R1がエチル基またはイソプロピル基であり、かつR2が水素原子であるものが好ましい。
上記のような一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールは、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、かつ優れた香気持続性を有することから、香料組成物に好ましく含有させることができる。
【0015】
本発明のシクロヘキシルアルカノールは、六員環上の4位のイソプロピル基と1位のアルカノール基の相対配置により、シス体とトランス体の混合物として得られる場合がある。本発明において、シクロヘキシルアルカノールは、シス体とトランス体それぞれ単独のものあってもよいが、任意の比率の混合物であってもよい。匂いのフローラルらしさから、シス体とトランス体の含有比率は質量比率でシス体:トランス体=100:0〜10:90が好ましく、100:0〜50:50が更に好ましい。
【0016】
[シクロヘキシルアルカノールの製造方法]
本発明の一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールは、例えば前記一般式(III)で表されるカルボニル化合物を還元することにより得ることができる。
一般式(III)で表されるカルボニル化合物は、前記一般式(II)で表される化合物を用いて、例えば、一般式(II)で表される化合物をアルキル化、アルケニル化、アルキニル化等することにより得られる。
3が水素原子であるアルデヒド化合物の場合、一般式(III)で表されるカルボニル化合物は、例えば以下の式(A)に示すように、一般式(II)で表される4−イソプロピル−1−カルボニル化合物に、塩基性化合物の存在下で、アルキル化剤、アルケニル化剤、アルキニル化剤等、好ましくはアルキル化剤またはアルケニル化剤、更に好ましくはアルキル化剤を反応させて得ることができる。
【0017】
【化5】

式(A)中、R1及びR3は、上記一般式(III)と同様である。R1Xは、アルキル化剤、アルケニル化剤、またはアルキニル化剤を示す。
【0018】
塩基性化合物としては、具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどの金属水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの金属炭酸塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの金属、リチウムジイソプロピルアミドなどの金属アミド、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのアルキル金属、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムアルミニウムなどの金属水素化物、酸化ナトリウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、アンモニア、メチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピロリジン、ピリジンなどのアミン類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等の金属アルコキシドなどが挙げられる。
塩基性化合物の使用量は、反応収率の観点から、原料となる一般式(II)で表されるカルボニル化合物に対して10〜1000モル%の範囲が好ましく、50〜500モル%の範囲がより好ましい。
【0019】
上記式(A)に示される反応に用いられるR1Xで表わされるアルキル化剤、アルケニル化剤及びアルキニル化剤としては、その各々が炭素数2〜4である、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基をそれぞれ有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、いずれも公知のものが使用可能であるが、好ましくは、炭素数2〜4のアルキル基またはアルケニル基、更に好ましくは炭素数2〜4のアルキル基を有する化合物である。具体的には、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化イソプロピル、臭化イソプロピル、ヨウ化イソプロピル、臭化n−ブチル、ヨウ化n−ブチル、臭化tert−ブチル、ヨウ化tert−ブチル、塩化ビニル、臭化アリル、臭化プロパルギル等のハロゲン化アルキルや、ジエチル硫酸、ジプロピル硫酸等のアルキル硫酸や、プロパルギルベンゼンスルホネート等のスルホネートが好ましく挙げられる。この中で、反応性の観点から、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルキニルまたはアルキル硫酸がより好ましく、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニルまたはアルキル硫酸が更に好ましく、ハロゲン化アルキルまたはアルキル硫酸が特に好ましい。
1Xで表わされる上記化合物の使用量は、反応収率の観点から、原料となる一般式(II)で表されるカルボニル化合物に対して10〜1000モル%が好ましく、50〜500モル%がより好ましい。
【0020】
上記式(A)で示される反応は、無溶媒下で行うこともできるが、有機溶媒を用いて行うこともできる。有機溶媒としては、塩基性条件下で使用できる溶媒であれば特に限定されず、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
反応温度は、通常−78〜110℃であり、−20〜100℃が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
なお、一般式(II)で表されるカルボニル化合物は、公知の方法で製造することができる。
【0021】
3が炭素数1〜4の炭化水素基であるケトン化合物である場合、一般式(III)で表されるカルボニル化合物は、例えば第5版 実験化学講座15(丸善株式会社)300〜313頁記載のケトンのα位のアルキル化法を用いて製造することができる。
また、R3がOR4であるカルボン酸またはエステルである場合、一般式(III)で表されるカルボニル化合物は、例えば第5版 実験化学講座16(丸善株式会社)47〜50頁記載のエステルのα位のアニオンを利用する方法で製造することができる。
【0022】
一般式(I)で表されるシクロアルカノールは、以下の式(B)で示されるように、上記一般式(III)で表されるカルボニル化合物を還元して製造することができる。
【0023】
【化6】

【0024】
一般式(III)で表されるカルボニル化合物の還元は、通常カルボニル化合物をアルコールに還元する際に用いられる方法であればいずれも使用でき特に限定されないが、例えば第5版 実験化学講座14巻(丸善株式会社)1〜49頁記載のヒドリド還元、金属および金属塩による還元、接触水素化、水素移動反応による還元、微生物または酵素による還元などをいずれも用いることができる。この中で、R3が水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基である場合には、反応収率の観点から、ヒドリド還元、または接触水素化、水素移動反応による還元が好ましく用いられ、R3が前記OR4である場合にはヒドリド還元または接触水素化による還元が好ましく用いられる。
【0025】
上記ヒドリド還元に用いられる還元剤としては通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、水素化ほう素ナトリウム、水素化ほう素リチウム、ジボラン、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ナトリウム水素化ビス(メトキシエトキシ)アルミニウム等の還元剤を用いることができる。このうち、R3が水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基である場合には、取り扱いの容易さから水素化ほう素ナトリウムまたは水素化ほう素リチウムが好ましい。還元剤の使用量は特に限定されないが、原料のカルボニル化合物に対して0.5〜5当量用いることが好ましく、経済性の観点から0.5〜2当量使用することがより好ましい。
反応は無溶媒下で行うこともできるが、反応速度制御の容易さから溶媒を用いることが好ましい。溶媒は実質的に上記式(B)の反応に対し不活性なものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。
反応温度は特に限定されないが、−78〜150℃で行うことが好ましく、−20〜100℃で行うことがより好ましい。
【0026】
接触水素化による還元は、カルボニル化合物からアルコールへの水素化の際の一般的な条件で行うことができるが、好ましくは、周期律表第8〜11属の金属から選ばれる少なくとも1種を含む触媒の存在下で、水素を用いて行うことができる。
周期律表第8〜11属の金属としては、具体的には鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金が挙げられ、中でも、触媒活性の観点から、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が好ましい。
触媒の使用量は特に限定されないが、原料となる一般式(III)で表されるカルボニル化合物に対して金属質量換算で0.0001〜50質量%が好ましく、0.005〜20質量%がより好ましく、0.001〜10質量%が特に好ましい。
この際の反応圧力は、通常0.1〜40MPaであり、0.2〜30MPaが好ましい。反応温度は、通常0〜400℃であり、20〜300℃が好ましい。
【0027】
また、上記の水素化反応は無溶媒下で行うこともできるが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブタノール、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の溶媒を用いて行うこともできる。
本発明の一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールは、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、かつ持続性にも優れることから、単独で又は他の成分と組み合わせて、石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー製品、芳香剤、香水、入浴剤等の賦香成分として使用できる。
【0028】
[香料組成物]
本発明の香料組成物は、一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールを含有するものであり、通常用いられる他の香料成分や、所望組成の調合香料に、一般式(I)で表されるシクロヘキシルアルカノールを単独でまたは2種以上を組み合わせて配合して得られるものである。
その配合量は、調合香料の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により適宜選択することができるが、調合香料組成物中に0.01〜90質量%を加えることが好ましく、0.1〜50質量%加えることがより好ましい。
【0029】
本発明の香料組成物において、シクロヘキシルアルカノールと組み合わせて用いることができる香料成分としては、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、カーボネート類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、ニトリル類、カルボン酸類、ラクトン類、天然精油や天然抽出物等を挙げることができる。
炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
アルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、アンバーコア(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
【0030】
フェノール類としては、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、パラクレゾール、バニリン等が挙げられる。
エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が挙げられる。
【0031】
ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート等、酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート等、パラクレジルフェニルアセテート、プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート等、酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート等が挙げられる。
【0032】
また、ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエート等、安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエート等、メチルシンナメート、桂皮酸エステルとしては、ベンジルシンナメート等、サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレート等が挙げられる。
【0033】
さらに、ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレート等、チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレート等、ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート等、グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデート等、アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレート、フルテート(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
【0034】
カーボネート類としては、市販品として、ジャスマシクラット(花王株式会社商品名)、フロラマット(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
アルデヒド類としては、n−オクタナール、n−ノナナール、n−デカナ−ル、n−ドデカナ−ル、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、リラール(IFF社、商品名)、2−シクロヘキシルプロパナール、p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
【0035】
ケトン類としては、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、ダマセノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、ジヒドロジャスモン、ローズケトン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、マルトール、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン等が挙げられる。
【0036】
アセタール類としては、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタール、ボアザンブレンフォルテ(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、アンブロキサン(花王株式会社商品名)、ハーバベール(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリル等が挙げられる。
【0037】
カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸等が挙げられる。
ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリド等が挙げられる。
【0038】
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
試料の同定
以下の実施例等で得られたシクロヘキシルアルカノールの構造を、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により同定した。核磁気共鳴スペクトルは、溶媒としてクロロホルム−dを用いて、Varian社製のMercury 400により測定した。
【0040】
実施例1(1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノールの合成)
フラスコにカリウムtert−ブトキシド19gとテトラヒドロフラン40gを入れ0℃で数分間攪拌した後、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド20gを0℃下2.5時間かけて滴下した。その後、ブロモエタン22gを0℃下3時間かけて滴下した。0℃下30分攪拌後、室温まで昇温を行い更に30分攪拌した。その反応液を水40gで3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濾過、濃縮を行い、アルデヒド混合物21gを得た。そのアルデヒド混合物を、圧力70〜150Pa、温度60〜85℃の条件で蒸留し、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド17g得た。
【0041】
フラスコに窒素雰囲気下でメタノール9gと1.5%水酸化ナトリウム水溶液3gと水素化ほう素ナトリウム2gを入れ、5〜25℃で上記で得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド9gを加えた。20〜25℃で、1.5時間攪拌を続けた後に、反応液に少量の10%硫酸を加えてからエーテル抽出、重曹水での水洗、溶媒留去を行った後にシリカゲルカラムでの分画と蒸留で精製して、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール6gを得た(シス体:トランス体(質量比率)=94:6)
得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノールは、天然のすずらんの香りを想起させるフレッシュでホワイトフロラール様のニュアンスを伴うフローラル香気を有し、木様の甘さとあたたかさを感じさせ、持続性に優れていた。また、同定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm) : 0.79(t, トランス-3H, J=7.6Hz), 0.83(t, シス-3H, J=7.6Hz), 0.85(t, 6H, J=6.8Hz), 1.00(br, 1H), 1.03-1.11(m, 4H), 1.28(q, 2H, J=7.6Hz), 1.38-1.44(m, 2H), 1.49-1.53(m, 2H), 1.58-1.61(m, 2H), 3.30(s, トランス-2H), 3.53(s, シス-2H)
【0042】
実施例2(1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノールの合成)
フラスコにカリウムtert−ブトキシド14gとテトラヒドロフラン30gを入れ0℃で数分間攪拌した後、4−イソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド15gを0℃下2.5時間かけて滴下した。その後、2−ヨードプロパン25gを0℃下3時間かけて滴下した。0℃下30分攪拌後、室温まで昇温し、更に30分攪拌した。その反応液を水30gで3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濾過、濃縮を行い、アルデヒド混合物13gを得た。そのアルデヒド混合物13gを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル=50/1)で精製し、1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド3g得た。
【0043】
フラスコに窒素雰囲気下でメタノール0.7gと1.5%水酸化ナトリウム水溶液0.3gと水素化ほう素ナトリウム0.2gを入れ、0〜25℃で上記で得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキサンカルバルデヒド0.7gを加えた。20〜25℃で2時間攪拌を続けた後に、反応液に少量の10%硫酸を加えてからエーテル抽出、重曹水での水洗、溶媒留去を行って、1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノール0.3gを得た(シス体:トランス体(質量比率)=91:9)
得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノールは、天然のすずらんの香りを想起させるフレッシュで甘さを伴うフローラル香気を有し、持続性に優れていた。また、同定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm) : 0.85(d, シス-6H, J=6.8Hz), 0.87(d, トランス-6H, J=6.8Hz), 0.88(d, シス-6H, J=6.8Hz), 0.89(d, トランス-6H, J=6.8Hz), 0.96-1.01(m, 1H), 1.08(ddd, 2H, J=24, 12, 2.4Hz), 1.18(br, 1H), 1.20(ddd, 2H, J=27, 14, 2.8Hz), 1.41(qd, 1H, J=6.4, 6.4Hz), 1.50-1.53(br, 4H), 1.60(q, 1H, J=6.8Hz), 1.62(q, 1H, J=6.8Hz), 3.40(s, トランス-2H), 3.62(s, シス-2H)
【0044】
実施例3(1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノールを用いた処方例)
実施例1で得られた1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノールを用いて、第1表に示すように配合し、甘さのあるローズ様の香料組成物を調製した。第1表中の数値は質量部である(以下同じ)。
【0045】
比較例1(比較処方例)
実施例3において、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノールを配合せず、ジプロピレングリコールの量を37質量部とした以外は同様にして香料組成物を調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
比較例1の甘さのあるローズ様の調合香料に対し、実施例3においては、1−エチル−4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール20質量部を配合したことにより、フローラルな甘さとあたたかさが強調され、かつ持続性に優れたローズ様の調合香料が得られた。
【0048】
実施例4(1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノールを用いた処方例)
実施例2で得られた1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノールを用いて、第2表に示すように配合し、みずみずしいジャスミン様の製品用香料を調製した。
【0049】
比較例2(比較処方例)
実施例4において、1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノールを配合せず、ジプロピレングリコールの量を47.7質量部とした以外は同様にして香料組成物を調製した。
【0050】
【表2】

【0051】
比較例2のみずみずしいジャスミン様の調合香料に対し、実施例4においては、1,4−ジイソプロピルシクロヘキシルメタノール 30質量部を配合したことにより、フレッシュ感のある甘さとあたたかさが強調され、かつ持続性に優れたジャスミン様の調合香料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のシクロヘキシルアルカノールは、あたたかい木様の甘さとすずらんの花を想起させるフローラル香を有し、調合香料に木様のあたたかさや甘さとフローラル香気を付与することができることから、トイレタリー用品等への賦香成分として香料組成物に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
で表されるシクロヘキシルアルカノール。
【請求項2】
一般式(II)
【化2】

(式中、R3は水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基またはOR4基を示し、R4は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表されるカルボニル化合物を用いて、一般式(III)
【化3】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R3は前記と同じである。)
で表されるカルボニル化合物を得た後に還元を行う、一般式(I)
【化4】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
で表されるシクロヘキシルアルカノールの製造方法。
【請求項3】
一般式(I)
【化5】

(式中、R1は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
で表されるシクロヘキシルアルカノールを含有する香料組成物。

【公開番号】特開2009−149577(P2009−149577A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330049(P2007−330049)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】