説明

シクロヘキシル系含フッ素ジオールの製造方法

【課題】機能性高分子化合物製造のための単量体の製造方法、および、その原料等として有用なシクロヘキシル系含フッ素ジオール類の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式[1]で表されるヒドロキシケトン(式中、Rは炭素数1から5のパーフルオロアルキル基、xは1〜5の整数)


を水素により還元する方法において、触媒としてルテニウム触媒を、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを使用することを特徴とするシクロヘキシル系含フッ素ジオールの製造方法、および、当該シクロヘキシル系含フッ素ジオールをアクリル酸誘導体と反応させることによる含フッ素アクリル酸エステル(含フッ素単量体)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性などを有する機能性高分子化合物の単量体の製造方法、およびその原料等として有用な、一般式[2]
【0002】
【化6】

【0003】
(式中、Rは炭素数1から5のパーフルオロアルキル基、xは1〜5の整数)であらわされる、シクロヘキシル系含フッ素ジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
含フッ素モノマーは、反射防止膜等のコーティング材料あるいはレジスト材料向けモノマーとして有用である。特に電気回路の加工技術である光リソグラフィー等のレジスト分野において微細加工の鍵を握る化合物であり、多種多様な化合物に関して開発が進められている。中でもヘキサフルオロイソプロピル水酸基を有する化合物は、フッ素を含有し且つ極性基である水酸基を有するので大きな注目が集まっている(非特許文献1)。
【0005】
そのような、ヘキサフルオロイソプロピル水酸基を有する化合物として、例えば、式[5]
【0006】
【化7】

【0007】
で示されるシクロヘキサンなどの環にヘキサフルオロイソプロピル基を有する脂肪族構造及びアクリルエステル類が結合した脂肪族環状化合物は、機能性高分子化合物製造のための単量体あるいはその原料等として利用されている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、ますます高度化、多様化する要求に対して、これら既存の化合物がよりも、さらに優れた高分子化合物を与え得る新規な単量体あるいはその原料の創出が望まれていた。
【非特許文献1】レジスト材料 p57−p68、高分子学会編集、伊藤洋著、共立出版
【特許文献1】特開2007−63255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなニーズに対して、特にシクロヘキシル部位にパーフルオロアルキル基を導入することで、従来の化合物[5]と比較して含フッ素率が向上し、撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性などが更に向上し、機能性高分子化合物製造のための単量体あるいはその原料等として有用な新規な含フッ素シクロヘキシル誘導体が得られると期待できる。
【0010】
本発明は、機能性高分子化合物製造のための単量体の製造方法、およびその原料等として有用な新規なシクロヘキシル系含フッ素ジオールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献1には、芳香環を含むヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、水素により還元することにより、芳香環とケトンが還元された含フッ素ジオールを得る方法が開示されている。溶媒としてジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(以後、ヘキサフルオロイソプロパノールという)等のアルコール系溶媒が好ましい旨の開示があるが、パーフルオロアルキル基置換芳香環を含むヒドロキシケトンの還元についての記載はない。
【0012】
本発明者らは、特許文献1に示された方法に従い、ベンゼン環のメタ位にパーフルオロアルキル基を有するアセトフェノンとヘキサフルオロアセトンを縮合することにより得られるヒドロキシケトンを接触還元することで、シクロヘキシルのメタ位にパーフルオロアルキル基を有する含フッ素ジオールの合成を試みた。しかしながら、パーフルオロアルキル基に起因する電子的な影響のせいか、パーフルオロアルキル基を有する芳香族を有するアルドール化合物の還元はうまく進行しなかった(比較例1)。また、メタノールおよびトリフルオロエタノールについてもそれぞれ還元を試みたが、同様に反応は進行しなかった(比較例2および3)。
【0013】
また、触媒としてPd/Cを用い、同様な水素還元を試みたが、ヘキサフルオロイソプロパノールの系では、反応は進まなかった(比較例4)。
【0014】
前記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、そこで種々反応条件を検討したところ、触媒として、ルテニウム触媒を用い、溶媒としてヘキサフルオロイソプロピルアルコールを用いることにより、効率的にパーフルオロアルキル基置換ベンゼン核のシクロヘキシル化が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、
[発明1]
一般式[1]で表されるヒドロキシケトン(式中、Rは炭素数1から5のパーフルオロアルキル基、xは1〜5の整数)
【0016】
【化8】

【0017】
を触媒の存在下、水素により還元する方法において、触媒としてルテニウム触媒を、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを使用することを特徴とする、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール(式中、Rおよびxは一般式(1)と同じ)
【0018】
【化9】

【0019】
の製造方法。
[発明2]
反応温度を0〜120℃とすることを特徴とする、上記の製造方法。
[発明3]
反応圧力を0.1〜6.0MPaとすることを特徴とする、上記の製造方法。
[発明4]
ルテニウム触媒が、ルテニウムを活性炭、アルミナ、またはシリカに担持した固相触媒であることを特徴とする、上記の製造方法。
[発明5]
上記の何れかの製造方法で製造した、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを、一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【0020】
【化10】

【0021】
(式中、RはH,C2m+1,C2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の一般式[3a]で表される基
【0022】
【化11】

【0023】
の何れかを表す。なお一般式[3a]中のRの意味は、一般式[3]と同じ。)と反応させることを特徴とする、一般式[4]で表される含フッ素アクリル酸エステル
【0024】
【化12】

【0025】
(式中、Rおよびxの意味は一般式[2]と同じ。Rの意味は一般式[3]と同じ。)の製造方法。
【0026】
すなわち、本発明は、一般式[1]で示されるヒドロキシケトンを触媒の存在下、水素により還元するにおいて、触媒として、ルテニウム触媒を用い、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いることを特徴とする、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールの製造方法を提供する。また、上記方法で得られた一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを、一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体と反応させることを特徴とする、一般式[4]で表される含フッ素エステルの製造方法も併せて提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の製造方法により、撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性などを有する機能性高分子化合物の単量体、あるいはその原料等として有用なシクロヘキシル系含フッ素ジオールを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の方法は、バッチ式反応装置において実施することができる。以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0029】
本発明は、第1工程(一般式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として、水素により還元することで、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを得る工程)を必須の要素とし、必要に応じ、これに第2工程(第1工程で得られた一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを、一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体と反応させることで、一般式[4]で表される含フッ素エステルを得る工程)を加えることによってなる(以下、スキーム1参照)。
【0030】
【化13】

【0031】
まず、第1工程について説明する。第1工程では、一般式[1]で表されるヒドロキシケトンをルテニウム触媒の存在下、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として、水素により還元することで、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを得る工程である。
【0032】
一般式[1]、一般式[2]、一般式[4]において、 Rは炭素数が1〜5のパーフルオロアルキル基であるが、直鎖または非直鎖のものを用いることができる。かかるパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基(CF)、ペンタフルオロエチル(C)基、ヘプタフルオロ−n−プロピル(CFCFCF)基、ヘプタフルオロ−i−プロピル(CFCFCF)基、ノナフルオロブチル(C)基、ドデカフルオロペンチル(C11)基等が挙げられるが、原料の入手のし易さを考慮すると、炭素数が1〜3であるトリフルオロメチル基(CF)、ペンタフルオロエチル(C)基、ヘプタフルオロ−n−プロピル(CFCFCF)基、ヘプタフルオロ−i−プロピル(CFCFCF)基であることが好ましく、RがCF3の場合が特に好ましい。また、xは置換基Rの数であり、1〜5の整数をとりうる。
【0033】
一般式[1]で表されるヒドロキシケトンの合成法に関しては、特に限定されないが、例えば、特許文献1に開示された公知の方法により製造することができる。
【0034】
すなわち、一般式[1]で表されるヒドロキシケトンは、相当するパーフルオロアルキル基置換アセトフェノンを出発物質として、酸触媒の存在下、ヘキサフルオロアセトンとのアルドール反応で製造できる。。
【0035】
【化14】

(式中、Rは炭素数1から5のパーフルオロアルキル基、xは1〜5の整数)
【0036】
上記のように、Rは炭素数が1〜5のパーフルオロアルキル基であるが、Rがトリフルオロメチル基である場合が特に好ましいことより、一般式[1]で表されるヒドロキシケトンとして、2´トリフルオロメチルアセトフェノン、3´トリフルオロメチルアセトフェノン、4´トリフルオロメチルアセトフェノン、3´,5´−ビストリフルオロメチルアセトフェノン等が好適に用いられる。
【0037】
アルドール反応の酸触媒としては、塩酸、硫酸、臭素酸、燐酸などが例示できるが、入手および取り扱いの関係上、硫酸が好ましい。
【0038】
アルドール反応における反応温度と時間は、反応試剤の種類などにより適宜選ぶことができるが、好ましくは0〜100℃で1〜72時間であり、50〜80℃で24〜48時間がより好ましい。
【0039】
第1工程において使用されるルテニウム触媒としては、ルテニウム金属、またはルテニウムを担体(活性炭、アルミナ、シリカ、クレー等)に担持したものの他、ルテニウム塩(例えば、RuCl,RuBr、Ru(NOなど)、ルテニウム錯体(例えばRu(CO),Ru(NO),K[Ru(CN)]、Ru(phen)Cl(なおphenはフェナントロリンを表す))、酸化ルテニウム等が、用いられる。
【0040】
この中でも、特に入手のしやすさ及び取り扱いのしやすさの観点から、ルテニウムを担体に担持した固相触媒が好ましい。これらの固相触媒は、例えばルテニウム塩を溶液に溶かし、この溶液を担体に含浸させた後、加熱しながら、Hガスで還元処理することで調製できる。特にRu/C(ルテニウム−カーボン触媒)、ルテニウム−アルミナ触媒、ルテニウム−シリカ触媒は商業的に容易に入手でき、活性も高いことから好ましい。これらは含水品(例えば、触媒全重量中、50重量%の水を含む製品)を使用すると特に取扱いやすい。またこれらの触媒の固体成分(水以外の成分)中のRuの含量には特別な制限はないが、2重量〜10重量%程度(例えば5重量%)のものが、入手も容易で、安定性も高く、取扱いやすいため、好ましく用いられる。
【0041】
なお、これらのルテニウム触媒の複数種類を共存させて反応を行うこともできるが、通常、特別のメリットはない。
【0042】
ルテニウム触媒の量は、一般式[1]で表されるヒドロキシケトン1モルあたり、Ru原子換算で通常0.0002モル〜0.04モルであり、0.0004モル〜0.02モルが好ましく、0.001モル〜0.01モルがさらに好ましい。ルテニウム触媒が上記下限値よりも少ないと、反応速度が低下し、上限値よりも多いと経済的に好ましくない。
【0043】
本反応においてヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用することが必須である。比較例に示すように、脂肪族エーテルであるジイソプロピルエーテル(比較例1)、脂肪族アルコールであるメタノール(比較例2)、フッ素系アルコールであるトリフルオロエタノール(比較例3)では、一般式[1]に示す化合物のベンゼン環のメタ位にトリフルオロメチル基を導入したヒドロキシケトンにおいては、還元反応は進行しなかった。唯一、ルテニウム触媒とヘキサフルオロイソプロパノールの組み合わせにおいてのみ、還元反応が進行した。
【0044】
本反応に使用する溶媒の溶媒量は一般式[1]で表されるヒドロキシケトン1gに対して0.005〜100gであり、0.01〜20gが好ましく、0.1〜10gがより好ましい。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0045】
なお、比較例4に示すように、触媒がPd/Cの場合は、溶媒がヘキサフルオロイソプロパノールであっても同様な還元反応は進行しない。
【0046】
第1工程において、反応を実施する際の反応温度は、0℃〜120℃であり、10℃〜120℃が好ましく、30℃〜70℃が特に好ましい。0℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、120℃以上では副生成物が生成し好ましくない。
【0047】
上記のように、反応温度を30〜70℃にすることにより、副生成物は生成せずに、該目的物である一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを非常に高い選択率で得ることが可能であることから、特に好ましい実施態様の一つである。
【0048】
第1工程における反応圧力(水素圧をいう。以下同じ)は、通常0.1〜6.0MPa(絶対圧。以下、本明細書において同じ。)であるが、0.15〜4.0MPaが好ましく、0.2〜4.0MPaが特に好ましい。但し、好まれる反応圧力には、温度への依存性がある。すなわち、比較的高い温度(80℃以上)で反応を行う場合には、1.0MPa以下の反応圧力でも十分な速度で反応が進行し、それが好適なことが多いが、低い温度(80℃未満)で反応を行う場合には、より高い反応圧力(例えば1.6MPa以上)が好適なことが多い。例えば、30〜70℃で反応を行う場合には、1.6〜4.0MPaの反応圧力が特に好ましい。反応圧力は、反応温度、Ru系触媒の種類、量などの諸条件に応じて、最適化することが望ましい。
【0049】
なお、0.1MPa未満の反応圧力でも、反応は進行するが、十分な反応速度を得るために、150℃を上回る温度が要求されることがあり、副反応が促進される結果となるため、好ましくない。一方、6.0MPaを超えると、高度の圧力に耐え得る反応容器等が必要となり、煩雑となるため、好ましくない。
【0050】
本反応において、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作した反応器を使用することができる。
【0051】
本発明を実施する方法は限定されるものではないが、望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。
【0052】
反応条件に耐えられる反応器に式[1]で表されるヒドロキシケトン、溶媒、触媒を加え、外部より加熱しながら水素を供給して反応を進行させる。反応に要する時間は、反応温度、触媒の種類、量に依存する。反応器内の圧力等からHの消費状況を随時観察し、
の消費が事実上完了した段階で反応を終了することが好ましい。
【0053】
サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却する。製造された一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールは公知の方法を適用して精製されるが、例えば、得られた反応液から触媒を濾別した後、濾液を蒸留するかまたは濾液から晶析することにより容易に一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを得ることが可能である。
【0054】
次に、第2工程について説明する。一般式[4]で示される含フッ素シクロヘキシル誘導体の製造は、上記の方法で得られる一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール誘導体を酸または塩基の存在下、下記、一般式[3]あるいは一般式[3a]のアクリル酸誘導体を反応させることで含フッ素シクロヘキシル誘導体を得る方法を例示できる。
【0055】
すなわち、一般式[2]として得られるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを、式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【0056】
【化15】

【0057】
(式中、RはH,C2m+1,C2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の一般式[3a]で表される基
【0058】
【化16】

【0059】
の何れかを表す。なお、一般式[3a]中のRの意味は、一般式[3]と同じ。)と反応させることで、一般式[4]で表される含フッ素シクロヘキシル誘導体
【0060】
【化17】

【0061】
(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、nは1〜5の整数を示し、Rは一般式[3]と同じ)を製造することができる。
【0062】
一般式[4]で表されるアクリル酸誘導体の置換基Rとしては、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基が、一般式[4]で表される生成物の有用性から特に好ましい。
【0063】
本工程は、一般的なエステル化の手段によればよいが、好ましい方法、条件等につき、以下に述べる。
【0064】
まず、塩基の共存下で一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールと一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体が、α−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物の場合について説明する。
【0065】
塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のものが、好適に用いられる。
これらのうちピリジン、2,6−ジメチルピリジン、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0066】
本工程において使用する塩基の量は一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0.2〜2モルであり、0.5〜1.5が好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。
【0067】
一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して塩基の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しない塩基の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0068】
本工程において使用するα−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量は式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0.2〜2モルであり、0.5〜1.5モルが好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。
【0069】
式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して、α−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0070】
また、本工程においてはα−置換アクリル酸ハロゲン化物を使用した場合、副生成物として塩基のハロゲン化水素酸塩(フッ化水素酸塩、塩酸塩)が析出する。操作性を改善するため溶媒を使用する必要がある。
【0071】
使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0072】
本工程に使用する溶媒の溶媒量は一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1gに対して0.5〜100gであり、1〜20gが好ましく、2〜10gがより好ましい。
【0073】
溶媒量が一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1gに対して0.5g未満では、反応中に析出する塩基のフッ化水素酸塩、塩酸塩のスラリー濃度が高過ぎるため操作性が低下する。また、100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0074】
本工程を実施する際の反応温度は−50〜200℃であり、−20〜150℃が好ましく、0℃〜120℃がより好ましい。−50℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の一般式[4]で表される含フッ素アクリル酸エステルが重合することから好ましくない。
【0075】
本工程の反応において原料のα−置換アクリル酸無水物及びα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の含フッ素シクロヘキシル化合物が重合することを防止することを目的として、重合禁止剤を共存させて行っても良い。
【0076】
使用する重合禁止剤はヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300、Q−1301から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0077】
本工程に使用する重合禁止剤の量は原料の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0〜0.1モルであり、0.00001〜0.05モルが好ましく、0.0001〜0.01モルがより好ましい。
【0078】
重合禁止剤の量が原料の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。
【0079】
本工程の反応を行う反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0080】
次に添加剤として酸の共存下、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールと一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸無水物の場合について説明する。
【0081】
使用される添加剤(酸)としては一般的なプロトン酸類やルイス酸類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等、有機スルホン酸類等が考えられるが特に限定されるものではない。
【0082】
本反応に使用する添加剤の量は基質の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0.01〜2モルであり、0.02〜1.8が好ましく、0.05〜1.5モルがより好ましい。
【0083】
基質の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して添加剤の量が0.01モル未満では反応の転化率、目的物の収率共に低下し、2モルを超えると反応に関与しない添加剤の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0084】
使用するα−置換アクリル酸無水物の量は、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して通常0.5〜5モルであり、0.7〜3モルが好ましく、1〜2モルがより好ましい。一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対してα−置換アクリル酸無水物の量が0.5モル未満では反応の転化率、目的物の収率が共に十分でなく、5モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸無水物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0085】
本反応を実施する際の反応温度は添加剤を添加しない場合は通常80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃である。
【0086】
この場合80℃未満では反応速度が極めて遅く、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸無水物もしくは生成物の一般式[4]で表される含フッ素アクリル酸エステルが重合することがあるから好ましくない。
【0087】
添加剤を添加する場合は0〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃である。この場合0℃未満では反応速度が遅く実用的製造法とはならない。また、80℃を超えると副反応が進行し易くなり、目的物の一般式[4]で表される含フッ素アクリル酸エステルの選択率が低下することがあるから好ましくない。
【0088】
本発明においては、添加剤を加えた方が低い温度で十分な反応性が得られ、選択率が向上するので好ましい。
【0089】
すなわち、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の添加剤を系内に共存させ、20〜60℃の温度範囲で、反応を実施することは、本工程の特に好ましい態様の一つである。
【0090】
本反応は、無溶媒でも進行するが反応の均一性、反応後の操作性を考慮すると溶媒を使用するのが望ましい。
【0091】
使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0092】
本反応に使用する溶媒の量は一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1gに対して通常0.1〜100gであり、0.5〜50gが好ましく、1〜20gがより好ましい。
【0093】
溶媒量が一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1gに対して0.1g未満では溶媒を使用するメリットを十分に引き出せない。また、100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0094】
この反応においてα−置換アクリル酸無水物もしくは一般式[4]で表される生成物(含フッ素アクリル酸エステル化合物)が重合することを防止することを目的として、重合禁止剤を共存させて行っても良く、通常は重合禁止剤を使用することが望ましい。
【0095】
使用する重合禁止剤はヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300、Q−1301から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0096】
本発明に使用する重合禁止剤の量は原料の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して通常0.00001〜0.1モルであり、0.0001〜0.05モルが好ましく、0.001〜0.01モルがより好ましい。
【0097】
重合禁止剤の量が原料の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。
【0098】
この反応に使用される反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロ−トリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0099】
この反応を実施する方法は限定されるものではないが、望ましい態様の一例につき、詳細を述べる。
【0100】
反応条件に耐えられる反応器に、酸または塩基もしくは金属触媒、溶媒、原料の一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール、α−置換アクリル酸ハロゲン化物またはα−置換アクリル酸無水物、もしくはビニルエーテル、もしくはアリルハロゲン化物および重合禁止剤を加え、攪拌しながら外部より加熱して反応を進行させる。
【0101】
サンプリング等により原料の消費をモニタリングし、反応が終了したのを確認し、反応液を冷却するのが好ましい。
【0102】
本発明の方法で製造された、一般式[1]で表される含フッ素シクロヘキシル誘導体は、公知の方法を適用して精製されるが、例えば、洗浄、濃縮、蒸留、抽出、再結晶、ろ過、カラムクロマトグラフィーなどを用いることができ、また二種類以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0103】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、組成分析値の「%」とは、反応混合物の一部を採取して、ガスクロマトグラフィーによって測定して得られた「面積%」を示す。下記、スキーム2に合成例および実施例の工程を示した。
【0104】
【化18】

【0105】
〔合成例1〕 アルドール反応 メタ体
「4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オンの合成」
【0106】
【化19】

【0107】
100mlSUS反応管に3´トリフルオロメチルアセトフェノン50g(0.27mol)、濃硫酸0.25g、を加え反応管を密封した後ヘキサフルオロアセトン52.9g(0.32mol)を加え、100℃まで加熱し48時間温度を維持した。
【0108】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、原料である3´トリフルオロメチルアセトフェノンが1.4%、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン88.3%、その他が10.3%であった。続いて反応管を氷冷し内圧を下げた後、内容物を100mLなす型フラスコに移し減圧蒸留を行った。90〜95℃/1mmHgの留分62.3g(0.176mol,収率66.3%)を回収し、得られた化合物の同定を核磁気共鳴法(H、13C、19F)により行った。
【0109】
物性データ
H−NMR(CDCl,TMS基準)δ: 8.2(1H,d) 8.0(2H, dd,J=8Hz, 7.6Hz) 7.7(1H,t,J=8.8Hz) 6.8(1H,s) 3.5(2H,s)
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−63.4(s,3F),δ−78.3(s,3F).
【0110】
〔実施例1〕 還元反応 メタ体
「1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールの合成」
【0111】
【化20】

【0112】
100mlSUS反応管にヘキサフルオロイソプロピルアルコール50g、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン50g(0.14mol)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)を5.0gを加え反応管を密封した後、反応器を水素で置換した後、80℃まで加熱し反応圧力2Mpaで6時間温度を維持した。
【0113】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したヘキサフルオロイソプロピルアルコールを除くと目的とする1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが98.0%、その他が2.0%であった。
【0114】
触媒の5%Ru/Cを濾別し、濾液から溶媒留去後、ヘキサンから再結晶して目的とする1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが98.5%の純度で37.5g得られた。収率は72%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.1(s,1H),4.1(bs,1H),2.3(d,J=14Hz 1H),2.02(m, 5H),1.43(m,7H).
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−74.4(d,J=6.4Hz,3F),δ−75.8(d,J=13.2Hz,3F), −79.9(s,3F).
【0115】
〔比較例1〕 還元反応 メタ体 (溶媒;ジイソプロピルエーテル)
「4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールの合成」
100mlSUS反応管にジイソプロピルエーテル50g、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン50g(0.14mol)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)を6.5gを加え反応管を密封した後、反応器を水素で置換した後、50℃まで加熱し反応圧力1.5Mpaで6時間温度を維持した。
【0116】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエーテルを除くとベンゼン環部位が還元されていない4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールが83.8%、ベンゼン環部位が還元された1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが6.4%、その他が9.8%であった。
【0117】
触媒の5%Ru/Cを濾別し、濾液から溶媒留去後、ヘキサンから再結晶して、4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールが99.2%の純度で30.2g得られた。収率は59.1%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ7.6(m,4H),6.1(s,1H),5.3(d,J=11.2Hz 1H),3.2(t,J=2.4 1H),2.3(m,2H).
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−63.2(s,3F),δ−75.8(q,J=12.8Hz,3F), −79.8(q,J=9.6Hz、3F).
【0118】
[比較例2] 還元反応 メタ体 (溶媒;メタノール)
溶媒をメタノールに変更した以外は同じ条件で、比較例1と同様な反応を行った。芳香環の還元は進行せず、生成物として4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールが得られた。
【0119】
[比較例3] 還元反応 メタ体 (溶媒;トリフルオロエタノール)
溶媒をトリフルオロエタノールに変更した以外は同じ条件で、比較例1と同様な反応を行った。芳香環の還元は進行せず、生成物として4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールが得られた。
【0120】
[比較例4] 還元反応 メタ体 (触媒;Pd/C、溶媒;ヘキサフルオロイソプロパノール)
触媒をPd/Cに変更した以外は同じの条件で、実施例2と同様な反応を行った。芳香環の還元は進行せず、生成物として4,4,4−トリフルオロ−1−(3−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3―ジオールが得られた。
【0121】
〔実施例2〕 エステル化 メタ体
「1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートの合成」
【0122】
【化21】

【0123】
温度計を備えた100mlフラスコに、四フッ化エチレン樹脂で被覆された攪拌子を入れ、次いで、1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオール50.0g(0.14mol)、メタクリル酸無水物23.4g(0.15mol)、および、重合禁止剤としてノンフレックスMBP0.05g(0.1wt%)を仕込んだ後、スターラーで攪拌しながらメタンスルホン酸2.5g(0.03mol)を添加し、50〜60℃の範囲で3時間攪拌させた。
【0124】
反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが95.2%、原料の1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが1.4%、その他が3.4%であった。
【0125】
ジイソプロピルエーテルで希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し乾燥した。溶媒留去後、減圧蒸留(0.2〜0.4kPa)を行い、109〜112℃の留分を集めたところ、41.5gの1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが得られた。ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが96.3%、原料の1−(3−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが1.5%、その他が2.2%であった。収率は70%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.2(dt,J=1.2Hz、J=2.4Hz、1H),6.1(d, J=6.8Hz、1H),5.6(dt、J=1.2Hz、J=3.2Hz、1H)、4.9(s、1H)、2.4(tt,J=4Hz 1H),2.0(m,11H),1.2(m, 4H).19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−74.4(d,J=6.4Hz,3F),δ−77.1(q,J=6.4Hz,J=19.6Hz、3F), −79.2(q,J=10.0Hz,J=19.6Hz、3F).
【0126】
〔合成例2〕 アルドール反応 パラ体
「4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(4−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オンの合成」
【0127】
【化22】

【0128】
100mlSUS反応管に4´トリフルオロメチルアセトフェノン50g(0.27mol)、濃硫酸0.25g、を加え反応管を密封した後ヘキサフルオロアセトン52.9g(0.32mol)を加え、100℃まで加熱し48時間温度を維持した。
【0129】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、原料である4´トリフルオロメチルアセトフェノンが1.4%、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(4−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン88.5%、その他が10.1%であった。続いて反応管を氷冷し内圧を下げた後、内容物を100mLなす型フラスコに移し減圧蒸留を行った。
98〜106℃/1mmHgの留分76.3g(0.216mol,収率80.8%)を回収し、得られた化合物の同定を核磁気共鳴法(H、13C、19F)により行った。
【0130】
物性データ
H−NMR(CDCl,TMS基準)δ: 8.0(2H,d,J=8.4Hz) 7.8(2H,d,J=8.4Hz) 6.8(1H,s) 3.5(2H,s) 19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−63.9(s,3F),δ−78.3(s,6F).
【0131】
〔実施例3〕 還元反応 パラ体
「1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールの合成」
【0132】
【化23】

【0133】
100mlSUS反応管にヘキサフルオロイソプロピルアルコール50g、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(4−トリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン50g(0.14mol)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)を5.0gを加え反応管を密封した後、反応器を水素で置換した後、80℃まで加熱し反応圧力2Mpaで6時間温度を維持した。
【0134】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したヘキサフルオロイソプロピルアルコールを除くと目的とする1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが97.0%、その他が3.0%であった。
【0135】
触媒の5%Ru/Cを濾別し、濾液から溶媒留去後、ヘキサンから再結晶して目的とする1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが98.5%の純度で38.6g得られた。収率は75.5%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.2(s,1H),4.1(bs,1H),2.3(d,J=14Hz 1H),2.02(m, 5H),1.43(m, 7H).19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−70.2(s, 3F),δ−76.0(s,3F), −79.9(s, 3F).
【0136】
〔実施例4〕 エステル化 パラ体
「1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートの合成」
【0137】
【化24】

【0138】
温度計を備えた100mlフラスコに、四フッ化エチレン樹脂で被覆された攪拌子を入れ、次いで、1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオール50.0g(0.14mol)、メタクリル酸無水物23.4g(0.15mol)、および重合禁止剤としてノンフレックスMBP0.05g(0.1wt%)を入れた後、スターラーで攪拌しながらメタンスルホン酸2.5g(0.03mol)を添加した。50〜60℃の範囲で3時間攪拌させた。
【0139】
反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが96.1%、原料の1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが2.4%、その他が1.5%であった。
【0140】
n−デカンで希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し乾燥した。そこから再結晶を行い43.7gの1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが得られた。ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが98.9%、原料の1−(4−トリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが0.5%、その他が0.6%であった。収率は73.5%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.2(d,J=1.2Hz、1H),6.1(d, J=2.1Hz、1H),5.6(t、J=2.0Hz、1H)、4.9(s、1H)、2.4(dd,J=3.6Hz J=16.4Hz、1H),2.0(m, 7H),1.2(m, 7H).19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−68.2(d,J=12.8Hz, 3F),δ−77.1(q,J=10.0Hz,J=22.8Hz、3F), −79.3(q,J=10.0Hz,J=19.2Hz、3F).
【0141】
〔合成例3〕 アルドール反応 ビス体
「4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オンの合成」
【0142】
【化25】

【0143】
100mlSUS反応管に3´,5´−ビストリフルオロメチルアセトフェノン50g(0.19mol)、濃硫酸0.25g、を加え反応管を密封した後ヘキサフルオロアセトン38.9g(0.23mol)を加え、100℃まで加熱し48時間温度を維持した。
【0144】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、原料である3´,5´−ビストリフルオロメチルアセトフェノンが5.7%、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン83.4%、その他が10.9%であった。
【0145】
続いて反応管を氷冷し内圧を下げた後、内容物を100mLなす型フラスコに移し減圧蒸留を行った。100〜106℃/1mmHgの留分57.6g(0.136mol,収率69.9%)を回収した。得られた化合物の同定を核磁気共鳴法(H、13C、19F)により行った。
【0146】
物性データ
H−NMR(CDCl,TMS基準)δ: 8.4(2H,s)、8.2(1H, s)、6.4(1H、s)、3.5(2H,s)
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−63.5(6F、s),δ−78.3(6F、s). 。
【0147】
〔実施例5〕 還元反応 ビス体
「1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールの合成」
【0148】
【化26】

【0149】
100mlSUS反応管にヘキサフルオロイソプロピルアルコール50g、4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニル−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1−オン50g(0.14mol)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イ−ケムキャット製)を6.5gを加え反応管を密封した後、反応器を水素で置換した後、80℃まで加熱し反応圧力2Mpaで24時間温度を維持した。
【0150】
反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したヘキサフルオロイソプロピルアルコールを除くと目的とする1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが84.5%、その他が15.5%であった。
【0151】
触媒の5%Ru/Cを濾別し、濾液から溶媒留去後、ヘキサン及び酢酸エチル混合溶媒から再結晶し、目的とする1−(3,5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが98.5%の純度で37.5g得られた。収率は72%であった。
物性データ
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.1(s,1H),4.1(bs,1H),2.3(d,J=14Hz 1H),2.02(m,5H),1.43(m,7H).
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−74.4(d,J=6.4Hz,3F),δ−75.8(d,J=13.2Hz,3F), −79.9(s,3F).
【0152】
〔実施例6〕 エステル化 ビス体
「1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートの合成」
【0153】
【化27】

【0154】
温度計を備えた100mlフラスコに、四フッ化エチレン樹脂で被覆された攪拌子を入れ、次いで、1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオール50.0g(0.12mol)、メタクリル酸無水物19.4g(0.13mol)、および重合禁止剤としてノンフレックスMBP0.05g(0.1wt%)を仕込んだ後、スターラーで攪拌しながらメタンスルホン酸2.5g(0.03mol)を添加し、50〜60℃の範囲で3時間攪拌させた。
【0155】
反応生成物をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが96.6%、原料の1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが1.1%、その他が2.3%であった。n−ヘキサンで希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し乾燥した。そこから再結晶を行い48.7gの1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが得られた。ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが99.1%、原料の1−(3、5−ビストリフルオロメチル)シクロヘキシル−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1、3−ジオールが0.2%、その他が0.7%であった。収率は84.1%であった。
H NMR(溶媒:CDCl,基準物質:TMS);δ6.2(d,J=0.8Hz、1H),5.7(d,J=0.8Hz、1H),2.5(dd、J=14.8Hz、2H)、1.9(s、3H)、1.6(s,3H)、1.5(s,3H).
19F NMR(溶媒:CDCl,基準物質:CClF);δ−78.9(s,3F)
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明で製造した1−(パーフルオロアルキル置換シクロヘキシル)−4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールのアクリル酸エステルは、撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性などを有する機能性高分子化合物の単量体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]で表されるヒドロキシケトン(式中、Rは炭素数1から5のパーフルオロアルキル基、xは1〜5の整数)
【化1】

水素により還元する方法において、触媒としてルテニウム触媒を、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを使用することを特徴とする、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオール(式中、Rおよびxは一般式[1]と同じ)
【化2】

の製造方法。
【請求項2】
反応温度を0〜120℃とすることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応圧力を0.1〜6.0MPaとすることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
ルテニウム触媒が、ルテニウムを活性炭、アルミナ、またはシリカに担持した固相触媒であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの方法で製造した、一般式[2]で表されるシクロヘキシル系含フッ素ジオールを、一般式[3]で表されるアクリル酸誘導体
【化3】

(式中、RはH,C2m+1,C2n+1の何れかの基を表す(m、nは各々1〜4の整数を表す)。XはF,Cl,または次の一般式[3a]で表される基
【化4】

の何れかを表す。なお一般式[3a]中のRの意味は、一般式[3]と同じ。)と反応させることを特徴とする、一般式[4]で表される含フッ素アクリル酸エステル
【化5】

(式中、Rおよびxの意味は一般式[2]と同じ。Rの意味は一般式[3]と同じ。)の製造方法。

【公開番号】特開2010−126508(P2010−126508A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305578(P2008−305578)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】