説明

シクロペンタジチオフェン系重合体

【課題】溶解性が高いことから加工性に優れる導電性材料として好適なシクロペンタジチオフェン系重合体およびそれからなる導電性材料を提供する。
【解決手段】下記一般式 (1)で示される構造単位を有する重合体および該重合体にアニオンをドープした重合体。
【化1】


[式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは2以上の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタジチオフェン系縮環構造を有する新規重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロール、チオフェン、アニリン等のヘテロ原子を含む五員環構造を有する化合物又は芳香環構造を有する化合物を重合して得られる重合体は、導電性材料として好適なため近年盛んに研究が進められている。また、これらの重合体は一般にドーピング量を変えることにより導電率を自在にコントロールすることができるため、各種電極、各種センサー、一次電池、二次電池、固体電解コンデンサー、帯電防止剤、エレクトロクロミック材料等への用途が検討されている。中でも透明電極は軽量化・低コスト化が可能であるという観点から有機材料が着目されている。現在,実用化されている有機導電材料としてはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリ(スチレンスルフォン酸)(PSS)との混合物であるPEDOT:PSSが挙げられる。しかし、PEDOT:PSSは無機材料と比較して低導電性である点、低溶解性であり水分散液としてしか用いることが出来ない点等の問題点が挙げられ、導電性と加工性の向上が未だ求められている。
【0003】
有機材料の重合体の構造としては、芳香環同士が単結合を介して連なる構造と複数の芳香環が辺共有して連なり縮合した構造を有するものがある。後者の構造は前者よりも平面性が高く共役平面が広くなるため、高導電性を示す傾向にある。
縮環型の重合体の中でもポリ(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)誘導体は、高い導電性を有していることが知られており、4位のアルキル鎖長を変更した様々なポリ(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)誘導体が報告されている(例えば、非特許文献1、特許文献1)。また、(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)を一つ含み2,7−位に置換基(オリゴマー及びポリマー)を有する誘導体も報告されている(特許文献2)。
しかしながら、ポリ(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)誘導体はシクロペンタジチオフェン骨格の3、5位に置換基がないため、重合の際に3、5位が反応してしまい、枝分かれが生じる恐れがあった。また、得られるポリマーの溶解性が低いために、成膜等の操作が困難な面があり改善が望まれていた。
特許文献1には、ポリ(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)誘導体について言及されているものの、3,5位に置換基を有する誘導体の具体例は全く開示されていない。また、特許文献2には3,5位にドデシル基を有する(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)骨格を含有する共重合体およびその電界効果型トランジスタへの適用が報告されているが、ホモポリマーおよび導電材料用途に関しては何ら具体的に触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−506519
【特許文献2】国際公開WO2009−115413
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G. Zotti et al., Novel Highly Conducting, and Soluble Polymers from Anodic Coupling of Alkyl-Substituted Cyclopentadithiophene Monomers, Macromolecules, 1994,Vol.27,Issue.7, pp.1938-1942.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、溶解性が高いことから加工性に優れる導電性材料として好適なシクロペンタジチオフェン系重合体およびそれからなる導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記一般式(1)で示される構成単位を有する重合体を提供することによって解決される。
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは2以上の整数である。]
【0010】
また、上記課題は、下記一般式(2)で示される構成単位を有する重合体を提供することによっても解決される。
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、p+q=1、0<p<1、0<q<1であり、Yはアニオンである。]
このとき、一般式(2)で示される構成単位を有する重合体からなる導電性材料が好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により得られるシクロペンタジチオフェン系重合体は、溶解性が高いことから加工性に優れるとともに、R及びRの置換基の存在によりキノイド構造が安定化されるため導電性が良好であり、導電性材料やエレクトロクロミック材料として特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、一般式(1)で示される重合体や一般式(2)で示される重合体を提供することができる。以下詳細について述べる。
上記一般式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、Yはアニオンである。
【0015】
置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基は、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいアルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等が挙げられる。
かかる置換基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等のアルキル基,フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基,シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0016】
置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。これらアルコキシ基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、炭化水素基の説明のところで例示されたアルコキシ基以外の置換基を用いることができる。
【0017】
はアニオンであり、ドーパントとして機能するものである。Yの具体例としては、PF、SbF、AsF等の5B族元素のハロゲン化アニオン、BF等の3B族元素のハロゲン化アニオン、I(I)、Br、Cl等のハロゲンアニオン、ClO等のハロゲン酸アニオン、AlCl、FeCl、SnCl等の金属ハロゲン化物アニオン、NOで示される硝酸アニオン、SO2−示される硫酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、CHSO、CFSO等の有機スルホン酸アニオン、CFCOO、CCOO等のカルボン酸アニオン、および、上記のアニオン種を主鎖または側鎖に有する変性ポリマー等が挙げられる。これらのアニオンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、アニオンの添加方法については特に限定されず、例えば、重合後に所望のアニオンを適宜添加してもよいし、化学酸化重合により重合させる場合には、用いられる酸化剤由来のアニオンをそのまま用いることができる。また、電解重合により重合させる場合には、電解質由来のアニオンをそのまま用いることができる。
【0018】
一般式(1)で示される重合体の形成に用いる4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン誘導体を得る方法としては特に限定されず、例えば次に示す非特許文献1に開示されている製法を適用することで合成が可能である。
【0019】
【化3】

【0020】
続いて、4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン誘導体(以下、「モノマー化合物」ということがある。)から、下記化学反応式(I)で示される工程1のように、一般式(2)で示される重合体が得られる。
【0021】
【化4】


[式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、p+q=1、0<p<1、0<q<1であり、Yはアニオンである。]
【0022】
上記工程1は、モノマー化合物から重合反応により一般式(2)で示される重合体を得る工程である。上記一般式(2)される重合体は、ドーピングされた状態を表しており、このことにより導電性を有している。また、アニオンであるYはドーパントとして機能している。一方、後述する工程2より得られる脱ドーピングされた中性状態の重合体は、絶縁体または半導体として機能することとなる。ここで、本発明においてドーピングされた状態とは、重合体の主鎖がプラスにチャージされた状態をいい、脱ドーピングされた状態とは、重合体の主鎖の電荷が中性となった状態をいう。
【0023】
上記工程1の重合反応としては特に限定されないが、好適な重合反応は、化学酸化重合又は電解重合である。化学酸化重合としては、酸化剤を用いてモノマー化合物から脱水素することにより重合体を得る方法が好適に採用される。このとき、酸化剤由来のアニオンであるYがドーパントとして機能することとなる。Yとしては、前述に挙げられたものが好適に使用される。
化学酸化重合で用いられる酸化剤としては特に限定されないが、遷移金属塩であることが好ましい。遷移金属塩としては、例えば、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、炭素数1〜16のアルコキシベンゼンスルホン酸鉄、炭素数1〜16のアルキルベンゼンスルホン酸鉄、ナフタレンスルホン酸鉄、フェノールスルホン酸鉄、スルホイソフタル酸鉄ジアルキルエステル、アルキルスルホン酸鉄、ナフタレンスルホン酸鉄、アルコキシナフタレンスルホン酸鉄、テトラリンスルホン酸鉄、炭素数1〜12のテトラリンスルホン酸鉄などの第二鉄塩や、これら前記化合物の鉄(III)塩の代わりにセリウム(IV)塩、銅(II)塩、マンガン(VII)塩、ルテニウム(III)塩になったもの等を用いることができる。中でも、鉄(III)塩が好適に用いられる。
【0024】
上記工程1において、電解重合により重合させる場合、重合原料となるモノマー化合物を溶解させた電解液を作製し、この電解液を介して電極間に電圧印加することによって陽極酸化された重合物が陽極上に得られる方法が好適に採用される。電解液に用いる溶媒としてはニトロメタン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン等が例示される。電解液に用いる支持電解質としてリチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等アルカリ金属類のイオンや四級アンモニウムイオンといったカチオンと、過塩素酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リンイオン、ハロゲン原子イオン、六フッ化ヒ素イオン、六フッ化アンチモンイオン、硫酸イオン、硫酸水素イオンといったアニオンの組み合わせからなる支持塩が添加されることが好ましい。また電解液としてはアルキルイミダゾリウム塩、アルキルピリジニウム塩などのイオン液体を用いることもできる。電極材料としては白金、金、ニッケル、ITO等を用いることができる。
【0025】
上記工程1により得られた一般式(2)で示される重合体は、更に下記化学反応式(II)で示される工程2のようにアンモニア、ヒドラジン等の還元剤を用いて還元することにより、下記一般式(1)で示される脱ドーピングされた重合体を得ることもできる。
【0026】
【化5】


[式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、p+q=1、0<p<1、0<q<1であり、Yはアニオンである。]
ここで、上記一般式(2)及び上記一般式(1)で示される重合体の数平均分子量(Mn)は、通常、200〜1,000,000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常、200〜1,000,000である。
【0027】
上記一般式(2)及び上記一般式(1)で示される本発明の新規重合体は平面性が高いため、高度に自己集積化したり、精密な層構造を形成したりできるなどの特性を有するともに、溶剤への溶解性が高く、ポリ(4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン)(CPDT)と比較して溶解性が高く加工性に優れるものである。したがって、例えば、導電性材料、エレクトロクロミック材料、光電変換材料、エレクトロルミネッセンス材料、非線形光学材料、電界効果トランジスタ材料、RF−ID材料、メモリ材料、センサー材料、導電性プリントペースト、インクジェット塗料等に好適に用いられ、中でも、導電性材料としてより好適に用いられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0029】
(合成例1)
【化6】


窒素雰囲気下、200mL三口フラスコにジエチルエーテル50mLを加え、−70℃以下に冷却した。n―ブチルリチウム21.6mL(33.8mmol)を加え、3−ブロモ−4−メチルチオフェン5.0g(28.2mmol)のエーテル23mL溶液をゆっくり滴下し、−70℃以下で30分間攪拌した。その後、−70℃以下でマグネシウムブロミドエーテル錯体13.6g(52.2mmol)のエーテル70mL溶液をゆっくり加え、1時間攪拌することでグリニヤ試薬を調整した。別途、窒素雰囲気下、300mL三口フラスコにシュウ酸ジエチル3.9g(33.8mmol)を加え−70℃以下に冷却した。調整したグリニヤ試薬を−70℃以下でゆっくり滴下し、−20℃まで昇温した。2N塩酸30mLを加えた後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mLを加え、酢酸エチル200mLで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した後に真空下で乾燥することで黄色油状物質として式(3)で表されるエチル 2−オキソ−2−(3−(4−メチルチエニル))グリコキシレート5.3g(95%)を得た。
HNMR: = 8.43(m、1H)、 6.97(m、1H)、 4.12(m、2H)、2.04(s、3H)1.32(t、J=7.6Hz、3H)
【0030】
(合成例2)
【化7】


窒素雰囲気下、200mL三口フラスコにエーテル40mLを加え、−70℃以下に冷却した。N―ブチルリチウム13.7mL(21mmol)を加え、3−ブロモ−4−メチルチオフェン4.4g(22mmol)のエーテル18mL溶液をゆっくり滴下し、−70℃以下で45分間攪拌することでリチオ体を調整した。別途、窒素雰囲気下、300mL三口フラスコにエーテル56mLと式(3)で表される化合物4.36g(22mmol)を加え−70℃以下に冷却した。調整したグリニヤ試薬を−70℃以下でゆっくりと滴下した後に室温まで昇温した。水100mLを加え、酢酸エチル200mLで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧下で溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:20)にて精製することで黄色油状物質として式(4)で表されるエチル(3,3’−ビス(4−メチルチエニル)グリコレート4.0g(61%)を得た。
HNMR:=7.05(d、J=3.0Hz、2H)、 6.91(d、J=3.0Hz、2H)、4.01(q、J=7.0Hz、4H)、3.50(s、1H)、2.04(s、6H)、1.32(t、J=7.6Hz、6H)
【0031】
(合成例3)
【化8】


200mL三口フラスコに式(4)で表される化合物4.0g(13mmol)とエタノール30mL、水40mLを加え、水酸化カリウム20gを加えた後に室温で1時間攪拌した。減圧下でエタノールを留去した後にpH=4となるまで酢酸を加えた。酢酸エチル100mLで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧下で溶媒を留去した。得られた粗生成物をトルエン100mLに溶解し、飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで洗浄した後に、水層に2N塩酸100mLを加え、攪拌した後にトルエン100mLで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した後に真空下で乾燥することで黄色固体として式(5)で表されるエチル(3,3’−ビス(4−メチルチエニル)グリコキシリックアシッド1.5g(43%)を得た。
HNMR:=10.1(s、1H)、7.03(d、J=3.0Hz、2H)、 6.95(d、J=3.0Hz、2H)、2.07(s、6H)
【0032】
(合成例4)
【化9】


窒素雰囲気下、200mL三口フラスコに式(7)で表される化合物1.5g(5.6mmol)と1,2−ジクロロエタン47mLを加え−10℃まで冷却した後に、塩化アルミニウム(III)2.2g(16.8mmol)を加え、還流下で2.5時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却し、2N塩酸20mLを加え有機層を分離した。有機層に飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLを加え攪拌した後に、2N塩酸50mLを加えた。水層を塩化メチレン100mLで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去することで得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することで黄色油状物質として式(6)で表される4H−4−カルボキシシクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チオフェン0.45g(32%)を得た。
HNMR:=10.1(s、1H)、6.81(s、1H)、4.42(s、1H)、2.29(s、6H)
【0033】
(合成例5)
【化10】


窒素雰囲気下、50mL三口フラスコに式(6)で表される化合物0.45g(1.8mmol)、銅粉末0.33g(5.2mmol)とキノリン19mLを加え還流下で4時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液を2N塩酸50mLと氷50gの混合液に注いだ後にトルエン100mLで抽出した。2N塩酸50mLと飽和炭酸水素ナトリウム水溶液50mLで有機層を洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去することで得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製することで黄色固体として式(7)で表される化合物4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チオフェン0.19g(59%)を得た。
HNMR:=6.77(s、2H)、3.30(s、2H)、2.27(s、6H)
【0034】
(合成例6)
【化11】


窒素雰囲気下、50mL三口フラスコに式(7)で表される化合物0.16g(0.78mmol)とテトラヒドロフラン12mLを加え0℃以下に冷却した。1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液0.51mL(0.86mmol)をゆっくりと滴下し、室温まで昇温した後に2時間攪拌した。再び0℃以下まで冷却し、臭化オクチル0.16g(0.86mmol)を加えた後に、室温まで昇温し2時間攪拌した。反応終了後、飽和食塩水30mLに注ぎ、酢酸エチル20mLで抽出し、水30mLで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧下で溶媒を留去することで得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製することにより黄色固体として式(8)で表される4−オクチルシクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チオフェン0.17g(72%)を得た。
−MeCPDT:HNMR:=6.74(s、2H)、3.78(t、J=4.3Hz、1H)、2.29(s、6H)、2.33−2.10(m、2H)、1.38−1.09(m、12H)、0.84(t、J=7.0Hz、3H)
【0035】
(合成例7)
【化12】


合成例6と同様の方法で臭化オクチルに代えて臭化ブチルを用い、式(9)で表される4−ブチルシクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チオフェンを合成した。
−MeCPDT:HNMR:=6.74(s、2H)、3.77(t、J=4.5Hz、1H)、2.29(s、6H)、2.33−2.10(m、2H)、1.30−1.11(m、2H)、0.76(m、5H)
【0036】
<実施例1>
[式(10)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例5で得た3,5−ジメチル-4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン20mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.55Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(10)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、200S/cmであった。この結果から、式(10)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0037】
【化13】

【0038】
<実施例2>
[式(11)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例7で得た3,5−ジメチル-4−ブチル−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン28mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.70Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(11)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、100S/cmであった。この結果から、式(11)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0039】
【化14】

【0040】
<実施例3>
[式(12)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例6で得た3,5−ジメチル-4−オクチル−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン30mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.60Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(12)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、100S/cmであった。この結果から、式(12)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0041】
【化15】

【0042】
<実施例4>
[式(14)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例1および2における3−ブロモ−4−メチルチオフェンに代えて3−ブロモ−4−メトキシチオフェンを用いる以外は同様に合成した3,5−ジメトキシ-4−オクチル−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン29mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.40Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(14)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、80S/cmであった。この結果から、式(14)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0043】
【化16】

【0044】
<実施例5>
[式(16)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例1および2における3−ブロモ−4−メチルチオフェンに代えて3−ブロモ−4−ヘキシルチオフェンを用いる以外は同様に合成した3,5−ジヘキシル-4−オクチル−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン46mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.55Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(16)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、80S/cmであった。この結果から、式(16)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0045】
【化17】

【0046】
<比較例1>
[式(18)で示される重合体の合成(電解重合)]
ITO膜付ガラス板(表面抵抗値:10Ω/□)を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム/アセトニトリル溶液10mLを加え、合成例1および2における3−ブロモ−4−メチルチオフェンに代えて3−ブロモチオフェンを用いる以外は同様に合成した4−オクチル−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェン29mg(0.1mmol)を溶解させて、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続した。ポテンショスタットモードにて0.60Vの定電位で電圧印加し、電解重合を行ったところ、陽極上に下記式(18)で示される膜状の黒色重合体が生成した。化学反応式を以下に示す。生成した膜を脱水アセトニトリルで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、10S/cmであった。この結果から、式(18)で示される本発明の重合体は、優れた導電性材料であることが分かった。この時生成した膜に対して、サイックリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、更に、モノマーのない0.1M過塩素酸リチウム/アセトニトリル溶液中にて印加電圧を変えながら紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも赤色から濃青色への変化が確認された。
【0047】
【化18】

【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式 (1)で示される構造単位を有する重合体。
【化1】


[式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは2以上の整数である。]
【請求項2】
下記一般式(2)で示される構造単位を有する重合体。
【化2】


[式中、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基またはアルコキシル基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、p+q=1、0<p<1、0<q<1であり、Yはアニオンである。]
【請求項3】
請求項2記載の重合体からなる導電性材料。

【公開番号】特開2011−231289(P2011−231289A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105308(P2010−105308)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】