説明

シトラール香味剤およびその製造方法

【課題】飲料等に対して、熱や光等に対して安定性が高く、オフフレーバーの少ない柑橘系香味剤を提供する。
【解決手段】フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物と、溶解度パラメーター9.0以上の溶媒を混合し、加圧下、−20℃以上、150℃以下で抽出する工程を含む製造方法等によって得られ、遮光下、55℃、2週間保存後に発生するp−メチルアセトフェノンの割合が、保存前のシトラールに対して5.0モル%以下であるシトラール香味剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトラール香味剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトラールはハーブや柑橘類などに含まれる香味成分であって、柑橘調の香味が強いため、柑橘系の香味を有する飲食品や香粧品に用いられている。しかし、熱や光に不安定であり、オフフレーバーに変化してしまうことが課題となっていた。オフフレーバーとは、香味剤に含まれる成分自身の化学変化や、外部環境により、品質が劣化して二次的に生じる、異臭、変異臭、悪変臭などをいう。中でも、最終生成物であるp−メチルアセトフェノンは、少量で強い匂いを発するため、最も問題視されてきたオフフレーバーであり、その発生を抑えることが課題となってきた。
シトラールからのオフフレーバー発生機構を以下に示す。
【0003】
【化1】

【0004】
上記課題を解決する方法として、主に安定化剤の開発が進められている。例えば、カフェ酸誘導体を安定化剤として用いて、シトラスフレーバーを安定化する方法(特許文献1)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−203750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の自然志向の高まりから、特に食品用途については、安定化剤等の添加剤を含まず、消費者にとって安心感の高い天然由来の香味剤が求められている。
【0007】
本発明の目的は、安定化剤を必要とせず、長期間、オフフレーバーの発生を抑えることができ、シトラールを主成分として含む天然由来の香味剤を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、安定化剤を使用せずとも、オフフレーバーの発生を抑えることができる、シトラールを主成分として含む天然由来の香味剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本願の第一の発明は、遮光下、55℃、2週間保存後に発生するp−メチルアセトフェノンの割合が、保存前のシトラールに対して5.0モル%以下である、フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物抽出由来物からなるシトラール香味剤である。
本願の第二の発明は、フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物と、溶解度パラメーター9.0以上の溶媒を混合し、加圧下、−20℃以上、150℃以下で抽出する工程を含む香味剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる香味剤によれば、飲料等に対して、熱や光等に対して安定性が高い、柑橘調の香味を付与できる。また、本発明にかかる香味剤は、原料として乾燥状態のものを用いることができるため、安定して供給可能であって、天候に左右されやすい柑橘香味剤の代替品として用いることも可能である。さらに、本発明にかかる香味剤は、添加剤を含まない安心、安全な天然由来の香味剤として利用できる。また、本願発明にかかる方法によれば、安定化剤を添加することなく、長期間、オフフレーバーの発生を抑えることができる香味剤が得られるため、経済性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のレモンマートル香味剤AのHPLCによる分析結果である。
【図2】実施例2のレモンマートル香味剤BのHPLCによる分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願において、香味とは、香気(香り)および/または味を意味しており、香気には香調(香りのバランス)も含んでいる。香味成分とは、香味を有する成分を意味する。
【0013】
本発明の香味剤は、遮光下、55℃、2週間保存後に発生するp−メチルアセトフェノンの割合が、保存前のシトラールに対して5.0モル%以下、好ましくは3.0モル%以下である、フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物抽出由来物からなるシトラール香味剤である。ここで、本願において、シトラール香味剤とは、シトラールを主成分として含む香味剤を意味する。
【0014】
本香味剤は、親水性成分を同時に含む。この親水性成分は、例えば、以下のHPLC分析条件で、10分以内に検出される成分である。
カラム WATERS製 5C18−PAQ 4.6I.D.×250mm
カラム温度 40℃
移動相 アセトニトリル:10mMリン酸=30:70
流速 0.7 ml/min
検出:UV280nm、 0.1AUF
本発明の香味剤は、シトラールを主成分とするにも関わらず、オフフレーバーの発生が少ないため、香味を邪魔しないという利点を有する。
【0015】
このような香味剤は、例えば、以下の方法によって得られる。
本発明に用いられる、香味成分としてシトラールを多く含む原料としては、例えば、フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、クスノキ科の植物を挙げることができ、これらの植物は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの類縁品種および改良品種も使用することができる。
【0016】
フトモモ科の植物としては、例えば、バクホウシア属、レプトスペルマム属、メラレウカ属、ユーカリ属が、イネ科の植物としては、例えば、オガルカヤ属が、シソ科の植物としては、例えば、コウスイハッカ属が、クマツヅラ科の植物としては、例えば、イワダレソウ属が、クスノキ科の植物としては、例えば、ハマビワ属が挙げられる。
【0017】
バクホウシア属の植物としては、例えば、レモンマートルが、レプトスペルマム属としては、例えば、レモンティーツリー(レモンセントティーツリー、レモンセンテッドティーツリー)が、メラレウカ属としては、例えば、ハニーマートルが、ユーカリ属としては、例えば、ユーカリステイジリアナ(ハニーレモンユーカリ)が挙げられる。オガルカヤ属の植物としては、例えば、レモングラス、セイロンシトロネラ、ジャワシトロネラ、パルマローザが挙げられる。コウスイハッカ属の植物としては、例えば、レモンバーム(メリッサ)が挙げられる。イワダレソウ属の植物としては、例えば、レモンバーベナが挙げられる。ハマビワ属の植物としては、例えば、リツェアクベバ(クベバ、リトシークベブ、メイチャン、リトセア)が挙げられる。中でも、シトラール含有率の高さや、食経験の豊富さから、レモンマートル、レモンティーツリー、ハニーマートル、レモングラス、リツェアクベバがより好ましく、レモンマートル、レモンティーツリー、リツェアクベバがさらに好ましく、レモンマートルが最も好ましい。
【0018】
本発明に用いられる原料は、香味の強さと安定性のバランスの観点から、葉の部位を用いるのが好ましいが、例えば、枝や幹(茎)、根などの葉以外の部位が付随した状態で用いてもよい。また、例えば、乾燥前の生の状態、乾燥された状態、冷凍された状態など、原料の状態に関わらず利用可能である。経済性、保存性の観点では、乾燥された状態のものが好ましい。乾燥の方法は特に制限されるものではないが、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの公知の方法が上げられる。また、原料の保管温度は特に制限されず、原料の状態に応じて適宜調整すればよく、例えば、乾燥された状態であれば50℃以下が好ましく、生の状態であれば20℃以下が好ましく、冷凍状態であれば−5℃以下が好ましい。
【0019】
原料はそのまま、あるいは細断された状態、粉末化された状態、ペーストの状態のいずれの状態でも使用できるが、取扱いの容易さの観点では、概ね0.5〜50mm程度の大きさに細断された状態、概ね0.5mm以下に粉末化された状態が好ましい。この際の細断、粉末化、ペースト化の方法としては、特に限定はなく、フードプロセッサー、カッターミキサー、粉砕機、磨砕機、ホモジナイザー、などの公知の方法を用いることができる。
【0020】
原料の有する香味成分を効率的に回収するには密閉された状態で細断を行うことがより好ましい。
【0021】
上記原料は、溶媒と混合して、香味成分の抽出を行う。香味成分を効率よく回収する観点では、原料を溶媒中でさらに細断することが好ましい。その際、そのままの原料を用いてもよいし、予備的に細断した原料を用いてもよい。
【0022】
抽出に用いる溶媒は、香味の強さと安定性のバランスの観点から、溶解度パラメーター(Solubility Parameter,以下、「SP値」という)が9.0以上のものを用いるのが好ましい。SP値は、溶解パラメーター、溶解性パラメーター、ヒルデブランドパラメーターなどとも呼ばれ、溶媒に対する物質の溶解性を評価する上で重要な値であり、一般的には、溶質と溶媒のSP値の差が小さいほど抽出効率が良い。SP値は、1モルの体積の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根 (cal/cm1/2から計算することができる。
【0023】
溶媒としては、具体的には、水(SP値:23.4)、グリセリン(16.5)、プロピレングリコール(14.8)、メタノール(14.5−14.8)、エタノール(12.7)、1−プロパノール(12.1)、2−プロパノール(11.2)、アセトン(10.0)、トリアセチン(9.0)、酢酸エチル(9.0)などが例示できる。なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。SP値として好ましくは、9.0〜23.4、さらに好ましくは12.0〜23.4、特に好ましくは、15.0〜20.0である。
【0024】
上記溶媒の中でも水、プロピレングリコール、エタノール、トリアセチンまたはその混合物を用いるのが、安全性の点から好ましい。水、エタノールまたはその混合物を用いるのが、香味の強さと安定性のバランスの点からより好ましい。水とエタノールの混合溶媒を用いるのがさらに好ましい。
【0025】
水とエタノールの混合溶媒におけるエタノールの比率は、特に限定されないが、下限として好ましくは10w/w%以上、より好ましくは20w/w%以上、更に好ましくは40w/w%以上である。上限として好ましくは、100w/w%以下、より好ましくは90w/w%以下、更に好ましくは80w/w%以下、特に好ましくは60w/w%以下である。
溶媒の使用量は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、原料乾燥質量に対して0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、2質量部以上が最も好ましく、2000質量部以下が好ましく、200質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が最も好ましい。
【0026】
抽出の際は、温度は特に限定はされないが、比較的低温で行うのが好ましい。具体的には、−20℃以上、150℃以下とすることが好ましい。−20℃以上、150℃以下であればオフフレーバーの発生が抑えられるシトラール香味剤を得ることができる。より好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは、90℃以下であり、特に好ましくは80℃以下である。100℃以下であれば、焦げた香味や不快な香味など好ましくない香味の生成や抽出をより確実に抑制できる。抽出温度の下限としては、0度以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましく、30℃以上が特に好ましい。0℃以上であれば、抽出効率を維持することができ、また、温度を比較的容易に一定に維持できる。
【0027】
抽出時に加熱する場合、加熱の方法は特に限定されるものではなく、例えば、蒸気による加熱、電気による加熱など、公知の加熱方法を利用することができる。
【0028】
また、抽出は、加圧下で行うことが好ましい。好ましくは、ゲージ圧0.01MPa以上、50MPa以下で抽出を行う。当該圧力が0.01MPa以上であれば、安定性を維持したまま、香味成分をより確実に効率良く抽出することが可能になる。一方、当該圧力が50MPaを超えると抽出効率が頭打ちになる傾向があり、経済的にも好ましいものではないので、50MPa以下が好ましい。当該圧力としては、0.03MPa以上がより好ましく、0.05MPa以上がさらに好ましく、また、10MPa以下がより好ましく、5MPa以下がさらに好ましい。なお、ここでいうゲージ圧とは、大気圧をゼロとする、相対的な圧力のことである。
【0029】
加圧方法は、加圧が可能であれば特に限定はなく、食品関連で一般的に使用される高温高圧調理殺菌装置などで利用されている水での加圧、窒素ガスやCOガスなどでの加圧など、公知の方法で行うことができる。
また、抽出効率の観点から、抽出時に撹拌することが好ましい。
【0030】
抽出時の好ましくない香味の生成を抑制する観点から、抽出の際に生じるヘッドスペースを窒素ガスやCOガスなどの不活性ガスで置換したり、また、抽出液中に窒素ガスやCOガスを吹き込むことが好ましい。抽出時間は、特に限定されず適宜調整すればよく、原料の形態、抽出温度などにもよるが、30秒間以上が好ましく、120分間以下が好ましい。30秒間以上であれば、より確実に抽出効率を確保でき、また、120分間以下であれば、焦げた香味や不快な香味など好ましくない香味の生成や抽出をより確実に抑制できる。抽出時間としては、2分間以上がより好ましく、5分間以上がさらに好ましく、また、60分間以下がより好ましく、30分間以下がさらに好ましい。
【0031】
抽出操作を行った後は、例えば、遠心分離、フィルタープレス、スクリュープレスなどの公知の分離手段を用いて固液分離を行い、液相部を回収してもよい。これにより、所望の香味剤を得ることができる。
【0032】
固液分離を行う場合には、揮発性香味成分の飛散を防止するために、抽出後、混合物を室温程度まで冷却してから次の固液分離工程に移るのが好ましく、抽出と固液分離の両方の工程を連続した密閉状態にして行うことがより好ましく、溶媒と原料を混合・細断する工程、抽出工程および固液分離工程を連続した密閉状態にして行うことが更に好ましい。各工程を連続した密閉状態にして行う場合は、例えば、窒素ガスやCOガスなどの不活性ガスの圧力を利用して、混合・細断後、抽出工程に移送し、さらに、抽出後、固液分離工程に移送し、固液分離を行うことができる。容器への充填工程を含めた密閉状態で行うこともできる。ここで、密閉状態とは、大気に直接接触しないことを意味する。
本発明の香味剤は、飲食品などに添加・混合することにより、柑橘調の香味を付与することができる。
【0033】
本発明の香味剤は、原料の香味成分を溶媒により抽出し、固液分離を行った後に回収した液相部を基本とするが、固液分離を行う前の固液分散状態のものも、本発明の香味剤に含むものとする。また、固液分離後の液相部から生じた固形分も、本発明の香味剤に含むものとする。
【0034】
本発明に係る香味剤の容器としては、香味成分の飛散防止、保管性、運搬性などの観点より、ガラス製、プラスチック製、アルミラミネートされた容器、金属容器などが好ましいが、密封充填が可能な容器であれば材質は特に限定されない。
本発明の香味剤には、必要に応じて、香料、甘味料、着色料、増粘剤、乳化剤等公知の添加物を添加してもよい。
【0035】
本発明の香味剤は、好ましくは飲食品用途に用いられるが、香粧品、医薬品、医薬部外品など、その他のさまざまな分野においても利用することができる。飲食品としては、特に限定されるものではないが、例えば果実飲料、清涼飲料水、アルコール飲料、アイスクリーム、ヨーグルトなどへ利用でき、製造時の添加あるいは食する直前に添加することもできる。香粧品とは香料製品や化粧品など、飲食品以外の香り付き製品の総称であり、特に限定されるものではないが、例えば、美容液、クリーム、整髪料、香水、芳香剤、シャンプー、リンス、石鹸、歯磨き粉、入浴剤などを挙げることができる。医薬品および医薬部外品とは、薬事法で定められたものであって、特に限定されるものではなく、その形態としては、飲料、カプセル、錠剤、経皮吸収剤、スプレーなどを挙げることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
本願において、ガスクロマト質量分析(GC−MS)は以下のようにして行った。
【0038】
(測定サンプルの調製)
サンプル10gをナシ型の二ツ口フラスコ(50ml容、TOP社)に入れ、100ml/分の速度で窒素を吹き込み、バブリングしながら、40℃、15分間捕集管(TENAX−TA、ゲステル社)に香味成分を吸着させた。吸着後、捕集管を空のナシ型の二ツ口フラスコ(50ml容、TOP社)に再度セットし、5分間、100ml/分の速度で窒素を吹き込み、水分を除去した。
【0039】
(香味成分の加熱脱着)
得られた捕集管を、加熱脱着装置(TDSA、ゲステル社)にセットし、香味成分の加熱脱着を行い(イニシャル温度:20℃、イニシャル温度保持時間:1分間、昇温スピード:毎分60℃、最終温度240℃、最終温度保持時間:5分間)、コールドトラップ(シリカキャピラリー)にて香味成分を回収した(イニシャル温度:−100℃、イニシャル温度保持時間:0.2分、昇温スピード:毎秒12℃、最終温度240℃、最終温度保持時間:10分間)。
【0040】
(GC−MS分析)
続いて、ガスクロマトグラフ装置(6890N、アジレントテクノロジー社)にかけ、サンプルの香味成分を解析した。分析条件は以下のとおりである。
カラム:HP−INNOWAX 60m×0.25mmI.D.
イニシャル温度:40℃
イニシャル温度保持時間:2分間
昇温スピード:100℃まで毎分3℃、その後240℃まで毎分5℃
最終温度:240℃
最終温度保持時間:30分間
キャリアーガス:ヘリウム 206kPa
キャリアーガス流量:2.1ml/min
MS検出器条件:MS イオン源温度 230℃、MS 4重極温度150℃
【0041】
本発明において、高速液体クロマトグラフ(HPLC)は以下のようにして行った。
【0042】
(測定サンプルの調製)
サンプル100μlにエタノール(99%(w/w))900μlを加えてよく混合した。10,000rpmで2分間遠心し、上清をHPLCサンプルとした。
【0043】
(HPLC分析)
得られたサンプルをHPLCに供した。HPLC分析条件は、以下のとおりである。
カラム:WATERS 5C18−PAQ 4.6I.D.×250mm
カラム温度:40℃
移動相:(アセトニトリル:10mMリン酸)=30:70
流速:0.7 ml/min
検出:UV280nm、 0.1AUF
【0044】
(実施例1)
オスターブレンダー(オスタライザー社;Junk・pulse matic10_wh)にレモンマートル30gおよび60%(w/w)エタノール水溶液300gを加え、30秒間、細断すると同時に混合を行った。得られた細断混合物をポータブルリアクター(耐圧硝子工業株式会社製;TEM−U1000N)に移した。ゲージ圧0.2MPaの圧力下、40℃で30分間、撹拌しながら抽出を行なった。抽出後、ろ紙(ADVANTEC;No1ろ紙)によりろ過を行うことで固形分を除去し、レモンマートル香味剤A(250g)を得た。
【0045】
(実施例2)
抽出溶媒に95%(w/w)エタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、レモンマートル香味剤B(267g)を得た。
【0046】
(比較例1)
シトラール標品(シグマ社、E体・Z体混合)を60%エタノール水溶液で200倍希釈し、シトラール香味剤を調製した。
【0047】
(比較例2)
レモンマートル精油(Lemon Myrtle Farms社)を60%エタノール水溶液で200倍希釈し、レモンマートル精油香味剤を調製した。
【0048】
(試験例1)官能評価
1kg当たり、グラニュー糖74.8g、クエン酸2g、クエン酸3Na0.4gを溶解させ、香味剤の評価用飲料を2kg調製した。当該飲料を100gずつレトルトバックに充填し、121℃で10分間のレトルト殺菌処理を行なった。得られた殺菌済みの評価用飲料を、熱い状態のまま遮光可能な120ml容のアルミボトルに注ぎ、上記実施例1、2、比較例1、2の各香味剤0.15g(0.15質量%)を無菌的に添加した後、遮光下、55℃で2週間保存した。保存後、以下の基準により、香気および味をパネル10名で官能評価した。
【0049】
香気および味1―比較例1よりも変化の度合いが小さい
香気および味2―比較例1よりも変化の度合いがやや小さい
香気および味3―比較例1と変化の度合いが同等
結果を、10名による評価の平均値として表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、実施例1のレモンマートル香味剤Aは、パネル10名全員が比較例1よりも変化の度合いが小さいと評価した。オフフレーバーの発生が抑えられているのは明らかである。また、実施例2のレモンマートル香味剤Bにおいても全員が比較例1よりも変化の度合いが小さい、又はやや小さいと評価した。親水溶媒で抽出することの効果は明らかである。一方、比較例2のレモンマートル精油では、変化の度合いが大きかった。
また、保存前の比較においても、実施例1、2は、比較例2に対し、苦味や渋みが少なく、官能的に優れていた。
【0052】
(試験例2)GC−MS評価
試験例1で得られた各香味剤添加飲料をGC−MSにて評価した。
香味成分中のシトラールの割合の評価は、保存前の香味成分全エリア面積から溶媒であるエタノールのエリア面積を除いたエリア面積を100とし、シトラールのエリア面積(E体とZ体のエリア面積の和)の割合を算出することで行った(表2)。
オフフレーバーの発生の割合の評価は、保存前のシトラールのエリア面積(E体とZ体のエリア面積の和)を100とし、遮光下、55℃、2週間の保存後に発生したp−メチルアセトフェノンのエリア面積の割合を算出することで行った(表3)。
【0053】
【表2】

【0054】
表2からわかるように、実施例1のレモンマートル香味剤Aはシトラールを高い割合で含むことが確認された。
【0055】
【表3】

【0056】
表3より、実施例1のレモンマートル香味剤Aは、比較例1のシトラール香味剤と比較し、シトラールの酸化最終生成物であるp−メチルアセトフェノンの割合が低くなっていた。このことから、実施例1のレモンマートル香味剤Aにおいては、p−メチルアセトフェノンの生成が阻害されていることは明らかである。また、閾値が低く柑橘類とは全く異なる香味であるp−メチルアセトフェノンの発生抑制が、官能的な違いとなって現れていることは、試験例1からも明らかである。
【0057】
(試験例3)HPLC評価
実施例1、2のレモンマートル香味剤A、BをHPLCにて評価した。
図1、2からわかるように、実施例1および2で得られた香味剤は、保持時間10分以前にピークを有しており、実施例1、2のレモンマートル香味剤A、Bともに親水性の高い成分が得られていることが確認された。比較例1および比較例2で得られた香味剤においては、同様の成分がほとんど確認されなかったことから、原料由来の親水性成分が、シトラールの安定性に何らかの形で関与していることが推察される。
【0058】
(試験例4)
ヨーグルト(プレーン)300g、牛乳200g、グラニュー糖50gを混ぜ合わせ、実施例1で作製したレモンマートル香味剤A0.5gを加え、さらに少しずつ混ぜ合わせた。−20℃の冷凍庫に入れ、3時間冷却を行い、ヨーグルトシャーベットを作製した。得られたシャーベットは柑橘類の香味を有しており、柑橘類を用いず、柑橘調の香味を有するシャーベットを手軽に得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光下、55℃、2週間保存後に発生するp−メチルアセトフェノンの割合が、保存前のシトラールに対して5.0モル%以下である、フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物抽出由来物からなるシトラール香味剤。
【請求項2】
原料由来の親水性成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の香味剤。
【請求項3】
前記植物が、フトモモ科バクホウシア属、フトモモ科レプトスペルマム属、フトモモ科メラレウカ属、フトモモ科ユーカリ属、イネ科オガルカヤ属、シソ科コウスイハッカ属、クマツヅラ科イワダレソウ属、クスノキ科ハマビワ属から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の香味剤の製造方法。
【請求項4】
前記植物が、レモンマートル、レモンティーツリー、ハニーマートル、ユーカリステイジリアナ、レモングラス、セイロンシトロネラ、ジャワシトロネラ、パルマローザ、レモンバーム、レモンバーベナ、およびリツェアクベバから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の香味剤の製造方法。
【請求項5】
前記植物が、レモンマートル、レモンティーツリー、ハニーマートル、レモングラス、リツェアクベバであることを特徴とする請求項4に記載の香味剤の製造方法。
【請求項6】
前記植物が、レモンマートルであることを特徴とする請求項5に記載の香味剤の製造方法。
【請求項7】
フトモモ科、イネ科、シソ科、クマツヅラ科、およびクスノキ科から選ばれる1種以上の植物と、溶解度パラメーター9.0以上の溶媒を混合し、加圧下、−20℃以上、150℃以下で抽出する工程を含むことを特徴とする、遮光下、55℃、2週間保存後に発生するp−メチルアセトフェノンの割合が、保存前のシトラールに対して5.0モル%以下であるシトラール香味剤の製造方法。
【請求項8】
前記抽出溶媒が、溶解度パラメーター12.0〜23.4の溶媒であることを特徴とする請求項7に記載の香味剤の製造方法。
【請求項9】
前記抽出溶媒が、水、エタノール、プロピレングリコール、トリアセチン又はそれらの混合物からなる請求項8に記載の香味剤の製造方法。
【請求項10】
前記抽出溶媒が、水、エタノール、又はそれらの混合物からなる請求項9に記載の香味剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の香味剤を用いてなる飲食品。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載の香味剤を用いてなる香粧品。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の香味剤を用いてなる医薬品および医薬部外品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−17467(P2013−17467A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169569(P2011−169569)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】