説明

シムトレイ温度制御装置を備えた磁気共鳴イメージング装置

【課題】
室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化の抑制を図り、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減し、画像の高分解能化を可能としたMRI装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
撮像空間に静磁場を発生させる磁石と、前記撮像空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、静磁場の均一度を調整するシム鉄片と、前記シム鉄片を任意の分布で保持するシムトレイと、核磁気共鳴を励起する高周波の送信コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、前記シム鉄片及び前記シムトレイを任意の温度に制御する温度制御装置と、を備える。シム鉄片及びシムトレイを任意の温度に制御するため、室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化の抑制を図ることができる。従って、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴イメージング(ニュークレア・マグネティック・レゾナンス・イメージング(Nuclear Magnetic Resonance Imaging)、以下「MRI」という。)装置に係り、特に、室温変化や傾斜磁場コイル等に基づくシム鉄の温度変化による磁場変動を抑制するためのシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、NMR(Nuclear Magnetic Resonance、核磁気共鳴)現象を利用したイメージング法である。NMRは、ある種の原子核(NMR核種)を均一な静磁場中に置いた場合に、特定の周波数(ラーモア周波数)の電波エネルギーを選択的に吸収する現象である。NMRイメージング法は、非電離電磁放射線(電波)と静磁場,傾斜磁場の組み合わせにより対象核種の存在密度を画像化するものである。NMRは原子核の電波に対する共鳴現象として捉えられる。
【0003】
NMRのイメージング法には、励起電波パルスの照射直後に原子核が放出する電磁誘導(FlD:Free lnduotion Decay、自由誘導減衰信号)を測定する方法や、90°パルスと180°パルスの組み合わせによるエコー信号を利用する方法等がある。
【0004】
2次元の画像(MRI)に再構成する方法は、波動の3要素、即ち周波数(波長),位相,振幅を利用する。デジタル画像にするには、x,y座標とその座標における階調(信号強度)が全てのマトリックスにおいて決定されることが必要である。MRIでは、信号強度に振幅を、x,y座標に周波数(波長)及び位相を使用している。周波数,位相及びスライス選択(後述する断層面を意味する。)の何れも傾斜(勾配)磁場を静磁場中に発生させることで、位置情報を持った信号強度を決めることができる。
【0005】
周波数情報を数学的に計算する手法として、フーリエ変換法(Fourier transform 、時空間データを周波数空間データに変換する計算法)が使用されている。
【0006】
周波数方向の読み出し方は、x軸方向にaT/m(1T(テスラ)=10kG(キロガウス)、1メートル単位長あたりの磁場変化≡傾斜磁場)の傾斜磁場を静磁場B0の空間に発生させると、x軸方向の有効静磁界によるx座標上の周波数νxは以下の式で与えられる。
【0007】
νx=γ/2π×(B0+ax)
B0:静磁場強度,γ:回転磁比,a:傾斜磁場
x軸方向の情報は一度に得ることができ、情報を得る方向という意味で、読み出し方向という。
【0008】
位相方向も同様にy軸方向に傾斜磁場をかけるが、この磁場は読み出し方向の磁場強度よりはるかに小さく、位相空問360°をマトリックスサイズに応じて分割し、信号を取る度に分割回数だけ変化させなければならない。このため、NMR信号を得るためのパルスの組み合わせを分割回数だけ繰り返す必要がある。このRFパルスの一連の繰り返しを、MRIのパルス系列と呼んでいる。
【0009】
断層画像を作るためには、断層面(スライス)の厚さを選択する必要がある。スライス選択は、スライス断面に垂直な軸に沿って、傾斜磁場を発生させることで可能となる。この傾斜磁場が最も強カな傾斜磁場であり、スライス厚を薄くするために磁場強度を強くする。
【0010】
医療用MRIは、主に生体における水素原子核の核磁気共鳴信号の三次元分布を画像化する。このため生体組織の水素原子の含有量に応じた画像濃淡を得ることができ、その結果、組織の形、即ち形態画像を得ることができる。
【0011】
磁気共鳴信号の三次元分布を画像化する空聞の静磁場の強度が所定の値から変化したり、静磁場の均一度が乱れたりすると、信号の周波数や位相が変化するため、画像に乱れが生じる。従って、医療用MRIではppm レベルの極めて高い磁場均一度と安定度が要求される。さらに、近年進展している技術としてMRスペクトロスコピーがある。MRスペクトロスコピーは、磁気共鳴周波数の化学シフトからその物質を同定する技術であり、生体内の特定物質の分布情報を得ることができる。この化学シフト量は極めて僅かなため、その弁別においても、より一層の高い磁場均一度と安定度が求められる。
【0012】
一方、傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルには強大なパルス電流が繰返し通電されるため発熱が大きくなるが、近年の高磁場型の磁石では、傾斜磁場コイルにおける発熱が大きくなる傾向にある。そして、傾斜磁場コイルは、静磁場の分布を微調整するシム鉄片の近傍に配置されるため、傾斜磁場コイルの発熱により、シム鉄片は温度変動を受けやすくなる。
【0013】
一般に、鉄などの強磁性体の飽和磁化は、温度が高くなると弱まる性質がある。これは、磁化を作り出す内部の原子スピンの配向が、熱エネルギーでランダム化されることが主な要因である。従って、MRIに使用される永久磁石の磁性体、磁場の強化・補正用の磁極,継鉄,微調整用のシム鉄片等が温度変動を受けると、撮像空聞の磁場強度や均一度が変動する。
【0014】
MRIの磁石及び磁石周辺の温度変化によって引き起こされる磁場変動を抑制する発明として、X軸用傾斜磁場コイルとY軸用傾斜磁場コイルとの間に熱吸収板を取リ付け、この熱吸収板の溝に熱を伝達するヒートパイプを接合し、ヒートパイプの先端に取り付けたフィンにより、自由空間に熱を放熱するものがある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1においては、傾斜磁場コイルの駆動により発生した熱が、傾斜磁場コイルと静磁場発生磁気回路の磁極片との間隙にこもることなく、自由空間に逃がすことができ、静磁場発生磁気回路の温度を安定化することができる。しかし、特許文献1に記載の技術は、傾斜磁場コイルの発熱を外部に放出させるものであり、室温の変化に対応させることについては考慮されていない。
【0015】
傾斜磁場コイルの発熱が永久磁石の磁極を加熱することを、熱良導体とヒートポンプとを用いて抑止するものもある(例えば、特許文献2参照。)。また、特許文献2においては、温度センサにより熱電ヒートポンプを制御している。
【0016】
さらに、磁石及びその周辺の温度を検出して、シムコイルで磁場を補正するものがある(例えば、特許文献3参照。)。シムトレイの温度変化では、一般に多数のモードの誤差磁場が発生するため、この変化の全てをシムコイルで補正することは困難である。これを補正するには、シムトレイを直接温度管理することが必要である。
【0017】
【特許文献1】特開平5−285119号公報
【特許文献2】特表2003−524445号公報
【特許文献3】特開2000−342554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化の抑制を図り、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減し、画像の高分解能化を可能としたMRI装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明における磁気共鳴イメージング装置は、撮像空間に静磁場を発生させる磁石と、撮像空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、静磁場の均一度を調整するシム鉄片と、シム鉄片を任意の分布で保持するシムトレイと、核磁気共鳴を励起する高周波の送信コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、シム鉄片及びシムトレイを任意の温度に制御する温度制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シム鉄片及びシムトレイを任意の温度に制御するため、室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化を抑制することができる。従って、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1−図3を用いて、本発明におけるMRI装置について詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明に係るシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置の第1の実施例を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例は、室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化を抑制するために、シム鉄片及びシムトレイに温度制御された空気を送風し、シム鉄片及びシムトレイの温度を所定の温度に制御するものである。
【0023】
まず、第1の実施例における垂直磁場型オープンMRIの構成について述べる。本実施例における垂直磁場型オープンMRIは、撮像空間に静磁場を発生させる磁石と、撮像空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、静磁場の均一度を調整するシム鉄片と、シム鉄片を任意の分布で保持するシムトレイと、核磁気共鳴を励起する高周波の送信コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルとを備える。図1は、第1の実施例におけるシムトレイの温度制御装置の構成を示す図であり、垂直磁場型オープンMRI磁石の一磁極の断面における傾斜磁場コイル1とシムトレイ2の配置、及び本実施例に係るシムトレイ温度制御装置の構成を示している。図2は、本実施例におけるシムトレイの温度制御装置を適用した垂直磁場型オープンMRI磁石の構成を示している。図1は、図2に記載のMRI装置の下側磁石における傾斜磁場コイル1とシムトレイ2近傍を示している。図1と同様の構成が、上側磁石の傾斜磁場コイル1とシムトレイ2にも配置されている。図2に示した左右の連結柱19を除くと、磁石の構成は、基本的に軸対象に配置される。以下、本実施例においては、図1に記載の下側磁石におけるシムトレイの温度制御装置について主に説明する。
【0024】
図1及び図2に示したように、ケイブイン3と呼ばれる凹みの中に、シムトレイ2及び傾斜磁場コイル1が設置される。また、シムトレイ2は通常、傾斜磁場コイル1よりも内側に設置される。シムトレイ2は、SUSやFRP等の非磁性材が用いられる。磁石は基本的に軸対称形状であるため、傾斜磁場コイル1は円柱状、シムトレイ2は円板状、ケイブイン3は円筒面の凹みである。シムトレイ2には図示しない多数のネジ穴が開けられている。このネジ穴に鉄などの図示しない磁性体シムボルトをねじ込み、シムボルト群を任意の分布で設置していくことにより、シムボルトの磁化分布が誤差磁場を低減するように調整され、所望の均一磁場を実現することができる。また、ネジ穴に磁性体シムボルトをねじ込むことで、取り付け時の固定性と簡便な取り付け・取り外しとを両立させることができる。
【0025】
シムボルト群を任意の分布に配置(つまり、シムボルトをシムトレイの任意のネジ穴に挿入)して、誤差磁場を調整する作業をシミングという。シミングは傾斜磁場コイル1を外し、シムトレイ2を露出させた状態で行う。また、シミングは、励磁磁場の誤差を計測し、その情報に基づいて実施される。そのため、シムトレイ2は、磁石が励磁できる状態で、かつ作業者が容易にアクセスできるよう、磁石容器4等の磁石本体の外側に配置する必要がある。従って、シムトレイ2は、大気と接する環境下に配置されることになり、室温の変化に応じてその温度が変化することとなる。また、シミング後にはシムトレイ2の上部に傾斜磁場コイル1が設置され、画像の取得時には、この傾斜磁場コイルが駆動される。傾斜磁場コイル1が駆動されると、強力なパルス電流が傾斜磁場コイルに流れて発熱し、その熱は、伝熱・対流・輻射によりシムトレイ2に伝達され、シムトレイ2の温度を上昇させることとなる。
【0026】
ここで、本実施例においては、シムトレイの温度を所定の温度に制御するために、温度制御された空気をシムトレイに送風する。本実施例におけるシムトレイの温度制御装置について、以下、詳細に説明する。まず、シムトレイ2の両面、即ち、ケイブイン3底面に対向する面と傾斜磁場コイル1背面(計測空間と反対側の面)に対向する面の両側に、空気が流通する間隙5,6を設ける。傾斜磁場コイル1の側面とケイブイン3との間に形成された間隙から空気を送風する送風管7を挿入する。送風された空気が有効にシムトレイ2の表面に流れるように、傾斜磁場コイル1の側面とケイブイン3との間に形成された間隙一周に渡って、ウレタンなどで構成したパッキン8を設ける。また、送風管7と反対側の間隙には排気管9を設ける。
【0027】
間隙5,6に空気を送風する送風管7には、送風空気を冷却するためのペルチエ冷却器10、及び送風空気を加温するための無誘導ヒータ11を設ける。無誘導ヒータ11内部のヒータ線はヒータ線の通電電流を往復させた無誘導巻きとする。無誘導巻きとするのは、電流による磁場や傾斜磁場コイルやクエンチの際の主磁場との磁気的な結合による電流・電圧が発生しないようにするためである。送風管7の上流には室温の空気を吸込み、これに送風圧を掛ける送風機12を設ける。シムトレイ2の表面には、シムトレイ2の温度を計測するための熱電対等の温度センサ13,14を設ける。傾斜磁場コイル1からの輻射熱が比較的大きいことから、図1のように、温度センサは傾斜磁場コイル1に対向する側とその反対側(ケイブイン3底面に対向する側)に複数設けるのが望ましい。また、室温を計測するため、室内空気の吸込み口の近傍にも外気温度センサ15を設ける。これらの温度センサ13,14,15からの情報は制御装置16に送られる。制御装置16は温度センサ13,14,15からの情報をもとに、ペルチエ冷却器10及び無誘導ヒータ
11の出力を調整し、シムトレイ2の平均温度が初期温度となるように制御する。ここで初期温度とは、シミング作業を実施・終了したときの温度である。シミング作業を実施・終了したときの温度において磁石は所定の磁場強度で最も均一な磁場を実現しており、その状態を保つには、シムトレイ2がシミング作業を実施・終了したときの温度を保つ必要がある。初期温度は、磁石が使用される平均温度に近い状態か、傾斜磁場コイル1による平均的な加熱を考慮してそれより若干高い温度にしておく。
【0028】
前述のように、傾斜磁場コイル1が大きな発熱源となることから、シムトレイ2の傾斜磁場コイルに対向する側の温度が大きく上昇することが考えられる。この温度上昇を緩和するため、傾斜磁場コイル1とシムトレイ2との間に非磁性、非電導性の薄い断熱材を配置してもよい。また、傾斜磁場コイルの発熱が大きい場合は、傾斜磁場コイルに対向する側の空気の流通量を多くするため、シムトレイの両面に設ける間隙5,6は、傾斜磁場コイルに対向する側の間隙5の方をより広くする。
【0029】
また、図2に示すように、磁石の上側磁極と下側磁極とでは、室内への設置時の高さが1m程度異なることから、暖冷気が成層化した周囲の温度は上側磁極と下側磁極とで異なることが多い。そのため、図2のように、ペルチエ冷却機10及び無誘導ヒータ11を上側磁極と下側磁極との上下2系統設け、独立に制御する。
【0030】
送風管7は、磁石の磁極間の縁を経由して、外周部からケイブイン3内部へ引き回される。また、排気管9は、磁石の磁極間の縁を経由して、ケイブイン3から外周部へ引き回される。傾斜磁場コイル1の励磁に必要なパワーリードや冷却水パイプ等も同様にこの位置に配管されるため、送風管7及び排気管9をパワーリードや冷却水パイプ等と並列して設置することで、特に外観上のデメリットになることはない。
【0031】
上述したように、本実施例におけるMRI装置は、シムトレイの温度を所定の温度に保つためのシムトレイ温度制御装置を備える。シムトレイ温度制御装置を用いてシムトレイの温度を一定に保つことにより、室温変化や傾斜磁場コイルの発熱に基づく磁場調整用シム鉄片の温度変化の抑制を図ることができる。従って、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。また、シムトレイの温度を、シミングの際の温度に保持することにより、より高い磁場均一度を達成することができる。このような本実施例におけるMRI装置においては、特に高度な磁場安定度と均一度が必要な水・脂肪の弁別、スペクトロスコピー等の信号取得に供することができる。
【0032】
さらに、本実施例におけるMRI装置では、温度調整された空気をシムトレイに送風することにより、シムトレイの温度を制御する。温度調整された空気をシムトレイに送風するシムトレイ温度制御装置を用いることにより、既存の加熱器や冷却器等を用いてシムトレイ温度制御装置を構成することができるため、特別な装置を必要とせず、極めて容易にシムトレイ温度制御装置を製作することが可能である。
【実施例2】
【0033】
本発明に係るシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置の第2の実施例を、図3を用いて説明する。本実施例は、第1の実施例に記載したシムトレイ温度制御装置において、温度の均一性を確保するため、送風管7から送風される空気を分散するための給気ダクトを用いるものである。本実施例に係るシムトレイ温度制御装置の構成を以下に示す。尚、MRI装置の全体構成は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0034】
前述のように、傾斜磁場コイル1は円柱状、シムトレイ2は円板状、ケイブイン3は円筒面の凹みであるため、一箇所に設置した送風管7から空気を送風し、送風管7から約
180度の一箇所に設置した排気管から排気しようとすると、温度の不均一が発生する。この温度不均一を緩和するには、給気ダクトを用いて、ある範囲の角度まで円周に沿って給気を分散させるのが有効である。図3は、本実施例におけるシムトレイ温度制御装置のダクトの形状を示す図である。図3に示すように、本実施例におけるシムトレイ温度制御装置のダクトは、先端を塞いだC形の給気ダクト18であり、複数の給気穴17が設けられている。給気穴17は円の中心に向かって空気が噴出するように開けられている。
【0035】
本実施例におけるシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置においては、シムトレイを所定の温度に制御できるため、第1の実施例と同様に、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。さらに、本実施例におけるシムトレイ温度制御装置は、送風管から送風される空気を分散してシムトレイに給気することができるので、温度の均一性を確保することができる。
【実施例3】
【0036】
本発明に係るシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置の第3の実施例を説明する。本実施例は、第1の実施例に記載したシムトレイ温度制御装置の代わりに、熱良導体からなる板材をシム鉄片及びシムトレイに接触するように設けたものであり、熱電ヒートポンプにより熱良導体からなる板材の温度を調整して、シム鉄片及びシムトレイを任意の温度に制御する。
【0037】
本実施例におけるシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置においては、シムトレイを所定の温度に制御するため、第1の実施例と同様に、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。さらに、本実施例におけるシムトレイ温度制御装置は、熱電ヒートポンプにより、シム鉄片及びシムトレイに接触(または熱的に接触)するように設けられた熱良導体からなる板材の温度を調整して、シム鉄片及びシムトレイの温度を制御するので、実施例1に記載した温度制御装置を用いる場合よりも直接的にシムトレイの温度制御が可能となり、より正確且つ詳細な温度制御を行うことができる。
【実施例4】
【0038】
本発明に係るシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置の第4の実施例を説明する。本実施例は、第1の実施例に記載したシムトレイ温度制御装置の代わりに、シムトレイ上に接合して均一に引き回したヒータ線を用いてシムトレイを加熱するものである。本実施例に係るシムトレイ温度制御装置の構成を以下に示す。
【0039】
本実施例におけるシムトレイ温度制御装置においては、シムトレイ上にヒータ線が接合され、このヒータ線はシムトレイ上を均一に引き回される。ヒータ線に電流を流すことにより、シムトレイを任意の温度に加温することができる。
【0040】
運転時には、傾斜磁場コイルからの入熱により、シムトレイは室温より高い温度になることが想定される。しかし、ヒータ線単独では、これを冷却することはできない。そこで、シミング時には、シムトレイとシム鉄が予め運転想定温度になるよう、ヒータ線によって加温した状態に保つ。
【0041】
シミング終了後、傾斜磁場コイルを取り付け、傾斜磁場コイルを駆動させる。傾斜磁場コイルを駆動させると、シムトレイはさらに加熱されるが、その際、前記運転想定温度より上がる分、ヒータ線の通電電流を下げ、前記運転想定温度になるよう調整する。このように、ヒータ線による温度制御は、シミング時に運転想定温度まで加温するという配慮が必要になるが、冷却装置が不要なため装置が簡便になるとともに、装置内に挿入するヒータ線は細い電線だけで済むという利点がある。ヒータ線は、ヒータ線の電流が発生する磁場により撮像空間に外乱を与えないように、電流を往復させて発生磁場をキャンセルする無誘導配線になるように配置する。
【0042】
本実施例におけるシムトレイ温度制御装置を備えたMRI装置においては、シムトレイをヒータ線の加温により所定の温度に制御するため、第1の実施例と同様に、磁場強度及び磁場均一度の変動を低減でき、その結果、画像の高分解能化が可能となる。さらに、本実施例におけるシムトレイ温度制御装置は、ヒータ線の加温のみによりシムトレイを所定の温度に制御することができるため、冷却装置が不要であり、シムトレイ温度制御装置の構成が簡便になる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1の実施例におけるシムトレイの温度制御装置の構成を示す図。
【図2】第1の実施例におけるシムトレイの温度制御装置を適用した垂直磁場型オープンMRI磁石の構成を示す図。
【図3】第3の実施例におけるシムトレイ温度制御装置のダクトの形状を示す図。
【符号の説明】
【0044】
1 傾斜磁場コイル
2 シムトレイ
3 ケイブイン
4 真空容器
5 間隙(傾斜磁場コイル側)
6 間隙(ケイブイン底面側)
7 送風管
8 パッキン
9 排気管
10 ペルチエ冷却器
11 無誘導ヒータ
12 送風機
13 温度センサ(傾斜磁場コイル対向側)
14 温度センサ(ケイブイン対向側)
15 外気温度センサ
16 制御装置
17 給気穴
18 給気ダクト
19 連結柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像空間に静磁場を発生させる磁石と、前記撮像空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、静磁場の均一度を調整するシム鉄片と、前記シム鉄片を任意の分布で保持するシムトレイと、核磁気共鳴を励起する高周波の送信コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、前記シム鉄片及び前記シムトレイを任意の温度に制御する温度制御装置と、を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
撮像空間に静磁場を発生させる磁石と、前記撮像空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、静磁場の均一度を調整するシム鉄片と、前記シム鉄片を任意の分布で保持するシムトレイと、核磁気共鳴を励起する高周波の送信コイルと、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信コイルと、前記シム鉄片及び前記シムトレイの温度を任意の範囲内で保持する温度制御装置と、を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記シムトレイの周囲に設けられた間隙に温度を調整した空気を送風することにより、前記シム鉄片及び前記シムトレイを任意の温度に制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記間隙に空気を送風する送風管、並びに前記間隙に送風する空気を冷却する冷却器及び前記間隙に送風する空気を加熱する加熱器のうち少なくとも何れかを備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記冷却器はペルチエ冷却器であることを特徴とする核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記加熱器は無誘導巻きの電熱線で構成されることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項3乃至6の何れかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記間隙のうち、前記シムトレイと前記傾斜磁場コイルとの間に形成された第1の間隙における空気の流通量は、前記シムトレイを挟んで前記傾斜磁場コイルとは反対側に形成された第2の間隙よりも大きいことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記第1の間隙は、前記第2の間隙よりも大きいことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項3乃至8の何れかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度調整装置は、前記送風管に接続されるとともに、前記間隙に沿って位置する円弧状のダクトを備え、
前記温度制御装置により温度が調整された空気が、前記ダクトに設けられた給気穴を介して、前記シム鉄片及び前記シムトレイに給気されることを特徴とする核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項3乃至9の何れかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかの温度を計測する温度計測装置を備え、
前記温度制御装置は、前記温度計測装置により得られた前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかの計測値に基づいて、前記冷却器及び前記加熱器のうち少なくとも何れかを制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、熱電ヒートポンプと、前記熱電ヒートポンプに接続されるとともに、前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかに熱的に接続された熱良導体と、を備え、
前記熱伝導ヒートポンプにより前記熱良導体を加熱することにより、前記シム鉄片及び前記シムトレイを任意の温度に制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかの温度を計測する温度計測装置を備え、
前記温度制御装置は、前記温度計測装置により得られた前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかの計測値に基づいて、前記熱ヒートポンプを制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れかに記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記磁気共鳴イメージング装置外部の室温と、前記シム鉄片及び前記シムトレイのうち少なくとも何れかの温度との温度差に基づいて、前記シム鉄片及び前記シムトレイの温度を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
請求項1乃至13に記載の磁気共鳴イメージング装置において、前記温度制御装置は、前記シム鉄片の前記シムトレイへの挿入作業であるシミング作業の際の前記シム鉄片又は前記シムトレイの温度となるように、前記シム鉄片及び前記シムトレイの温度を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−125928(P2008−125928A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316445(P2006−316445)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】