説明

シャペロニン−目的タンパク質複合体及びその生産方法、目的タンパク質の安定化方法、目的タンパク質の固定化方法、目的タンパク質の構造解析方法、徐放性製剤、並びに目的タンパク質に対する抗体の製造方法

目的タンパク質の取り扱いを容易にするシャペロニン−目的タンパク質複合体及びその生産方法、並びに、そのシャペロニン−目的タンパク質複合体を利用するタンパク質の安定化方法、目的タンパク質の固定化方法、目的タンパク質の構造解析方法、徐放性製剤、及び目的タンパク質に対する抗体の製造方法を提供する。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体は、シャペロニンサブユニットとアフィニティタグとがペプチド結合を介して連結された融合タンパク質と、該アフィニティタグと特異的親和性を示す目的タンパク質とを含み、該目的タンパク質が特異的親和力によって該アフィニティタグと結合しており、かつ複数のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニンリング構造を形成している。本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体によれば、目的タンパク質を安定化等することができ、担体への固定化等も立体構造の変化を起こすことなく確実に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、シャペロニン−目的タンパク質複合体及びその生産方法、目的タンパク質の安定化方法、目的タンパク質の固定化方法、目的タンパク質の構造解析方法、徐放性製剤、並びに目的タンパク質に対する抗体の製造方法に関する。さらに詳細には、目的タンパク質がアフィニティタグを介してシャペロニンと結合しているシャペロニン−目的タンパク質複合体及びその生産方法、並びに、該タンパク質複合体を利用した、目的タンパク質の安定化方法、目的タンパク質の固定化方法、目的タンパク質の構造解析方法、徐放性製剤、及び目的タンパク質に対する抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
ヒト、マウス、酵母をはじめ様々な生物種の全ゲノム配列の解析が完了し、バイオ研究の流れは遺伝子の解析からタンパク質の網羅的研究へと移りつつある。この結果、疾病に関わるタンパク質の発見や、生体内におけるタンパク質間の相互作用が解明されることにより、新しい医薬品の開発につながることなどが期待されている。近年、そのための研究ツールとして、タンパク質間相互作用を検出するツーハイブリッド法や、生体内におけるタンパク質の発現を検出するタンパク質チップなどが開発され、広く用いられるようになってきた。これまで、疾病に関連する遺伝子をスクリーニングする目的としてDNAチップが用いられてきたが、遺伝子の翻訳とタンパク質の発現が必ずしも相関性あるとは言えなかった。そこでこれに代わる新しい手法としてタンパク質チップをはじめとするタンパク質を材料とする研究ツールが特に注目を集めている。
タンパク質を取り扱う上で注意すべきことは、タンパク質の変性を防ぐことである。すなわち、タンパク質の性質を決定づける重要な因子の一つはその高次構造である。しかし、熱やpHなどの外部環境変化によりタンパク質の高次構造が壊れると、そのタンパク質の活性を損ねてしまうことがある。したがって、タンパク質を産業に利用する場合は、その高次構造を如何に維持し、変性を防ぐかが課題となる。例えば、タンパク質をポリスチレン性の担体や基盤などに固定化して利用する場合には、担体に固定化した際の疎水性相互作用によってそのタンパク質の高次構造が変化しないように注意しなければならない。また、タンパク質を担体に固定化する場合にはタンパク質の活性部位が担体側に向いてしまい、その活性が正しく機能しなくなるといった別の問題もあり、タンパク質を担体上に配向性を保ちながら固定化する制御方法なども望まれている。
一方、ある種のタンパク質は、新規医薬品スクリーニングのプローブとしての利用が注目されている。すなわち、細胞内のタンパク質には各種の生理活性物質と特異的に結合し、その作用の伝達に関与するタンパク質がある。これらに対するアゴニスト、アンタゴニストはその作用伝達を制御する新規医薬品の候補物質となり得ることから、それらのタンパク質の同定とその立体構造に重大な関心が持たれている。タンパク質の立体構造を解析する手法にはNMR法とX線結晶解析法があるが、NMR法は分子量が50kDa以上のタンパク質を解析することは一般に困難である。他方のX線結晶解析法はタンパク質の分子量には制限がないものの、タンパク質ごとに種々の結晶化条件を検討しなければならず、ハイスループット型の解析において律速となり問題視されている。このようにタンパク質においては、その三次構造及び四次構造がその性質及び品質を決定づける上で重要である。
さらに近年、タンパク質の組み換え生産技術の進歩により、サイトカインや抗体などの生理活性を有するタンパク質を大量生産し、医薬品として利用することが注目されている。しかしながら、これらのタンパク質の多くは、生体内のプロテアーゼによる分解を受け、体内滞留時間が極端に短いものが多い。分解を受けるタンパク質の多くは、生理活性タンパク質の機能ドメイン部分のみを利用したものや、タンパク質の構造が天然型と比較して異なるものなどであり、それらがプロテアーゼによる攻撃を受けやすいためであると考えられている。体内での滞留時間を長くするために、生理活性タンパク質を水溶性高分子で包埋化するなどの工夫がなされているが、なお、複雑で煩雑な工程を伴う問題点があり、より簡便な方法が求められている。
また、タンパク質医薬の一つとして抗体医薬が注目されているが、医薬となりうる抗体を取得する場合には、疾病原因となる抗原を動物に免疫し、その動物から抗体や、その遺伝子、ハイブリドーマを回収し、評価・改良していくことになる。しかしながら、抗原が接種動物の血中で分解しやすいタンパク質である場合、十分な免疫応答を引き起こすことができず、目的の抗体を取得できないことがある。
このように、タンパク質は様々な可能性を秘めているが、その取り扱いや制御を簡便・効率化する方法が広く望まれていた。
本発明は、上記問題に鑑み、目的タンパク質の取り扱いを容易にするシャペロニン−目的タンパク質複合体及びその生産方法、並びに、そのシャペロニン−目的タンパク質複合体を利用する目的タンパク質の安定化方法、目的タンパク質の固定化方法、目的タンパク質の構造解析方法、徐放性製剤、及び目的タンパク質に対する抗体の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明は、シャペロニン(ヒートショックプロテイン60kDa、またはサーモゾームとも呼ばれる)タンパク質の四次構造内部に、アフィニティタグを介して目的のタンパク質を格納し、保持させることにより目的が達成される。
すなわち、本発明は、
(1)シャペロニンサブユニットとアフィニティタグとがペプチド結合を介して連結された融合タンパク質と、該アフィニティタグと特異的親和性を示す目的タンパク質とを含み、該目的タンパク質が特異的親和力によって該アフィニティタグと結合しており、かつ複数のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニンリング構造を形成していることを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(2)融合タンパク質が、1個のシャペロニンサブユニットを有し、該シャペロニンサブユニットのN末端及び/又はC末端に、ペプチド結合を介してアフィニティータグが連結されていることを特徴とする上記(1)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(3)融合タンパク質が、2〜20個のシャペロニンサブユニットが直列に連結したシャペロニンサブユニット連結体を有し、該シャペロニンサブユニット連結体のN末端、C末端、シャペロニンサブユニット同士の連結部から選択される1又は2以上の部位に、アフィニティータグが連結されていることを特徴とする上記(1)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(4)シャペロニンサブユニットとアフィニテイタグの数の比が1:2〜9:1であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(5)シャペロニンサブユニット連結体のサブユニット同士の連結部に部位特異的プロテアーゼの切断配列を有することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(6)目的タンパク質が融合タンパク質のシャペロニンリング構造内に格納されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(7)シャペロニンリング構造は2つのシャペロニンリングがリング面を介して非共有結合的に会合した2層構造を形成していることを特徴とする上記(6)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(8)シャペロニンリング構造は二つのシャペロニンリングがリング面又はその側面を介して非共有結合的に連結した繊維状構造を形成していることを特徴とする上記(7)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に関する。
また、本発明は、
(9)シャペロニンの由来生物は、バクテリア、古細菌又は真核生物であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(10)アフィニティータグが、抗体、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、プロテインL、Sペプチド、S−タンパク質、又はこれらの部分断片であることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(11)目的タンパク質が、6アミノ酸残基以上の断片を含むポリペプチドであり、且つ前記シャペロニン融合タンパク質のアフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグを含むことを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(12)目的タンパク質が抗体の重鎖、軽鎖、若しくはその一部の6アミノ酸残基以上の断片を含むポリペプチドであり、且つ前記シャペロニン融合タンパク質のアフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグを含むことを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(13)目的タンパク質がウイルス抗原、7回膜貫通型受容体タンパク質、サイトカイン、プロテインキナーゼ、ホスホプロテインホスファターゼ、又はこれらの部分断片を含むことを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体、
(14)シャペロニンサブユニットとアフィニティータグからなる融合タンパク質と、アフィニティータグと親和性を示すパートナータグを含む目的タンパク質とを混合し、該アフィニティータグと該パートナータグの特異的親和力によって該融合タンパク質と該目的蛋白質を結合させることを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法、
(15)アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグがポリペプチドであって、シャペロニンサブユニットをコードする遺伝子及びアフィニティータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及び上記パートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子の両者を、同一の宿主内で転写・翻訳して、目的タンパク質とシャペロニン融合タンパク質とを結合することを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法、
(16)アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグがポリペプチドであって、シャペロニンサブユニットをコードする遺伝子及びアフィニティータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及びパートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、シャペロニンサブユニット又はその連結体をコードする遺伝子の三者を、同一の宿主内で転写・翻訳して、前記目的タンパク質と、シャペロニン融合タンパク質、及びシャペロニンサブユニット又はその連結体とを結合してなることを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法、
(17)タンパク質の複合体を、バクテリア、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体、植物個体、又は、昆虫個体のいずれかの宿主に生産させることを特徴とする上記(15)又は(16)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法に関する。
さらにまた、本発明は、
(18)タンパク質の複合体を、無細胞翻訳系で生産することを特徴とする上記(15)又は(16)に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法、
(19)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を結合させてシャペロニンリング構造内に格納させることを特徴とする目的タンパク質の安定化方法、
(20)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質を、固定化用担体に固定化後、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を融合タンパク質と結合してシャペロニンリング内に格納させてなることを特徴とする目的タンパク質の固定化方法、
(21)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を結合してシャペロニンリング構造内に格納させ、得られたタンパク質複合体を結晶化させる工程、並びに得られた結晶にX線を照射して得られるX線回折像から、上記目的タンパク質の3次元構造の情報を得る工程からなることを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法、
(22)生理活性タンパク質又は低分子薬剤の徐放性製剤であって、生理活性タンパク質又は低分子薬剤が、上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグに対するパートナータグを介して格納されてなることを特徴とする徐放性製剤、
(23)シャペロニンがヒト由来であることを特徴とする上記(22)に記載の徐放性製剤、
(24)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、目的抗原タンパク質を結合させ、これを免疫原として動物に免疫することを特徴とする目的抗原タンパク質に対する抗体の製造方法に関する。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体によれば、目的タンパク質の安定化、担体への固定化、構造解析、徐放製剤化、及び目的タンパク質に対する抗体の製造をより容易に行うことができる。
本発明の目的タンパク質の安定化方法によれば、より容易に目的タンパク質を安定化することができる。
本発明の目的タンパク質の固定化方法によれば、目的タンパク質が整然と配置される。したがって、目的タンパク質の特性がより効率的に発揮される。
本発明の目的タンパク質の構造解析方法によれば、目的タンパク質の種類によって結晶化の条件検討をすることなく簡便にX線解析が行える。
本発明の徐放性製剤によれば、目的タンパク質が血中ですぐに分解されることがなく、特定疾患部位にてその薬効を発揮することができる。
本発明の抗体の製造方法によれば、免疫した動物の血中で目的タンパク質が直ちに分解されることがなく、より効率的に免疫反応を引き起こすことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、大腸菌シャペロニンGroELの立体構造を示す模式図である。
図2(a)は、シャペロニンサブユニット4回連結体とアフィニティタグとの融合タンパク質2個が、リング構造を形成している状態を示す模式図である。
図2(b)は、シャペロニンサブユニット4回連結体とアフィニティタグとの融合タンパク質を示す模式図である。
図3(a)は、シャペロニン連結体を担体に固定化する概念図である。
図3(b)は、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質を担体に固定化する概念図である。
図3(c)は、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質を介して目的タンパク質を担体に固定化する概念図である。
図4は、発現ベクターpETD(TCPβ)の主要部を示す構成図である。
図5は、サブユニット構成数8個の古細菌由来シャペロニンとプロテインAの融合タンパク質を透過型電子顕微鏡により形態観察した写真である。
図6は、サブユニット構成数8個の古細菌由来シャペロニンとプロテインAの融合タンパク質にモノクロナル抗体を作用させて得られたシャペロニン−モノクロナル抗体複合体を、透過型電子顕微鏡により形態観察した写真である。
図7は、サブユニット構成数8個の古細菌由来シャペロニンとSプロテインの融合タンパク質にGFP−Sタグを作用させて得られたシャペロニン−GFP複合体を透過型電子顕微鏡により形態観察した写真である。
図8(a)は、 担体に固定化したマウスモノクロナル抗体の抗体活性を比較したグラフである。
図8(b)は、 固定化したマウスモノクロナル抗体の熱に対する安定性を比較したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体は、シャペロニンサブユニットとアフィニティタグとがペプチド結合を介して連結された融合タンパク質と、該アフィニティタグと特異的親和性を示す目的タンパク質とを含み、該目的タンパク質が特異的親和力によって該アフィニティタグと結合しており、かつ複数のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニンリング構造を形成している。
天然に存在するシャペロニンは、タンパク質の折り畳みを助ける分子シャペロンの一つであり、分子量が約60kDaのサブユニットが7〜9つリング状に連なり、さらにこれらのリングが二層構造を形成する、分子量が約1000kDa近くに及ぶ巨大なタンパク質である。シャペロニンはこれまで真核生物、バクテリア、古細菌を問わず、すべての生物種に見いだされており、細胞内ではエネルギー物質であるATPの存在下もしくは非存在下でタンパク質の折り畳みを支援し、構造安定化に貢献する。大腸菌シャペロニンGroELの場合、二層のリング内にそれぞれ内径4.5nm、高さ14.5nmの空洞(キャビティ)を有する(図1参照)。一層シャペロニンリングのキャビティは60kDaの球状タンパク質一つが充分に納まる空間を有する。シャペロニン複合体は、このキャビティに様々なタンパク質の折り畳み中間体や変性タンパク質を一時的に納める機能を有し、タンパク質の折り畳み構造が形成されるとATPの分解と共役して、格納していたタンパク質をキャビティから放出させることが知られている。
本発明では、このシャペロニンサブユニットとポリペプチドのアフィニティータグとをペプチド結合を介して連結した融合タンパク質(以後、シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質、又は単にシャペロニン融合タンパク質とも呼ぶ)を作製し、シャペロニンサブユニット同士をアセンブリーさせてリング構造を形成させる。その際、シャペロニンと連結されたアフィニティータグは、シャペロニンリング内部に格納されていることが望ましい。目的タンパク質は、上記アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグを有することが必要である。目的タンパク質はそのパートナータグがアフィニティータグを介して結合することにより、シャペロニンリング内に格納される(形成したシャペロニンと目的タンパク質の複合体を、以後、シャペロニン−目的タンパク質複合体、又は単にシャペロニン複合体と呼ぶ)。
ここで「アフィニティタグ」及び「パートナータグ」とは、例えば、ホルモンとレセプター、抗原と抗体、酵素と基質のように、特異的親和性を有する2種の物質をタグとして使用するとき、一方をアフィニティタグ、他方をパートナータグと呼ぶ。特に本発明のシャペロニン−タンパク質複合体においては、両者のうちのどちらかをシャペロニンサブユニットとの融合タンパク質とする必要があるが、シャペロニンサブユニットと融合させる方をアフィニティータグと呼び、他方をパートナータグと呼ぶ。アフィニティタグとパートナータグの特異的親和性は、水素結合、疎水性相互作用、分子間力等の非共有結合的な相互作用により成り立っている。
アフィニティータグとパートナータグの組み合わせであるが、両者の間で特異的な相互作用により、親和性を有する組み合わせであればいずれの組み合わせであってもかまわない。但し、アフィニティータグはシャペロニンサブユニットと融合して発現される必要があることから、ポリペプチドからなるものであることが望ましい。
アフィニティータグとパートナータグの組み合わせの一例を挙げると、プロテインA又はプロテインGとIgGのFc領域の組み合わせが挙げられる。プロテインA(Bridigo,M.M.,J.Basic.Microbiology,31,337,1991)は、約470アミノ酸残基からなり、Bacillus属由来のものや、Staphylococcus属由来のものなどが良く知られており、抗血清からのIgGの精製にしばしば利用されている。プロテインAのIgG結合ドメインは、Staphylococcus aureus由来のものは約60アミノ酸残基からなる(Saito,A.,Protein Eng.2,481,1989)。また、プロテインGは約450アミノ酸からなるStreptococcus属由来のものが良く知られており(Frahnestock,S.R.,J.Bacteriol.167,870,1986)、プロテインAと同様にIgGの精製に利用されることが多い。IgGとの結合領域も約50〜60アミノ酸からなることがすでに示されている(Gronenborn,A.M.,Science,253,657,1991)。
また、アフィニティータグとパートナータグの組み合わせの他の例として、プロテインLとイムノグロブリンκ軽鎖の組み合わせが挙げられる。プロテインLは、IgGやIgM、IgA、IgE、及びIgDなど、様々なイムノグロブリンクラスやサブクラスのκ軽鎖と、抗原結合サイトの妨害をすることなく特異的に結合するタンパク質である。これまでFinegoldia magna由来の約720アミノ酸残基からなるプロテインLなどが知られており(Kastern,W.,Infect.Immun.58,1217,1990)、κ軽鎖との約80アミノ酸からなる結合ドメインもすでに詳細に検討されている(Wikstron,M.,Biochemistry 32,3381,1993)。
また、アフィニティータグとパートナータグの組み合わせの他の例として、Sタンパク質とSペプチドの組み合わせが挙げられる。Sタンパク質及びSペプチドは、いずれもリボヌクレアーゼの一部であり、両者が結合してリボヌクレアーゼ活性を示すことが知られている。両者のアフィニティーも特異性が高く、しばしばタンパク質の精製に用いられている。Sペプチドは15アミノ酸残基からなるS−Tagが研究用途として汎用されている。Sタンパク質をコードするDNA配列を配列番号3に、S−TagをコードするDNAを配列番号4にそれぞれ示す。
さらに、アフィニティータグとパートナータグの組み合わせの他の例として、FLAGペプチドとそれをエピトープとする抗体の組み合わせが挙げられる。FLAGペプチドは、タンパク質の精製にしばしば用いられる。例えば、11アミノ酸からなるFLAGペプチドが酵母転写因子のN末端側に融合され、その抗体を介して融合タンパク質が精製されている(Witzgall,R.,Anal.Biochem.,223,291,1994)。汎用されているFLAGペプチドの例は、DYKDDDDK(配列番号5)からなるものや、DYKD(配列番号6)、MDFKDDDDK(配列番号7)、MDYKAFDNL(配列番号8)などの配列が挙げられる。これらのペプチドは、それぞれM1モノクロナル抗体、M5モノクロナル抗体、及び、M2モノクロナル抗体に対して親和性を示す。これらの抗体はシグマ社などの試薬メーカーから入手可能である。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を構成するアフィニティータグは、上記に記載したプロテインA、プロテインG、プロテインL、Sペプチド、S−タンパク質などの全長を用いることはもちろん、パートナータグとの結合領域を含む断片であってもかまわない。また、上に記載した組み合わせはアフィニティータグとパートナータグが逆であってもよい。例えば、IgGのFc領域をアフィニティータグ側としてシャペロニンと融合発現させ、プロテインAやプロテインGを目的タンパク質と融合発現し、両者の特異的親和性を利用して、シャペロニン−目的タンパク質複合体として調製することができる。
本発明では、上述したペプチド同士の特異的親和性を利用するものだけでなく、ペプチドと低分子化合物の特異的親和性も利用することができる。その一例として、ストレプトアビジンとビオチンの親和性が挙げられる。すなわち、アフィニティタグとしてストレプトアビジンの全長またはビオチン結合活性を示す部分断片を選択する。そして、ストレプトアビジンの全長またはビオチン結合活性を示す部分断片を、ペプチド結合を介してシャペロニンサブユニットと連結して、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質を作製する。一方、目的タンパク質に、パートナータグであるビオチンを結合させる。なお、ビオチンの結合は市販のキットを用いて簡単に行うことができる。こうすることにより、目的タンパク質は、ビオチンとストレプトアビジンの特異的親和力によってシャペロニンリング内に格納される。
なお、パートナータグは目的タンパク質の一部である場合と、目的タンパク質とは別の物質である場合がある。前者の例としては、アフィニティタグがプロテインA、目的タンパク質がIgG、パートナータグがIgGのFc領域の例が該当する。後者の例としてはアフィニティタグがSタンパク質、パートナータグがSペプチドで、目的タンパク質にSペプチドが連結されている場合が挙げられる。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を構成するシャペロニンは、1個のシャペロニンサブユニットにアフィニティータグを融合させても良いのはもちろん、2〜20個のシャペロニンサブユニットが直列に連結したシャペロニンサブユニット連結体(単に、「シャペロニン連結体」ということもある。)のN末端、C末端、シャペロニンサブユニット同士の連結部から選択される1又は2以上の部位に、ペプチド結合を介してアフィニティータグを融合させても良い。シャペロニンのX線結晶構造解析の結果によると、シャペロニンのN末端及びC末端はともにキャビティ側に位置し、フレキシビリティの高い構造となっている。特にC末端の少なくとも20アミノ酸はフレキシビリティの高い構造を示す(George,Cell 100,561,2000)。従って、シャペロニンのC末端と他方のシャペロニンのN末端を適当な長さのポリペプチドで繋ぐことにより、連結されたシャペロニンサブユニットは、モノマーサブユニットと同様にシャペロニンリング構造を形成することができる。
シャペロニン:アフィニティータグの数の比は1:2〜20:1まで可能であるが、好ましくは1:2〜9:1である。この範囲を越える場合、リング構造の形成も困難となる可能性がある。本発明では、シャペロニンがそのリング構造への自己集合能が維持されていれば、野生型のみならずアミノ酸変異体も使用可能である。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体では、単に、外部環境から仕切られたスペースを提供するだけでなく、タンパク質折り畳み機能を有するため、タンパク質の折り畳みも正常に行われ、かつ構造が安定することも期待できる。通常シャペロニン複合体のタンパク質折り畳み反応は基質タンパク質(シングルポリペプチドとして)と1:1で起こる。したがって、本発明においてシャペロニンによる折り畳み機能を発現させるには、シャペロニンリング若しくはシャペロニン複合体に1個のアフィニティータグが格納されるよう融合タンパク質を設計することが好ましいが、タグの分子量によっては2分子以上格納させても正常に折り畳まれる可能性はある。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を構成するシャペロニンは、バクテリア、古細菌、及び真核生物いずれの由来のものでも使用可能である。しかしながら、上記シャペロニンの構造は由来生物によって異なった構造のものが形成される。例えば、バクテリア由来シャペロニンリングのシャペロニンサブユニットの構成数は7個であり、古細菌由来のそれは8〜9個、真核生物由来のものは8個である。本発明では、使用するシャペロニンの由来により、融合タンパク質におけるシャペロニンサブユニットとアフィニティータグの数の比を選択することが好ましい。バクテリア由来のシャペロニンを用いる場合には、シャペロニンの高次構造形成のしやすさからシャペロニン:アフィニティータグの数比が7:1である融合タンパク質が好ましく、サブユニット構成数8個の古細菌由来のシャペロニンを用いる場合には、シャペロニンの高次構造形成のしやすさからシャペロニン:アフィニティータグの数比が1:1、2:1、4:1あるいは8:1であること好ましい。例えば、古細菌のシャペロニンを用い、そのサブユニットが8つ連結した連結体との融合体としてアフィニティータグを発現させた場合、シャペロニンサブユニット8連結体1分子でリング構造を形成し、そのキャビティ内部にアフィニティータグが格納される。古細菌由来のシャペロニン及びシャペロニンサブユニットの例として、Thermococcus sp.KS−1株由来のシャペロニン(TCP)、及びそのサブユニットの1種であるシャペロニンβサブユニット(TCPβ)が挙げられる。すなわち、TCPは8個のTCPβからなる複合体である。また、TCPβが直列に8個連結されたシャペロニンβサブユニット8連結体((TCPβ))は、天然のTCPと同様にリング構造を有する複合体を形成する。
シャペロニンサブユニットとアフィニティタグとの融合タンパク質は、従来の宿主−ベクター発現系で生産することができる。例えば、シャペロニンサブユニット:アフィニティータグの数の比が2:1の融合タンパク質を調製する場合は、シャペロニンサブユニット遺伝子2個とアフィニティタグの遺伝子1個を連結させた融合遺伝子を作製し、これを転写・翻訳すればよい。具体的には、シャペロニンサブユニットをコードする1個の遺伝子をプロモーター下流に連結し、さらにその下流部に、同じ解読枠内となるようにコドンフレームを設計したシャペロニン一つをコードする遺伝子を配置させる。このとき、シャペロニン遺伝子間には、同じ解読枠内で翻訳されたとき、10〜30アミノ酸程度からなる適当なポリペプチドリンカーとなるDNA配列を配置させてもよい。同様にして、さらにその下流部に同じ解読枠内となるようにコドンフレームを設計したポリペプチドリンカーおよびアフィニティータグをコードする遺伝子を配置させる。このようにすれば、シャペロニンサブユニット:アフィニティータグの数比が2:1の融合タンパク質を調製することができる。そのほかの数比の融合タンパク質も同様の方法で調製でき、前述したように、アフィニティータグはシャペロニンサブユニット連結体のN末端、C末端、シャペロニンサブユニット同士の連結部のいずれに配置させても良く、2箇所以上に配置させてもかまわない。
シャペロニン連結間のペプチドリンカー部またはシャペロニンとアフィニティータグの連結間に、部位特異性プロテアーゼの消化サイトを設けてもかまわない。プロテアーゼの例として、トロンビン、エンテロカイネース、活性型血液凝固第10因子等の限定分解型プロテアーゼが挙げられる。
上記方法により発現した融合タンパク質は、リング構造を形成し、さらにリング面を介して非共有結合的に会合した二層構造を形成し安定化する。古細菌のシャペロニンサブユニット4連結体とアフィニティータグを融合発現させた場合、シャペロニンサブユニット4連結体2分子でリング構造を形成し、そのキャビティ内部に上記タグが格納される。その概念図を図2に示す。図2の白丸はシャペロニンサブユニットを、黒丸は目的タンパク質を、白丸間又は白丸と黒丸の間を結ぶ直線はペプチド結合(ペプチドリンカーによる結合を含む)を示す。さらに、図2のCPNはシャペロニンサブユニットを示す。但し、目的タンパク質の形状や分子量によっては上記以外の数比も適する可能性はある。例えば、大腸菌由来シャペロニンと目的タンパク質の比率が3:1である融合タンパク質であってもこれらが2又は3分子会合してリング構造を形成する可能性もある。
シャペロニンが高濃度(1mg/mL以上)であり、かつMg−ATPが存在する場合、そのシャペロニンは二層シャペロニンリングがさらにリング面を介して可逆的に重合し、繊維状構造を形成する場合がある(Trent,J.D.,et al.,1997,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94,5383−5388:Furutani,M.et al.,1998,J.Biol.Chem.273,28399−28407)。本発明の融合タンパク質は生体内において高濃度で発現するため、繊維状構造が形成される可能性が有る。繊維状構造が形成されても希釈することによってシャペロニン二層リング構造に解離する。このような繊維状構造を形成した融合タンパク質も本発明の一つである。
本発明は、シャペロニンのリング構造内部に、アフィニティータグとパートナータグの親和性を利用して目的のタンパク質を納め、保持させることにより目的を達成する。本発明に適用される目的タンパク質の種類には特に制限がないが、例えば、IgGやIgM、IgA、IgE、IgDをはじめとするイムノグロブリンの全長タンパク質又はその断片を含むタンパク質が挙げられる。IgGを目的タンパク質として用いる場合、アフィニティータグとしてプロテインAまたはプロテインGを用い、シャペロニンとの融合タンパク質を調製する。IgGのFc領域はプロテインAなどと特異的親和性を有するため、目的タンパク質であるIgGはプロテインAを介してシャペロニンリング内に格納される。目的タンパク質として、IgGの部分断片であるFabやscFv(single chain Fv)を用いる場合、アフィニティータグとしてプロテインLを用いれば、同様の原理でシャペロニンリング内に格納できる。
近年、ファージの構造タンパク質に、ランダムな配列を提示させ、所望の抗原と特異的に結合するポリペプチド及びその遺伝子をスクリーニングするファージライブラリー技術が注目されている(熊谷ら,タンパク質・核酸・酵素,1998,43,159−167)。同種の技術として、ランダムなアミノ酸配列を大腸菌の鞭毛タンパク質上に提示させ、目的抗原と結合する大腸菌、及びポリペプチドをスクリーニングする方法がある。これらから得られたポリペプチドは、抗体のミミックとしての産業利用が期待されている。本発明ではこのような抗原結合能などの生理活性を有するペプチドであればどのようなペプチドであっても目的タンパク質として適応可能である。目的タンパク質は、望ましくは6残基以上のアミノ酸からなるポリペプチドであることが目的の活性を維持する上で好ましい。
そのほかのシャペロニンリング内部に格納するべき目的タンパク質としては、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、HIV、インフルエンザウイルス等の病原性ウイルスゲノムにコードされるタンパク質(外被タンパク質、コアタンパク質、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ等)、7回膜貫通型受容体(Gタンパク質共役型受容体)、血小板増殖因子、血液幹細胞成長因子、肝細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子、神経成長・栄養因子、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子等の成長因子に属するもの、腫瘍壊死因子、インターフェロン、インターロイキン、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージ・コロニー刺激因子、アルブミン、ヒト成長ホルモン、プロテインキナーゼ、ホスホプロテインホスファターゼ等に属するものが挙げられる。その他、ヒト、マウス等高等動物由来の疾病関連遺伝子産物の全てが、本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を構成する目的タンパク質となり得る。また、化学プロセス食品加工、その他の産業分野に有効な酵素、タンパク質も本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を構成する目的タンパク質となり得る。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法としては、シャペロニン融合タンパク質とパートナータグを有する目的タンパク質とをインビトロで、適当な生化学的な緩衝液中で混合すればよい。これにより、シャペロニン融合タンパク質のアフィニティータグと目的タンパク質のパートナータグを介してシャペロニン−目的タンパク質複合体を形成する。特に、反応液中に、マグネシウムイオンやカリウムイオン、又はATPをはじめとするヌクレオチド3リン酸など、シャペロニンの安定化に関与する因子を加えておくことが望ましい。また、アフィニティータグと融合していない単独のシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体を加えておいて、シャペロニン−目的タンパク質複合体を形成させてもよい。
また、シャペロニン−目的タンパク質複合体は、宿主−ベクター発現系を用いればインビボでも調製することも可能である。すなわち、シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質をコードする遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及びパートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子の両者を同一の宿主内で転写・翻訳(共発現)すれば、目的タンパク質とアフィニティータグパートナータグとが特異的親和力によって結合し、シャペロニン−目的タンパク質複合体が宿主内で形成される。この場合、シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質をコードする遺伝子と目的タンパク質をコードする遺伝子は、同一のプロモーター制御下に配置してもよいし、また、両遺伝子を個々のプロモーターで発現を制御してもかまわない。個々のプロモーターで制御する場合には、両発現ユニットを同一のプラスミド上に配置してもよく、また、別々のプラスミド上に配置させてもかまわない。
別々のプラスミド上に配置させる場合、例えば大腸菌を宿主として用いる場合、一方をpACYC184などP15A系プラスミドの発現プロモーターの下流部に、他方をpETなどのcolE1系のDNA複製開始領域を持つ発現ベクターに挿入すればよい。両者のプラスミドは宿主菌内で共存可能であるため、それぞれのプラスミドを別の薬剤耐性マーカーを所有させておけば、両者の遺伝子は宿主内で共存する。双方の遺伝子はそれぞれのプロモーター制御下で発現が可能となる。その他、複製部位がR6K(Kolter,R.,Plasmid 1,157,1978)由来であるプラスミドは上記P15A系プラスミドやcolE1系プラスミドと宿主内で共存可能であるので、これを用いることもできる。
さらに、シャペロニン−目的タンパク質複合体のインビボでの調製法として、上記のように、シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質をコードする遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及びパートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子の両者以外に、単独のシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体のみをコードする遺伝子の三者を同時に発現することにより、シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質、単独のシャペロニンサブユニット又はシャペロニンサブユニット連結体、及び目的タンパク質の三者が会合し、シャペロニン−目的タンパク質複合体が宿主内で形成される。この方法によれば、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質に含まれるシャペロニンサブユニットの数を少なくすることができ、その結果、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質の分子量を小さくすることができる。したがって、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質をより容易に発現させることができ、シャペロニン−目的タンパク質複合体をより効率的に生産することができる。
シャペロニン−アフィニティータグ融合タンパク質をコードする遺伝子、シャペロニン連結体をコードする遺伝子、及び、目的タンパク質をコードする遺伝子の三者は、同一のプロモーター制御下に配置してもよいし、また、両遺伝子を個々のプロモーターで発現を制御してもかまわない。また、上記のように、同一宿主内で共存可能な二種以上のプラスミドに配置してもよい。これらのプラスミドの調製方法は、通常の遺伝子工学的手法により、簡単に設計・作成が可能である。
なお一般に、大腸菌等では発現プラスミドは10kb以上になるとコピー数が減少し、結果的にシャペロニン融合タンパク質の発現量が低下することがある。例えば、シャペロニン8連結体を有するシャペロニン融合タンパク質を生産する場合、その発現プラスミドは15kbp以上になる。これに対しては、同一のシャペロニン融合タンパク質を発現させる同一遺伝子を、異なる複製領域及び薬剤耐性遺伝子を有する2種類のベクターに導入し、これら2種類のベクターで2種の薬剤の存在下で大腸菌等を形質転換する。そして、この形質転換体にこれらの遺伝子を発現させることで、シャペロニン融合タンパク質を高生産することが可能である。
シャペロニン融合タンパク質、又はシャペロニン−目的タンパク複合体を生産する宿主としては特に限定されず、例えば大腸菌等のバクテリア、その他の原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体、植物個体、又は、昆虫個体等があげられる。なかでも、培養コストが安価である点、培養日数が短い点、培養操作が簡便な点から、宿主は細菌もしくは酵母であることが好ましい。またバクテリア、真核生物抽出液等を用いた無細胞翻訳系(Spirin,A.S.,1991,Science 11,2656−2664:Falcone,D.et al.,1991,Mol.Cell.Biol.11,2656−2664)にて、シャペロニン融合タンパク質を可溶性タンパク質として発現させることも可能である。
シャペロニン−目的タンパク複合体は、例えば、以下の手順により精製することができる。上記宿主内でシャペロニン融合タンパク質及び目的タンパク質を発現させた後、細胞を回収し破砕し、上清を回収する。次に、40%飽和程度の硫安塩析を行い、シャペロニン−目的タンパク複合体を沈殿させる。沈殿した画分を回収した後、適当な緩衝液に溶解し、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどによってシャペロニン−目的タンパク複合体が存在するフラクションを回収すれば、精製されたシャペロニン−目的タンパク複合体を得ることができる。
本発明で得られたシャペロニン−目的タンパク複合体は、様々な用途への展開が可能となる。その用途の一つはタンパク質の安定化である。一般にタンパク質は熱などの影響により、高次構造が壊れ、高次構造内部に格納されていた疎水性コアがタンパク質表面に露出する。この疎水性コアを介した相互作用により、変性したタンパク質は不可逆的な凝集体を形成してしまい、自発的な天然型構造への回復が妨げられる。本発明のシャペロニン−目的タンパク複合体を用いると、目的タンパク質はシャペロニンリング内に格納されるため、たとえ高次構造が壊れ、疎水性コアがタンパク質表面に露出したとしても、不可逆的な凝集体形成は起こらない。また、本来シャペロニンはタンパク質の折り畳みを助ける機能を有しているため、目的タンパク質の変性そのものを抑制する効果もある。シャペロニン空洞部と外部の間で低分子化合物の行き来が可能であるため、目的タンパク質が低分子化合物を基質とする酵素であれば、シャペロニン内部に格納されることによって安定性が確保され、且つ、酵素反応などタンパク質本来の特性を発揮することが可能である。
また本発明のシャペロニン−目的タンパク複合体は、目的タンパク質を担体に固定化する際にも利用できる。一般に、シャペロニンは、変性タンパク質の疎水性表面を認識するために、シャペロニンリングの頂上付近は疎水性クラスターを形成している。そのため、ポリスチレンのような疎水性の高い基盤と作用させると、シャペロニンリングの頂上部分が基盤表面と接合することになる(図3(a))。シャペロニンは2つのリングが赤道面を中心に対称的に配置しているので、一方のリング表面が基盤上に接合すると、他方のリング頂上部は基盤面に対して垂直方向に向くことになる。また、基板上にシャペロニンを2次元結晶化させることによって、より細密にシャペロニンを基盤上に配置させることが可能となる。このように、基盤と接するシャペロニンは全て均一な方向に制御され、固定化される。同様に本発明のシャペロニン−目的タンパク複合体のように、リング内部にアフィニティータグを有するシャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質を基盤と作用させても、シャペロニン−アフィニティタグ融合タンパク質は基盤に対して垂直方向に均一に固定化される(図3(b))。目的タンパク質は、アフィニティータグと親和性を持つパートナータグを有しているので、タグ間の特異的親和性により、目的タンパク質はシャペロニン融合体を介して基盤上に固定化される(図3(c))。このようにして、固定化された目的タンパク質は、従来の方法のように担体に直結された場合に比べて、担体の疎水性相互作用によって高次構造変化に起因したタンパク質変性が起こることがない。また、本発明の固定化方法では、アフィニティータグはシャペロニンを介して均一に配向されているので、目的タンパク質も整然と固定化される。これにより目的タンパク質の活性部位が反応界面に向き、固定化された目的タンパク質の特性がより効率的に発揮される。(図3−3)。さらに本発明の固定化方法の利点は、固定化されたタンパク質の一部又は分子全体がシャペロニンリング内に格納されていることにより、目的タンパク質が保護され、変性に対して耐性を有し、安定性に優れる。
また、本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を利用して、目的タンパク質のX線結晶構造解析を行うことができる。本発明は、シャペロニンを目的タンパク質の構造解析用の分子容器としての概念の上に成り立つものである。本来、タンパク質を結晶化する場合、個々のタンパク質によって分子表面の性質が異なるため、各々、結晶化条件を検討する必要がある。しかし、本発明の構造解析方法によれば、目的タンパク質全体をシャペロニン分子内部に格納した複合体を解析対象とし、その複合体の結晶化条件は、目的タンパク質の性質ではなく、シャペロニンの分子表面の性質に支配されることになる。従って、いかなるタンパク質であっても、シャペロニンの分子内部に格納すれば、シャペロニンを結晶化するための画一的な条件で、結晶化でき、X線解析に供することができる。得られた結晶は、銅又はモリブデンに電子を衝突させたときに発生する特性X線や、シンクロトロン放射光を利用して解析される。X線回折の強度測定はX線フィルムまたはイメージングプレートなどの二次元検出器によって行う。X線を当てながら結晶を回転させることで多くの回折線が発生する。イメージングプレートを用いる場合、記録された回折パターンをスキャンして数値化する。本発明の構造解析方法によれば、いかなるタンパク質も同一の条件での結晶化が可能であるため構造解析においてスピードアップを図ることが可能となる。
その他、本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体をタンパク質医薬品の徐放製剤化に利用することもできる。すなわち、インターフェロンや抗体、細胞殺傷性因子などを目的タンパク質としてシャペロニン−目的タンパク質複合体を形成させて、本シャペロニン分子内部に格納し、製剤化する。上記タンパク質医薬品の中には、体内滞留時間が極端に短いものが多く、患部に到達する前に血液中のプロテアーゼにより分解される場合がある。逆に、これらのタンパク質は患部だけでなく、正常な体内組織に対しても作用し、副作用を引き起こす場合が多い。本発明のように、生理活性を有するタンパク質をシャペロニンで覆うので、目的タンパク質の血中プロテアーゼによる分解が防がれ、正常な細胞組織に対する作用も防ぐことができる。血中を流れる本発明の徐放化製剤が特定の疾患部位に近づくと、それらが作り出すプロテアーゼによってシャペロニンが分解され、内部に格納されていた生理活性タンパク質が放出され、その薬効を発揮する。本発明を宿主動物個体に投与する際には、免疫反応を防止するため、その動物個体由来のシャペロニンを用いる必要がある。特に本発明をヒトに投与する場合には、CCT(chaperonin containing t−complex polypeptide 1;Kubota,H.,Eur.J.Biochem.,230,3,1995)などのヒト由来シャペロニンを利用することが望ましい。
さらに、本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を免疫原とし、目的タンパク質に対する抗体を製造することができる。すなわち、目的タンパク質に対する抗体を作製したい場合、そのタンパク質を抗原として動物に接種することになるが、免疫応答が引き起こされる前に目的タンパク質が接種動物の血中で速やかに分解されることがある。しかし、本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を用いれば、目的タンパク質はシャペロニン内部に格納されて、抗原としての体内滞留時間を確保することができる。その結果、目的タンパク質に対する免疫反応をより効率よく引き起こすことができる。また、接種する動物以外の由来のシャペロニンを用いればアジュバンド効果も期待できる。なお、シャペロニン−目的タンパク質複合体がプロテアーゼによって分解される速度を制御するために、シャペロニンサブユニット同士の連結間や、目的抗原とシャペロニンサブユニットの連結間にプロテアーゼの認識部位を設けてもかまわない。シャペロニン−目的タンパク質複合体によって免役する動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ニワトリ、サルなどが挙げられる。
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体を免疫原として動物に免疫した後に、抗体を採取する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリクローナル抗体は、免疫された動物の抗血清から採取することができる。また、モノクローナル抗体は、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合し、目的タンパク質を認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択・培養することで取得することができる。これらの操作は、ケーラーとミルシュタインの方法(Kohler,G.and Milstein,C.,Nature 256,459,1975)など、通常公知の方法に準じて行うことができる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)Thermococcus KS−1株シャペロニンβサブユニット8連結体発現ベクターの構築
互いに相補的な塩基配列をもつ、配列番号9に示されるリンカーF1と配列番号10に示されるリンカーR1をアニーリングさせ、2本鎖DNAを調製した。なお、この2本鎖DNAはNcoIサイト、XhoIサイト、翻訳されてプレシジョンプロテアーゼサイトとなる塩基配列、SpeIサイト、HpaIサイト、翻訳されてヒスチジンタグとなる塩基配列、及び終止コドンを含んでいる。この2本鎖DNAをNcoI/XhoI処理し、あらかじめ同制限酵素処理しておいたpET21d(Novagen社)にこの2本鎖DNAをライゲーションした。得られたプラスミドをpETDと命名した。
一方、配列番号1に示されたシャペロニンβサブユニット(TCPβ)遺伝子をThermococcus KS−1株のゲノムDNAを鋳型とするPCR(Polymerase chain reaction)によってクローニングした。Thermococcus KS−1のゲノムDNAは、理化学研究所より入手した菌株(JCM No.11816)の懸濁液から菌ペレットを回収し、フェノール/クロロホルム処理、及びエタノール沈殿法により調製した。本ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号11に示されるTCPβF1プライマー及び配列番号12に示されるTCPβR1プライマーをプライマーとして、PCRを行い、配列番号1に示されるTCPβ遺伝子を含むDNA断片を増幅した。なお、この増幅DNA断片の両端には、プライマーに由来するBglIIサイトとBamHIサイトが導入されている。この増幅DNA断片をpT7BlueTベクターにTAクローニングによって導入し、pT7(TCPβ)を作製した。pT7(TCPβ)に挿入されているDNA断片の塩基配列を決定したところ、配列番号1に示される塩基配列と一致していた。次に、pT7(TCPβ)を制限酵素BglIIとBamHIで処理し、TCPβ遺伝子を含むDNA断片を回収した。このDNA断片をあらかじめBamHIで切断したプラスミドpETDに導入し、pETD(TCPβ)を作製した。この際、TCPβはプロモーターにより正しく翻訳されてTCPβとなる方向に連結させた。さらに、pETD(TCPβ)をBamHIで処理し、上記BglIIとBamHIで処理したTCPβ遺伝子を含むDNA断片を導入し、pETD(TCPβ)を作製した。この際、TCPβが同一方向になるよう連結させた。同様にして、pETD(TCPβ)を制限酵素BglII及びBamHIで処理し、(TCPβ)遺伝子を含むDNA断片を回収した。このDNA断片同士を、あらかじめBamHI処理しておいたpETD(TCPβ)に導入し、TCPβ遺伝子が同一方向に4個連結したpETD(TCPβ)を作製した。
同様にして、pETD(TCPβ)を制限酵素BglIIとBamHIで処理し、(TCPβ)遺伝子を含むDNA断片を回収した。このDNA断片同士を、あらかじめBamHI処理しておいたpETD(TCPβ)に導入し、TCPβ遺伝子が同一方向に8個連結したpETD(TCPβ)を作製した。図4にpETD(TCPβ)の構成を示す。すなわち、pETD(TCPβ)はT7プロモーターを有し、その下流にリボゾーム結合部位、TCPβをコードする遺伝子8個がタンデムに配置された(TCPβ)遺伝子(図4では(CPN)と表されている)、プレシジョンプロテアーゼの認識配列、6個のヒスチジンをコードする6His遺伝子、及び終止コドンを有する。さらに、SpeIサイトとHpaIサイトの間に任意のアフィニティタグをコードする遺伝子を挿入して、(TCP)とアフィニティタグとの融合タンパク質を発現させることができる。
(実施例2)シャペロニンβサブユニット8連結体及びプロテインAの融合タンパク質の発現系構築
一方、アフィニティータグとしてのプロテインA遺伝子をクローニングするために、配列番号2に示されるプロテインA遺伝子をStaphylococcus aureusのゲノムDNAを鋳型とするPCRによってクローニングした。Staphylococcus aureusのゲノムDNAは、ドイツDSMより入手した菌株(DSM 20231)の懸濁液から菌ペレットを回収し、実施例1と同様の方法により調製した。PCR用のプライマーは配列番号13に示されるpro−F1プライマー及び配列番号14で示されるpro−R1を使用した。なお、pro−F1プライマーにはSpeIサイトが、pro−R1プライマーにはHpaIサイトがそれぞれ設けられている。増幅したDNAを実施例1と同様にpT7BlueTベクターにTAクローニングし、その塩基配列が配列番号2と一致することを確認した。次に、SpeI/HpaIにて処理し、プロテインA遺伝子を含むDNA断片を切断・回収した。同DNA断片をあらかじめSpeI/HpaI処理しておいたpETD(TCPβ)に挿入し、TCPβ8連結体及びプロテインAの融合タンパク質を発現するベクターpETD(TCPβ)−ptnAを構築した。
(実施例3)シャペロニンβサブユニット8連結体−プロテインA融合タンパク質の発現、精製
pETD(TCPβ)−ptnAを大腸菌BL21(DE3)株に導入し、カルベニシリン(100μg/mL)を含む2×YT培地(バクトトリプトン 16g、酵母エキス10g、NaCl 5g/L)を用いて35℃で培養し、OD600が0.7に達した時点でIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、シャペロニンβサブユニット8連結体(TCPβ)を発現させた。更に約16時間培養した後、細胞を回収し超音波で破砕後、遠心分離で上清を回収した。
上清を、あらかじめA液(25mM Tris−HCl/0.5M NaCl/1mMイミダゾール(pH7.0))で平衡化したニッケルキレートカラムに供し、B液(25mM Tris−HCl/0.5M NaCl/100mM イミダゾール(pH7.0))を用いた直線グラジエントにより、シャペロニンβサブユニット8連結体−プロテインA融合タンパク質を溶出した。溶出画分は、あらかじめ25mM HEPES−KOH緩衝液(pH6.8)で平衡化しておいたDEAE Toyopearl column(16mm×60cm)に供し、25mM HEPES−KOH/0.5M NaCl緩衝液(pH6.8)をB液とする直線グラジエントにより、融合タンパク質を溶出した。最後に、シャペロニン融合タンパク質を含む画分を濃縮後、あらかじめ100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0;0.15M NaCl含有)により平衡化しておいたHiLoad 26/60 Superdex 200pg column(26mm×60cm)に供し、同緩衝液でシャペロニンβサブユニット8連結体−プロテインA融合タンパク質を溶出した。この精製標品を0.2%酢酸ウラニルによるネガティブ染色法によって透過型電子顕微鏡による形態観察を行ったところ、シャペロニン特有のリング構造を形成していることがわかった(図5)。
(実施例4)タンパク質複合体の調製
実施例3にて精製した0.6mgのシャペロニン−プロテインA融合タンパク質及び0.2mgマウス由来IgGを0.5mL中で混合し、30℃にて2時間インキュベートした。反応終了後、0.2%酢酸ウラニルによるネガティブ染色法によって透過型電子顕微鏡による形態観察を行ったところ、シャペロニン特有のリング構造を形成し、且つ、リング内に抗体が結合している様子が観察された(図6)。
(実施例5)シャペロニンβサブユニット8連結体及びZZ−タグの融合タンパク質の発現系構築
IgGのFc部分と結合するプロテインAの領域はZZ−タグと呼ばれる。このZZ−タグをアフィニティータグとして、シャペロニンβサブユニット8連結体と融合することを試みた。すなわち、ZZ−タグ遺伝子をpEZZ 18 protein A fusion vector(アマシャムバイオサイエンス社)を鋳型とし、配列番号15に示されるZZ−Fプライマー及び配列番号16に示されるZZ−RプライマーをプライマーとしてPCRを行い、配列番号17に示されるZZ−tag遺伝子を含むDNA断片を増幅した。なお、ZZ−FプライマーはBamHIサイト、ZZ−RプライマーはBglIIサイトを有している。アガロース電気泳動によってPCR産物を回収後、そのPCR産物をBamHI/BglIIで消化した。一方、あらかじめBamHI処理しておいたpETD(TCPβ)に、上記消化産物を導入することにより、(TCPβ)とZZ−タグの融合タンパク質を発現するベクターpETD(TCPβ)−ZZを構築した。
(実施例6)シャペロニン−Sプロテイン融合タンパク質及び、GFP−Sタグの共発現
(TCPβ)とS−プロテインの融合タンパク質を発現するために、配列番号3に示されたBovine由来S−プロテイン遺伝子をBovine cDNAライブラリー(Origene社 DupLEX−AcDNA Library)を鋳型とするPCRによってクローニングした。PCR用のプライマーは、配列番号18に示されるSpro−F1プライマー及び配列番号19に示されるSpro−R1プライマーを用いた。なお、Spro−F1プライマーにはSpeIサイトを、Spro−R1プライマーにはSmaIサイトをそれぞれ設けた。次に、実施例1と同様にして、増幅DNA断片をpT7BlueTベクターにTAクローニングし、その塩基配列が配列番号3と一致することを確認した。このプラスミドをSpeI/SmaIにて消化し、S−プロテイン遺伝子を含むDNA断片を回収した。このDNA断片をあらかじめSpeI/HpaI処理しておいたpETD(TCPβ)に挿入し、(TCPβ)とS−プロテインの融合タンパク質を発現するベクターpETD(TCPβ)−Sptnを構築した。
一方、これとは別にGreen Fluorescent Protein(GFP)をコードするDNAを、pQBI T7 sgGFP vector(フナコシ社)を鋳型とするPCRにより、GFP遺伝子及びその上流のT7プロモーターを含むGFP発現ユニットをクローニングした。PCR用プライマーは、配列番号20に示されるGFP−stagF1プライマー及び配列番号21に示されるGFP−stagR1を用いた。なお、これらのプライマーによれば、増幅産物のT7プロモータの上流にSphIサイトが、GFP遺伝子の下流にXhoIサイトが設けられる。増幅されたDNA断片をSphI/XhoIで消化して精製した。一方、翻訳されてS−タグとなる配列番号22に示されるオリゴヌクレオチドと、その相補鎖である配列番号23に示されるオリゴヌクレオチドを合成した。これらのオリゴヌクレオチドをアニーリング2本鎖DNAとした。なお、この2本鎖DNAは両端にXhoIサイトとBamHIサイトを有する。この2本鎖DNAとGFPの制限酵素消化産物とを混合し、あらかじめSphI/BamHIで消化したpACYC184プラスミドDNA(和光純薬社)にGFP−sTag遺伝子の順に配置されるようにライゲーションした。このようにして得られたGFPの発現プラスミドをpACGFPstagと命名した。
(実施例7)シャペロニン−Sプロテイン融合タンパク質及び、GFP−Sタグの共発現
実施例6で得られたpETD(TCPβ)−Sptn及びpACGFPstagの両プラスミドをコンピテントセル大腸菌BL21(DE3)株に加えることによりトランスフォーメーションし、100μg/mLアンピシリン及び100μg/mLクロラムフェニコールを含む寒天培地にて培養した。得られたコロニーを、100μg/mLアンピシリン及び100μg/mLクロラムフェニコールを含む2×YT培地700mLに接種した。35℃で回転培養(110rpm)した後、OD600が0.7となった時点でIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、シャペロニン−Sプロテインの融合タンパク質、及びGFP−sタグの発現を誘導した。遠心分離(10000rpm×10分)にて菌体を回収後、1mM EDTAを含む25mM HEPES緩衝液(pH6.8)20mLに懸濁し、−20℃にて一晩凍結保存した。菌体懸濁液を融解した後に超音波破砕を行い、上清画分を得た。
得られた上清を、あらかじめ1M 硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したブチルトヨバール(東ソー社)に添加し、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)をB液とする直線グラジエントにより、シャペロニン−Sプロテインの融合タンパク質を含む画分を回収した。その後、実施例3に記載した陰イオン交換クロマトグラフィー、及び、ゲル濾過に供し、シャペロニン融合体が溶出している画分を回収した。得られた画分を紫外線で照射するとGFPの蛍光を発した。また、得られた画分を0.2%酢酸ウラニルによるネガティブ染色法によって透過型電子顕微鏡による形態観察を行ったところ、シャペロニン特有のリング構造を形成し、且つ、リング内にGFPが結合している様子が観察された(図7)。
(実施例8)シャペロニン−プロテインA融合タンパク質を介したIgGの担体への固定化
実施例3で得た50μLのシャペロニン−プロテインA融合タンパク質(1mg/mL)を、ポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレートに添加し、30℃で3時間インキュベートすることにより、同融合タンパク質をプレート上に画定化した。PBSにてプレートを洗浄後、50%ブロックエース(大日本製薬)にてブロッキングし、再度PBSにて洗浄した。その後、プレートに0.1mg/mL抗HBsマウスモノクロナル抗体を50μL添加し、30℃にて2時間インキュベートすることにより、シャペロニン−プロテインA融合タンパク質を介した、マウスモノクロナル抗体の固定化を行った。フリーのマウスモノクロナル抗体をPBSにて洗浄・除去後、100μLのPBSを添加し、50℃にてインキュベートした。
抗体の残存活性の評価は、サンドイッチELISAで評価した。すなわち、上記マウスモノクロナル抗体を固定化したプレートに、50μLの100μg/mL HBs抗原を添加し、PBSにて洗浄した後、ウサギ由来抗HBs抗体でHBs抗原をサンドイッチした。結合したウサギ由来抗HBs抗体は、ペルオキシダーゼがコンジュゲートされた抗ウサギIgG抗体で2,2’−azido−di(3−ethyl−benzthiazoline−6−sulphonate)を基質として検出した。これとは別に、シャペロニン−プロテインA融合タンパク質を介さず、マウスモノクロナル抗体を直接プレートに固定化したものを比較実験として同様に評価した。
図8(a)に、マウスモノクロナル抗体を固定化した直後の、抗体活性を比較した図を示す。また、図8(b)に、固定化した抗体の熱に対する安定性を比較した結果を示す。すなわち、シャペロニン−プロテインA融合タンパク質を介して固定化したIgGの方が、直接固定化したIgGに比べて、固定化直後の時点で高い抗原結合能を有していた。さらに、シャペロニン−プロテインA融合タンパク質を介して固定化したIgGの方が、直接固定化したIgGに比べて熱に対する安定性が高かった。
【配列表】










【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャペロニンサブユニットとアフィニティタグとがペプチド結合を介して連結された融合タンパク質と、該アフィニティタグと特異的親和性を示す目的タンパク質とを含み、該目的タンパク質が特異的親和力によって該アフィニティタグと結合しており、かつ複数のシャペロニンサブユニットからなるシャペロニンリング構造を形成していることを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項2】
融合タンパク質が、1個のシャペロニンサブユニットを有し、該シャペロニンサブユニットのN末端及び/又はC末端に、ペプチド結合を介してアフィニティータグが連結されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項3】
融合タンパク質が、2〜20個のシャペロニンサブユニットが直列に連結したシャペロニンサブユニット連結体を有し、該シャペロニンサブユニット連結体のN末端、C末端、シャペロニンサブユニット同士の連結部から選択される1又は2以上の部位に、アフィニティータグが連結されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項4】
シャペロニンサブユニットとアフィニテイタグの数の比が1:2〜9:1であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項5】
シャペロニンサブユニット連結体のサブユニット同士の連結部に部位特異的プロテアーゼの切断配列を有することを特徴とする請求の範囲第3項又は第4項に記載のタシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項6】
目的タンパク質が、融合タンパク質のシャペロニンリング構造内に格納されていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項7】
シャペロニンリング構造は2つのシャペロニンリングがリング面を介して非共有結合的に会合した2層構造を形成していることを特徴とする請求の範囲第6項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項8】
シャペロニンリング構造は二つのシャペロニンリングがリング面又はその側面を介して非共有結合的に連結した繊維状構造を形成していることを特徴とする請求の範囲第7項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項9】
シャペロニンの由来生物は、バクテリア、古細菌又は真核生物であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項10】
アフィニティータグが、抗体、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、プロテインL、Sペプチド、S−タンパク質、又はこれらの部分断片であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第9項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項11】
目的タンパク質が、6アミノ酸残基以上の断片を含むポリペプチドであり、且つ前記アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグを含むことを特徴とする請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項12】
目的タンパク質が抗体の重鎖、軽鎖、若しくはその一部の6アミノ酸残基以上の断片を含むポリペプチドであり、且つ前記アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグを含むことを特徴とする請求の範囲第1項〜第11項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項13】
目的タンパク質がウイルス抗原、7回膜貫通型受容体タンパク質、サイトカイン、プロテインキナーゼ、ホスホプロテインホスファターゼ、又はこれらの部分断片を含むことを特徴とする請求の範囲第1項〜第11項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項14】
シャペロニンサブユニットとアフィニティータグからなる融合タンパク質と、アフィニティータグと親和性を示すパートナータグを含む目的タンパク質とを混合し、該アフィニティータグと該パートナータグの特異的親和力によって該融合タンパク質と該目的蛋白質を結合させることを特徴とする請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法。
【請求項15】
アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグがポリペプチドであって、シャペロニンサブユニットをコードする遺伝子及びアフィニティータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及び上記パートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子の両者を、同一の宿主内で転写・翻訳して、目的タンパク質とシャペロニン融合タンパク質とを結合することを特徴とする請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法。
【請求項16】
アフィニティータグと特異的親和性を示すパートナータグがポリペプチドであって、シャペロニンサブユニットをコードする遺伝子及びアフィニティータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、目的タンパク質をコードする遺伝子及びパートナータグをコードする遺伝子を含有する遺伝子と、シャペロニンサブユニット又はその連結体をコードする遺伝子の三者を、同一の宿主内で転写・翻訳させて、前記目的タンパク質と、シャペロニン融合タンパク質、及びシャペロニンサブユニット又はその連結体とを会合させること特徴とする請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法。
【請求項17】
タンパク質の複合体を、バクテリア、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体、植物個体、又は、昆虫個体のいずれかの宿主に生産させることを特徴とする請求の範囲第15項又は第16項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法。
【請求項18】
タンパク質の複合体を、無細胞翻訳系で生産することを特徴とする請求の範囲第15項又は第16項に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の生産方法。
【請求項19】
請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を結合させてシャペロニンリング構造内に格納させることを特徴とする目的タンパク質の安定化方法。
【請求項20】
請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質を、固定化用担体に固定化後、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を融合タンパク質と結合してシャペロニンリング内に格納させてなることを特徴とする目的タンパク質の固定化方法。
【請求項21】
請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグを介して目的タンパク質を結合してシャペロニンリング構造内に格納させ、得られたタンパク質複合体を結晶化させる工程、並びに得られた結晶にX線を照射して得られるX線回折像から、上記目的タンパク質の3次元構造の情報を得る工程からなることを特徴とする目的タンパク質の構造解析方法。
【請求項22】
生理活性タンパク質又は低分子薬剤の徐放性製剤であって、生理活性タンパク質又は低分子薬剤が、請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、上記アフィニティータグに対するパートナータグを介して格納されてなることを特徴とする徐放性製剤。
【請求項23】
シャペロニンがヒト由来であることを特徴とする請求の範囲第22項に記載の徐放性製剤。
【請求項24】
請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体に含まれる融合タンパク質に、目的抗原タンパク質を結合させ、これを免疫原として動物に免疫することを特徴とする目的抗原タンパク質に対する抗体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/096859
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569239(P2004−569239)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006189
【国際出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】