説明

シャーシフレームを備えた車両の車体構造

【課題】 シャーシフレームに上下逆相の捩り振動が入力されたときに生じるキャブのロール方向振動を低減することができる、シャーシフレームを備えた車両の車体構造を提供する。
【解決手段】 キャブマウント13,14,15を介してキャブ20が結合されるシャーシフレーム10を備えた車両1では、シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1よりも車両前方に配置されたキャブマウント13,14によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMa1,Ma2と、節位置S1よりも車両後方に配置されたキャブマウント15によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMb1とが相殺されるように、キャブマウント13,14,15の取付位置、キャブマウント13,14,15のばね定数およびシャーシフレーム10の剛性分布が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャーシフレームを備えた車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシャーシフレームにキャブを弾性的に支持するキャブマウントの構造において、左右のキャブマウントそれぞれの圧縮方向の軸線を傾斜させ、両キャブマウントによる弾性主軸を、キャブの慣性主軸に一致もしくは近接する位置に設定したキャブマウント構造が下記特許文献1に記載されている。
【0003】
悪路走行時等において、スプリングを介してシャーシフレームに上下逆位相の捩り振動が入力された場合、キャブは、慣性主軸回りの回転方向(ロール方向)振動と、その慣性主軸の左右方向に平行に変位する並進振動を生じる。
【0004】
このキャブマウント構造によれば、両キャブマウントによる弾性主軸とキャブの慣性主軸との距離が短縮されるので、左右の両キャブマウントを介してキャブに加わる左右方向の並進振動を低減することができる。
【特許文献1】特開2003−220968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記キャブマウント構造では、シャーシフレームに上下逆相の捩り振動が入力されたときに生じるキャブのロール方向振動を低減することができない。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、シャーシフレームに上下逆相の捩り振動が入力されたときに生じるキャブのロール方向振動を低減することができる、シャーシフレームを備えた車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシャーシフレームを備えた車両の車体構造は、複数のキャブマウントを介してキャブが結合されるシャーシフレームを備えた車両の車体構造において、シャーシフレームの捩り振動モードの節位置よりも車両前方に配置されたキャブマウントによりキャブに付加されるロール方向のモーメントと、節位置よりも車両後方に配置されたキャブマウントによりキャブに付加されるロール方向のモーメントとが互いに相殺されるように、キャブマウントの取付位置、キャブマウントの特性および節位置のうち少なくとも一つが設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るシャーシフレームを備えた車両の車体構造によれば、キャブマウントの取付位置、キャブマウントの特性および節位置のうち少なくとも一つが上記のように設定されることにより、節位置よりも車両前方に配置されたキャブマウントからキャブに付加されるロール方向のモーメントと、節位置よりも車両後方に配置されたキャブマウントからキャブに付加されるロール方向のモーメントとが互いに相殺するように作用するので、キャブのロール方向振動を低減することが可能となる。
【0009】
上記キャブマウントの特性は、キャブマウントのばね定数であることが好ましい。キャブマウントのばね定数は変更が比較的容易であるので、設定の自由度を大きくすることができる。
【0010】
また、上記節位置は、シャーシフレームの剛性分布を変えることにより設定されることが好ましい。シャーシフレームの剛性分布が変更されることによって、上下逆相の捩り振動が入力されたときのシャーシフレーム各部の捩れ量が変化する。したがって、シャーシフレームの剛性分布を適切に設定することにより、捩り振動モードの節位置を適切な位置に移動することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シャーシフレームに上下逆相の捩り振動が入力されたときに生じるキャブのロール方向振動を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。
【0013】
まず、図1〜4を用いて、実施形態に係るシャーシフレームを備えた車両の車体構造について説明する。図1は、実施形態に係る車両1の車体構造を模式的に示した側面図である。図2は、図1におけるII−II方向の断面図である。図3は、図1におけるIII−III方向の断面図である。また、図4は、図1におけるIV−IV方向の断面図である。なお、本明細書においては、車両が直前進している際の前方方向を「前方」と定め、前後、左右、上下等の方向を表わす語を用いることとする。
【0014】
また、本明細書でいう慣性主軸とは、ある軸を中心にして剛体であるキャブを回転させたとき、キャブとともに回転する座標系からみて、回転軸の方向を変えさせようとする偶力が発生しないような軸をいう。さらに、本明細書でいう弾性主軸とは、ある軸に沿って力を加えたとき、力の方向と着力点の変位の方向が一致し、かつ着力点を含む平面が直線変位するだけで角変位を生じない軸のことをいい、いわば弾性復元の中心である。
【0015】
車両1は、左右一対のサイドメンバ11と、一対のサイドメンバ11の間に、車幅方向に沿って配設された複数のクロスメンバ12とを有するシャーシフレーム10を備えている。なお、図1において、S1は、シャーシフレーム10に上下逆位相の捩り振動(破線R1および一点鎖線R2参照)が入力された場合における、シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置を示す。
【0016】
シャーシフレーム10を構成するサイドメンバ11及びクロスメンバ12には、左右対称に6個のキャブマウント13,13,14,14,15,15が取付けられている。キャブマウント13,14,15は、ゴムのインシュレータを有して構成された、支持機能および防振機能を持つ部材である。
【0017】
これら6個のキャブマウント13,13,14,14,15,15を介してキャブ20がシャーシフレーム10に弾性的に結合されている。キャブ20には、シート21などが取付けられている。また、シャーシフレーム10にはデッキ22が取付けられている。
【0018】
シャーシフレーム10は、路面から受ける衝撃を緩和するスプリング30,31を備える懸架装置34によって支持されている。前後の懸架装置34には、車輪32,33が回転可能に取付けられている。
【0019】
ここで、キャブマウント13,14,15の取付位置、キャブマウント13,14,15のばね定数およびシャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1は、次のように設定されている。すなわち、シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1よりも車両前方に配置されたキャブマウント13,14によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMaと、シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1よりも車両後方に配置されたキャブマウント15によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMbとの大きさが一致または略一致し且つそれぞれの向きが逆となるように設定されている。
【0020】
ただし、モーメントMaは、キャブマウント13によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMa1(図2参照)と、キャブマウント14によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMa2(図3参照)との加算値であり、次式により求められる。なお、本実施形態の場合、n=2である。
【数1】

ただし、Faiは節位置よりも車両前方に配置されたキャブマウントを介してキャブに入力される力、Laiは左右のキャブマウント間の距離である。ここで、Fai=kai×Daiである。なお、kaiはキャブマウントのばね定数、Daiはキャブマウントの変位量である。
【0021】
一方、モーメントMb、すなわちキャブマウント15によりキャブ20に付加されるロール方向のモーメントMb1(図4参照)は次式により求められる。なお、本実施形態の場合、n=1である。
【数2】

ただし、Fbiは節位置よりも車両後方に配置されたキャブマウントを介してキャブに入力される力、Lbiは左右のキャブマウント間の距離である。ここで、Fbi=kbi×Dbiである。なお、kbiはキャブマウントのばね定数、Dbiはキャブマウントの変位量である。
【0022】
このように、モーメントMa、モーメントMbそれぞれは、左右のキャブマウント間の距離Lai,Lbi、キャブマウント13,14,15のばね定数kai,kbiおよびキャブマウント13,14,15の変位量Dai,Dbiにより決定される。したがって、左右のキャブマウント間の距離Lai,Lbi、キャブマウント13,14,15のばね定数kai,kbiおよびキャブマウント13,14,15の取付位置並びに節位置S1を適切に調節することにより、モーメントMaとモーメントMbとの大きさが一致または略一致し且つそれぞれの向きが逆となるように設定することができる。
【0023】
左右のキャブマウント間の距離Lai,Lbiは、キャブマウント13,14,15の取付位置を車幅方向に移動することにより調節される。例えば、キャブマウント13,14,15の取付位置をサイドメンバ11の車両外側壁面から車両内側壁面の間で移動することにより、左右のキャブマウント間の距離Lai,Lbiを調節することができる。また、キャブマウント13,14,15の取付位置をクロスメンバ12上で車幅方向に移動することにより、左右のキャブマウント間の距離Lai,Lbiを調節することができる。
【0024】
キャブマウント13,14,15のばね定数は、荷重の受け方(例えば圧縮型やせん断型など)やゴムの材質(例えば天然ゴムやブチルゴムなど)、形状などを変更することにより調節される。
【0025】
キャブマウント13,14,15の変位量Dai,Dbiは、シャーシフレーム10の捩れ量に応じて変化するので、キャブマウント13,14,15の取付位置を変更することにより、また、シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1を移動することにより調節される。例えば、キャブマウント13,14,15の取付位置をサイドメンバ11上で移動することにより、車両前後方向に取付位置を調節することができる。また、キャブマウント13,14,15の取付位置をクロスメンバ12上で移動することにより、車幅方向に取付位置を調節することができる。
【0026】
シャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1は、シャーシフレーム10の剛性分布を変更することにより調節される。シャーシフレーム10の剛性分布は、例えば、シャーシフレーム10を構成するサイドメンバ11およびクロスメンバ12の断面形状、肉厚、材質などを変更することにより調節することができる。ここで、サイドメンバの断面形状を変更することによりシャーシフレームの節位置を調節する場合を例にして説明する。
【0027】
口字状の閉断面構造を有するサイドメンバ11Aでシャーシフレーム10Aを構成した場合の節位置S2を図5に示す。一方、車両前方部分(図6の斜線部分参照)を口字状の閉断面構造とし、車両後方部分を縦壁部の一部が車幅方向に沿って切り取られた開断面構造としたサイドメンバ11Bを用いてシャーシフレーム10Bを構成した場合の節位置S3を図6に示す。
【0028】
開断面構造は、閉断面構造と比較して剛性が低下するため、シャーシフレームに上下逆位相の捩り振動が入力された場合、捩れ量が増大する。そのため、シャーシフレーム10Bの節位置S3は、シャーシフレーム10Aの節位置S2と比較して、車両後方へ移動する。したがって、閉断面構造部分と開断面構造部分とを適切に配置することにより、シャーシフレームの捩り振動モードの節位置を調節することができる。
【0029】
次に、本実施形態の作用を説明する。シャーシフレーム10に上下逆位相の捩り振動(図1の破線R1および一点鎖線R2参照)が入力された場合、キャブマウント13,14それぞれからの入力によりキャブ20に左回りのモーメントMa1,Ma2が付加される。一方、キャブマウント15からの入力によってキャブ20に右回りのモーメントMb1が付加される。
【0030】
上述したように、本実施形態では、モーメントMa1とMa2との加算値とモーメントMb1との大きさが一致または略一致し且つそれぞれの向きが逆となるように、キャブマウント13,14,15の取付位置、キャブマウント13,14,15のばね定数およびシャーシフレーム10の捩り振動モードの節位置S1が設定されている。そのため、モーメントMa1とMa2との加算値とモーメントMb1とが互いに相殺されるので、キャブ20のロール方向の振動が低減される。
【0031】
このように、本実施形態によれば、シャーシフレーム10に上下逆位相の捩り振動が入力された場合において、キャブ20のロール方向振動を低減することができるので、車両1の振動特性を向上させることが可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、キャブマウントの数は6個に限られるものではない。また、適用される車両はデッキを有するトラックに限られるものではなく、シャーシフレームを備えた車両であればどのような車両にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る車両の車体構造を模式的に示した側面図である。
【図2】図1におけるII−II方向の断面図である。
【図3】図1におけるIII−III方向の断面図である。
【図4】図1におけるIV−IV方向の断面図である。
【図5】車両の捩り振動モードの節位置を示す図である。
【図6】シャーシフレームの剛性配分を変更した車両の捩り振動モードの節位置を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1…車両、10…シャーシフレーム、11,12,13…キャブマウント、20…キャブ、21…シート、22…デッキ、30,31…スプリング、32,33…タイヤ、34…サスペンション、S1,S2,S3…捩り振動モードの節位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキャブマウントを介してキャブが結合されるシャーシフレームを備えた車両の車体構造において、
前記シャーシフレームの捩り振動モードの節位置よりも車両前方に配置されたキャブマウントにより前記キャブに付加されるロール方向のモーメントと、前記節位置よりも車両後方に配置されたキャブマウントにより前記キャブに付加されるロール方向のモーメントとが互いに相殺されるように、前記キャブマウントの取付位置、前記キャブマウントの特性および前記節位置のうち少なくとも一つが設定されている、ことを特徴とするシャーシフレームを備えた車両の車体構造。
【請求項2】
前記キャブマウントの特性は、前記キャブマウントのばね定数であることを特徴とする請求項1に記載のシャーシフレームを備えた車両の車体構造。
【請求項3】
前記節位置は、前記シャーシフレームの剛性分布を変えることにより設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシャーシフレームを備えた車両の車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−51866(P2006−51866A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233713(P2004−233713)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】