説明

ショットキー型光検出器

【課題】
半導体を用いた光検出器においては、光信号を半導体の吸収によって電子と正孔を発生させ、光電流に変換していたが、これらの光検出器に使用される半導体は、すべての光を吸収することはできず、半導体が十分に吸収できないエネルギーの小さい(波長の長い)光信号について検出することは困難であった。
【解決手段】
半導体と金属からなるショットキー型光検出器において、光検出部の金属を薄膜で構成し、該金属薄膜の表面に複数の金属ナノロッドを付着してなることを特徴とするショットキー型光検出器を要旨とし、光検出部の金属を薄膜化することにより、金属ナノロッドで誘起された表面プラズモン共鳴の振動が金属と半導体の界面まで届き、ショットキー障壁を越えて半導体側へ流れ込む電子数が増加することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキー型の光検出器に関し、光通信システムまたは光電子集積回路等に用いられている受光検出のための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の検出器にはカロリーメータや、超伝導を用いた超長波長の検出器があるが、光通信システムにおいて使用される検出器は、pinフォトダイオードまたはアバランシェフォトダイオード(APD)を代表とする半導体のpn接合を利用したものが周知である(特許文献1および2参照)。
【0003】
pinフォトダイオードは、その概略を図5に示しているように、n側電極1の内側に透明な誘電体膜または半導体層で形成された受光窓2と、表面層に形成されたn型半導体領域3と、真正半導体層(i層)4を挟んで積層されたp型半導体領域5と、このp型半導体領域5に設けられたp側電極6とで構成されたものである。n型半導体領域3とp型半導体領域4の接合部(pn接合部)は表面から1μm程度の位置に形成され、当該pn接合部にはi層が挿入されているのである。
【0004】
i層を挿入しないpn接合では、受光窓2に届いた光は半導体で吸収されて電子−正孔対を発生させ、電子はn型半導体領域3に、正孔はp型半導体領域5にそれぞれ移動することから、フォトダイオードの外側の電気回路に流れ出し、これが光電流となるのである。この光電流は、フォトダイオードに入射した光信号形状をそのまま電流に変換した形状となり、この光電流を検出することにより、光信号が電気信号に変換される。
【0005】
ここで、光が吸収されて発生する電子と正孔はpn接合に到達するものだけが光電流になるが、pn接合に到達できない電子と正孔は光電流に寄与することなく再結合して消滅することとなる。そこで、pn接合領域を拡張するためにn型半導体領域3とp型半導体領域5の間に高抵抗なi層4を挿入し、pn接合が形成する電界を拡げて光電流に変換される電子と正孔の数を増加させるのである。
【0006】
他方、APDでは、pn接合近傍に高電界層を形成して、当該電界で光吸収により発生した電子あるいは正孔を加速してインパクトイオンを引き起こし、電子数をなだれ的に増加させる構造(つまり増幅機能)としたものである。
【0007】
さらに、pn接合と同様の効果を有するショットキーダイオードによっても光を検出することができることも周知である(特許文献3参照)。一般的なショットキーダイオードは、図6(a)に概略を示すように、n型半導体3と金属による電極7が積層され、受光窓2の周囲にはオーミック電極8が設けられている。ショットキーダイオードでは、図6(b)に示すように、n型半導体3と金属による電極7の境界ではショットキー障壁が形成され、半導体3に吸収された光により発生する電子と正孔は、それぞれがショットキー障壁で分けられて外部回路に流れ出し、これが光電流となるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−296279号公報
【特許文献2】特開平9−223816号公報
【特許文献3】特開平8−116084号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mead C.A.and W.G.Spitzer,“Photoemission from Au and Cu into CdS,” Appl.Phys.Lett.,Vol.2,No.4,74−75,1963
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、半導体を用いた光検出器においては、光信号を半導体での吸収(半導体の価電子帯と伝導体間の電子遷移)によって電子と正孔を発生させ、光電流とすることにより光信号を電気信号に変換していた。しかしながら、これらの光検出器に使用される半導体は、すべての光を吸収することはできず、半導体が十分に吸収できないエネルギーの小さい(波長の長い)光信号について検出することは困難であった。
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、波長の長い光信号を検出することができる光検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に記載の発明は、半導体と金属からなるショットキー型光検出器において、光検出部の金属を薄膜で構成し、該金属薄膜の表面に複数の金属ナノロッドを付着してなることを特徴とするショットキー型光検出器を要旨としている。
上記のような構成によれば、金属表面に付着した金属ナノロッドに光が照射されると、表面プラズモン共鳴により金属ナノロッド中に自由電子の集団振動が誘起され、入射光のエネルギーを効率よく電子の集団振動に変換できる。そして、光検出部の金属を薄膜化することにより、金属ナノロッドで誘起された表面プラズモン共鳴の振動が金属と半導体の界面まで届き、ショットキー障壁を越えて半導体側へ流れ込む電子数が増加することとなる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記金属ナノロッドは、軸線を略平行に形成してなる複数の金属ナノロッドであることを特徴とする請求項1に記載のショットキー型光検出器を要旨とする。このような構成によれば、複数の金属ナノロッドによるアンテナ効果により、入射光のエネルギーを一層効率よく電子の集団振動に変換することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記金属薄膜は金薄膜であり、前記金属ナノロッドは金ナノロッドであることを特徴とする請求項1または2に記載のショットキー型光検出器を要旨とする。このような構成によれば、電子の集団振動およびショットキー障壁を越える電子数を増大させることができる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、半導体と金属からなるショットキー型光検出器において、光検出部の金属を薄膜で構成し、該金属薄膜の表面に金属によるドット構造を設けてなることを特徴とするショットキー型光検出器を要旨としている。
上記構成によれば、請求項1に記載された発明と同様に、金属薄膜表面のドット構造において自由電子の集団振動が誘起され、入射光のエネルギーを電子の集団振動に変換することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記金属薄膜は金薄膜であり、前記ドット構造は金によるドット構造であることを特徴とするショットキー型光検出器を要旨とする。この構成によれば、請求項3の発明と同様に、電子の集団振動およびショットキー障壁を越える電子数を増大させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記金属薄膜または金薄膜は、100nm以下(ただし0nmは含まず)の肉厚で構成されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のショットキー型光検出器を要旨とする。このような構成であれば、ナノロッドまたはドット構造において誘起された表面プラズモン共鳴の振動が金属薄膜または金薄膜と半導体の界面まで容易に届くこととなり、ショットキー障壁を越えて半導体側へ流れ込む電子数が激増することとなる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、光が照射された金属薄膜の自由電子は、ショットキー障壁を越えて多数が半導体側へ流れ込むことから、半導体の禁制帯のエネルギー幅よりも小さなエネルギーの光であっても、ショットキー障壁と金属のフェミル準位のエネルギー差よりも大きなエネルギーの光であれば、これを効率よく検出することができる。従って、波長の長い光をも効率よく検出することができるのである。
【0018】
請求項2に記載の発明のように、ナノロッドの軸線を略平行に構成すれば、一層多くの電子が半導体側へ流れ込むこととなり、波長の長い光の検出を一層効率よくすることができる。
【0019】
また、請求項3または5に記載の発明のように、金属薄膜を金薄膜とし、ナノロッドおよびドット構造を金で構成すれば、さらに多くの電子が半導体側へ流れ込むこととなり、一層の光検出効率を向上させることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明のように、金属薄膜または金薄膜の膜厚を100nm以下(ただし0nmは含まず)とすることにより、ナノロッドまたはドット構造において誘起された表面プラズモン共鳴の振動が金属薄膜または金薄膜と半導体の界面まで容易に届くこととなり、さらに効率よく光を検出することができる。
【0021】
さらに、従来は、光通信に利用される1300nmや1550nmの波長の光をシリコン半導体が十分に吸収することができず、集積回路に用いられるシリコンデバイスによって当該波長の光を検出することが困難であったが、本発明の構成によれば、当該波長の光を検出することのできるシリコンデバイスを作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)は金属ナノロッドを付着する前の状態を示す断面図であり、(b)はバンド図である。
【図3】実験用に構築した光検出器の概略図である。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【図5】一般的なpinフォトダイオードの概略図およびバンド図である。
【図6】一般的なショットキーダイオードの概略図およびバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、図1に示すように、n型半導体3と金属薄膜7によってショットキーダイオードが形成され、これに電極を接続することでショットキー型光検出器が構成され得るものである。本実施形態では、金属薄膜7の表面に複数の金属ナノロッド9(図1には層状に描いている)を付着した構成としており、また、金属薄膜はナノサイズの膜厚で構成されている。金属薄膜7は金属電極としても機能するものであり、半導体3にはオーミック電極8が接続されている。そして、このオーミック電極8の中央には受光窓2が形成されている。
【0024】
金属薄膜7としては、金薄膜とすることが望ましく、膜厚は100nm以下とすることが望ましい。また、ナノロッド9は、金で構成したナノロッドが望ましく、直径10nm程度で長さを50〜100nm程度とすることが望ましい。金ナノロッドは、アセトンを溶媒とした液体を金属薄膜(金薄膜)の表面にマイクロピペットでポッティングし、当該溶剤の乾燥により当該表面に付着することができる。
【0025】
このような構成の場合、金属薄膜7には自由電子があり、基底状態ではフェミルエネルギー準位まで電子が詰まっており、外部から金属に光が照射される(エネルギーが付与される)と、自由電子が励起され、n型半導体3との間に形成されたショットキー障壁を電子が越えると、電子が半導体側へ流れ込み、両電極間に接続した外側の回路に光電流が流れることとなる。
【0026】
そして、この金属薄膜7の表面に金属ナノロッド9を付着させることにより、表面プラズモン共鳴に対応する波長の光が金属薄膜7に入射されると(電波を受けるアンテナのように)、金属ナノロッド9の中に自由電子の集団振動が誘起されるのである。従って、入射光のエネルギーを効率よく電子の集団振動に変換することができるのである。さらに、金属薄膜7の膜厚が100nm以下であれば、金属ナノロッド9で誘起された表面プラズモン共鳴の振動が金属薄膜7とn型半導体3の界面まで到達し、ショットキー障壁を越えて半導体側へ流れ込む電子数が激増することとなるのである。このように半導体側へ流れ込む電子数の増加により、光電流が激増することから、感度の良い光検出器を構成することができるのである。
【0027】
ここで、ショットキーダイオードにおける光電流と入射光との関係について説明する。図2は、一般的なショットキーダイオードの概略図(図2(a))およびバンド図(図2(b))である。概略図における10はショットキー障壁を示し、バンド図の20は金属7のフェミル準位を示している。この図に示すように、金属7には自由電子が詰まっているから、この金属7に光が照射されると、自由電子が励起され、ショットキー障壁10を超えて半導体側に電子が流れ込むと外部回路に光電流が流れるのである。そこで、この場合の光電力(Ip)は、入射する光のエネルギー(hv)と障壁のエネルギー(Φ)の差の平方に比例し、数1の式に示す関係を有する(非特許文献1参照)。
【数1】

ただし、A:定数
h:プランク定数
v:入射光の振動数

【0028】
上記式からも明らかなとおり、光電流は半導体の禁制帯幅とは無関係に、光のエネルギーと障壁のエネルギーによって決定する。しかしながら、波長の長い(エネルギーの低い)光の検出については、上記式より得られる光電流のみでは感度が十分でないことから、波長の長い光の検出器としては実用に供されていなかった。そこで、上述の本発明の実施形態のような構成により、光励起による表面プラズモン共鳴を用いることにより、検出感度を向上させることができるのである。また、半導体基板を使用することから、現実の光電子集積回路などに光電流を使用することができる。
【0029】
上記の実施形態は、本発明を実施するための一例を示すものであり、これに限定されるものではない。特に、金属ナノロッド9は、その直径および長さを特定するものではないが、ナノレベルの大きさで作製したものであればよい。その際、これらを均一化する構成としてもよい。また、軸線を一定の方向に(例えば、金属薄膜7の表面に垂直に)揃えた構成とすることができる。このような軸線を一定方向に揃える場合には、アンテナ効果が向上するため、金属薄膜における表面プラズモン共鳴による自由電子の集団振動が大きく誘起されることとなり、より効果的な感度を得ることができる。
【0030】
また、金属ナノロッド9に代えて金属製のドット構造を設けることができる。ドット構造はナノレベルの大きさに作製することが容易であり、表面プラズモン共鳴を励起させることも可能である。なお、ドット構造は、スパッタ法により表面に構成させることができるが、その他の手法により金属薄膜7の表面に構成させてもよい。
【実施例】
【0031】
上記実施形態の光検出器の性能について実験したので、以下に説明する。
【0032】
〔実験例〕
実験用としては、図3に示すように、n型半導体3の片面に金薄膜7を形成し、その表面の一部に金によるナノロッド9を付着した。半導体側の電極はオーミック電極8を設け、金薄膜7にはボンディングパッド11を装着した。
【0033】
金薄膜7は、膜厚を30nmとし、n型半導体3は禁制帯幅が1.10eVのものを使用した。このときのショットキー障壁は0.8eVとなる。また、金によるナノロッド9は、直径を10nmとし、長さは50〜100nmの範囲で不均一のものを付着した。付着方法は、アセトンを溶媒とした溶液をマイクロピペットにより薄膜上にポッティングし、この溶媒の乾燥により付着させた。また、ナノロッド9の軸線方向は不均一にしている。
【0034】
実験方法は、n型半導体3の側から凸レンズによって集光した光をショットキー障壁10に照射し、ナノロッド9を付着した領域と、付着していない領域に照射した場合の光電流の量を測定した。なお、入射光の波長は1550nm(エネルギー:0.8eV)とし、集光した光はショットキー障壁において約1mmのスポットとした。
【0035】
上記における実験結果を図4に示す。この実験結果からも明らかなとおり、ナノロッド9が付着されている領域では、付着されていない領域に比べて約2倍の光電流を検出することができた。上記実験用装置では、ナノロッド9の有無を除き他の条件は同一であることから、ナノロッド9が付着されているか否かを正確に対比できており、金属薄膜7にナノロッド9を付着することにより、光の検出効率を向上させることが判明した。
【符号の説明】
【0036】
1 n側電極
2 受光窓
3 n型半導体領域、n型半導体
4 真正半導体層
5 p型半導体領域
6 p側電極
7 電極、金属薄膜
8 オーミック電極
9 ナノロッド
10 ショットキー障壁
11 ボンディングパッド
20 フェミル準位
21 価電子帯上端
22 伝導帯下端
23 励起された電子
24 正孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体と金属からなるショットキー型光検出器において、光検出部の金属を薄膜で構成し、該金属薄膜の表面に複数の金属ナノロッドを付着してなることを特徴とするショットキー型光検出器。
【請求項2】
前記金属ナノロッドは、軸線を略平行に形成してなる複数の金属ナノロッドであることを特徴とする請求項1に記載のショットキー型光検出器。
【請求項3】
前記金属薄膜は金薄膜であり、前記金属ナノロッドは金ナノロッドであることを特徴とする請求項1または2に記載のショットキー型光検出器。
【請求項4】
半導体と金属からなるショットキー型光検出器において、光検出部の金属を薄膜で構成し、該金属薄膜の表面に金属によるドット構造を設けてなることを特徴とするショットキー型光検出器。
【請求項5】
前記金属薄膜は金薄膜であり、前記ドット構造は金によるドット構造であることを特徴とするショットキー型光検出器。
【請求項6】
前記金属薄膜または金薄膜は、100nm以下の肉厚で構成されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のショットキー型光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−171519(P2011−171519A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34121(P2010−34121)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】