説明

シラン処理された電解質膜及びその製造方法

【課題】高プロトン伝導性及び高燃料バリア性を長期に渡って発現できる電解質膜の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるケイ素−酸素架橋構造体(A)と、下記一般式(2)で表される、酸基を有しかつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得る酸基含有架橋構造体(B)とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜に、シラン化合物(Z)を接触させながら、該電解質膜を加熱する工程を有することを特徴とするシラン処理された電解質膜の製造方法;かかる製造方法で製造されたことを特徴とするシラン処理された電解質膜。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池への使用に好適なシラン処理された電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、それを構成する電解質の種類により、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類されるが、なかでも固体高分子形燃料電池(以下、PEFCと略記することがある)は、他の方式に比べて、装置が小型かつ高出力であるため、小規模オンサイト型発電用、車両等の移動体用や携帯機器用の電源等として、次世代の主力を担うシステムと位置付けられている。
PEFCでは、燃料として通常、水素を使用する。水素は、PEFCのアノード側に設置された触媒により、プロトン(水素イオン)と電子に分解される。このうち、電子は、外部に供給され、電気として使用され、PEFCのカソード側へと循環される。一方、プロトンは電解質膜(プロトン伝導性膜)に供給され、電解質膜中を透過してカソード側へ移動する。カソード側では、プロトン、循環されてきた電子、及び外部から導入される酸素が、触媒の存在下で電気化学的に反応して水が生じる。すなわち、PEFC単体で見れば、PEFCは、水素と酸素から水を作る際に電気を取り出す非常にクリーンなエネルギー源である。
【0003】
一方、近年、燃料電池の燃料としてアルコール、エーテル、炭化水素類等の水素以外の燃料を使用し、触媒によりこれらの燃料からプロトンと電子とを取り出す燃料電池も検討されている。このような燃料電池の代表例は、メタノール(通常、水溶液として使用する)を燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと略記する)である。DMFCは外部改質器を必要とせず、燃料の取り扱いが容易であるため、多様な種類の燃料電池の中でも、小型、携帯用電源として最も期待されている。
【0004】
PEFCやDMFC等の燃料電池において、電解質膜は、アノード側で生じたプロトンをカソード側へ伝導する役割を持つ。このプロトンの伝導は、電子の流れと協奏的に起こる。したがって、燃料電池において高い出力、即ち高い電流密度を得るためには、電解質膜を介したプロトンの伝導を充分かつ高速に行う必要がある。このように、電解質膜は、燃料電池の性能を決めてしまうキーマテリアルといっても過言ではない。また、電解質膜は、その他にもアノード側とカソード側との電気絶縁をする絶縁膜としての役割や、アノード側に供給される水素等の燃料がカソード側に漏れないようにする燃料バリア膜としての役割も併せ持つ。
現在、PEFCにおいて使用されている主な電解質膜は、パーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部、パーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基を有するフッ素系樹脂膜である。このようなスルホン化フッ素系樹脂膜(例えば、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製))は、高いプロトン伝導性と高い耐酸化性を有するが、熱可塑性であるため、PEFCを稼働する際の耐熱性が不足するという問題点があった。即ち、スルホン酸基(スルホ基、−SOH)の凝集によりイオンチャネルが形成され、高いプロトン伝導性を発揮するものの、熱可塑性を有するが故に、特定の温度以上では塑性変形し、イオンチャネル構造が破壊されてしまうのである。このため、ガラス転移温度(Tg)である約130℃以上の温度では短時間で、また100〜130℃でも徐々に塑性変形し、プロトン伝導性が低下すると共に、高燃料バリア性を維持することが難しい。
以上のような理由により、現在、安定的に長期使用可能な最高温度は、通常80℃ とされている。
【0005】
燃料電池は、その原理において化学反応を利用しているため、高温で作動させる方が、エネルギー効率が高い。また、出力が同じであれば、高温で作動可能な装置の方が、冷却装置が不要となり、より小型且つ軽量にできる。さらに、高温で作動させると、その排熱も利用できるため、いわゆるコジェネレーション(熱電併給)が可能となり、トータルエネルギー効率が飛躍的に向上する。したがって、燃料電池の作動温度は、使用する電解質膜のガラス転移温度や熱分解温度以下において、より高い方が好適とされ、通常は100℃ 以上、特に120℃以上が好ましいとされている。
【0006】
また、供給される水素が十分に精製されていない場合、アノード側に使用されている触媒が、燃料の不純物(例えば、一酸化炭素)により活性を失う(いわゆる触媒被毒)場合があり、PEFCの寿命を左右する大きな課題となっている。この触媒被毒に関しても、高温で燃料電池を作動させることができれば回避できることが知られており、この点からも燃料電池は、より高温で作動させることが好ましいといえる。さらに、より高温での作動が可能であれば、触媒自体も従来使用されている高価な白金等の貴金属の純品に代わり、種々の金属の合金で代替でき、コスト面、資源面からも非常に有利である。
以上のように、発電効率、コジェネレーション効率、コスト・資源面等、種々の観点からPEFCの高温作動、すなわち電解質膜の高温耐熱性が望まれているにもかかわらず、十分なプロトン伝導性と耐熱性を併せ持つ電解質膜はこれまで知られていない。
【0007】
一方、DMFCは、外部改質器が不要で、燃料の取扱いが容易であるため、多様な種類の燃料電池の中でも、携帯電話やラップトップパソコン等の小型・携帯用機器の電源として最も期待されている。しかしながら、前述のスルホン化フッ素系樹脂膜は、メタノールとの親和性が極めて高いことから、メタノールを吸収することで大きく膨潤してしまい、メタノールが、膨潤した電解質膜を透過し、カソード側へ漏れ出す、いわゆるメタノールクロスオーバー(以下、MCOと略記することがある)が発生し、燃料電池の出力が大きく低下してしまうという深刻な問題点があった。
さらに、DMFCを少ない燃料で長時間駆動させるためには、30質量%や64質量%といった高いメタノール濃度で使用可能なシステムが必要である。しかし、一般的なスルホン化フッ素系樹脂膜では、メタノール濃度が上がるにつれMCOが増加するため、数%程度以下の濃度でしか運転できなかった。
このように、DMFCにおいても、効率的かつ高耐久性を有する電解質膜はこれまで知られていない。
【0008】
このような背景のもと、PEFCの運転温度を上昇させるため、また、DMFCで高濃度メタノールを使用した高出力を実現させるため、スルホン化フッ素系樹脂以外の燃料電池用電解質膜についても、炭化水素系、無機系等、様々な種類の膜が盛んに開発されている。例えば、有機ケイ素化合物は、強い結合エネルギーを有するケイ素−酸素結合からなるために、化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性が高く、その組成によって多くの特異な性質を付与できるため、電気、電子、事務機器、建築、食品、医療、繊維、プラスチック、紙、パルプ、塗料ゴムといったあらゆる産業分野で使用されている。
この有機ケイ素化合物を利用し、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有する電解質膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ケイ素−酸素結合からなる架橋構造は、燃料電池用電解質膜のように、強い酸性条件下で高温高湿にさらされる場合でも、比較的安定であり、電解質膜内部の架橋構造として好適に使用できる。さらに、メタノールなどのアルコールを燃料として使用した場合でも、ケイ素−酸素架橋構造により膨潤が小さく抑えられるので、MCOの低減が期待できる。
しかし、膜中に含まれるケイ素−炭素結合は、その結合強度がケイ素−酸素結合よりも若干弱く、温度・湿度変化や水、メタノールの吸収等による急激な膨張、膨潤等の応力に対する耐衝撃性が低い場合がある。そのため、電解質膜の材料としてある種の有機ケイ素化合物を用いた場合に、外部環境変動による性能低下、特に燃料バリア性が低下してしまう場合があった。
【0009】
これらの問題点に対する解決策として、特許文献1では、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有する電解質材料をガラス繊維と複合化したり、多孔質基材の細孔内部に充填したりした強化電解質膜が開示されている。
また、例えば、ケイ素−酸素架橋構造体と、酸基を有しかつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得る酸基含有架橋構造体とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜において、酸基とケイ素原子との間の有機鎖長を長くした電解質膜が考えられる。
このような電解質膜は、前述の応力に対する耐衝撃性が向上し、外部環境変動による性能低下、特に燃料バリア性の低下を抑制する効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3679104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の前者の解決策では、繊維材料や多孔質基材と電解質材料との間にミクロな空隙が発生する場合があり、この空隙が外力によって広がり、燃料バリア性が低下することがあるという問題点があった。さらに、酸基近傍の架橋構造が強固な場合、分子レベルでは応力が緩和されず、酸基を有する有機鎖が脱落したり、それに伴いプロトン伝導性や燃料バリア性が低下することがあるという問題点があった。
一方、後者の解決策では、比較的長い有機鎖長により応力を緩和し易いが、その反面、極めて高い燃料バリア性、特にメタノールバリア性を発現できないという問題点があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高プロトン伝導性及び高燃料バリア性を長期に渡って発現できる電解質膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、下記一般式(1)で表されるケイ素−酸素架橋構造体(A)と、下記一般式(2)で表される、酸基を有しかつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得る酸基含有架橋構造体(B)とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜に、シラン化合物(Z)を接触させながら、該電解質膜を加熱する工程を有することを特徴とするシラン処理された電解質膜の製造方法である。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又は水酸基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基であり;Yはプロトン供与性基であり;Rは二価の有機基であり;Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり;mは0、1又は2であり;mが0又は1である場合には、複数のXは互いに同一でも異なっていても良く;mが2である場合には、二つのRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0018】
請求項2にかかる発明は、前記電解質膜に、シラン化合物(Z)のガスを接触させることを特徴とする請求項1に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
【0019】
請求項3にかかる発明は、前記シラン化合物(Z)が下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R14はメチル基又はエチル基であり;R15はメトキシ基、エトキシ基、水酸基又は水素原子であり;pは0又は1であり;複数のR15は互いに同一でも異なっていても良い。)
【0022】
請求項4にかかる発明は、前記Rが、n−プロピレン基に対して同等以上の鎖長を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
請求項5にかかる発明は、前記酸基含有架橋構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とが共有結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
請求項6にかかる発明は、前記シラン化合物(Z)のガスと水蒸気とを同時に接触させさせながら、前記電解質膜を加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
請求項7にかかる発明は、前記電解質膜が、前記ケイ素−酸素架橋構造体(A)と、前記酸基含有架橋構造体(B)とが、多孔質基材中で連結されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
請求項8にかかる発明は、シラン化合物(Z)を接触させさせながら前記電解質膜を加熱する工程の前に、さらに、前記電解質膜の表面層を除去する工程を有することを特徴とする請求項7に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法である。
請求項9にかかる発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするシラン処理された電解質膜である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高プロトン伝導性及び高燃料バリア性を長期に渡って発現できる電解質膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】耐久性試験前の電解質膜のプロトン伝導度とMCO比との関係を示すグラフである。
【図2】耐久性試験後の電解質膜のプロトン伝導度とMCO比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<シラン処理された電解質膜の製造方法>
本発明のシラン処理された電解質膜の製造方法は、前記一般式(1)で表されるケイ素−酸素架橋構造体(A)(以下、ケイ素−酸素架橋構造体(A)と略記することがある)と、前記一般式(2)で表される、酸基を有しかつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得る酸基含有架橋構造体(B)(以下、酸基含有架橋構造体(B)と略記することがある)とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜に、シラン化合物(Z)を接触させながら、該電解質膜を加熱する工程を有することを特徴とする。
【0026】
[電解質膜]
まず、本発明で使用する電解質膜について、詳細に説明する。
燃料電池動作時には、アノードで生じたプロトンが膜に供給され、一方、カソードでは膜中のプロトンが消費される。電解質膜中には、あらかじめある程度のプロトンが存在する。アノードではプロトン供給によりプロトン濃度が高まり、カソードではプロトン消費によりプロトン濃度が低くなる。このようにして膜中に生じるプロトン濃度勾配が、アノードからカソードへのプロトン拡散の駆動力である。膜中にプロトンが十分に存在しない場合は、カソード側のプロトンが不足し、安定した燃料電池作動が望めない。したがって、高い出力を発現する燃料電池用電解質膜を提供するためには、酸基が高濃度に存在し、かつ酸基が連続的に配置されたプロトン伝導経路を形成している必要がある。しかし、酸基を高濃度に有する電解質膜は、水やメタノールを吸収、保持し易く、高温での軟化や、水やメタノール等により、溶解、膨潤し易い。そのため、高温で使用した場合や、メタノール水溶液を燃料として使用した場合に、燃料バリア性の低下、プロトン伝導性の低下等により、発電性能が低下し易い。
【0027】
(1)第一の電解質膜
本発明においては、ケイ素−酸素架橋構造体(A)と酸基含有架橋構造体(B)とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜(以下、第一の電解質膜と言うことがある)を使用する。かかる電解質膜は、架橋が強固に形成されているので、膜中に酸基を高濃度に有しているにも関わらず、高温での軟化や、水やメタノール等により、溶解、膨潤し難い。さらに、このような電解質膜に対して、シラン化合物による処理を行うことで、架橋がより強固に形成されるので、高温で使用した場合や、メタノール水溶液を燃料として使用した場合でも、極めて高い燃料バリア性と高いプロトン伝導性を、長期にわたって安定的に発現する電解質膜が得られる。
【0028】
(i)ケイ素−酸素架橋構造体(A)
ケイ素−酸素架橋構造体(A)は、下記一般式(1)で表される。
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又は水酸基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0031】
一般式(1)中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子である。炭素数が50より多くなると架橋が不十分であり、電解質膜の耐膨潤性、耐熱性が見込めなくなる。
の二価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでも良い。
【0032】
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良いが、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。
該脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
該脂肪族炭化水素基の特に好ましいものとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が例示できる。
前記芳香族炭化水素基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
【0033】
また、Rの二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が結合した2価の基でも良く、このようなものとしては、芳香族炭化水素の二個の水素原子が2価の脂肪族炭化水素基で置換された二価の基が好ましい。ここで、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、上記で説明したものの中から、炭素数の総数が50以下となる組み合わせを選択すれば良い。好ましいものとして具体的には、ベンゼンの1位及び4位の水素原子がアルキレン基で置換されたものが例示でき、該アルキレン基としては炭素数1〜5であるものが好ましく、炭素数1〜3であるものがより好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0034】
は、ヘテロ原子を有していても良い。ここで、「ヘテロ原子を有する」とは、Rの少なくとも一つの水素原子又は炭素原子が、ヘテロ原子又はヘテロ原子を有する基で置換されていることを指す。また、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が例示できる。なかでも、Rの少なくとも一つの炭素原子が、酸素原子(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−NH−C(=O)−)で置換されたものは、これらの結合形成の容易性、構造体の柔軟性、原料の入手容易性の観点から好ましい。
【0035】
上記のなかでもRとしては、耐酸性が高く、極めて安定であることから、二価の炭化水素基が好ましい。そして、酸、ラジカル等による攻撃に対して安定であり、さらに、屈曲可能な構造であるため、電解質膜に適度な柔軟性を付与でき、緻密性なども調整できることから、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。これら安定性、柔軟性、緻密性等は、飽和脂肪族炭化水素基の分子長で調整できる。
【0036】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基である。ただし、R〜Rの少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又は水酸基である。ここで、R〜Rのいずれかが、式「−O−Si−」で表される基である場合には、ケイ素−酸素架橋構造体(A)が、他のケイ素−酸素架橋構造体(A)と結合していることを示す。
【0037】
一般式(1)中、mは1以上の整数である。
【0038】
が2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。例えば、一般式(1)において、mが2以上の整数である場合には、架橋性化合物(A)は、Rとして炭素数1〜50の二価の炭化水素基と酸素原子とを両方含むものであっても良く、このようなものとして、一般式「−Si−R’−Si−O−(式中、R’は炭素数1〜50の二価の炭化水素基を表す)」で表される繰り返しの基本骨格を有するものが例示できる。同様に、複数のRも互いに同一でも異なっていても良く、複数のRも互いに同一でも異なっていても良い。そして、RとRも互いに同一でも異なっていても良い。
【0039】
ケイ素−酸素架橋構造体(A)は、例えば、RがOであり、且つR〜Rが「−O−Si−」である場合のように、無機化合物の場合もあれば、有機化合物を複合した有機無機複合体の場合もある。有機化合物を複合する場合は、無機物が有する耐熱性と、有機物が有する柔軟性とを両方兼ね備えた電解質膜を形成できる。このような化合物を使用する場合には、架橋構造間の分子構造設計により、柔軟性をはじめとする各膜物性の調整が可能である。電解質膜としての重要な特性の一つである燃料バリア性も、分子構造、架橋密度の調整により調整できる。
これらの構造体を形成する架橋性前駆体は、そのまま市販されているものもあり、さらに、不飽和結合を有するものは、対応するシリル化合物のヒドロシリル化反応により合成でき、水酸基やアミノ基等を有するものも同様に合成できる。
【0040】
ケイ素−酸素架橋構造体(A)として、具体的には、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、1,8−ビス(エチルジメトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリメトキシシリルメチル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン及びn−ブチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが加水分解されたモノマーが、重縮合したものが好ましい。また、前記アルコキシシランのアルコキシ基が、他のアルコキシ基で置換されたものも同様に使用できるし、さらに本発明においては、これらアルコキシシランに限定されるものではない。
【0041】
また、ケイ素−酸素架橋構造体(A)の形成には、オリゴマーも使用でき、これを重縮合させて、ケイ素−酸素架橋構造体(A)としても良い。好適なオリゴマーとして、各種市販品も利用でき、具体的には、KC−89、KR−500、KR−212、KR−213、KR−9218(いずれも信越化学工業社製)等が例示できる。
さらに、前記モノマー及びオリゴマーを併用して、ケイ素−酸素架橋構造体(A)としても良い。
【0042】
ケイ素−酸素架橋構造体(A)は、一種の原料(前記モノマー又はオリゴマー)が重縮合したものでも良く、二種以上の原料(前記モノマー及び/又はオリゴマー)が重縮合したものでも良い。二種以上が重縮合したものである場合、これら原料の組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0043】
ケイ素−酸素架橋構造体(A)は、前記原料由来のアルコキシ基又は該アルコキシ基が加水分解された水酸基が残存していても良いが、アルコキシ基及び水酸基の残存数が少ないものほど好ましい。アルコキシ基及び水酸基の残存数が少なく、ケイ素−酸素結合を形成しているほど、緻密な構造をとり、電解質膜の耐熱性、燃料バリア性、機械的強度が向上する。
【0044】
本発明においては、適切なケイ素−酸素架橋構造体(A)を使用することで、シリカ架橋粒子を形成させることもでき、その架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、電解質膜の強度、可撓性を適宜調整することもできる。
【0045】
ケイ素−酸素架橋構造体(A)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0046】
(ii)酸基含有架橋構造体(B)
酸基含有架橋構造体(B)は、前記一般式(2)で表され、酸基を有し、かつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得るものである。
【0047】
【化5】

【0048】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基であり;Yはプロトン供与性基であり;Rは二価の有機基であり;Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり;mは0、1又は2であり;mが0又は1である場合には、複数のXは互いに同一でも異なっていても良く;mが2である場合には、二つのRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0049】
一般式(2)中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基である。そして、酸基含有架橋構造体(B)は、Xとして架橋に関与する−O−結合を有する場合には、ケイ素−酸素結合による架橋構造を有していて、Xがすべて水酸基である場合には、ケイ素−酸素結合による架橋構造を形成し得るものである。すなわち、水酸基は架橋構造を形成し得る基である。
【0050】
一般式(2)中、Yはプロトン供与性基であり、プロトン供与性を有するものであれば特に限定されないが、酸基であることが好ましい。ここで、酸基としては、スルホ基(スルホン酸基、−SOH)、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基(カルボン酸基、−C(=O)−OH)、硫酸基、リン酸基、ホウ酸基等、種々の酸基が例示できるが、pKaが低く、膜中プロトン濃度を十分に確保でき、熱的にも安定である点から、スルホン酸基が特に好ましい。
【0051】
一般式(2)中、Rは二価の有機基であり、プロトン供与性基(Y)と、X及びRが結合しているケイ素原子とを、共有結合により連結するものである。
は、二価の有機基であれば特に限定されないが、耐熱性、耐酸性、耐酸化性等に優れているものが好ましい。このような観点から、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、3〜10であることが特に好ましい。
【0052】
Yがスルホン酸基である場合、「−R−Y」は、下記一般式(2a)で表されることが好ましい。
【0053】
【化6】

【0054】
(式中、mは1〜20の整数である。)
【0055】
一般式(2a)中、mは1〜20の整数であり、1〜10であることが好ましく、3〜10であることがより好ましい。
【0056】
上記の中で、mが3である酸基含有架橋構造体(B)の一つである3−(トリヒロドキシシリル)プロパンスルホン酸も、Gelest社より市販されており、また、臭化アリルを原料とした合成法も確立されており、入手が容易であるため、好適である。
【0057】
本発明においては、例えば、酸基の代わりに酸基の前駆体基を有する、酸基含有架橋構造体(B)の前駆体(B’)をケイ素−酸素架橋構造体(A)とケイ素−酸素結合によって連結した後、前記酸基の前駆体基を酸基に変換することにより、電解質膜としても良い。ここで、「酸基の前駆体基」とは、化学反応等により、酸基に変換可能な基のことを指す。「化学反応」としては酸化反応や、エステル結合の分解反応等が例示できる。具体的には、酸基がスルホン酸基である場合、「酸基の前駆体基」としては、メルカプト基(チオール基)、スルホン酸エステル基等が例示できる。ただし、これらに限定されるものではない。
例えば、前記前駆体(B’)として、市販品のある3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チッソ社製、サイラエースS−810)等が好適である。
【0058】
また、mが4で以上であれば、Yと前記ケイ素原子との結合距離が近い場合に生じ得る、極性溶媒の急激な浸入や冷熱繰り返し等の衝撃による、電解質膜構造の破壊や特性劣化を抑制する一層高い効果が得られる。
【0059】
さらに、下記一般式(2−1)で表されるオリゴマー又はポリマーを使用して架橋構造を形成させたのち、メルカプト基を酸化することにより、酸基含有架橋構造体(B)とすることもできる。
【0060】
【化7】

【0061】
(式中、kは1〜20の整数であり;lは3〜500の整数であり;R10はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基又はフェニル基であり;R11はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基又は式「−O−Si−」で表される基であり、複数のR11は互いに同一でも異なっていても良い。)
【0062】
一般式(2−1)中、R11がメトキシ基であり、kが3であり、lが10であるものは、信越化学工業社より市販されており(X−41−1805)、好適である。
【0063】
酸基含有架橋構造体(B)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0064】
(2)第二の電解質膜
本発明においては、第一の電解質膜で、前記酸基含有架橋構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)(以下、シラン化合物(α)と略記する)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)(以下、酸基含有化合物(β)と略記する)とが共有結合した構造を含むものである電解質膜(以下、第二の電解質膜と言うことがある)も使用できる。
【0065】
第二の電解質膜としては、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)とが共有結合した構造を含む酸基含有架橋構造体(B)と、架橋基本構造体(骨格)となるケイ素−酸素架橋構造体(A)とが、シロキサン結合を形成するように構成されたものが例示できる。
また、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)とが共有結合していることに加えて、シラン化合物(α)同士又は酸基含有化合物(β)同士が重合体を形成しているものや、さらに、後述する架橋剤(C)が、シラン化合物(α)、酸基含有化合物(β)又は架橋剤(C)と架橋化合物を形成しているものも第二の電解質膜として使用できる。
【0066】
一般に、ケイ素−酸素架橋性化合物は構造が剛直なため、酸基等の極性が高い部分が多く存在すると、温度変動や極性溶媒の含浸等による燃料バリア性、プロトン伝導性の低下を生じさせる場合がある。これに対して、酸基含有架橋構造体(B)において、酸基含有化合物(β)に由来する酸基と、シラン化合物(α)に由来するケイ素原子とは、所定の距離だけ離間して架橋構造を形成する。そのため、高燃料バリア性や強度等、電解質膜に求められる様々な特性をより向上させることができる。さらに、酸基含有架橋構造体(B)中に有機部位が多く含まれることにより、電解質膜に柔軟性が付与され、耐衝撃性が向上する。また、必要に応じて架橋剤(C)を導入することにより、柔軟かつ強固な架橋構造が得られるため、耐衝撃性及び耐極性溶媒性が一層向上する。
【0067】
酸基含有架橋構造体(B)においては、酸基含有化合物(β)に由来する酸基と、シラン化合物(α)に由来するケイ素原子とが、少なくとも3つ以上の連続した炭素原子間の結合を介して結合していることが好ましく、少なくとも4つ以上の連続した炭素原子間の結合を介して結合していることがより好ましい。これにより、酸基とケイ素原子との結合距離が近い場合に生じ得る、極性溶媒の急激な浸入や冷熱繰り返し等の衝撃による電解質膜構造の破壊や特性劣化を抑制するより一層高い効果が得られる。
【0068】
(iii)シラン化合物(α)
シラン化合物(α)は、重合性不飽和二重結合を有するものであれば良い。なかでも好ましいものとして、下記一般式(2b)で表される化合物が例示できる。
【化8】

【0069】
(式中、R12は置換基を有していても良い二価の炭化水素基、該炭化水素基とオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)とが結合した二価の基又はヘテロ原子であり;R13、R14及びR15はそれぞれ独立に置換基を有していても良い炭化水素基、該炭化水素基がヘテロ原子に結合した基、水酸基、水素原子、ヘテロ原子又はハロゲン原子であり、少なくとも一つはケイ素−酸素−ケイ素結合を形成し得る基であり;Rは水素原子又はメチル基であり;nは1以上の整数であり、nは0又は1であり、ただしnが0である場合、nは1であり;nが2以上である場合には、複数のR12、R13及びR14はそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0070】
一般式(2b)中、R12は置換基を有していても良い二価の炭化水素基、該炭化水素基とオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)とが結合した二価の基又はヘテロ原子である。
12の二価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでも良く、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が結合した2価の基でも良い。
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良いが、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。
該脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
該脂肪族炭化水素基の特に好ましいものとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が例示できる。
前記芳香族炭化水素基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
【0071】
12の前記炭化水素基とオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)とが結合した二価の基とは、エステル結合を有する二価の基であり、前記炭化水素基の末端の炭素原子と、オキシカルボニル基(−O−C(=O)−)の酸素原子(−O−)とが結合した基である。
【0072】
12のヘテロ原子は、酸素原子又は硫黄原子であることが好ましい。
【0073】
12が有していても良い置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子が例示できる。
置換基としてのアルキル基又はアルコキシ基は、炭素数1〜3であることが好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が例示できる。
置換基の数は特に限定されないが、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0074】
13、R14及びR15はそれぞれ独立に置換基を有していても良い炭化水素基、該炭化水素基がヘテロ原子に結合した基、水酸基、水素原子、ヘテロ原子又はハロゲン原子である。
13〜R15の炭化水素基としては、前記R12の二価の炭化水素基に水素原子が結合した一価の炭化水素基が例示できる。なかでも、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。
該脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基が例示できる。
【0075】
13〜R15のヘテロ原子としては、酸素原子又は硫黄原子が例示でき、酸素原子が特に好ましい。
【0076】
13〜R15の前記炭化水素基がヘテロ原子に結合した基におけるヘテロ原子は、前記と同様であり、なかでも、R13〜R15の前記炭化水素基が酸素原子に結合した基が好ましく、直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が特に好ましい。
【0077】
13〜R15のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が例示できる。
【0078】
13〜R15の少なくとも一つは、ケイ素−酸素−ケイ素結合を形成し得る基であり、好ましいものとしてアルコキシ基、水酸基が例示できる。アルコキシシリル基は、加水分解反応後にシラノール基等と縮合させることで、分子間でケイ素−酸素−ケイ素結合を形成する。
【0079】
は水素原子又はメチル基である。
は1以上の整数であり、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
は0又は1であり、ただしnが0である場合、nは1である。
また、nが2以上である場合には、複数のR13、R14及びR15はそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。すなわち、R13〜R15のすべてが同一でも良いし、一部が異なっていても良く、すべてが異なっていても良い。
【0080】
好ましいシラン化合物(α)として具体的には、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルアクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルメタクリルレート、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン等が例示できる。
これらの中でもシラン化合物(α)としては、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、トリメトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0081】
シラン化合物(α)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0082】
(iv)酸基含有化合物(β)
酸基含有化合物(β)は、酸基及び重合性不飽和二重結合を有するものであれば良い。
酸基含有化合物(β)における酸基としては、水中での酸解離定数で定義される該酸基含有化合物(β)のpKaを5以下とするものが好ましく、スルホン酸基(スルホ基、−SOH)、カルボキシル基(−C(=O)−OH)、リン酸基等が例示でき、スルホン酸基が特に好ましい。
【0083】
酸基含有化合物(β)の好ましいものとしては、プロトン付加が可能なヘテロ原子を三つ以上有し、且つメチレン基が二つ以上連結した直鎖構造を含む(メタ)アクリレート誘導体又はアクリルアミド誘導体が例示できる。ここでプロトン付加が可能なヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子が例示でき、スルホン酸基等、前記酸基を構成する原子であっても良い。
【0084】
酸基含有化合物(β)の好ましいものとして具体的には、下記一般式(2c)〜(2e)で表される化合物が例示できる。
【0085】
【化9】

【0086】
(式中、R16は置換基を有していても良い炭素数10以下のアルキレン基、アリーレン基又はカルボニルオキシアルキレン基であり;R17は置換基を有していても良い炭素数10以下のアルキル基、アリール基、カルボニルオキシアルキル基又はアミノカルボニル基であり;Qは酸基である。)
【0087】
式中、R16は置換基を有していても良い炭素数10以下のアルキレン基、アリーレン基又はオキシカルボニルアルキレン基である。
16のアルキレン基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでも良く、炭素数2〜8であることが好ましく、炭素数2〜5であることがより好ましい。
16のアリーレン基は、フェニレン基が好ましい。
16のカルボニルオキシアルキレン基におけるアルキレン基は、炭素数2〜6であることが好ましく、炭素数2〜4であることがより好ましく、直鎖状であることが好ましい。なお、該カルボニルオキシアルキレン基のカルボニル基を構成する炭素原子は、上記式中の炭素=炭素二重結合を構成する炭素原子に結合するものとする。
【0088】
16のアルキレン基、アリーレン基又はカルボニルオキシアルキレン基は、置換基を有していても良い。ここで置換基を有するとは、前記アルキレン基、アリーレン基又はカルボニルオキシアルキレン基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が置換基で置換されているか、又は炭素原子の一部が置換基で置換されていることを示す。
ここで水素原子を置換する置換基としては、好ましいものとしてアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、スルホ基、カルボキシル基が例示できる。置換基としてのアルキル基及びアルコキシ基は、炭素数1〜3であることが好ましい。置換基としてのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が例示できる。これらの中でも、置換基としては、アルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基又はスルホ基が好ましく、アミノ基又はスルホ基がより好ましい。
また、炭素原子を置換する置換基としては、好ましいものとしてアミド結合(−C(=O)−NH−)が例示できる。
【0089】
式中、R17は置換基を有していても良い炭素数10以下のアルキル基、アリール基、カルボニルオキシアルキル基又はアミノカルボニル基である。
17のアルキル基は、R16のアルキレン基に水素原子が結合したものが例示できる。
17のアリール基は、R16のアリーレン基に水素原子が結合したものが例示できる。
17のカルボニルオキシアルキル基は、R16のカルボニルオキシアルキレン基に水素原子が結合したものが例示できる。
【0090】
17のアルキル基、アリール基、カルボニルオキシアルキル基又はアミノカルボニル基は、置換基を有していても良い。ここで置換基を有するとは、前記アルキル基、アリール基又はカルボニルオキシアルキル基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が置換基で置換されていること、あるいはアミノカルボニル基の窒素原子に結合している水素原子の一部又は全部が置換基で置換されていることを示す。
前記アルキル基、アリール基又はカルボニルオキシアルキル基における置換基としては、R16における水素原子を置換する置換基と同様のものが例示できる。
前記アミノカルボニル基における置換基としては、好ましいものとして炭素数1〜3のアルキル基が例示できる。
【0091】
式中、Qは酸基であり、前記一般式(2)中のYのプロトン供与性基における酸基と同様である。
【0092】
好ましい酸基含有化合物(β)として、具体的には、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸、3−スルホプロピルメタクリレート、p−スチルスルホン酸、4,4’−ジアミノスチルベンゼン−2,2’−ジスルホン酸、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)等が例示できる。
これらの中でも、酸基含有化合物(β)としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が特に好ましい。
【0093】
酸基含有化合物(β)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0094】
第二の電解質膜においても、酸基含有架橋構造体(B)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0095】
(v)その他の成分
本発明における電解質膜は、上記以外のその他の成分を配合して形成されたものでも良い。
電解質膜におけるその他の成分としては、架橋剤(C)、相溶化剤(D)が例示できる。
【0096】
架橋剤(C)としては、シラン化合物(α)又は酸基含有化合物(β)に結合可能な官能基を一分子中に二つ以上有する架橋剤が好ましく、具体的には、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、ジビニルベンゼン、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニルメタクリレート等の炭化水素系架橋剤;2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート等のフッ素系モノマーが例示できる。
【0097】
架橋剤(C)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0098】
相溶化剤(D)は、配合成分を均一に混合できるものであれば、特に限定されない。好ましいものとしては、モノアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の非イオン性界面活性剤が例示できる。また、相溶化剤としての機能だけでなく、電解質膜を構成する材料として必要な機能、例えば、プロトン伝導性、架橋反応性等を併せ持つものであっても良い。
【0099】
相溶化剤(D)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0100】
電解質膜においては、プロトン伝導性を高める目的で、別の酸成分として、酸基含有高分子材料等を併用しても良い。ここで、酸基とは、上記と同様のものである。
【0101】
また、前記第一又は第二の電解質膜を形成するためのいずれかの配合成分を併用した電解質膜も好適に使用できる。このような電解質膜としては、ケイ素−酸素架橋構造体(A)及び酸基含有架橋構造体(B)以外に、さらに、シラン化合物(α)及び/又は酸基含有化合物(β)を別途併用したものが例示できる。
【0102】
本発明の電解質膜において、原料の配合比率は、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、原料として、ケイ素−酸素架橋構造体(A)を形成する原料(以下、原料(A)と略記する)と、酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)とを配合する場合には、原料(A)1モルに対して、酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)の配合量は、0.05〜4モルであることが好ましく、0.07〜2モルであることがより好ましい。なお、ここで、「原料(A)」として具体的には、前記一般式(1)において、mを0に置き換えた時のモノマーが例示できる。
また、原料(A)、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を配合する場合には、原料(A)1モルに対して、シラン化合物(α)の配合量は、0.05〜2モルであることが好ましく、0.1〜1モルであることがより好ましい。また、原料(A)1モルに対して、酸基含有化合物(β)の配合量は、1〜10モルであることが好ましく、3〜7モルであることがより好ましい。酸基含有化合物(β)の配合量は、シラン化合物(α)1モルに対して5〜40モルであることが好ましく、10〜30モルであることがより好ましい。さらに、架橋剤(C)を配合する場合、その配合量は、原料(A)1モルに対して、0.1〜5モルであることが好ましく、0.3〜3モルであることがより好ましい。
さらに、原料(A)、酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)以外に、別途シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を配合する場合には、原料(A)1モルに対して、酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)の配合量は、上記と同様にすることが好ましい。そして、原料(A)1モルに対して、シラン化合物(α)の配合量は、0.05〜2モルであることが好ましく、0.10〜1モルであることがより好ましい。また、原料(A)1モルに対して、酸基含有化合物(β)の配合量は、1〜7モルであることが好ましく、2〜5モルであることがより好ましい。酸基含有化合物(β)の配合量は、シラン化合物(α)1モルに対して5〜40モルであることが好ましく、10〜30モルであることがより好ましい。さらに、架橋剤(C)を配合する場合、その配合量は、原料(A)1モルに対して、0.05〜3モルであることが好ましく、0.1〜2モルであることがより好ましい。
このような配合量は、原料(A)が、各種モノマー等の低分子量化合物である場合に、特に好適である。
また、上記のような配合比率で各原料を反応させた後、さらに別途、ケイ素−酸素架橋構造体(A)や酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)を配合して反応させ、さらに前記前駆体(B’)を配合した場合には、酸基の前駆体基を酸基に変換することで、電解質膜としても良い。この時のケイ素−酸素架橋構造体(A)、酸基含有架橋構造体(B)及び/又はその前駆体(B’)の配合量は、目的に応じて任意に調整できる。
【0103】
酸基含有化合物(β)等の重合性不飽和二重結合を重合させる場合には、重合開始剤を併用することが好ましい。重合開始剤は公知のもので良く、好ましいものとして具体的には、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン〕ハイドレート、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ開始剤;
ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等の光重合開始剤;
ジベンゾイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物;
等が例示できる。
【0104】
(vi)多孔質基材
本発明においては、さらに、膜の強度を高めるために、ケイ素−酸素架橋構造体(A)と酸基含有架橋構造体(B)とが多孔質基材中で連結されて、強度が強化されたものを電解質膜として使用しても良い。
多孔質基材は、有機材料からなるものでも良いし、無機材料からなるものでも良い。
【0105】
有機材料としては、ポリエチレン;超高分子量ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリイミド;ポリアリレート系液晶ポリマー等の高分子化合物が例示できる。なかでも、フッ素樹脂、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリイミドからなる高分子材料は、膜厚や孔径の異なる様々な種類のものが市販されているので好適である。
無機材料としては、ガラス、シリカ、アルミナ、カーボン、炭化珪素等が例示できる。
【0106】
多孔質基材の孔径は、0.05〜10μmであることが好ましく、0.1〜1.0μmであることがより好ましい。孔径が小さ過ぎると、ケイ素−酸素架橋構造体(A)や酸基含有架橋構造体(B)を形成するための配合成分が充填され難くなり、プロトン伝導性が低下する。また、孔径が大き過ぎると、燃料バリア性が低下したり、膜の強度が低下し、破損するおそれがある。
多孔質基材の空孔率は、膜の強度、配合成分の充填率との兼ね合いで一概には言えないが、通常は30〜98%であることが好ましく、40〜95%であることがより好ましい。
【0107】
多孔質基材の形態としては、上記各材料からなる繊維をシート状に成形した不織布、織布が例示できる。織布は平織り、斜文織、朱子織、からみ織り等のいずれの織り方で織られていても良い。織布はまた、個々の繊維を直接織ったものでも良く、繊維を束ねて形成されたもの(例えば、ガラス糸等の無機糸)を織ったものでも良い。シート状の多孔質基材は、二種以上の繊維を組み合わせて構成されていても良い。
【0108】
多孔質基材の厚さは目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は10〜150μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましい。
【0109】
電解質膜は、上記のようなものであれば、市販品でも良いし、所望の成分を反応させて作製したものでも良い。反応させる場合の温度、時間等の条件は、反応させる成分の種類に応じて適宜調整すれば良い。
多孔質基材で強化された電解質膜を作製する場合には、原料(A)や酸基含有架橋構造体(B)等、電解質膜を形成するための成分を含有する液体を多孔質基材に含浸させ、次いで、オーブン等を使用して加熱することで、前記成分を加熱硬化させ、さらに、焼成すれば良い。加熱時の温度及び時間は、使用する成分の種類等に応じて適宜調整すれば良い。通常は、加熱時の温度は30〜230℃程度であることが好ましく、60〜210℃程度であることが好ましい。この時、比較的低い温度で加熱した後、より高い温度で加熱したり、徐々に昇温しながら加熱しても良い。加熱時間は3〜48時間程度であることが好ましく、4〜36時間程度であることが好ましい。成分の配合量は、多孔質基材を使用しない場合と同様で良い。
【0110】
[電解質膜のシラン処理]
次に、シラン処理された電解質膜の製造方法について、詳細に説明する。
本発明の製造方法においては、シラン化合物(Z)を接触させながら、電解質膜を加熱する。
【0111】
(viii)シラン化合物(Z)
シラン化合物(Z)は、電解質膜の表面及び/又は孔内に導入され、次いで加水分解及び/又は重縮合により、ケイ素−酸素架橋構造体を形成できる化合物である。なかでも、ガスとして電解質膜の表面及び/又は孔内に導入できるものが好ましく、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシランモノマー、アルキルアルコキシシランモノマー及びこれらの誘導体が例示できる。
【0112】
シラン化合物(Z)としては、下記一般式(3)で表されるものがより好ましい。
【0113】
【化10】

【0114】
(式中、R14はメチル基又はエチル基であり;R15はメトキシ基、エトキシ基、水酸基又は水素原子であり;pは0又は1であり;複数のR15は互いに同一でも異なっていても良い。)
【0115】
一般式(3)中、R14はメチル基又はエチル基である。
一般式(3)中、R15はメトキシ基、エトキシ基、水酸基又は水素原子であり、メトキシ基、エトキシ基又は水素原子であることが好ましい。
一般式(3)中、pは0又は1である。そして、複数のR15は互いに同一でも異なっていても良い。
一般式(3)で表されるシラン化合物(Z)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランが好ましく、比較的ガス化させ易く、反応性も高く、安価且つ大量に入手できる点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0116】
シラン化合物(Z)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0117】
電解質膜にシラン化合物(Z)を接触させる方法は特に限定されないが、シラン化合物(Z)のガスを電解質膜に接触させることが好ましい。ガスとして接触させることで、シラン化合物(Z)の導入効率を向上させることができるので、その使用量を削減できる。さらに、目的とするケイ素−酸素架橋構造体を、膜中に一層均一に分布させることができる。
二種以上のシラン化合物(Z)を併用する場合には、複数種類のシラン化合物を同時に電解質膜に接触させても良いし、1種類のシラン化合物を電解質膜に接触させた後、さらに別の種類のシラン化合物を電解質膜に接触させるようにして、シラン化合物を一種類ずつ順次接触させても良い。一種類ずつ順次接触させる場合、シラン化合物の接触順は、目的に応じて任意に設定できる。
【0118】
シラン化合物(Z)の使用量は、シラン化合物(Z)の種類、電解質膜の組成、目的とするプロトン伝導性及び燃料バリア性等によって適宜選択すれば良いが、通常は、電解質膜に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。使用量が少な過ぎると所望の燃料バリア性やその長期安定性が得られないし、多過ぎるとプロトン伝導性が低下したり、膜が脆化したりする。
【0119】
シラン化合物(Z)を接触させる条件は、シラン化合物(Z)の種類、目的とするケイ素−酸素架橋構造体の導入量や膜中での分布等に応じて適宜選択できる。
例えば、シラン化合物(Z)のガスを接触させる場合には、電解質膜や多孔質基材を劣化させない範囲で、温度及び圧力を、シラン化合物(Z)をガス化できる条件に設定すれば良い。温度が低いと、シラン化合物(Z)のガス化する量が少なく、目的とする導入量への到達に時間を要する。これに対し、温度が高いと、シラン化合物(Z)がガス化するだけにとどまらず、電解質膜と反応し、電解質膜の表面及び表面近傍での導入量が多くなる。これが顕著になると、電解質膜と電極との接合性が悪化し、抵抗が増加する。また、圧力が低いと、シラン化合物をガス化させ易いが、膜の内部へ導入し難いことがある。これに対し、圧力が高いと、シラン化合物をガス化させ難いが、膜の内部へ導入し易い。
【0120】
これらの観点から、通常は、シラン化合物(Z)のガスを接触させる時の温度は40〜150℃であることが好ましく、70〜130℃であることがより好ましい。また、接触時の温度は一定でも良いし、変化させても良い。例えば、所定時間で段階的に昇温した後、温度を一定に保持するようにしても良い。この時の昇温割合は、一時間当たり10〜30℃であることが好ましい。
シラン化合物(Z)を接触させる時間は、接触時の温度及び圧力、並びにシラン化合物(Z)の所望の導入量等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は、1分〜10時間であることが好ましい。そして、温度及び圧力が上記範囲内である場合には、0.5〜9時間であることが好ましく、1〜6時間であることがより好ましい。
【0121】
電解質膜には、シラン化合物(Z)以外に、その他の成分を接触させても良い。その他の成分を接触させる方法は、シラン化合物(Z)の場合と同様で良い。その他の成分は、ガスとして接触させることで、導入効率を向上させることができるので、その使用量を削減できる。さらに、膜中に一層均一に分布させることができる。
【0122】
その他の成分としては、水が特に好ましく、水蒸気として接触させることが好ましい。
その他の成分は、シラン化合物(Z)よりも前に電解質膜に接触させても良いし、シラン化合物(Z)よりも後に接触させても良く、シラン化合物(Z)と同時に接触させても良い。なかでも、工程を簡略化できる点で、同時に接触させることが好ましい。
例えば、その他の成分として、水(水蒸気)を接触させた場合には、シラン化合物(Z)の加水分解及び/又は重縮合を効率的に行うことができるので、目的とするケイ素−酸素架橋構造体を効率的に形成できる。
接触させる水の量は、シラン化合物(Z)の種類及び使用量、接触方法等に応じて、適宜調整すれば良い。例えば、水蒸気をシラン化合物(Z)のガスと共に接触させる場合には、シラン化合物(Z)に対して、好ましくは40〜100質量%、より好ましくは60〜80質量%の水を共存させ、水蒸気化とガス化を同時に行うことが好ましい。
【0123】
さらに、その他の成分として、シラン化合物(Z)の加水分解及び/又は重縮合を促進する触媒を接触させても良い。該触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸等の酸;アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン等の塩基が例示できる。
【0124】
シラン化合物(Z)を接触させながら、電解質膜を加熱する時の加熱条件は、シラン化合物(Z)が反応して、目的とするケイ素−酸素架橋構造体を形成でき、電解質膜や多孔質基材を劣化させない限り、特に限定されない。そして、前記接触時の条件と同様に、シラン化合物(Z)の種類、目的とするケイ素−酸素架橋構造体の導入量や膜中での分布等に応じて適宜選択できる。
【0125】
通常は、電解質膜加熱時の温度は、40〜280℃であることが好ましく、70〜200℃であることがより好ましい。また、接触時の温度は一定でも良いし、変化させても良い。
電解質膜加熱時の圧力は、温度に応じて適宜調整すれば良く、特に限定されない。例えば、常圧であれば、特殊な装置が不要であり、簡便に行える点で好ましい。また、減圧することにより、ケイ素−酸素架橋構造体形成時の水やアルコール等の副産物を除去できるので、該構造体の形成を促進できる点で好ましい。
電解質膜の加熱時間は、加熱時の温度及び圧力、並びにシラン化合物(Z)の所望の導入量等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は、100時間以下であることが好ましく、5分〜10時間であることがより好ましく、2〜6時間であることが特に好ましい。
【0126】
電解質膜の加熱は、シラン化合物(Z)の電解質膜への接触後に行っても良いし、電解質膜への接触と同時に行っても良い。同時に行うことで、工程を簡略化できる。ただし、電解質膜を減圧下で加熱する場合には、あらかじめ、シラン化合物(Z)や必要に応じてその他の成分を電解質膜へ接触させておくことが好ましい。
【0127】
[電解質膜の前処理]
電解質膜は、前記シラン処理の前に、水分の含有量(含水率)を調整しても良い。具体的には、減圧乾燥により含水率を低減させたり、加湿雰囲気下に置くことで含水率を増加させる方法が例示できる。このように電解質膜の含水率を調整することで、シラン処理の度合いを調整できる。
【0128】
さらに、電解質膜が、ケイ素−酸素架橋構造体(A)と酸基含有架橋構造体(B)とが多孔質基材中で連結されたものである場合、電解質膜の表面に、ケイ素−酸素架橋構造体(A)及び/又は酸基含有架橋構造体(B)のみからなり、構造が強化されていない表面層が形成されることがある。この場合、シラン処理によるケイ素−酸素架橋構造体の形成が不十分となることがある。そこで、このような電解質膜を使用する場合には、シラン化合物(Z)を接触させさせながら、該電解質膜を加熱する工程の前に、該電解質膜の表面層を除去する工程を追加することが好ましい。
前記表面層の除去方法としては、研磨及び/又はガスによるブロー、粘着テープ等による剥離等が例示できる。
【0129】
<シラン処理された電解質膜>
本発明のシラン処理された電解質膜は、上記本発明の製造方法で製造されたことを特徴とする。かかる電解質膜は、ケイ素−酸素結合によって架橋が強固に形成されているので、膜中に酸基を高濃度に有しているにも関わらず、高温での軟化や、水やメタノール等により、溶解、膨潤し難い。さらに、シラン化合物による処理で架橋がより強固に形成されているので、高温で使用した場合や、メタノール水溶液を燃料として使用した場合でも、極めて高い燃料バリア性と高いプロトン伝導性を、長期にわたって安定的に発現できる。
【実施例】
【0130】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
<電解質膜の作製>
(シラン化合物を導入する電解質膜の作製)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チッソ社製、サイラエースS−810)21.2g、テトラエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE−04)52.5g及びメタノール10.7gをフラスコに計量し、常温で5分間撹拌した。そこに、0.1N塩酸6.2gとメタノール8.2gとを混合した溶液を添加し、更に常温で3時間撹拌した。次いで、フッ化カリウム0.057gとメタノール9.7gとを混合した溶液を添加し、オイルバスで80℃に加熱しながら3時間撹拌した。得られた混合溶液を5℃に冷却し、その後、35℃で減圧してメタノールを分留した。得られた溶液にジエチルエーテル120mlを添加して、常温で10分間撹拌した後、5℃に冷却し、濾紙(ADVANTEC社製、定量濾紙No.5C)を用いて濾過した。得られた濾液から、35℃で減圧してジエチルエーテルを分留し、メルカプト基含有シランオリゴマーを47.0g得た。
【0131】
得られたメルカプト基含有シランオリゴマー4.37gとシリコーンオリゴマー(信越化学工業社製、KR−500)0.51gとを混合した液に、水0.16gとトリエチルアミン0.060gとを滴下した。次いで、氷冷下で20分間攪拌した後、フッ素樹脂フィルム上で、この溶液をポリエチレン製多孔質基材(膜厚約40μm、平均孔径0.7μm、1辺15cmの正方形状に切断したもの)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が45μmとなるようにレベリングした。フッ素樹脂フィルムを被せたまま室温で16時間養生した後、フィルムを剥がし、更に室温で8時間養生した。養生後の膜を2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して挟み、この状態でガラス製の容器に水500mlとともに入れ、ギアオーブンを用いて80℃で24時間加熱硬化させた後、100℃から200℃まで1時間に20℃の割合で昇温し、更に200℃で3時間焼成した。得られた膜をガラスシャーレに移し、1N塩酸水溶液及び水に浸漬し、未反応物及び触媒を膜から抽出した。抽出液を除いた後、酢酸125ml及び30質量%過酸化水素水100mlを混合して作製した過酢酸溶液に膜を浸漬し、ホットプレートを用いて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に1時間ずつ、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いた後、室温にて風乾し、半透明の電解質膜を得た。
【0132】
(シラン化合物による電解質膜の処理)
得られた電解質膜を、ガラス製容器(デシケーター)に移し替え、それぞれ別々のガラス製小瓶に入れたテトラエトキシシラン7.0gと水5.0gを、この容器に瓶ごと入れ、隙間をグリースで封止するようにして、蓋をガラス製容器に装着してから、ギアオーブンを用いて80℃ から120 ℃ まで1時間に20℃ の割合で昇温し、更に120℃で3時間加熱した。得られた膜をガラスシャーレに移し、1N塩酸水溶液及び水に浸漬し、未反応物及び不純物を膜から抽出して、本発明の電解質膜を得た。
【0133】
[実施例2]
(シラン化合物を導入する電解質膜の作製)
10.6質量%2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)水溶液72.9gを十分に窒素バブリングした後、これに、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(和光純薬工業社製、VA−044)0.21gを投入し、溶解させた。この水溶液と、50質量%3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート(東京化成工業社製)/メタノール溶液4.2gとを氷冷下で混合し、窒素雰囲気下、60℃で3時間攪拌しながら加熱して、粘調な液体を得た。
得られた粘調液体に、その固形分質量の4倍量の酸型陽イオン交換樹脂を投入し、攪拌しながら、氷冷下で6時間放置した。イオン交換樹脂を濾過により取り除き、酸性を示す粘調液体を63.4g得た。
得られた粘調液体1.73gと50質量%2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)水溶液2.0gとを混合し、氷冷下、攪拌、窒素バブリングしながらテトラメトキシシラン(東京化成工業社製)0.25gを滴下し、続いて50質量%1,4−ジビニルベンゼン(和光純薬工業社製)/テトラヒドロフラン溶液0.3gを滴下した。得られた液に10質量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(和光純薬工業社製、VA−044)水溶液0.5gを滴下し、重合性組成物を得た。
【0134】
得られた重合性組成物3.0gを、フッ素樹脂フィルム上で、ポリエチレン製多孔質基材(膜厚約40μm、平均孔径0.7μm、1辺15cmの正方形状に切断したもの)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が45μmとなるようにレベリングした。これを、フッ素樹脂フィルムで挟んだまま、2枚のガラス板で挟み、ギアオーブンを用いて室温から100℃まで8時間かけて昇温し、さらに100℃で4時間加熱した。得られた膜を80℃の水に1時間ずつ、2回浸漬して洗浄し、半透明の電解質膜を得た。
【0135】
(シラン化合物による電解質膜の処理)
得られた電解質膜を、実施例1と同様の方法で処理し、本発明の電解質膜を得た。
【0136】
[実施例3]
(シラン化合物を導入する電解質膜の作製)
1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)0.4gとテトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)0.6gを2−プロパノール0.75gに溶解させた。また、3−(トリヒドロキシシリル)プロパンスルホン酸33質量%水溶液(Gelest社製)1.8gに、2−プロパノール0.75gを加えた。この両者を氷冷しながら混合し、数分間撹拌して、透明でやや粘調な混合液を得た。
得られた混合液1.86g、アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル(東京化成工業社製)0.16g、トリメトキシビニルシラン(信越化学工業社製、KBM−1003)0.15g、テトラエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE−04)1.75gを混合し、得られた液を氷冷しながら10分間攪拌した後、50質量%2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(和光純薬工業社製)水溶液12.5g、10質量%N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業社製)水溶液1.0g、1,4−ジビニルベンゼン(和光純薬工業社製)0.3gを、これに滴下した。さらに得られた混合溶液を、窒素バブリングしながら30分間撹拌した。これに、20質量%2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(和光純薬工業社製、VA−044)水溶液1.0gを添加し、重合性組成物を得た。
【0137】
得られた重合性組成物3.0gを、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン製多孔質基材(平均孔径0.7μm、厚さ40μm、1辺15cmの正方形状に切断したもの)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が45μmになるようにレベリングした。これを、フッ素樹脂フィルムで挟んだまま、2枚のガラス板で挟み、ギアオーブンを用いて室温から100℃まで8時間かけて昇温し、さらに120℃で8時間加熱した。得られた膜を80℃の水に1時間ずつ、2回浸漬して洗浄し、半透明の電解質膜を得た。
【0138】
(シラン化合物による電解質膜の処理)
得られた電解質膜を、実施例1と同様の方法で処理し、本発明の電解質膜を得た。
【0139】
[比較例1]
シラン化合物による処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0140】
[比較例2]
シラン化合物による処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして電解質膜を得た。
【0141】
[比較例3]
シラン化合物による処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして電解質膜を得た。
【0142】
[比較例4]
市販品のナフィオン117(登録商標)(デュポン社製)を電解質膜とした。
【0143】
<電解質膜の評価>
シラン化合物で処理した実施例1〜3の電解質膜、シラン化合物で処理していない比較例1〜4の電解質膜を、以下に示す方法で評価した。
【0144】
(評価方法)
(1)プロトン伝導性評価
上記実施例及び比較例の電解質膜を、通常の電気化学セル(例えば、特開2002−184427号公報中、図3に記載されたものと同一のもの)にセットし、電解質膜と白金板とを密着させた。この白金板に、電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、1260型)を接続し、周波数0.1Hz〜100kHzの領域でインピーダンスを測定し、電解質膜のプロトン伝導度を測定して、プロトン伝導性を評価した。
なお、上記測定は、サンプルの電解質膜を電気化学セルごと恒温恒湿槽に入れ、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で行った。
(2)メタノール透過性評価
直径2cmの円形の窓を有する2つの円柱形セルを使用し、窓の部分でゴムパッキンを介して、上記実施例及び比較例の電解質膜を挟み込んだ。一方のセルには30質量%メタノール水溶液を、他方のセルには純水を入れ、セルごと40℃の恒温槽に設置し、3時間、スターラーで攪拌した。その後、純水側に透過したメタノール量をガスクロマトグラフィーにより測定し、電解質膜としてナフィオン117(登録商標)を使用した比較例4の場合の透過量を1.0とし、透過量の比(MCO比)を算出して評価した。
(3)耐久性評価
上記実施例及び比較例の電解質膜を常温の状態から、容器中で80℃の熱水に浸漬し、蓋をして1時間静置した。その後、電解質膜を取り出し、常温の水に浸漬した後、自然乾燥させた。これを耐久性試験として、試験後の電解質膜のプロトン伝導性、メタノール透過性を、前記(1)及び(2)の方法で評価した。
【0145】
(評価結果)
上記(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。また、これらの結果から、耐久性試験前の電解質膜のプロトン伝導度とMCO比との関係を図1に、耐久性試験後の同様の関係を図2にそれぞれ示す。なお、図1及び2のグラフ中、縦軸は対数目盛りである。
【0146】
シラン化合物で電解質膜を処理した実施例1〜3では、耐久性試験前後のいずれにおいても、プロトン伝導性が良好で、MCO比が小さく、耐久性試験前後で変動がほとんど見られなかった。特に、実施例2では、市販品を使用した比較例4に対して同等以上の高いプロトン伝導性を示した。
これに対し、比較例1では、耐久性試験後に明らかにプロトン伝導性が低下し、MCO比が増加していた。これは、耐久性試験により、電解質構造及び/又は電解質と多孔質基材との界面が劣化したためと推測される。
また、比較例2では、耐久性試験前後における、プロトン伝導性とMCO比の変動が小さかったが、いずれにおいてもMCO比が大きかった。
また、比較例3では、耐久性試験後において、プロトン伝導性の低下が実施例1〜3の場合よりも大きく、明らかにMCO比が増加していた。
【0147】
このように本発明の方法で作製した実施例1〜3の電解質膜は、比較例1〜4の電解質膜よりも低いMCO比を発現すると共に、プロトン伝導性も比較的高い値を示しており、高プロトン伝導性と低MCO比を両立するものであった。特に、比較例4に対して同等以上のプロトン伝導性を示した実施例2では、MCO比が比較例4に対して約1/10に低減されており、高プロトン伝導性と低MCO比の両立の点で最も優れていた。さらに、実施例1〜3の電解質膜は、耐久性試験前後におけるプロトン伝導性及びMCO比の変動が小さく、長期に渡って安定した性能を発現できることが確認された。
【0148】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、固体高分子形燃料電池に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ素−酸素架橋構造体(A)と、下記一般式(2)で表される、酸基を有しかつケイ素−酸素結合による架橋構造を有するか又は該架橋構造を形成し得る酸基含有架橋構造体(B)とが、ケイ素−酸素結合によって連結された電解質膜に、シラン化合物(Z)を接触させながら、該電解質膜を加熱する工程を有することを特徴とするシラン処理された電解質膜の製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又は水酸基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【化2】

(式中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基であり;Yはプロトン供与性基であり;Rは二価の有機基であり;Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり;mは0、1又は2であり;mが0又は1である場合には、複数のXは互いに同一でも異なっていても良く;mが2である場合には、二つのRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項2】
前記電解質膜に、シラン化合物(Z)のガスを接触させることを特徴とする請求項1に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記シラン化合物(Z)が下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【化3】

(式中、R14はメチル基又はエチル基であり;R15はメトキシ基、エトキシ基、水酸基又は水素原子であり;pは0又は1であり;複数のR15は互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項4】
前記Rが、n−プロピレン基に対して同等以上の鎖長を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸基含有架橋構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とが共有結合した構造を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記シラン化合物(Z)のガスと水蒸気とを同時に接触させさせながら、前記電解質膜を加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記電解質膜が、前記ケイ素−酸素架橋構造体(A)と、前記酸基含有架橋構造体(B)とが、多孔質基材中で連結されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項8】
シラン化合物(Z)を接触させさせながら前記電解質膜を加熱する工程の前に、さらに、前記電解質膜の表面層を除去する工程を有することを特徴とする請求項7に記載のシラン処理された電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするシラン処理された電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195987(P2010−195987A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44695(P2009−44695)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】