説明

シリアルサーマルヘッドの駆動方法及び製版装置

【課題】安価なシリアルサーマルヘッド(TPH)を利用して良好な製版を行える駆動方法を提供する。
【解決手段】 TPH1の副走査方向に並ぶ4個の発熱素子2を2個ずつ2組に分け、TPHと版3を副走査方向に相対移動させるとともに、TPHの発熱素子の各組を用いて2回の主走査を版の同一の製版領域に対して行ない、製版画像を完成する。このとき、同一の製版領域について、n−1回目の主走査で孔が形成される位置の間に、n回目の主走査により孔を形成する際に、n回目に形成する孔が、すでに形成された孔と隣接する個数が多いほど、発熱素子に与えるエネルギーを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副走査方向に複数個の発熱素子が並ぶシリアルサーマルヘッドの駆動方法と、シリアルサーマルヘッドを有する製版装置に係り、特に、シリアルサーマルヘッドを主走査方向に走査した後に副走査方向に版を相対移動して次回の主走査方向の走査を行なう製版動作において、次回のシリアルサーマルヘッドによる製版領域が、前回の製版動作における製版領域の少なくとも一部と、副走査方向について重なるようにするとともに、重なる当該製版領域の主走査方向について異なる位置を、前回の製版動作で駆動された発熱素子と、次回の製版動作で駆動された発熱素子がそれぞれ製版することにより、当該製版領域の製版を完了させる製版方法(インターレス製版)を行なう場合において、先に形成された孔に隣接して後に孔を形成する際に、先に形成された孔の影響を受けることなく良好な孔を形成できるようにした方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シルク印刷に使用するスクリーン版を製版するために、搬送手段によってシート状の版(例えば孔版印刷用のマスター等)を搬送すると同時に、この版に接して配置したサーマルプリントヘッド(TPH)を搬送にタイミングを合わせて駆動することにより、当該版に所望の画像を感熱穿孔する製版装置が知られており、広く使用されている。このような製版装置によって製版された版を枠体に張設すればスクリーン版としてシルク印刷に使用することができ、また前記マスターであれば孔版印刷装置に印刷版として装着して使用することができる。
【0003】
TPHとしては、その発熱素子の配列態様によって、ラインサーマルヘッドやシリアルサーマルヘッドと呼ばれる種類のヘッドが知られている。
ラインサーマルヘッドは、主走査方向(版の搬送方向と直交する版の幅方向)に沿って複数個の発熱素子を並べたものであり、従って製版しようとする版の幅方向の寸法に対応する長さ及び発熱素子の数が必要であり、高価であるが、製版にあたっては版を副走査方向(版の搬送方向)に移動しながら各発熱素子を駆動するだけで良好な製版画像が得られる。
【0004】
シリアルサーマルヘッドは、副走査方向に複数個の発熱素子を並べたものであり、製版にあたっては主走査方向にヘッドを移動させながら発熱素子を駆動して版の全幅について製版を行い、次に版を副走査方向に所定寸法送ってから再び主走査方向にヘッドを移動させながら製版を行なう。下記特許文献1には、このようなシリアルサーマルヘッドを用いた熱転写プリンタに関する発明が開示されている。
【0005】
前述したように、ラインサーマルヘッドは版の全幅に対応する主走査方向の長さが必要であるため、特に幅の大きい版を製版するために採用すると、発熱素子数が多く高価となってしまい、製版装置の製造コストが上昇してしまう。
【0006】
そこで、部品コストの面においては、版のサイズに関係なく使用できるシリアルサーマルヘッドを採用するのが好ましい。ところが、前述したようにシリアルサーマルヘッドは、版の全幅について製版を行った後、次に版を副走査方向に送ってから再び主走査方向の走査を行なうため、製版の効率を考えると、版を副走査方向に送る場合には、シリアルサーマルヘッドにおいて副走査方向に並べられた発熱素子の数に対応する長さだけ版を搬送するのが好ましい。
【0007】
しかしながら、シリアルサーマルヘッドをこのような態様で使用していた従来の製版方法乃至製版装置によれば、版の表面において、副走査方向におけるシリアルサーマルヘッドの継ぎ目に当たる部分に、主走査方向に平行な白いすじが入ってしまうという問題点があった。
【0008】
下記特許文献2は、インクジェット記録装置の制御方法に係るものであるが、前述したシリアルサーマルヘッドのように、複数個の吐出ノズルを副走査方向に並べたシリアルタイプのインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置に関するものである。このインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドを主走査方向に移動させながら各吐出ノズルからインク滴を吐出して用紙の全幅について印刷を行い、次に用紙を副走査方向に所定寸法送ってから再び主走査方向にヘッドを移動させて印刷を行う。このようなインクジェット記録装置においても、前述したシリアルサーマルヘッドの場合と同様に、用紙の表面において、副走査方向におけるインクジェットヘッドの継ぎ目に当たる部分に、主走査方向に平行な白いすじが入ってしまうという問題点があった。
【0009】
そこで、該文献2に記載された発明では、このような問題を解決するために、シリアルタイプのインクジェットヘッドの吐出ノズルを複数組に分け、インクジェットヘッドによる画像形成領域が副走査方向について継目で重なるようにし、この画像形成領域が重なる部分においては、主走査方向について異なる位置に異なる組の吐出ノズルからのインク滴が各走査においてそれぞれ着弾し、用紙上の画像を完成する方法(インターレス方式)を提案している。
【特許文献1】特開平09−18662号公報
【特許文献2】特開平06−143618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ラインサーマルヘッドに比べて安価なシリアルサーマルヘッドを採用し、かつ主走査方向に平行な白いすじが版の表面に入ってしまうという問題点を解決するため、本願発明者は、前記特許文献2に記載されたシリアルタイプのインクジェットヘッドにおけるインターレス方式を製版に応用することについて検討した。しかしながら、検討の結果、インクジェットヘッドにおけるインターレス方式を、発熱素子で感熱フィルムを溶融して孔を形成するサーマルヘッドによる製版の分野にそのまま適用すると、製版が不良になり、満足な印刷画像が得られないことがある。すなわち、インクジェットヘッドにおけるインターレス方式は、サーマルヘッドによる製版の分野にそのままでは適用することができない。
【0011】
前述したインターレス方式により、感熱性フィルム等の版にサーマルヘッドで孔を形成して製版を行う場合には、版の同一領域において主走査方向に異なる位置に対して複数回の製版動作を行うため、前工程で形成した孔の隣に、次工程で孔を形成するという状況が生じる。本願発明者の知見によれば、このような状況では、前工程で形成した孔の周囲に、樹脂が溶けてリング状に集まって盛り上がり、土手のようになった部分が出来ているため、その隣に新たな孔を正常な大きさ、形状で形成することは困難であると考えられる。これは、隣接部分に溶融樹脂の土手(盛り上がり)があるため、発熱素子の通常の発熱では土手の部分に正常な孔を形成できないためであると考えられる。
【0012】
また、この溶融樹脂の土手がサーマルヘッドが移動する際の障害となって穿孔位置がずれ、正規の位置よりも溶融樹脂の土手により近い位置を穿孔することになる可能性があり、正規の発熱量では必要な孔が形成できないことも考えられる。さらに、この溶融樹脂の土手のために、サーマルヘッドが版の厚みの変化に影響を受けて版の表面に接触しにくくなり、正規の発熱量では必要な孔が形成できないことも考えられる。
【0013】
本発明は、本願発明者が新たに認識した前記課題を解決するものであり、安価なシリアルサーマルヘッドを利用し、かつ主走査方向に平行な白いすじが版の表面に生じることなく、正常な穿孔によって良好な製版を行うことができるシリアルサーマルヘッドの駆動方法及び製版装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載されたシリアルサーマルヘッドの駆動方法は、
副走査方向に並ぶ複数個の発熱素子を備えたシリアルサーマルヘッドを、版に対して主走査方向に相対的に移動させるとともに、前記版に対して前記副走査方向に相対的に移動させながら、前記発熱素子を駆動することにより前記版に孔を形成して製版画像を形成するシリアルサーマルヘッドの駆動方法において、
副走査方向の所定位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn回目の製版領域と、前記所定位置から副走査方向に移動した次位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn+1回目の製版領域とが、n回目の製版とn+1回目の製版とによって互いに入れ子状に製版される共通の製版領域をもって重なっており、
共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際に、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させることを特徴としている。
【0015】
請求項2に記載されたシリアルサーマルヘッドの駆動方法は、請求項1に記載のシリアルサーマルヘッドの駆動方法において、
前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子を複数の組に分割し、前記シリアルサーマルヘッドと前記版を副走査方向について相対的に移動させるとともに、前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子の各組を用いて複数回の主走査を共通の製版領域に対して行なうことにより、共有の製版領域において各主走査によって主走査方向の異なる位置に孔を形成して製版画像を完成することを特徴としている。
【0016】
請求項3に記載された製版装置は、
副走査方向に並ぶ複数個の発熱素子を備えたシリアルサーマルヘッドを、版に対して主走査方向に相対的に移動させるとともに、前記版に対して前記副走査方向に相対的に移動させながら、前記発熱素子を駆動することにより前記版に孔を形成して製版画像を形成する製版装置において、
副走査方向の所定位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn回目の製版領域と、前記所定位置から副走査方向に移動した次位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn+1回目の製版領域とが、n回目の製版とn+1回目の製版とによって互いに入れ子状に製版される共通の製版領域をもって重なるように前記シリアルサーマルヘッドを制御するとともに、
共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際に、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させるように前記シリアルサーマルヘッドを制御する制御手段を備えたことを特徴としている。
【0017】
請求項4に記載された製版装置は、請求項3に記載の製版装置において、
前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子を複数の組に分割し、前記シリアルサーマルヘッドと前記版を副走査方向について相対的に移動させるとともに、前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子の各組を用いて複数回の主走査を共通の製版領域に対して行なうことにより、共通の製版領域において各主走査によって主走査方向の異なる位置に孔を形成して製版画像を完成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本願発明に係るシリアルサーマルヘッドの駆動方法及びシリアルサーマルヘッドを用いた製版装置によれば、副走査方向に複数個の発熱素子が並んだシリアルサーマルヘッドを用い、副走査方向の所定位置でシリアルサーマルヘッドを主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn回目の製版領域と、シリアルサーマルヘッドを前記所定位置から副走査方向に移動した後に主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn+1回目の製版領域とが、一部において共通の製版領域として重なっており、この共通の製版領域では、前後2回の各製版動作によって製版される各製版領域は互いに入れ子状に穿孔されるインターレス方式の製版において、製版画像を構成するドットライン情報の履歴を管理することにより、上側及び左右側の3方向の隣部について、先の工程で形成された孔が存在するか否かを検討し、隣接する孔の個数が多いほど、今回の穿孔において発熱素子に与えるエネルギーを増加させるように制御している。このため、以前に形成された孔の周囲に溶融樹脂の土手が盛り上がり、今回孔を形成しようとする位置にまで達していても、その盛り上がった溶融樹脂の量に応じて増大するよう制御されたエネルギーによって発熱素子を駆動するので、土手によって版の厚さが大きくなっていても良好な形状寸法の孔を形成することができ、製版の品位を低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するために特許出願人が出願時点で最良と思う本発明の実施の形態を図1〜図5を参照して説明する。
図1乃至図3は第1実施形態を示す図であり、図1はシリアルサーマルヘッドを用いたインターレス方式の製版においてn−1パス目とnパス目の製版状態を示す模式的平面図、図2はシリアルサーマルヘッドを用いたインターレス方式の製版においてnパス目とn+1パス目の製版状態を示す模式的平面図、図3は図2においてnパス目とn+1パス目の重なり部分における製版状態を拡大して示す図である。
図4及び図5は、それぞれ第2及び第3実施形態を示す図であり、いずれもシリアルサーマルヘッドを用いたインターレス方式の製版における製版状態を示す模式的平面図である。
実施形態を示すこれら図1〜図5では、インターレス方式の製版における重なり部分の穿孔が入れ子状に行なわれることを明示するために、べた状の画像を得るために版の全面に穿孔を形成する場合のように、各回の製版領域の全面に発熱素子に対応した丸記号を示すこととしたが、もちろん実際には形成する画像に応じて穿孔が形成されない領域が存在する場合がありうることはもちろんである。
【0020】
なお、本発明の各実施形態におけるインターレス方式の製版とは、副走査方向に並ぶ複数個の発熱素子を備えたシリアルサーマルヘッドを、版に対して主走査方向に相対的に移動させるとともに、版に対して副走査方向に相対的に移動させながら、発熱素子を駆動して版に孔を形成し、製版画像を形成する手法において、特に各回の主走査方向の製版動作が副走査方向において次に説明するような重なりを見せるものをいう。即ち、副走査方向の所定位置でシリアルサーマルヘッドを主走査方向に相対的に移動させて製版を行なうn回目の製版領域と、前記所定位置から副走査方向に移動した次位置においてシリアルサーマルヘッドを主走査方向に相対的に移動させて製版を行なうn+1回目の製版領域とが、n回目の製版とn+1回目の製版とによって互いに入れ子状に製版される共通の製版領域をもって重なるような製版方法を意味する。但し、このような製版方法においても、シリアルサーマルヘッドの発熱素子のすべてが、入れ子状に製版される共通の製版領域の製版に毎回関与することにより、得られた製版済みの版の全領域が入れ子状に製版された共通の製版領域となるような製版方法である必要はなく、シリアルサーマルヘッドの両端部にある一部の発熱素子だけが連続する2回の製版動作において共通の製版領域の製版に毎回関与するために、得られた製版済みの版の中に、単一の製版動作によって製版された領域と、2回の製版動作によって入れ子状に製版された共通の製版領域とが、副走査方向について交互にあらわれるような製版方法であってもよい。
【0021】
次に説明する第1実施形態は、シリアルサーマルヘッドを用い、主走査方向の製版が副走査方向について重なりを有するインターレス方式を製版手法として用いた製版装置の駆動制御に関するものであり、特にシリアルサーマルヘッドの発熱素子のすべてが、入れ子状に製版される共通の製版領域の製版に毎回関与することにより、得られた製版済みの版の全領域が入れ子状に製版された共通の製版領域となるような製版方法である。
図1乃至図2に示すように、本例の製版装置は、副走査方向(版の移動方向)に並ぶ複数個(一例として本例では4個)の発熱素子2(図中白抜きの丸で示す)を備えたシリアルサーマルヘッド1(単にサーマルプリントヘッド、TPHとも呼ぶ)を備えている。このTPH1は、図示しない駆動機構により、主走査方向(版の幅方向)に所定の速度で往復移動可能とされており、図示しない制御手段によって各発熱素子2を所望のエネルギーにより所望のタイミングで駆動することができる。
【0022】
図1及び図2に示す本例の版3は、シルク印刷に使用するスクリーン版を製版するためのシート状の版(例えば孔版印刷用のマスター等)であり、TPH1の発熱素子2の発熱によって溶融し、図中に模式的に示すように、円形の孔が形成されるものである。
【0023】
次に、本例の制御手段の機能(製版の手順)について説明する。
本例の制御手段は、TPH1と版3の搬送手段を統括的に制御するように構成されており、TPH1が主走査方向に1パス移動して製版を行なうたびに、版3は副走査方向に所定送り量だけ送られる。駆動手法としてインターレス方式を採用する本例では、その送り量は副走査方向に発熱素子2が4個並んだTPH1に対し、発熱素子2が2個分の長さである。すなわち、各パスごとに、版3は発熱素子2の2個分の重複領域が生じるように副走査方向に送られる。
【0024】
図1及び図2を参照して本例における製版の手順を説明するが、説明の便宜上、孔を形成する部分と形成しない部分によって特定パターンの製版画像を形成する通常の製版状態ではなく、べた状の画像のように版3の全製版領域の全ドット位置に孔を形成する場合を例とする。
【0025】
図1において実線で示した矩形の下半部分に囲われた実線の丸は、n−1パス目の製版が完了した時点で実際に開けられた孔である。そのうち孔が主走査方向に連続している孔(図では主走査方向の1列のみを示す)は前ライン(n−2パス目)において製版が完了した部分であり、n−1パス目の製版が完了した時点で実際に開けられた孔のうち、副走査方向について後方の2つ分の孔は、インターレス方式により主走査方向について一つ置きに形成されている。
【0026】
図1において破線で示した矩形に囲われた破線の丸は、nパス目の製版で形成される孔による画像イメージを示す。TPH1の4つの発熱素子2に対応して副走査方向に連続して形成される4個の孔は、n−1パス目で形成される孔と孔の間の位置に相当する主走査方向の位置に形成される。すなわち、n−1パス目で形成された孔と孔の隙間を、nパス目で形成される孔が埋める形になる。
【0027】
図2において実線で示した矩形に囲われた実線の丸は、nパス目の製版が完了した時点で実際に開けられた孔である。そのうち孔が主走査方向に連続している孔(図では主走査方向の2列が示されている)は前ライン(n−1パス目)において製版が完了した部分であり、nパス目の製版が完了した時点で実際に開けられた孔のうち、副走査方向について後方の2つ分の孔は、インターレス方式により主走査方向について一つ置きに形成されている。
【0028】
図2において破線で示した矩形に囲われた破線の丸は、n+1パス目の製版で形成される孔による画像イメージを示す。TPH1の4つの発熱素子2に対応して副走査方向に連続して形成される4個の孔は、nパス目で形成された孔と孔の間の位置に相当する主走査方向の位置に形成される。すなわち、nパス目で形成された孔と孔の隙間を、n+1パス目で形成される孔が埋める形になる。
【0029】
このようにして、本例ではTPH1の1回の移動(1パス)で移動対象エリアの全領域に一度に孔開けを行なうのではなく、主走査方向に沿って、副走査方向の数ライン置き(本例では1ライン置き)に製版を行なう。そして、副走査方向については、TPH1の製版エリアが重なるように、1ヘッドの例えば半分(本例では2ドット)のドット数の発熱素子2だけをずらし、前回製版されていない領域を埋めていくように製版する。
【0030】
そして、本例では、上述したようなインターレス製版の手法において、同一の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際に、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために発熱素子2に与えるエネルギーを増加させるように制御する。
【0031】
図1及び図2では、インターレス製版を説明するために、版の全領域に孔を形成する例を示したが、もちろん、実際の製版ではべた状の画像である場合を除き、孔と孔が多種多様な形で連続したり、また孔を形成しない領域が存在したりと、製版パターン(すなわち形成される孔の分布)は多様である。
【0032】
ここで、前のパスで形成した孔の周囲には、樹脂が溶けてリング状に集まって盛り上がり、土手のようになった部分が出来ているため、後のパスで隣に新たな孔を形成する場合には、形成場所の近傍に存在する溶融樹脂の量に応じて発熱素子2に与えるエネルギー(電流)を調整する。
【0033】
図3に示すように、次パスで孔を形成しようとする2つの位置のうち、上方の位置Aは、上及び左右の3方をすでに形成された孔5で囲まれており、孔形成による溶融樹脂が3方向に存在するため、基準値よりもエネルギーを増大させなければ規定寸法の孔が形成できず、また溶融樹脂の盛り上がりによりTPH1の接触が悪くなる可能性や、TPH1の位置ずれ等の可能性がある。
【0034】
図3に示すように、次パスで孔を形成しようとする2つの位置のうち、下方の位置Bは、左右の2方をすでに形成された孔5で囲まれており、孔形成による溶融樹脂が2方向に存在するため、位置Aほどの増大は必要ないが、基準値よりはエネルギーを増大させなければ規定寸法の孔が形成できず、また溶融樹脂の盛り上がりによりTPH1の接触が悪くなる可能性や、TPH1の位置ずれ等の可能性がある。
【0035】
本願発明者の知見によれば、例えばTPH1の発熱素子2は例えば350℃、版3を構成するフィルムの融点は例えば250℃程度であり、発熱素子2の熱によってフィルムに形成された孔は、フィルム自身の収縮力によって開口していく。ところが、発熱素子2に通電しないで孔を形成せずにフィルム上を通過するだけでもTPH1の熱によってフィルムは材質が変化しており、縮みにくくなって孔が形成されにくくなっている。その変質の程度は、TPH1の熱の影響、すなわち孔を形成しようとする位置の周囲にどれだけの孔がすでに形成されているかによると考えられる。
【0036】
このような知見に基づき、本例では、後パスで形成しようとする孔が、前パスで形成された孔と隣接する個数が多いほど、発熱素子2に与えるエネルギーを増加させるように制御手段が制御を行なうものとする。
【0037】
この隣接する孔の数の判断は、制御手段のメモリーに記憶された製版情報又はドット(ライン)情報履歴を参照し、製版しようとする位置(注目ドット)について、上側、左右側の3位置の孔の有無を見て行なう。孔の有無は、0〜3の4状態のいずれかに判断される。
【0038】
初めて孔を形成する1パス目の製版の場合、又は隣接位置に孔がない場合のエネルギーをE0、隣接位置に孔が1箇所の場合のエネルギーをE1、隣接位置に孔が2箇所の場合のエネルギーをE2、隣接位置に孔が3箇所の場合のエネルギーをE3とすると、E0<E1<E2<E3となる。実際にE0を基準としてE1以降の各エネルギーをどの程度にするかは、版やTPHの種類等を選択しながら実験的に決定することができる。
【0039】
このように、本例によれば、インターレス方式の製版動作において製版画像を構成するドットライン情報の履歴を管理することにより、前パスの隙間を埋めていく後パスの製版動作時に、前ライン及び左右に製版済みの孔があるか否かで製版エネルギーのパワーを調整し、隣接する孔の個数が多いほど、発熱素子2に与えるエネルギーを増加させるように制御している。
【0040】
このため、以前に形成された孔の周囲に溶融樹脂の土手が盛り上がっていても、その盛り上がった溶融樹脂の量(何箇所の孔とい隣接しているか)に応じて増大するよう制御されたエネルギーで発熱素子2を駆動するので、土手によって版の厚さが大きくなっていても良好な形状寸法の孔を形成することができ、製版の品位を低下させることがない。また、溶融樹脂の盛り上がりを付加エネルギーを加えた大きな熱によって再度溶融させて除去することができるので、TPH1の接触が悪くなる可能性や、TPH1の位置ずれ等の可能性を排除することもできる。
従って、コストの安価なシリアルサーマルヘッドを主走査方向の横筋を目立たせることなく製版に用いて良好な製版を実現し、高品質の画像形成を行なうことができる。
【0041】
なお、以上説明した実施形態では、TPH1の発熱素子2は副走査方向に4個並んでおり、インターレス方式の製版動作では版を副走査方向について発熱素子2の2個相当分搬送して重なり領域を作っていたが、シリアルTPH1の発熱素子2の個数は任意であり、インターレス方式における製版の重なり領域の寸法も任意である。例えば、TPH1が5個の発熱素子2を有していれば、これらを2個の組と3個の組にわけ、互いの隙間を埋めていくように版3を副走査方向に移動するとともに各組の発熱素子2をタイミングを合せて駆動すればよい。
【0042】
次に、図4を参照して第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態と同様にシリアルサーマルヘッドを用い、製版領域が副走査方向について重なりを有するインターレス方式を用いた製版装置の駆動制御に関するものであり、特にシリアルサーマルヘッドの両端部にある一部の発熱素子だけが、連続する2回の製版動作において共通の製版領域の製版に毎回関与するために、得られた製版済みの版の中に、1回の製版動作によって製版された領域と、2回の製版動作によって入れ子状に製版された共通の製版領域とが、副走査方向について交互にあらわれるような製版方法に関するものである。
【0043】
図4に示すように、本例のシリアルサーマルヘッド(図4中に「ヘッド」と示す。)は、副走査方向(図4中縦方向)に沿って並ぶ8個の発熱素子を有しており、1回の副走査方向の相対移動においては6個の発熱素子に相当する長さを移動する。従って、n−1回目と、n回目と、n+1回目の各製版領域は、互いに隣接する製版領域と共通の製版領域をもって重なっており、この共通の製版領域は副走査方向について2個の発熱素子に相当する長さとなっている。従って、得られた製版済みの版の中には、4個の発熱素子による一回の製版動作によって製版された領域と、2回の製版動作によって入れ子状に製版された共通の製版領域とが、副走査方向について交互にあらわれることとなる。
【0044】
そして、共通の製版領域において重なり合う前後2回の製版は、各回の穿孔位置が入れ子状となるように、副走査方向に関する発熱素子2個分の長さについて、主走査方向について発熱素子1個分置きに行なわれている。
【0045】
そして、本例においても、第1実施形態と同様に、共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際には、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させるように制御している。その詳細は第1実施形態と実質的に同様であり、その記載を援用して再度の説明は省略する。
【0046】
本例によれば、第1実施形態と同等の効果が得られる他、副走査方向の相対移動距離が長いので製版をより速く行なうことができる利点がある。
【0047】
次に、図5を参照して第3実施形態を説明する。第3実施形態は、第2実施形態と同様に、シリアルサーマルヘッドの両端部にある一部の発熱素子だけが、連続する2回の製版動作において共通の製版領域の製版に毎回関与するために、得られた製版済みの版の中に、1回の製版動作によって製版された領域と、2回の製版動作によって入れ子状に製版された共通の製版領域とが、副走査方向について交互にあらわれるようなインターレス方式の製版方法に関するものである。
【0048】
図5に示すように、本例のシリアルサーマルヘッド(図5中に「ヘッド」と示す。)は、副走査方向(図5中縦方向)に沿って並ぶ10個の発熱素子を有しており、1回の副走査方向の相対移動においては8個の発熱素子に相当する長さを移動する。従って、n−1回目と、n回目と、n+1回目の各製版領域は、互いに隣接する製版領域と共通の製版領域をもって重なっており、この共通の製版領域は副走査方向について2個の発熱素子に相当する長さとなっている。従って、得られた製版済みの版の中には、6個の発熱素子による1回の製版動作によって製版された領域と、2回の製版動作によって入れ子状に製版された共通の製版領域とが、副走査方向について交互にあらわれることとなる。
【0049】
本例においては、図5に示すように、共通の製版領域において重なり合う前後2回の製版は、各回の穿孔位置が入れ子状となる点では第2実施形態と同様であるが、主走査方向の1行目については発熱素子1個分置きに行なわれ、主走査方向の2行目については発熱素子3個分置きに行なわれる。
【0050】
そして、本例においても、第1実施形態と同様に、共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際には、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させるように制御している。その詳細は第1実施形態と実質的に同様であり、その記載を援用して再度の説明は省略する。
【0051】
本例によれば、第2実施形態と同等の効果が得られる他、副走査方向におけるシリアルサーマルヘッドの継ぎ目(すなわち製版の重なり部分)がより自然であり、主走査方向に平行な白いすじがより一層目立たなくさせる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、シリアルサーマルヘッドを用いた第1実施形態に係るインターレス方式の製版においてn−1パス目とnパス目の製版状態を示す模式的平面図である。
【図2】図2は、シリアルサーマルヘッドを用いた第1実施形態に係るインターレス方式の製版においてnパス目とn+1パス目の製版状態を示す模式的平面図である。
【図3】図3は、図2においてnパス目とn+1パス目の重なり部分における製版状態を拡大して示す図である。
【図4】図4は、シリアルサーマルヘッドを用いた第2実施形態に係るインターレス方式の製版においてn−1パス目とnパス目とn+1パス目の製版状態を示す模式的平面図である。
【図5】図5は、シリアルサーマルヘッドを用いた第3実施形態に係るインターレス方式の製版においてn−1パス目とnパス目とn+1パス目の製版状態を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0053】
1…シリアルサーマルプリントヘッド(TPH)
2…発熱素子
3…版
5…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
副走査方向に並ぶ複数個の発熱素子を備えたシリアルサーマルヘッドを、版に対して主走査方向に相対的に移動させるとともに、前記版に対して前記副走査方向に相対的に移動させながら、前記発熱素子を駆動することにより前記版に孔を形成して製版画像を形成するシリアルサーマルヘッドの駆動方法において、
副走査方向の所定位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn回目の製版領域と、前記所定位置から副走査方向に移動した次位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn+1回目の製版領域とが、n回目の製版とn+1回目の製版とによって互いに入れ子状に製版される共通の製版領域をもって重なっており、
共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際に、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させることを特徴とするシリアルサーマルヘッドの駆動方法。
【請求項2】
前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子を複数の組に分割し、前記シリアルサーマルヘッドと前記版を副走査方向について相対的に移動させるとともに、前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子の各組を用いて複数回の主走査を共通の製版領域に対して行なうことにより、共有の製版領域において各主走査によって主走査方向の異なる位置に孔を形成して製版画像を完成することを特徴とする請求項1に記載のシリアルサーマルヘッドの駆動方法。
【請求項3】
副走査方向に並ぶ複数個の発熱素子を備えたシリアルサーマルヘッドを、版に対して主走査方向に相対的に移動させるとともに、前記版に対して前記副走査方向に相対的に移動させながら、前記発熱素子を駆動することにより前記版に孔を形成して製版画像を形成する製版装置において、
副走査方向の所定位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn回目の製版領域と、前記所定位置から副走査方向に移動した次位置において、前記シリアルサーマルヘッドが主走査方向に相対的に移動して製版を行なうn+1回目の製版領域とが、n回目の製版とn+1回目の製版とによって互いに入れ子状に製版される共通の製版領域をもって重なるように前記シリアルサーマルヘッドを制御するとともに、
共通の製版領域について、n回目の主走査で孔が形成される位置の間となる主走査方向の位置に、n+1回目の主走査により孔を形成する際に、n+1回目の主走査により形成される孔が、n回目以前の主走査により形成された孔と隣接する個数が多いほど、n+1回目の主走査により孔を形成するために前記発熱素子に与えるエネルギーを増加させるように前記シリアルサーマルヘッドを制御する制御手段を備えたことを特徴とする製版装置。
【請求項4】
前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子を複数の組に分割し、前記シリアルサーマルヘッドと前記版を副走査方向について相対的に移動させるとともに、前記シリアルサーマルヘッドの前記発熱素子の各組を用いて複数回の主走査を共通の製版領域に対して行なうことにより、共通の製版領域において各主走査によって主走査方向の異なる位置に孔を形成して製版画像を完成することを特徴とする請求項3に記載の製版装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−184311(P2009−184311A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29206(P2008−29206)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】