説明

シリカ分散液の製造方法

【課題】高濃度で凝集沈降の起こりにくいシリカ分散液を製造する方法を提供する。
【解決手段】シリカ微粒子を分散媒中に分散したシリカ分散液の製造方法において、該シリカ微粒子が平均1次粒径が3〜15nmの気相法シリカであり、水を主体とし平均分子量5万以下のカチオンポリマーを添加した分散媒にシリカ微粒子を添加、混合してシリカスラリーを作製した後、該シリカスラリーを分散機で分散することを特徴とするシリカ分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリカ分散液の製造方法に関する。詳しくは、高濃度で経時安定性の高いシリカ分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ分散液は、シリコンに代表される半導体ウェハーを研磨するときやIC製造工程中で絶縁層などを研磨するときの研磨剤、メガネレンズなどのプラスチック用ハードコート剤、インクジェット用記録材料やOHP用コート剤、さらには、各種フィルムのアンチブロッキング剤、ガラス繊維等の接着助剤、エマルジョンやワックス等の安定剤として使用されている。
【0003】
このようなシリカ分散液としては、四塩化珪素を原料として酸水素炎中で燃焼させて作る気相法シリカ(ヒュームドシリカ)、ケイ酸ソーダを中和して作る沈澱法シリカやゲル法シリカといった、いわゆる湿式シリカ、あるいは、ケイ素のアルコキシドを原料としてアルカリ性もしくは酸性の含水有機溶媒中で加水分解して作るゾル−ゲル法シリカが優れており、かかるシリカを使用したシリカ分散液が注目されている。これらのシリカ分散液は、上記シリカ微粒子を高圧ホモジナイザー、ボールミル等の分散機で分散媒(水や有機溶剤又はそれらの混合物)中に分散されて作られる。
【0004】
しかしながら、これらの分散液は、保管中に凝集沈降が起こるという問題があった。特に、水を主体とする分散媒で15質量%以上のシリカ濃度の分散液で上記問題は顕著になった。更に超微粒子のシリカ、即ち平均1次粒子径が50nm以下の微粒子シリカの場合に上記問題は起こりやすかった。
【0005】
また、高濃度のシリカ分散液は、物流を考慮した場合コスト面で非常に有利である。従って、高濃度のシリカ分散液を安定して製造する方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高濃度で凝集沈降の起こりにくいシリカ分散液を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の発明によって達成された。
シリカ微粒子を分散媒中に分散したシリカ分散液の製造方法において、該シリカ微粒子が平均1次粒径が3〜15nmの気相法シリカであり、水を主体とし平均分子量5万以下のカチオンポリマーを添加した分散媒にシリカ微粒子を添加、混合してシリカスラリーを作製した後、該シリカスラリーを分散機で分散することを特徴とするシリカ分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存経時の安定したシリカ分散液が得られる。特にシリカ濃度が15質量%の高濃度の分散液では、経時で凝集沈降が起こりやすく、このような高濃度の分散液に好適である。また、カチオンポリマーの中でも、特に平均分子量が2000〜5万の水溶性のポリジアリルアミン誘導体の構成単位を有するカチオンポリマーが、極めて安定なシリカ分散液の作製に有用である。更に、本発明は、平均一次粒径が3〜15nmでBET法による比表面積が200m2/g以上の気相法シリカの分散液に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
合成シリカには湿式法によるものと気相法によるものがある。通常シリカ微粒子といえば湿式法シリカを指す場合が多い。湿式法シリカとしては、(1)ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾル、または(2)このシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカ、(3)シリカゾルをゲル化させ、その生成条件を変えることによって数μmから10μm位の1次粒子がシロキサン結合をした三次元的な二次粒子となったシリカゲル、更には(4)シリカゾル、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等を加熱生成させて得られるもののようなケイ酸を主体とする合成ケイ酸化合物等がある。
【0010】
本発明に用いられるシリカ微粒子は気相法シリカである。気相法シリカ(ヒュームドシリカ)は、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル株式会社からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されており入手することができる。
【0011】
本発明のカチオンポリマーを用いた分散液は、特に気相法シリカを用いた場合に有効である。その中でも、特に平均1次粒径が3〜15nmで、かつBET法による比表面積が200m2/g以上、更には250〜500m2/gである気相法シリカの分散液に好適である。
【0012】
本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ、表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0013】
本発明に用いられるカチオンポリマーとしては、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基あるいはホスホニウム塩基を有するポリマー等が用いられる。中でも水溶性ポリマーが好ましく、特に平均分子量が5万以下のポリマーが好ましい。
【0014】
上記カチオンポリマーの中でも、特にポリジアリルアミン誘導体の構成単位を有するカチオンポリマーが好ましく、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される構造を構成単位とするカチオンポリマーである。これらの誘導体はジアリルアミン化合物のラジカル環化重合によって得られ、シャロールDC902P(第一工業製薬)、ジェットフィックス110(里田化工)、ユニセンスCP−101〜103(センカ)、PAS−H(日東紡績社)として市販されている。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、R1及びR2は各々、水素原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、またはヒドロキシエチル基等の置換アルキル基を表し、Yはラジカル重合可能なモノマー(例えば、スルホニル、アクリルアミド及びその誘導体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等)を表す。また、一般式(3)及び(4)において、n/m=9/1〜2/8(質量比)、l=5〜10000である。Xはアニオンを表す。
【0020】
一般式(3)又は(4)で示されるポリジアリルアミンの誘導体の具体的な例としては、特開昭60−83882号公報記載のSO2基を繰り返し単位に含む もの、特開平1−9776号公報に記載されているアクリルアミドとの共重合体等が挙げられる。本発明に用いられるポリジアリルアミン誘導体のカチオンポリマーの平均分子量は、2,000〜5万程度がより好ましい。
【0021】
上記カチオンポリマーの使用量はシリカ微粒子に対して1〜10質量%が好ましい。
【0022】
本発明のシリカ分散液は、高濃度、即ちシリカ濃度が15質量%以上、更には18質量%以上であっても、長期間に渡って分散安定性が保たれる。
【0023】
本発明のシリカ分散液に用いられる分散媒は、水を主体とするものであるが、少量の有機溶剤(低級アルコールや酢酸エチル等の低沸点溶剤)を含んでもよい。その場合、有機溶剤は全分散媒に対して20質量%以下、更には10質量%以下であることが好ましい。
【0024】
次に、本発明のシリカ分散液の製造方法を説明する。通常、シリカ分散液は、水等の分散媒にシリカ微粒子を添加し混合(予備混合)してシリカスラリーを作製し、このシリカスラリーを分散機、例えば高圧ホモジナイザーやボールミルで分散する。高圧ホモジナイザーを用いた分散は、例えば特開平10−310416号公報に記載の方法を用いることができる。また、上記シリカスラリーを高圧ホモジナイザーで処理する回数は、1〜数十回の範囲から選ばれる。
【0025】
カチオンポリマーは、シリカ微粒子を添加する前の分散媒中に添加することが好ましい。これによって、より安定した分散液が得られる。
【0026】
本発明において、予備混合するときの液温は、20℃以下が好ましい。特に15℃以下が好ましい。これによって、高濃度のシリカスラリーが安定して作製できる。この場合、シリカ微粒子を添加する前の分散媒を20℃以下の温度にしておいてもよいし、予備混合中に冷却して20℃以下に下げてもよい。また、シリカスラリーの温度が20℃以下、さらには15℃以下の状態で分散機に注入するのが好ましい。これによって更に安定した分散液が得られる。
【0027】
予備混合は、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌、超音波撹拌等で行うことができる。
【0028】
本発明の分散液の製造方法によって、シリカ濃度が15質量%の高濃度の分散液が安定して製造できる。特に18質量%以上の高濃度に好適である。
【0029】
また、分散液中のシリカ濃度をより高濃度にするために、段階的にシリカ微粒子を添加する方法を採用することができる。
【0030】
本発明のシリカ分散液は、前述したように各種用途に適用できるが、特にインクジェット記録用シートのインク受容層を構成するシリカ微粒子として用いるのに適している。
【実施例】
【0031】
次のようにして、シリカ分散液を作製した。尚、部とは質量部を表す。
【0032】
実施例1
<分散液処方>
水 430部
変性エタノール 22部
ポリジアリルアミン誘導体のカチオンポリマー 3部
(ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー
第一工業製薬(株)製、シャロールDC902P、平均分子量9000)
気相法シリカ 100部
(平均1次粒径7nm、BET法による比表面積300m2/g)
【0033】
分散媒の水と変性エタノールの中にカチオンポリマーを添加し、次いで気相法シリカを添加し予備混合してシリカスラリーを作製した。次にこのシリカスラリーを高圧ホモジナイザーで1回処理して、シリカ濃度が約18質量%のシリカ分散液を作製した。
【0034】
実施例2
実施例1の分散液処方のポリジアリルアミン誘導体のカチオンポリマーに代えて、下記化5(平均分子量1万)のカチオンポリマーを用いる以外は同様にしてシリカ分散液を作製した。
【0035】
【化5】

【0036】
比較例1
上記実施例1の分散液処方からカチオンポリマーを除いた以外は同様にしてシリカ分散液を作製した。
【0037】
上記実施例1、2及び比較例1の分散液を保存経時し、凝集状態及び沈降状態を観察した。その結果、実施例1は2ヶ月でも凝集沈降は起こらず、実施例2は1ヶ月で僅かに凝集沈降があり、比較例1は6日間で凝集沈降を起こしていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ微粒子を分散媒中に分散したシリカ分散液の製造方法において、該シリカ微粒子が平均1次粒径が3〜15nmの気相法シリカであり、水を主体とし平均分子量5万以下のカチオンポリマーを添加した分散媒にシリカ微粒子を添加、混合してシリカスラリーを作製した後、該シリカスラリーを分散機で分散することを特徴とするシリカ分散液の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ分散液のシリカ濃度が18質量%以上である請求項1に記載のシリカ分散液の製造方法。
【請求項3】
前記カチオンポリマーがポリジアリルアミン誘導体の構成単位を有するカチオンポリマーである請求項1または2に記載のシリカ分散液の製造方法。

【公開番号】特開2007−197316(P2007−197316A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34427(P2007−34427)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【分割の表示】特願平11−192669の分割
【原出願日】平成11年7月7日(1999.7.7)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】