説明

シリカ系多孔質膜の製造方法

【課題】スプレーコート法により、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率性等の機能性、耐久性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造する。
【解決手段】アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物を霧状に噴出させることにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、及び、該シリカ系前駆体を加熱してシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含むシリカ系多孔質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜等の光学フィルター等に有用なシリカ系多孔質膜の製造方法に係り、特に、スプレーコート法により、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率といった機能性に優れ、耐久性にも優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造する方法に関する。
本発明はまた、このシリカ系多孔質膜の製造方法に用いられるシリカ系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ系多孔質膜は、シリカマトリックス中に空孔を有することで、その誘電率や屈折率を下げることができ、電気的及び光学的機能を発現できるだけではなく、多孔質構造を機能付加サイトとして利用するなど、様々な機能材料として注目されている。
【0003】
従来、シリカ系多孔質膜の製造方法については種々報告されており、特許文献1には、アルコキシシラン類、水及び有機溶媒等を含むシリカ系組成物を基材上に膜化した後加熱するシリカ系多孔質膜の製造方法が提案されている。この方法では、アルコキシシランのゾル−ゲル反応に有機物を共存させることで、シリカ−有機物ハイブリッドを形成し、その後、有機物を除去することにより空孔を有するシリカ系多孔質膜を得る。
【0004】
この特許文献1には、シリカ系組成物の基材への膜化方法として、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が記載されているが、このうち、スピンコート法やディップコート法は、バッチ式となり生産性に課題があるとともに、基材の大面積化への対応においても容易ではない。
一方、スプレーコート法では、基材の大面積化は勿論のこと、基材形状の多様化に対しても容易に適用することが可能である。
【0005】
スプレーコート法では、基材へ噴霧された液滴が互いに接合することで均質な膜を形成する。
しかしながら、本発明者による検討によれば、ゾル−ゲル反応を伴うシリカ系多孔質膜の前駆体(多孔化処理の前)の形成において、ゾル−ゲル反応と同時に基材へ噴霧された液滴同士の接合を進行させることは難しく、多孔質構造の破壊による性能低下や耐久性低下だけではなく、膜欠陥や膜表面の荒れといった外観上の不具合が生じることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−73722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の問題点を解決し、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率といった機能性、更には耐久性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造する方法を提供することを課題とする。
本発明はまた、このようなシリカ系多孔質膜の製造方法に用いられるシリカ系組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、シリカ系多孔質膜の有機溶媒として、特定の有機溶媒を組み合わせて用いることにより、スプレーコートによるシリカ系前駆体膜の形成において、ゾル−ゲル反応と基材へ噴霧された液滴同士の接合とを同時に進行させることが可能となり、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率性等の機能性、耐久性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造することができることを見出した。
【0009】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、本発明の第一の要旨は、シリカ系多孔質膜の製造方法において、アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物を霧状に噴出させることにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、及び、該シリカ系前駆体を加熱してシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含むことを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法、に存する(請求項1)。
【0010】
本発明において、炭素数1〜3の低級アルコールと沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒とは、炭素数1〜3の低級アルコールに対する沸点125〜180℃で蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒のモル比が、0.1〜50(mol/mol)となるように用いることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、界面活性剤としては、アルキレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子が好ましい(請求項3)。
【0012】
また、アルコキシシラン化合物としては、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物及び/又は下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物を用いることが好ましい(請求項4)。
アルコキシシラン類群I:テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群II:上記テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるその他のアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群III:上記テトラアルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と上記他のアルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物との部分縮合物群
【0013】
また、製膜工程においては、5kPa以上500kPa以下の気体によりシリカ系組成物を霧状に噴出させるノズルを用い、かつ該ノズルと前記透光基材との距離を3cm以上100cm以下としてシリカ系組成物を噴出させることが好ましい(請求項5)。
また、製膜工程の後に粗乾燥工程を行い、該粗乾燥工程後の前記シリカ系前駆体の膜厚が10μm以下であることが好ましい(請求項6)。
【0014】
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法により製造されるシリカ系多孔質膜は、光学フィルター、特に、反射防止膜であることが好ましく(請求項7,8)、とりわけ、太陽電池用反射防止膜であることが好ましい(請求項9)。
【0015】
本発明の第二の要旨は、アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、その他の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物であって、該その他の有機溶媒が、沸点125〜180℃、20℃又は25℃の蒸気圧2.0kPa以下で、分子量が100以上であることを特徴とするシリカ系組成物、に存する(請求項10)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、連続製膜が可能で、生産性に優れ、また、基材の大面積化や基材形状の多様化に容易に対応し得るスプレーコート法により、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率性等の機能性、耐久性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で製造されたシリカ系多孔質膜を用いた太陽電池の構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明で製造されたシリカ系多孔質膜を用いた太陽電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明で製造されたシリカ系多孔質膜を用いた太陽電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明で製造されたシリカ系多孔質膜を用いた太陽電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明で製造されたシリカ系多孔質膜を用いた太陽電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施形態や例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
【0019】
1.シリカ系多孔質膜の製造方法
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法は、アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物を霧状に噴出させることにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、及び、該シリカ系前駆体を加熱してシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明においては、上記シリカ系組成物を用い、さらに、所定の製膜工程、及び加熱工程を経ることから、スプレーコート法により、良好な多孔質構造を有し、膜欠陥や膜表面荒れといった外観上の問題がなく、低屈折率性等の機能性、耐久性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造することができる。
【0021】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0022】
1−1.製膜工程
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法では、後述の所定の組成を有するシリカ系組成物を霧状に噴出させることにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する。該シリカ系組成物を霧状に噴出させることで、基材の大きさ、形状、表面構造に依らず、均質かつ、膜厚の均一性にも優れたシリカ系前駆体を安定して得ることが可能となり、特に光の干渉効果を利用した光学用途に適したシリカ系多孔質膜を提供することが可能となる。
【0023】
一般に、製膜用組成物を霧状に噴出させるスプレーコート法による製膜方法では、霧状に噴出された霧化粒子の形状が反映されることにより、形成される膜の厚さの均一性が損なわれるために、得られる膜の外観に影響を与えることが多いが、特にアルコキシシラン化合物の加水分解物を含む組成物においては、外気に曝されることで縮合反応が促進されるために霧化粒子からシリカ系前駆体へと形成される際に、霧化粒子の形状がそのまま反映されてしまい、膜厚の不均一化を伴う。
【0024】
しかしながら、本発明の製造方法においては、少なくとも2種の所定の有機溶媒を含むシリカ系組成物を用いることで、上記課題を解決することができる。
即ち、本発明で用いるシリカ系組成物に含まれる炭素数1〜3の低級アルコールは、アルコキシシラン化合物の加水分解物と容易に相互作用し、炭素数3以下であることで、シリカ系前駆体の形成時に起こる膜表面近傍での加水分解物の縮合反応を適度に生じさせ、後の加熱工程での構造変化を抑制する一方、このシリカ系組成物に、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒を含むことで、霧状に噴霧され、基材上でシリカ系前駆体を形成する間の乾燥を防ぐ。このように、組成物に含まれるアルコキシシラン化合物の加水分解物と低級アルコールとの相互作用により縮合反応を抑制すると共に、沸点125〜180℃で蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒による乾燥の防止で、安定して均質なシリカ系前駆体を形成することが可能となる。
【0025】
製膜工程においてシリカ系組成物を霧状に噴出させる方法としては、例えば一般的なスプレーコート法と同様とすることができる。
また、スプレーノズルの方式も特に制限はなく、各々のスプレーノズルの利点を考慮して選択すればよい。スプレーノズルの代表的な例としては、二流体スプレーノズル(二流体霧化方式)、超音波スプレーノズル(超音波霧化方式)、回転式スプレーノズル(回転霧化方式)などが挙げられる。
シリカ系組成物の霧化と気体流による霧化粒子の透光基材への搬送とを独立に制御できる点では、超音波スプレーノズル、及び回転式スプレーノズルが好ましく、シリカ系組成物の液性維持の観点では二流体スプレーノズル、回転式スプレーノズルが好ましい。
【0026】
またシリカ系組成物の霧化粒子の搬送に利用する気体流の気体としては特に限定されないが、窒素等の不活性ガスが好ましい。
【0027】
製膜工程を行なう際の霧化圧力は組成物の性状により調整することができるが、均質性に優れたシリカ系前駆体を形成するための安定した形状の霧化粒子とするには、通常5kPa以上、好ましくは8kPa以上、より好ましくは10kPa以上、また、通常500kPa以下、好ましくは400kPa以下、より好ましくは300kPa以下である。この圧力が低すぎると霧化粒子が大きくなりシリカ系前駆体製膜時のレベリング効果が得られず、得られるシリカ系多孔質膜の平滑性が悪くなる可能性があり、高すぎると粒子が小さくなり溶媒が気化しやすくなって膜の表面性が悪くなる可能性がある。
従って、上記好適範囲の霧化圧力でシリカ系組成物を霧状に噴出し得るノズルを用いることが好ましい。
【0028】
また、シリカ系組成物の吐出圧力は、通常0.1kPa以上、好ましくは0.3kPa以上、より好ましくは0.5kPa以上で、通常50kPa以下、好ましくは20kPa以下、より好ましくは10kPa以下である。シリカ系組成物の吐出量は通常0.1ml/分以上、好ましくは0.5ml/分以上、より好ましくは1ml/分以上で、通常1000ml/分以下、好ましくは500ml/分以下、より好ましくは100ml/分以下である。
シリカ系組成物の吐出圧力が低過ぎると霧化粒子が大きくなりシリカ系前駆体製膜時のレベリング効果が得られず、得られるシリカ系多孔質膜の平滑性が悪くなる可能性があり、高すぎると粒子速度が大きくなり、基材に塗着後の膜が流動し、均一な膜ができない可能性がある。
【0029】
また、シリカ系組成物の噴霧に用いるオリフィスの口径は通常0.01mm以上、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上で、通常10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下である。オリフィス径が大き過ぎると吐出量が多く細かな制御ができず、霧化粒子径の分布が大きくなる。オリフィス径が小さ過ぎるとすぐに目詰まりを起こし、一定の吐出量が得られない。
【0030】
また、スプレーノズルと透光基材との距離は透光基材のサイズにより適宜調整することが好ましいが、上記の霧化粒子を基材に定着させるには、通常3cm以上、好ましくは4cm以上、より好ましくは5cm以上である。また通常100cm以下、好ましくは80cm以下、より好ましくは50cm以下である。この範囲を超えると、霧状に噴霧された組成物の形状が安定せず、膜厚の均一性に悪影響を与える可能性がある。
【0031】
また、製膜工程においては、相対湿度が通常15%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、また、通常85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下の環境下においてシリカ系前駆体の製膜を行なうようにすることが好ましい。製膜工程での相対湿度を上記の範囲にすることにより、膜欠陥のないシリカ系多孔質膜が得られる。
【0032】
また、製膜工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、中でも好ましくは50℃以下、特に好ましくは40℃以下である。シリカ系前駆体を製膜する際の温度が低すぎると溶媒が気化しにくくなり、得られるシリカ系多孔質膜の表面平滑性が低下する可能性があり、高すぎるとアルコキシシラン化合物の硬化が急速に進み、膜歪みが大きくなる可能性がある。
【0033】
製膜工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中でシリカ系前駆体の製膜を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中でシリカ系前駆体の製膜を行なってもよい。
【0034】
なお、シリカ系組成物を透光基材上に噴出するに先立って、シリカ系組成物の濡れ性、製膜されるシリカ系前駆体の密着性の観点から、透光基材に表面処理を施しておいてもよい。そのような透光基材の表面処理の例を挙げると、シランカップリング処理、コロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理などが挙げられる。また、表面処理は、1種のみを行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。なお、シランカップリング処理として、後述するシリル化剤を用いることもできる。
【0035】
また、製膜工程は一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。この場合、製膜工程毎に異なる組成のシリカ系組成物を用いてもよく、同一のシリカ系組成物を複数回に分けて製膜してもよい。例えば、後述する粗乾燥工程、又は加熱工程を介して、製膜工程を二回以上行なうようにすれば、積層構造を有するシリカ系多孔質膜を形成することが可能である。これは、例えば屈折率が異なる層を積層したい場合などに有用である。
ここで、シリカ系組成物を霧状に噴出させるためのスプレーノズルの方式や基材の種類によって、霧化粒子が基材上に到着し、その後、均質なシリカ系前駆体を形成するまでの時間が異なることがある。その場合、前記の基材の表面処理でも時間調整することは可能であるが、より効率的に行うために、製膜工程後に粗乾燥工程を行っても良い。
また、シリカ系組成物の粘度に応じて、製膜工程において、薄膜による光の干渉ムラを低減し、良好な外観を得るため、基材の水平を厳密に管理することが好ましく、特に低粘度のシリカ系組成物の場合は基材の水平配置を確保することは重要である。
具体的には、水平器、水準器、レベル計などを使用して、基材を載置した台の水平を確認することで基材の水平を確保することができる。粗乾燥工程を行う場合も基材の水平を厳密に管理することが好ましい。
【0036】
1−2.粗乾燥工程
本発明の製造方法では、上述の製膜工程の後に粗乾燥工程を行っても良い。粗乾燥工程により、製膜工程で形成されたシリカ系前駆体中の低級アルコールや水の一部を積極的に除去することで、効率的に均質なシリカ系前駆体を形成することができると共に、後の加熱工程での温度管理を容易にする。
【0037】
粗乾燥工程における粗乾燥の手法は制限されない。例えば加熱乾燥、減圧乾燥、通風乾燥等が挙げられる。これらは1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
【0038】
粗乾燥の手段も任意である。例えば粗乾燥を加熱乾燥により行なう場合、加熱乾燥の手段の例として、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また通風加熱乾燥の手段としては、例えば送風乾燥オーブン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
粗乾燥時の温度は制限されないが、通常は室温以上であることが好ましい。中でも基材表面が平滑でない場合は加熱乾燥を行うと良い。特に加熱乾燥を行なう場合、その温度は通常25℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは230℃以下、さらに好ましくは200℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
粗乾燥の時間は制限されないが、通常10秒以上、好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下の範囲が望ましい。
また、粗乾燥工程は、製膜工程で噴出されたシリカ系組成物の噴出液が基材上で十分レベリングされた後に行うことが好ましい。
【0040】
粗乾燥時の圧力も制限されないが、特に減圧乾燥を行なう場合、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下である。
【0041】
粗乾燥時の湿度も制限されないが、シリカ系前駆体の吸湿を防ぐため、通常は60%RH程度以下とすることが望ましく、好ましくは常圧で30%RH以下、或いは真空状態(湿度0%RH)とすることが望ましい。
【0042】
粗乾燥時の雰囲気も制限されず、大気雰囲気でも、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でも、真空雰囲気でもよい。これらはシリカ系前駆体の特性等を考慮して選択すればよい。但し、通常はクリーンな雰囲気であることが好ましい。
【0043】
粗乾燥時間も制限されず、シリカ系前駆体中の有機溶媒や水が除去できれば任意であるが、粗乾燥時の温度・圧力・湿度等の条件や、シリカ系組成物中に含まれる有機溶媒の沸点、プロセス速度、シリカ系前駆体の特性等を考慮して決定することが好ましい。粗乾燥時間は通常1秒以上、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0044】
1−3.シリカ系前駆体の膜厚
製膜工程で形成されるシリカ系前駆体の膜厚には特に制限はないが、前述の粗乾燥工程
を行った場合は、粗乾燥工程後の厚さとして、通常5nm以上であり、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましく、100nm以上が最も好ましい。また、通常10μm以下であり、8μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、1.6μm以下が最も好ましい。この範囲を外れると基材との濡れ性の影響を受けやすくなったり、それに伴いシリカ系前駆体のレベリング効果が劣り、シリカ系前駆体の外観が悪化する恐れがある。
なお、シリカ系前駆体の膜厚は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0045】
1−4.加熱工程
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法においては、上記の製膜工程で得られたシリカ系前駆体を加熱することでシリカ系多孔質膜を得ることができる。その加熱条件は用いる透光基材の種類やシリカ系組成物に使用する有機溶媒により調整することができ、特に制限されない。
【0046】
この加熱工程により、基材との密着性、膜表面の平滑性、膜構造の多孔質化とその安定化が進行することで、光学用途に有用な耐久性と光学機能を発現できる。
【0047】
加熱の方式は特に制限されず、例えば加熱炉(ベーク炉)内に、シリカ系前駆体を形成した透光基材を配置してシリカ系前駆体を加熱する炉内ベーク方式、プレート(ホットプレート)上にシリカ系前駆体を形成した透光基材を搭載し、そのプレートを介してシリカ系前駆体を加熱するホットプレート方式、該透光基材の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線等)を照射して、透光基材上のシリカ系前駆体を加熱する方式等が挙げられる。
【0048】
加熱温度に制限は無く、シリカ系前駆体を硬化させ、シリカ系多孔質膜とすることが可能であれば任意であるが、通常70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、また、通常750℃以下、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下である。加熱温度が低すぎるとシリカ系組成物に含まれる界面活性剤が膜中に多く残存し、着色や耐久性低下の原因となる可能性がある。一方、加熱温度が高すぎると透光基材とシリカ系多孔質膜との接合が失われ、同様に耐久性低下の原因となる可能性がある。
【0049】
加熱を行なう際の昇温速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1℃/分以上、好ましくは10℃/分以上、また、通常500℃/分以下、好ましくは300℃/分以下で昇温する。昇温速度が遅すぎるとシリカ系多孔質膜が緻密化し、屈折率が低くなりにくく、昇温速度が速すぎると膜歪みが大きくなって局所的なクラックの原因となる可能性がある。
【0050】
加熱を行なう時間は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。加熱時間が短すぎると不要な界面活性剤を取り除けず、十分な光学性能を発現できなくなる可能性があり、一方、長すぎるとアルコキシシラン化合物の反応が進み、透光基板との密着性が低くなる可能性がある。
【0051】
加熱を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境としてもよく、加熱工程では、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10−4MPa以上、好ましくは10−3MPa以上、より好ましくは10−2MPa以上である。圧力が高過ぎるとアルコキシシラン化合物の反応が急激に進み、膜が不均質になり易く、圧力が低すぎるとアルコキシシラン化合物の反応よりも有機溶媒の気化が進行し、吸湿性の高いシリカ系多孔質膜となりやすく、外部環境に対して安定した光学機能を維持できないくなる可能性がある。
【0052】
加熱を行なう際の雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、乾燥ムラの生じにくい環境が好ましい。特に大気雰囲気下で加熱を行なうことが好ましい。また、不活性ガス処理を行ない、不活性雰囲気下で乾燥を行なうことも可能である。
【0053】
以上のように、加熱処理を行なうことによりシリカ系多孔質膜を得ることができるが、加熱工程の後に、必要に応じて以下の冷却工程や後処理工程等を実施することも可能である。
【0054】
1−5.冷却工程
冷却工程とは、加熱工程で高温となったシリカ系多孔質膜を冷却する工程である。この際、冷却速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1℃/分以上、好ましくは0.5℃/分以上、より好ましくは0.8℃/分以上、更に好ましくは1℃/分以上、また、通常100℃/分以下、好ましくは50℃/分以下、より好ましくは30℃/分以下、更に好ましくは20℃/分以下である。冷却速度が遅すぎると製造コストが高くなる可能性があり、速すぎると局所的なクラックの原因となる可能性がある。
【0055】
また、冷却工程における雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、真空環境、不活性ガス環境であってもよい。冷却工程の温度及び湿度にも制限は無いが、通常は常温・常湿で冷却することが好ましい。
【0056】
1−6.後処理工程
後処理工程で行なう具体的な操作に制限は無いが、例えば、得られたシリカ系多孔質膜をシリル化剤で処理することで、シリカ系多孔質膜の表面をより機能性に優れたものにすることができる。
その具体例を挙げると、シリル化剤で処理することにより、シリカ系多孔質膜に疎水性が付与され、膜表面や膜中の細孔が汚染されるのを防ぐことができる。
【0057】
シリル化剤としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類;トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのクロロシラン類;ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリエチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類;(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類;などが挙げられる。なお、シリル化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0058】
シリル化剤による処理の具体的操作としては、例えば、シリル化剤をシリカ系多孔質膜に塗布したり、シリル化剤中にシリカ系多孔質膜を浸漬したり、シリカ系多孔質膜をシリル化剤の蒸気中に曝したりすることにより、行なうことができる。
【0059】
また、後処理の別の例としては、本発明のシリカ多孔質体を多湿条件下で熟成することで、多孔質構造中に存在する未反応シラノールを減らすことができ、これにより、シリカ系多孔質膜の耐水性をより向上させることも可能である。さらには、シリカ系多孔質膜の上に他の無機酸化物膜を形成することで、機械強度や耐アルカリ性を向上させることも可能である。
【0060】
後処理工程として、得られたシリカ系多孔質膜の表面を水や有機溶媒により洗浄し、表面のチリやほこり(不純物)を取り除くこともできる。表面を洗浄することにより、シリカ系多孔質膜上へ積層する上層との密着性が良好になる可能性がある。洗浄に使用する有機溶媒としては、ケトン類、アルコール類が良い。アルコール類の種類に特に制限はないが、好適なものの例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの1価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリンなどの3価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコールなどが挙げられる。ケトン類の種類に特に制限はないが、好適なものの例を挙げるとアセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0061】
1−7.その他
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法では、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した各工程の工程前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の他の工程を行なってもよい。
【0062】
1−8.シリカ系多孔質膜の膜厚、屈折率及び多孔質構造
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法により製造されるシリカ系多孔質膜の厚さには特に制限はないが、光学機能層として用いるためには、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましく、100nm以上が最も好ましい。また、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.8μm以下が最も好ましい。シリカ系多孔質膜の厚さが薄過ぎると、透光基材の平面度を著しく向上させる必要があり、特に透光基材の大面積化の観点で、製膜工程が困難になる。一方、厚さが厚過ぎると、シリカ系多孔質膜製造時の加熱工程において、シリカ系前駆体−基材界面で多孔質化の進行が不均質になり、得られるシリカ系多孔質膜に歪みが残存し易くなる可能性がある。膜厚は段差計、分光エリプソメーター、反射分光測定で求められる。
【0063】
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法により製造されるシリカ系多孔質膜は、光学機能層として高い光学特性を発現するために、屈折率が好ましくは1.40以下、より好ましくは1.35以下、更に好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下の低屈折率膜である。シリカ系多孔質膜の屈折率が大きすぎると十分な光学効果が得られない可能性がある。一方、シリカ系多孔質膜の屈折率の下限に特に制限は無いが、通常1.05以上、好ましくは1.10以上である。屈折率が小さすぎるとシリカ系多孔質膜の機械的強度が著しく低下する可能性がある。屈折率は分光エリプソメーター、反射分光測定、プリズムカプラーで測定できる。
【0064】
また、本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法により製造されるシリカ系多孔質膜の多孔質構造には特に制限はなく、その空孔は、通常、トンネル状や独立空孔がつながった連結孔であるが、詳細な空孔の構造にも特に制限はない。ただし、当該空孔の構造としては連続的な空孔が好ましく、こうした連続的な空孔は電子顕微鏡により確認することができる。もしくは、水蒸気や窒素を吸着させて、その吸着量から空孔が存在することを確認することができる。
【0065】
この多孔質構造の空孔サイズや空隙率を調整することで、シリカ体の屈折率、誘電率、密度等を調整することができ、それらを調整することで、光学用途の他にも、様々な用途にも応用することができるシリカ系多孔質膜が提供される。
【0066】
シリカ系多孔質膜の空孔サイズには特に制限はないが、平均空孔サイズとして0.1〜300nmであることが、機械強度に優れたシリカ系多孔質膜となることから好ましい。平均空孔サイズは、0.5〜200nmがより好ましく、0.8〜100nmがさらに好ましく、1〜80nmが最も好ましい。平均空孔サイズが小さすぎると毛管力により空孔内に水蒸気が入り、それにより屈折率が変化したり、光学特性に影響を与える恐れがある。一方、大きすぎると、表面に欠陥ができ、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じる危険性がある。
【0067】
空隙率には特に制限はないが、平均空隙率は10〜90%が好ましく、20〜85%がより好ましく、30〜80%がさらに好ましい。平均空隙率が小さすぎると屈折率が低くならず、十分な光学特性が得られない恐れがある。一方、大きすぎると、表面に欠陥ができ、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じる危険性がある。
【0068】
平均空隙率は、窒素吸着測定又は屈折率や誘電率から見積ることができる。
【0069】
2.シリカ系組成物
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法において用いる本発明のシリカ系組成物には、アルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素1〜3の低級アルコールと、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と、水とが含まれる。
以下にその詳細を述べる。
【0070】
2−1.アルコキシシラン化合物
本発明で用いるアルコキシシラン化合物、即ち、アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物は特に制限はないが、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物及び/又は下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、を含むことが好ましい。
【0071】
アルコキシシラン類群I:テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群II:上記テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるその他のアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群III:上記テトラアルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と上記他のアルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物との部分縮合物群
【0072】
[テトラアルコキシシラン類群I]
テトラアルコキシシラン類の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シランなどが挙げられる。また、テトラアルコキシシラン類群の例としては、前記のテトラアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)なども挙げられる。
【0073】
前記粗乾燥工程におけるシリカ系前駆体の安定性の観点では、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらのオリゴマーが好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。
ただし、テトラアルコキシシラン類は経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、テトラアルコキシシラン類のみを用意した場合でも、通常はそのテトラアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物がテトラアルコキシシラン類と共存することが多い。
【0074】
なお、テトラアルコキシシラン類群Iに属する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
[他のアルコキシシラン類群II]
他のアルコキシシラン類は、上述したテトラアルコキシシラン類Iに属さないアルコキシシランであれば、任意のものを使用できる。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したもの;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシ−1H、1H、2H、2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン等のケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するもの;などが挙げられる。また、他のアルコキシシラン類群の例としては、前記の他のアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)なども挙げられる。
【0076】
中でも、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン及びジアルキルアルコキシシランなどが好ましい。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシ−1H、1H、2H、2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシランなどが好ましいものとして挙げられる。
【0077】
ただし、他のアルコキシシラン類は経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、他のアルコキシシラン類のみを用意した場合でも、通常は他のアルコキシシラン類の加水分解物及び部分縮合物が他のアルコキシシラン類と共存することが多い。
【0078】
なお、他のアルコキシシラン類群IIに属する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0079】
[テトラアルコキシシラン類群と他のアルコキシシラン類群との部分縮合物III]
テトラアルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と他のアルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物との部分縮合物(以下「混合部分縮合物」と称す場合がある。)としては、上述したテトラアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種と他のアルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種とが部分縮合した部分縮合物であれば、任意のものを用いることができる。好適な例を挙げると、テトラアルコキシシラン類Iのアルコキシシラン化合物として好適な例として例示したものと、他のアルコキシシラン類IIのアルコキシシラン化合物として好適な例として例示したものとが部分縮合した部分縮合物が挙げられる。
【0080】
なお、混合部分縮合物IIIは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、混合部分縮合物IIIは、混合部分縮合物IIIのみで用いてもよいが、上述したテトラアルコキシシラン類I及び他のアルコキシシラン類IIの一方又は両方と併用してもよい。
【0081】
[好ましい組み合わせ]
上述したテトラアルコキシシラン類I及び他のテトラアルコキシシラン類IIの組み合わせの中でも、特に好ましい組み合わせとしては、テトラアルコキシシラン類Iとしてのテトラエトキシシランと、他のアルコキシシラン類IIとしての芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルアルコキシシラン又はジアルキルアルコキシシランとの組み合わせが挙げられる。上記の混合部分縮合物IIIにおけるテトラアルコキシシラン類I及び他のテトラアルコキシシラン類IIの組み合わせについても同様である。この組み合わせによれば、霧状に噴出される際のシリカ系組成物の液滴の安定性が向上し、吐出条件の決定が容易になる。
【0082】
[アルコキシシラン化合物の比率]
本発明で用いるシリカ系組成物において、上述したアルコキシシラン化合物の含有比率は特に制限されない。しかしながら、形成されるシリカ系多孔質膜の耐水性の観点から、全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類群I由来のケイ素原子の割合が、通常0.2(mol/mol)以上、好ましくは0.3(mol/mol)以上、より好ましくは0.4(mol/mol)以上であり、また、通常0.8(mol/mol)以下、好ましくは0.7(mol/mol)以下、より好ましくは0.6(mol/mol)以下である。前記の割合が低い場合、得られるシリカ系多孔質膜の疎水性は高くなるが、毛管力により多孔質構造内に拘束された水分が膜内から放出されず、膜劣化の要因になる可能性がある。一方、前記の割合が高い場合、シリカ系多孔質膜中の残存シラノール基が多くなり、やはり耐水性が低下する可能性がある。
【0083】
ここで、全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子とは、シリカ系組成物に含有されるテトラアルコキシシラン類群I、他のアルコキシシラン類群II及び混合部分縮合物IIIが有するケイ素原子の数の合計をいう。また、テトラアルコキシシラン類群I由来のケイ素原子とは、組成物に含有されるテトラアルコキシシラン類群Iが有するケイ素原子の数と、混合部分縮合物IIIが有するケイ素原子のうちテトラアルコキシシラン類群Iに対応する部分構造に属するケイ素原子の数との合計をいう。従って、シリカ系組成物がアルコキシシラン化合物以外にケイ素原子を有する化合物を含有していたとしても、当該化合物が有するケイ素原子は前記の割合の算出には関与しない。なお、前記の全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対するテトラアルコキシシラン類群I由来のケイ素原子の割合は、Si−NMRにより測定することができる。
【0084】
本発明のシリカ系組成物中には、上述のアルコキシシラン化合物を含めて、ケイ素を含有する化合物(ケイ素原子含有化合物)は、通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上含有されていることが好ましく、また通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下含有されていることが好ましい。この割合が0.05重量%を下回ると霧状に噴出した際のシリカ系組成物の造膜性が低下する可能性があり、70重量%を超えると形成されるシリカ系前駆体の表面性が低下する可能性がある。なお、ケイ素原子含有化合物として具体的には、前述のテトラアルコキシシラン類群I、他のアルコキシシラン類群II、混合部分縮合物IIIが挙げられる。
【0085】
また、得られるシリカ系多孔質膜の膜厚制御の観点から、前記ケイ素原子含有化合物や下記に説明する界面活性剤などを含む本発明のシリカ系組成物の固形分濃度は通常0.1重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。また通常50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。
【0086】
2−2.界面活性剤
本発明では、前記の製膜工程におけるシリカ系組成物の吐出性、及び形成されるシリカ系前駆体の造膜性、さらには得られるシリカ系多孔質膜の低屈折率化の観点から、用いるシリカ系組成物に界面活性剤を含有する。
界面活性剤とは、親油基(低極性)と親水基(高極性)とを備えた分子のことをいう。
【0087】
界面活性剤は、上記の定義に沿った化合物であれば公知の何れの界面活性剤を用いることもできる。例えば、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。中でも、シリカ系組成物の吐出性及びシリカ系前駆体の造膜性の観点から、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましく、シリカ系多孔質膜の低屈折率化の観点から、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0088】
さらに非イオン系界面活性剤の中でも分子量が高い方が好ましい。具体的には重量平均分子量が、通常200以上、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、特に好ましくは5,000以上の非イオン性高分子であることが好ましい。
この非イオン性高分子の重量平均分子量が小さすぎると、得られるシリカ系多孔質膜の多孔度を高く維持することが困難となる可能性がある。なお、前記重量平均分子量の上限に制限はないが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。重量平均分子量が大きすぎるとシリカ系組成物の吐出性が著しく低下する可能性がある。
【0089】
なお、非イオン系界面活性剤にアルキレンオキサイド部位、好ましくはエチレンオキサイド部位、プロピレンオキサイド部位、特にエチレンオキサイド部位を有することより、アルコキシシラン化合物のゾル−ゲル反応中において形成されるアルコキシシラン化合物の加水分解物や縮合物に対して安定となるので好ましい。
【0090】
また、非イオン系界面活性剤の主鎖骨格構造は特に限定されることはない。主鎖骨格構造の具体例を挙げると、ポリエーテル、ポリエステル、ポリオール、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリビニルエーテル、ポリスチレン、及びそれらの誘導体などが挙げられる。中でも、ポリエーテルを構成成分とする高分子が好ましい。その具体例としては、ポリエチレングリコール(以下適宜、「PEG」という)、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコールなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー、及び/又は、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0091】
なお、上記ノニオン系界面活性剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
造膜性向上の観点から界面活性剤として、下記のような化合物を少量添加しても良い。その際の組み合わせや比率には特に制限はなく、任意に調整できる。
【0093】
例えば、上記のような界面活性剤の他に、親油基がフッ化炭素基のフッ素系界面活性剤、親油基がシロキサン鎖のシリコーン系界面活性剤、親油基がアルキル基の界面活性剤等から2種以上が選択されることが好ましく、中でも非イオン性系界面活性剤とフッ素系界面活性剤(特にパーフルオロアルキル基を含有するもの)との組合せ、及び非イオン性系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤(特にシロキサン結合を含有するもの)との組合せから選択されることが好ましい。
これらの界面活性剤の親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等が好ましい。またポリエーテル、ポリグリセリン等も好ましい。
【0094】
フッ素系界面活性剤として、例えば、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2、−テトラフロロプロピル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0095】
またシリコーン系界面活性剤として、例えばSH21シリーズ、SH28シリーズ(東レ・ダウコーニング株式会社)などが挙げられる。
【0096】
本発明のシリカ系組成物において、これらの界面活性剤の含有量は、本発明のシリカ系組成物中の全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対する界面活性剤の割合として、得られるシリカ系多孔質膜の表面性の観点から、通常0.001(mol/mol)以上、好ましくは0.002(mol/mol)以上、より好ましくは0.003(mol/mol)以上、また、通常0.05(mol/mol)以下、好ましくは0.04(mol/mol)以下、より好ましくは0.03(mol/mol)以下となるようにする。
【0097】
2−3.低級アルコール
本発明では、霧化粒子からシリカ系前駆体の形成過程で、組成物中におけるアルコキシシラン化合物の加水分解物の安定性の観点から、炭素数1〜3の低級アルコール(以下「第1の有機溶媒」と称す場合がある。)を用いる。低級アルコールはアルコキシシラン化合物の加水分解物と容易に相互作用し、炭素数3以下であることで、シリカ系前駆体の形成時に起こる膜表面近傍での加水分解物の縮合反応が適度に生じ、後の加熱工程での構造変化を抑制することができる。
【0098】
好適な低級アルコールの例を挙げると、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールである。
【0099】
これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0100】
2−4.沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒
本発明で用いるシリカ系組成物には、上記の炭素数1〜3の低級アルコールと共に沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒(以下「第2の有機溶媒」と称す場合がある。)を含有する。シリカ系組成物中に所定の沸点及び蒸気圧の有機溶媒を含有していることで、霧状に噴霧され、透光基材上でシリカ系前駆体を形成する間の乾燥を防ぐとともに、組成物に含まれるアルコキシシラン化合物の加水分解物は低級アルコールとの相互作用により縮合反応を抑制すことで、安定して均質なシリカ系前駆体を形成することが可能である。
【0101】
この有機溶媒の沸点は、好ましくは127℃以上、さらに好ましくは129℃以上、最も好ましくは131℃以上で、好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下、最も好ましくは160℃以下である。この有機溶媒の沸点が低過ぎると霧状に噴霧され、基材上でシリカ系前駆体を形成する間の乾燥が速く、霧化粒子の形状に由来する膜表面の荒れが発生する恐れがある。一方、沸点が高過ぎると、有機溶媒の除去過程でアルコキシシラン化合物の縮合反応が進みすぎるため、膜欠陥や空孔の崩壊が起こる恐れがある。
【0102】
また、該有機溶媒の20℃又は25℃の蒸気圧は、通常2.0kPa以下、好ましくは1.8kPa以下、さらに好ましくは1.5kPa以下、最も好ましくは1.1kPa以下であり、通常0.01kPa以上、好ましくは0.13kPa以上、さらに好ましくは0.16kPa以上、最も好ましくは0.2kPa以上である。有機溶媒の蒸気圧が低過ぎると、吐出中での乾燥が著しく、形成されるシリカ系多孔質膜の表面性に悪影響を与える恐れがある。一方、蒸気圧が高過ぎるとシリカ系前駆体からシリカ系多孔質膜となる際に低級アルコールのみの揮発が激しくなり、シリカの凝集が起こり膜表面の荒れを引き起こす恐れがある。
【0103】
また、該有機溶媒の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、通常100以上、好ましくは110以上、さらに好ましくは115以上、最も好ましくは120以上で、通常500以下、好ましくは400以下、さらに好ましくは350以下、最も好ましくは300以下である。有機溶媒の分子量が大き過ぎたり小さ過ぎたりすると、上記の好適な沸点や蒸気圧を満たし得なくなる。特に分子量が大き過ぎるとアルコキシシラン化合物が形成するゲル構造内における有機溶媒の占める立体的サイズが大きいため、有機溶媒除去後のシリカ系多孔質膜の歪が大きくなる恐れがある。
【0104】
本発明で用いる第2の有機溶媒としては例えば、次のようなものが挙げられる。
3−メチルピペリジン(沸点126℃,蒸気圧1.61kPa(25℃))、1−クロロ−2−プロパノール(沸点127℃,蒸気圧0.7kPa(20℃))、4−メチルピペリジン(沸点129℃,蒸気圧1.33kPa(25℃))、2−メチルピリジン(沸点129℃,蒸気圧1.2kPa(20℃))、1,3−プロパンジアミン(沸点131℃,蒸気圧<8mmHg(1.06kPa)(20℃)))、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点132℃,蒸気圧0.5kPa(20℃))、1−ペンタノール(沸点137℃,蒸気圧0.6kPa(20℃))、アセチルアセトン(沸点141℃,蒸気圧0.8kPa(20℃))、3−メチルピリジン(沸点144℃,蒸気圧0.6kPa(20℃))、2,6−ジメチルピリジン(沸点144℃,蒸気圧0.8kPa(25℃))、4−メチルピリジン(沸点146℃,蒸気圧0.76kPa(20℃))、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃,蒸気圧0.36kPa(20℃))、グリセリン(沸点154℃,蒸気圧0.01Pa(25℃))、2−メルカプトエタノール(沸点157℃,蒸気圧0.13kPa(20℃))、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃,蒸気圧0.33kPa(20℃))、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(沸点166℃,蒸気圧0.52kPa(25℃))、エチレングリコール−モノブチルエーテル(沸点171℃,蒸気圧0.114kPa(25℃))、トリエチレングリコール(沸点179℃、蒸気圧0.02Pa(20℃))
【0105】
中でもアルコキシシラン化合物の加水分解物との相互作用の観点から、1−ペンタノール、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが好ましい。
【0106】
これらの沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0107】
上記有機溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、前述の炭素数1〜3の低級アルコールに対して(第2の有機溶媒/第1の有機溶媒)、通常0.1(mol/mol)以上、中でも0.5(mol/mol)以上、特には1(mol/mol)以上が好ましく、また、通常50(mol/mol)以下、中でも30(mol/mol)以下、特には25(mol/mol)以下が好ましい。沸点125〜180℃で蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒の使用量が少なすぎるとシリカ系多孔質膜の表面性が低くなる可能性があり、多すぎるとシリカ系前駆体の膜質が基材の表面エネルギーに影響されやすくなる可能性がある。
【0108】
2−5.その他の有機溶媒
本発明のシリカ系組成物には、有機溶媒として、上述の炭素数1〜3の低級アルコールと沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒以外の他の有機溶媒(以下、「第3の有機溶媒」と称す場合がある。)を併用してもよく、第3の有機溶媒を併用することにより吐出性の向上等の効果を得ることができ、吐出条件の許容範囲を大きくする等の効果もある。
【0109】
この場合、併用し得る他の有機溶媒としては、上述したアルコキシシラン化合物及び水を混和させる能力を有するものであれば、特に制限されないが、好適な有機溶媒の例を挙げると、2−メチル−1−プロパノール(沸点108℃)、3−メチル−1−ブタノール(沸点131℃)、1−ブタノール(沸点118℃)、2−ブタノール(沸点100℃)、t−ブタノール(沸点82℃)、炭素数4又は5の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、ペンタエリスリトール(沸点276℃(30mmHg))等の多価アルコールなどのアルコール類;酢酸メチル(沸点57℃)、エチルアセテート(沸点77℃)、イソブチルアセテート(沸点117℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点84℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)等の、前記アルコール類のエーテル又はエステル化物;アセトン(沸点56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点79℃)等のケトン類;ホルムアミド(沸点210℃)、N−メチルホルムアミド(沸点183℃)、N−エチルホルムアミド(沸点202℃)、N−メチルアセトアミド(沸点206℃)、N−エチルアセトアミド(沸点206℃)、N,N−ジエチルアセトアミド(沸点185℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)、N−ホルミルモルホリン(沸点237℃)、N−アセチルモルホリン(沸点245℃)、N−ホルミルピペリジン(沸点222℃)、N−アセチルピペリジン(沸点226℃)、N−ホルミルピロリジン(沸点213℃)、N−アセチルピロリジン(沸点225℃)、N,N’−ジホルミルピペラジン(沸点154℃(0.25mmHg))、N,N’−ジアセチルピペラジン(沸点365℃)等のアミド類;γ−ブチロラクトン(沸点204℃)等のラクトン類;N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(沸点220℃)等のウレア類;ジメチルスルホキシド(沸点189℃)などが挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0110】
これらの有機溶媒のうち、アルコキシシラン化合物との相溶性の観点から、t−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、エチルアセテート、酢酸メチル、イソブチルアセテートなどの沸点が120℃以下のものが好ましい。
【0111】
これらの他の有機溶媒を用いる場合、その使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、吐出性の向上の観点から、他の有機溶媒に対する前述の沸点125〜180℃で蒸気圧が20℃又は25℃の2.0kPa以下の有機溶媒の割合(第2の有機溶媒/第3の有機溶媒)が、通常0.1(mol/mol)以上、中でも0.15(mol/mol)以上、特には0.2(mol/mol)以上が好ましく、また、通常10(mol/mol)以下、中でも8(mol/mol)以下、特には5(mol/mol)以下が好ましい。他の有機溶媒の使用量が少な過ぎると、他の有機溶媒を用いることによる吐出性の安定効果を十分に得ることができず、多過ぎると、相対的に組成物中の炭素数1〜3の低級アルコール及び沸点125〜180℃で蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒の割合が低減することにより、これらを併用することによる本発明の効果を十分に得ることができなくなる。
【0112】
2−6.水
本発明のシリカ系組成物は水を含有する。ここで、用いる水の純度は高いほうが好ましい。通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方又は両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、例えば光学用途のような微小不純物を特に嫌う用途分野に、得られたシリカ系多孔質膜を用いる場合には、より純度の高いシリカ系多孔質膜が望ましいため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いることが好ましい。また、不純物の中でも100nm以上のコンタミ(汚濁物)はシリカ系組成物におけるゾル−ゲル反応の進行に影響を与える恐れがある。従って、例えば0.01〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通して微粒子を除去した水を用いるのが好ましい。
【0113】
水の使用量としては、本発明のシリカ系組成物中の全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対する水の割合として、通常10(mol/mol)以上、好ましくは11(mol/mol)以上、より好ましくは12(mol/mol)以上、また、通常50(mol/mol)以下、好ましくは30(mol/mol)以下、より好ましくは20(mol/mol)以下となるようにする。全アルコキシシラン化合物由来のケイ素原子に対する水の割合が前記の範囲よりも少ないと、ゾル−ゲル反応のコントロールが難しく、シリカ系組成物を霧状に噴出して得られるシリカ系前駆体の表面性が低下する傾向があり、透明性を損なう可能性があり、多いと、ゾル−ゲル反応が進みにくくなるため反応に時間がかかることにより、得られるシリカ系多孔質膜の耐水性が低下する可能性がある。従って、シリカ系組成物中の水の量を上記範囲内に制御することは、得られるシリカ系多孔質膜の透明性、耐水性の向上のために重要である。なお、シリカ系組成物中の水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
【0114】
2−7.触媒
本発明のシリカ系組成物には触媒を含有していてもよく、触媒としては、例えば上述したアルコキシシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
【0115】
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。
【0116】
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0117】
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0118】
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0119】
上述したものの中でも、アルコキシシラン化合物の加水分解及び脱水縮合反応をより容易に制御するためには、酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。
【0120】
なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0121】
触媒の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、シリカ系組成物中のアルコキシシラン化合物に対して、通常0.001mol倍以上、中でも0.003mol倍以上、特には0.005mol倍以上が好ましく、また、通常0.8mol倍以下、中でも0.5mol倍以下、特には0.1mol倍以下が好ましい。触媒の使用量が少なすぎると加水分解反応が適度に進まず、製造後にシリカ系多孔質膜中にシラノール基などの活性基が残存しやすくなり、得られるシリカ系多孔質膜の耐水性が低下する可能性があり、多すぎると反応制御が困難になり、製膜中に触媒濃度が更に高くなることで、得られるシリカ系多孔質膜の表面性が低下する可能性がある。
【0122】
なお、造膜性の観点で本発明のシリカ系組成物のpHが5.5以下であることが好ましい。より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。この範囲にすることで製膜時に基材の表面改質を同時に行うことができ、より造膜性が向上する傾向になる。
【0123】
2−8.その他
本発明で用いるシリカ系組成物には、上述したアルコキシシラン化合物、有機溶媒、界面活性剤、水、触媒以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
2−9.シリカ系組成物の調製
上述した組成物を構成する各成分を混合して、本発明のシリカ系組成物を調製する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。
【0125】
ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、シリカ系組成物をより工業的に調合するためには、以下の要領で混合することが好ましい。
即ち、アルコキシシラン化合物、水及び有機溶媒を混合し、その混合物を熟成させることでアルコキシシラン化合物をある程度加水分解及び脱水重縮合させる。そして、その混合物に界面活性剤を混合してシリカ系組成物を調製する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、アルコキシシラン化合物と界面活性剤との親和性を維持することができる。なお、熟成は前記の混合物と界面活性剤とを混合した後で行なってもよい。
【0126】
前記熟成の際、アルコキシシラン化合物の加水分解・脱水重縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ、特に制限は無いが、通常28℃以上、中でも30℃以上、特には45℃以上とすることが好ましい。加熱温度が低すぎると反応時間が極度に長くなり、生産性が低下する可能性がある。一方、加熱温度の上限は、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。120℃を超えると組成物中の有機溶媒及び水が沸騰し、分解・脱水重縮合反応を制御できなくなる可能性がある。
【0127】
また、加熱を伴う熟成時間に制限は無いが、通常10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、また、通常10時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは5時間以下である。熟成時間が短すぎると均一に反応を進めることが難しくなる可能性があり、長すぎると溶媒の揮発が無視できなくなり、組成比が変化してシリカ系組成物の安定性が低くなる可能性がある。
【0128】
さらに、熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。圧力が変化すると溶媒の沸点も変化し、熟成中の溶媒が揮発(蒸発)することで、組成比が変化して、シリカ系組成物の安定性が低くなる可能性がある。
【0129】
また、熟成後、塗布工程前に、用いるシリカ系組成物は有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、シリカ系組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、シリカ系組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。この場合、熟成前に、シリカ系組成物に用いる全有機溶媒の0.1重量%以上、更に1重量%以上、特に10重量%以上、95重量%以下、更に70重量%以下、特に50重量%以下の有機溶媒を混合し、熟成後に、有機溶媒の残部を更に混合して希釈することが好ましい。
【0130】
特に、本発明においては、後述の実施例に示されるように、アルコキシシラン化合物、水及び有機溶媒として炭素数1〜3の低級アルコールの一部と、必要に応じて用いられる触媒とを混合し、この混合物を熟成させた後、界面活性剤と炭素数1〜3の低級アルコールの残部を混合してシリカ系組成物を調合し、このシリカ系組成物に、更に有機溶媒として沸点125〜180℃で蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と必要に応じて用いられるその他の有機溶媒を添加混合することにより、希釈して用いることが好ましい。
【0131】
また、シリカ系多孔質膜の製造における歩留まりの観点では、加熱を伴わない熟成を行うことが好ましい。加熱を伴わない熟成は、シリカ系組成物の調製後に行ってもよい。
【0132】
なお、前述のシリカ系組成物に用いる水におけると同様な理由で、調製されたシリカ系組成物中のコンタミ(汚濁物)を除去するために、調製されたシリカ系組成物は、例えば0.01〜5μm、好ましくは0.05〜1μmの孔径を有するフィルターを通して微粒子を除去した後に用いることが好ましい。
【0133】
3.透光基材
本発明のシリカ系多孔質膜の製造方法に用いられる透光基材は用途に応じて任意のものを用いることができる。中でも、汎用材料からなる透光基材を用いることが好ましい。なお、透光基材とは、所定の波長の光の透過性が高い基材をいうこととし、該波長は、透光基材の用途に応じて適宜選択される。また、透光基材は性能に影響を及ぼさない限り、散乱やヘーズを有していてもよい。なお、該波長は、可視光の範囲に限定されないが、太陽電池用途においては、可視光線領域波長の光に対して高い透過性を有することが好ましい。
【0134】
透光基材の材料の例を挙げると、珪酸ガラス、高珪酸ガラス、珪酸アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、バリウムガラスなどの珪酸塩ガラス、硼珪酸ガラスやアルミナ珪酸ガラス、燐酸塩ガラスなどのガラス及びこれらの強化ガラス;ポリメチルメタクリレート、架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ビスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等の合成樹脂、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)、PFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリ塩化ビニリデン)、PVF(ポリビニルホルマール)などのフッ素含有樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を任意の組合せで用いることができる。
【0135】
中でも寸法安定性の観点では、ガラス、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素含有樹脂が好ましく、価格の点で、ソーダ石灰ガラス、芳香族ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂が好ましい。さらに、耐衝撃性の観点から強化ガラス、芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することも好ましい。
【0136】
例えば透光基材として太陽電池用カバーガラスを用いる場合、シリカ系多孔質膜は透光基材表面の反射防止膜として機能し、出力の向上を実現する。本発明の製造方法により得られる多孔質シリカ膜は耐久性に優れているため、このような用途に好適である。なお単結晶太陽電池や多結晶太陽電池などの近赤外光でも光電変換可能な太陽電池に用いられる太陽電池用カバーガラスを透光基材として用いる場合には、通常のソーダ石灰ガラスでは含有される2価の鉄イオンによって近赤外領域に吸収を持つため、鉄イオン含有量を低減することで光透過性を高めることが好ましく、さらに耐衝撃強度が優れた白板強化ガラスを上記透光基材として用いることがより好ましい。
【0137】
また、樹脂カバーフィルムとしてフッ素含有樹脂を用いる場合は、樹脂の表面処理を施した上に製膜することが好ましい。
【0138】
本発明に用いられる透光基材の寸法は任意である。ただし、透光基材として板状の基板を用いる場合には、当該基板の厚さは、機械的強度及びガスバリア性の観点から、0.01mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、1mm以上がより好ましい。また、当該厚さは、軽量化及び光線透過率の観点から、80mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下が特に好ましい。さらに透光基材の大きさとしては、光学的な効果を得る観点から0.1m以上が好ましく、0.5m以上がより好ましく、1m以上が特に好ましい。上限には特に制限はないが、通常100m以下が好ましく、50m以下がより好ましい。
【0139】
なお、透光基材は、平板状に限らず、曲面を有するものであっても段差を有するものであってもよく、本発明に係るスプレーコート法によれば、異形形状の透光基材に対しても良好なシリカ系多孔質膜を形成することができる。
【0140】
また、透光基材のシリカ系多孔質膜形成面の中心線平均粗さも任意である。ただし、形成するシリカ系多孔質膜の製膜性の観点から、当該中心線平均粗さは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が更に好ましく、3nm以下が特に好ましい。
一方、防眩性を付与する場合、透光基材の中心線平均粗さは上記の限りではなく、透光基材の表面は凸凹を有することが好ましい。かかる凹凸は透光基材の片面のみでも、両面に有していてもよいが、シリカ系多孔質膜が形成される面に有することが好ましい。このような場合における中心線平均粗さは、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上であり、また通常15μm以下、好ましくは10μm以下である。表面粗さの最大高さRmaxは通常0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは0.8μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0141】
上記中心線平均粗さ及び表面粗さの最大高さRmaxの範囲にある透光基材上に本発明のシリカ系多孔質膜を備えることで、低反射特性に優れ、かつ防眩性にも優れた光学フィルター等を提供することができる。この範囲を下回る、若しくは超えた場合、低反射効果が損なわれる可能性があり、また外観が不透明になる可能性がある。
また、透光基材表面の凹凸の平均間隔Smは、通常0.01mm以上、好ましくは0.03mm以上であり、通常30mm以下、好ましくは15mm以下とすることが可能である。
【0142】
上記中心線平均粗さ、表面粗さの最大高さRmax及び凹凸の平均間隔Smは、JIS−B0601:1994に従った汎用の表面粗さ計(例えば、(株)東京精密社製サーフコム570A)により測定される。
【0143】
また、シリカ系多孔質膜が太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンス、LEDなどの光デバイスに適用される場合、用いる透光基材の片側、若しくは両面に電極が形成されていてもよい。電極は直接又は他の層を介して透光基材に設けることができる。
【0144】
電極の材料としては、例えばアルミニウム、錫、マグネシウム、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、又はこれらを含む合金、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム、酸化亜鉛等が挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を任意の比率及び組合せで用いることができる。中でも透明性の観点で酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、又はこれを主組成としたものが好ましい。
【0145】
またその膜厚は通常10nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。また、通常3000nm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。電極の厚さが10nmを下回るとシリカ系多孔質膜に欠陥ができ易くなる傾向があり、3000nmを超えると透明性を損なう可能性がある。
【0146】
また、透光基材上に有機系透明電極を用いることも可能である。この場合、上記の無機系電極と組み合わせることも可能である。有機系透明電極としては、例えばPEDOT等の導電性高分子を用いることができる。
【0147】
4.光学フィルター
本発明により製造されるシリカ系多孔質膜は、光学フィルターにも適用可能である。本発明で言う光学フィルターとは、透光基材を通る光の反射、透過、屈折等の現象を制御するフィルターをいうが、これらに限定されるものではない。本発明の製造方法により得られるシリカ系多孔質膜は極めて屈折率が小さいため、これらの現象を制御しやすく、その効果が大きい。
【0148】
光学フィルターとして、具体的には、透光基材表面での光の反射を防止する表面反射防止膜や、上記透光基材及びシリカ系多孔質膜と他の層と組み合わせた、紫外線反射膜、近赤外線反射膜、赤外線反射膜等が挙げられる。またさらには、ディスプレイ等の発光デバイスに適用することで光取り出し膜(又は輝度向上膜)としても用いることができる。中でも光学的に顕著な効果が得られることから、シリカ系多孔質膜を表面反射防止膜として用いることが好ましい。
【0149】
なお、本発明の製造方法により得られたシリカ系多孔質膜を後述の太陽電池以外の光学用途に用いる場合であっても、通常は、シリカ系多孔質膜の光線透過率が高いことが好ましい。これにより、シリカ多孔質膜に安定かつ有効な光学性能を備えさせることができるからである。
【0150】
本発明のシリカ系多孔質膜が適用される光学フィルターに用いられる本発明のシリカ系多孔質膜以外の他の層としては、光学フィルターの種類や用途に応じて適宜選択され、例えば高屈折率層、散乱層、金属層、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、接着層、ハード層、ガスバリア層、導電性層、アンチグレア層、拡散層等が挙げられる。これらの層は、透光基材のいずれの面に形成されていてもよく、またシリカ系多孔質膜上に積層されていてもよい。なお、これらの層は光学フィルター中に、1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組合せで用いてもよい。
【0151】
光学フィルターの用途としては、特に制限はなく、上記太陽電池などの発電デバイス、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンス、液晶などのディスプレイデバイス、LEDなどの照明デバイス、レンズ等の光学部材、ウィンドウ、インストルメントパネル等の車両の内外装材や、窓等の建築部材、特にこれらの適用箇所において用いられる低反射層、反射防止層、外観向上を目的とした光制御層などの光学機能層に好適に用いることができる。中でも、本発明によれば、基材の大面積化が容易であることから、太陽電池などの発電デバイスや大型のディスプレイデバイスへの適用が効果的である。
なお、本発明のシリカ系多孔質膜の用途は、何ら光学フィルター用途に限らず、その多孔質構造を利用して、抗菌剤の担持や反応基修飾によるバイオチップ等に使用することもできる。
【0152】
5.太陽電池
本発明により製造されるシリカ系多孔質膜は、太陽電池に適用可能であり、太陽電池用反射防止膜として好適に用いられ、この場合、透光基材としては太陽電池用カバーガラスを用いることができる。
【0153】
太陽電池とは、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電力に変換することのできる素子又は装置であり、例として、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、微結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などのシリコン系太陽電池、CIS系太陽電池、CIGS系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、多接合型太陽電池、HIT太陽電池が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0154】
本発明により製造されるシリカ系多孔質膜は、通常、太陽電池の光エネルギーを取り入れる面、すなわち受光面側の被覆に用いる構成とすることができる。
【0155】
シリカ系多孔質膜を用いた太陽電池受光面側の部分構成の一例を図1〜図5に示す。
該太陽電池では、通常は一対の電極1及び3を設け、当該電極1及び3の間に半導体層2が位置するように構成する。また、例えば図1、3、4、及び5に示すように、透光基材5と電極3との間に中間層4があってもよく、図4や図5に示すように、ガスバリア層7があってもよい。また、例えば図3や図5に示すように、透光基材5やシリカ系多孔質膜6が、複数層形成されてもよい。なお、通常、シリカ系多孔質膜6が、最も受光面側となるように構成される。
また、中間層4は、複数層の積層構造であっても良く、封止層、耐熱層、ガスバリア層、紫外線劣化防止層、光線波長変換層、酸素ゲッター層、水分ゲッター層、粘着層等を含んでいることが好ましい。
【0156】
また、該太陽電池には、上記各構成層以外に、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、粘着層、ハード層、導電性層、反射層、アンチグレア層、拡散層等をさらに組み合わせてもよい。また、特性に影響を及ぼさない限り、上記各構成間に他の層があっても構わない。
【0157】
上記太陽電池における半導体層に用いられる半導体の種類に制限は無い。また、半導体は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、半導体層には、太陽電池としての機能を著しく損なわない限りその他の材料が含有されていても良い。なお、半導体層の厚さに特に制限はないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下の寸法で形成される。
【0158】
こうした太陽電池に用いる場合、シリカ系多孔質膜及び透光基材のC光の全透過率を、75%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましく、85%以上とすることがさらに好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。光の透過率が高いほど太陽電池が効率よく発電できるからである。また、前記全光線透過率は理想的には100%であるが、太陽電池の表面での部分反射を考慮すると通常99%以下である。
【実施例】
【0159】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0160】
なお、以下において用いた炭素数1〜3の低級アルコール以外の有機溶媒の沸点、分子量及び蒸気圧は表1の通りである。
【0161】
【表1】

【0162】
[実施例1]
〔シリカ系組成物の調製〕
テトラエトキシシラン20g、メチルトリエトキシシラン20g、炭素数1〜3の低級アルコールとしてエタノール(沸点78℃)9g、水14g、及び、0.3重量%の塩酸水溶液33gを混合し、65℃のウォーターバス中で30分、さらに室温で30分攪拌することで、混合物(A)を調製した。
混合物(A)に、非イオン系界面活性剤として、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー(BASF社製 PLURONIC P123(重量平均分子量5,650);以下適宜「P123」という)15g、エタノール(沸点78.3℃)12gを混合し、室温下で60分攪拌することで、混合物(B)を調製した。
この混合物(B)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(沸点132℃、分子量132、蒸気圧0.5kPa(20℃))、及び1−ブタノール(沸点117.3℃、分子量74、蒸気圧0.58kPa)により希釈することで、シリカ系組成物(pH3.5)を得た。この時のエタノールに対するプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのモル比は2.57、1−ブタノールに対するプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのモル比は0.3であった。
【0163】
〔シリカ系多孔質膜の製造〕
[製膜工程]
得られたシリカ系組成物を孔径0.45μmのフィルターで濾過し、中性洗剤で洗浄した50mm角のガラス基材(厚さ3.2mm)に対して、スプレー塗布した。
得られたシリカ系組成物を孔径0.45μmのフィルターで濾過し、中性洗剤で洗浄し
た50mm角のガラス基材(厚さ3.2mm)に対して、スプレー塗布した。
なお、この際アルミレベルで基材が水平になっていることを確認した。
スプレーノズルとしては、二流体スプレーノズル(アトマックス社製AM25S)を使用した。霧化及び噴出用気体としては、霧化圧力30kPaの窒素ガスを用い、ノズル先端とガラス基材表面との距離は80mmとした。
シリカ系組成物が入った容器とノズルとをつなぐ流路に、口径0.4mmのオリフィスを設け、容器に1kPaの吐出圧を印加することで、ノズルからのシリカ系組成物の吐出量を調整した。このときの吐出量は11.3ml/分であった。スプレーノズルを速度400mm/秒、ピッチ15mmでスキャンして、ガラス基材表面にシリカ系前駆体を形成した。
製膜時の相対湿度は55%、温度は20℃である。
【0164】
[粗乾燥工程]
上記の製膜工程後、シリカ系前駆体が形成されたガラス基材を、相対湿度55%の条件
下に液をレベリングさせるため3分間静置した後、30℃のホットプレート上に5分間静置して乾燥を行うことで、シリカ系前駆体を粗乾燥した。事前にホットプレートが水平になっていることをアルミレベルで確認した。粗乾燥後のシリカ系前駆体の膜厚は、反射分光膜厚計により測定したところ0.2μmであった。
【0165】
[加熱工程]
次に450℃に設定したオーブン内に前記シリカ系前駆体を形成したガラス基材を置き、大気雰囲気下で15分間加熱することで(昇温速度15℃/分、常圧)、シリカ系多孔質膜を得た。
【0166】
〔屈折率・膜厚測定〕
分光エリプソメーター(ホリバ・ジョバンイボン製UVISEL)により測定し、Tauc−Lorentz分散式で解析した結果、得られたシリカ系多孔質膜の波長550nmにおける屈折率は1.19であった。
また、屈折率と前記の波長より膜厚を算出した結果、140〜155nmであった。
また、シリカ系多孔質膜がシリカと空気より形成されているとして、得られたシリカ系多孔質膜の屈折率から、シリカの屈折率(1.48)と空気の屈折率(1.00)より平均空隙率を算出したところ60%であった。
【0167】
〔外観評価〕
目視により、シリカ系多孔質膜の透明性、表面状態を評価した結果を表1に示す。本実施例1により形成されたシリカ系多孔質膜は、鏡面性を有する外観の良好なシリカ系多孔質膜であった。なお、透明性及び表面状態の評価は、下記の基準で行なった。
○=高い透明性、かつ鏡面性を有しており表面性も良好。また均質な干渉が見られ、反射防止効果も確認できる。
×=均質性に劣り、膜厚むらに由来する干渉むらがみられる。
【0168】
〔光学ムラ評価〕
シリカ系多孔質膜の光学的機能の均質性を評価するために以下のような方法により、ムラ値を算出した。
1.シリカ系多孔質膜に対して斜め上方60度から拡散光を照射する。拡散光として用いた白色照明の輝度は6000cd/mであった。
2.東芝製3CCDカラーカメラ(41万画素)を用いて反射光の画像をPCに保存する。カメラとシリカ系多孔質膜の距離は15cmとした。
3.保存した画像のうち輝度(青)をランダムに10点記録し、標準偏差を算出し、これをムラ値とした。
ムラ値としては特に限定はないが、通常35以下が好ましく、さらに好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。ムラ値が大きすぎると光学的効果が局所的にムラがあり個体差が出てしまう恐れがあり、歩留まり低下となる。
【0169】
[実施例2〜8]
実施例1において、シリカ系組成物中のエタノールとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)又はジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)と1−ブタノールを表2に示す割合で用いたこと以外は同様にしてシリカ系多孔質膜を製造し(ただし、組成物中の全有機溶媒量は実施例1と同量である。)、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0170】
[実施例9]
〔シリカ系組成物の調製〕
テトラエトキシシラン17g、メチルトリエトキシシラン17g、炭素数1〜3の低級アルコールとしてエタノール(沸点78℃)6g、水14g、及び、0.3重量%の塩酸水溶液33gを混合し、60℃のウォーターバス中で30分、さらに室温で30分攪拌することで、混合物(A’)を調製した。
混合物(A’)に、非イオン系界面活性剤として、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー(P123)15g、エタノール(沸点78.3℃)8gを混合し、室温下で60分攪拌することで、混合物(B’)を調製した。
この混合物(B’)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(沸点132℃、分子量132、蒸気圧0.5kPa(20℃))、及び1−ブタノール(沸点117.3℃、分子量74、蒸気圧0.58kPa)により希釈することで、シリカ系組成物(pH3.5)を得た。この時のエタノールに対するプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのモル比は28.5、1−ブタノールに対するプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのモル比は1.1であった。
【0171】
〔シリカ系多孔質膜の製造〕
上記で得られたシリカ系組成物を用いたこと以外は実施例1と同様に製膜工程、粗乾燥工程、加熱工程を行って、シリカ系多孔質膜を製造し、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0172】
[比較例1]
実施例1において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いず、1−ブタノールとエタノールを表2に示す割合で用いたこと以外は同様にしてシリカ系多孔質膜を製造し(ただし、組成物中の全有機溶媒量は実施例1と同量である。)、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0173】
[比較例2〜4]
実施例1において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いず、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)と1−ブタノールを表2に示す割合で用いたこと以外は同様にしてシリカ系多孔質膜を製造し(ただし、組成物中の全有機溶媒量は実施例1と同量である。)、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0174】
[比較例5〜7]
実施例1において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いず、3−メチル−1−ブタノール(Me−BuOH)と1−ブタノールを表2に示す割合で用いたこと以外は同様にしてシリカ系多孔質膜を製造し(ただし、組成物中の全有機溶媒量は実施例1と同量である。)、同様に評価を行って結果を表2に示した。
【0175】
なお、実施例2〜9、比較例1〜7で製造されたシリカ系多孔質膜の膜厚は、いずれも140〜155nmであった。
【0176】
【表2】

【0177】
表2より、本発明によれば、低屈折率で外観に優れ光学的にも均質性に優れたシリカ系多孔質膜を安定に製造することができることが分かる。なお、実施例1〜9で得られたシリカ系多孔質膜は、いずれも、光学レベルのサイズ(0.1μm程度)で均質な膜を形成しており、極めて膜歪みの少ない構造であるため、外部環境に対する耐久性に優れている。
【符号の説明】
【0178】
1,3 電極
2 半導体層
4 中間層
5 透光基材
6 シリカ系多孔質膜
7 ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系多孔質膜の製造方法において、
アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物を霧状に噴出させることにより、透光基材上にシリカ系前駆体を製膜する製膜工程、
及び、該シリカ系前駆体を加熱してシリカ系多孔質膜とする加熱工程を含むことを特徴とするシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記炭素数1〜3の低級アルコールに対する沸点125〜180℃で20℃又は25℃の蒸気圧が2.0kPa以下の有機溶媒のモル比が、0.1〜50(mol/mol)である請求項1に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アルキレンオキサイド部位を有する非イオン性高分子である請求項1又は2に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記アルコキシシラン化合物が、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物、或いは、下記アルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物及び/又は下記アルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と下記アルコキシシラン類群IIIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
アルコキシシラン類群I:テトラアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるテトラアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群II:上記テトラアルコキシシラン類以外のアルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるその他のアルコキシシラン類群
アルコキシシラン類群III:上記テトラアルコキシシラン類群Iより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と上記他のアルコキシシラン類群IIより選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物との部分縮合物群
【請求項5】
前記製膜工程で、5kPa以上500kPa以下の気体により前記シリカ系組成物を霧状に噴出させるノズルを用い、かつ該ノズルと前記透光基材との距離を3cm以上100cm以下として該シリカ系組成物を噴出させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記製膜工程の後に粗乾燥工程を行い、該粗乾燥工程後の前記シリカ系前駆体の膜厚が10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記シリカ系多孔質膜が光学フィルターであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
前記光学フィルターが反射防止膜であることを特徴とする請求項7に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
前記反射防止膜が太陽電池用反射防止膜であることを特徴とする請求項8に記載のシリカ系多孔質膜の製造方法。
【請求項10】
アルコキシシラン類、その加水分解物及び部分縮合物からなるアルコキシシラン類群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシラン化合物と、界面活性剤と、炭素数1〜3の低級アルコールと、その他の有機溶媒と、水とを含むシリカ系組成物であって、
該その他の有機溶媒が、沸点125〜180℃、20℃又は25℃の蒸気圧2.0kPa以下で、分子量が100以上であることを特徴とするシリカ系組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207751(P2011−207751A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51537(P2011−51537)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】