説明

シリコンおよびニオビウムを基にした複合耐火物上に高温酸化に対する保護被膜を形成する方法

【課題】シリコンおよびニオビウムを基にした複合耐火物の表面に高温酸化に対する保護被膜を形成することが可能な技術を提供する。
【解決手段】保護される表面上に存在するクロムが、シリコンおよび酸素を含む反応性ガスと反応して、その第1相は粘塑性特性を有するシリカを基にした酸化物相でありその第2相は、シリコン、クロムおよび酸素を基にした2相を有する複合被膜を生成し、第1相と第2相とが高温で合体し、これによって保護被膜が形成され、ここで第2相は、作業中に酸化ガスとの反応によって第1相を改質するリザーバーとして作用する。本発明は、好ましくは航空エンジンの分野で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンおよびニオビウムを基にした複合耐火物の表面上に高温酸化に対する保護被膜を形成する方法に関する。本発明は、複合物の成分、特に、本方法を用いてこのようにして保護される航空エンジン成分に関する。
【背景技術】
【0002】
航空エンジンのタービンで使用される物質の機械的強度および耐酸化性は、エンジンの性能レベルを制限する。最近のプロスペクティブ研究では、壁温度が現在1050〜1100℃に達するタービンブレードに関して、使用される金属合金(ニッケル系超合金)の組成および製造方法の最適化、成分の内部冷却回路の改善、ならびに断熱被膜の使用によって、1300℃程度の意図された壁温度に到達することはないことが示されている。そのような温度で動作するために想定される1つの方法は、2種類の高耐火性相によって構成される複合物を使用することであり、そのうちの1つは、物質に周囲温度で適切な耐性を付与する金属Mss(ここで、Mssとは、固溶体中の相を指し、Mは、Si、Ti、Cr、Hf、Alなどの多数の元素と合金になるNb系である)、もう一方は、高温で望ましい強度および耐クリープ性を提供する金属間MSiである。これらの物質を、以下「Nb−Si型の複合物」と記載する。これらは、本発明が関連する物質である。
【0003】
また、これらのNb−Si型複合物の使用は、現在使用されているブレードと替えることによって、低圧タービンについて中程度の温度(700〜1000℃)でも想定され、ブレードはニッケル系を基にしたニッケル系超合金から鋳造され、その密度は7.75から8.6まで変化する。密度が6.6〜7.2で変化するこれらのNb−Si型物質の使用により、例えばドライバーにとって重要な戦略的要素である構造の軽量化が可能になる。
【0004】
しかしながら、それらの初期組成に添加される多数の「好ましい」元素(Hf、Si、Cr、B、C、Zr、Ti、およびAl)にもかかわらず、それらの開発は、中温または高温で低レベルの耐酸化性であるために遅れている。そのような物質をガスタービンの使用条件の下に置く場合、使用するグレードに依存して数分〜数十時間で酸化によって破壊される。
【0005】
通常、酸素は800℃超で金属相中に侵入して、まず酸化し、シリサイド相(MSi)は最初は攻撃されないままのようである。界面および粒子結合が酸素の拡散を助けるように見える。次に、MSi相が次々に酸化される。
【0006】
もう一つの問題は、低温、典型的には500〜800℃において、金属相Mssにおける非常に低い拡散速度のせいでこの種の物質は保護酸化物の層を高速には成長させられないことである。この結果、脆い非酸化物を形成するMSi相が優先的に酸化され、これによってこれらの相が破壊され、そして徐々に物質が破壊される。この種の酸化は、「伝染(plague)効果」と呼ばれる。
【0007】
この族の合金を保護するための解決策はすでに提案されている。例えば、米国特許第4904546号(M.R.Jackson、27/02/1990)(特許文献1)では、式:Ru(19−x)〜(34−x)(ΣFe+Ni+Co)Al22〜28Cr(5.6−y)〜(44−y)Fe(好ましい組成はCr55Al20Ru14Fe11である)に相当するプラズマ投射型の物理蒸着によってルテニウムを基にした保護が提案されている。
【0008】
同じ出願者による米国特許第4980244号(特許文献2)は、ルテニウムの代わりにイットリウムが0.2原子%のレベルで添加された、この被膜の変種を教示している。そのような被膜を塗布することが困難であることに加えて、高まる資源不足はルテニウムを選択し続けることはできないということであると留意しなければならない。
【0009】
別の米国特許第5019334号(特許文献3)でM.R.Jacksonは、これらの合金の保護被膜として化合物MCrAlY(式中、M=Ni、Coおよび/またはFe)を使用し、被膜にアルミナを添加することによって熱膨張差を調整することを提案している。任意の上述の合金RuCrAlの使用が示唆される。
【0010】
米国特許第5932033号(特許文献4)でM.R.Jacksonらによって提案される別の解決策は、クロムの含有量の増加により高温酸化に対する物質の内因的耐性を増大させることを含む。従って、組成:CrM(式中、M=Nb+Ti+Hf)を有する、耐酸化性である更に新しい相、すなわちラーベス相は、この複合体中で形成される。このように記述される物質は、それが存在する状態で、または被膜として使用することができる。この物質の別のバージョンは、米国特許第6419765号(特許文献5)で教示される。これらの2つの物質は、1400〜1600°F(745〜856℃)の温度で、少なくとも100時間、被膜なしで機能すると推測される。しかしながら、ラーベス相が非常に脆いことは周知である。
【0011】
米国特許第6521356号(Zhaoら)(特許文献6)は、ニオビウム、シリコン、チタンおよびクロムを基にした被膜でこの種の物質を保護することができ、この被膜は熱バリアの付加と両立することを教示する。この被膜は多数の元素を含み、分散液(スラリー)によって蒸着させる:すなわち、被覆される成分は、粘稠性有機結合剤中粉末の分散液中に浸漬される。好ましい組成は、66%のシリコン、10%のチタン、5%のクロムおよび19%のニオビウム(原子%)を含む。この組成物は、さらに一般的な次式:Nb1−x−yTiCrSi(式中、1>(x+y)≧0)に対応する。しかしながら、この相はもろく、界面で亀裂を生じる可能性がある。この保護の組成において、ホウ素、スズおよび鉄などの元素は、それらの濃度が5原子%を超えない限り、存在してもよい。最後に、この保護に、ジルコニウム、イットリウムによって安定にされたジルコニウム、ジルコニウム(珪酸ジルコニウム、ZrSiO)および/またはムライトのいずれかから構成される従来型熱バリアの蒸着物を追加することもできることに留意しなければならない。
【0012】
物理的蒸着、プラズマ蒸着などによる保護の様々な技術によって形成される全ての被膜がNb−Si型の複合物が意図される用途のために保護されることを可能にするわけではない。なぜなら、被膜は物質と異なる熱膨張率を有し、どのような亀裂もNb−Si型複合物の壊滅的な酸化をもたらすからである。この物質が1200℃の空気下で1時間の1サイクルと1000℃の空気下で1時間の2つのサイクルとの後に破壊される点に留意する必要がある。
【0013】
Guo,X.P.,Zhao,L.X.,Guan,P.,Kusabiraki,K.2007,Materials Science Forum561−565(PART1),pp.371−374(非特許文献1)によれば、分解する場合に気体状ハロゲン化酸を形成する、ハロゲン化アンモニウム型の拡散浸透処理(ハロゲン化アクチベーターを除く)によって蒸着させたシリコン系被膜でこの種の物質を保護することができる。Xiaoxia Li and Chingen Zhou,2007 Materials Science Forum 546−549(PART3),pp.1721−1724(非特許文献2)は、空気下でプラズマ投射によって蒸着させたMCrAlYで被覆されたニオビウムシリサイド合金に、ハロゲン化アクチベーターを使用する拡散浸透処理によってシリコン処理を適用したが、シリコン処理によってのみ得られる被膜は保護が十分でない。
【0014】
Chen Chen et al.(Intermetallics,15(2007)805−809)(非特許文献3)も、クロムも含むシリコンの被膜でNb−Si型物質を保護することを提案している。クロムは、クロム粉末およびハロゲン化アクチベーターを基にしたアンモニウム・ハロゲン化物型の拡散浸透処理によって蒸着され、これは分解すると、気体状のハロゲン化酸を形成する。シリコンは、シリコン粉末およびハロゲン化アクチベーターを基にした拡散浸透処理によるか、または溶融塩によるかのいずれかで蒸着される。
【0015】
さらに、ハロゲン化アクチベーターを用いた拡散浸透処理法を使用して、Tianらは、シリコンを基にし、アルミニウム(Surface and Coating Technology 203(2009)1161−1166)(非特許文献4)またはイットリウム(Surface and Coating Technology,204(2009)313−318)(非特許文献5)のいずれかを含む被膜を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4904546号
【特許文献2】米国特許第4980244号
【特許文献3】米国特許第5019334号
【特許文献4】米国特許第5932033号
【特許文献5】米国特許第6419765号
【特許文献6】米国特許第6521356号
【特許文献7】米国特許第5833773号
【特許文献8】米国特許第6313015号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Guo,X.P.,Zhao,L.X.,Guan,P.,Kusabiraki,K.2007,Materials Science Forum 561−565(PART1),pp.371−374
【非特許文献2】Xiaoxia Li and Chingen Zhou,2007Materials Science Forum 546−549(PART3),pp.1721−1724
【非特許文献3】Chen Chen et al.(Intermetallics,15(2007)805−809)
【非特許文献4】Surface and Coating Technology 203(2009)1161−1166
【非特許文献5】Surface and Coating Technology,204(2009)313−318
【非特許文献6】General Electric(B.P. Bewlay, M.R. Jackson, and H.A. Lipsitt “The Balance of Mechanical and Environmental Properties of a Multielement Niobium−Niobium Silicide−Based In situ Composite”, Metall. Mater. Trans. 27A(1996)3801−3808
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、ハロゲン化アクチベーターを使用するこれらの技術は、ニオビウムシリサイドの成分とともに、揮発性であるハロゲン化合物を形成し、これによってミクロ構造が局所的に分解される。従って、ハロゲン化ガスを使用することなく拡散によって被膜を作成することを可能にする技術を開発することが必要である。
【0019】
さらに、Nb−Si型物質の保護に関するこれらの技術の全ての説明は、ニオビウムシリコン合金の有効な保護は、「伝染腐食」温度と呼ばれる温度と高温との両方で得るのが非常に困難であることを示す。この「伝染効果」を回避するために、シリサイドは空気から隔離されなければならない。
【0020】
本発明の目的は、特にこれらの不都合をすべて克服することである。
【0021】
本出願者が実施した研究によって、高温でのシリサイドでの保護は、密閉されているかまたは酸素の拡散を遅らせる耐火性および接着性の被膜だけでは確実にできないことが示された。この被膜は、作業の間に亀裂を埋めることができるか、酸化物が剥離するかまたは揮発性になる場合に自己回復できるように、良好な粘塑性をさらに有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そのために、本発明は、シリコンおよびニオビウムを基にした複合耐火物の表面に高温酸化に対する保護被膜を形成する方法を提案し、この方法では、保護される表面上に存在するクロムを、シリコンおよび酸素を含む反応性ガスと反応させて、粘塑性特性を有するシリカを基にした酸化物相である第1相と、シリコン、クロムおよび酸素を基にした第2相との2相を有する複合被膜を生成させ、第1相および第2相を高温で合体させ、これにより保護被膜を形成させ、この際、第2相が、作業中に、酸化ガスとの反応によって第1相を改質するためのリザーバーとして作用する。
【0023】
このようにして、Nb−Si型の複合物を保護するために、本発明の方法は、使用中の熱機械制約を調整するために、異なる膨張率を有する2相によって構成される複合被膜の形成を可能にする。
【0024】
第1相は、シリカを基にした酸化物相によって構成され、これは使用温度で保護的かつ粘塑性である。第1相は、所望の温度範囲に従って粘塑性特性を調整するために、ホウ素および/またはゲルマニウム型の溶融元素を更に含んでもよい。
【0025】
第2相は、シリコン、クロムおよび酸素を実質的に含む。他の元素、例えば、ホウ素および/またはアルミニウムおよび/または鉄も含んでもよい。この第2相は、作業中に、酸素または任意の他の酸化ガス、例えば水蒸気との反応によって第1相を改質するためのリザーバーとして作用する。
【0026】
このように、本発明の被膜を備えたNb−Si型の複合物の成分が高温で気体状酸化雰囲気に置かれる場合、第2相は第1相が改質させるであろう。
【0027】
これらの「元素」の全てを得ることを可能にするための現在好ましい技術は、「VLS」(蒸気液体固体)と呼ばれる技術に由来する技術である。この「VLS」技術は、この場合、元素(典型的にはクロム)がNb−Si型の複合物中に十分な量で存在しないならば、あらかじめ蒸着された金属相と組み合わせることができる。
【0028】
従って、本発明の1つの目的は、この種のNb−Si複合物に好適であり、シリカ/シリコン、クロム、ホウ素および/またはゲルマニウムなどの溶融元素でドープおよび/または修飾された酸素を基にした複合体でもある被膜の形成を可能にする技術を開発することである。
【0029】
基本的概念は、合金の組成に由来するかまたは先に添加されたかのいずれかのクロム元素を、シリコン、酸素、および場合によってホウ素、ゲルマニウムなどの他の元素を含む気体と反応させることである。クロムを添加するための技術は、湿式(例えば、電解被覆、融解塩)または物理的(例えば、カソードスプレー、PVD、マグネトロン)、または当業者に周知の任意の他のクロム蒸着技術であってよい。シリコン、酸素、およびB、Ge型などの任意の他の元素を供給する気体を、標準的な市販の粉末からリアクター中のin situで生成させる。
【0030】
本発明の他の補完的な特徴を以下に記載する:
・第1相は、シリカ(SiO)を基にし、第2相は、シリコン、クロムおよび酸素(CrSiO)を基にする。
【0031】
・反応性ガスは、一酸化シリコン(SiO)を含み、例えば、1450℃以上の温度に置かれたシリカ(SiO)を含むドナーセメントから、in situで生成される(一酸化シリコンは、シリコン粉末とシリカとの混合物を活性化することによって得ることができる)。
【0032】
・ドナーセメントは、例えば、粉末の形でシリカ(SiO)と炭化シリコン(SiC)との混合物を含む(このセメントは、蒸発温度が1100〜1400℃である粉末状SiOと置換することができる)。
【0033】
・第1相は、ホウ素および/またはゲルマニウム型の溶融元素を更に含み、これによって、この相の粘塑性特性を作業温度範囲に従って調整することが可能になる。
【0034】
・第1相はホウ素を更に含み、反応性ガスは一酸化シリコン(SiO)および一酸化ホウ素(BO)を含む。
【0035】
・複合物に対して、粉末形態のシリカ(SiO)と炭化シリコン(SiC)との混合物を含むドナーセメントから生成される一酸化シリコン(SiO)を含む第1反応性ガスをまず反応させ、次いで粉末形態のシリカ(SiO)と炭化ホウ素(BC)との混合物を含む第2のドナーセメントから生成される一酸化シリコン(SiO)および一酸化ホウ素(BO)を含む第2の反応性ガスを反応させる。
【0036】
・保護される表面上に存在するクロムは、完全または部分的に、シリコンおよびニオビウムを基にした複合物の成分である。
【0037】
・保護される表面上に存在するクロムは、所望の厚さの層を形成するために保護される表面上での前蒸着によって完全または部分的に得られる。
【0038】
・クロム層の厚さは、5〜20μmであり、好適な厚さは15μmである。
【0039】
・クロムの事前蒸着物は、以下の群:電解蒸着、カソードスプレーによる蒸着から選択される蒸着技術によって得られる。
【0040】
・保護される表面上にスズの蒸着物を事前に形成し、好ましくは続いて減圧で熱処理作業を行う。
【0041】
・保護される表面上に、白金、パラジウムおよび金から選択される貴金属の蒸着物を事前に形成し、好ましくは続いて相互拡散アニーリング作業を行う。
【0042】
・保護される表面上に、窒化チタンの蒸着物を事前に形成する。
【0043】
・シリコンおよびニオビウムを基にした複合物は、一般的組成:Nb47%、Si16%、Ti25%、Al2%、Cr2%およびHf8%(原子%)を有する。
【0044】
本発明の別の態様は、前記方法の実施ならびにシリコンおよびニオビウムを基にした複合物の成分によって得られる被膜自体であって、その一表面が、前記方法の実施によって得られるものなどの保護被膜を備えているものに関する。
【0045】
単に例示のために記載する以下の詳細な説明では、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の保護被膜の形成を時間の関数として説明するグラフである。
【図2】クロムの蒸着と、それに続くSiOガスを使用する処理作業とによって保護されたNb−Si型の複合物を拡大されたスケールで表す表面図である。
【図3】図2の複合物を拡大されたスケールで表す、対応する顕微鏡断面図である。
【図4】クロムの蒸着と、それに続いてSiOガスを使用する処理作業およびSiO/BOガスを使用する処理作業によって保護されたNb−Si型の複合物を拡大されたスケールで表す表面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
まず、図1のグラフを参照する。前述のように、本発明の保護蒸着物を製造するために現在好ましい技術は、「VLS」として知られている技術に由来する。この技術は特定の気体を含むチャンバー中に物質を入れることを含むということに留意しなければならない。気体と物質の「元素または不純物」との間の反応、または気体と一般にナノメータ規模の事前蒸着物(predeposit)との間の反応のいずれかから液滴が形成される。
【0048】
触媒効果によって、気体は液滴中に吸着され、液滴中で気体が過飽和になる場合、核形成が生じ、等軸晶が成長する。
【0049】
エレクトロニクスまたは触媒に関して、ナノワイヤ、ウィスカ、半導体のナノ構造などを形成するために、この技術は、種々の技術分野で現在使用されている。
【0050】
図1の場合、クロムの事前蒸着物は15〜20μmの厚さでNb−Si型の複合物1の表面上に形成され、全体をチャンバー中に入れ、チャンバー中でSiOガスがin situで生成される。
【0051】
その中にSiOが吸着されたCrSiOの「液滴」または気泡2が形成される。組成Cr40Si3525が得られる場合、ロッド3の形態で成長するSiOの核形成がある。試験温度(1450℃)で、シリカは可塑性であり、相が合体し、合体したCrSiOの気泡が崩壊する。VLS成長に典型的なロッド/気泡構造は、表面でのみ認められる。クロムの一部は、Nb−Siを基にした下方の複合物中でも拡散し、従って、被膜のアンカリング(拡散ゾーン)も確実にした。
【0052】
図1は、左から右に、クロムの存在下で試料の表面上にSiOガスを反応させ、次いでVLS成長相中にロッド3を形成することによる、継続時間に従うCrSiOの液滴または気泡2の形成を示す。図1の右側の部分で見られるように、この相の後にSiOの側方成長相が続く。
【0053】
図1の特定例において、クロムは事前蒸着作業によって供給される。しかし、変形では、クロムは、その成分のうちの1つを形成する合金から直接供給され得る。合金の成分および保護される表面上の事前蒸着物の両方からクロムを供給することも可能である。
【0054】
図2は拡大されたスケール(拡大率×2000、10μmの目盛りを図示する)で表された表面図を示し、ここでは、VLS成長の典型的なロッド/気泡構造が認められる。しかし、この構造は表面でのみ見られる。
【0055】
図3の断面(拡大率×1000、20μmの目盛りを図示する)は、複合物1にはアンカリングゾーン4が配置され、次いで合体したSiOおよびCrSiO相を有する被膜が配置されているのが認められることを示す。
【0056】
SiOガスは、このガスの生成について周知のSiO/SiC混合物からオーブン中in situで生成される。これは、1450℃以下では得られない。これは、式:2C+SiO=SiC+COに従って炭素を炭化シリコンに変換するために、炭素−炭素複合体の保護で使用される。
【0057】
このガスは、VLS型の成長によって被膜に含めるためにはこれまで生成されていなかった。
【0058】
ホウ素を組み入れることも可能である。この目的のために、これまで使用されることのなかった新規混合物SiO/BCによって粉末混合物を修飾した。
【0059】
クロムの蒸着物をNb−Si型の複合物上に蒸着させ、SiOガスがSiO/SiCから発生するチャンバー中に入れ、次いでSiO/BOガスが粉末SiO/BCから生成されるチャンバー中に入れると、ホウ素が組み入れられ、これによりシリカよりも可塑性である表面でホウケイ酸ガラスを得ることが可能になる。一例を、図4(拡大率×1000、200μmの目盛りを図示する)の顕微鏡写真によって示す。これは、クロムの事前蒸着と、それに続いてSiOガスを使用する処理作業およびSiO/BOガスを使用する処理作業とによってまず保護されるNb−Si型複合物を示す。被膜の外観は、図2と比較して表面でより艶がある。
【0060】
以下の非限定的な例を参照して本発明を更に説明する:
【実施例1】
【0061】
保護被膜を、一般的組成Nb47%、Si16%、Ti25%、Al2%、Cr2%およびHf8%(原子%)を有するMASC(Metal And Silicide Composite(金属およびシリサイド複合体))と呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上に作成する。この合金は、General Electric(B.P. Bewlay, M.R. Jackson, and H.A. Lipsitt “The Balance of Mechanical and Environmental Properties of a Multielement Niobium−Niobium Silicide−Based In situ Composite, Metall. Mater. Trans. 27A(1996)3801−3808(非特許文献6);米国特許第5833773号(特許文献7))によって開発された。これは、複数の耐火性相、すなわち金属相(Mssと称されるニオビウムを基にしたリッチな固溶体)および複数のニオビウムシリサイド相(NbSiおよびNbSi型のもの)から構成される。
【0062】
試料を、組成:
SiO 75%
SiC 25%(質量パーセント)
を有するシリコンドナーセメント中または上に配置する。これらのパーセンテージは、化学量論組成に対応する。
【0063】
アルゴン流下で1450℃の温度に達したら、このセメントによってシリコンは基質の表面へと運ばれる。この作業の後、高温でのその酸化特性が特別であるSiO+CrSiOを基にした被膜が得られる。
【0064】
周期的な酸化を伴う1200℃の空気下で、このように保護されるMASC合金の耐用年数は、同じ保護されていない合金より16倍長い。
【実施例2】
【0065】
実施例1で記載されるように、保護被膜をMASC(Metal And Silicide Composite)と呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上で作成する。
【0066】
この目的のために、基質を、以下の条件下:
クロム酸(CrO)と呼ばれる三酸化クロム:250g.L−1
硫酸(HSO):2.5g.L−1
電流密度:50A/dm
T:60〜65℃
で生成される電解クロムの蒸着物でまず被覆する。
【0067】
要求される厚さに応じて、電気分解は0.5〜3時間持続する。5〜20μmの層を蒸着し、好ましい厚さは15μmである。
【0068】
場合によって、クロムで被覆された基質を、例えば、10−3Paを越える減圧で900℃、2時間の熱拡散処理作業に置いてもよい。この作業の後、試料を、組成
SiO 75%
SiC 25%(質量パーセント)
を有するシリコンドナーセメント中または上に配置する。
【0069】
アルゴン流下で1450℃の温度に達したら、このセメントによってシリコンは基質の表面へと運ばれる。この作業の後、高温でのその酸化特性が特別であるSiO+CrSiOを基にした被膜が得られる。試料は1200℃で1時間の45サイクルの酸化後に1mg/cmの質量増加があり、一方、保護されていない試料は1時間未満で破壊される。
【実施例3】
【0070】
実施例1で記載されるように、保護被膜をMASC(Metal And Silicide Composite)と呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上で作成する。
【0071】
この目的のために、基質を三極管カソード噴霧法によってクロムの蒸着物でまず被覆する。蒸着層は、5〜20μmの厚さを有し、好適な厚さは15μmである。試料を、以下の組成:
SiO 75%
SiC 25%(質量パーセント)
を有するシリコンドナーセメント中または上に配置する。
【0072】
アルゴン流下で1450℃の温度に達したら、このセメントによってシリコンは基質の表面へと運ばれる。この作業の後、高温でのその酸化特性が特別であるSiO+CrSiOを基にした被膜が得られる。
【0073】
例として、この被膜で保護される試料を、1200℃の温度で1時間の45サイクルで酸化した。試験の後、これは1.63mg/cmの質量減少があり、一方、保護されていない同じ試料は1時間未満で完全に破壊される。
【実施例4】
【0074】
セメントがシリコンおよびホウ素の両方のドナーであるという以外は、処置は前記実施例と同様である。セメントは、以下の組成を有する:
SiO 50%
C 50%(質量パーセント)
また、この場合、得られる結果は特別である。すなわち、基質MASCは、高温でのその酸化特性が特別である二酸化シリコン、酸化クロム、ホウ化クロムおよび酸ケイ化クロム(chromium oxysilicide)の蒸着物で被覆される。
【0075】
例えば、1000℃で1時間の20サイクルで酸化される試料は0.14mg/cmの質量減少があり、一方、保護されていない同じ試料は、同じ温度にて1時間で完全に破壊される。
【実施例5】
【0076】
シリコンおよびホウ素の両方のドナーであるセメントが前記実施例よりもホウ素を多く含むということを除いて、手順は前記実施例と同様である。セメントは、以下の組成を有する:
SiO 16%
C 84%(質量パーセント)
この場合も、得られる被膜は高温酸化に対して特別な耐性を有する。
【実施例6】
【0077】
手順は実施例3と同様であり、次いで第2の処理作業を実施し、ここでは、シリコンおよびホウ素の両方を提供するセメント中または上に試料を配置する。第2のセメントは、以下の組成を有する:
SiO 50%
C 50%(質量パーセント)
試料を、1000℃で1時間の50サイクルの酸化試験に付す。この試験の後、0.74mg/cmの質量増加があり、一方、保護されていない同じ試料はこの温度にて1時間で完全に破壊される。
【実施例7】
【0078】
手順は実施例3と同様であり、次いで第2の処理作業を実施し、ここでは、シリコンおよびホウ素の両方を供給するが、実施例6よりホウ素を多く含むセメント中または上に試料を配置する。第2のセメントは、以下の組成を有する:
SiO 16%
C 84%(質量パーセント)
試料を、1000℃で1時間の300サイクルの酸化試験に付す。この試験の後、1.09mg/cmの質量減少があり、一方、保護されていない同じ試料はこの温度にて1時間で完全に破壊される。
【0079】
しかし、例えば、偶然に亀裂が入って被膜が全体的に破壊される場合、Nb−Si型物質の酸化に対する低レベルの耐性を考慮すると、下方の基質が酸化され、これによって被膜が剥離し、物質が破壊されることに留意しなければならない。
【0080】
これを克服するために、先に述べたように被膜を生成させる前に、スズまたは貴金属(白金、金)などの固体基質の耐酸化性を改善することが知られている元素によるか[Geng et al Intermetallics 15(2007)270−281]、または例えば拡散バリアとしてのその特性が当業者に周知である窒化チタンなどの酸素拡散バリアを蒸着することによるかのいずれかで、被膜と接触する合金の表面を局所的に修飾することが提案されている。
【実施例8】
【0081】
保護被膜を、MASCと呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上で作成する。この目的のために、基質を、4〜7μmのスズの蒸着物でまず被覆し、続いて減圧、700℃で12〜32時間熱処理作業を行う。その後、手順は実施例1と同様である。
【0082】
この場合も、得られる結果は特別である。すなわち、MASC基質は、高温のその酸化特性が特別である蒸着物によって被覆されている。
【実施例9】
【0083】
保護被膜を、MASCと呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上で作成する。この目的のために、基質を、4〜7μmのスズの蒸着物でまず被覆し、続いて減圧、700℃で12〜32時間熱処理作業を実施する。その後、手順は実施例2と同様である。
【0084】
この場合も、得られる結果は特別である。すなわち、MASC基質は、高温でのその酸化特性が特別である蒸着物によって被覆されている。
【実施例10】
【0085】
保護被膜を、MASCと呼ばれるニオビウムおよびシリコンの合金上で作成する。この目的のために、基質を、4〜7μmのスズの堆積物でまず被覆し、続いて減圧、700℃で12〜32時間熱処理作業を実施する。その後、手順は、被膜に望ましい特性にしたがって実施例3〜7と同様である。
【0086】
この場合も、得られる結果は特別である。すなわち、MASC基質は、高温でのその酸化特性が特別である蒸着物によって被覆されている。
【実施例11】
【0087】
実施例8〜10を繰り返し、当業者に周知の技術の1つを使用し、場合によってそれに続いて相互拡散アニーリング作業を行うことによって得られる白金の蒸着物でスズの蒸着物を置換する。
【0088】
全ての場合において、高温および中温で良好な酸化特性を有する被膜が得られる。
【実施例12】
【0089】
実施例8〜10を繰り返し、当業者に周知の技術の1つを使用し、場合によってそれに続いて相互拡散アニーリング作業を行うことによって得られるパラジウムの蒸着物でスズの蒸着物を置換する。
【0090】
全ての場合において、高温および中温で良好な酸化特性を有する被膜が得られる。
【実施例13】
【0091】
実施例8〜10を繰り返し、当業者に周知の技術の1つを使用し、場合によってそれに続いて相互拡散アニーリング作業を行うことによって得られる金の蒸着物でスズの蒸着物を置換する。
【0092】
全ての場合において、高温および中温で良好な酸化特性を有する被膜が得られる。
【実施例14】
【0093】
実施例8〜10を繰り返し、当業者に周知の技術の1つを使用して得られる窒化チタンの蒸着物でスズの蒸着物を置換する。
【0094】
全ての場合において、高温および中温で良好な酸化特性を有する被膜が得られる。
【実施例15】
【0095】
SiO/SiCセメント(シリカ/炭化シリコン)を、米国特許第6313015号(特許文献8)に記載するように、加熱によって蒸発してSiOガスになる市販のSiO粉末で置換して、前記実施例1、2、3、6〜14を繰り返す。
【実施例16】
【0096】
一酸化シリコンガス(SiO)源がシリコン(Si)およびシリカ(SiO)の粉末の混合物の活性化によって得られ、米国特許第6313015号に記載されるように、活性化が、熱処理、レーザー加熱、マグネトロンまたは三極管カソードプラズマによって実施されるというだけの違いで、前記実施例1、2、3、6〜14を繰り返す。この場合でも、得られる被膜は、高温で例外的な耐酸化性を有する。前記粉末の圧縮により得られる標的の活性化によって得られるか、または前記粉末と同じ組成の固体物質から切り出された標的から、同じ結果を得ることができる。
【0097】
本発明は、好ましくは航空エンジンの分野で使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンおよびニオビウムを基にした複合耐火物の表面上に高温酸化に対する保護被膜を形成する方法であって、その第1相は調節可能な粘塑性特性を有するシリカ(SiO)を基にした酸化物相であり第2相はシリコン、クロムおよび酸素(CrSiO)を基にする2相を有する複合被膜を生成させるために、保護される表面上に存在するクロムを、シリコンおよび酸素を含む反応性ガスと反応させ、前記第1相および第2相を高温で合体させ、これによって保護被膜が形成され、前記第2相が、作業中に、酸化ガスとの反応によって前記第1相を改質するリザーバーとして作用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応性ガスは一酸化シリコン(SiO)を含み、1450℃以上の温度に置かれたシリカ(SiO)を含むドナーセメントからin situで生成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ドナーセメントが粉末の形態のシリカ(SiO)および炭化シリコン(SiC)の混合物を含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
シリカ(SiO)を基にした第1相が、ホウ素および/またはゲルマニウム型の溶融元素を更に含み、これにより、作業温度範囲にしたがってこの相の粘組成特性を調整することが可能になることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1相がホウ素を更に含み、前記反応性ガスが一酸化シリコン(SiO)および一酸化ホウ素(BO)を含むことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
複合物に関して、粉末形態のシリカ(SiO)および炭化シリコン(SiC)を含むドナーセメントから生成される一酸化シリコン(SiO)を含む第1反応性ガスをまず反応させ、次いで粉末形態のシリカ(SiO)および炭化ホウ素(BC)を含む第2のドナーセメントから生成される一酸化シリコン(SiO)および一酸化ホウ素(BO)を含む第2の反応性ガスを反応させることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
保護される表面上に存在するクロムの全部または一部が、シリコンおよびニオビウムを基にした複合物に由来することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記保護される表面上に存在するクロムの全部または一部が、所望の厚さの層を形成するための前記保護される表面上の事前蒸着によって得られることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
事前蒸着物が、電解蒸着技術によってもしくはカソード噴霧法による蒸着によって得られ、前記層の所望の厚さが5〜20μmであり、好適な厚さが15μmであることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記保護される表面上に事前にスズの蒸着物が形成され、好ましくはそれに続いて減圧で熱処理作業を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記保護される表面上に、白金、パラジウムおよび金から選択される貴金属の蒸着物を事前に形成し、好ましくは続いて相互拡散アニーリング作業を実施する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記保護される表面上に事前に窒化チタンの蒸着物を形成する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られる保護被膜。
【請求項14】
その一表面が、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られるものなどの保護被膜を備えている、シリコンおよびニオビウムを基にした複合物の部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87406(P2012−87406A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−213476(P2011−213476)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(508006470)オネラ(オフィス・ナショナル・ドゥエチュード・エ・ドゥ・ルシェルチェ・アエロスパシャル) (5)
【氏名又は名称原語表記】ONERA (OFFICE NATIONAL D’ETUDES ET DE RECHERCHES AEROSPATIALES)
【Fターム(参考)】