説明

シリコンの精製方法

【解決手段】不純物を含有するシリコンと、不純物精製用添加剤として金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とをシリコンの融点に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成してこのスラグに不純物を吸収させてシリコン中の不純物を除去することを特徴とするシリコンの精製方法。
【効果】本方法と、一方向凝固法、真空溶解法を使用することにより、極めて安価に、金属シリコンを太陽電池に使用可能な高純度シリコンに精製することができる。なお、得られた高純度シリコンは、太陽電池用のシリコン原料に限定されることなく、高純度シリコンを必要とする各種産業に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコンから不純物、特にホウ素(B)及び燐(P)を同時に簡単な方法で、効果的に除去し、精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は再生可能な自然エネルギー源として注目されている。現在、実用段階にある商用太陽電池の大部分は、シリコンを用いたシリコン系太陽電池である。
【0003】
シリコンは、通常アーク炉を用い、珪石(SiO2)をカーボンで還元して得る。これを一般的に金属グレード(MG)シリコンと呼び、純度は98%〜99%程度で、Fe,Ca,Ti等の金属不純物と、半導体のドーパント材料であるB、P等が含まれている。このMGシリコンをシーメンス法により精製し、高純度化する。これをCZ法やFZ法により純度を99.999999999%(11N)程度にまで超高純度化し、各種半導体の製造に使用する。これを半導体用(SE)シリコンと呼ぶ。
【0004】
太陽電池に使用されるシリコンは、99.9999%(6N)程度の純度が必要とされ、各金属不純物は0.1質量ppm以下、ドーパントとして作用するB、Pも0.1質量ppm以下であることが要求される。これを一般的にソーラーグレード(SOG)シリコンと呼ぶ。SEシリコンはSOGシリコンの純度の要求値を十分満たしている。
【0005】
しかしながら、SEシリコン製造に用いられるシーメンス法は、MGシリコンを塩素と反応させてガス化し、さらに水素と混合し、電流で赤熱させた純粋シリコン上に還元・析出させるという複雑な工程と大量のエネルギーを要する。したがって、コストが高く、大量にシリコンを必要とする太陽電池の低コスト化の障害となる。
【0006】
そこで、MGシリコンから簡便な手法で、安価なSOGシリコンを得る試みが多くなされてきた。MGシリコン中の不純物のうち、Fe、Al、Ca等の金属不純物は、シリコンの固液間における分配係数が小さいことを利用して一方向凝固法で除去することができる。即ち、シリコン融液が固化する際の固液近傍における(固相シリコン中の不純物濃度)/(液相シリコン中の不純物濃度)が1よりはるかに小さく、最後に固化する部分にこれらの金属不純物が濃縮され、他の大部分のシリコンからこれらの不純物を除去できる。
【0007】
ところが、Bの分配係数は0.8程度、Pは0.35程度であり、工業的に上述の一方向凝固を利用して除去することは困難である。
【0008】
B及びPの除去に対して、種々の方法が提案されている。特開平9−202611号公報(特許文献1)には、1400℃以下で分解し、H2O及び/又はCO2を発生する1種又は2種以上の固体をAr、H2、COなどのキャリアガスと共に溶融シリコン浴中に吹き込むBの除去方法が開示されている。
【0009】
特開平5−246706号公報(特許文献2)には、シリカを主成分とする容器内に溶融シリコンを保持し、この溶融シリコンと上部に設けた電極間にアークをとばすと共に、容器の底部より、不活性ガス、望ましくは酸化性ガスを添加して吹き込むBの除去方法が開示されている。
【0010】
特開2003−12317号公報(特許文献3)には、ホウ素濃度が100質量ppm以下であるシリコンに、塩基性成分を含むフラックスを添加し、これらを溶融させるフラックス添加工程と、シリコンにノズルを浸漬し、酸化性ガスを吹き込む反応工程と、シリコンからフラックスを除去するフラックス除去工程を有し、フラックスにはCaO、CaCO3又はNa2Oを含み、特にCaO−CaF2混合フラックスが好ましいBの除去方法が開示されている。
【0011】
特許第3205352号公報(特許文献4)には、溶融シリコンの溶湯面に、不活性ガス又はこれにH2を混入した混合ガスに水蒸気を添加したガスをプラズマガスとして用いて発生させたプラズマガスジェット流を噴射して溶融シリコンを撹拌するBの除去方法が開示されている。
【0012】
一方、Pは蒸気圧が高いことを利用して、シリコンを高真空下で溶解することによりシリコンから揮散、除去する方法が提案されている。
【0013】
特許第3325900号公報(特許文献5)には、金属シリコンを真空化において電子ビーム等で溶解し、その含有する燐を気化脱Pした後、酸化性雰囲気でプラズマトーチ等を用いて加熱し、Bを除去する方法が開示されている。
【0014】
特開2005−255417号公報(特許文献6)には、金属シリコンと不純物精製用の添加剤を加熱して、シリコンを溶融状態にし、添加剤が溶融シリコンと混合するように撹拌しながら不揮発性であるB等を低減した後、高真空下で揮発性のP等を除去する方法が開示されている。
【0015】
しかし、特許文献1〜4の方法は、いずれもB除去を主眼にしており、P除去には触れていない。したがって、別途P除去のための工程が必要になる。さらに特許文献4は、高価なプラズマトーチを設置する必要があり、いずれも低コストのSOGシリコンの製造には不適である。
【0016】
特許文献5、6の方法は、脱Bと脱Pが別の工程で行われており、非常に煩雑である。また、高真空下で処理を行う工程を有し、高真空に耐える大型、強固な設備の導入が不可欠になる。さらに、特許文献5は、電子ビームやプラズマトーチなどの高価な設備も必要とし、いずれも低コストのSOGシリコンの製造には不適である。
【0017】
【特許文献1】特開平9−202611号公報
【特許文献2】特開平5−246706号公報
【特許文献3】特開2003−12317号公報
【特許文献4】特許第3205352号公報
【特許文献5】特許第3325900号公報
【特許文献6】特開2005−255417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シリコンの精製におけるB、Pを同時に、かつ簡便で効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、不純物を含有するシリコンと、不純物精製用の添加剤として金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とをシリコンの融点に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成してこのスラグに不純物を吸収させることで、シリコン中の不純物、特にホウ素及び燐を同時に、効率よく除去することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0020】
即ち、本発明は、下記のシリコンの精製方法を提供する。
(1)不純物を含有するシリコンと、不純物精製用添加剤として金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とをシリコンの融点に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成してこのスラグに不純物を吸収させてシリコン中の不純物を除去することを特徴とするシリコンの精製方法。
(2)不純物がホウ素及び燐のいずれか一方又は両方である(1)記載のシリコンの精製方法。
(3)形成したスラグとシリコンとを分離する(1)又は(2)記載のシリコンの精製方法。
(4)形成したスラグをシリコンと接触させ、3分以上経過した後に分離する(3)記載のシリコンの精製方法。
(5)前記精製用添加剤が、さらに二酸化珪素及び酸化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体を含む(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
(6)不純物精製用添加剤として、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とを混合、加熱し、予めフラックス化したものを用いる(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
(7)不純物精製用添加剤として、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体と、二酸化珪素及び酸化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体とを混合、加熱し、予めフラックス化したものを用いる(5)記載のシリコンの精製方法。
(8)不純物を含有するシリコンと、予めフラックス化した前記精製用添加剤とを予め混合し、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成する(6)又は(7)記載のシリコンの精製方法。
(9)不純物を含有するシリコンを、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とした後、予めフラックス化した前記精製用添加剤を添加し、スラグを形成する(6)又は(7)記載のシリコンの精製方法。
(10)不純物を含有するシリコンと、前記精製用添加剤とを予め混合し、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とし、スラグを形成する(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
(11)不純物を含有するシリコンを、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とした後、前記精製用添加剤を同時又は個別に添加し、スラグを形成する(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
(12)前記精製用添加剤の個別の添加の間隔が30分以内である(11)記載のシリコンの精製方法。
(13)前記精製用添加剤の同時又は個別の添加を2回以上に分けて行う(11)又は(12)記載のシリコンの精製方法。
(14)既に形成されたスラグを分離した後、前記精製用添加剤の添加を再度行う(3)〜(13)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
(15)前記精製用添加剤の添加からスラグを分離するまでの間隔が3分以上である(14)記載のシリコンの精製方法。
(16)前記精製用添加剤を添加し、スラグ形成後、このスラグを分離する工程を複数回実施する(14)又は(15)記載のシリコンの精製方法。
(17)精製したシリコン中のホウ素濃度が5質量ppm以下である(16)記載のシリコンの精製方法。
(18)精製したシリコン中の燐濃度が5質量ppm以下である(16)又は(17)記載のシリコンの精製方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に、一方向凝固法、真空溶解法等を併用することにより、極めて安価に、金属シリコンを太陽電池に使用可能な高純度シリコンに精製することができる。また、本発明の方法により、金属シリコン(MG−Si)に限らず、半導体製造工程でB、Pその他の不純物をドープしたオフグレード品と呼ばれる廃シリコン材も精製することができる。なお、得られた高純度シリコンは、太陽電池用のシリコン原料に限定されることなく、高純度シリコンを必要とする各種産業に利用することができる。
本発明によれば、シリコン中のBとPを1つの工程で同時に5質量ppm以下、特に1質量ppm以下まで除去することができる。また、高真空雰囲気も必要とせず、一般的な大気開放炉を使用する。さらに、電子ビームやプラズマトーチ等の高価な設備も不要であるため、設備投資額を大幅に低減できる。この結果、極めて安価にB及びPが低減されたシリコンを得ることができる。
本発明を用いて得られたシリコンに、一方向凝固法等を施すことで、B、P以外の金属不純物等を除去し、純度6N程度の太陽電池に使用可能なSOGシリコンとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のシリコンの精製方法は、不純物を含有するシリコンと、不純物精製用の添加剤として金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とをシリコンの融点に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成して、このスラグに不純物、特にB及びPを同時に吸収、分配させた後、好ましくはシリコンとスラグを分離するものである。
【0023】
本発明の特徴は、不純物を精製する添加剤に、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体と、必要に応じて二酸化珪素及び酸化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体とを用いることで、BとPを同時に除去する点にある。
【0024】
ここで、通常の脱B反応は、
2B+3/2O2→B23 ・・・(1)
に代表されるような酸化反応である。
【0025】
本発明は、Caの持つ強い還元力を利用し、金属Caの
Ca→Ca2++2e- ・・・(2)
及び/又はCaC2
2→C+2e- ・・・(3)
の酸化反応により、
P+3e-→P3- ・・・(4)
の還元反応を誘起し、
3Ca+2P→Ca32 ・・・(5)
の如くPを除去し、同時にBも除去する。
【0026】
本発明においては、シリコンと不純物精製用添加剤を混合、加熱してスラグを形成し、このスラグにシリコン中の不純物を吸収させるが、溶融シリコンの温度としては、シリコンの融点(1410℃)以上であればよく、1450℃以上が好ましく、工業的な用途としては、2400℃以下、特に2000℃以下が好ましい。これより高温であると、溶融シリコンと精製用添加剤が激しく反応し、シリコンの収率が低下し、炉材の損傷が激しくなる場合がある。
【0027】
溶融シリコンと精製用添加剤を接触させ、反応を促進させるために、少なくとも3分、特に5分〜60分シリコンとスラグを共存させることが好ましい。その後、シリコンとスラグを分離すればよい。また、通常はシリコンとスラグを接触後、2〜3時間程度で反応が完了してから分離することが好ましく、必要に応じ、それ以前に分離することも可能である。シリコンとスラグの接触時間が短すぎると精製用添加剤と不純物の反応度合いが低すぎる場合があり、長すぎるとスラグ中に取り込まれた不純物が溶融シリコンへ再び戻る場合がある。
【0028】
ここで、本発明に用いる精製用添加剤のフッ化カルシウムは、B、P除去の反応への関与は小さいと考えられるが、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体を溶解し、シリコンとの良好な接触状態を発生、維持する溶媒の役割を担う。
【0029】
二酸化珪素は、例えば(1)式のような酸化反応を励起することで脱Bを促進する酸化剤として働くため、必要に応じて添加するとよい。
【0030】
(1)式で生成したB23等のB酸化物は、シリコン溶湯外へ揮散するが、酸化カルシウムを添加することで酸化カルシウムに固定することもできる。
【0031】
(5)式で生成したCa32は、フッ化カルシウムに固定されるが、酸化カルシウムを添加することで、B23等のB酸化物同様に酸化カルシウムに固定することもできる。
【0032】
また、本発明において、金属カルシウムと炭化カルシウムの使用量は、合計使用量として、金属シリコンの10質量%〜100質量%が好ましく、より好ましくは20質量%〜80質量%であり、フッ化カルシウムの使用量は、金属カルシウムと炭化カルシウムの合計量の10質量%〜100質量%が好ましく、より好ましくは20質量%〜80質量%である。二酸化珪素及び/又は酸化カルシウムを添加する場合、その合計量は、金属カルシウムと炭化カルシウムの合計量の10質量%〜100質量%、特に20質量%〜80質量%が好ましい。ただし、いずれもその範囲に限定されるものではない。
【0033】
シリコンと上記精製剤を混合、加熱する場合、精製剤は、事前に精製剤のみ同士を混合、加熱し、溶融後、冷却してフラックス化してもその効果に影響は無い。この場合の加熱温度は、精製剤の組成に応じ精製剤が溶融する温度以上とすればよく、必要に応じて1〜数時間保持後冷却すればよい。
【0034】
シリコンと精製剤を接触させる態様も、シリコンと事前に混合した後、加熱融解してもよく、シリコンのみを加熱融解した後に、精製剤を添加してもB、Pの除去能力は変わらない。
【0035】
即ち、シリコンとフラックス化した精製剤を混合する際は、シリコンとフラックス化した精製剤を予め混合してシリコンの融点以上に加熱してもよいし、シリコンを加熱して溶融状態とした後、フラックス化した精製剤を添加してもよい。
【0036】
また、シリコンを加熱して溶融状態とした後、ここに上記精製剤全てを同時に添加してもよいし、個別に加えてもよい。個別に添加する場合、添加の間隔は30分以内、特に20分以内であることが好ましい。間隔が長すぎると先に加えた精製剤が融解後揮散し、精製剤が無駄になるだけでなく、形成されるスラグの組成が所望とする組成と異なる場合がある。
【0037】
また、精製剤の添加は、同時に添加する場合も個別に添加する場合も2回以上に分けて行うことができる。これによりスラグの形成が速やかに完了する等の効果を得ることができる。
【0038】
精製剤を複数回添加する場合、既に形成されたスラグを分離した後、新たな精製剤を添加してもよく、この場合、不純物と精製剤の反応を完了させる点から精製剤を添加してから3分以上、特に5分〜60分経過後にスラグを分離することが好ましい。
【0039】
なお、ホウ素と燐の濃度の測定は、ICP−AES(高周波誘導結合プラズマ原子分光分析)法等で行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において使用した不純物を含有するシリコンのB、Pの各不純物濃度は以下の通りである。
B:20質量ppm、P:40質量ppm
不純物濃度の測定は、ICP−AES法により行った。
【0041】
[実施例1]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:3.1質量ppm、P:2.4質量ppmであった。
【0042】
[実施例2]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、形成したスラグを分離し、改めて炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを添加し、さらに1時間反応させた。その後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:0.4質量ppm、P:0.2質量ppmであった。
【0043】
[実施例3]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま3分反応した後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:3.7質量ppm、P:2.9質量ppmであった。
【0044】
[実施例4]
黒鉛製るつぼに不純物精製用の添加剤として金属カルシウム100g、フッ化カルシウム100g、二酸化珪素100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、350℃/時で降温し、固化させてフラックスとした。
その後、黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として上記のフラックスの全量を入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:2.8質量ppm、P:2.5質量ppmであった。
【0045】
[実施例5]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として実施例4で得られたフラックスの全量を入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。シリコンが溶融状態になったことを確認した後、不純物精製用の添加剤として金属カルシウム100g、フッ化カルシウム100g、二酸化珪素100gを5分間隔で溶融シリコン中に添加し、そのまま60分反応した。形成したスラグを分離し、350℃/時で降温、固化させ、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:2.0質量ppm、P:2.1質量ppmであった。
【0046】
[実施例6]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、形成したスラグを分離し、改めて炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを添加し、さらに1時間反応させた。形成したスラグを分離し、さらに炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100gを添加し、さらに1時間反応させた。その後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:0.05質量ppm、P:0.07質量ppmであった。
【0047】
[実施例7]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100g、二酸化珪素80g、酸化カルシウム20gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、形成したスラグを分離し、改めて炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100g、二酸化珪素80g、酸化カルシウム20gを添加し、さらに1時間反応させた。形成したスラグを分離し、さらに炭化カルシウム100g、フッ化カルシウム100g、二酸化珪素80g、酸化カルシウム20gを添加し、さらに1時間反応させた。その後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:0.02質量ppm、P:0.03質量ppmであった。
【0048】
[比較例1]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:19.7質量ppm、P:38質量ppmと測定誤差を考慮すると、B、Pは除去されていなかった。
【0049】
[比較例2]
黒鉛製るつぼにシリコン1kgと不純物精製用の添加剤として炭化カルシウム100gを入れ、350℃/時で昇温し、1500℃に加熱した。そのまま60分反応した後、形成したスラグを分離し、改めて炭化カルシウム100gを添加し、さらに1時間反応させた。その後、80℃/時で降温し、固化したシリコンから不純物分析用サンプルを採取した。サンプル中のB、Pの不純物濃度は、B:19.5質量ppm、P:38質量ppmであり、B、Pは除去されていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含有するシリコンと、不純物精製用添加剤として金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とをシリコンの融点に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成してこのスラグに不純物を吸収させてシリコン中の不純物を除去することを特徴とするシリコンの精製方法。
【請求項2】
不純物がホウ素及び燐のいずれか一方又は両方である請求項1記載のシリコンの精製方法。
【請求項3】
形成したスラグとシリコンとを分離する請求項1又は2記載のシリコンの精製方法。
【請求項4】
形成したスラグをシリコンと接触させ、3分以上経過した後に分離する請求項3記載のシリコンの精製方法。
【請求項5】
前記精製用添加剤が、さらに二酸化珪素及び酸化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体を含む請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコンの精製方法。
【請求項6】
不純物精製用添加剤として、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体とを混合、加熱し、予めフラックス化したものを用いる請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコンの精製方法。
【請求項7】
不純物精製用添加剤として、金属カルシウム及び炭化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体と、フッ化カルシウムの固体と、二酸化珪素及び酸化カルシウムのいずれか一方又は両方の固体とを混合、加熱し、予めフラックス化したものを用いる請求項5記載のシリコンの精製方法。
【請求項8】
不純物を含有するシリコンと、予めフラックス化した前記精製用添加剤とを予め混合し、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融した状態とし、スラグを形成する請求項6又は7記載のシリコンの精製方法。
【請求項9】
不純物を含有するシリコンを、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とした後、予めフラックス化した前記精製用添加剤を添加し、スラグを形成する請求項6又は7記載のシリコンの精製方法。
【請求項10】
不純物を含有するシリコンと、前記精製用添加剤とを予め混合し、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とし、スラグを形成する請求項1〜5のいずれか1項記載のシリコンの精製方法。
【請求項11】
不純物を含有するシリコンを、シリコンの融点以上に加熱してシリコンを溶融状態とした後、前記精製用添加剤を同時又は個別に添加し、スラグを形成する請求項1〜5のいずれか1項記載のシリコンの精製方法。
【請求項12】
前記精製用添加剤の個別の添加の間隔が30分以内である請求項11記載のシリコンの精製方法。
【請求項13】
前記精製用添加剤の同時又は個別の添加を2回以上に分けて行う請求項11又は12記載のシリコンの精製方法。
【請求項14】
既に形成されたスラグを分離した後、前記精製用添加剤の添加を再度行う請求項3〜13のいずれか1項記載のシリコンの精製方法。
【請求項15】
前記精製用添加剤の添加からスラグを分離するまでの間隔が3分以上である請求項14記載のシリコンの精製方法。
【請求項16】
前記精製用添加剤を添加し、スラグ形成後、このスラグを分離する工程を複数回実施する請求項14又は15記載のシリコンの精製方法。
【請求項17】
精製したシリコン中のホウ素濃度が5質量ppm以下である請求項16記載のシリコンの精製方法。
【請求項18】
精製したシリコン中の燐濃度が5質量ppm以下である請求項16又は17記載のシリコンの精製方法。

【公開番号】特開2008−266075(P2008−266075A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111622(P2007−111622)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】