説明

シリコンオンインシュレーター構造体の製造方法

【課題】バブル欠陥が少ない埋込み酸化物層を有する厚さ25nm以下シリコンオンインシュレーター構造体を提供すること。
【解決手段】(a)シリコン層を含むドナー基板及び支持基板を提供するステップであり、両基板の一方のみが酸化物層で覆われているもの、(b)ドナー基板においてシリコン層の境界となる弱帯を形成するステップ、(c)酸化物層をプラズマ活性化するステップ、(d)ドナー基板を支持基板に接合するステップであり、酸化物層が接合界面に配置され、接合が部分真空中で実行されるもの、(e)接合強化アニールを350℃以下の温度で行うステップであり、アニールはドナー基板を弱帯に沿って劈開させるもの、(f)シリコンオンインシュレーター構造体に対し、900℃超の温度で欠陥を修復する熱処理を加えるステップであり、(e)から(f)への温度遷移が10℃/s超の勾配率であるものを含むシリコンオンインシュレーター構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン層、厚さ25nm以下の埋込み酸化物層、および支持基板を含むシリコンオンインシュレーター構造体、ならびにそのような構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンオンインシュレーター(SOI)構造体は、CMOS用途において頻繁に使われる。
【0003】
そのような構造体は、その有効表面からその底側に向けて、薄シリコン層と、BOX(Buried OXide(埋込み酸化物)の頭文字)によって一般に表わされる典型的な酸化物、例えば、SiOである誘電材料で作られる埋込み層と、支持基板とを含む。
【0004】
薄シリコン層と酸化物層の厚さは、意図した用途に依存して変化しうる。
【0005】
特に、薄シリコン層の厚さは、50nm以下、更には20nm以下の厚さに減厚され、特にFDSOI(完全空乏型SOI)構造体と呼ばれるものを得ることを可能にするために約12nmに減厚され、その構造体は、薄シリコン層の厚さが約70から90nmのPDSOI(部分空乏型SOI)構造体と呼ばれるものに関連する動作上の不安定性を有意に減じることおよび性能を相当に改良することの利点、すなわち、低動的電力、低漏れ電流、高トランジスタ密度を有する。
【0006】
これらの構造体の中で、UTBOX(Ultra−Thin Buried OXide(超薄埋込み酸化物)の略)構造体は、超極薄埋込み酸化物層を有し、この電気絶縁層の極端な薄さにより、電圧をその構造体の裏側(すなわち、薄シリコン層の反対側)に印加することを可能にし、したがって、デバイスの動作の正確な制御を可能にするので、高い有望性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/049496号パンフレット
【特許文献2】仏国特許出願公開第2911429号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"A model of interface defect formation in silicon wafer bonding", S. Vincent et al., Applied Physics Letters, 94, 101914, (2009)
【非特許文献2】"Study of the formation, evolution, and dissolution of interfacial defects in silicon wafer bonding", S. Vincent et al., Journal of Applied Physics, 107, 093513, (2010)
【発明の概要】
【0009】
用語「超薄」は、50nm以下の厚さを有するという意味であると理解される。
【0010】
25から50nmの間の厚さである埋込み酸化物層を有する構造体の製造方法は、現在、その特徴が非常に良くわかっており、後続の部品製造と適合する欠陥レベルを有するような構造体を生成することが可能である。
【0011】
しかしながら、25nm以下、特に15nm以下の厚さの埋込み酸化物層を有するUTBOX構造体は、現在、部品製造業者の要件と容易に適合しない欠陥レベルでしか作ることができない。
【0012】
より正確には、この欠陥は、SmartCut(商標)法を使って作られたSOI基板の場合において、薄シリコン層と機械的支持体の間に配置された接合界面で見られるバブリング効果またはブリスタリング効果によるものである。
【0013】
図1は、nmで表したBOX層の厚さの関数として欠陥の変化を示す。
【0014】
このグラフに示す欠陥は、薄シリコン層が転写された直後にSOI構造体の表面で数えられたバブルの数である。
【0015】
BOX層が15nm未満の厚さ(ハッチをかけた領域)を有する構造体の場合、バブリングは非常に広範囲にわたるため、バブルを数えることは不可能である。
【0016】
図2Aから図2Dは、SmartCut(商標)法を使用して、そのような構造体を作製する第1の既知の方法におけるメインステップを示す。
【0017】
図2Aを参照すると、酸化物層2は、薄シリコン膜が転写されるドナー基板31の表面に形成される。
【0018】
弱帯(weak zone)32は、転写される薄層3の厚さに対応する深さで、例えば、(図2Bの矢印によって表される)原子種の注入によって、酸化物層2を通して形成される。
【0019】
図2Cを参照すると、ドナー基板31(酸化物層2を経由)およびレシーバ基板1は、分子接着によって親水性接合される。
【0020】
この接合ステップの後には、接合強度を増す目的で、接合強化アニールが続く。
【0021】
次に、エネルギー、例えば熱エネルギーの供給により、ドナー基板31は弱帯32において劈開(cleave)される。
【0022】
通常は、接合強化アニールは低温(すなわち、200から550℃の間の温度)で実行され、そのことで接合界面が強化され、ドナー基板の劈開を同じステップで開始することが可能となる。
【0023】
ドナー基板の転写されない部分が剥離された後、シリコンオンインシュレーター構造体(図2D)が得られ、この構造体に、従来の仕上げ処理(高速熱アニーリング(RTA)、犠牲酸化等)が適用される。これらの処理は、とりわけ、薄半導体層の表面を滑らかにし、注入に関連した欠陥(implantation−related defects)を修復することを目的とするものである。
【0024】
1つまたは複数のRTA処理は、典型的には、900℃超の温度で実行される。
【0025】
2つの基板を接合するステップにおいて、水分子は、表面の接合に寄与する界面に存在する。
【0026】
しかしながら、接合強化アニールの間に、水分子が酸化物層2を通して、とりわけレシーバ基板1の表面の薄自然酸化物層を通して拡散し、半導体層3のシリコンと、とりわけレシーバ基板1のシリコンと反応する。その反応は次の酸化反応である。
2HO+Si→SiO+2H
【0027】
したがって、この反応は、埋込み酸化物層に封じ込められる水素ガスの分子を生成し、これにより埋込み酸化物層は、水素ガス貯蔵器として働く。
【0028】
しかしながら、超薄酸化物層の場合、この層は水素ガス分子の全てを格納するのに十分な厚さではない。
【0029】
したがって、埋込み酸化物層は飽和し、水素ガス分子をもはや吸収できない。超過分は接合界面に蓄積され、そこで欠陥を生み出す。
【0030】
これは、接合された構造体の温度が約300℃を超えるとすぐに、水素ガスにより接合界面に存在する欠陥に圧力が加えられ、バブルを形成するためである。
【0031】
この効果は、非特許文献1および非特許文献2の論文に記載されている。
【0032】
300℃から400℃の間の温度でアニールを実行することによって、水素ガスの生成が限定され、したがって、バブリング効果が防止される。
【0033】
このように、劈開後、欠陥が非常に少ない構造体を得ることができる。
【0034】
しかしながら、接合界面は適切に強化されることが依然として必要であり、SOI基板は最終的なステップでバブルを発生させずに仕上げられることが依然として必要である。
【0035】
900℃以上の温度では、水素ガスはシリコン内に可溶である。
【0036】
したがって、目的は、劈開後、構造体を固定するのに十分な速さで温度を900℃(水素がシリコンから放出される温度よりも高い温度)まで上げることであり、それにより、接合界面において欠陥の生成を防ぐことである。
【0037】
しかしながら、従来のRTA処理の後、構造体内でマイクロバブルの形成が観測され、これらのバブルは図2Aから図2Dに関して記載された既知の方法の後に観測されたバブルよりもずっと小さいが、それらは意図する用途に構造体を使用することを不可能にする。
【0038】
これは、RTAの間に、構造体を固定し、バブリング効果を防ぐのに十分な速さで温度を上げなかったことによる結果である。
【0039】
したがって、厚さ15nm以下、特に厚さ10nm以下のBOX層構造体の場合にバブルの形成を防ぐ方法の開発が依然として必要である。
【0040】
の形成を防ぐために、特許文献1に第2の方法が開示されており、そのステップを図3Aから図3Eに示す。
【0041】
図3Aを参照すると、酸化物層21がドナー基板31の表面に形成される。
【0042】
弱帯32は、転写される薄層3の厚さに対応する深さで、例えば、(図3Bの矢印によって表される)原子種の注入によって、酸化物層21を通して形成される。
【0043】
図3Cを参照すると、酸化物層22は、レシーバ基板1の表面に形成される。
【0044】
次に、分子接着(酸化物/酸化物)接合が、ドナー基板31をレシーバ基板1に接合するために用いられ、酸化物層21、22は界面に配置され、共にSOI基板の埋込み酸化物層2を形成する。
【0045】
この接合ステップの後、ドナー基板は劈開される。
【0046】
この方法は、H生成反応が、水分子拡散に対するバリアを形成する2つの向かい合う埋込み酸化物層の存在によって制限される限りにおいて、欠陥に関して良い結果を達成する。
【0047】
特に、これらの分子は、酸化物/シリコン界面に到達できず、シリコン酸化反応は起こらず、H分子の生成は、それにより防止される。
【0048】
しかしながら、それぞれ酸化物層21、22を経由して接合した基板は、接合界面が完全には閉じられない、すなわち、仕上げアニール(1200℃で30秒のRTA)の後に構造体を、透過電子顕微鏡を用いて観測した場合、2つの層(図3Eにおいて破線23によって示す)の間の界面がまだ見られる可能性がある、という欠点を有することになる。
【0049】
この不完全に閉じられた界面は、構造体の内部または表面に形成された電子機器の動作を妨げる虞のある電気的な問題を生じることがある。
【0050】
閉じられた界面を有する接合を作り出すために、本出願人は、オキシド−トゥ−シリコン接合方法(シリコンへの酸化物の接合方法)(oxide−to−silicon bonding process)、すなわち、BOX層を形成するための酸化物層が2つの基板の一方のみに形成されて、他の基板の自由表面上にシリコンが残る方法を開発した。
【0051】
そのような接合を作り出すため、および接合界面を閉じる目的で、酸化物の表面をプラズマで活性化することが知られている。このプラズマ活性化は、接合強度を増すことを意図したものである。
【0052】
しかしながら、そのような活性化は界面に存在する水の量を増やすので、防止したいバブリング効果を更に増強する危険性がある。
【0053】
したがって、本発明の目的の1つは、厚さ25nm以下、特に10nm以下の埋込み酸化物層を持ち、水素によるバブルまたはブリスターの形成を防止する、または極力最小にすることを可能とするシリコンオンインシュレーター構造体を製造する方法を定義することである。
【0054】
より正確には、前記方法は、要求される構造体を過度に加熱せずに、完全に閉じられた接合界面を得るためにオキシド−トゥ−シリコン接合を含まなければならない。
【0055】
更に、前記方法は、既存のSOI構造体生産ラインで工業化可能でなければならない。
【0056】
本発明の他の目的は、厚さ25nm以下、特に10nm以下であり、「バブル」欠陥が非常に少ない埋込み酸化物層を有するシリコンオンインシュレーター構造体を提供することである。
【0057】
本発明によれば、シリコン層、厚さ25nm以下の埋込み酸化物層、および支持基板を含むシリコンオンインシュレーター構造体の製造方法が提供され、前記方法は、以下のステップを含むことを特徴とする。
(a)前記シリコン層を含むドナー基板および前記支持基板を提供するステップであって、前記両基板のどちらか一方のみが前記酸化物層で覆われているステップと、
(b)前記ドナー基板において、前記シリコン層の境界となる弱帯を形成するステップと、
(c)前記酸化物層をプラズマ活性化するステップと、
(d)前記ドナー基板を前記支持基板に接合するステップであって、前記酸化物層が接合界面に配置され、接合が部分真空中で実行されるステップと、
(e)接合強化アニールを350℃以下の温度で実施するステップであって、前記アニールは前記ドナー基板を前記弱帯に沿って劈開させるステップと、
(f)前記シリコンオンインシュレーター構造体に対し、900℃超の温度で欠陥を修復するための熱処理を加えるステップであって、ステップ(e)の劈開温度からステップ(f)の欠陥修復温度への遷移が、10℃/s超の勾配率で達成されるステップ。
【0058】
本明細書において、「酸化物」という用語は、二酸化けい素(SiO)を意味すると理解される。
【0059】
「部分真空」という表現は、圧力が大気圧以下であるチャンバ内において、および水分を含まない大気、すなわち100ppm未満の水分を含む大気中において接合ステップが実行されることを意味すると理解される。
【0060】
本発明によれば、接合ステップは、0.1から100mbarの間、好ましくは0.5から10mbarの間、更に好ましくは1mbarの部分真空を使用する。
【0061】
接合強化ステップのアニールが、5から15時間の長さで300から350℃の間の一定温度でのアニールであることが特に利点となる。
【0062】
任意で、追加の機械的エネルギーを、接合アニールの間または後にドナー基板を劈開するために加えることができる。
【0063】
好ましくは、酸素プラズマが、酸化物層を活性化するステップ(c)において使用される。
【0064】
更に、シリコン層の厚さは、SmartCut(商標)法による薄層の転写後すぐに、有利には600nm以下であり、好ましくは270nmから510nmの間にあり、好ましくは330nmに等しい。
【0065】
本発明の好ましい実施形態によれば、酸化物層の厚さは15nm以下である。
【0066】
好ましくは、弱帯の形成は、原子種をドナー基板の中に注入することを含む。
【0067】
本発明の他の主題は、シリコン層、厚さ25nm以下の埋込み酸化物層、および支持基板を含むシリコンオンインシュレーター構造体に関し、前記構造体は欠陥クラスタの点からみた構造体の欠陥が60以下であることを特徴とする。
【0068】
本発明の好適な実施形態によれば、前記構造体は直径300mmのウェハである。
【0069】
シリコン層の厚さは、SOI基板が仕上げられた後では、有利には50nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは12nmである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を参照して与えられる以下の詳細な記述から明らかになる。
【0071】
【図1】シリコンオンインシュレーター構造体においてBOX層の厚さの関数として欠陥の変化を示すグラフである。
【図2A】SOI構造体を製造する第1の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図2B】SOI構造体を製造する第1の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図2C】SOI構造体を製造する第1の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図2D】SOI構造体を製造する第1の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図3A】SOI構造体を製造する第2の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図3B】SOI構造体を製造する第2の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図3C】SOI構造体を製造する第2の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図3D】SOI構造体を製造する第2の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図3E】SOI構造体を製造する第2の既知の方法における一ステップを示す図である。
【図4A】本発明によるSOI構造体を製造する方法における一ステップを示す図である。
【図4B】本発明によるSOI構造体を製造する方法における一ステップを示す図である。
【図4C】本発明によるSOI構造体を製造する方法における一ステップを示す図である。
【図4D】本発明によるSOI構造体を製造する方法における一ステップを示す図である。
【図4E】本発明によるSOI構造体を製造する方法における一ステップを示す図である。
【図5A】基板の接合の間、圧力の関数として接合強度を示すヒストグラムである。
【図5B】劈開後の欠陥に関し、部分真空において接合の圧力の最適化を示すグラフである。
【0072】
図をより理解しやすくするために、ある非常に薄い層を拡大したため、図において様々な層は正寸ではない。
【発明を実施するための形態】
【0073】
厚さ25nm以下の埋込み酸化物層を有するシリコンオンインシュレーター構造体の製造を次に記載する。
【0074】
そのような構造体を形成するために、ドナー基板が提供され、このドナー基板からSOIウェハの超薄層を形成する目的で、シリコン層が転写されなければならない。
【0075】
最終的な超薄層が、劈開後に転写される層の薄層化から生じる限り、ドナー基板から転写されるシリコン層の厚さは、SOI基板の最終的なシリコン層の厚さより実質的に厚くなる。
【0076】
このように、SOI基板のシリコンの超薄層、すなわち、50nm以下の厚さを有する超薄層を形成するためには、600nm以下の厚さを有するシリコン層がドナー基板から転写される。
【0077】
ドナー基板は、単一結晶バルクシリコン基板であってもよい。
【0078】
あるいは、ドナー基板は複合基板であってもよく、すなわち、様々な材料による多重層からなり得、その表面層は転写される単一結晶シリコン層を含む。
【0079】
図4Aを参照すると、酸化物層2は、ドナー基板31の表面上に形成される。
【0080】
前記酸化物層2は、SOI構造体の埋込み酸化物層を形成することを目的としている。
【0081】
したがって、前記酸化物層は、25nm以下、好ましくは15nm以下の厚さを有する。
【0082】
特に、ドナー基板31の表面は、熱酸化され得る。
【0083】
あるいは、酸化物は、例えば化学気相成長法(CVD)によって堆積され得る。
【0084】
あるいは、前記酸化物層2は、シリコンをドナー基板の表面にさらすことにより、レシーバ基板上に形成することができる。
【0085】
しかしながら、酸化物層2はドナー基板31の表面に形成されることが、特に、弱帯が原子種の注入によって形成される場合に、好ましい。これは、その後、注入が酸化物層2を通して達成されるためである。
【0086】
弱帯はドナー基板内に形成され、この弱帯は転写されるシリコン層を画定する。
【0087】
図4Bは、原子種、例えば、水素および/またはヘリウムの注入によってドナー基板31内に形成される弱帯32を示す。
【0088】
注入エネルギーは、転写される層3に対して望まれる厚さ、すなわち、厚さ600nm以下、好ましくは厚さ210から570nmの間、更に好ましくは厚さ約330nmに実質的に対応する深さで弱帯32が形成されるように選ばれる。
【0089】
しかしながら、弱帯の形成は、注入方法に制限されない。
【0090】
弱帯は、ドナー基板中に、所望の深さで原子種を導入することができる任意の技術によって形成することもでき、例えば、拡散技術を使うことができる。
【0091】
図4Cを参照すると、ドナー基板31は、レシーバ基板1への分子接着によって接合され、酸化物層2は界面に配置される。
【0092】
典型的には、レシーバ基板1はシリコン基板であり、自然酸化物で任意に覆われる。
【0093】
このように、オキシド−トゥ−シリコン(ドナー基板−レシーバ基板)接合が得られる。
【0094】
あるいは、上記に示されているように、ドナー基板が酸化物層2で覆われておらず、そのシリコン表面が露出している場合、酸化物層がレシーバ基板1上に形成され、オキシド−トゥ−シリコン(レシーバ基板−ドナー基板)を得ることもできるであろう。
【0095】
そのような接合ステップを使用することによって、導入部で言及したような酸化物への酸化物接合(oxide−to−oxide bonding)の場合とは対照的に、完全に閉じられていない界面が得られるリスクが無くなる。
【0096】
基板が接触する前に、ドナー基板31の表面に配置された酸化物層2はプラズマ処理を受ける。
【0097】
好ましくは、前記プラズマはOプラズマであるが、酸素、アルゴン、窒素、および/またはヘリウムに基づくプラズマを使用することもできる。
【0098】
前記プラズマ処理は、酸化物層の表面を活性化し、接合強度を高める。
【0099】
基板を互いに接合するために接触させるステップは、部分真空において、一般的には室温で行われる。
【0100】
特に、接合される基板は、内部を減圧可能なチャンバ100内に配置される。
【0101】
実際、本出願人は、大気圧ではなく部分真空で接合ステップを実行して、バブルの形成を実質的に減らすことができることを観察している。
【0102】
好ましくは、前記部分真空の絶対圧力は、0.1から100mbarの間であり、好ましくは、0.5から10mbarの間となる。
【0103】
更に有利には、本出願人は1mbarの絶対圧力を有する部分真空が、接合界面での水の存在を、接合品質への不利な影響無しに最小にできること、すなわち、層の完全な転写を可能とし、それにより転写されない領域がSOI構造体で生成されることを防ぐよう、十分な接合強度が保たれることを実証した。
【0104】
SOI基板において、転写されない領域(NTZ)は、シリコンがレシーバ基板に転写されなかった薄シリコン層における正孔である。これらの欠陥は、一般的に、転写される層と十分な強度のないレシーバ基板の間での接合に帰因する。
【0105】
したがって、界面の水の量を減らす場合、基板間の接合が十分強くなることを確実にするよう注意を払う必要がある。
【0106】
更に、チャンバ100の大気は水分を含まない、すなわち、100ppmより少ない水分を含む大気である。
【0107】
この非常に低い含水量および部分真空は、プラズマ処理によって与えられる追加の水分子を補う。
【0108】
このように、プラズマ処理によって、転写されない領域を防止するのに十分強い接合を得ながら、接合界面での水の量を最小に(しかしながら、接合は水がないときは起こらないため、水分子の数をゼロに減らすことなく)することができる。
【0109】
図5Aは、接合の間にチャンバ100に印加された様々な圧力値Pに対する接合強度E(mJ/mで表される)を示す。
【0110】
このヒストグラムは、Oプラズマ活性を受けた、または受けなかった10nm厚の酸化物層を有するドナー基板を種々の圧力でシリコンレシーバ基板に接合させた試験の結果を示す。
【0111】
各データペアに対し、左側の柱は、基板への事前のプラズマ処理無しに接合が実行された場合に対応し、右側の柱は、ドナー基板を覆う酸化物層のOプラズマ処理を接合に先行させた場合に対応する。
【0112】
接合が部分真空において実行される場合、接合強度は、接合が大気圧(1013mbar)で実行される場合より低くなることが分かるであろう。
【0113】
しかしながら、接合強度は1から100mbarの間でほとんど変化せず、プラズマ処理がドナー基板に加えられた場合に満足な値が得られる。これらの条件下で、部分真空での接合はNTZを導かない。
【0114】
しかしながら、プラズマ処理をしない場合、接合強度は低すぎ、転写されない領域の数は大幅に増加する。
【0115】
図5Bは、基板の接合の間にチャンバ100内に印加される圧力Pの関数として、(バブルの数および転写されない領域の点からみた)劈開後の欠陥Dの変化を示す。
【0116】
このグラフは、Oプラズマ活性化を受けた10nm厚の酸化物層を有するドナー基板を種々の圧力でシリコンレシーバ基板に接合させた試験の結果を示す。
【0117】
ドナー基板の劈開後、バブルおよび転写されない領域は、視覚的検査方法を用いて数えた。
【0118】
このグラフにおいて、最も有効な圧力範囲は、(劈開後の欠陥の点からみて)0.1から100mbarの間であることが分かるであろう。
【0119】
約1mbarの圧力は、水の存在を最小にし、欠陥も最小にするための最適な圧力である。更に、図5Aは、1mbar程度の低さの圧力が接合強度の点からみて、したがって、NTZ欠陥の点からみて不利ではないことを裏付けている。
【0120】
したがって、一方のバブル欠陥と他方のNTZ欠陥の間で満足な妥協点を得るためには、0.1から100mbarの間、好ましくは約1mbarの部分真空において接合を実行すること、並びに、プラズマ処理によって前もってドナー基板の表面を活性化することの両方が必要であることを、上記から結論付けることができる。
【0121】
基板1および31を接触させた後、弱帯32におけるドナー基板31の劈開を開始する効果も有する接合強化熱処理が実行される。
【0122】
この目的のため、接合ツール以外のツール(オーブン)が使われる。
【0123】
本発明によれば、この熱処理は、350℃以下の温度で、大気圧で実行されるアニールから成る。
【0124】
劈開は、300から350℃の間の一定温度で始めることが特に有利である。
【0125】
アニールの温度は、低すぎてはいけない(例えば、250℃未満)。なぜならば、接合を十分に強くせず、したがって、転写されない領域の形成をもたらす可能性があるためである。
【0126】
前記アニールは数時間、好ましくは5から15時間続く。
【0127】
このアニールの間、弱帯32においてドナー基板31の劈開が開始される。
【0128】
必要ならば、劈開は他のエネルギー源、例えば、追加の機械的エネルギー源を用いることによって補助または誘引することができる。
【0129】
従って、例えば、弱帯32に刃を差し込むことができる。
【0130】
以下により詳細に理解されるように、そのような低温接合強化アニールを適用することは、部分真空での接合と組み合わされ、予期せずに、最終的なSOI構造体で観測されるバブリング効果を減らすことを可能にする。
【0131】
図4Dを参照すると、劈開後、レシーバ基板1、酸化物層2、および転写された層3によって形成された構造体が得られる。
【0132】
最終的なSOI構造体(図4Eに示す)を形成するために、様々な仕上げ処理が薄シリコン層上で実行される。
【0133】
これらの処理が実行された後、最終層3’は、転写された層3より実質的に薄くなる。
【0134】
更に、RTA処理が実行され、層3’における欠陥を修復する。
【0135】
前記処理は、典型的には、900℃超の温度、例えば、約1200℃で実行される。
【0136】
最終的なSOI基板において形成されるバブルを防ぐために、RTA処理の温度に非常に迅速に到達することが重要である。
【0137】
従って、接合強化および劈開アニールの温度からRTA処理の温度まで、少なくとも10℃/sの勾配率で通過させることが必要である。
【0138】
これは、この迅速な温度上昇が構造体を固定することを可能にし、バブルの形成を防ぐからである。
【0139】
この処理は、処理温度の平坦域に非常に短い時間で到達することを可能にする、赤外線灯を備えたチャンバ内で実行することができる。例えば、オーブンまたはエピタキシャル反応器において実行することができる。
【0140】
ひとたび温度が約900℃に達すると、この温度超では水素ガスの放出が起こるため、バブリング発生のリスクはない。
【0141】
典型的には、RTA処理は、およそ数秒間から数分間、例えば30秒から15分の間続く。
【0142】
この処理の後、水素が接合界面を超えて拡散し、したがって、バブルを生成できないため、室温へ戻すためにどのような勾配率が使われるかは重要ではない。
【0143】
転写される層3の影響も、本出願人によって実証されている。
【0144】
比較試験を、32から275、330、および510nmの弱帯を用いて行った。
【0145】
弱帯の深さを深くするほど、劈開後に観測されたバブルの数は少なくなった。
【0146】
しかしながら、弱帯の深さがこれらの限界値に近づくにつれ、RTA処理後に観測されたマイクロバブルの数は多くなった。
【0147】
弱帯の最適な厚さは、約330nmに定められると考えられる。
【0148】
更に、部分真空での接合と低温度接合強化アニールの組合せは、バブリングに関して予期しない改良をもたらすことに留意することが重要である。
【0149】
特に、本出願人は、既知のSmartCut(商標)法において、部分真空での接合または低温度接合強化アニールのいずれかの実施では、バブリングを十分に減じないことを観測した。
【0150】
以下の表は、既知のSmartCut(商標)法およびこれら処理のうちただ1つのみが実行されたSmartCut(商標)法に比較して、これら2つの処理の相乗効果を実証する。
【0151】
この表は、SOI基板の製造方法における様々なポイントでの、視覚的検査方法および/またはKLA−Tencor SP2検査ツールを用いて数えたバブルの数を示す。
【0152】
いずれの場合においても、SOI構造体は、25nm厚の酸化物層で覆われ、330nmの深さで弱帯を形成するように注入されたシリコンドナー基板、およびシリコンレシーバ基板から生成される。
【0153】
【表1】

【0154】
これらのデータは、既知のSmartCut(商標)法については、バブリングが、劈開後にすでに非常に広範囲にわたることを示す。したがって、このSOI基板製造方法のその後のステップにおいて、バブリングを測定しなかった。
【0155】
接合が1mbarの圧力で実行された方法については、バブリングの有意な減少が劈開後に観測された。
【0156】
しかしながら、バブリングのレベルは依然非常に高く、したがって、このSOI基板製造方法のその後のステップにおいて、バブリングを測定しなかった。
【0157】
既知の方法で、大気圧において接合を実行したが、接合強化および劈開アニールを300℃(またはそれ以下)で実行した方法では、バブリングは観測されなかった。
【0158】
しかしながら、RTA処理後、マイクロバブリングが、実質的にSOI基板の全表面で観測され、肉眼で見ることができた。用語「マイクロバブリング」は、高密度で存在する小さなバブルの意味であると理解される。
【0159】
小さいが、これらのバブルは、非常に薄いSOI基板にとって許容できず、したがって、このSOI基板の製造方法のこの後のステップでは、バブリングを測定しなかった。
【0160】
したがって、部分真空での接合、ならびに接合強化および劈開アニールは、互いに単独で適用された場合、劈開後のバブリング効果を緩和するが、欠陥がこの後のステップ、特に欠陥修復RTA処理の間で現れる。
【0161】
言い換えれば、部分真空での接合、ならびに接合強化および劈開アニールは、要するに、互いに単独で適用されると、バブリング効果を修正するが、これを抑制することはできないと考えられる。
【0162】
対照的に、これら2つの処理を組み合わせると、SOI構造体を製造する全プロセスの終わりで、満足なレベルのバブリングを得ることができる。
【0163】
RTA処理後に実行される犠牲酸化ステップは、特に、SOIウェハの有用層を薄くすることができる。
【0164】
最終的なSOI構造体において、欠陥は、欠陥クラスタの観点から測定される。この測定の結果は、領域カウント(AC)と呼ばれる。
【0165】
KLA Tencor SP2検査ツールを、この測定を行うために使用した。
【0166】
この点で、読者は、欠陥クラスタの検出方法およびシステムが記載された特許文献2を参照することができる。
【0167】
本発明による方法の実施により、欠陥クラスタの観点から表される欠陥が60以下のSOI構造体を得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン層(3)、厚さ25nm以下の埋込み酸化物層(2)、および支持基板(1)を含むシリコンオンインシュレーター構造体の製造方法であって、
(a)前記シリコン層(3)を含むドナー基板(31)および前記支持基板(1)を提供するステップであって、前記両基板(31、1)の一方のみが前記酸化物層(2)で覆われているステップと、
(b)前記ドナー基板(31)において、前記シリコン層(3)の境界となる弱帯(32)を形成するステップと、
(c)前記酸化物層(2)をプラズマ活性化するステップと、
(d)前記ドナー基板(31)を前記支持基板(1)に接合するステップであって、前記酸化物層(2)が接合界面に配置され、接合が部分真空中で実行されるステップと、
(e)接合強化アニールを350℃以下の温度で実施するステップであって、前記アニールは前記ドナー基板(31)を前記弱帯(32)に沿って劈開させるステップと、
(f)前記シリコンオンインシュレーター構造体(3、2、1)に対し、900℃超の温度で欠陥を修復するための熱処理を加えるステップであって、ステップ(e)の劈開温度からステップ(f)の欠陥修復温度への遷移が、10℃/s超の勾配率で達成されるステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記接合ステップは、0.1から100mbarの間、好ましくは0.5から10mbarの間、更に好ましくは1mbarの部分真空を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合強化ステップの前記アニールは、5から15時間の長さで300から350℃の間の一定温度でのアニールであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
追加の機械的エネルギーが前記ドナー基板(31)を劈開するために加えられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸素プラズマが前記酸化物層(2)を活性化するステップ(c)において使用されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記シリコン層(3)の厚さは600nm以下、好ましくは270nmから510nmの間、好ましくは330nmに等しくなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化物層(2)の厚さは15nm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載に記載の方法。
【請求項8】
前記弱帯(32)の形成は、原子種を前記ドナー基板(31)に注入することを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
シリコン層(3’)、厚さ25nm以下の埋込み酸化物層(2)、および支持基板(1)を含むシリコンオンインシュレーター構造体であって、欠陥クラスタによる構造体の欠陥が60以下であることを特徴とするシリコンオンインシュレーター構造体。
【請求項10】
直径300mmのウェハであることを特徴とする請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記シリコン層(3’)の厚さは50nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは12nmであることを特徴とする請求項9または10に記載の構造体。

【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5B】
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【図1】
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【図5A】
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