説明

シリコンノズルプレートの製造方法

【課題】吐出品質と信頼性が向上したシリコンノズルプレートを得る。
【解決手段】第1の酸化シリコン膜41を挟んで貼り合されたシリコン支持基板46とシリコン層48とを含むSOI基板40のシリコン層48及び第1の酸化シリコン膜41をエッチングしてシリコン支持基板46に達するノズル孔21を形成する第1工程と、SOI基板40を加熱して、ノズル孔21の内壁面14を含むシリコン層48の表面に第2の酸化シリコン膜42を形成し、かつ第1工程により露出したシリコン支持基板46の表面に第3の酸化シリコン膜43を形成する第2工程と、SOI基板40のシリコン層48側の面に支持部材55を貼り合せる第3工程と、SOI基板40をシリコン支持基板46側から薄板化して、シリコン支持基板46を除去する第4工程と、第3の酸化シリコン膜43を除去してノズル孔21を開口させる第5工程と、を有するシリコンノズルプレート1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するシリコンノズルプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙等の媒体上に液滴を吐出して画像等を形成する装置として、液滴吐出装置が注目されている。液滴吐出装置は、複数のノズルを備える液滴吐出ヘッドと媒体とを相対的に移動させつつノズル孔から液滴を吐出することで画像等を形成できる。液滴吐出ヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、このノズルプレートに接合(接着)されノズルプレートとの間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバー等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。そしてノズルプレートとしては、シリコン基板にノズル孔の形成等の加工を施して得られるシリコンノズルプレートが多用されている。
【0003】
従来のシリコンノズルプレートは、例えば特許文献1に示すように、シリコン基板に薄板化工程を施して製造される。薄板化工程とは具体的に言うと、シリコン基板をキャビティ基板に接合される側の面(接着面)から所定の深さまでエッチングしてノズル穴を形成した後、反対側の吐出面(液滴が吐出される側の面)側から該シリコン基板を研削等により薄板化して、上述のノズル穴を、シリコン基板を貫通するノズル孔とする工程である。ここで、吐出される液滴(液体材料)がアルカリ性の場合、シリコンを侵食する可能性がある。そのため、上述の薄板化工程後に、該吐出面にCVD法等の手法でインク保護膜を形成することが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−292122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の製造方法には、以下に記載するような課題がある。第1として、シリコン基板を均一に薄型化することは困難であるため、薄板化された後の基板の厚さで規定されるノズル孔の長さ(深さ)に、ばらつきが生じ得ることである。第2として、CVD法で形成されるインク保護膜が脆弱なことである。CVD法によるインク保護膜は吐出面上に別途積層されるため、シリコン基板を熱酸化して形成される酸化シリコン膜に比べて剥離等が生じやすい。しかし、薄板化された後のシリコン基板に高温の熱処理を施すことは困難である。そのため、従来の製造方法では、吐出面に熱酸化シリコンからなる密着性の高いインク保護膜を形成することは困難であった。第3として、欠け(チッピング)の発生の可能性である。シリコン基板は靭性が比較的低いため、従来の製造方法では、研削等により薄板化する際にノズル孔の開口部に欠け等の欠陥が発生する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかるシリコンノズルプレートの製造方法は、第1の酸化シリコン膜を挟んで貼り合されたシリコン支持基板とシリコン層との積層構造を含むSOI基板の上記シリコン層及び上記第1の酸化シリコン膜を局所的にエッチングして、上記シリコン支持基板に達するノズル孔を形成する第1の工程と、上記SOI基板を加熱して、上記ノズル孔の内壁面を含む上記シリコン層の表面に第2の酸化シリコン膜を形成し、かつ、上記第1の工程により露出した上記シリコン支持基板の表面に第3の酸化シリコン膜を形成する第2の工程と、上記SOI基板の上記シリコン層側の面に支持部材を貼り合せる第3の工程と、上記SOI基板を上記シリコン支持基板側から薄板化して、上記シリコン支持基板を除去する第4の工程と、上記第3の酸化シリコン膜を除去して上記ノズル孔を開口させる第5の工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
このような製造方法であれば、ノズル孔の長さ(深さ)がSOI基板のシリコン層の膜厚で規定されるため、ノズル孔の長さのばらつきを低減できる。したがってこのような製造方法であれば、液滴吐出ヘッドの構成要素として用いた場合において該液滴吐出ヘッドの吐出品質を向上させられるシリコンノズルプレートを得ることができる。
【0009】
[適用例2]上述のシリコンノズルプレートの製造方法であって、上記第1の酸化シリコン膜は、上記シリコン支持基板と上記シリコン層との何れかの表面を熱酸化して形成された膜であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【0010】
このような製造方法であれば、SOI基板を構成する第1の酸化シリコン膜の少なくとも一部を、吐出面すなわち第5の工程においてノズル孔が開口される側の面に残すことができる。そして、残された該第1の酸化シリコン膜をインク保護膜として利用できる。したがってこのような製造方法であれば吐出面に、ノズル孔の開口後に別途積層された酸化シリコン膜に比べて密着性等が向上したインク保護膜を形成でき、信頼性の向上したシリコンノズルプレートを得ることができる。
【0011】
[適用例3]上述のシリコンノズルプレートの製造方法であって、上記第4の工程は、上記シリコン支持基板を研削して薄板化する第6の工程と、薄板化された上記シリコン支持基板を上記第1の酸化シリコン膜及び上記第3の酸化シリコン膜に対して選択的にエッチングして除去する第7の工程を順に行う工程であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【0012】
このような製造方法であれば、ノズル孔の開口部を、研削工程を経ずにエッチングのみで形成できる。したがって、このような製造方法であればノズル孔のエッジ部における欠けの発生を低減でき、信頼性が向上したシリコンノズルプレートを高い歩留まりで製造できる。
【0013】
[適用例4]上述のシリコンノズルプレートの製造方法であって、上記第1の工程は、上記シリコン支持基板側の第1のノズル孔と該第1のノズル孔に連通する該第1のノズル孔よりも断面積が大きい第2のノズル孔とで構成される上記ノズル孔を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【0014】
このような製造方法であれば、吐出面に至るまでのインクの流動抵抗が軽減され、かつ微小な液滴を吐出可能なノズル孔を形成できる。したがってこのような製造方法であれば、吐出品質をより一層向上させることが可能なシリコンノズルプレートを得ることができる。
【0015】
[適用例5]上述の製造方法で製造されたことを特徴とするシリコンノズルプレートを備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0016】
このような製造方法であれば、吐出品質および信頼性の向上したシリコンノズルプレートを製造できる。したがって上述の構成であれば、液滴吐出ヘッドの吐出品質及び信頼性を向上できる。
【0017】
[適用例6]上述の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【0018】
このような構成であれば、液滴吐出装置の吐出品質及び信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態の製造方法の対象となるシリコンノズルプレートを構成要素とする液滴吐出ヘッドの斜視展開図。
【図2】液滴吐出ヘッドの要部の縦断面図。
【図3】第1の実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法を示す工程断面図。
【図4】第1の実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法を示す工程断面図。
【図5】第1の実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法を示す工程断面図。
【図6】第1の実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法を示す工程断面図。
【図7】第1の実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法を示す工程断面図。
【図8】撥水膜を形成した状態を示すノズル孔のエッジ部の拡大断面図。
【図9】液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態にかかるシリコンノズルプレートの製造方法について、図面を参照しつつ述べる。上述したようにシリコンノズルプレートは、液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)を構成する要素であるため、該液滴吐出ヘッドも含めて説明する。なお本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではない。また、以下の各図においては、各構成要素を図面で認識可能な程度の寸法とするため、該構成要素の縮尺を実際とは異ならせてある。
【0021】
(第1の実施形態)
<液滴吐出ヘッド>
図1は、本実施形態の製造方法の対象となるシリコンノズルプレート1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8の斜視展開図である。図2は、液滴吐出ヘッド8の要部の縦断面図である。図1に示すように、液滴吐出ヘッド8は、液滴が吐出される側の面である吐出面15において長手方向に2列に並ぶように形成されたノズル孔21を備えている。図2は、該長手方向に直交する線における断面図であり、図1の右半分の概略構成を示す断面図である。液滴吐出ヘッド8は、図1に示すように、シリコンノズルプレート1と、各ノズル孔21に対して独立にインク流路が設けられたキャビティ基板3と、キャビティ基板3の振動板22に対応する個別電極31が形成された電極基板4とを接着して構成されている。
【0022】
シリコンノズルプレート1は、後述するSOI基板40(図3等参照)に所定の加工を施して形成された板状の部品であり、基材としては単結晶シリコンからなるシリコン層48が用いられている。すなわちシリコンノズルプレート1は、シリコン層48に所定の加工が施されることで形成された部品である。
【0023】
シリコンノズルプレート1は、所定のピッチで2列に形成されたノズル孔21を有している。ノズル孔21は、インクを液滴として吐出するための孔であり、液滴を吐出する小径の第1のノズル孔21aと、液滴を導入する大径の第2のノズル孔21bとから構成されている。第1のノズル孔21aが開口している側の面が吐出面15であり、第2のノズル孔21bが開口している側の面が接着面16である。そして、シリコンノズルプレート1の厚さ方向の面、すなわち表裏の2面に直交する面が端面13であり、ノズル孔21の孔面が内壁面14である。
なお本明細書では、上述の4種類の面(13,14,15,16)を、完成した状態のシリコンノズルプレート1の表面ではなく、シリコン層48の表面のいずれかの場所(領域)を意味するものと定義している。
【0024】
一般的にインクはアルカリ性であり、単結晶シリコン材料を侵食(エッチング)等する可能性がある。そのため、上述の4種類の面には、基材である単結晶シリコンをインクから保護するために、酸化シリコンからなるインク保護膜が形成されている。かかるインク保護膜のうち、吐出面15に形成されているインク保護膜が第1の酸化シリコン膜41であり、他の3面に形成されているインク保護膜が第2の酸化シリコン膜42である。双方の酸化シリコン膜(41,42)は、上述の単結晶シリコン材料を熱酸化して形成されている。なお、シリコンノズルプレート1を大面積のSOI基板40(図3等参照)を分割して形成する場合においては、端面13にはインク保護膜が形成されない場合もあり得る。
【0025】
キャビティ基板3も、シリコンノズルプレート1と同様に単結晶シリコン材料からなり、シリコンノズルプレート1の接着面16側に接着されている。キャビティ基板3には、シリコンノズルプレート1のノズル孔21の各々に連通するインク流路が異方性ウェットエッチングにより形成されている。インク流路は、底壁を振動板22とし吐出室25となる吐出凹部250と、共通のインク室であるリザーバー23となるリザーバー凹部230と、リザーバー凹部230と各吐出凹部250とを連通するオリフィス24となるオリフィス凹部240と、で構成されている。リザーバー23は各吐出室25に共通インク室を構成し、それぞれオリフィス24を介してそれぞれの吐出室25に連通している。
【0026】
キャビティ基板3の全面若しくは少なくとも電極基板4との対向する領域には、絶縁性材料である酸化シリコンからなる絶縁膜29が形成されている。かかる絶縁膜29は、液滴吐出ヘッド8を駆動させたときに、絶縁破壊やショートの発生を防止する機能を果たしている。
【0027】
電極基板4はガラス基材からなり、キャビティ基板3の各振動板22に対向する位置には、夫々凹部310が形成されている。そして、各凹部310内には、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタにより形成されている。
【0028】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを備えており、端子部31bは、配線のためにキャビティ基板3の末端部が開口された電極取出し部36内に露出している。そして、ICドライバー等の駆動回路5を介して、各個別電極31の端子部31bとキャビティ基板3上の共通電極27とが接続されている。また、電極基板4には、インクを供給するためにリザーバー23と連通するインク供給口35が形成されている。そして、該インク供給口は図示しないインクタンクに接続されている。振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ34の開放端部は、内部に水分や塵埃などが入らないようにエポキシ等の樹脂による封止材33により封止されている。
【0029】
電極基板4と上述のキャビティ基板3とは、個別電極31と振動板22とが所定(例えば、0.1μm)のギャップ34を介して対向配置するように陽極接着されている。これにより、ギャップ34を介して対峙する個別電極31と絶縁膜29を有する振動板22とで、吐出室25に所要の圧力を加えることができる静電アクチュエーターが構成される。
【0030】
液滴吐出ヘッド8は、以下に記載する動作により、インクを液滴として吐出する。まず、駆動回路5が駆動し、個別電極31に電荷を供給してこれを正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22の間に静電引力が発生する。この静電引力によって、振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む。これによって、吐出室25の容積が増大する。個別電極31への電荷の供給を止めると静電引力が消滅し、振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室25の容積が急激に減少して、そのときの圧力により吐出室25内のインクの一部がインクの液滴としてノズル孔21から吐出面15側に吐出される。
【0031】
<シリコンノズルプレートの製造方法>
次に、上述のシリコンノズルプレート1の製造方法について述べる。図3(a)〜図7(n)は、本実施形態のシリコンノズルプレート1の製造方法を示す工程断面図である。上記各図は、図2に示すノズル孔21と該ノズル孔の周辺を拡大して示す、要部の拡大断面図である。ただし、上下方向を反転して図示している。以下、工程順に述べる。
【0032】
まず、図3(a)に示すように、SOI基板40の表面(すなわち表裏両面)に、第4の酸化シリコン膜44を形成する。SOI基板40は、第1の酸化シリコン膜41を挟むように貼り合されたシリコン支持基板46とシリコン層48とからなる。したがってSOI基板40は、シリコン支持基板46と第1の酸化シリコン膜41とシリコン層48との積層体である。なお、以下の説明において、シリコン支持基板46側を「下側」又は「下方」と称する。そしてシリコン層48側を「上側」又は「上方」と称する。
【0033】
SOI基板40を構成する各要素の厚さは、シリコン支持基板46が725μm、第1の酸化シリコン膜41が2.5μm、シリコン層48が75μm、である。そして上述の第4の酸化シリコン膜44の膜厚は1.0μmである。上述の各厚さのうち、シリコン層48の厚さは将来的に形成されるノズル孔21の長さ(以下、「ノズル長」と称する。)となる。したがって、シリコン層48の層厚は、目的とするノズル長に合せて設定する必要がある。第1の酸化シリコン膜41も、薄膜化された上でノズル長の一部となる。したがって、シリコン層48の層厚は、薄膜化された後の第1の酸化シリコン膜41の膜厚も考慮して設定する必要がある。一方、シリコン支持基板46はシリコンノズルプレート1の構成要素とした残らないため、比較的自由に厚さを設定できる。
上述したように、ノズル孔21はシリコン層48をパターニングすなわち局所的に除去して形成される。したがって、シリコン層48と上側の第4の酸化シリコン膜44との界面が、接着面16となる。そして、シリコン層48と第1の酸化シリコン膜41との界面が、吐出面15となる。
【0034】
シリコン支持基板46とシリコン層48は、共に単結晶シリコンからなる。そして第1の酸化シリコン膜41は、シリコン層48を酸化して形成された膜である。SOI基板40は、以下の工程で形成される。まず、一方の単結晶シリコン基板(符号無し)の表面を熱酸化して、第1の酸化シリコン膜41を形成する。そして、該一方の単結晶シリコン基板を、もう一方の単結晶シリコン基板であるシリコン支持基板46に、第1の酸化シリコン膜41を挟むように貼り合せて加熱により接着する。そして、一方の単結晶シリコン基板を研磨等により薄板化して、シリコン層48とする。なお、第1の酸化シリコン膜41及び第4の酸化シリコン膜44の形成方法は、WET酸化とドライ酸化のどちらを用いてもよい。
【0035】
次に、図3(b)に示すように、SOI基板40の上側に第4の酸化シリコン膜44を介して第1のレジスト層57を形成する。そして該第1のレジスト層を露光現像処理によりパターニングして、第2のノズル孔形成領域121bに開口部を形成する。第2のノズル孔形成領域121bは、平面視で将来的に形成される第2のノズル孔21bと重なる領域である。
【0036】
次に、図3(c)に示すように、上述の開口部における第4の酸化シリコン膜44をエッチングにより除去して、シリコン層48を露出させる。上述のエッチングは異方性が必要とされるため、ドライエッチングで行うことが好ましい。そして次に、図4(d)に示すように、硫酸(H2SO4)等を用いて第1のレジスト層57を除去する。
【0037】
次に、図4(e)に示すように、SOI基板40の上側に第4の酸化シリコン膜44を介して第2のレジスト層58を形成する。そして該第2のレジスト層を露光現像処理によりパターニングして、第1のノズル孔形成領域121aに開口部を形成する。第1のノズル孔形成領域121aは、平面視で将来的に形成される第1のノズル孔21aと重なる領域である。
【0038】
次に、図4(f)に示すように、第2のレジスト層58で覆われていない領域、すなわち第1のノズル孔形成領域121aのシリコン層48を、40μm以上の深さまでハーフエッチングする。上述のハーフエッチングも異方性が必要とされるため、ドライエッチングで行うことが好ましい。そして次に、図5(g)に示すように、第2のレジスト層58を除去する。
【0039】
次に、図5(h)に示すように、第4の酸化シリコン膜44をマスクとして、シリコン層48をエッチングする。かかるエッチングは、第1のノズル孔形成領域121aにおいては第1の酸化シリコン膜41が露出し、かつ第2のノズル孔形成領域121bにおいてはシリコン層48が35μm〜40μmの深さまでハーフエッチングされる様に行う。上述の、図4(f)に示すエッチングにおいて第1のノズル孔形成領域121aのシリコン層48は40μm以上の深さまでハーフエッチングされているため、第2のノズル孔形成領域121bのシリコン層48を35μm〜40μmの深さまでハーフエッチングすることにより、第1のノズル孔形成領域121aにおいては第1の酸化シリコン膜41を露出させることができる。
【0040】
次に、図5(i)に示すように、第1のノズル孔形成領域121aにおいて第1の酸化シリコン膜41をエッチングしてシリコン支持基板46を露出させる。そして、上側の第4の酸化シリコン膜44を除去する。かかる処理により、第1のノズル孔21aと第2のノズル孔21bとからなるノズル孔21が形成される。ノズル孔21を形成するまでの工程が、本実施形態の製造方法における第1の工程である。なお、第1の工程が終了した段階においても、ノズル孔21はシリコン支持基板46で塞がれており、開口していない。したがって正確には「孔」ではなく、「穴」若しくは「凹部」である。しかし本明細書では、開口する前の段階でもノズル孔21と称している。
【0041】
本実施形態の製造方法では、上記第1の工程で上側の第4の酸化シリコン膜44も完全に除去して、接着面16を露出させている。しかし後述するように、シリコン層48の上面すなわち接着面16には再度酸化シリコン膜を形成する。したがって第1の工程では、上側の第4の酸化シリコン膜44を必ずしも完全に除去する必要はない。
【0042】
次に、図6(j)に示すように、SOI基板40を熱酸化して、上述のノズル孔21の形成により露出したシリコン層48の表面すなわち内壁面14と接着面16に第2の酸化シリコン膜42を形成する。そして、第1のノズル孔21aの形成により露出したシリコン支持基板46の表面に第3の酸化シリコン膜43を形成する。かかる2つの領域に酸化シリコン膜(42,43)を形成する工程が、第2の工程である。上述の酸化シリコン膜(42,43)の膜厚は0.1μm〜5.0μmの範囲が好ましく、本実施形態では1.0μmとしている。なお、本工程における酸化シリコン膜の形成方法は、WET酸化とドライ酸化のどちらを用いてもよい。
【0043】
次に、図6(k)に示すように、SOI基板40の上側に両面テープ56を用いて支持部材55を貼付する。かかる工程が第3の工程である。そして、SOI基板40を下側から研削して、シリコン支持基板46を薄板化する。かかる薄板化の工程が第6の工程である。第3の工程が実施された時点で、SOI基板40の下側には第4の酸化シリコン膜44が残されている。したがって第6の工程では、まず、下側の第4の酸化シリコン膜44を完全に除去する。そしてさらに、シリコン支持基板46を所定の厚さまで薄板化する。
【0044】
シリコン支持基板46を研削処理のみで完全に除去しない理由は、第1の酸化シリコン膜41が(研削処理により)損傷することを抑制するためである。したがって上述の所定の厚さは、第1の酸化シリコン膜41を充分に保護できる厚さ、具体的には、1.0μm〜5.0μm程度が確保されていることが好ましい。
【0045】
次に、図6(l)に示すように、研削処理により薄板化されたシリコン支持基板46を酸化シリコン材料に対して選択的にエッチングして完全に除去する。上述のエッチングは、WETエッチングとドライエッチングのどちらを用いてもよい。かかる、選択的なエッチング処理を行う工程が第7の工程である。したがって、シリコン支持基板46は、第6の工程と第7の工程とにより除去される。
【0046】
次に、図7(m)に示すように、第3の酸化シリコン膜43を除去してノズル孔21を開口させる。かかる工程、すなわちノズル孔21を開口させる工程が第5の工程である。本工程は、第3の酸化シリコン膜43が除去された後に第2の酸化シリコン膜42もエッチングされることを低減するためにドライエッチングにより行うことが好ましい。また、本工程は酸化シリコン材料をエッチングできる条件で行うため、第3の酸化シリコン膜43と共に第1の酸化シリコン膜41も同時にエッチングされ薄膜化される。したがって、第1の酸化シリコン膜41は、本工程で薄膜化されてもインク保護膜として機能するように、SOI基板40の構成要素である時点において充分に厚く形成されている必要がある。
【0047】
酸化シリコン膜をインク保護膜として機能させるためには、略1.0μmの膜厚が確保されていることが好ましい。そのため上述の第2の工程では、第2の酸化シリコン膜42と第3の酸化シリコン膜43とを1.0μmの膜厚に形成している。上述の第5の工程でノズル孔21を開口させるためには、膜厚1.0μmの第3の酸化シリコン膜43を除去する必要があり、その際、第1の酸化シリコン膜41も同程度エッチングされて薄膜化される。したがって、シリコンノズルプレート1が完成した状態で第1の酸化シリコン膜41をインク保護膜として機能させるためには、初期状態すなわちSOI基板40の構成要素である時点における第1の酸化シリコン膜41の膜厚を、第2の工程で形成される第2の酸化シリコン膜42と第3の酸化シリコン膜43の膜厚の2倍以上の膜厚すなわち2.0μm以上としておく必要がある。本実施形態の製造方法では、若干の余裕を見て、初期状態における第1の酸化シリコン膜41の膜厚を、第2の酸化シリコン膜42等の膜厚の2.5倍の2.5μmとしている。その結果、第3の酸化シリコン膜43を除去する際に若干のオーバーエッチングが行われても、1.0μm以上の膜厚の第1の酸化シリコン膜41を残すことが可能となっている。
【0048】
なお、シリコンノズルプレート1が完成した状態において、第1の酸化シリコン膜41の膜厚と第2の酸化シリコン膜42の膜厚とは、一致していなくても問題は無い。すなわち、第5の工程における薄膜化を考慮して初期状態における第1の酸化シリコン膜41を充分に厚くした結果、シリコンノズルプレート1が完成した状態において、第1の酸化シリコン膜41が第2の酸化シリコン膜42の膜厚よりも充分に厚くなっていても特に問題は無い。
【0049】
最後に、図7(n)に示すように、支持部材55と両面テープ56を除去する。以上の工程により、単結晶シリコンからなるシリコン層48を基材としており、少なくとも接着面16と吐出面15と内壁面14とには該単結晶シリコンを熱酸化して形成されたインク保護膜を有するシリコンノズルプレート1を得ることができる。
【0050】
本実施形態の製造方法により得られたシリコンノズルプレート1は以下に述べるような特徴を有している。まず、ノズル長の均一性が向上していることである。上述の工程断面図(図3〜図7)で示したように、SOI基板40を構成するシリコン層48を貫通する孔がノズル孔21となる。したがって、ノズル孔21のノズル長の均一性は、シリコン層48の層厚均一性により決定されることとなる。
【0051】
上述したように、シリコン層48は単結晶シリコン基板を研削(及び研磨)して形成されている。具体的には、シリコン層48は、第1の酸化シリコン膜41を介してシリコン支持基板46と接着された単結晶シリコン基板を、反対側の面から研削等して形成されている。すなわち、シリコン層48は、厚いシリコン支持基板46で支持された状態で研削等されて形成されている。したがって、シリコン層48の層厚は、従来のシリコンノズルプレートのように、支持部材に両面テープ等で貼付された状態で研削された場合と比べて高い均一性を有している。したがって、本実施形態の製造方法により得られたシリコンノズルプレート1はノズル長の均一性の向上したノズル孔21を有している。そして、本実施形態の製造方法により得られたシリコンノズルプレート1を液滴吐出ヘッド8の構成要素とした場合、高い吐出品質を実現できる。
【0052】
第2の特徴としては、全てのインク保護膜が単結晶シリコンを熱酸化して形成された酸化シリコン膜で形成されていることが挙げられる。本実施形態の製造方法で得られたシリコンノズルプレート1は、少なくとも内壁面14と吐出面15と接着面16の3面にインク保護膜として単結晶シリコンを熱酸化して形成された酸化シリコン膜(41,42)が形成されている。単結晶シリコンを熱酸化して形成された酸化シリコン膜は、CVD法等の気相成長法で形成された酸化シリコン膜に比べて密着性が高く剥離等が発生しにくい傾向を有している。したがって、かかるインク保護膜を有するシリコンノズルプレート1は信頼性が向上しており、長期間安定的に使用できる。
なお上述したように、シリコンノズルプレート1を大面積の基板を分割して形成する場合、端面13はシリコン層48が露出する場合もあり得る。しかし端面13にインクが付着する可能性は少ないため、特に問題は無い。
【0053】
また、本実施形態の製造方法は、ノズル孔(の開口部)のエッジ部における欠け(チッピング)等の発生を低減できるという効果を有している。本実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法は、ノズル孔21の形成後すなわちノズル孔21が開口した後に研削工程を実施していない。
【0054】
従来のシリコンノズルプレートの製造方法は、シリコン基板に凹部すなわち該基板を貫通しない穴を形成後、該シリコン基板を反対側の面から研削してノズル孔21を形成している。すなわち上述の凹部を開口させている。したがって、開口後すなわちノズル孔21が形成された後も、暫くは研削工程が継続される。その結果、ノズル孔21のエッジ部に欠けが発生する可能性が生じている。かかる欠けが発生したシリコンノズルプレートは不良として廃棄される。したがって従来のシリコンノズルプレートの製造方法は、歩留まりの向上が困難であった。
【0055】
本実施形態のシリコンノズルプレートの製造方法は、上述したようにノズル孔21が開口した後に研削工程を実施しないため、上述の欠けの発生が低減されている。そのため、歩留まりが向上しており、製造コストも低減されている。
【0056】
<撥水膜及び親水膜>
上記第1の実施形態の製造方法で得られたシリコンノズルプレート1は、表面にインク保護膜としての酸化シリコン膜(41,42)が露出している。しかし、本発明のインクノズルプレートの製造方法は上述の方法に限定されるものではなく、酸化シリコン膜(41,42)の表面に撥水膜等を形成する工程を加えても良い。
【0057】
図8は、上述の工程をさらに実施して、吐出面15に撥水膜51を形成した状態を示すノズル孔21のエッジ部の拡大断面図である。第1の酸化シリコン膜41の上側に、撥水膜51が形成されている。かかる構成のインクノズルプレートであれば、吐出されたインク液滴が第1の酸化シリコン膜41上に残留する現象を低減できるため、インク液滴を安定的に吐出できる。すなわちかかる構成のインクノズルプレートであれば、吐出品質を向上できる。
【0058】
なお、撥水膜51は、フッ素原子を含むシリコン化合物を主成分とする膜である。撥水膜51を形成する工程とは、撥水材料をディップコート又は蒸着する工程である。撥水膜51は、第1の酸化シリコン膜41の表面に、例えばフッ素(F)原子を含む撥水材料(例えばシランカップリング材)をディップコート又は蒸着により塗布することにより形成できる。
【0059】
(第2の実施形態)
<液滴吐出装置>
次に第2の実施形態として、上述のシリコンノズルプレート1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8を搭載した液滴吐出装置について説明する。図9は、上述の液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図である。上述したように、シリコンノズルプレート1はノズル長の均一性が向上している。したがって、かかるシリコンノズルプレート1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8を搭載したインクジェットプリンターは、吐出品質が向上しており高品質の画像等を印刷できる。
【0060】
また、上述のシリコンノズルプレート1は、インク保護膜として気相成長法で形成された膜ではなくシリコン層48を熱酸化して形成された膜を用いているため、信頼性が向上している。したがって、かかるシリコンノズルプレート1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8を搭載したインクジェットプリンターも信頼性が向上しており、長期間安定的に使用できる。
【0061】
本発明の実施の形態は、上述の各実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0062】
(変形例1)
上述の実施形態では、ノズル孔21を小径の第1のノズル孔21aと大径の第2のノズル孔21bとを組み合せて形成していた。すなわち断面が凸状であった。しかし、ノズル孔21はかかる構成に限定される物ではなく、単一の孔すなわち断面がストレート形状の孔で構成することもできる。かかる構成のノズル孔21は、インク液滴を吐出する際の抵抗が増大するという短所もあるが、製造コスト低減できるという長所も有している。
【0063】
(変形例2)
上述の実施形態では、第4の酸化シリコン膜44を、シリコン層48又はシリコン支持基板46を熱酸化することにより形成していた。しかし、第4の酸化シリコン膜44の形成方法は上述の熱酸化法に限定されるものではなく、例えばCVD法等の気相成長法を用いて形成することもできる。第4の酸化シリコン膜44はノズル孔21の形成時のマスクとして用いられる膜であり、シリコンノズルプレート1の構成要素とし残る膜ではない。すなわち、第1の酸化シリコン膜41及び第2の酸化シリコン膜42とは異なり、インク保護膜として形成される膜ではない。したがって、形成方法はコスト等を考慮して、任意に選択できる。
【符号の説明】
【0064】
1…シリコンノズルプレート、3…キャビティ基板、4…電極基板、5…駆動回路、8…液滴吐出ヘッド、13…端面、14…内壁面、15…吐出面、16…接着面、21…ノズル孔、21a…第1のノズル孔、21b…第2のノズル孔、22…振動板、23…リザーバー、24…オリフィス、25…吐出室、27…共通電極、29…絶縁膜、31…個別電極、31a…リード部、31b…端子部、33…封止材、34…ギャップ、35…インク供給口、36…電極取出し部、40…SOI基板、41…第1の酸化シリコン膜、42…第2の酸化シリコン膜、43…第3の酸化シリコン膜、44…第4の酸化シリコン膜、46…シリコン支持基板、48…シリコン層、51…撥水膜、55…支持部材、56…両面テープ、57…第1のレジスト膜、58…第2のレジスト膜、121a…第1のノズル孔形成領域、121b…第2のノズル孔形成領域、230…リザーバー凹部、240…オリフィス凹部、250…吐出凹部、310…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の酸化シリコン膜を挟んで貼り合されたシリコン支持基板とシリコン層との積層構造を含むSOI基板の前記シリコン層及び前記第1の酸化シリコン膜を局所的にエッチングして、前記シリコン支持基板に達するノズル孔を形成する第1の工程と、
前記SOI基板を加熱して、前記ノズル孔の内壁面を含む前記シリコン層の表面に第2の酸化シリコン膜を形成し、かつ、前記第1の工程により露出した前記シリコン支持基板の表面に第3の酸化シリコン膜を形成する第2の工程と、
前記SOI基板の前記シリコン層側の面に支持部材を貼り合せる第3の工程と、
前記SOI基板を前記シリコン支持基板側から薄板化して、前記シリコン支持基板を除去する第4の工程と、
前記第3の酸化シリコン膜を除去して前記ノズル孔を開口させる第5の工程と、
を有することを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンノズルプレートの製造方法であって、
前記第1の酸化シリコン膜は、前記シリコン支持基板と前記シリコン層との何れかの表面を熱酸化して形成された膜であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコンノズルプレートの製造方法であって、
前記第4の工程は、前記シリコン支持基板を研削して薄板化する第6の工程と、薄板化された前記シリコン支持基板を前記第1の酸化シリコン膜及び前記第3の酸化シリコン膜に対して選択的にエッチングして除去する第7の工程を順に行う工程であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のシリコンノズルプレートの製造方法であって、
前記第1の工程は、前記シリコン支持基板側の第1のノズル孔と該第1のノズル孔に連通する該第1のノズル孔よりも断面積が大きい第2のノズル孔とで構成される前記ノズル孔を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズルプレートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするシリコンノズルプレートを備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−96499(P2012−96499A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248166(P2010−248166)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】