説明

シリコン合金焼結体の製造方法

【課題】水を主たるバインダとして用いたシリコン合金製坏土の効果的な脱水・乾燥法を提供すること。
【解決手段】シリコン合金粉末を原料とし、バインダとして、重量%で水10〜40を添加し混練する工程と、シリコン合金製坏土を三次元形状に成形する工程を経て、成形後5分以内に冷却媒体に投入し少なくとも5分以上保持して、成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させた後、水の三重点未満の圧力とした容器内に保持する急速冷凍法、及び、成形後5分以内に1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射するマイクロ波照射法により、成形体の脱水・乾燥を行う。これにより、成形体内の水分を、凝集前の微細分散の状態で除去し、焼結後の割れを防ぐことができるから、有害な有機溶剤を一切使用せずに高品質な製品を安定的に得ることが可能となり、高速成形、製品の低価格化も実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを主成分とするシリコン合金を用いたシリコン合金焼結体の製造方法に関し、特に、その製造工程における脱水・乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用セラミックス製品の製造方法としては、バインダとして有機溶剤を用いる方法が一般的であり、有機溶剤を用いず、水を主たるバインダとする成形加工法は、全く採用されていない。これは、成形加工後の脱水、乾燥が極めて困難で、安定した品質が確保できないためである。
【0003】
発明者等は、低価格金属であるシリコンを、工業用構造材料として有効活用することを目的とし、シリコン、特に、酸素及び鉄等の金属元素を不純物として含有する低価格金属シリコンを原料として、シリコン合金を合成する手法について研究を重ねてきた。その結果、制御型燃焼合成法により、上記のような低価格金属シリコンを原料として、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金を合成することに成功し、同シリコン合金、その製造方法及び製造装置について、先に、特願2009−60453(特願2006−354835の分割出願)として出願した。
併せて、発明者等は、平均粒径を特定値以下に制御した上記シリコン合金の粉末と、水、及び成形用バインダとで構成したことを特徴とする湿式コンパウンド法と、焼結法との組合わせを用いて、シリコン合金焼結体を製造する新たな製品加工技術を発明した。同発明は、既に、特許第4339352号として登録されている。
【0004】
シリコン合金製品を製造するには、このシリコン合金粉末にバインダと水を加え、混練機によりコンパウンドを作り、最終製品に対応する形状に成形した後、乾燥、焼結するという工程を経る。ここで、水を主たるバインダとして用いて成形したシリコン合金製坏土の乾燥体を焼結すると、図6、7の写真に示すような内部割れが発生する。
研究の結果、この原因は、以下のようなものであることが判明した。すなわち、坏土の成形加工の際、成形体内に包含される水分が、時間経過とともに、成形体内の複数箇所で局部凝集し、これが蒸気となって、粒子間の微小間隙から成形体外に蒸発していく。そして、水分の蒸発後に乾燥成形体内に残された空孔に、外部から空気が進入する。乾燥成形体の焼結の際、この空気が加熱により膨張して、焼結体内部に割れが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162851号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Automotive Technology 9、92頁(2008年)
【非特許文献2】渡邊敏幸他、FC Report 26、68頁(2008年)
【非特許文献3】末野悌六他、粘土とその利用、朝倉書店(1962年)
【非特許文献4】日本学術振興会、「先進セラミックスの作り方と使い方」、日刊工業新聞社(2005年)
【非特許文献5】中村正秋他、「初歩から学ぶ乾燥技術」、工業調査会(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、従来、セラミックス製品の製造においては、有機系のバインダを用いて成形加工を行い、脱バインダ工程、焼結処理を経て工業製品を製造するのが一般的である。バインダとして有機系の樹脂が用いられているのは、成形加工後の加熱により脱バインダ処理が容易に行えるためである。
すなわち、有機系のバインダは、高温で加熱されると、煤となって製品の性能劣化の原因となるため、予め取除く必要がある。これは、バインダが煤となる温度以下の低温で、ゆっくりと加熱することにより行うことができる。
しかし、有機系のバインダは、環境に対する負担の面から問題があり、水を主体にした無機バインダが種々検討されてはきたが、上記のような、脱水・乾燥工程の問題に起因する、焼結後の内部欠陥の発生という課題を解決するには至っていなかった。
そこで、本発明は、水を主たるバインダとして用いたシリコン合金製坏土の効果的な脱水・乾燥法を提供し、内部割れのないシリコン合金製工業製品を効率的に得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、 重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体を形成し、
前記成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上前記冷却媒体中に保持して、前記成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させ、
水の三重点未満の圧力とした容器内に保持した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法により、前記課題を解決した。
【0009】
また、本発明は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体とし、
前記成形体を、成形後5分以内に1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、
前記成形体に2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体とし、
前記成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上前記冷却媒体中に保持して、前記成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させた後、
前記成形体を1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、
前記成形体に2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、成形体内の水分を、凝集前の微細分散の状態で除去することができ、焼結後の割れを防ぐことができる。これにより、セラミックス製品の高速成形が可能となり、生産性が従来対比で極めて向上するので、工業用セラミックス製品の低価格化が実現でき、活用の場をさらに広げることができる。
また、本発明の方法によれば、有害な有機溶剤を一切使用せず、水を主たるバインダとして、シリコン合金を成形加工し、高品質なセラミックス製品を安定的に得ることが可能となる。この技術の応用により、セラミックス業界に、水を主たるバインダとする成形加工技術が広く展開することが期待でき、環境保全の面からも極めて有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシリコン合金焼結体の製造工程図。
【図2】本発明の急速冷凍法の作用を示す、水の圧力温度状態図。
【図3】本発明の方法による、乾燥後焼結前のシリコン合金製球体の内部を示す断面写真。
【図4】本発明の方法による、焼結処理後のシリコン合金製球体の断面写真。
【図5】本発明のマイクロ波照射法の作用を示す、水の圧力温度状態図。
【図6】従来の脱水・乾燥法によるシリコン合金焼結体の内部割れ状況を示す写真。
【図7】従来の脱水・乾燥法によるシリコン合金焼結体の内部割れ状況を示す拡大写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記のように、焼結体内部に発生する割れは、シリコン合金製坏土の成形体内の水分が、時間経過とともに成形体内の複数箇所で局部凝集し、これが蒸気となって成形体外に放出された後、乾燥成形体内部に残された空孔に、外部から空気が進入することに起因する。
従って、割れの発生を防止するには、成形体に内在する水分の凝集を極力防止することが必要且つ有効である。その手段として、(1)急速冷凍法(以下、「FD法」とする。)、(2)マイクロ波照射法(以下、「MW法」とする。)が有効であることを発見した。以下、それぞれの方法について詳述する。
【0014】
FD法は、シリコン合金製坏土を、最終製品に対応した形状に成形した後、冷却媒体に投入して急速冷凍することにより、微細分散状態の水分を微細な氷粒とし、成形体内に閉じ込めるものである。具体的な冷却媒体としては、液体窒素、ドライアイスを冷却媒体として冷却し又は冷凍機で冷却した水溶性アルコール、又は冷凍機が最適である。
【0015】
そして、微細分散した氷粒を、水に戻すことなく、直接成形体外部に蒸発飛散させる。これを可能とするために、図2に示す水の圧力温度(P−T)状態図を活用した。温度と圧力の変化により、固相(氷)、液相(水)、気相(水蒸気)がそれぞれ生成され、境界線上では2相混在、三重点Tでは3相混在の状態にあることを示している。
【0016】
水を瞬時に氷粒化し、この氷粒を水にすることなく、セラミックスから、直接、蒸発させる本発明の方法について、図2に基づき、以下に詳述する。
図2において、シリコン合金製坏土の成形直後に成形体に含有される水分の温度をT1とする。水には1気圧、約1013hPaの圧力がかかっているから、成形された状態での内部の水分の状態は、a点で表される。
【0017】
成形直後の状態では、内部に含有される水分は、微細な粒の状態で分散している。この状態の成形体を、液体窒素等の冷却媒体の温度(T2)に瞬時に冷却すると、成形体内部の水分は微細分散状態のままで凍結され、b点で表される状態に移行する。
【0018】
次に、凍結された成形体を、P−T状態図における三重点Tの圧力、約6.1hPa未満の低圧状態の容器に投入する。成形体内の水分は、氷結したままで、c点で表される状態に移行する。
【0019】
三重点Tの圧力未満に真空度を保持しつつ、温度を上昇させると、温度T3(d点)で、氷が直接水蒸気となり、成形体から急速に昇華していく。真空度を三重点Tの圧力未満に保持すれば、どの様に昇温させても、氷→水蒸気の昇華現象が生ずる。適度な加熱手段を併用して成形体を昇温させることにより、その後の乾燥工程をより効率化することができる。
【0020】
三重点Tの圧力未満の減圧容器内において、外部からの加熱を行わない状態で、30時間保持することにより、成形体の含水率を、当初の23%から1%以下まで低減させることができた。
完全脱水後に、容器内に窒素を投入し、乾燥を完了する。すなわち、容器内は減圧状態にあるから、成形体を取出すには、容器内に空気等のガスを導入して大気圧に戻す必要がある。ここで、空気を導入すると、乾燥後の成形体内に酸素が入り込み、次の焼結工程において炉内壁材のカーボンと反応して二酸化炭素を発生させ、内壁が損耗してしまうため、窒素を用いることが好ましい。
【0021】
図3は、乾燥後焼結前の球体の内部を示す断面写真である。氷粒が水蒸気となりセラミックス粒子の微細粒界間隙を通って成形体から抜け出た後の様子が写し出されている。水分の抜けた跡はセラミックス粒子間に形成されており、その大きさは0.1μm以下で、この様にして乾燥した成形体内部には、従来の方法で成形乾燥させた場合にできるような空孔は皆無であった。
【0022】
図4は、所定の焼結処理を行った後の球体内部の状態を示す断面写真である。図3で認められた微細間隙は完全に焼結され、球体内部は緻密化し、内部割れは皆無である。
従来認められていた内部割れ状況を示す図6、7の写真と比較すると、本発明の奏する効果が極めて顕著なものであることが分かる。
【0023】
次に、マイクロ波を用いて成形体内の水分を蒸発飛散させることにより、焼結後の内部割れを防止するMW法について、図5の圧力温度(P−T)状態図を参照しながら説明する。
シリコン合金製坏土の成形直後に内部に含有される水分の温度をT1とすると、水には1気圧の圧力がかかっているから、成形された状態でのセラミックス内の水分の状態は、図2の場合と同様、a点で表される。
【0024】
ここで、成形体を保持する容器内の圧力を、1気圧より低いP1に減圧すると、水の気化温度を100℃からT4に低下させることができ、効率的な脱水が可能となるので、本発明の推奨条件である。
減圧状態での成形体内部の水分の状態は、e点で表される。
【0025】
e点の状態で、水分が凝集を開始する前、すなわち微細分散状態にある成形体に、2.450GHzのマイクロ波を照射する。2.450GHzのマイクロ波は、水に良く吸収され、容易に水を加熱することができる。これにより、成形体内部から水分が加熱され、温度T4(f点)において、水が水蒸気となり気化していく。マイクロ波照射中は、容器内を減圧状態に保持すると効果的である。
この方法によって、FC法による場合と同様、焼結体の内部割れが効果的に防止できることが確認できた(図4、6、7参照)。
【実施例1】
【0026】
以下、図1を参照しながら、具体的な実施例について説明する。
供試材として、表1に示す組成を有する、2種のシリコン合金を用いた。なお、供試材Aは、商標名「メラミックス」S1として商業販売されているシリコン合金粉末であり、供試材Bは、A対比でより低い温度で焼結することができるシリコン合金粉末である。
【表1】

【0027】
バインダは、主として一般水又はイオン交換水を用い、また、必要に応じて、無機バインダ及び焼結助剤を添加することができ、重量%で、水10〜40と、二酸化シリコン、アルミナを主成分とする1種又は2種以上の無機バインダ0.5〜10と、5以下の焼結助剤を添加するのが好ましい。
【0028】
これらを混練して得られたシリコン合金製坏土を、最終品の形状に合わせて成形する。
ここで、混練工程及び/又は成形工程を、常圧以下の減圧環境で行うことにより、坏土又は成形体内に不可避的に包含されるマイクロポアを極限値にまで低減させることができる。「マイクロポア」とは、顕微鏡レベルで発見される微細な空孔のことである。
従って、常圧以下の減圧環境で行う混練工程及び/又は成形工程は、特に強度が必要とされる用途に使用されるシリコン合金焼結体の製造には、推奨される必須工程である。
【0029】
FD法による脱水・乾燥の最適条件とその効果を検証するにつき、
(1)図2に示す成形直後の状態(a点)から、液体窒素又は他の冷却媒体に投入(b点)するまでの時間(分)
(2)冷却媒体とその温度(℃)
(3)凍結された成形体を保持する減圧容器内(c点)の圧力(hPa)
(4)成形体の含水率が重量%で1以下となるまでの、減圧容器内(c点)の保持温度(℃)と保持時間(時間)
の諸条件を種々変更して実験を行った。
【0030】
そして、成形体の乾燥後、常圧窒素雰囲気400V出力の量産用連続焼結炉による焼結を実施した。焼結温度は、A材は1750℃、B材では1600℃とし、焼結時間はいずれも2時間とした。
焼結後に成形体を中央で切断して、断面硬さを測定した。また、本発明の課題である「割れ」は、中央切断研磨面の目視観察と、100倍倍率の顕微鏡観察によって検証を行った。また、無機バインダ及び焼結助剤の影響についても検証した。
この結果を、表2に示す。
【表2】

【0031】
表2から明らかなように、成形直後の状態から液体窒素又は他の冷却媒体に投入するまで(a点→b点)の時間を10分とした実験例6、及び成形体を減圧保持する容器内の圧力を7.0hPaとした実験例5では、内部割れが発生した。
このことから、シリコン合金製坏土の成形後、液体窒素又は他の冷却媒体に投入するまでの時間が5分以内で、且つその後成形体を減圧保持する容器内の圧力を、図2に示す三重点の圧力未満とすることにより、焼結体の内部割れが発生しないことが明らかとなった。
このFD条件を確保すれば、無機バインダ添加の有無、焼結助剤添加の有無、焼結温度の高低差の影響を受けずに、焼結体の内部割れの問題は解決できることが証明された。
また、供試材Bは、A材と比べ、焼結温度が低下できること、及び焼結助剤なしで、割れを発生させずに焼結できることも検証された。
なお、減圧容器内での最適保持時間は、減圧容器の大きさ、真空ポンプの排気量、投入する成形体の大きさや量等によって異なる。本実施例の諸条件の下では、最短保持時間として5時間必要であった(表2参照)。
【実施例2】
【0032】
次に、MW法による脱水・乾燥の最適条件とその効果を検証するにつき、
(1)図5に示す成形直後の状態(a点)から、マイクロ波を照射する減圧容器内に投入(e点)するまでの時間(分)
(2)成形体を保持する減圧容器内(c点)の圧力(P1hPa)
(3)P1によって決まる、減圧容器内における気化温度(T4℃)
(4)T4(f点)での保持時間(分)
の諸条件を種々変更して実験を行った。
なお、マイクロ波の発信装置は、交流3相200V、マイクロ波出力0.1〜3kW、周波数は2.540GHzである。
【0033】
乾燥後の焼結温度は、A材は1750℃、B材では1600℃とし、焼結時間はいずれも2時間とした。
断面硬さと内部割れの検証方法は、実施例1と同様である。
この結果を、表3に示す。
【表3】

【0034】
表3から明らかなように、成形直後の状態からマイクロ波を照射する減圧容器内に投入するまで(a点→e点)の時間を10分とした実験例15、16、及びT4(f点)での保持時間を2分、3分とした実験例13、17、18では、内部割れが発生した。
このことから、シリコン合金製坏土の成形後、減圧容器に投入してマイクロ波を照射するまでの時間が5分以内で、且つ、T4(f点)での保持時間が5分以上であれば、内部割れは皆無であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の方法によって製造されたシリコン合金製品は、表4に示すような種々の特性を有する。
【表4】

【0036】
このように、本発明によるセラミックス製品は、軽量、高強度、高疲労強度特性、非磁性特性、耐熱性、耐薬品性等の優れた特性を有するので、以下のような様々な用途に適用することが出来る。
すなわち、ベアリングボール、ベアリング用レース、直線運動軸受け用部品、自動車のパワートレイン部品・動力伝達用軸部品・ターボチャージャー部品・排気用マニホールド部品・コモンレール等燃料噴射系部品、航空機用のタービン部品・ランディングギアー部品、人工骨格の構成部品、半導体製造装置部品等である。
【0037】
また、シリコン合金は、完全非磁性のため、インバータタイプの発電装置、電動モータの軸受け部材として用いた場合に有利な効果を奏する。交流磁場による電蝕や鉄損防止の目的で鉄系軸受部材に用いられている非磁性材料の皮膜処理が省略できるためである。
具体的には、交流磁場環境で使用する、風力発電装置用ベアリングボール、ロール軸、テーパーロール軸、これらを保持する各種の内外輪、及び交流磁場環境で使用するハイブリット車・電気自動車用電動モータに使用されるベアリングボール、ロール軸、テーパーロール軸、これらを保持する各種の内外輪に用いることができる。
【0038】
さらに、表4に示すように、20GHzまでの電磁波を反射することができるため、この特性を活用して、ハイブリットカーや電気自動車の電動モータからの電磁波を防御する各種の部品として、優れた機能を発揮することができる。
【0039】
また、ドクターブレード法又はスリップキャスト法等により、有機バインダを用いない水スラリーから成形体を成形する際に、本発明による脱水・乾燥方法を活用することにより良好な成形体が製造できる。
【0040】
さらに、本発明の脱水・乾燥法は、バインダとして有機溶剤、ワックス等を多量に添加して射出成形するCIM(セラミックス・インジェクション・モールディング)にも適用できる。すなわち、従来の有機溶剤、ワックス等に替えて水のみをバインダとして用い、射出成形後に本発明の方法を用いて脱水することにより、脱バインダ工程なしでCIM成形焼結体を製造することができる。
【0041】
以上のように、本発明により、セラミックス製品の製造に当たり、主たるバインダとして水を用いた場合にも、成形体内の水分を効果的に除去し、焼結後の割れを防ぐことができる。これによって、セラミックス製品の高速成形が可能となり、生産性が向上するので、工業用セラミックス製品の低価格化が実現でき、活用の場をさらに広げることができる。
また、本発明の方法によれば、有害な有機溶剤を一切使用せず、水を主たるバインダとして、シリコン合金を成形加工し、高品質なセラミックス製品を安定的に得ることが可能となる。この技術を応用することで、有機溶剤を用いない成形加工技術が、セラミックス業界に広く展開することが期待でき、益々重要性を増している環境問題の観点からも極めて有利な効果を奏し、産業界のニーズに応えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体を形成し、
前記成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上前記冷却媒体中に保持して、前記成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させ、
水の三重点未満の圧力とした容器内に保持した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法。
【請求項2】
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体とし、
前記成形体を、成形後5分以内に1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、
前記成形体に2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法。
【請求項3】
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有することを特徴とするシリコン合金粉末を原料とし、
バインダとして、重量%で水10〜40を添加し、混練する工程と、
前記混練工程を経て得られたシリコン合金製坏土を、三次元形状に成形する工程を経て成形体とし、
前記成形体を、成形後5分以内に冷却媒体に投入し、少なくとも5分以上前記冷却媒体中に保持して、前記成形体内の水分を微細分散状態で急速凍結させた後、
前記成形体を1気圧未満の減圧環境とした容器に投入し、
前記成形体に2.450GHzマイクロ波を少なくとも5分以上継続照射した後に焼結することを特徴とする、
シリコン合金焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン合金粉末に、水とともに、二酸化シリコン、アルミナを主成分とする1種又は2種以上の無機バインダ0.5〜10、及び/又は5以下の焼結助剤を添加する、請求項1〜3のいずれかのシリコン合金焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記混練工程及び/又は成形工程を、常圧以下の減圧環境で行う、請求項1〜4のいずれかのシリコン合金焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−51841(P2011−51841A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202440(P2009−202440)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(303066208)株式会社イスマンジェイ (15)
【Fターム(参考)】