説明

シリコン系薄膜光電変換装置とその製造方法

【課題】i型の結晶質シリコン系光電変換層を含むシリコン系薄膜光電変換装置を高性能化する。
【解決手段】透光性基板1上に、透明電極層20と、少なくとも1つの結晶質シリコン系光電変換ユニット22と、裏面電極層3とを含む光電変換装置であって、光電変換ユニット22は、光透過側から順に、p型の結晶質シリコン層221と、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層222と、膜厚が0nmを越えて50nm以下である実質的にi型のシリコン界面層222Aと、n型の結晶質シリコン層224とを含み、断面においてシリコン界面層222Aとn型の結晶質シリコン層224との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、光電変換層222と前記シリコン界面層222Aとの境界の表面粗さRaよりも小さいことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、i型の結晶質シリコン系光電変換層を含むシリコン系薄膜光電変換装置の高性能化に関するものである。
【0002】
なお、本願明細書において、「多結晶」と「微結晶」と「結晶質」の用語は、シリコン系薄膜光電変換装置の技術分野において通常用いられているように、部分的にアモルファス状態を含むものをも意味するものとする。
【0003】
また、光電変換ユニットに含まれるp型層とn型層が結晶質か非晶質かにかかわらず、実質的にi型の光電変換層が結晶質である場合に結晶質光電変換ユニットと称し、実質的にi型の光電変換層が非晶質・アモルファスの場合には非晶質光電変換ユニットと称する。
【背景技術】
【0004】
近年では、たとえば多結晶シリコンや微結晶シリコンのような結晶質シリコンを含む薄膜を利用した光電変換装置の開発が精力的に行なわれている。これらの開発は、安価な基板上に低温プロセスで良質の結晶質シリコン薄膜を形成することによって光電変換装置の低コスト化と高性能化を両立させるという試みであり、太陽電池だけでなく光センサ等のさまざまな光電変換装置への応用が期待されている。
【0005】
これらの結晶質シリコン薄膜の形成方法としては、たとえばCVD法やスパッタリング法や電解析出法によって基板上に透明電極層を堆積させるか、同様のプロセスで一旦透明電極層を堆積させた後に熱アニールやレーザアニールを行うことによって結晶化を図るなどの方法があるが、いずれにしても前述のような安価な基板を用いるためには550℃以下のプロセスで行なう必要がある。
【0006】
そのようなプロセスの中でも、プラズマCVD法によって直接結晶質シリコン薄膜を堆積させる手法は、プロセスの低温化や薄膜の大面積化が最も容易であり、しかも比較的簡便なプロセスで高品質な膜が得られるものと期待されている。このような手法で多結晶シリコン薄膜を得る場合、結晶質を含む高品質シリコン薄膜を何らかのプロセスで一旦基板上に形成した後で、これをシード層または結晶化制御層として用いてその上に成膜することによって、比較的低温でも良質の多結晶シリコン薄膜が形成され得る。
【0007】
一方、水素でシラン系原料ガスを10倍以上希釈しかつプラズマ反応室内圧力を10mTorr〜1Torrの範囲内に設定してプラズマCVD法で成膜することによって、微結晶シリコン薄膜が得られることは知られており、この場合には低温でもシリコン薄膜が容易に微結晶化され得る。たとえば、微結晶シリコンのpin接合からなる光電変換ユニットを含む光電変換装置が、非特許文献1に記載されている。この光電変換ユニットは、簡便にプラズマCVD法で順次積層されたp型の結晶質シリコン層、実質的にi型のシリコン系光電変換層、およびn型の結晶質シリコン層からなり、これらの半導体層のすべてが結晶質シリコンであることを特徴としている。
【0008】
なおi型の結晶質シリコン系光電変換層を含むシリコン系薄膜光電変換装置の高性能化の課題については、これまでも鋭意検討され解決手段が提案されており、例えば、以下の特許文献1や特許文献2が有る。
【0009】
特許文献1は、「光電変換特性が改善されたシリコン系薄膜光電変換装置を提供すること」を課題として、400℃以下の基板温度のもとにプラズマCVD法で順次積層された一導電型層、90%以上の体積結晶化分率を有しかつ実質的にi型の結晶質光電変換層、実質的にi型の微結晶中間層、および微結晶の逆導電型層を含み、中間層は光電変換層に比べて低い体積結晶化分率を有するとともに5〜60nmの範囲内の厚さを有することを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置で解決することを、開示している。
【0010】
特許文献2は、「光閉じ込め効果によって高い光電変換効率を有する半導体薄膜光電変換装置を低コストで製造し得る方法を提供すること」を課題として、結晶質光電変換層に含まれる第1と第2の結晶質光電変換サブ層をプラズマCVD法によって順次堆積し、この際のCVD条件は第1結晶質光電変換サブ層に比べて第2結晶質光電変換サブ層の方が体積結晶化分率が小さくなる条件に設定され、第2結晶質光電変換サブ層の表面近傍において分散して含まれる非晶質微小領域を、水素プラズマを用いて優先的にエッチングすることによって表面凹凸構造が形成される、半導体薄膜光電変換装置の製造方法で解決することを、開示している。
【0011】
また、別のアプローチとして、光入射側から順に、i型の結晶質シリコン系光電変換層、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層とを配置された光電変換装置なども提案されている。i型層の屈折率よりも小さい屈折率を有するシリコン複合層により、光入射側から遠い側での反射等の促進による、光閉じ込め効果を増大させる態様なども、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−188413
【特許文献2】特開2001−352082
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett., Vol 65, 1994, p.860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
i型の結晶質シリコン系光電変換層を含むシリコン系薄膜光電変換装置の高性能化の課題を達成するためには、いまだに、改善の余地が有る。本発明者らの鋭意検討によって、以下のような課題が明らかとなって来ている。
【0015】
(n層積層条件に伴う課題)
一般に、i層の上に製膜されるn層積層のプラズマCVD法のプラズマ放電条件は、i層の積層の条件よりも、より厳しめであり、より過酷である。
【0016】
すなわち、多結晶シリコンまたは結晶化分率の高い微結晶シリコン系薄膜からなるi型のシリコン系光電変換層の上に非常に薄いn型の結晶質シリコン層を形成しようとするとき、下地層となるi型の結晶質シリコン系光電変換層の最終表面部(堆積最終表面)が掘削モードの強いプラズマ放電条件下にさらされると、熱的損傷あるいはi型の結晶質シリコン系光電変換層の非晶質部分が選択的に掘削されること等により、微視的な意味で物理的な欠陥が発生する場合が有ることを、本発明者らは見出した。これらの欠陥によって、光電効果で励起されたキャリアが阻害され、再結合あるいは電流密度の律速の影響を受けて性能低下を引き起こしていると推定される課題を、本発明者らは、見出している。
【0017】
(リンドープされたシリコン複合層積層条件に伴う課題)
なお、リンドープされたシリコン複合層そのものをn層として使う場合や、他のn層に加えて、リンドープされた(n型の)シリコン複合層をさらに備える場合も、有る。
【0018】
一般に、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層のプラズマCVD法のプラズマ放電条件は、i層の積層の条件よりも、より厳しめであり、より過酷であり、他の通常のn層よりも、より厳しめ、より過酷である。従って、前記のn層積層条件に伴う課題よりもさらに深刻な課題が存在する場合が有ることを、本発明者らは、見出している。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記のような、従来技術に伴う、本発明者らが見出した新たな課題を解決することを目的としている。
【0020】
本発明の第1は、
「透光性基板上に、光透過側から順に配置されてなる、透明電極層と、少なくとも1つの結晶質シリコン系光電変換ユニットと、裏面電極層とを含むシリコン系薄膜光電変換装置であって、
前記結晶質シリコン系光電変換ユニットは、光透過側から順に、プラズマCVD法によって順次積層されてなるp型の結晶質シリコン層と、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層と、膜厚が0nmを越えて50nm以下である実質的にi型のシリコン界面層と、n型の結晶質シリコン層とを含み、
前記透光性基板に略垂直な方向の断面において前記シリコン界面層と前記n型の結晶質シリコン層との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、
前記断面において前記結晶質シリコン系光電変換層と前記シリコン界面層との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaよりも小さいことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」、である。
【0021】
本発明は、また、
「結晶質シリコン系光電変換ユニットが、i型のシリコン界面層とn型の結晶質シリコン層との間に、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層を少なくとも1つ含むことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」である。
【0022】
本発明は、また、
「i型の非晶質シリコン系光電変換層を含む非晶質光電変換ユニットをさらに備える、タンデム型の、シリコン系薄膜光電変換装置であって、光透過側から順に、透明電極層と、非晶質光電変換ユニットと結晶質シリコン系光電変換ユニットとが配置されることを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」である。
【0023】
本発明は、また、
「本発明の第1のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法であって、少なくとも、
実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層をプラズマCVD法で堆積する工程と、
i型のシリコン界面層をプラズマCVD法で堆積する工程とを備え、
前記i型のシリコン界面層を堆積し終えた際のシリコン界面層の表面の表面粗さRaが、
前記実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層を堆積し終えた際の結晶質シリコン系光電変換層の表面の表面粗さRaよりも小さくするような製膜条件を設定することを特徴とする、本発明の第1のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」、である。
【0024】
本発明の製造方法によれば、i型の結晶質シリコン系光電変換層の上部にシリコン界面層の製膜条件のプラズマ放電電力を低くすること、またはプラズマCVD電極間距離を狭くすることにより積層し、n型の結晶質シリコン層を順次堆積することにより前記i型の結晶質シリコン系光電変換層までを積層した後の表面粗さよりも前記i型のシリコン界面層までを積層した後の表面粗さが小さくすることによって、発電変換効率が改善されたシリコン系薄膜光電変換装置が得られる。
【発明の効果】
【0025】
ある特定の表面粗さRaの大小関係を備える本発明の薄膜光電変換装置によって、発電変換効率が改善されたシリコン系薄膜光電変換装置を得ることができる。曲線因子および/または短絡電流密度の向上によって、改善の程度を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のひとつの実施の形態による結晶質シリコン系薄膜光電変換装置を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明のもう1つの実施の形態による順次積層された非晶質ユニット、結晶質ユニットのタンデム型光電変換装置を示す模式的な断面図である。
【図3】i型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の平均的厚さを積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図である。
【図4】i型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さを積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図である。
【図5】i型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さを超える膜厚を積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のような従来技術の課題を鑑み、本発明は、低温プラズマCVD法を利用して形成される前記i型の結晶質シリコン系光電変換層までを積層した後の表面粗さよりも前記i型のシリコン界面層までを積層した後の表面粗さが小さくなるようにシリコン界面層の製膜条件を制御することによって欠陥を塞ぎ、前記i型の結晶質シリコン系光電変換層までを積層した後の表面粗さにより発生する隙間を抑制して発電変換効率を改善することを目的としている。
【0028】
本発明によるシリコン系薄膜光電変換装置は、透光性基板上において順次積層された透明電極層、少なくとも1つのシリコン系薄膜光電変換ユニットおよび裏面電極層を含み、光電変換ユニットの少なくとも1つは400℃以下の基板温度のもとでプラズマCVD法によって順次積層されたp型の微結晶シリコン系層、90%以上の体積結晶化分率を有しかつ実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層、実質的にi型のシリコン界面層、およびn型の微結晶シリコン系層を含んでいる。
【0029】
前記i型のシリコン界面層は、前記シリコン複合層積層時またはn型の結晶質シリコン系層積層時の、プラズマ放電による前記i型の結晶質シリコン系光電変換層の「熱的損傷および/または光電変換層の堆積最終表面の一部の非晶質部が選択的に掘削されること等」が抑制されるように働く、保護層として働く効果も期待できる。
【0030】
前記i型のシリコン界面層は、プラズマCVD反応室の原料ガスの主成分、プラズマ放電電力、プラズマCVD室内圧力およびプラズマCVD電極間距離をそれぞれ制御することにより実現される。
【0031】
i型のシリコン界面層の堆積条件はプラズマCVD放電エネルギーを前記i型のシリコン系光電変換層の堆積時に比べて小さくすること、
または、
i型のシリコン界面層の堆積するプラズマCVD電極間距離は前記i型の光電変換層の堆積時に比べて狭くすること、
または、
i型のシリコン界面層の堆積するプラズマCVD反応室内に導入される原料ガスの希釈ガスである水素ガス流量を前記i型の光電変換層の堆積時と同じにし、原料ガスの主成分であるシランガス流量を多くすること、
または、これらの調整を複数同時に制御することに加えて前記i型の結晶質シリコン系光電変換層の膜厚が5nm以上50nm以下となるように堆積時間を調整することによって、前記i型の結晶質シリコン系光電変換層までを積層した後の表面粗さよりも前記i型のシリコン界面層までを積層した後の表面粗さが小さくすることを特徴としている。
【0032】
すなわち、本発明者たちは、上述の課題を解決すべく検討を重ねた結果、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層を形成した後に前記シリコン複合層またはn型の結晶質シリコン層を積層する場合には、これらの層の間に実質的にi型のシリコン界面層を挿入することにより、前記i型の結晶質シリコン系光電変換層までを積層した後の表面粗さよりも前記i型のシリコン界面層までを積層した後の表面粗さが小さくなることにおいて初めて得られることを見出したのである。
【0033】
なお、本発明の明細書中では構成要件等を、「符号の説明」欄に記載の符号を入れた形で説明しているが、本発明は、単なる例示であるこれらの符号や図面等に拘束されるものではない。すなわち、本発明は、当分野において通常の知識を有する者により、本発明の技術的思想内で、以下説明する符号等に拘束されることなく多くの変形が、可能である。なお、同一の構成について説明する際に、参照する図面によって、異なる符号を使っている場合も有る。また、同一の構成(例えば、透明電極層)の内容について文章中で説明する場合には、異なる図面中のそれぞれ異なる符号を、2以上列記している場合(例えば、透明電極層10,20)も有る。
【0034】
本発明の第1は、
「透光性基板1上に、光透過側から順に配置されてなる、透明電極層10,20と、少なくとも1つの結晶質シリコン系光電変換ユニット12,22と、裏面電極層3とを含むシリコン系薄膜光電変換装置であって、
前記結晶質シリコン系光電変換ユニット12,22は、光透過側から順に、プラズマCVD法によって順次積層されてなるp型の結晶質シリコン層121,221と、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層122,222と、膜厚が0nmを越えて50nm以下である実質的にi型のシリコン界面層122A,222Aと、n型の結晶質シリコン層124,224とを含み、
前記透光性基板に略垂直な方向の断面において前記シリコン界面層122A,222Aと前記n型の結晶質シリコン層124,224との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、
前記断面において前記結晶質シリコン系光電変換層122,222と前記シリコン界面層122A,222Aとの境界として観察される形状から求められる表面粗さRaよりも小さいことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」、である。
【0035】
本発明は、また、
「結晶質シリコン系光電変換ユニット12,22が、i型のシリコン界面層122A,222Aとn型の結晶質シリコン層124,224との間に、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層123,223を少なくとも1つ含むことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」である。
【0036】
本発明は、また、
「i型の非晶質シリコン系光電変換層212を含む非晶質光電変換ユニット21をさらに備える、タンデム型の、シリコン系薄膜光電変換装置であって、光透過側から順に、透明電極層20と、非晶質光電変換ユニット21と結晶質シリコン系光電変換ユニット22とが配置されることを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置」である。
【0037】
本発明は、また、
「本発明の第1のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法であって、少なくとも、
実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層122,222をプラズマCVD法で堆積する工程と、
i型のシリコン界面層122A,222AをプラズマCVD法で堆積する工程とを備え、
前記i型のシリコン界面層122A,222Aを堆積し終えた際のシリコン界面層122A,222Aの表面の表面粗さRaが、
前記実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層122,222を堆積し終えた際の結晶質シリコン系光電変換層222の表面の表面粗さRaよりも小さくするような製膜条件を設定することを特徴とする、本発明の第1のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」、である。
【0038】
本発明の構成について、図を参照しながら、以下に具体的に説明する。
【0039】
図1は、本発明の1つの実施の形態によるシリコン系薄膜光電変換装置を模式的な断面図を示す。
【0040】
(透光性基板1)
この装置の透光性基板1には、透明な有機フィルム、または低融点の安価なガラス等が用いられ得る。
【0041】
(透明電極層10,20)
透光性基板1の上の透明電極層10は、ITO,SnO およびZnOから選択された少なくとも1以上の酸化物からなる層を含む透明導電性薄膜のうちの1以上を含み、たとえば蒸着法やスパッタリング法によって形成され得る。
【0042】
(結晶質シリコン系光電変換ユニット12,22)
透明電極層10上には、結晶質シリコン系光電変換ユニット12が形成される。結晶質シリコン系光電変換ユニット12に含まれるすべての半導体層が、400℃以下の下地温度のもとにプラズマCVD法によって堆積される。プラズマCVD法としては、通常広く用いられているRFプラズマCVD法が用いられるほか、150MHz以下の周波数においてRF帯からVHF帯の高周波電源を用いたプラズマCVD法を利用してもよい。
【0043】
(p型の結晶質シリコン層121,221)
プラズマCVD法において、まず、前記結晶質シリコン系光電変換ユニット11に含まれるp型の結晶質シリコン層121が堆積される。このp型の結晶質シリコン層121としては、またはボロンがドープされたp型シリコン系薄膜などが用いられ得る。また、p型の結晶質シリコン層121の材料としては、非晶質シリコンの他に非晶質シリコンカーバイドや非晶質シリコンゲルマニウム等の合金材料を用いてもよく、または多結晶シリコンや部分的に非晶質を含む微結晶シリコン、あるいはそのような結晶質のシリコン系合金材料を用いてもよい。さらに、堆積されたp型の結晶質シリコン層121にパルスレーザ光を照射することにより、結晶化分率や導電型決定不純物原子によるキャリア濃度を制御する手法を取り入れてもよい。p型の結晶質シリコン層121をプラズマCVD法で形成する場合、原料ガスとしてはモノシランやジシラン等の水素化シラン系ガスを用いることができ、ドーピングガスとしてはたとえばボロンドープの場合にジボランを用いることができ、さらに、これらのガスに加えて水素等の希釈ガスが混合される。
【0044】
(結晶質シリコン系光電変換層122,222)
p型の結晶質シリコン層121上には、結晶質シリコン系光電変換層122が堆積される。この光電変換層122としては、ノンドープの実質的にi型の多結晶シリコン薄膜や体積結晶化分率が90%以上の実質的にi型の微結晶シリコン薄膜、または微量の不純物を含む弱p型もしくは弱n型で光電変換機能を十分に備えている結晶質シリコン系薄膜材料が使用され得る。また、光電変換層122はこれらの材料に決定されず、シリコンカーバイドやシリコンゲルマニウム等のシリコン系合金材料を用いてもよい。光電変換層122の膜厚は0.5〜20μmの範囲内にあり、結晶質シリコン系薄膜光電変換層として必要かつ十分な膜厚を有している。
【0045】
光電変換層122は400℃以下の低い下地温度のもとで形成されているので、結晶粒界や粒内における欠陥を終端させて不活性化させる水素原子を多く含み、その水素含有量は好ましい1〜30原子%の範囲内にある。また、この結晶質シリコン系薄膜光電変換層122に含まれる結晶粒の多くは、下地層121から上方に柱状に延びて成長している。これらの多くの結晶粒は膜面に平行に(110)の優先結晶配向面を有し、そのX線回折における(220)回折ピークに対する(111)回折ピークの強度比は0.2以下の好ましい範囲内にある。さらに、光電変換層122をプラズマCVD法で堆積するときの下地温度は400℃以下であるので、上述した安価な基板が使用され得る。
【0046】
プラズマ反応室内に導入されるガスの主成分としては、水素等の希釈ガスが加えられたシラン系ガスが用いられ得る。シラン系ガスに対する希釈ガスの流量は20倍以上であることが好ましいが、放電パワーや反応室内圧力などのような他の成膜条件との関係によって最適な希釈量が設定される。シラン系ガスとしてはモノシラン,ジシラン等が好ましいが、これらに加えて四フッ化硅素,四塩化硅素,ジクロルシラン等のハロゲン化硅素ガスを用いてもよい。また、これらに加えて希ガス等の不活性ガス、好ましくはヘリウム,ネオン,アルゴン等を用いてもよい。
【0047】
(シリコン界面層122A,222A)
i型のシリコン界面層について、説明する。
i型の結晶質シリコン系光電変換層122上には、それに比べて小さな体積結晶化分率を有しかつ0nmを越えて50nm以下、好ましくは12.5nm以上50nm以下、さらに好ましくは5〜20nmの範囲内の厚さを有するノンドープで実質的にi型の薄い微結晶シリコン層がi型のシリコン界面層122Aとして形成される。
【0048】
このi型のシリコン界面層122Aとしては、ノンドープのi型微結晶シリコンの他に、微量の不純物を含む弱p型または弱n型で光電変換機能を備えている微結晶シリコン系薄膜材料が使用され得る。また、i型のシリコン界面層122Aの材料はこれらに限定されず、シリコンカーバイドやシリコンゲルマニウムなどのシリコン系合金材料を用いてもよい。
【0049】
i型のシリコン界面層122AをプラズマCVD法で形成する原料としては、i型の結晶質シリコン系光電変換層122の場合と同様に、プラズマ反応室内に導入されるガスの主成分として、水素等の希釈ガスが加えられたシラン系ガスが用いられる。しかしながら、i型のシリコン界面層の製造条件は、光電変換層122とは異なる、以下のような条件で作ることができる。
【0050】
i型のシリコン界面層を製造するための方法:
(1)光電変換層122を堆積する場合に比べて、シラン系ガスに対する希釈ガスの流量比を、低く設定する。
(例えば、光電変換層122を堆積する場合に希釈ガス流量/シラン系ガス流量=10〜500程度として、i型のシリコン界面層を堆積する場合に希釈ガス流量/シラン系ガス流量=1〜200程度、好ましくは、1〜100程度、さらに好ましくは、1〜50程度とする。)
(2)または、光電変換層122を堆積する場合に比べて、シラン系ガスに対する希釈ガスの流量比を低く設定することに加えて、プラズマ放電電力を低く設定する。
(例えば、光電変換層122を堆積する場合にプラズマ放電電力=0.010〜0.500W/cm程度として、i型のシリコン界面層を堆積する場合にプラズマ放電電力=0.010〜0.250W/cm程度、好ましくは、0.020〜0.100W/cm程度、さらに好ましくは、0.050〜0.070W/cm程度とする。)
(3)または、光電変換層122を堆積する場合に比べて、シラン系ガスに対する希釈ガスの流量比を低く設定することに加えて、プラズマCVD室内圧力を高く設定する。
(例えば、光電変換層122を堆積する場合にプラズマCVD室内圧力=600Pa〜2600Pa程度として、i型のシリコン界面層を堆積する場合にプラズマCVD室内圧力=1000Pa〜3500Pa程度、好ましくは、1500〜3500Pa程度、さらに好ましくは、2000〜3500Pa程度とする。)
また、プラズマCVD室内圧力を高く設定したことにより、膜厚分布が中央の膜厚が厚くなり、中央の膜厚と端部の膜厚が10%以上となる場合は、プラズマCVD電極間距離を1〜10%範囲で狭く設定するとよい。
【0051】
(4)または、光電変換層122を堆積する場合に比べて、シラン系ガスに対する希釈ガスの流量比を低く設定することに加えて、プラズマCVD電極間距離を広く設定する。
(例えば、光電変換層122を堆積する場合にプラズマCVD電極間距離=5〜20mm程度として、i型のシリコン界面層を堆積する場合にプラズマCVD電極間距離=8〜20mm程度、好ましくは、10〜20mm程度、さらに好ましくは、10〜15mm程度とする。)
また、プラズマCVD電極間距離を広く設定したことにより、膜厚分布が中央の膜厚が薄くなり、中央の膜厚と端部の膜厚が10%以上となる場合は、プラズマCVD室内圧力を1〜10%範囲で低く設定するとよい。
【0052】
なお、(3)はプラズマCVD室内圧力を主体とした設定であり、プラズマCVD電極間距離を狭くする方向に調整し、(4)はプラズマCVD電極間距離を主体とした設定であり、プラズマCVD室内圧力を低くする方向に調整して、それぞれ膜厚分布が均一となるように制御することが出来る。本明細書中では、電極間距離については、(3)を念頭に記載した内容が多い。
【0053】
上記、例えば(1)〜(4)のいずれかの方法によって、光電変換層122に比べて低い体積結晶化分率を有する、i型のシリコン界面層122Aが堆積され得る。
なお、上記の方法によって、
少なくとも、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層をプラズマCVD法で堆積する工程と、i型のシリコン界面層をプラズマCVD法で堆積する工程とを備えるシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法において、
前記i型のシリコン界面層を堆積し終えた際のシリコン界面層の表面の表面粗さRaが、
前記実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層を堆積し終えた際の結晶質シリコン系光電変換層の表面の表面粗さRaよりも小さくするような製膜条件を設定することができる。
【0054】
なお、i型のシリコン界面層222Aは、透光性基板に略垂直な方向の断面を撮影してなる透過型電子顕微鏡写真において、撮影条件によっては結晶質シリコン系光電変換層222と区別することもできる。
【0055】
(シリコン複合層123,223)
シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層123,223について、説明する。
【0056】
i型のシリコン界面層122A上には、好ましくは、5nm以上100nm以下のシリコン複合層123が堆積される。シリコン複合層123としては、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むリンがドープされたn型微結晶シリコン系薄膜などが用いられ得る。
【0057】
シリコン複合層は、先行技術として説明したとおり、光入射側から順に、i型の結晶質シリコン系光電変換層、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むリンがドープされたシリコン複合層とを配置された光電変換装置などで用いられる。i型層の屈折率よりも小さい屈折率を有するシリコン複合層により、光入射側から遠い側での反射等の促進による、光閉じ込め効果を増大させることができる。本発明の一態様であるシリコン複合層そのものについては、例えば、特開2005−45129や、特開2008−300872等に、記載されている。
【0058】
なおシリコン複合層の600nmの波長の光に対する屈折率は、1.7以上2.5以下であることが望ましい。シリコン複合層は、反射効果を十分得るために、600nmの波長の光に対する屈折率が、1.7以上2.5以下であることが好ましく、1.8以上2.1以下であることがさらに好ましい。
【0059】
また、シリコン複合層の膜中酸素濃度が、25原子%以上60原子%以下であることが望ましい。また、シリコン複合層は、低い屈折率を実現するために、膜中酸素濃度が、25原子%以上60原子%以下であることが好ましく、40原子%以上60原子%以下であることがより好ましく、40原子%以上55原子%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
シリコン複合層がドーピングされている場合、膜中酸素濃度を高くして、光電変換層であるi層よりも、より低い屈折率を実現して界面での高い反射効果を得ることが可能となる。
【0061】
ところで、本発明の一態様として、シリコン系薄膜光電変換ユニットに含まれる、(一態様としてのリンドープされた)シリコン複合層は直接的には光電変換に寄与しない不活性な層であり、これらの導電型層の低導電率かつ低屈折率な導電層は光電変換ユニットの直列抵抗成分が増大することにより変換効率における大きな損失となる。特に高いプラズマ放電エネルギーを必要とするシリコン複合層の積層はi型の結晶質シリコン系光電変換層との界面で直列抵抗成分が発生しやすいため変換効率が大きく低下することになる。したがって、i型の結晶質シリコン系光電変換層の光入射とは奥側に隣接するシリコン複合層は吸収ロスが少なく、比較的低導電率の材料を用いても直列抵抗成分が増大しない光学特性を持つ薄膜層に制御することが、シリコン系薄膜光電変換ユニットの高効率化の鍵となる。
【0062】
このような観点から、導電率があまり高くないシリコン複合層であっても、設計次第では、i型の結晶質シリコン系光電変換層との界面における反射効率を向上させるために、それはi型の結晶質シリコン系光電変換層の光入射とは奥側に配置される吸収ロスが小さい導電型層として好ましく用いられ得るであろう。
【0063】
(n型の結晶質シリコン層124,224)
シリコン複合層123の上には、p型の結晶質シリコン層121とは逆タイプの導電型を有するn型の結晶質シリコン層124として、5nm以上20nmの範囲内の膜厚を有する微結晶シリコン系薄膜が堆積される。n型の結晶質シリコン層114としては、たとえばリンがドープされたn型微結晶シリコン系薄膜などが用いられ得る。しかし、n型の結晶質シリコン層124についてのこれらの条件は限定的なものではなく、不純物原子としてはたとえばn型層においては窒素等を用いてもよい。
【0064】
(裏面透明電極層2、裏面電極層3、光電変換装置)
シリコン系薄膜光電変換ユニット12上には、ITO,SnO ,ZnO等から選択された少なくとも1以上の層からなる透明導電性酸化膜2が裏面透明電極層2として形成され、さらにこの上に裏面電極層3としてTi,Cr,Al,Ag,Au,CuおよびPtから選択された少なくとも1以上の金属またはこれらの合金からなる層を含む櫛型状の金属電極がスパッタリング法または蒸着法によって形成され、これによって図1に示されているような光電変換装置が完成する。
【0065】
(タンデム型のシリコン系薄膜光電変換装置)
図2は、本発明のもう1つの実施の形態によるタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置を模式的な断面図を示す。図2のタンデム型光電変換装置においては、透明電極10が形成され、第1の光電変換ユニットである非晶質光電変換ユニット21が形成され、重ねてプラズマCVD法にて第2の光電変換ユニットである結晶質光電変換ユニット22がさらに形成される。
【0066】
図1における透光性基板1上の透明電極層10と結晶質光電変換ユニット12は、透光性基板1上に図2における透明電極層20と結晶質光電変換ユニット22が対応している。
【0067】
しかし、図2のタンデム型のシリコン系薄膜光電変換装置においては、透明電極層20上に形成された第1の光電変換ユニットである非晶質光電変換ユニット21は、透明電極層20上に順次積層されたp型の結晶質シリコン層またはp型の非晶質シリコン膜211、実質的にi型の非晶質シリコン系薄膜光電変換層212、およびn型のシリコン複合層またはn型の非晶質シリコン層213を含んでいる。第2の光電変換ユニット22上には、裏面透明電極層2および裏面電極層3が図1の場合と同様に形成され、これによって図2のタンデム型光電変換装置が完成する。
【0068】
なお、図2においては、非晶質光電変換ユニット/結晶質光電変換ユニットの2段タンデム型光電変換装置が説明されたが、1つ以上の非晶質光電変換ユニットおよび/または1つ以上の結晶質光電変換ユニットをさらに含む多段タンデム型光電変換装置にも本発明が適用され得ることはいうまでもない。
【0069】
本発明の一態様としての非晶質光電変換ユニット/結晶質光電変換ユニットの2段タンデム型光電変換装置は、特に、以下のようなものである。透光性基板1の上に順次積層された透明電極層201、p型の結晶質シリコン層211、i型の非晶質シリコン系光電変換層212、リンドープされたシリコン複合層またはn型の非晶質シリコン層213、p型の結晶質シリコン層221、i型の結晶質シリコン系光電変換層222、i型のシリコン界面層222A、リンドープされたシリコン複合層223、およびリンドープされたn型の結晶質シリコン層224が順次プラズマCVD法によって積層されタンデム型光電変換ユニットが形成された。
【0070】
前記タンデム型光電変換ユニットの上に、透明導電性ZnO膜が裏面透明電極層2、電流取出しのためのAg裏面電極層3が順次蒸着法にて積層されたタンデム型シリコン系薄膜光電変換装置であって、
前記i型の結晶質シリコン系光電変換層222までを積層した後の表面粗さよりも前記i型のシリコン界面層222Aまでを積層した後の表面粗さが小さくなるようにシリコン界面層222Aの製膜条件を制御して積層し、さらに加えてシリコンと酸素を含むシリコン複合層、n型の結晶質シリコン層を順次積層することによって発電変換効率が向上したシリコン系薄膜光電変換装置およびタンデム型のシリコン系薄膜光電変換装置を得ることが出来たものである。
【0071】
(表面粗さRa)
本発明の構成要件である
「透光性基板に略垂直な方向の断面においてシリコン界面層222Aとn型の結晶質シリコン層224との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、
前記断面において結晶質シリコン系光電変換層222とシリコン界面層222Aとの境界として観察される形状から求められる表面粗さRaよりも小さいこと」は、
「シリコン界面層222Aが有る場合の光電変換装置において裏面透明電極層2および裏面電極層(裏面金属電極層)3を塩酸エッチング除去処理する事によりn型の結晶質シリコン層224上の最表面のレーザー顕微鏡測定によるJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)表面粗さRaが、
シリコン界面層222Aが無い場合の光電変換装置において裏面透明電極層2および裏面電極層(裏面金属電極層)3を塩酸エッチング除去処理する事によりn型の結晶質シリコン層224上の最表面のレーザー顕微鏡測定によるJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)表面粗さRaよりも小さいこと」によって確認することができる。
【0072】
本発明における表面粗さRaは、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)にて測定したRaである。
【0073】
(本発明の構成である、表面粗さRaの大小関係に伴う、有利な効果)
本発明の構成要件である
「透光性基板に略垂直な方向の断面においてシリコン界面層222Aとn型の結晶質シリコン層224との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、
前記断面において結晶質シリコン系光電変換層222とシリコン界面層222Aとの境界として観察される形状から求められる表面粗さRaよりも小さいこと」が好ましい理由の一つとして、仮説であり詳細に実証されたわけではないが、以下のようなメカニズムを想定している。なお、本発明は、以下のメカニズムに拘束されるものではない。
【0074】
図3はi型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さRの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の平均的厚さRを積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図を示しており、RとRの最小距離となる厚さをd01 minとする。
【0075】
図4はi型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さRの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さRを積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図を示しており、RとRの最小距離となる厚さをd02 minとする。
【0076】
図5はi型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さRの上に積層する本発明のひとつの実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さRを超える膜厚を積層したときの表面粗さを示す模式的な断面図を示しており、RとRの最小距離となる厚さをd03 minとする。
【0077】
図3のd01 minと図4のd02 minを比較すると、表面粗さR1に比べて表面粗さRは大きくなるがd01 minとd02 minの厚みは大きくならないことを模式的に示す。一方で図5では表面粗さRがRに比べてさらに大きくなりd03 minが大きくなることを模式的に示す。これはi型の結晶質シリコン系光電変換層にある表面粗さにナノオーダーの膜厚の薄膜を積層する場合、堆積する初期は粗さを緩和する(粗さの谷間を埋める)ように堆積されるが、堆積膜厚を一定以上に増加させると下地のi型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さに揃うことを示していると、推定している。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
図2の実施の形態に対応して、実施例1としての結晶質シリコン薄膜太陽電池が作製された。まず、透光性基板であるガラス基板1上に透明電極層20として、厚さ800nmのSnO膜201が熱CVD法によって堆積された。透明電極層20上には、ボロンドープされた12nmのp型の結晶質シリコン層211、ノンドープで厚さ275nmのi型の非晶質シリコン系光電変換層212、リンドープされた95nmのシリコン複合層213、ボロンドープされた20nmのp型の結晶質シリコン層221、ノンドープで厚さ2.9μmのi型の結晶質シリコン系光電変換層222、ノンドープで厚さ25nmのi型のシリコン界面層222A、リンドープされた厚さ100nmのシリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層223、およびリンドープされた厚さ7.5nmのn型結晶質シリコン層224が順次プラズマCVD法によって堆積され、こうしてタンデム型光電変換ユニットが形成された。前記タンデム型光電変換ユニット上には、厚さ30nmの透明導電性ZnO膜2が裏面透明電極層としてスパッタリング法にて堆積され、その上に電流取出のための厚さ200nmのAg裏面電極層3が蒸着法にて堆積された。
【0079】
前記i型の結晶質シリコン系光電変換層222は、RFプラズマCVD法によって300℃の下地温度のもとに堆積された。そのとき用いられた反応ガスにおいては、シランに対する水素の流量比が200倍にされた。また、前記i型の結晶質シリコン系光電変換層222上に堆積されるi型のシリコン界面層222Aは、175℃の下地温度のもとでシランに対する水素の流量比が100倍の条件で堆積された。
【0080】
このi型の(微結晶)シリコン界面層222Aを堆積する条件と同じ条件で直接ガラス基板上に堆積された厚さ100nmのi型の微結晶膜における体積結晶化分率は、約55%であった。実際の太陽電池に含まれるi型の(微結晶)シリコン界面層222Aの厚さは20nmのように薄いので正確な体積結晶化分率の同定は困難であるが、下地となっている90%以上の結晶化分率を有するi型の結晶質シリコン系光電変換層222の影響を受けているので、実際のi型の(微結晶)シリコン界面層222Aの結晶化分率は55%よりやや高い値を有しているであろうと考えられる。
【0081】
この実施例5による太陽電池に入射光4としてAM1.5の光を100mW/cm2 の光量で照射したときの出力特性は、開放端電圧が1.383V、短絡電流密度が11.01mA/cm2 、曲線因子が73.4%、そして変換効率が11.18%であった。
【0082】
(比較例1)
比較例1として、i型の(微結晶)シリコン界面層222Aを設けることなく光電変換層222上に直接に厚さ100nmの前記シリコン複合層223、厚さ7.5nmのn型の結晶質シリコン層224が形成されたこと以外は実施例1と同様の条件で、結晶質シリコン系太陽電池が作製された。
【0083】
この比較例1による太陽電池に実施例1の場合と同じ条件で光照射したときの出力特性は、開放端電圧が1.380V、短絡電流密度が10.92mA/cm2、曲線因子が72.3%、そして変換効率が10.91%であり、表面粗さは0.045μmであった。
【0084】
(比較例2)
n型微結晶シリコン層224が15nmの厚さに増大され、前記シリコン複合層が除かれたこと以外は比較例2と同じ条件のもとに、比較例3としての結晶質シリコン太陽電池が作製され、表面粗さは0.030μmであった。
【0085】
(実施例1と比較例1および2との比較)
上述の実施例1と比較例1から明らかなように、結晶化分率の大きなi型の結晶質シリコン系光電変換層222とn型の結晶質シリコン層224との間にn型の結晶質シリコン層224より小さな結晶化分率を有するノンドープのi型のシリコン界面層222Aを設けることによって、表面粗さが小さくなり太陽電池の変換効率が大幅に向上することがわかる。比較例2は表面粗さが小さい一方で、シリコン複合層223を含まない為、変換効率が低い。
【0086】
従来技術においては、結晶化分率の大きなシリコン系光電変換層222上に直接にn型の結晶質シリコン層224を形成しようとしても、そのn型層の堆積初期の段階では下地層のi型の結晶質シリコン系光電変換層222へ熱的損傷あるいはi型の結晶質シリコン系光電変換層222の非晶質部分が選択的に掘削されること等により、欠陥が発生することによる表面粗さが大きくなり、欠陥の少ないi型の結晶質シリコン系光電変換層222を得るためには、プラズマ放電電力の低い条件の前記シリコン複合層223にするか、n型の結晶質シリコン層224の膜厚を薄くする必要があると考えた。
【0087】
したがって、比較例1では、前記シリコン複合層223の堆積プラズマ放電電力が高いことが要因でi型の結晶質シリコン系光電変換層222の欠陥が増加することによって表面粗さが大きくなり、短絡電流密度や曲線因子が低くなっていると推定される。また、比較例2のように前記シリコン複合層223がない場合には裏面の反射効果が弱くなるために短絡電流密度が低いのであると推定される。
【0088】
(実施例2〜3および比較例3)
実施例2および比較例3においては、ノンドープのi型のシリコン界面層222Aの厚さが種々に変更されたことを除いて、実施例1および比較例1と同様の条件のもとに結晶質シリコン薄膜太陽電池が作製された。得られた太陽電池に実施例1の場合と同一条件で出力特性における開放端電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(F.F.)、および変換効率(Effi.)とi型のシリコン界面層222Aの厚さとの関係として、表1に示すような結果が得られた。なお、表1においては実施例1と比較例1についての結果も示されている。
【0089】
【表1】

【0090】
表1の「平均表面粗さ[μm]」の結果は、裏面透明電極層2および裏面電極層(裏面金属電極層)3を塩酸エッチング除去処理した後のサンプルについて、レーザー顕微鏡測定によるJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)表面粗さRaを測定した結果である。
【0091】
すなわち、例えば、実施例1に関する表1の「平均表面粗さ[μm]」の結果は、「シリコン界面層222Aが有る場合の光電変換装置において裏面透明電極層2および裏面電極層(裏面金属電極層)3を塩酸エッチング除去処理する事によりn型の結晶質シリコン層224上の最表面のレーザー顕微鏡測定によるJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)表面粗さRa」である。
【0092】
すなわち、例えば、比較例1に関する表1の「平均表面粗さ[μm]」の結果は、「シリコン界面層222Aが無い場合の光電変換装置において裏面透明電極層2および裏面電極層(裏面金属電極層)3を塩酸エッチング除去処理する事によりn型の結晶質シリコン層224上の最表面のレーザー顕微鏡測定によるJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)表面粗さRa」である。
【0093】
表1から明らかなように、高い光電変換効率を有する太陽電池を得るためには、i型のシリコン界面層222Aが12.5nm以上50nm以下の範囲内の厚さにあることが好ましいことがわかる。その理由としては、比較例3のようにi型のシリコン界面層222Aの厚さが厚すぎる場合には、界面1S近傍で非晶質領域と結晶領域とがほぼ同等に混在した中途半端な構造になっているためにキャリアの輸送特性が悪化して、太陽電池の変換効率がかえって減少していると考えられる。また、比較例3のようにi型のシリコン界面層222Aの厚さが厚い場合に表面粗さが大きいのは、シリコン複合層、n型の結晶質シリコン層を積層する過程でそれぞれの層が非晶質の傾向になり堆積速度が層の面内で膜厚分布が出来たことによる。通常i型のシリコン界面層222Aの膜厚が厚くなるほど、厚み方向の膜質が同じであれば膜厚の厚み方向の抵抗成分は比例して増加する。ところが、実施例3に示すi型のシリコン界面層222Aの膜厚が0.0500μmのときの表面粗さは比較例1の表面粗さにくらべて大きいにもかかわらず、i型のシリコン界面層222Aの直列抵抗成分が大きくなることなく高い変換効率を示している。実施例3のi型のシリコン界面層222Aの表面は部分的には薄くなることよって表面粗さが大きくなり、膜厚方向の直列抵抗成分は平均して高い導電性を維持しているものと考えられる。このことは図3、図4および図5の順にi型の結晶質シリコン系光電変換層に積層するi型のシリコン界面層222Aの膜厚を増加させていくことによる模式図によって説明されると考える。これはi型の結晶質シリコン系光電変換層にある表面粗さにナノオーダーの膜厚の薄膜を積層する場合、堆積する初期は粗さを緩和するように堆積されるが、堆積膜厚を一定以上に増加させると下地のi型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さに揃うことを示していると考えられる。したがって、i型のシリコン界面層222Aを厚くしてもの直列抵抗成分が線形的に大きくなるものではないことは容易に理解できる。
【0094】
ある特定の表面粗さRaの大小関係を備える本発明の薄膜光電変換装置によって、発電変換効率が改善されたシリコン系薄膜光電変換装置を得ることができた。曲線因子および/または短絡電流密度の向上によって、改善の程度を確認することができた。
【0095】
本発明の「ある特定の表面粗さRaの大小関係を備えるi型のシリコン界面層」を含まない結晶質光電変換ユニットに比べて、並列抵抗と直列抵抗が変わることなく、曲線因子および短絡電流密度が向上し、これに伴う発電変換効率が改善されることによって、確認できた。
【符号の説明】
【0096】
1:透光性基板
2:裏面透明電極層
3:裏面電極層(裏面金属電極層)
4:入射光
10,20:透明電極層
101,201:透明電極
12,22:結晶質光電変換ユニット
21:非晶質光電変換ユニット
121,221:p型の結晶質シリコン層
211:p型の結晶質シリコン層またはp型の非晶質シリコン膜
124,224:n型の結晶質シリコン層(リンドープされたn型の結晶質シリコン層)
122A,222A:ノンドープのi型のシリコン界面層
122,222:ノンドープのi型の結晶質シリコン系光電変換層
212:ノンドープのi型の非晶質シリコン系光電変換層
123,223:リンドープされたシリコン複合層
213:リンドープされたシリコン複合層またはn型の非晶質シリコン層
:i型の結晶質シリコン系光電変換層の表面粗さ
:実施の形態によるi型のシリコン界面層の平均的厚さを積層したときの表面粗さ
:実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さを積層したときの表面粗さ
:実施の形態によるi型のシリコン界面層の上限厚さを超える膜厚を積層したときの表面粗さ
01 min:Rの厚みとRの厚みの最小距離
02 min:Rの厚みとRの厚みの最小距離
03 min:Rの厚みとRの厚みの最小距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、光透過側から順に配置されてなる、透明電極層と、少なくとも1つの結晶質シリコン系光電変換ユニットと、裏面電極層とを含むシリコン系薄膜光電変換装置であって、
前記結晶質シリコン系光電変換ユニットは、光透過側から順に、プラズマCVD法によって順次積層されてなるp型の結晶質シリコン層と、実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層と、膜厚が0nmを越えて50nm以下である実質的にi型のシリコン界面層と、n型の結晶質シリコン層とを含み、
前記透光性基板に略垂直な方向の断面において前記シリコン界面層と前記n型の結晶質シリコン層との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaが、
前記断面において前記結晶質シリコン系光電変換層と前記シリコン界面層との境界として観察される形状から求められる表面粗さRaよりも小さいことを特徴とする、シリコン系薄膜光電変換装置。
【請求項2】
前記結晶質シリコン系光電変換ユニットが、前記i型のシリコン界面層と前記n型の結晶質シリコン層との間に、シリコンと酸素との非晶質合金中にシリコン結晶相を含むシリコン複合層を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項1に記載のシリコン系薄膜光電変換装置。
【請求項3】
i型の非晶質シリコン系光電変換層を含む非晶質光電変換ユニットをさらに備える、タンデム型の、請求項1または2に記載のシリコン系薄膜光電変換装置であって、光透過側から順に、前記透明電極層と、前記非晶質光電変換ユニットと前記結晶質シリコン系光電変換ユニットとが配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の、シリコン系薄膜光電変換装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法であって、少なくとも、
実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層をプラズマCVD法で堆積する工程と、
i型のシリコン界面層をプラズマCVD法で堆積する工程とを備え、
前記i型のシリコン界面層を堆積し終えた際のシリコン界面層の表面の表面粗さRaが、
前記実質的にi型の結晶質シリコン系光電変換層を堆積し終えた際の結晶質シリコン系光電変換層の表面の表面粗さRaよりも小さくするような製膜条件を設定することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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