説明

シリコーンゴム、シリコーンゴムの製造方法、成形品及び部材

【課題】十分な強度及び伸縮性を有するシリコーンゴム及びその成形品、並びに前記シリコーンゴムの製造方法の提供。
【解決手段】一分子中に複数個の重合性不飽和結合を有する(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、10質量部以上の(B)シリカ、及び(C)架橋剤を含有する組成物を架橋して得られた原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させた後、乾燥させる工程を有するシリコーンゴムの製造方法;かかる製造方法で得られたシリコーンゴム;かかる製造方法において、前記原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させる前に成形して得られた成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度及び伸縮性に優れたシリコーンゴム及び成形品、これらシリコーンゴム又は成形品が装着された部材、並びに前記シリコーンゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、柔軟性及び耐脆性が高い有用な材料として知られており、これらの特性を生かして、生活用品から工業用品まで幅広く利用されている。通常は、オルガノポリシロキサンと、目的に応じた充填材、添加剤、補強剤等が配合され、コンパウンディングされた組成物が市販されており、これに有機過酸化物又は金属触媒等の架橋剤を添加して混錬し、加熱架橋させることで、シリコーンゴムが製造される(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−236508号公報
【特許文献2】特開平05−059207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のシリコーンゴムは、上記のような優れた特性を有する一方で、強度及び伸縮性という機械特性が必ずしも十分ではないという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分な強度及び伸縮性を有するシリコーンゴム及びその成形品、並びに前記シリコーンゴムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、一分子中に複数個の重合性不飽和結合を有する(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、10質量部以上の(B)シリカ、及び(C)架橋剤を含有する組成物を架橋して得られた原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させた後、乾燥させる工程を有することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法を提供する。
かかる製造方法によれば、前記組成物中の(B)シリカの含有量を前記範囲とすることで、耐熱性、柔軟性及び耐脆性に優れるなどのシリコーンゴム特有の性質を損なうことなく、十分な強度及び伸縮性を有し、機械特性にも優れたシリコーンゴムが得られる。
本発明のシリコーンゴムの製造方法においては、前記鎖状炭化水素系溶媒が、炭素数5〜11のものであることが好ましい。
かかる鎖状炭化水素系溶媒を使用することで、乾燥時に溶媒をより容易に除去できる。
本発明のシリコーンゴムの製造方法においては、前記架橋剤が有機過酸化物であることが好ましい。
有機過酸化物は、原料シリコーンゴムの膨潤後にシリコーンゴムから除去し易いので、これを架橋剤として使用することで、特性がより良好なシリコーンゴムが得られる。
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られたことを特徴とするシリコーンゴムを提供する。
また、本発明は、上記本発明の製造方法において、前記原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させる前に成形して得られたことを特徴とする成形品を提供する。
また、本発明は、上記本発明のシリコーンゴムが装着されたことを特徴とする部材を提供する。
また、本発明は、上記本発明の成形品が装着されたことを特徴とする部材を提供する。
かかるシリコーンゴム及び成形品は、耐熱性、柔軟性及び耐脆性に優れるなどのシリコーンゴム特有の性質を損なうことなく、十分な強度及び伸縮性を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、十分な強度及び伸縮性を有するシリコーンゴム及びその成形品、並びに前記シリコーンゴムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る製造方法における原料シリコーンゴムの膨潤及び乾燥を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<シリコーンゴム及びその製造方法>
本発明に係るシリコーンゴムの製造方法は、一分子中に複数個の重合性不飽和結合を有する(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、10質量部以上の(B)シリカ、及び(C)架橋剤を含有する組成物を架橋して得られた原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させた後、乾燥させる工程を有することを特徴とする。前記組成物中の(B)シリカの含有量を上記のように設定することで、得られるシリコーンゴムは、十分な強度及び伸縮性を有するものとなる。なお、本発明においては、前記原料シリコーンゴムとは、前記鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させていないものを意味するものとする。
【0010】
前記(A)オルガノポリシロキサンは、架橋反応によって硬化するために、一分子中に複数個の重合性不飽和結合を有し、シリコーンゴムの主骨格を構成するものであり、公知のものが適宜使用できる。
(A)オルガノポリシロキサン中の前記重合性不飽和結合の数は二以上であればよく、二でもよいし、三以上でもよい。
【0011】
(A)オルガノポリシロキサンは、前記重合性不飽和結合として、炭素原子間の不飽和結合を有するものが好ましく、二重結合を有するものが好ましく、アルケニル基を有するものが好ましい。
前記アルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、2−プロペニル基(アリル基)、1−プロペニル基が例示できる。そして、(A)オルガノポリシロキサン中の複数個のアルケニル基は、すべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
前記アルケニル基は、(A)オルガノポリシロキサンの主骨格を構成するケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0012】
(A)オルガノポリシロキサンを構成する前記アルケニル基以外の有機基としては、置換基を有していてもよいアルキル基及びアリール基が例示できる。
【0013】
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよいが、炭素数が1〜10であることが好ましい。
好ましい前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基等の、炭素数が1〜10のものが例示できる。
前記環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、好ましいものとしては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基の、炭素数が3〜10のものが例示できる。
【0014】
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、好ましいものとしては、フェニル基、o−トリル基(2−メチルフェニル基)、m−トリル基(3−メチルフェニル基)、p−トリル基(4−メチルフェニル基)、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の、炭素数が6〜15のものが例示できる。
【0015】
前記アルキル基及びアリール基は、置換基を有していてもよい。ここで、「アルキル基及びアリール基が置換基を有する」とは、アルキル基及びアリール基を構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されているか、あるいはアルキル基及びアリール基を構成する一つ以上の炭素原子が、炭素原子以外の基で置換されていることを指す。そして、水素原子及び炭素原子が共に置換基で置換されていてもよい。
置換基を有する前記アルキル基及びアリール基は、置換基も含めて炭素数が前記範囲内であることが好ましい。
【0016】
前記アルキル基及びアリール基の水素原子を置換する置換基としては、アルキル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキルアリールオキシ基、水酸基(−OH)、シアノ基(−CN)及びハロゲン原子が例示できる。
【0017】
水素原子を置換するアルキル基としては、前記有機基におけるアルキル基と同様のものが例示できる。
水素原子を置換するアルキルオキシカルボニル基としては、前記有機基におけるアルキル基がオキシカルボニル基に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルカルボニルオキシ基としては、前記有機基におけるアルキル基がカルボニルオキシ基に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルコキシ基としては、前記有機基におけるアルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルカルボニル基としては、前記有機基におけるアルキル基がカルボニル基に結合した一価の基が例示できる。
【0018】
水素原子を置換するアルケニル基としては、前記有機基におけるアルキル基で、炭素原子間の一つの単結合(C−C)が、二重結合(C=C)に置換されたもので、且つ重合性不飽和結合を有する前記アルケニル基に該当しないものが例示できる。
水素原子を置換するアルケニルオキシ基としては、置換基としての前記アルケニル基が酸素原子に結合した基が例示できる。
【0019】
水素原子を置換するアリール基としては、前記有機基におけるアリール基と同様のものが例示できる。
水素原子を置換するアルキルアリール基としては、前記有機基におけるアリール基の芳香族環を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子が、前記有機基におけるアルキル基で置換された基が例示できる。
水素原子を置換するアリールアルキル基としては、前記有機基におけるアルキル基の一つの水素原子が前記有機基におけるアリール基で置換された基が例示できる。
水素原子を置換するアリールオキシ基としては、前記有機基におけるアリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアリールアルキルオキシ基としては、前記有機基におけるアルキル基から一つの水素原子を除いたアルキレン基に、前記有機基におけるアリール基と酸素原子が結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルアリールオキシ基としては、前記有機基におけるアリール基から、芳香族環を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子を除いたアリーレン基に、前記有機基におけるアルキル基と酸素原子が結合した一価の基が例示できる。
【0020】
水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0021】
水素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、複数でもよく、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
また、置換基で置換される水素原子の位置は特に限定されない。
【0022】
前記アルキル基及びアリール基の炭素原子を置換する置換基としては、カルボニル基(−C(=O)−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−NH−C(=O)−)、ヘテロ原子が例示できる。
炭素原子を置換するヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ホウ素原子が例示できる。
炭素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、複数でもよい。
また、置換基で置換される炭素原子の位置は特に限定されない。
【0023】
(A)オルガノポリシロキサンとしては、市販品を使用してもよいし、公知の方法にしたがって合成したものを使用してもよい。
(A)オルガノポリシロキサンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
前記組成物において、(A)オルガノポリシロキサンの含有量は、70〜95質量%であることが好ましく、73〜90質量%であることが好ましい。下限値以上であることで、シリコーンゴムの伸縮性がより向上し、上限値以下であることで、シリコーンゴムの強度がより向上する。
【0025】
前記(B)シリカは、乾式シリカ及び湿式シリカのいずれでもよい。(B)シリカとしては、市販品を使用してもよい。
(B)シリカは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
前記組成物において、(A)オルガノポリシロキサンの含有量100質量部に対する、(B)シリカの含有量は、10質量部以上であり、35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。下限値以上であることで、シリコーンゴムは十分な強度を有するようになり、上限値以下であることで、シリコーンゴムの伸縮性がより向上する。
【0027】
前記(C)架橋剤は、(A)オルガノポリシロキサンを硬化させるものであり、公知のものが使用できる。
(C)架橋剤としては、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル等の有機過酸化物;白金等の金属触媒が例示できる。なかでも、(C)架橋剤は、有機過酸化物であることが好ましい。有機過酸化物は、後述する原料シリコーンゴムの膨潤後にシリコーンゴムから除去し易いので、特性がより良好なシリコーンゴムを得るのに好適である。
【0028】
(C)架橋剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。ただし通常は、一種の(C)架橋剤を使用すれば十分である。
【0029】
前記組成物において、(A)オルガノポリシロキサンの含有量100質量部に対する、(C)架橋剤の含有量は、0.5〜3質量部であることが好ましく、1〜2質量部であることがより好ましい。下限値以上であることで、(A)オルガノポリシロキサンの架橋反応がより十分に進行し、上限値以下であることで、特性がより良好なシリコーンゴムが得られる。
【0030】
前記組成物は、(A)オルガノポリシロキサン、(B)シリカ及び(C)架橋剤以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、さらに(D)その他の成分を含有していてもよい。
(D)その他の成分としては、公知のものが適宜使用でき、充填材、添加剤、補強剤、顔料、老化防止剤等が例示できる。
(D)その他の成分は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
前記組成物は、(A)オルガノポリシロキサン、(B)シリカ及び(C)架橋剤、並びに必要に応じて(D)その他の成分を配合することで製造できる。
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。そして、各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよい。
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌翼、ボールミル、超音波分散機、混錬機等を使用して、常温又は加熱条件下で所定時間混合する公知の方法を適用すればよい。
また、組成物の製造後に直ちにこれを混錬し、加熱成形して成形品を製造したい場合には、組成物の製造を兼ねて混錬を行ってもよい。
【0032】
前記原料シリコーンゴムは、前記組成物を用いて(A)オルガノポリシロキサンを架橋(硬化)させることで得られたものである。
架橋反応は公知の方法で行えばよく、例えば、150〜180℃で5〜20分間反応させることで加熱架橋させる方法が例示できる。
【0033】
本発明においては、まず、前記原料シリコーンゴムを鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させる。
前記原料シリコーンゴムの大きさ及び形状は、目的に応じて任意に調節できる。例えば、膨潤と、これに続く乾燥をより容易に行える観点からは、前記原料シリコーンゴムの厚さは、3.0mm以下であることが好ましい。なお、ここで「原料シリコーンゴムの厚さ」とは、原料シリコーンゴムの局所的な厚さを意味し、例えば、原料シリコーンゴムのシートを中空状に丸めて形成したものと捉えることが可能な筒状のものであれば、前記シートの厚さを意味するものとする。
【0034】
前記鎖状炭化水素系溶媒は、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素で、常温(例えば、20℃)で液状のものであり、飽和炭化水素であることが好ましく、炭素数が5以上のものが例示でき、炭素数が5〜11であることが好ましく、6〜9であることがより好ましい。このような溶媒を使用することで、後述する乾燥時に溶媒をより容易に除去できる。
【0035】
前記鎖状炭化水素系溶媒としては、n−ペンタン、イソペンタン(2−メチルブタン)、n−ヘキサン、イソヘキサン(2−メチルペンタン)、n−ヘプタン、イソヘプタン(2−メチルヘキサン)、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、n−オクタン、イソオクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)、ノナン、デカン、ウンデカンが例示でき、直鎖状の炭化水素が好ましい。
【0036】
前記鎖状炭化水素系溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0037】
前記原料シリコーンゴムは、鎖状炭化水素系溶媒に浸漬することで、膨潤させることが好ましい。また、この場合の前記溶媒の使用量は、原料シリコーンゴム全体が浸漬可能であれば、特に限定されない。
【0038】
前記原料シリコーンゴムの前記溶媒による膨潤時の条件は、原料シリコーンゴムの大きさや形状に応じて適宜調節すればよい。例えば、厚さが0.5〜5mm程度のシート状の原料シリコーンゴムの場合には、20〜60℃で0.5〜24時間行うことが好ましい。
【0039】
次いで、本発明においては、前記溶媒で膨潤した原料シリコーンゴムを乾燥させて、目的物であるシリコーンゴムとする。
乾燥条件は、前記溶媒の種類等に応じて適宜調節すればよく、送風乾燥、減圧乾燥、常圧乾燥、加熱乾燥、常温乾燥等、公知の方法で乾燥させればよく、これらの二種以上を組み合わせて乾燥させてもよい。
【0040】
原料シリコーンゴムの膨潤及び乾燥は、以下のように進行すると推測される。
原料シリコーンゴムにおいては、図1(a)に示すように、(B)シリカからなる粒子(以下、「シリカ粒子」と略記する)1の表面が、(A)オルガノポリシロキサンが架橋されてなる、多数の鎖状のオルガノポリシロキサンポリマー(以下、「シロキサンポリマー」と略記する)2で覆われており、これらシロキサンポリマー2は、無秩序に互いに絡み合いながら、バウンドラバー20を形成している。この状態でバウンドラバー20には、大きな構造上のひずみが生じており、これは(A)オルガノポリシロキサンの架橋時の加熱や、後述する成形時の加熱及び加圧が原因であると考えられる。シリコーンゴムの強度及び伸縮性が不十分である直接の原因は、上記のような構造上のひずみよりもむしろ、シロキサンポリマー2の無秩序な状態にあると考えられる。
【0041】
ここで、原料シリコーンゴムが前記溶媒と接触すると、図1(b)に示すように、多数の溶媒分子3がシロキサンポリマー2の隙間に進入する。なお、ここでは、判り易く説明するために、溶媒分子3の数を減らして図示している。このように、原料シリコーンゴムの前記溶媒による膨潤時には、溶媒分子3の進入によって、バウンドラバー20の占める体積が増大する。
【0042】
十分膨潤した後、乾燥により溶媒分子3がシロキサンポリマー2の隙間から離脱していくと、図1(c)に示すように、シロキサンポリマー2は、膨潤前のような無秩序に互いに絡み合った状態ではなく、安定した状態で存在するように再配列及び再配向して、構造上のひずみが低減された状態が維持され、得られたシリコーンゴムは、膨潤時よりも体積が減少し、十分な強度及び伸縮性を有するようになる。すなわち、得られたシリコーンゴムは、シロキサンポリマー2が再配列及び再配向している点で、原料シリコーンゴムとは異なると考えられる。
【0043】
このように、本発明に係る製造方法においては、溶媒分子の進入及び離脱を介して、シロキサンポリマーが、安定した状態に維持されることで、良好な機械特性を有するシリコーンゴムが得られると推測される。溶媒分子を円滑に進入及び離脱させるために、溶媒としては、分子のかさばりが大き過ぎない鎖状炭化水素、好ましくは直鎖状炭化水素を使用する。
シリコーンゴムの溶媒による膨潤は、通常、シリコーンゴムの変質と捉えられ、望ましくないと考えられており、膨潤を敢えて利用してシリコーンゴムの特性を向上させる本発明は、従来とは全く相違する技術思想に基づくものである。
【0044】
本発明に係るシリコーンゴムは、前記製造方法で得られたものであり、強度復元率が10%以上であり、且つ伸び復元率が10%以上であるものが例示できる。
ここで、「シリコーンゴムの強度復元率」とは、上記のシリコーンゴムの製造方法における原料シリコーンゴムの膨潤及び乾燥と同様の方法で、シリコーンゴムを膨潤及び乾燥させた時の以下の値を意味する。
シリコーンゴムの強度復元率:膨潤前のシリコーンゴムの強度に対する乾燥後のシリコーンゴムの強度の割合([乾燥後のシリコーンゴムの強度]/[膨潤前のシリコーンゴムの強度]×100)(%)
また、「シリコーンゴムの伸び復元率」とは、上記と同様の方法でシリコーンゴムを膨潤及び乾燥させた時の以下の値を意味する。
シリコーンゴムの伸び復元率:膨潤前のシリコーンゴムの伸びに対する乾燥後のシリコーンゴムの伸びの割合([乾燥後のシリコーンゴムの伸び]/[膨潤前のシリコーンゴムの伸び]×100)(%)
シリコーンゴムの強度及び伸びは、通常の引張試験を行うことで測定すればよく、この時の膨潤前及び乾燥後のシリコーンゴムに印加する力は、同じとする。シリコーンゴムの伸びを測定する場合には、JIS K6251に準拠して、500mm/分の速度で引張力を印加することが好ましい。
【0045】
前記製造方法で得られたシリコーンゴムは、(A)オルガノポリシロキサン、(B)シリカ及び(C)架橋剤を含有する組成物を使用し、前記組成物中の(B)シリカの含有量を所定の範囲に設定したことで、耐熱性、柔軟性及び耐脆性に優れるなどのシリコーンゴム特有の性質を損なうことなく、十分な強度及び伸縮性を有し、機械特性にも優れたものとなる。
前記シリコーンゴムは、各種生活用品若しくは工業用品において使用される部材の被覆又は保護を目的として、これら部材への装着用として好適である。
【0046】
<成形品>
本発明に係る成形品は、前記製造方法において、前記原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させる前に成形して得られたことを特徴とする。すなわち、本発明に係る成形品は、前記溶媒で膨潤させるものが、所望の形状に成形されたもの(非膨潤成形品、成形された原料シリコーンゴム)である点以外は、前記シリコーンゴムの製造方法と同様の方法で製造できる。かかる成形品としては、強度復元率が10%以上、伸び復元率が10%以上であるものが例示でき、前記強度復元率及び伸び復元率は、前記シリコーンゴムの場合と同様の方法で測定されたものである。
【0047】
成形品の形状は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。例えば、シート状として種々の用途に使用することができ、この場合、乾燥(膨潤に使用した前記溶媒の除去)が容易に行えるという製造上の大きな利点も有する。
また、成形品は、例えば、各種ケーブルの被覆材、各種筆記具の保護具等に使用するため、筒状としてもよい。例えば、被覆対象物に筒状の成形品が装着された目的物を得る場合には、被覆対象物の種類に応じて、膨潤後で乾燥前の筒状の成形品(膨潤成形品)を被覆対象物に装着した後、乾燥をおこなうことで、容易に目的物が得られる。膨潤後で乾燥前の成形品は、摩擦係数が小さく、被覆対象物への装着が極めて容易であるという製造上の大きな利点も有する。
【0048】
成形品の厚さは、前記原料シリコーンゴムの厚さと同様であることが好ましい。このような成形品は、その製造時における乾燥をより容易に行うことができる。なお、ここで「成形品の厚さ」とは、上記の「原料シリコーンゴムの厚さ」の場合と同様の意味である。
【0049】
成形方法は、射出成形、押出成形、金型成形等、公知の方法でよく、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0050】
前記成形品は、前記シリコーンゴムと同様に、耐熱性、柔軟性及び耐脆性に優れるなどのシリコーンゴム特有の性質を損なうことなく、十分な強度及び伸縮性を有し、機械特性にも優れたものである。
そして、前記成形品は、各種生活用品若しくは工業用品において使用される部材の被覆又は保護を目的として、これら部材への装着用として好適である。
【実施例】
【0051】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0052】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
<成形品の製造>
表1に示す組成となるように、(A)オルガノポリシロキサン、(B)シリカ及び(C)架橋剤を添加して室温で二本ロールミルによりこれらを混合して、組成物を得た。
次いで、この組成物を使用して、プレス機での160℃、10分間の加熱プレスにより、非膨潤成形品として厚さ1mmのシートを製造した。
次いで、このシートを50mLのn−ヘキサンに室温で20時間浸漬した後、室温で1時間乾燥させることで、シート状の成形品を得た。
【0053】
なお、表1中の各成分の略号はそれぞれ以下のものを意味する。
(A)オルガノポリシロキサン
(A)−1:DY32−6094M(東レ・ダウコーニング社製)
(A)−2:KE−575−U(信越シリコーン社製)
(A)−3:TSE−25257U(モメンティブ社製)
(B)シリカ
(B)−1:表面処理されていない(表面が親水性の)乾式シリカR−300(日本アエロジル社製)
(B)−2:表面処理された(表面が親油性の)乾式シリカR−974(日本アエロジル社製)
(B)−3:乾燥シリカCS−5(DSL.ジャパン社製、湿式シリカを強熱乾燥させたもの)
(C)架橋剤
(C)−1:TC−12(モメンティブ社製)
【0054】
<成形品の評価>
(強度復元率)
得られた成形品について、JIS3号に準拠してダンベル状に打ち抜いた試験片を作製し、次いで、この試験片を50mLのn−ヘキサンに室温で20時間浸漬した後、室温で0.5時間乾燥させ、膨潤前及び乾燥後の強度の測定値から、上記式より強度復元率を算出し、下記評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:強度復元率が10%以上である。
×:強度復元率が10%未満である。
【0055】
(伸び復元率)
強度に代えて伸びを測定したこと以外は、強度復元率と同様の方法で伸び復元率を算出し、下記評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:伸び復元率が10%以上である。
×:伸び復元率が10%未満である。
【0056】
【表1】

【0057】
上記結果から明らかなように、組成物として、(A)オルガノポリシロキサンの含有量100質量部に対する、(B)シリカの含有量が10〜30質量部であるものを使用した実施例1〜7の成形品では、強度復元率及び伸び復元率がいずれも優れており、十分な強度及び伸縮性を有していた。
これに対して、組成物として、(B)シリカの前記含有量が10質量部未満であるものを使用した比較例1〜6の成形品では、強度復元率及び伸び復元率をいずれも満足するものがなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、各種生活用品又は工業用品の被覆や保護等の目的に使用する成形品として利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・シリカ粒子、2・・・シロキサンポリマー、20・・・バウンドラバー、3・・・溶媒分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に複数個の重合性不飽和結合を有する(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して、10質量部以上の(B)シリカ、及び(C)架橋剤を含有する組成物を架橋して得られた原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させた後、乾燥させる工程を有することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。
【請求項2】
前記鎖状炭化水素系溶媒が、炭素数5〜11のものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴムの製造方法。
【請求項3】
前記架橋剤が有機過酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーンゴムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれ一項に記載の製造方法で得られたことを特徴とするシリコーンゴム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれ一項に記載の製造方法において、前記原料シリコーンゴムを、鎖状炭化水素系溶媒で膨潤させる前に成形して得られたことを特徴とする成形品。
【請求項6】
請求項4に記載のシリコーンゴムが装着されたことを特徴とする部材。
【請求項7】
請求項5に記載の成形品が装着されたことを特徴とする部材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43948(P2013−43948A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183315(P2011−183315)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】